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ミスマッチ修復機構の新たな展開ミスマッチ塩基特異的エンドヌクレアーゼの発見

Sonoko Ishino

石野 園子

九州大学大学院農学研究院

Published: 2022-12-01

生物は遺伝情報を正しく維持するために,DNAに生じた様々な損傷を修復する機能を備えて突然変異や細胞死などの有害な影響を回避している.生物が有する種々のDNA修復機能のうち,複製時に誤ったヌクレオチドの取り込みで生じるミスマッチ塩基対を認識して修復するのがミスマッチ修復(MMR)システムである.MMRシステムはDNA複製の忠実度を100~1000倍向上させている.広く知られているMMRシステムは,MutSおよびMutLを必要とする.MutSはミスマッチ塩基対を認識し,MutLはATP依存的にMutS-DNA複合体と相互作用する.MutS-MutL複合体は,エンドヌクレアーゼ活性により新生鎖にニックを入れて修復を開始する.バクテリアのMutS-MutL複合体はDNAクランプ(β-クランプ)と相互作用し,MMRシステムとDNA複製が連動していることがわかる.ニック導入後は,ヘリカーゼ,エキソヌクレアーゼ,DNAポリメラーゼIII, DNAリガーゼなどが,誤った塩基を含む領域を除去しDNAを再合成して修復を完了させる.MutS/MutLおよびそれらのホモログは多くのバクテリアと真核生物で高度に保存されているが,バクテリアである放線菌や多くのアーキアには存在しない.しかし,これらの生物の自然突然変異率は,これまでに多くの生物種で研究されてきたMMRシステムをもつバクテリアに匹敵し,代替メカニズムの存在を示唆していた.我々は超好熱性アーキアから活性スクリーニングにより,ミスマッチを含む二本鎖DNAを切断するエンドヌクレアーゼ,EndoMS(Endonuclease Mismatch-Specific)を発見した(1)1) S. Ishino, Y. Nishi, S. Oda, T. Uemori, T. Sagara, N. Takatsu, T. Yamagami, T. Shirai & Y. Ishino: Nucleic Acids Res., 44, 2977 (2016)..EndoMSのアミノ酸配列は既知の修復酵素とはまったく異なったが,単鎖DNA切断活性を有する機能未知のNucSと名付けられていた酵素に類似していた.EndoMS(NucS)の生物界における分布と,生化学解析,構造解析および遺伝学的解析の結果,MutS/MutLを持たない生物における非標準的なMMRシステムの存在が明らかとなった.このDNA修復機構の特性について紹介したい.

アーキア由来のEndoMSは,in vitroにおいてミスマッチ塩基対を中心に二本鎖DNAの両鎖を5′-突出型に対称的に切断すること,およびTとGを含むミスマッチに対して切断効率が高いことがわかった.またDNAクランプであるPCNA(Proliferating Cell Nuclear Antigen)と相互作用することが示された.PCNAはDNA代謝酵素の普遍的なプラットフォームとして働き,DNA複製,組換え,修復の過程に関与している.EndoMS二量体とDNAの複合体構造が決定され,既知のMMRやBER酵素とは異なるミスマッチ認識機構を持つことが明らかになった(2)2) S. Nakae, A. Hijikata, T. Tsuji, K. Yonezawa, K. Kouyama, K. Mayanagi, S. Ishino, Y. Ishino & T. Shirai: Structure, 24, 1960 (2016)..EndoMSはN末端ドメインで二量体化し,柔軟なリンカーで繋がれたC末端の触媒ドメインがフレキシブルに開閉し,ミスマッチを含むDNAをしっかり握るように閉じた構造をとる.その際に,触媒中心が二本鎖のリン酸バックボーンにアクセスできるようになる.ミスマッチ塩基はDNAの二重らせん構造から飛び出しN末端ドメインの塩基認識ポケットに収まるが,チミンとグアニンの場合に,より強い相互作用が生じて安定した酵素–基質複合体となることから,その特異性が説明できた.

EndoMSはアーキアだけでなく,バクテリアで産業用途として知られるコリネ型菌やストレプトミセス属細菌,および結核菌などのMutS/MutLを持たない放線菌にも分布していた.コリネ型菌由来EndoMSの解析では生化学的特性が保持されており,DNAクランプ(β-クランプ)によってDNA切断活性の促進が見られ,アーキアとバクテリアの両方でDNAクランプによってミスマッチDNAを切断する酵素活性が促進されることが示された(3, 4)3) N. Takemoto, I. Numata, M. Su’Etsugu & T. Miyoshi-Akiyama: Nucleic Acids Res., 46, 6152 (2018).4) S. Ishino, S. Skouloubris, H. Kudo, C. L’Hermitte-Stead, A. Es-Sadik, J. C. Lambry, Y. Ishino & H. Myllykallio: Nucleic Acids Res., 46, 6206 (2018)..コリネ型菌および結核菌由来のEndoMSの構造モデリングは放線菌でも同様のフォールディングと基質認識機構が保存されていることを裏付けていた.

遺伝子欠失変異体を用いた自然突然変異率および突然変異スペクトルの解析は,アーキアから放線菌まで複数の種で研究がなされている.endoMS遺伝子欠失株の自然突然変異率は野生株と比較して約100倍から1000倍と顕著に上昇し,細胞内でendoMS遺伝子が修復に機能していることが示された(3~6).コリネ型菌ではEndoMSのDNAクランプとの相互作用部位にのみ変異を導入した場合にも自然突然変異率が上昇し,細胞内でこの相互作用が重要であることがわかった.遺伝子欠失株において観察された突然変異スペクトルはアーキアでも放線菌でもトランジション型変異,つまりA-G, T-Cの変異の蓄積が顕著であった.図1図1■ミスマッチ修復に関わる遺伝子の欠失による塩基対置換の増加は自然突然変異蓄積実験により検出された塩基対置換の割合を調べた結果である(7)7) A. Castañeda-García, I. Martín-Blecua, E. Cebrián-Sastre, A. Chiner-Oms, M. Torres-Puente, I. Comas & J. Blázquez: Sci. Adv., 6, eaay4453 (2020)..結核菌およびコリネ型菌のendoMS遺伝子の欠失株は野生型に比べてトランジション型変異の割合が顕著に上昇し,EndoMSが生体内でゲノムの安定性を維持するために特にトランジションの修正に作用していることがわかる.これは典型的なMMRシステムで働く大腸菌のmutL遺伝子や枯草菌のmutS遺伝子の欠失により生じた変異と同様の結果で,EndoMSが担う非標準的なMMRシステムの存在を支持している.結核菌の臨床分離株からendoMS遺伝子の変異が検出され,多くの遺伝子変異を蓄積する株の存在が示唆されており(6)6) S. Ahmad, Q. Huang, J. Ni, Y. Xiao, Y. Yang & Y. Shen: Front. Microbiol., 11, 607431 (2020).,多剤耐性獲得の原因となることが危惧されている.

図1■ミスマッチ修復に関わる遺伝子の欠失による塩基対置換の増加

野生株とendoMSおよびmutS遺伝子の欠失株を用いた自然突然変異蓄積実験の結果より,四種の真性細菌について塩基対置換の割合とそのパターンを比較した.文献7の表3のデータセットを用いてグラフを作成した.縦軸は継代1回についての塩基対あたりの置換率を示す.

EndoMSによる二本鎖切断後の修復機構はまだ明らかになっていないが,相同組換え経路で進行すると予想される.MutS/MutLに依存した標準的なMMRとは全く異なる分子機構で進行するものの,両者の機能は重複しており,類似した役割を担っている.また系統分類における遺伝子の分布が,二つの経路でほぼ互いに相補的であることからもこれらは進化的に収束したものと考えられる.EndoMSの発見とその機能解析により,標準的なMMRシステムを持たない生物のゲノムの安定性と低い突然変異率を説明できるようになり,DNA修復機構研究に一つのブレイクスルーをもたらしたと言える.

Reference

1) S. Ishino, Y. Nishi, S. Oda, T. Uemori, T. Sagara, N. Takatsu, T. Yamagami, T. Shirai & Y. Ishino: Nucleic Acids Res., 44, 2977 (2016).

2) S. Nakae, A. Hijikata, T. Tsuji, K. Yonezawa, K. Kouyama, K. Mayanagi, S. Ishino, Y. Ishino & T. Shirai: Structure, 24, 1960 (2016).

3) N. Takemoto, I. Numata, M. Su’Etsugu & T. Miyoshi-Akiyama: Nucleic Acids Res., 46, 6152 (2018).

4) S. Ishino, S. Skouloubris, H. Kudo, C. L’Hermitte-Stead, A. Es-Sadik, J. C. Lambry, Y. Ishino & H. Myllykallio: Nucleic Acids Res., 46, 6206 (2018).

5) A. Castañeda-García, A. I. Prieto, J. Rodríguez-Beltrán, N. Alonso, D. Cantillon, C. Costas, L. Pérez-Lago, E. D. Zegeye, M. Herranz, P. Plociński et al.: Nat. Commun., 8, 14246 (2017).

6) S. Ahmad, Q. Huang, J. Ni, Y. Xiao, Y. Yang & Y. Shen: Front. Microbiol., 11, 607431 (2020).

7) A. Castañeda-García, I. Martín-Blecua, E. Cebrián-Sastre, A. Chiner-Oms, M. Torres-Puente, I. Comas & J. Blázquez: Sci. Adv., 6, eaay4453 (2020).