Kagaku to Seibutsu 60(11): 595-603 (2022)
セミナー室
食品添加物のいろは微生物との関係について考える前に知っておいて欲しい食品添加物の基本
Published: 2022-11-01
© 2022 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2022 公益社団法人日本農芸化学会
食品添加物には様々な機能をもつものがあり,中には微生物へ影響を及ぼしてその機能を発揮する,殺菌料,防かび剤,保存料などがある.今回のセミナー室「食品添加物と微生物」の4回にわたるシリーズでは,本稿第1回の後,第2回では食品添加物と微生物のかかわりについて,第3回と第4回では,具体的な食品添加物品目の機能について解説がされる予定となっている.そのため本稿では,第2回以降の内容を理解する上で参考となる,食品添加物の基本的事項について示す.日本で使用が認められている食品添加物について,広くその分類や機能,規制上の種類等について解説する.また,日本における食品添加物の指定と規格基準改正の制度について,食品添加物指定等相談センターでの相談や食品安全委員会での安全性評価を含めた流れを示し,概説する.さらに,近年新たに日本で使用が認められた食品添加物や規格基準改正が行われた食品添加物として,ぶどう酒用の添加物などについてその種類や用途を紹介する.
日本では,食品添加物は食品の製造,加工又は保存の目的で使用されるものとされており,このことは,食品衛生法の第四条二項(1)1) 厚生労働省:食品衛生法(昭和22年12月24日法律第233号),https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000233, 2018.に「食品の製造の過程において又は食品の加工若しくは保存の目的で食品に添加,混和,浸潤,その他の方法によって使用する物をいう.」として示されている.
食品添加物の機能・用途に着目して分類すると,大きく次の①~④の4つに分類される(図1図1■食品添加物の機能・用途からみた分類).①食品の製造や加工に必要なもの.かんすい,豆腐用凝固剤,結着剤,消泡剤,膨張剤,酵素,酸剤,アルカリ剤,抽出溶剤,ろ過助剤,ガムベースなどで,これらは製造用剤と総称される用途に含まれる.②食品の保存性を高め,食中毒を予防するもの.保存料,殺菌料,酸化防止剤,防かび剤,日持向上剤などで,主に食品衛生・安全性に寄与する.なお,日持向上剤は,表示の際の用途名ではないが,一般に,短期間のみの腐敗や変敗を抑える目的で使用されるものをいう(2)2) 谷村顕雄監修,日本食品添加物協会編:よくわかる暮らしのなかの食品添加物,光生館,pp. 156,2007..③食品の風味や外観を良くして,嗜好性を向上させるもの.着色料,発色剤,漂白剤,光沢剤,甘味料,酸味料,調味料,苦味料,香料などで,味,形,色,匂いなどを整える.④食品の栄養成分を補充,強化するもの.強化剤で,ビタミン類,ミネラル類,アミノ酸類に大別され,製造や貯蔵の過程で失われた栄養分を補塡したり,本来その食品に備わっていない栄養分を付加したりする役割を果たす.なお,食品添加物の中には,これらの機能を複数備えているものもある.
食品添加物は昔から,食物を保存,加工,調理する際に使われ,人間はこのような物質を古くから使用してきた.たとえば,赤紫蘇で梅干しに赤い色を付けたり,栗にクチナシの実で黄色い色を付けたりしてきた.大豆の煮汁に,にがりを混ぜて豆腐を作ったり,小麦粉にかん水を加えて中華麺を作ったりすることも行われてきた.また,牛の胃の粘膜にある酵素を牛乳に混ぜてチーズを製造したり,硝酸塩を含む岩塩をハムやソーセージに混ぜて色や風味を良くし,さらに保存性も高めたりしてきた.これらの物質は,以前は天然の物がそのまま使用されてきたが,科学の進歩とともに,有用な成分のみを抽出したり,あるいは,化学的に合成したりすることで得られた物質が用いられるようになった.これにより,安定して効果示すことのできる物質を,食品添加物としていつでも容易に使用できるようになり,加工食品は様々な種類に発展することとなった.
日本では,食品添加物として使用が認められた添加物のみ使用することができる.すなわち,国が使用可能な食品添加物を指定するポジティブリスト制度をとっている.このことは,食品衛生法第12条(1)1) 厚生労働省:食品衛生法(昭和22年12月24日法律第233号),https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000233, 2018.に規定がされており,「人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定める場合を除いては,添加物(天然香料と一般に食品として飲食に供されている物であって添加物として使用されるものを除く.)並びにこれを含む製剤と食品は,これを販売し,又は販売の用に供するために,製造し,輸入し,加工し,使用し,貯蔵し,若しくは陳列してはならない.」と記載されている.
食品添加物の規制上の種類(行政的な分類)を,図2図2■食品添加物の規制上の種類(品目数令和4年5月現在)に示す.大きく4つに分類され,指定添加物,既存添加物,天然香料と一般飲食物添加物に分けられる.現在,令和4年5月末時点で,指定添加物472品目,既存添加物357品目,天然香料(基原物質の例示)約600品目,一般飲食物添加物(例示)約100品目がある.
指定添加物は,安全性と有効性が確認されて,指定制度の手続き(詳細は後述)を経て,厚生労働大臣により指定されたもので,ソルビン酸やキシリトールなどがある.食品衛生法は,日本において飲食により生ずる危害の発生を防止するための食品衛生の原則を定めた法律で,昭和22(1947)年に制定され,しばしば改正される.平成7(1995)年の食品衛生法の改正前は,化学的合成品のみが指定添加物の対象とされていたが,現在では,天然,合成を問わず指定制度がとられており,いずれも指定制度の対象となる.
平成7年の食品衛生法の改正によって,天然添加物も指定制度の対象とされたが,その際に,それまで長年使用されていた実績のある,主に天然由来の添加物は,平成8(1996)年に「既存添加物名簿」に収載され,厚生労働大臣により引き続き使用することが認められた.それが既存添加物で,クチナシ黄色素やタンニン(抽出物)などがある.指定添加物は,指定する際に各品目の成分規格が作成されるが,既存添加物は平成8年に名簿が作成された後に,成分規格の作成が順に進められてきた.当時489品目以上が認められたが,その後,安全性の見直しも順次行われ,1品目(アカネ色素)は名簿から消除された.さらに,流通実態のないことが判明した品目については,既存添加物名簿からその名称が削除され,これまでに計132品目が消除された.
天然香料は,動植物から得られたもの又はその混合物であって,食品の着香の目的で使用されるものであり,バニラ香料やカニ香料などがある.天然香料基原物質リストには,天然香料そのものではなく基原,すなわち原料が例示されている.
一般飲食物添加物は,一般に食品として飲食されているもので,添加物として使用されるものであり,ストロベリー果汁,寒天などが該当する.これらも全てがリスト化されているのではなく,その例示がされている.
食品添加物は,食品衛生法で種類,品質,使用などが制限されており,食品添加物の規格・基準としてまとめられている(図3図3■食品添加物の規格・基準).表示基準のみは,消費者庁の管轄であるが,それ以外は厚生労働省の管轄である.
成分規格は,有効性,安全性に関し,同等とみなすことができる食品添加物又は食品添加物製剤の一定の品質を保証するためのもので,規格値と規格試験法を設定している.品目毎に成分規格が設定されており,成分規格が定められている食品添加物と食品添加物製剤は,その成分規格に適合しなければならないとされている.
製造基準は,食品添加物と食品添加物の製剤を製造する際に守らなければならない基準である.添加物一般の製造基準と個別の項目(亜塩素酸水,過酢酸,かんすい,タルクなど)の製造基準とに分けて記載されている.
使用基準は,食品添加物と食品添加物の製剤を使って食品を作るときに守らなければならない対象食品や量に関する基準である.添加物一般の使用基準と個別の項目の使用基準とに分けて記載されている.
保存基準は,保存条件に注意が必要な一部の添加物に設定されており,食品添加物の品質を保持するために,その保存方法が定められている.例えばβ-カロテンやカンタキサンチン等は光分解や酸化を受けやすいため,遮光した密封容器に入れ,空気を不活性ガスに置換することなどが記載されている.保存基準が設定される場合は,個々の成分規格の後に保存基準として記載される.保存基準が定められている食品添加物と食品添加物製剤は,その保存基準に適合しなければならない.
食品添加物の成分規格,保存基準,製造基準と使用基準は,食品衛生法(1)1) 厚生労働省:食品衛生法(昭和22年12月24日法律第233号),https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000233, 2018.の「食品,添加物等規格基準 第2 添加物」に収載される.そのため,新たに食品添加物が指定され,成分規格や使用基準などが設定される場合,あるいは既に指定されている食品添加物の規格や使用基準が改正される場合は,「食品,添加物など規格基準」の改正として告示される.
表示基準は,食品添加物と食品添加物の製剤を販売するときの表示方法と表示内容に関する基準を記載している.従来の食品表示制度では,農林物資の規格化などに関する法律(JAS法),食品衛生法,健康増進法など複数の法令に分かれて根拠が規定され,複雑でわかりにくいとされていた.そこで,JAS法,食品衛生法,健康増進法の表示に関する規定の一元化が検討され,食品表示法(平成25年法律第70号)が公布され,平成27(2015)年に施行,また,食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)が公布,施行された.生鮮食品は平成28(2016)年9月30日,加工食品と添加物は令和3(2021)年3月31日に経過措置期間が終了し,新表示に完全移行した.
食品添加物の規格基準は,「食品添加物公定書」にまとめられている.食品添加物公定書の構成は図4図4■食品添加物公定書の構成に示すとおりである.各食品添加物品目の成分規格は,D成分規格・保存基準各条の中に,品目ごとに記載がされている.第1版食品添加物公定書は,昭和35(1960)年に出版された.その後,科学技術の進歩に合わせた試験法に改正するため,国際規格との整合性を図るため,新たに指定された添加物の規格収載のため,また,既存添加物について作成された成分規格を収載するために,定期的に更新されている.最近では,平成30(2018)年2月に第9版食品添加物公定書(3)3) 厚生労働省:第9版食品添加物公定書,https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000641285.pdf, 2018.(以下「第9版」という.)が公表され,令和2(2020)年6月には,第9版食品添加物公定書追補1(4)4) 厚生労働省:第9版食品添加物公定書追補1, https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000641611.pdf, 2020.(追補1)が公表された.追補1には,第9版作成以降に追加・改正された成分規格や使用基準などが収載されている.
では,食品添加物の指定や規格基準の改正(以下,両方をまとめて,指定等と略す)はどのように行われるのだろうか.図5図5■食品添加物の指定及び規格基準の改正の流れには,その流れを示している.食品添加物の指定等を要請したいと考えている企業等,すなわち,新しく添加物を指定して欲しい,あるいは,規格基準を改正して欲しいという要請者(図5図5■食品添加物の指定及び規格基準の改正の流れ,①)(以下,指定等要請者と略す)が居たとする.その場合まず,要請書と必要とされる要請添付資料(概要書など)を揃えて,厚生労働大臣宛てに書類を提出し,申請をする.添加物の指定等要請について,その要請の手続,要請書に添付すべき試験成績等必要な資料の範囲や資料を作成するために必要な試験の標準的な実施方法等に関する指針として,厚生労働省により,平成8年に「食品添加物の指定及び使用基準改正に関する指針について」が作成されている.同様に,カプセル,錠剤等通常の食品形態でない食品に用いられる賦形剤,乳化剤等について,平成13年に「保健機能食品であって,カプセル,錠剤等通常の食品形態でない食品の成分となる物質の指定及び使用基準改正に関する指針」が,また,香料について,平成28年に「香料の指定に関する指針」が作成されている.
(厚生労働省ホームページ(8)8) 厚生労働省:食品添加物の指定等に関する手続き,https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuten/qa_jigyosya.html, 2022.を参考に作成)
しかしながら,指定等要請資料の作成を行う際,要請者にとっては,迷う点や確認したい点も多い.そこで,平成26(2014)年7月に国立医薬品食品衛生研究所に,食品添加物指定等相談センター(図5図5■食品添加物の指定及び規格基準の改正の流れ,②)(5)5) 国立医薬品食品衛生研究所:食品添加物指定等相談センター,https://www.nihs.go.jp/dfa/fadcc_home.html, 2019.(FADCC: Food Additive Designation Consultation Center)が設立された.国立医薬品食品衛生研究所は,現在,神奈川県川崎市に移ったが,FADCCは,東京都世田谷区にある.FADCCでは,日本の食品衛生法で使用が認められていない新規の食品添加物の指定や,既に指定されている食品添加物の使用できる食品の範囲を拡大するための使用基準の改正や成分規格の改正等に関する指定等要請資料の作成方法や内容,有効性や安全性等の事項について事前相談を行っている.また,後述する食品安全委員会による食品健康影響評価の審議過程(図5図5■食品添加物の指定及び規格基準の改正の流れ,④)における補足資料の提出依頼に関する事項についても相談を行っている.
要請者から申請書類が提出されると,厚生労働省では,申請の確認と書類の内容確認を行い(図5図5■食品添加物の指定及び規格基準の改正の流れ,③),食品添加物のリスク評価については,食品安全基本法に基づいて発足した食品安全委員会(6)6) 内閣府食品安全委員会:食品安全委員会,https://www.fsc.go.jp, 2022.に依頼をする.食品安全委員会(図5図5■食品添加物の指定及び規格基準の改正の流れ,④)では,各種毒性データ等に基づきリスク評価を行い,許容一日摂取量(一日摂取許容量,ADI: Acceptable Daily Intake)などを算出し,健康影響評価書の案を作成する.パブリックコメント,すなわち公に広く意見を聴いた後,その添加物品目の評価結果をまとめる.厚生労働省では,このリスク評価の結果を受けて,添加物の規格基準の検討を行い(図5図5■食品添加物の指定及び規格基準の改正の流れ,⑤),薬事・食品衛生審議会(図5図5■食品添加物の指定及び規格基準の改正の流れ,⑥)の専門家に規格基準案について意見を求め,各国に規格案等の概要を知らせるWTO通報や,パブリックコメントを行う(図5図5■食品添加物の指定及び規格基準の改正の流れ,⑦).添加物の指定又は規格基準改正の案が薬事・食品衛生審議会で承認されると,さらに表示について消費者庁(図5図5■食品添加物の指定及び規格基準の改正の流れ,⑧)との協議が行われる.こうした後,省令・告示の改正(図5図5■食品添加物の指定及び規格基準の改正の流れ,⑨)により,新しい添加物が指定されたり,使用基準や成分規格が改正されたりする.すなわち,食品添加物の指定の場合は,省令「食品衛生法施行規則(昭和23年厚生省令第23号)別表第1」にその名称が追加され,告示「食品,添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)」にその成分規格及び使用基準等が設定される.
食品安全委員会におけるリスク評価は,評価対象食品等の種類・分野別に作成された各種「健康評価指針」に基づいて行われる.「添加物に関する食品健康影響評価指針」,またその附則としての「加工助剤(殺菌料及び抽出溶媒)の食品健康影響評価の考え方」,「添加物(酵素)に関する食品健康影響評価指針」,「栄養成分関連添加物に関する食品健康影響評価指針」及び「香料に関する食品健康影響評価指針」が示されている.これらの指針等では,添加物の指定及び規格基準を定める場合の健康影響評価に必要とされる資料の範囲や評価の指針等が定められている.またこれら添加物に関係する食品健康影響評価指針の全てが,令和3年9月28日に食品安全委員会により改正された.
図6図6■使用基準量とADIについての概略に,使用基準量とADIについての概略を示す.ADIは,食品の生産過程で意図的に使用する食品添加物等について,ヒトが一生涯にわたって毎日摂取し続けても,健康への悪影響がないと考えられる1日当たりの物質の摂取量のことで,体重1 kg当たりの量で示される(mg/kg体重/日)(7)7) 内閣府食品安全委員会:第6版食品の安全性に関する用語集,https://www.fsc.go.jp/yougoshu.data/yougoshu.pdf, 2019..通常,毒性試験から導き出される無毒性量(NOAEL: No-Observed-Adverse-Effect-Level)等を安全係数で除して算出する(7)7) 内閣府食品安全委員会:第6版食品の安全性に関する用語集,https://www.fsc.go.jp/yougoshu.data/yougoshu.pdf, 2019.とされている.ここで,NOAELとは,ある物質について何段階かの異なる投与量を用いて行われた反復毒性試験,生殖発生毒性試験等の毒性試験において,有害影響が認められなかった最大投与量のことで,通常は,様々な動物試験において得られた個々の無毒性量の中で最も小さい値を,その物質の無毒性量とする(7)7) 内閣府食品安全委員会:第6版食品の安全性に関する用語集,https://www.fsc.go.jp/yougoshu.data/yougoshu.pdf, 2019..安全係数は,ある物質について,ADI等の指標値を設定する際,NOAEL等に対して,動物の種差や個体差,その他の不確実性を考慮し,安全性を確保するために用いる係数(7)7) 内閣府食品安全委員会:第6版食品の安全性に関する用語集,https://www.fsc.go.jp/yougoshu.data/yougoshu.pdf, 2019.である.動物実験のデータを用いて健康影響に基づく指標値を求める場合,動物とヒトとの種差と,ヒトにおける個体差を考慮し,安全係数として100が一般に使われている(7)7) 内閣府食品安全委員会:第6版食品の安全性に関する用語集,https://www.fsc.go.jp/yougoshu.data/yougoshu.pdf, 2019..図6図6■使用基準量とADIについての概略の左の図は,摂取量が増えるほど,毒性の強さが増すことを模式的に示しており,投与量が少なく,毒性が見られなかった量がNOAELにあたる.右の図は,無毒性量が水色の四角だとした場合,ADIの割合を赤の四角で示した図で,使用基準はさらにそれより少ない量,青の四角のように定められる.なお,国際的には,国連の食糧農業機関(FAO: Food and Agriculture Organization of the United Nations)と世界保健機関(WHO: Worlds Health Organization)の合同食品添加物専門家会議(JECFA: FAO/WHO Joint Expert Committee on Food Additives, )で,各国によって実施された食品添加物の安全性試験の結果が評価され,ADI等が決定される.
食品のグローバル化は年々拡大しており,平成14(2002)年に,諸外国では使用が認められているが,日本では食品添加物として指定されていないという国際的な不整合に基づく様々な問題が生じた.そのため当時,JECFAにおいて国際的に安全性が確認され,米国とヨーロッパで使用されている添加物(国際汎用添加物)について,国主導で指定に向けた検討が進められ,平成30年7月までに,そのほとんどである計41品目が指定された.同様に,国際汎用香料54品目が挙げられ,平成27年9月までにその全てが指定された.しかしながら,国内外からの食品添加物の指定又は改正の要望は依然として続いており,海外で認められている食品添加物の指定及び規格改正要請に向けた動きも増加している.
平成31(2019)年2月1日に日EU経済連携協定(日EU・EPA)が発効され,EUから日本へワインを輸出できるよう,日本で使用が認められていないEUのぶどう酒用添加物28種が挙げられ,数年以内にこれら全てが日本でぶどう酒に使用できるよう,必要な指定手続きを行うことが求められた.この内11種は,日EU・EPA発効前に現行の規定に基づき日本で使用可能な状況となった(第1段階).その他の17種の内,8種は,日EU・EPAの発効から2年以内(令和3年1月末まで)に新規指定又は規格基準改正により使用可能とすることが求められ(第2段階),9種は,5年以内に使用可能とすることが求められている(第3段階).そのため,図5図5■食品添加物の指定及び規格基準の改正の流れに示す指定等要請手続きを経て,表1表1■近年指定又は規格基準改正されたぶどう酒用添加物に示す様に,ぶどう酒用添加物のアルゴン(酸化防止剤)と二炭酸ジメチル(殺菌料)がそれぞれ令和元(2019)年6月と令和2(2020)年1月に新規指定され,令和2年12月には,ぶどう酒用添加物のL-酒石酸カリウム(除酸剤)とメタ酒石酸(酒質安定剤)が指定された.また,炭酸カルシウムは,平成29(2017)年の使用基準改正で,全ての食品に使用可能となっていたが,令和2年12月に,従来の規格適合添加物の名称が炭酸カルシウムIとされ,新たにぶどう酒用添加物として酒石酸及びリンゴ酸のカルシウム複塩を含み得る製造方法で製造される炭酸カルシウムII(除酸剤)の成分規格が作成された.さらに令和3年1月には,亜硫酸水素アンモニウム水(発酵助剤,保存料,酸化防止剤),キチングルカン(清澄剤,重金属及び汚染物質除去剤),DL-酒石酸カリウム(除カルシウム剤,除酸剤)とビニルイミダゾール・ビニルピロリドン共重合体(清澄剤,重金属除去剤)が新規指定された.一方,日本の食品添加物もEUでの使用が可能となるよう要望がなされており,令和3年2月の時点で5品目の使用が認められ,令和6(2024)年2月1日までにさらに20品目が使用可能となるよう要望がされている.
次に表2表2■近年指定又は規格基準改正された殺菌料等及び防かび剤に,平成28(2016)年10月以降に指定又は規格基準改正された殺菌料等と防かび剤を示す.殺菌料等ではまず,平成28年に新たに過酢酸製剤の使用が認められた.過酢酸製剤は規格が設定され,過酢酸,「氷酢酸」,「過酸化水素」及び「1-ヒドロキシエチリデン-1, 1-ジホスホン酸」(HEDP)又はこれに「オクタン酸」を含む水溶液であると定義された.規制上は,過酢酸製剤に含まれる,過酢酸,オクタン酸,HEDPが指定されたということになる.また,次亜臭素酸水が平成28年に指定され,令和元年には製造方法の異なる次亜臭素酸水についても使用が認められるよう規格改正がされた.その他,既に指定されていた食品添加物では,平成28年に亜塩素酸ナトリウムについて,酸性化亜塩素酸ナトリウムとして新たに食肉及び食肉製品への使用が認められ,過酸化水素については,残留限度を設定することで,新たに釜揚げしらす及びしらす干しへの使用が認められた.
また,日本では,生鮮食品収穫後,保存のために用いられる物質等は,同じ物質が農薬として用いられている場合であっても,食品添加物の防かび剤等に分類され,使用基準においてその使用対象食品や使用上限量が規定されている.表2表2■近年指定又は規格基準改正された殺菌料等及び防かび剤に示す様に,平成30(2018)年にはプロピコナゾールが,令和2年にはジフェノコナゾールが新規指定され,また,平成30年にフルジオキソニルの使用基準改正,令和3年にアゾキシストロビンの規格基準改正がされ,適用可能な対象食品が拡張された.
さらに,表には示していないが,平成28年10月以降令和4年5月末までに,酵素のプシコースエピメラーゼと香料の脂肪族一級アミン類7品目が新規指定され,酵素のアスパラギナーゼと酸化防止剤dl-α-トコフェロールが規格改正され,強化剤の亜セレン酸ナトリウム,ビオチン,製造用剤のステアリン酸マグネシウム,膨張剤の硫酸アルミニウムアンモニウムと硫酸アルミニウムカリウムの使用基準が改正された.
日EU・EPA関連では,EUから令和6年1月末までの日本での使用認可の要望が出されている,ぶどう酒用添加物(第3段階)の審議等手続きが進められている.また,ぶどう酒用添加物以外についても,企業等から様々な食品添加物の新規指定や規格基準改正の要望が挙がっており,今後も,これらについて,国際整合性を考慮した対応が必要とされている.
以上,食品添加物の基本的事項について広く解説し,その有効性と安全性が確認された上で,指定や規格基準改正がされていることを示した.今回の「食品添加物と微生物」のシリーズの第2回以降では,食品添加物と微生物のかかわりについて具体的な解説がされる予定となっているので,期待していただきたい.
Reference
1) 厚生労働省:食品衛生法(昭和22年12月24日法律第233号),https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000233, 2018.
2) 谷村顕雄監修,日本食品添加物協会編:よくわかる暮らしのなかの食品添加物,光生館,pp. 156,2007.
3) 厚生労働省:第9版食品添加物公定書,https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000641285.pdf, 2018.
4) 厚生労働省:第9版食品添加物公定書追補1, https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000641611.pdf, 2020.
5) 国立医薬品食品衛生研究所:食品添加物指定等相談センター,https://www.nihs.go.jp/dfa/fadcc_home.html, 2019.
6) 内閣府食品安全委員会:食品安全委員会,https://www.fsc.go.jp, 2022.
7) 内閣府食品安全委員会:第6版食品の安全性に関する用語集,https://www.fsc.go.jp/yougoshu.data/yougoshu.pdf, 2019.
8) 厚生労働省:食品添加物の指定等に関する手続き,https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuten/qa_jigyosya.html, 2022.
9) 内閣府食品安全委員会事務局:食品安全モニター会議資料:食品安全に関する基礎知識,https://www.fsc.go.jp/monitor/moni_29/moni29_index.data/H29moni_shiryo1.pdf, 2017.