農芸化学@High School

三年子らっきょうの特長なぜ三倍もの時間をかけるのか

織間 唯衣

作新学院高等学校

中嶋 亜実

作新学院高等学校

石井 結理

作新学院高等学校

柚木

作新学院高等学校

早川 日菜

作新学院高等学校

福原 愛美

作新学院高等学校

粕谷 瑚々奈

作新学院高等学校

Published: 2022-11-01

一年で収穫ができるものを三年かけて収穫する「三年子らっきょう」は,一年のものと比べて繊維が細かく巻きがしっかりしており,歯切れ,味,香りも良いことから,高値で取引されている.しかし,一年で収穫したものと三年で収穫したものとの科学的な差異は証明されていない.本研究ではこれら二種のらっきょうの成分,味,歯ごたえ・食感,香りの差異を検証した.その結果,三年子らっきょうは一年らっきょうと比べて食物繊維が多く含まれ,歯ごたえがしっかりしているとともに,甘味および旨味成分の含有量が多く,雑味が少ない点やらっきょう特有の香りが強いことが明らかとなった.

本研究の背景・目的

らっきょうは,ネギ属の多年草の野菜である.食用とされているのは根元の部分で,シャキシャキとした歯ごたえが特徴であり,夏から秋にかけて植え付けられ,翌5~6月頃に収穫された一年らっきょうが生鮮品として,あるいは漬物などに加工されて販売されている.らっきょうの中には三年かけて収穫する「三年子らっきょう」(1)1) 農畜産業振興機構:今月の野菜 産地紹介,福井県 三里浜特産農協—全国で唯一,「三年子らっきょう」を生産—,https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/santi1905_santi1がある.三年子らっきょうは,さらにもう一年土の中で過ごし花を付け,二回目の春にさらに分球して6月頃に収穫される他の地方にはない独特の栽培法でつくられている.三年子らっきょうは,通常の一年ものと比べて小粒ではあるが,食物繊維の配列がきれいで,味や歯ごたえ,香りが良いと評判が高い.しかし,味や歯ごたえ,香りにおいての優位性は科学的には証明されていない.

本研究では一年らっきょうと三年子らっきょうの間で成分にどのような差異があるのかを調べるため,成分分析とともに,1. 味,2. 歯ごたえ・食感,3. 香りに着目し,それらの違いについて検討を行った.味については,アミノ酸の含有量,歯ごたえ・食感については食物繊維の含有量をもとに違いを評価した.香りについては,揮発性成分解析システムを用いて,それぞれの香気成分を計測して,両者の類似性や相違性の検討を試みた.

【実験方法】

試料には,漬物用として宇都宮市農業協同組合で販売されていた栃木県産の一年らっきょうと福井県の三里浜特産農業協同組合から取り寄せた「三年子花らっきょう」をそれぞれ1.0 gずつ測り取って実験に用いた(図1図1■三年子らっきょう(左)と一年らっきょう(右)).

図1■三年子らっきょう(左)と一年らっきょう(右)

図の上段には長さ14.3 cmの文具用カッターナイフを示している.

成分分析を行うにあたり,らっきょうに含まれる核酸,タンパク質,糖,有機酸,アミノ酸などの低分子をその種類や濃度を網羅的に分析するため,液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)およびガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)を基盤としたメタボローム解析を行った.取得した質量分析データから化合物の同定を行うとともに,メタボロームテーブルを作成し,多変量解析に供することで一年らっきょうと三年子らっきょうの特徴的な成分プロファイルを可視化し,両者の特徴の違いに寄与する成分情報の抽出を試みた.

複数の変量に関するデータを総合的に要約・予測する多変量解析では,サンプルの特性を可視化するとともに,多数の変数から新たな合成変数を生み出し,次元を下げてデータを要約する主成分分析を行った.また,類似した成分を見出すため,異なる性質のものが混ざり合った集団から互いに似た性質のものを集め,系統樹を作成するクラスター解析も行った.

1. 味

アミノ酸の種類によって甘味,苦味,酸味,旨味の成分が異なることから,LC-MSを用いてアミノ酸の種類を分析した.実験するにあたり,アミノ酸分析試薬100 mgにアセトニトリル(LC-MS用)5 mLを加え混合し,反応試薬溶液とした.通常,反応試薬溶液は調製後2~10°C保存で二週間以内に使用するが,本実験では30分程度で行った.また,ホウ酸緩衝液185 µL+粉砕したらっきょう10 µL+反応試薬溶液5 µLをよく混合した後,55~60°Cの範囲で15分間加温したものを試料とした.作成した試料をカラムを実装したLC-MS(ABsciex 5500Qtrap)に供した.

2. 歯ごたえ・食感

難消化性成分である食物繊維の含有量と歯ごたえは関係すると考えられる(2)2) 藤山咲子,坂手美絵,藤井わか子:日本調理科学会大会 研究発表要旨集,16, 2C-p8 (2004).ことから,プロスキー法を用いて,らっきょう中に含まれる食物繊維の含有量を測定し,その値を歯ごたえ・食感として判断した.

実験に使用したらっきょうは,三年子らっきょう,一年らっきょうともにそれぞれ別個体から1.0 gを測り取り使用した.最初に,総食物繊維を抽出するため試料をMES/Tris緩衝液に溶解後,熱安定α-アミラーゼ溶液で処理を行った.これは高分子のデンプンを断片化させるために行った.次に,タンパク質をポリペプチドやアミノ酸に分解させるためのプロテアーゼ溶液および断片化されたデンプンをさらに細かく処理するためのアミログルコシターゼ溶液を混合して同時に処理を行った.試料中に含まれる食物繊維をすべて沈殿させるため,エタノールを添加し,30分間放置した後,ろ過し,沈殿物を採取した.今回は,完全に沈殿させるために放置時間を30分と設定した.得られた沈殿物について,これまでの手順では分解されずに残った脂質を溶出させるため,エタノール,アセトンを用いて洗い流した.その後十分に乾燥させ,タンパク定量(ケルダール法)および灰分定量を行った.以上の処理後,乾燥を終えた試料の中には食物繊維以外のものも含まれているため,別途定量したタンパク質や無機質の重量を引くことによって総食物繊維の含有量を求めた.

3. 香り

食品の香りを決める揮発性の香気成分のうち,らっきょうの独特な刺激臭のもととなる硫化アリルの分析・測定には,GC-MS(Agilent7980B GC+5977B MSD)を用いた.試料は,固体から発生した気体成分を測定しやすくするために三年子らっきょうと一年らっきょうそれぞれ1.0 g細断したものを使用した.

試料を容量20 mLのガラスバイアルに入れ,におい嗅ぎGC-MSのサンプラー部にセットし,試料を加温しバイアル中に生じた揮発性成分をファイバーに吸着させた後,GC(ガスクロマトグラフ)に導入する.GC中の揮発性成分はボードとMS(質量分析計)に分岐させて放出させ,MSによる成分分析を行った(3)3) 吉井文子:別府大学紀要,58, (2017).

【実験結果・考察】

GC-MS解析では,らっきょうの成分として,無機質,ビタミン類,アミノ酸,脂肪酸,炭水化物,有機酸等を測定したが,一年らっきょうと三年子らっきょう間では明らかな成分の違いは認められなかった.そこで,両者の成分量比パターン(化合物プロファイル)の違いを多変量解析により検討するとともに,その違いに寄与する成分について調査を行った.その詳細について,次の1.および3.の項目に記載した.

1. 味

らっきょうの味を決めている成分を比較検討するためにLC-MS測定を行った結果,一年らっきょうと三年子らっきょう間では有意な差を示す成分は認められなかった.そこで,代表的なアミノ酸の相対的な割合を求めたところ(図2図2■各らっきょうの代表的なアミノ酸含有量),グルタミン,グルタミン酸,プロリン,メチオニンについて一年らっきょうよりも三年子らっきょうの方が高い数値を示した.グルタミン酸は主要な旨味成分の一つであり,プロリンは甘味をもたらす成分であることが知られている(4~6)4) 大渡康夫,杉山万里,牧野正知,松林和彦,田畑光正:島根県産業技術センター研究報告,56, 13 (2020).5) 二宮くみ子:YAKUGAKU ZASSHI, 136, 1327 (2016).6) 堀内かおるほか:“家庭基礎”,実教出版,2022, p.97..一年らっきょうに比べて三年子らっきょうの方が4種のアミノ酸の含有量が多いことから,旨味,甘味を強く感じる可能性がある.

図2■各らっきょうの代表的なアミノ酸含有量

データは2種類のらっきょう(n=10)におけるアミノ酸含有量(µg/mg)の平均値を示している.

つぎに,個々の成分間では明らかな差異が認められなかったものの,三年子らっきょうと一年らっきょう間での包括的な成分プロファイルの類似性・相違性を調べるために,主成分分析によるスコアプロットを作成した(図3図3■主成分分析によるスコアプロット).その結果,2種類のらっきょうで共通する成分プロファイル(点線円)と一年らっきょうにのみ含まれる成分プロファイル(実線円)が確認できた.第一主成分(横軸)上でこれらのサンプル間の距離が離れていることから,両者で成分プロファイルが異なっていることがわかった.さらに,一年らっきょうにおいて成分の分散をもたらしている成分について調べるために,ローディングプロットを作成した(図4図4■主成分分析によるローディングプロット).第一主成分(横軸)の中心から距離が離れた位置にある成分が確認できたため(実線円),これらの成分が図3図3■主成分分析によるスコアプロットのスコアプロットにおける第一主成分(横軸)上での一年らっきょうの分散に寄与していることが示唆された.以上の結果より,一年らっきょうは三年子らっきょうと比較して成分プロファイルに大きな分散が認められるために味に統一性が少なく,雑味が多いと感じやすい可能性がある.それに対して三年子らっきょうは類似した成分プロファイルを持つために味にばらつきが少なく,らっきょうの味をより強く感じられるのかもしれない.

図3■主成分分析によるスコアプロット

2種類のらっきょうの成分プロファイルで(n=10),第一主成分(横軸)と第二主成分(縦軸)を用いて作成している.図中の四角のプロット近傍の数字1~10は一年らっきょう,11~20は三年子らっきょうを示している.点線円は2種類のらっきょうで比較的共通しているサンプル分散を示しており,実線円は一年らっきょうにのみ現れた分散を示している.これは,一年らっきょうが三年子らっきょうと比べて分散が大きく,点線円で示した成分プロファイルと異なる可能性を示している.

図4■主成分分析によるローディングプロット

2種類のらっきょう(n=10)のスコアプロット上の分散を形成する成分の寄与度の情報を表している.本プロットは第一主成分(横軸)と第二主成分(縦軸)を用いて作成している.図中の四角のプロットは各種成分を示している.中心付近に集まっている成分は分散に大きな影響を及ぼしておらず,中心から離れた位置にある成分は,分散に大きな影響を及ぼすことを意味している.図中の実線の部分は第一主成分(横軸)における寄与率が高い成分を示している.

2. 歯ごたえ・食感

プロスキー法を用いた食物繊維の測定結果から各らっきょうにおける食物繊維の含有率を算出した結果,三年子らっきょうは13%,一年らっきょうは9.4%であった(表1表1■各らっきょうにおける食物繊維の含有率比較).三年子らっきょうが一年らっきょうよりも食物繊維の含有量が約3%多い結果となった.

表1■各らっきょうにおける食物繊維の含有率比較
含有量(mg)含有率(%)
三年子らっきょう123.83±5.613.0±0.6
一年らっきょう94.05±3.29.4±0.5
含有量および含有率のデータは平均値±標準偏差(n=3)で示している.

食物繊維の含有量が多いことについて福井県農業試験場の報告では,「らっきょうには糖類としてフルクタンが多く含まれており,食物繊維の含有量も多い植物である.食物繊維の90%は,フルクタンであると考えられる.しかし,三年越し(三年子らっきょう)では一年越し(一年らっきょう)に比べて粒が小さく,同一重量当たりの表面積は大きくなっている.したがって表皮を構成する細胞壁などの不溶性繊維の割合が高くなり水溶性多糖であるフルクタンの割合が低下する」(7)7) 小林恭一,渕上小百合,松下ひろみ,西川清文,稲木幸夫:福井県農業試験場研究報告 福井県農業試験場,35, 23 (1998).と記載されている.また,難消化性成分である食物繊維が多く含まれている食品は咀嚼回数が多くなり,歯ごたえを感じやすくなることがわかっている(2)2) 藤山咲子,坂手美絵,藤井わか子:日本調理科学会大会 研究発表要旨集,16, 2C-p8 (2004).

以上のことから,三年子らっきょうが一年らっきょうよりも歯ごたえがあり,食感が良いことに食物繊維の含有量の違いが関係していることが示唆された.

3. 香り

らっきょうなどのネギ類は独特な香りを持っており,この元となる物質として硫化アリルが知られている.一般的に,この成分が多く含まれるほどらっきょう独特の香りが強いと考えられている.GC-MS分析で得られた香気成分情報をクラスター解析して得られたヒートマップを確認したところ(図5図5■香気成分のクラスター解析),図中の上段にグルーピングされた3成分が硫化アリルであり,それらの量は一年らっきょうよりも三年子らっきょうの方が多いことが明らかになった.三年子らっきょうは本来の独特のにおいが一年らっきょうに比べて強いことがわかる.

図5■香気成分のクラスター解析

図中の行は香気成分の情報を表しており,列はサンプル情報を表している.香気成分について,上段の1~3行目の成分が硫化アリルに相当する.強度スケールの右側,すなわち,赤い色が濃くなるほど成分含量が多いことを表しており,強度スケールの左側である青い色は成分含量が少ない,あるいは検出限界以下であることを表している.

本研究の意義と展望

今回の実験では,収穫年数が一年と三年で異なるらっきょうを試料として用い,成分,味,歯ごたえ・食感,香りの違いを比較検討した.その結果,三年で収穫した三年子らっきょうの方が甘味・旨味成分が従来のものよりも多く含まれているために甘味・旨味を感じやすく,成分のばらつきが少ないために従来のものに比べ味に統一性がある可能性が示された.また,硫化アリル成分が多いために特有の香りが強く,食物繊維も多く含まれているために歯ごたえがしっかりとしていることも明らかになった.これらのことから,三年子らっきょうの方が一年らっきょうと比べて優れていたと言うことができる.また,今回は一年らっきょうの成分プロファイルの分散(ばらつき)に影響を与えている成分の存在が確認できたが,十分な測定ができていないために詳しい成分情報は取得できておらず,今後さらなる研究を進めていきたい.

らっきょうは1年間で,一つの種球から分球し8~12個収穫できる.三年越しのらっきょう(三年子らっきょう)では,分球がさらに進み,30個以上の小球を収穫できる.一つの種球が分球することで一つの球の大きさは小さくなる.また,含まれる栄養分も分球した各らっきょうに分散されるため一球の栄養素は低下するのではないかと考えたが,実際に測定したところ小球であっても成分に変化はなかった.

一般に,植物は寒さに当たると自身の持つアミノ酸を糖分に変換し凍結しないようにするため糖度が増し,その糖分や栄養分を植物体内の地下茎や葉などにため込むことになる(8)8) 匂坂勝之助:化学と生物,21, 294 (1983).

しかし,前述の福井県農業試験場研究報告では,一年掘り(一年らっきょう)と二年掘り(三年子らっきょう)の炭水化物の含有量は変化していないのに,らっきょうの越冬によりらっきょうの糖類であるフルクタンの割合が低下することから,今後,グルコースやプロリン等の甘味成分とフルクトースの関係性,球の大きさと成分の関係性について調べ,越冬が成分にどのように影響を与えるのか研究を進めていく必要がある.これらを解明することで,品質の向上,それに伴う農業収益の向上につながることが期待できる.また,本研究では生鮮品を用いたが,塩漬けや甘酢漬けなど加工方法の違いによる味,食感,香りの違いについても比較をしていきたい.

Acknowledgments

本研究を行うにあたり,宇都宮大学の謝肖男先生に実験機材,実験方法などの有益なご助言をいただきましたことに感謝申し上げます.

Reference

1) 農畜産業振興機構:今月の野菜 産地紹介,福井県 三里浜特産農協—全国で唯一,「三年子らっきょう」を生産—,https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/santi1905_santi1

2) 藤山咲子,坂手美絵,藤井わか子:日本調理科学会大会 研究発表要旨集,16, 2C-p8 (2004).

3) 吉井文子:別府大学紀要,58, (2017).

4) 大渡康夫,杉山万里,牧野正知,松林和彦,田畑光正:島根県産業技術センター研究報告,56, 13 (2020).

5) 二宮くみ子:YAKUGAKU ZASSHI, 136, 1327 (2016).

6) 堀内かおるほか:“家庭基礎”,実教出版,2022, p.97.

7) 小林恭一,渕上小百合,松下ひろみ,西川清文,稲木幸夫:福井県農業試験場研究報告 福井県農業試験場,35, 23 (1998).

8) 匂坂勝之助:化学と生物,21, 294 (1983).