解説

標的タンパク質に基づく食品成分の抗肥満効果メチルキサンチン類の新規作用

Anti-obesity Effect of Food Factors Based on Target Proteins: Novel Molecular Function of Methylxanthines

Takakazu Mitani

三谷 塁一

信州大学大学院総合理工学研究科農学専攻

Published: 2022-11-01

食品には栄養的機能,嗜好的機能,生体調節機能の3つの機能が存在し,中でも生体調節機能は健康や疾病との関わりが深いことから,研究者だけでなく一般消費者にも広く注目されている.しかしながら,食品に含まれる成分がどのような生体分子と相互作用することで,機能を発現しているのかが不明な場合が多く存在する.筆者は,食品成分の標的分子として特に標的タンパク質の同定を介してその機能性発現メカニズムを解明することに取り組んでいる.本解説では,食品の中でも嗜好品に多く含まれているメチルキサンチン類を主題として,その標的タンパク質を介した肥満およびその関連症状の改善効果について紹介する.

Key words: 食品成分; 標的タンパク質; 肥満; メチルキサンチン; 脂質形成

標的分子を決定する意味合いとその方法

生理活性物質とは,生物個体や細胞に対して表現型の変化,もしくは分子レベルの変動を引き起こす物質であり,これらの変化を生理活性や単に活性と称する.古くは,ケシ科植物から強力な鎮痛作用を持つモルヒネが抽出され,それ以来,植物から生理活性物質を探索する時代が始まった.そして,1928年,細菌学者のフレミング博士がPenicillium chrysogenumから抗菌活性を持つペニシリンを発見したことから,生理活性物質の探索対象は微生物分野へと拡大した.日本においても,フグ毒のテトロドトキシンや米糠から単離したオリザニンなどから始まり,現在でも医薬分野に限らず食品分野でも生理活性物質の探索が盛んに行われている.生理活性物質の発見が広がると次の課題となるのが,機能性発現メカニズムの解明である.生理活性物質の標的分子の同定は,未知の分子メカニズムの発見へと繋がり,そこから生体反応を制御する新しい戦略が生まれる可能性がある(1)1)日本化学会編:“生物活性分子のケミカルバイオロジー標的同定と作用機構”,化学同人,2015, p. 16..このような段階を経て医薬品開発や創薬研究が発展してきた.その一方で,食品中の生理活性物質つまり生体調節機能を持つ成分には,標的分子が同定されずに機能性発現メカニズムが不明瞭な場合が多く存在する.食品成分が生体内でなんらかの活性を惹起するとき,その引き金となるのは,標的分子との相互作用である.生理活性物質の標的は核酸(DNAやmiRNA),細胞膜構成脂質,タンパク質とあるが,タンパク質は生命活動の主要な調節因子であることから,多くの場合,生理活性物質の標的分子はタンパク質となる.わかりやすい標的タンパク質は,ビタミンD受容体やレチノイン酸受容体などの受容体である.リガンドとなる食品成分が,受容体と相互作用することで,その立体構造が変化し細胞内でシグナル伝達を引き起こす.それが分子レベルの変化から表現型への変化へと徐々に広がっていく.このように食品成分の標的分子を決定することは,その成分が持つ生体調節機能を十分に理解し,未知の生理活性を探索するためにも必要であるといえる.

食品成分の標的タンパク質の同定に関する研究があまり進んでいないのは,標的分子の探索難度が高いと認識されているからだろう.標的タンパク質を探索するアプローチは複数開発されており,それぞれの手法には一長一短が存在する.ある手法では同定が困難でも,別の手法では同定可能となる場合も多く存在する.従って,適切なアプローチ法を選択することが,標的分子探索のスタートとなる.標的分子探索のアプローチ法は,大きくケミカルバイオロジーに基づくアフィニティー精製法とタンパク質の安定性に基づくラベルフリー法に分類される(図1A図1■代表的な標的タンパク質の同定法).前者の方法は広く利用されており,セファロース担体や磁気ビーズに固定化した活性成分とタンパク質の相互作用を利用して,細胞溶解液から目的の標的タンパク質を精製する方法である(2, 3)2) B. J. Leslie & P. J. Hergenrother: Chem. Soc. Rev., 37, 1347 (2008).3) H. Park, J. Y. Koo, T. V. Srikanth, S. Oh, J. Lee, J. Park & S. B. Park: Chem. Commun., 52, 34 (2016)..様々な官能基を持つ担体や磁気ビーズが販売されており活性成分の固定化が容易な点で,アフィニティー精製法は非常に有用な標的分子同定法である.しかしながら同法にも短所は存在する.活性成分と標的タンパク質間の相互作用が中程度あるいは弱い場合は,精製途中で標的タンパク質が固定化した担体から解離する可能性がある.また,活性成分に担体など大きな構造を固定化する,もしくは活性部位に担体を固定化すると標的タンパク質との相互作用が消失する場合もある.従って,アフィニティー精製法は複雑な構造活性相関をもつ活性成分の標的タンパク質の同定には不向きである.構造活性相関に依存せず,タンパク質の物理特性を利用した標的分子同定法が,ラベルフリー法である(4, 5)4) K. Huynh & C. L. Partch: Curr. Protoc. Protein Sci., 79, 28 (2015).5) D. M. Molina, R. Jafari, M. Ignatushchenko, T. Seki, E. A. Larsson, C. Dan, L. Sreekumar, Y. Cao & P. Nordlund: Science, 341, 84 (2013)..Drug affinity responsive target stability(DARTS)法は,タンパク質がリガンドと結合するとタンパク質分解に対して耐性が高くなる傾向があるという特徴を基にした同定法である(図1B図1■代表的な標的タンパク質の同定法(6, 7)6) B. Lomenick, R. Hao, N. Jonai, R. M. Chin, M. Aghajan, S. Warburton, J. Wang, R. P. Wu, F. Gomez, J. A. Loo et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 21984 (2009).7) G. M. West, C. L. Tucker, T. Xu, S. K. Park, X. Han, J. R. Yates 3rd & M. C. Fitzgerald: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 9078 (2010)..細胞溶解液に活性成分の存在下または非存在下でタンパク質分解酵素を処理し,タンパク質分解に対する抵抗性が増強されたタンパク質を活性成分の標的タンパク質として同定する.アフィニティー精製法と異なり,構造活性相関を検討する必要がない点が長所である.しかし,精製段階がないことから,発現量が少ないタンパク質や電気泳動での分離が困難なタンパク質,さらに活性成分との相互作用で物理特性が変化しないタンパク質はこの手法による標的タンパク質の同定に不向きである.現在,DARTS法の分解能を上げるために,タンパク質の分離と可視化に蛍光標識二次元電気泳動を用いるなどDARTS法の改良版が提案されている(8)8) Y. Qu, J. R. Olsen, X. Yuan, P. F. Cheng, M. P. Levesque, K. A. Brokstad, P. S. Hoffman, A. M. Oyan, W. Zhang, K. Kalland et al.: Nat. Chem. Biol., 14, 94 (2018).

図1■代表的な標的タンパク質の同定法

活性成分を固定化した担体や磁気ビーズを用いたアフイニティー精製法(A).活性成分が結合することでタンパク質分解酵素への耐性が向上することを利用したDARTS法(B).

メチルキサンチン類とは

メチルキサンチンは,プリン塩基の代謝で生じるキサンチンの誘導体である.コーヒー,紅茶に含まれるカフェインやテオフィリン,そしてカカオ豆に含まれるテオブロミンがメチルキサンチン類に属し,天然由来のメチルキサンチンはこの3つだけになる(図2図2■メチルキサンチン類の構造式).これらは食品として広く消費されているが,テオフィリンとそれを基に合成されたメチルキサンチン誘導体は医薬品として,特に気道狭窄の治療に使用されている.メチルキサンチン類は,気管支保護作用の他に,抗酸化作用や神経保護作用,さらに神経細胞の増殖作用をもつことが報告されている(9~11)9) S. S. Karuppagounder, S. Uthaythas, M. Govindarajulu, S. Ramesh, K. Parameshwaran & M. Dhanasekaran: Neurochem. Int., 148, 105066 (2021).10) M. Yoneda, N. Sugimoto, M. Katakura, K. Matsuzaki, H. Tanigami, A. Yachie, T. Ohno-Shosaku & O. Shido: J. Nutr. Biochem., 39, 110 (2017).11) A. Oñatibia-Astibia, R. Franco & E. Martínez-Pinilla: Mol. Nutr. Food Res., 61, 1600670 (2017)..しかし,その機能性発現メカニズムには不明な点も残っている.食事から摂取したメチルキサンチン類の体内動態の特徴として,ポリフェノール類のような抱合化反応を受けないことがある.ポリフェノール類は,腸管で吸収された後に自身がもつヒドロキシ基にグルクロン酸や硫酸が付加され抱合体が形成されることで生理活性が著しく低下する.その点,メチルキサンチン類は,ヒドロキシ基を持たないことから吸収後に抱合化を受けない.従って,摂取後に体内を循環する量はアグリコン型ポリフェノール類よりもメチルキサンチン類の方が多いと言える.筆者は,メチルキサンチン類の生体利用性の高さに着目し,標的タンパク質の同定を足がかりした機能性発現メカニズムの研究を進めている.

図2■メチルキサンチン類の構造式

左からカフェイン(1,3,7-トリメチルキサンチン),テオブロミン,テオフィリンを示す.

テオブロミンの脂質形成抑制効果

食品成分の標的タンパク質を探索するに当たり,まず行わなければならないのが機能性を有する活性成分を見つけ出すことである.当時筆者が所属していた研究室では,カカオ豆抽出物が脂質蓄積に対して効果があるのかを研究しており,カカオ豆抽出物を混餌した飼料をマウスに摂取させると内臓脂肪組織の重量増加が軽減される結果を得ていた(12)12) Y. Yamashita, T. Mitani, L. Wang & H. Ashida: J. Nutr. Sci. Vitaminol., 64, 151 (2018)..そこで,カカオ豆抽出物から活性成分を見出すことになり,着目したのがカカオ豆抽出物中に10%含まれていたテオブロミンである.線維芽細胞株である3T3-L1細胞をテオブロミンの存在下で脂肪細胞へと分化させたところ,テオブロミンは添加濃度が25 μM以上で脂質形成を減少することが示され,テオブロミンが脂質の蓄積低減機能をもつ活性成分であることを見出した(13)13) T. Mitani, S. Watanabe, Y. Yoshioka, S. Katayama, S. Nakamura & H. Ashida: Biochim. Biophys. Acta Mol. Cell Res., 1864, 2438 (2017)..テオブロミンを継続的に4週間摂取したヒト介入試験では,血中テオブロミン濃度が28 μMになることが報告されており(14)14) N. Neufingerl, Y. E. Zebregs, E. A. Schuring & E. A. Trautwein: Am. J. Clin. Nutr., 97, 1201 (2013).,上記のテオブロミンの作用は,実際にテオブロミンを食した際の血中濃度においても惹起されるといえる.テオブロミンの標的タンパク質をアフィニティー精製で探索した結果,細胞膜に局在するGタンパク質共役型受容体であるアデノシンA1受容体と相互作用することが示唆された.アデノシン受容体はA1, A2a, A2b, A3の4種類のサブタイプが存在する.テオブロミンと同じメチルキサンチン類であるカフェインは,アデノシンA1受容体よりもA2a, A2bサブタイプへの親和性が高く(15)15) B. B. Fredholm, E. Irenius, B. Kull & G. Schulte: Ciochemi Pharmacol, 61, 4 (2001).,テオブロミンの様な脂質形成抑制作用は示されない.従って,テオブロミンとカフェインの機能性の違いは相互作用するアデノシン受容体サブタイプの違いに起因していることが示唆された.また,各臓器でアデノシンA1受容体の発現量を比較したところ,内臓脂肪組織で高い発現量を示し,カカオ豆抽出物の摂取が内臓脂肪組織の重量増加を低減することと関連することが示された.アデノシンA1受容体をsiRNAでノックダウンした3T3-L1では,テオブロミンによる脂質形成の抑制効果は消失した(図3図3■アデノシンA1受容体を介したテオブロミンの機能性発現メカニズム).アデノシン受容体はアデニル酸シクラーゼの活性を制御することでcAMP合成量を調節することに関与している(16)16) K. A. Jacobson & Z. Gao: Nat. Rev. Drug Discov., 5, 247 (2006)..テオブロミンはアデノシンA1受容体と相互作用することでcAMP合成量を減少し,下流のシグナル経路を抑制することが判明した.この下流シグナル経路には,脂肪細胞の分化を調節する転写因子C/EBPβが含まれており,テオブロミンはcAMPの減少を介してC/EBPβのタンパク質安定性の低下を引き起こし,その結果として脂質形成を抑制することが明らかとなった.

図3■アデノシンA1受容体を介したテオブロミンの機能性発現メカニズム

3T3-L1細胞内の脂質蓄積をSudan IIで染色した.アデノシンA1受容体(A1AR)をsiRNAでノックダウンすることでテオブロミン(TB)添加による脂質蓄積抑制効果が低減する(A).TBがA1ARに結合することで惹起される機能性発現メカニズムの概要図(B).

培養細胞レベルで見出した機能性発現メカニズムが,個体レベルではなぜか期待した応答を示さないことは多々存在する.食品成分の中でもポリフェノール類が顕著であり,ポリフェノール・パラドックスと称されている(17)17)越阪部奈緒美:化学と生物,54,726 (2016)..そこで,培養細胞で得たテオブロミンの機能性がマウス個体でも発現されるのかを検証した.マウスの内臓脂肪組織にアデノシンA1受容体のsiRNAを注射し,テオブロミンを経口投与した.その結果,対照群ではテオブロミンの投与によって脂肪組織重量が減少したが,アデノシンA1受容体のsiRNAを注射した個体では,テオブロミン投与による脂肪組織重量の低減効果は示されなかった.このように標的タンパク質を同定することで,テオブロミンの詳細な機能性発現メカニズムの発見へと繋げることができた.

テオブロミンによる脂肪細胞の褐色化誘導効果

テオブロミンの短期投与が脂質形成を抑制することを見出したが,長期的なテオブロミンの摂取が脂肪組織に及ぼす影響は不明であった.そこで,テオブロミンを長期摂取させ脂肪組織の形質にどのような変化が生じるのかを解析した.2ヶ月間0.1%のテオブロミンを混餌した飼料を摂取したマウスでは,脂肪組織重量の減少だけでなく,皮下脂肪組織周辺の体表温度の上昇が確認された(18)18) E. Tanaka, T. Mitani, M. Nakashima, E. Yonemoto, H. Fujii & H. Ashida: J. Nutr. Biochem., 100, 108898 (2022)..なぜ体表温度が上昇したのかの解析を進めたところ,テオブロミンの摂取で脂肪組織の褐色化が誘導されていることを明らかとなった.褐色化とは,ミトコンドリア内膜に局在する脱共役タンパク質UCP1がATPではなく熱を産生する脂肪細胞の形質変化の1つである(19)19) S. Kajimura, B. M. Spiegelman & P. Seale: Cell Metab., 22, 546 (2015)..実際に鼠径部皮下脂肪組織をUCP1の抗体で染色すると,テオブロミンの摂取によってUCP1陽性領域が増加することが観察できた.各脂肪組織でUCP1タンパク質の発現パターンを比較したところ,内臓脂肪組織ではテオブロミン摂取によるUCP1の発現誘導は示されず,テオブロミンは皮下脂肪組織特異的にUCP1の発現を誘導することが判明した(18)18) E. Tanaka, T. Mitani, M. Nakashima, E. Yonemoto, H. Fujii & H. Ashida: J. Nutr. Biochem., 100, 108898 (2022)..ここで気になったのが,テオブロミンがどのような経路を介して皮下脂肪組織の褐色化を誘導するのかである.この疑問を解決するためにテオブロミン摂取によって増加する遺伝子群をマイクロアレイで解析し,変動値の高かった遺伝子群をKEGGデータベースに当てはめた.すると,テオブロミン摂取群で増加した遺伝子群が,核内受容体であるperoxisome proliferator-activated receptor γ(PPARγ)シグナル経路に関連することを見出した.そこで,マウス皮下脂肪組織から単離した脂肪細胞にテオブロミンを添加し,PPARγシグナル経路が活性化するのかを検証した.しかし,予想に反してテオブロミン単独の添加では,PPARγシグナル経路の活性化とUCP1の発現誘導は示されなかった.さらに解析を進めたところ,PPARγのリガンド(この際に使用したリガンドは合成リガンドであるロシグリタゾンである)の存在下でテオブロミンを添加することで,PPARγリガンドによるUCP1の発現誘導をテオブロミンはさらに増強することが判明した.また,テオブロミンの添加濃度を変えて検討したところ,脂質形成の抑制効果が示された25 μMよりも低い5 μMのテオブロミンでUCP1の発現が誘導された.つまり,テオブロミンは,リガンド存在下でPPARγシグナル経路を活性化することでUCP1の発現を亢進し,その結果,皮下脂肪細胞の褐色化を誘導することが判明した.ここで興味深い現象が見いだされた.PPARγはUCP1だけでなく,FABP4(脂肪酸結合タンパク質)やCD36(脂肪酸トランスポーター)といった遺伝子の発現を制御することが報告されているが,テオブロミンはこれら遺伝子の発現に影響を示さなかった.PPARγは相互作用する転写共役因子によって標的遺伝子の発現誘導パターンが異なる.PPARγによるUCP1の発現誘導はPRDM16やPGC-1αといったコアクチベーターの結合が重要とされる(20, 21)20) H. Ohno, K. Shinoda, B. M. Spiegelman & S. Kajimura: Cell Metab., 15, 395 (2012).21) W. Cao, K. W. Daniel, J. Robidoux, P. Puigserver, A. V. Medvedev, X. Bai, L. M. Floering, B. M. Spiegelman & S. Collins: Mol. Cell. Biol., 24, 3057 (2004)..そこで,テオブロミンがPPARγとPGC-1αの結合に及ぼす影響を解析した結果,テオブロミンによってPPARγと相互作用するPGC-1αが増加した.PGC-1αはリン酸化修飾を受けることでPPARγとの結合が促進される(21)21) W. Cao, K. W. Daniel, J. Robidoux, P. Puigserver, A. V. Medvedev, X. Bai, L. M. Floering, B. M. Spiegelman & S. Collins: Mol. Cell. Biol., 24, 3057 (2004)..リン酸化PGC-1α量を検出した結果,テオブロミンはPGC-1αの総タンパク質量には影響を示さないものの,リン酸化PGC-1α量を増加した.以上のことから,テオブロミンはPGC-1αとPPARγとの相互作用を促進することでUCP1遺伝子の発現誘導を亢進することが明らかとなった(図4A図4■テオブロミンによる脂肪細胞の褐色化誘導作用).

図4■テオブロミンによる脂肪細胞の褐色化誘導作用

TB摂取が脂肪細胞の褐色化を誘導する作用メカニズムの概要図(A).DARTS法によるTBの標的タンパク質の探索(B).

皮下脂肪細胞の褐色化誘導に関するテオブロミンの標的タンパク質を同定するためにDARTS法による解析を実施した.その結果,テオブロミンの添加によってタンパク質分解酵素に対して耐性を得たタンパク質を複数見出した(図4B図4■テオブロミンによる脂肪細胞の褐色化誘導作用).その中でも顕著に分解酵素への耐性が示されたタンパク質X(解析途中のため言及は避ける)をテオブロミンの標的タンパク質候補とし,siRNAでノックダウンしたところ,テオブロミンによるUCP1の発現量の増加は消失した.今後,テオブロミンのタンパク質Xを介した機能性発現メカニズムをより詳細に解析し,その結果を別の機会に紹介できればと思う.

テオフィリンによる高血糖低減効果

肥満者の脂肪組織は,遊離脂肪酸だけでなくTNFα, PAI-1, IL-6などの種々の炎症性サイトカインの分泌上昇を伴う慢性炎症状態と特徴づけられる(22)22) J. K. Sethi & A. J. Vidal-Puig: J. Lipid Res., 48, 1253 (2007)..これらの炎症性サイトカインの分泌量の増加は,インスリン抵抗性の誘導に関与し,高血糖や2型糖尿病の一因となる(23)23) V. Rotter, I. Nagaev & U. Smith: J. Biol. Chem., 278, 45777 (2003)..従って,脂肪組織からの炎症性サイトカインの分泌を減少することは,肥満に起因するインスリン抵抗性の惹起を予防するのに極めて重要である.TNFαは脂肪組織に浸潤したM1マクロファージによって分泌されるのに対して,IL-6は主に脂肪細胞から分泌される(24)24) M. Hoch, A. N. Eberle, R. Peterli, T. Peters, D. Seboek, U. Keller, B. Muller & P. Linscheid: Cytokine, 41, 29 (2008)..脂肪細胞由来のIL-6の分泌量を抑制する食品成分を3T3-L1細胞を用いて探索したところ,テオフィリンに強力な抑制効果があることを見出した.構造活性相関を検討した結果,IL-6の分泌抑制効果には,キサンチン骨格の1位と3位のメチル基が重要であることが判明した.IL-6の分泌抑制に関わるテオフィリンの標的タンパク質をアフィニティー精製法により探索したところ,テオフィリンは核内受容体であるグルココルチコイド受容体(GR)と相互作用することを見出した(25)25) T. Mitani, T. Takaya, N. Harada, S. Katayama, R. Yamaji, S. Nakamura & H. Ashida: Arch. Biochem. Biophys., 646, 98 (2018)..副腎皮質ホルモンであるグルココルチコイドは,免疫系に対して強い抗炎症作用を示す一方で,過剰になるとインスリン抵抗性を引き起こす側面がある(26)26) A. Vegiopoulos & S. Herzig: Mol. Cell. Endocrinol., 275, 43 (2007)..テオフィリンは,GRと相互作用することでGRの核内移行を阻害し,その下流に位置したIL-6の発現を転写レベルで抑制することが判明した.個体においてもテオフィリンがIL-6の発現を抑制するのかをグルココルチコイドを投与したマウスで検証した.グルココルチコイドの投与によって脂肪組織におけるIL-6の発現量と血中IL-6濃度は上昇したが,テオフィリンを摂取することで両IL-6レベルは低下した.さらに,グルココルチコイド投与により空腹時血糖値も上昇したが,テオフィリンの摂取により対照群(グルココルチコイド投与なし)と同程度まで空腹時血糖値が低下した.以上の結果から,テオフィリンはGRを標的タンパク質とすることで脂肪組織の炎症性サイトカインの1つであるIL-6の発現を抑制し,高血糖状態を緩和することが判明した.

他の食品成分の標的タンパク質を介した機能性発現メカニズム

主題であるメチルキサンチン類以外にも食品成分の標的タンパク質の研究は盛んに行われている.代表的なのが緑茶に含まれるエピガロカテキンガレート(EGCG)であろう.EGCGは,細胞膜に局在する67-kDaラミニン受容体(67LR)に結合することで抗がん作用を発現することが明らかとなっている(27)27) H. Tachibana, K. Koga, Y. Fujimura & K. Yamada: Nat. Struct. Mol. Biol., 11, 380 (2004)..それと同時に同じカテキン類に属するエピカテキンやエピガロカテキンは,67LRに結合しないことも示されている.67LRはアデノシン受容体などの膜受容体と同様に細胞内cAMP量の制御に関与する.興味深いことにEGCGが結合した67LRは,cAMP合成量を増加するだけでなく,cGMP合成量も制御することでがん細胞の増殖抑制とアポトーシスの誘導を惹起することが報告されている(28)28) M. Kumazoe, K. Sugihara, S. Tsukamoto, Y. Huang, Y. Tsurudome, T. Suzuki, Y. Suemasu, N. Ueda, S. Yamashita, Y. Kim et al.: J. Clin. Invest., 123, 787 (2013)..さらにその後の研究で,EGCGが結合した67LRは,抗がん活性だけでなく,抗炎症作用,抗アレルギー作用など複数の機能性を発現することが明らかとされている(29)29) M. Kumazoe, Y. Nakamura, M. Yamashita, T. Suzuki, K. Takamatsu, Y. Huang, J. Bae, S. Yamashita, M. Murata, S. Yamada et al.: J. Biol. Chem., 292, 4077 (2017)..また,ウコンに含まれるクルクミンの標的タンパク質としてGタンパク質共役型受容体55(GPR55)が同定されている(30)30) N. Harada, M. Okuyama, Y. Teraoka, Y. Arahori, Y. Shinmori, H. Horiuchi, P. B. Luis, A. I. Joseph, T. Kitakaze, S. Matsumura et al.: NPJ Sci. Food, 6, 1 (2022)..GPR55は小腸や小腸内分泌L細胞株(GLUTag細胞)に発現しており,Rho/Rockシグナルを活性化することで小腸L細胞からのグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分泌を媒介する(31)31) K. Harada, T. Kitaguchi, T. Kamiya, K. H. Aung, K. Nakamura, K. Ohta & T. Tsuboi: J. Biol. Chem., 292, 10855 (2017)..クルクミンは,GPR55と相互作用することでその受容体を活性化し,GLUTag細胞からのGLP-1の分泌を促すことが示されている.

これまでに筆者もポリフェノール類の標的タンパク質をいくつか同定している.ブドウの果皮に含まれるレスベラトロールは,スチルベン骨格の3位と5位のフェノール性ヒドロキシ基を介してカルボニル還元酵素1(CBR1)と結合することを見出した(32)32) Y. Ito, T. Mitani, N. Harada, A. Isayama, S. Tanimori, S. Takenaka, Y. Nakano, H. Inui & R. Yamaji: J. Nutr. Sci. Vitaminol., 59, 358 (2013)..CBR1は抗がん剤として使用されるドキソルビシンを還元することで抗がん活性が低く,心臓毒性を持つドキソルビシノールへと代謝する(33)33) O. S. Bains, M. J. Karkling, T. A. Grigliatti, R. E. Reid & K. W. Riggs: Drug Metab. Dispos., 37, 5 (2009)..レスベラトロールが結合したCBR1は,酵素活性が阻害されることでドキソルビシノールの生成を減少することが判明した.乳がん細胞株であるMCF-7細胞において,レスベラトロールはCBR1によるドキソルビシンの代謝を阻害することでドキソルビシンの抗がん活性を増強することが示された.さらに,大豆イソフラボンの一種であるゲニステインの標的タンパク質としてミトコンドリアタンパク質のANT2を同定している(図5図5■ANT2との結合を介したゲニステインの機能性発現(34)34) T. Ikeda, S. Watanabe & T. Mitani: Biosci. Biotechnol. Biochem., 86, 260 (2022)..ANT2は細胞質のADPをミトコンドリアのマトリックスへ運ぶ輸送体である(35)35) C. Brenner, K. Subramaniam, C. Pertuiset & S. Pervaiz: Oncogene, 30, 883 (2011)..脂肪細胞にゲニステインを添加するとANT2をsiRNAでノックダウンした場合と同様にミトコンドリアに取り込まれるADP量とそれにより合成されるATP量が減少した.さらに,ゲニステインによるANT2の機能阻害は,ATP合成量の減少に伴う細胞内エネルギーセンサーのAMPKの活性化を引き起こした.そして,AMPKの活性化によって転写因子C/EBPβのDNA結合能が低下することで脂質形成が抑制されることが判明した.過去の研究では,ゲニステインの生理活性は,エストロゲン受容体との相互作用により発現すると報告さているが(36)36) H. Homma, H. Kurachi, Y. Nishio, T. Takeda, T. Yamamoto, K. Adachi, K. Morishige, M. Ohmichi, Y. Matsuzawa & Y. Murata: J. Biol. Chem., 275, 11404 (2000).,わたしたちの研究成果はエストロゲン受容体に依存しないゲニステインの新たな機能性発現メカニズムを見出したと言える.このように食品成分の標的タンパク質の同定は,その成分の新たな機能性発現メカニズムの発見へと繋がる可能性を秘めている.

図5■ANT2との結合を介したゲニステインの機能性発現

ゲニステインのフェノール性OH基に固定化した3種類の磁気ビーズ担体(左).アフィニティー精製法によるゲニステイン(Gen)の標的タンパク質の同定(右).

おわりに

本稿では,食品成分が標的タンパク質を介して機能性を発現するほんの一例を紹介した.医薬品と比較すると食品成分は,標的タンパク質への親和性と選択性が低く,これが標的タンパク質探索のハードルとなっている.標的タンパク質を見出しても生理的濃度下で食品成分が機能性を発現しなければアーティファクトな結果となる可能性もある.しかし,選択性が低いことを逆手に取って考えれば,食品成分の標的タンパク質は幅広く存在するとも言える.主流の同定法であるアフィニティー精製法からラベルフリー法が開発されたことで,有機合成の技術がなくても標的タンパク質の同定が可能となった.このように新たな同定方法が開発・普及することで,食品成分の標的タンパク質を介した機能性発現メカニズムの解明が拡大することを期待している.

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