セミナー室

食品添加物と微生物のかかわり日本での規制の観点から

Atsutaka Kubosaki

窪崎 敦隆

国立医薬品食品衛生研究所食品添加物部

Hiroki Kubota

久保田 浩樹

国立医薬品食品衛生研究所食品添加物部

Published: 2022-12-01

はじめに

食品中の微生物の増殖を抑える役割を果たす「保存料」,収穫後の農作物に使用される「防かび剤又は防ばい剤」,加工助剤のうち殺菌効果を有する「殺菌料」など,微生物の増殖等を制御することによって食品の安全を守るために使用される食品添加物がある.本稿では,微生物を制御するための日本の食品添加物を紹介するとともに,これらの食品添加物を用いた食品を消費者に安全にかつ安心して食べてもらうために,我が国では,どのような制度で規制を行っているかについて概説することにする.また,日本と海外の食品添加物の違いについても紹介する.

食料確保のための食品添加物のはじまり

動物にとって食料の確保は,文字通り,死活問題である.もちろん,人も例外ではないが,人が他の動物と異なっていた点の一つは,入手できた食料を保存する方法を発展できたことである.遅くとも古代エジプトの頃までには,野菜や魚など様々な食べ物を塩漬け(塩蔵)にして食料を保存していたことがわかっており,その後も長い時間をかけて様々な工夫を試みた結果,糖蔵,乾燥,燻製,発酵など食品の保存性を高める方法が用いられるようになった.さらに,その後になって保存性が高まる理由が明らかとなると,効率よく保存食料を作り出すことができるようになった.例えば,岩塩をハム・ソーセージ作りに使用すると,おいしそうな色になり,風味がよく,食中毒が起こらないことが経験的に知られていた.その作用は,岩塩の不純物として含まれている硝酸塩による作用であることがわかってきた.一方,燻製は,樹脂の少ない木を不完全燃焼させたときに生じる煙により燻すことで保存性の高い食料を作る方法だが,これは,燻煙の中に含まれるフェノール系化合物,ホルムアルデヒド,有機酸などの抗菌あるいは防腐成分が食品に浸透することで保存性が高まっていることがわかってきた.これらの食経験等から得られた知識が,後の食品添加物になっていった.

微生物の制御に関連する日本の食品添加物

本セミナー室「食品添加物と微生物」の第1回でも解説されていたように,日本の食品添加物は,食品衛生法第四条第二項で「この法律で添加物とは,食品の製造の過程において又は食品の加工若しくは保存の目的で,食品に添加,混和,浸潤その他の方法によって使用する物をいう.」と規定されている.また,食品衛生法第十二条には「人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定める場合を除いては,添加物(天然香料及び一般に食品として飲食に供されている物であって添加物として使用されるものを除く.)並びにこれを含む製剤及び食品は,これを販売し,又は販売の用に供するために,製造し,輸入し,加工し,使用し,貯蔵し,若しくは陳列してはならない.」と記載されており,厚生労働大臣が指定したものだけが食品添加物として使用することができることになっている.まず,食品添加物のうち,食品中の微生物の制御に関連する食品添加物を以下に紹介する.

1. 保存料

保存料とは,食品中の微生物による腐敗や変敗を防止することにより,食品の保存性を向上させる目的で使用される食品添加物のことである.保存料には微生物に対する殺菌効果はないが,微生物を増えにくくする,増やさないようにする効果があり,保存性を高めるとともに食中毒リスクの低減に役立っている.直近では,令和3年1月15日に亜硫酸水素アンモニウム水が新規の保存料である食品添加物として指定されたが,このことにより,現在,用途が保存料である指定添加物は21品目となった(表1表1■日本の保存料用途の指定添加物と使用基準).全品目に対象食品が,亜硫酸水素アンモニウム水以外には使用量の基準が設けられている.一方,用途が保存料である既存添加物には,ツヤプリシン(抽出物),ペクチン分解物,しらこたん白抽出物,ε-ポリリシン,カワラヨモギ抽出物の5品目がある.カワラヨモギ抽出物を除く4種は,成分規格が設定されて第9版食品添加物公定書(以下,公定書という.)(1)1) 厚生労働省:第9版食品添加物公定書,https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000641285.pdf, 2018に収載されているが,指定添加物の保存料のような使用基準は設定されていない.また,保存料を添加した食品の場合には,食品表示基準に従い,原材料の欄に「保存料(食品添加物名)」と表示する必要がある.

表1■日本の保存料用途の指定添加物と使用基準
名称対象食品使用量/残存量
亜硫酸水素アンモニウム水ぶどう酒の製造に用いるぶどう果汁及びぶどう酒以外の食品に使用してはならない.
亜硫酸ナトリウムごま,豆類及び野菜に使用してはならない.二酸化硫黄として,かんぴょうにあってはその1 kgにつき5.0 g以上,乾燥果実(干しぶどうを除く.)にあってはその1 kgにつき2.0 g以上,干しぶどうにあってはその1 kgにつき1.5 g以上,コンニャク粉にあってはその1 kgにつき0.90 g以上,乾燥じゃがいも,ゼラチン及びディジョンマスタードにあってはその1 kgにつき0.50 g以上,果実酒(果実酒の製造に用いる酒精分1容量%以上を含有する果実搾汁及びこれを濃縮したものを除く.)及び雑酒にあってはその1 kgにつき0.35 g以上,キャンデッドチェリー(除核したさくらんぼを砂糖漬にしたもの又はこれに砂糖の結晶を付けたもの若しくはこれをシロップ漬にしたものをいう.以下この目において同じ.)及び糖蜜にあってはその1 kgにつき0.30 g以上,糖化用タピオカでんぷんにあってはその1 kgにつき0.25 g以上,水あめにあってはその1 kgにつき0.20 g以上,5倍以上に希釈して飲用に供する天然果汁にあってはその1 kgにつき0.15 g以上,甘納豆及び煮豆にあってはその1 kgにつき0.10 g以上,えび及び冷凍生かににあってはそのむき身の1 kgにつき0.10 g以上,その他の食品(キャンデッドチェリーの製造に用いるさくらんぼ,ビールの製造に用いるホップ並びに果実酒の製造に用いる果汁,酒精分1容量%以上を含有する果実搾汁及びこれを濃縮したものを除く.)にあってはその1 kgにつき0.030 g(第2 添加物の部 F 使用基準 添加物一般の表の亜硫酸塩等の項に掲げる場合であって,かつ,同表の第3欄に掲げる食品(コンニャクを除く.)1 kg中に同表の第1欄に掲げる添加物が,二酸化硫黄として,0.030 g以上残存する場合には,その残存量)以上残存しないように使用しなければならない.
次亜硫酸ナトリウム
二酸化硫黄
ピロ亜硫酸カリウム
ピロ亜硫酸ナトリウム
安息香酸キャビア,マーガリン,清涼飲料水,シロップ及びしょう油以外の食品に使用してはならない.安息香酸として,キャビアにあってはその1 kgにつき2.5 g以下,マーガリンにあってはその1 kgにつき1.0 g(ソルビン酸,ソルビン酸カリウム,ソルビン酸カルシウム又はこれらのいずれかを含む製剤を併用する場合には,安息香酸としての使用量及びソルビン酸としての使用量の合計量が1.0 g)以下,清涼飲料水,シロップ及びしょう油にあってはその1 kgにつき0.60 g以下でなければならない.
安息香酸ナトリウム菓子の製造に用いる果実ペースト(果実をすり潰し,又は裏ごししてペースト状としたものをいう.以下この目において同じ.)及び果汁(濃縮果汁を含む.以下この目において同じ.),キャビア,しょう油,シロップ,清涼飲料水並びにマーガリン以外の食品に使用してはならない.安息香酸として,キャビアにあってはその1 kgにつき2.5 g以下,菓子の製造に用いる果実ペースト及び果汁並びにマーガリンにあってはその1 kgにつき1.0 g(マーガリンにあっては,ソルビン酸,ソルビン酸カリウム又はソルビン酸カルシウムを併用する場合には,安息香酸としての使用量及びソルビン酸としての使用量の合計量が1.0 g)以下,しょう油,シロップ及び清涼飲料水にあってはその1 kgにつき0.60 g以下でなければならない.
ソルビン酸甘酒(3倍以上に希釈して飲用するものに限る.以下この目において同じ.),あん類,うに,果実酒,かす漬,こうじ漬,塩漬,しょう油漬,酢漬及びみそ漬の漬物,キャンデッドチェリー(除核したさくらんぼを砂糖漬にしたもの又はこれに砂糖の結晶を付けたもの若しくはこれをシロップ漬にしたものをいう.以下この目において同じ.),魚介乾製品,魚肉ねり製品(魚肉すり身を除く.以下この目において同じ.),鯨肉製品,ケチャップ,雑酒,ジャム,食肉製品,シロップ,スープ(ポタージュスープを除く.以下この目において同じ.),たくあん漬(生大根又は干し大根を塩漬にした後,これを調味料,香辛料,色素等を加えたぬか又はふすまで漬けたものをいう.ただし,一丁漬たくあん及び早漬たくあんを除く.以下この目において同じ.),たれ,チーズ,つくだ煮,つゆ,煮豆,乳酸菌飲料(殺菌したものを除く.),ニョッキ,はっ酵乳(乳酸菌飲料の原料に供するものに限る.以下この目において同じ.),フラワーペースト類(小麦粉,でん粉,ナッツ類若しくはその加工品,ココア,チョコレート,コーヒー,果肉,果汁,いも類,豆類又は野菜類を主要原料とし,これに砂糖,油脂,粉乳,卵,小麦粉等を加え,加熱殺菌してペースト状とし,パン又は菓子に充塡又は塗布して食用に供するものをいう.以下この目において同じ.),干しすもも,マーガリン並びにみそ以外の食品に使用してはならない.ソルビン酸として,チーズにあってはその1 kgにつき3.0 g(プロピオン酸,プロピオン酸カルシウム又はプロピオン酸ナトリウムを併用する場合には,ソルビン酸としての使用量及びプロピオン酸としての使用量の合計量が3.0 g)以下,うに,魚肉ねり製品,鯨肉製品及び食肉製品にあってはその1 kgにつき2.0 g以下,いかくん製品及びたこくん製品にあってはその1 kgにつき1.5 g以下,あん類,かす漬,こうじ漬,塩漬,しょう油漬及びみそ漬の漬物,キャンデッドチェリー,魚介乾製品(いかくん製品及びたこくん製品を除く.),ジャム,シロップ,たくあん漬,つくだ煮,煮豆,ニョッキ,フラワーペースト類,マーガリン並びにみそにあってはその1 kgにつき1.0 g(マーガリンにあっては安息香酸又は安息香酸ナトリウムを併用する場合には,安息香酸としての使用量及びソルビン酸としての使用量の合計量が1.0 g)以下,ケチャップ,酢漬の漬物,スープ,たれ,つゆ及び干しすももにあってはその1 kgにつき0.50 g以下,甘酒及びはっ酵乳にあってはその1 kgにつき0.30 g以下,果実酒及び雑酒にあってはその1 kgにつき0.20 g以下,乳酸菌飲料(殺菌したものを除く.以下この目において同じ.)にあってはその1 kgにつき0.050 g(乳酸菌飲料の原料に供するものにあっては0.30 g)以下でなければならない.
ソルビン酸カリウム甘酒(3倍以上に希釈して飲用するものに限る.以下この目において同じ.),あん類,うに,果実酒,菓子の製造に用いる果実ペースト(果実をすり潰し,又は裏ごししてペースト状としたものをいう.以下この目において同じ.)及び果汁(濃縮果汁を含む.以下この目において同じ.),かす漬,こうじ漬,塩漬,しょう油漬,酢漬及びみそ漬の漬物,キャンデッドチェリー(除核したさくらんぼを砂糖漬にしたもの又はこれに砂糖の結晶を付けたもの若しくはこれをシロップ漬にしたものをいう.以下この目において同じ.),魚介乾製品,魚肉ねり製品(魚肉すり身を除く.以下この目において同じ.),鯨肉製品,ケチャップ,雑酒,ジャム,食肉製品,シロップ,スープ(ポタージュスープを除く.以下この目において同じ.),たくあん漬(生大根又は干し大根を塩漬にした後,これを調味料,香辛料,色素等を加えたぬか又はふすまで漬けたものをいう.ただし,一丁漬たくあん及び早漬たくあんを除く.以下この目において同じ.),たれ,チーズ,つくだ煮,つゆ,煮豆,乳酸菌飲料(殺菌したものを除く.),ニョッキ,はっ酵乳(乳酸菌飲料の原料に供するものに限る.以下この目において同じ.),フラワーペースト類(小麦粉,でん粉,ナッツ類若しくはその加工品,ココア,チョコレート,コーヒー,果肉,果汁,いも類,豆類又は野菜類を主要原料とし,これに砂糖,油脂,粉乳,卵,小麦粉等を加え,加熱殺菌してペースト状とし,パン又は菓子に充塡又は塗布して食用に供するものをいう.以下この目において同じ.),干しすもも,マーガリン並びにみそ以外の食品に使用してはならない.ソルビン酸として,チーズにあってはその1 kgにつき3.0 g(プロピオン酸,プロピオン酸カルシウム又はプロピオン酸ナトリウムを併用する場合には,ソルビン酸としての使用量及びプロピオン酸としての使用量の合計量が3.0 g)以下,うに,魚肉ねり製品,鯨肉製品及び食肉製品にあってはその1 kgにつき2.0 g以下,いかくん製品及びたこくん製品にあってはその1 kgにつき1.5 g以下,あん類,菓子の製造に用いる果実ペースト及び果汁,かす漬,こうじ漬,塩漬,しょう油漬及びみそ漬の漬物,キャンデッドチェリー,魚介乾製品(いかくん製品及びたこくん製品を除く.),ジャム,シロップ,たくあん漬,つくだ煮,煮豆,ニョッキ,フラワーペースト類,マーガリン並びにみそにあってはその1 kgにつき1.0 g(マーガリンにあっては安息香酸又は安息香酸ナトリウムを併用する場合には,安息香酸としての使用量及びソルビン酸としての使用量の合計量が1.0 g)以下,ケチャップ,酢漬の漬物,スープ,たれ,つゆ及び干しすももにあってはその1 kgにつき0.50 g以下,甘酒及びはっ酵乳にあってはその1 kgにつき0.30 g以下,果実酒及び雑酒にあってはその1 kgにつき0.20 g以下,乳酸菌飲料(殺菌したものを除く.以下この目において同じ.)にあってはその1 kgにつき0.050 g(乳酸菌飲料の原料に供するものにあっては0.30 g)以下でなければならない.
ソルビン酸カルシウム
デヒドロ酢酸ナトリウムチーズ,バター及びマーガリン以外の食品に使用してはならない.デヒドロ酢酸として,チーズ,バター又はマーガリン1 kgにつき0.50 g以下でなければならない.
ナイシン穀類及びでん粉を主原料とする洋生菓子,食肉製品,ソース類,卵加工品,チーズ,ドレッシング,ホイップクリーム類(乳脂肪分を主成分とする食品を主要原料として泡立てたものをいう.以下この目において同じ.),マヨネーズ,みそ及び洋菓子以外の食品に使用してはならない.ナイシンAを含む抗菌性ポリペプチドとして,食肉製品,チーズ(プロセスチーズを除く.)及びホイップクリーム類にあっては1 kgにつき0.0125 g以下,ソース類,ドレッシング及びマヨネーズにあっては1 kgにつき0.010 g以下,プロセスチーズ及び洋菓子にあっては1 kgにつき0.00625 g以下,卵加工品及びみそにあっては1 kgにつき0.0050 g以下,穀類及びでん粉を主原料とする洋生菓子にあっては1 kgにつき0.0030 g以下でなければならない.ただし,特別用途表示の許可又は承認を受けた場合は,この限りではない.
パラオキシ安息香酸イソブチルしょう油,酢,清涼飲料水,シロップ,果実ソース,果実(表皮の部分に限る.)及び果菜(表皮の部分に限る.)以外の食品に使用してはならない.パラオキシ安息香酸として,しょう油にあってはその1 Lにつき0.25 g以下,酢にあってはその1 Lにつき0.10 g以下,清涼飲料水及びシロップにあってはその1 kgにつき0.10 g以下,果実ソースにあってはその1 kgにつき0.20 g以下,果実及び果菜にあってはその1 kgにつき0.012 g以下でなければならない.
パラオキシ安息香酸イソプロピル
パラオキシ安息香酸エチル
パラオキシ安息香酸ブチル
パラオキシ安息香酸プロピル
プロピオン酸チーズ,パン及び洋菓子以外の食品に使用してはならない.ただし,着香の目的で使用する場合は,この限りでない.プロピオン酸として,チーズにあってはその1 kgにつき3.0 g(ソルビン酸,ソルビン酸カリウム又はソルビン酸カルシウムを併用する場合には,プロピオン酸としての使用量及びソルビン酸としての使用量の合計量が3.0 g)以下,パン及び洋菓子にあってはその1 kgにつき2.5 g以下でなければならない.
プロピオン酸カルシウムチーズ,パン及び洋菓子以外の食品に使用してはならない.
プロピオン酸ナトリウム
注:令和4年7月1日現在までに指定されている食品添加物を示した.

2. 防かび剤又は防ばい剤

防かび剤又は防ばい剤は,レモンなどのかんきつ類やバナナなどの果物類などに付着したカビの繁殖を防ぐために使用される食品添加物のことである.食品衛生法では,カビ等による腐敗等の防止の目的で,収穫後の果物類などの食品へ使用する化学物質であることから食品添加物としている一方,同じ物質であっても,収穫前に使用する場合には,農薬として取り扱っている.防かび剤又は防ばい剤は,輸入食品を船舶等で長期間輸送する際にカビ等の繁殖を抑えるために使用されている.直近では,令和2年6月18日にジフェノコナゾールが新規に収載され,合計10品目が食品添加物として指定されている(表2表2■日本の防かび剤又は防ばい剤と使用基準).全て使用基準が設定されており,対象食品や使用量が決められている.また,令和3年2月3日にアゾキシストロビンの使用基準が改正され,それまで対象食品がみかんを除くかんきつ類だけであったのが,「ばれいしょ」にも使用できるようになった.

表2■日本の防かび剤又は防ばい剤と使用基準
名称対象食品使用量/残存量
アゾキシストロビンかんきつ類(みかんを除く.)及びばれいしょ以外の食品に使用してはならない.アゾキシストロビンとして,かんきつ類(みかんを除く.)1 kgにつき0.010 g, ばれいしょにあってはその1 kgにつき0.007 gを超えて残存しないように使用しなければならない.
イマザリルかんきつ類(みかんを除く.)及びバナナ以外の食品に使用してはならない.イマザリルとして,かんきつ類(みかんを除く.)にあってはその1 kgにつき0.0050 g, バナナにあってはその1 kgにつき0.0020 gを,それぞれ超えて残存しないように使用しなければならない.
オルトフェニルフェノールかんきつ類以外の食品に使用してはならない.オルトフェニルフェノールとして,かんきつ類1 kgにつき0.010 gを超えて残存しないように使用しなければならない.
オルトフェニルフェノールナトリウム
ジフェニルグレープフルーツ,レモン及びオレンジ類の貯蔵又は運搬の用に供する容器の中に入れる紙片に浸潤させて使用する場合以外に使用してはならない.食品1 kgにつき0.070 g以上残存しないように使用しなければならない.
ジフェノコナゾールばれいしょ以外の食品に使用してはならない.ばれいしょにあってはその1 kgにつき0.004 gを超えて残存しないように使用しなければならない.
チアベンダゾールかんきつ類及びバナナ以外の食品に使用してはならない.チアベンダゾールとして,かんきつ類にあってはその1 kgにつき0.010 g, バナナにあってはその1 kgにつき0.0030 g及びその果肉1 kgにつき0.0004 gを,それぞれ超えて残存しないように使用しなければならない.
ピリメタニルあんず,おうとう,かんきつ類(みかんを除く.),すもも,西洋なし,マルメロ,もも及びりんご以外の食品に使用してはならない.ピリメタニルとして,あんず,おうとう,かんきつ類(みかんを除く.),すもも及びももにあってはその1 kgにつき0.010 g, 西洋なし,マルメロ及びりんごにあってはその1 kgにつき0.014 gを,それぞれ超えて残存しないように使用しなければならない.
フルジオキソニルあんず,おうとう,かんきつ類(みかんを除く.),キウィー,ざくろ,すもも,西洋なし,ネクタリン,びわ,マルメロ,もも及びりんご以外の食品に使用してはならない.フルジオキソニルとして,キウィーにあってはその1 kgにつき0.020 g, かんきつ類(みかんを除く.)にあってはその1 kgにつき0.010 g, あんず,おうとう,ざくろ,すもも,西洋なし,ネクタリン,びわ,マルメロ,もも及びりんごにあってはその1 kg(あんず,おうとう,すもも,ネクタリン及びももにあっては種子を除く.)につき0.0050 gを超えて残存しないように使用しなければならない.
プロピコナゾールあんず,おうとう,かんきつ類(みかんを除く.),すもも,ネクタリン及びもも以外の食品に使用してはならない.プロピコナゾールとして,かんきつ類(みかんを除く.)にあってはその1 kgにつき0.008 g, あんず,おうとう,ネクタリン及びももにあってはその1 kg(あんず,ネクタリン及びももにあっては種子を除く.おうとうにあっては果梗(こう)及び種子を除く.)につき0.004 g, すももにあってはその1 kg(種子を除く.)につき0.0006 gを,それぞれ超えて残存しないように使用しなければならない.
注:令和4年7月1日現在までに指定されている食品添加物を示した.

3. 殺菌料

殺菌料は,食品に付着していて水では洗い流しきれない,腐敗や変敗又は食中毒の原因となる微生物を殺菌又は除去することを目的に使用される食品添加物である(2)2) 久保田浩樹,佐藤恭子,穐山 浩:FFIジャーナル,219, 248 (2014)..直近では,二炭酸ジメチルが令和2年1月15日に新規に収載され,現在,9品目が公定書に収載されているが,「高度サラシ粉」以外は使用基準が設定されている(表3表3■日本の殺菌剤と使用基準).そのうち「過酢酸製剤」と「次亜塩素酸水」は少し複雑なので,細かな点も含むが以下に補足する.

表3■日本の殺菌剤と使用基準
名称対象食品使用量/残存量
亜塩素酸水精米,豆類,野菜(きのこ類を除く.以下この目において同じ.),果実,海藻類,鮮魚介類(鯨肉を含む.以下この目において同じ.),食肉,食肉製品及び鯨肉製品並びにこれらを塩蔵,乾燥その他の方法によって保存したもの以外の食品に使用してはならない.亜塩素酸として,精米,豆類,野菜,果実,海藻類,鮮魚介類,食肉,食肉製品及び鯨肉製品並びにこれらを塩蔵,乾燥その他の方法により保存したものにあっては,浸漬液又は噴霧液1 kgにつき0.40 g以下でなければならない.また,使用した亜塩素酸水は,最終食品の完成前に分解し,又は除去しなければならない.
亜塩素酸ナトリウムかずのこの加工品(干しかずのこ及び冷凍かずのこを除く.以下この目において同じ.),かんきつ類果皮(菓子製造に用いるものに限る.),さくらんぼ,食肉,食肉製品,生食用野菜類,卵類(卵殻の部分に限る.以下この目において同じ.),ふき,ぶどう及びもも以外の食品に使用してはならない.亜塩素酸ナトリウムとして,かずのこの加工品,生食用野菜類及び卵類にあっては浸漬液1 kgにつき0.50 g以下,食肉及び食肉製品にあっては浸漬液又は噴霧液1 kgにつき0.50~1.20 gでなければならない.また,使用した亜塩素酸ナトリウムは,最終食品の完成前に分解し,又は除去しなければならない.食肉及び食肉製品に使用するとき,pH 2.3~2.9の浸漬液又は噴霧液を30秒以内で使用しなければならない.
過酢酸製剤牛,鶏及び豚の食肉,果実並びに野菜の表面殺菌の目的以外に使用してはならない.過酢酸として,鶏の食肉にあっては浸漬液又は噴霧液1 kgにつき2.0 g以下,牛及び豚の食肉にあっては浸漬液又は噴霧液1 kgにつき1.80 g以下,果実及び野菜にあっては浸漬液又は噴霧液1 kgにつき0.080 g以下並びに1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸として,鶏の食肉にあっては浸漬液又は噴霧液1 kgにつき0.136 g以下,牛及び豚の食肉にあっては浸漬液又は噴霧液1 kgにつき0.024 g以下,果実及び野菜にあっては浸漬液又は噴霧液1 kgにつき0.0048 g以下でなければならない.
過酸化水素釜揚げしらす及びしらす干しにあってはその1 kgにつき0.005 g以上残存しないように使用しなければならない.その他の食品にあっては,最終食品の完成前に過酸化水素を分解し,又は除去しなければならない.
高度サラシ粉
次亜塩素酸水最終食品の完成前に除去しなければならない.
次亜塩素酸ナトリウムごまに使用してはならない.
次亜臭素酸水食肉の表面殺菌の目的以外に使用してはならない.臭素として,食肉(食鳥肉を除く.)にあっては浸漬液又は噴霧液1 kgにつき0.90 g以下,食鳥肉にあっては浸漬液又は噴霧液1 kgにつき0.45 g以下でなければならない.
二炭酸ジメチル果実酒及び清涼飲料水(ミネラルウォーター類を除く.以下この目において同じ.)以外の食品に使用してはならない.果実酒(ぶどう酒を除く.)及び清涼飲料水にあってはその1 kgにつき0.25 g以下,ぶどう酒にあってはその1 kgにつき0.20 g以下でなければならない.
注:令和4年7月1日現在までに指定されている食品添加物を示した.

3.1 過酢酸製剤

製剤とは,公定書の製造基準において以下のように記載されている.

「別に規定するもののほか,添加物の製剤は,添加物(法第10条注1に基づき指定されたもの,天然香料,一般に食品として飲食に供されている物であって添加物として使用されるもの及び既存添加物名簿に記載されているものに限る.)及び食品(いずれも法第11条第1項に基づき規格が定められているものにあってはその規格に合うもの,水にあっては食品製造用水に限る.)以外のものを用いて製造してはならない.」

つまり,食品添加物の製剤とは,日本で使用が認められている食品添加物及び食品を混合したものである.具体的には,公定書において過酢酸製剤については以下の含量が規定されている.

「過酢酸(C2H4O3=76.05)12~15%,酢酸(C2H4O2=60.05)30~50%,過酸化水素(H2O2=34.01)4~12%及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(C2H8O7P2=206.03)1%未満又はこれにオクタン酸(C8H16O2=144.21)10%以下を含む.」

また,公定書において定義は以下とされている.

「本品は,過酢酸,「氷酢酸」,「過酸化水素」及び「1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸」又はこれに「オクタン酸」を含む水溶液である.「オクタン酸」を含むことにより,過オクタン酸が生成することがある.」

この定義の中で過酢酸だけ「」が付いていないことに気づいた読者がいるかもしれないが,公定書の通則に「物質名の前後に「」を付けたものは,成分規格・保存基準各条に規定する添加物を示す.」と規定されている.つまり,過酢酸自体の規格は,成分規格・保存基準各条に規定されていないが,「過酢酸製剤」として規格規定がされているということである.また,過酢酸については,公定書の製造基準に「過酢酸を製造する場合には,それぞれの成分規格に適合する氷酢酸又は氷酢酸を水で希釈した液及び過酸化水素を原料としたものでなければならない.」とされている.過酢酸製剤の製造に用いることができる「氷酢酸」,「過酸化水素」,「1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸」,「オクタン酸」は全て成分規格・保存基準各条に規定する物質である.一方,公定書の使用基準において,過酢酸と「1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸」は「過酢酸製剤として使用する場合以外に使用してはならない.」とされており,「オクタン酸」は「着香の目的で使用する場合及び過酢酸製剤として使用する場合以外に使用してはならない.」とされている.

3.2 次亜塩素酸水

公定書において,次亜塩素酸水は,以下に定義されている.

「本品は,塩酸又は塩化ナトリウム水溶液を電解することにより得られる,次亜塩素酸を主成分とする水溶液である.本品には,強酸性次亜塩素酸水(0.2%以下の塩化ナトリウム水溶液を有隔膜電解槽(隔膜で隔てられた陽極及び陰極により構成されたものをいう.以下この項において同じ.)内で電解して,陽極側から得られる水溶液をいう.),弱酸性次亜塩素酸水(適切な濃度の塩化ナトリウム水溶液を有隔膜電解槽内で電解して,陽極側から得られる水溶液又は陽極側から得られる水溶液に陰極側から得られる水溶液を加えたものをいう.)及び微酸性次亜塩素酸水(適切な濃度の塩酸又は適切な濃度の塩酸に塩化ナトリウム水溶液を加えて適切な濃度に調製した水溶液を無隔膜電解槽内で電解して得られる水溶液をいう.)がある.」

つまり,次亜塩素酸水として「強酸性次亜塩素酸水」,「弱酸性次亜塩素酸水」,「微酸性次亜塩素酸水」の3種類が規定されている.また,含量は「強酸性次亜塩素酸水」,「弱酸性次亜塩素酸水」,「微酸性次亜塩素酸水」それぞれ「有効塩素20~60 mg/kg」,「有効塩素10~60 mg/kg」,「有効塩素10~80 mg/kg」とされている.

食品添加物としての殺菌料は,加工助剤に分類されている.加工助剤とは,食品表示基準の中で「食品の加工の際に添加されるものであって,当該食品の完成前に除去されるもの,当該食品の原材料に起因してその食品中に通常含まれる成分と同じ成分に変えられ,かつ,その成分の量を明らかに増加させるものではないもの又は当該食品中に含まれる量が少なく,かつ,その成分による影響を当該食品に及ぼさないものをいう.」と定義されている.つまり,意図的に加えた加工助剤は,最終製品には残存していないことになり,表示を省略することができる.

4. 日持ち向上剤

日持ち向上剤は,殺菌効果を期待するものではなく,腐敗や変敗が始まるまでの期間を一定期間長引かせるために用いる食品添加物のことを指しているが,食品衛生法で日持ち向上剤としての分類はなく,食品添加物の業界が作成した区分である.これまで,主に家庭で調理されていた惣菜やサラダなど保存性の低い食品を流通できるように数日間の腐敗や変敗を抑えられる静菌作用などを持つ食品添加物を日持ち向上剤として活用しているが,保存料と比べると保存性を向上させる効果は低いようである.具体的には,グリシンやチアミンラウリル硫酸塩などが日持ち向上剤として使用されているようであるが,詳細については文献を参考にされたい(3, 4)3) 西宮 隆:月刊フードケミカル,35,10(2019).4) 脊黒勝也,久保田浩樹,佐藤恭子,穐山 浩:“食品・ 化粧品・医薬品への保存料・防腐剤の最適な配合法”,技術情報協会,2014, p. 277..また,本セミナー室の第3回と第4回で,微生物や真菌を抑制する食品添加物として,日持ち向上剤を含めた具体的な例が紹介される予定である.

5. その他

日本では亜硝酸塩類及び硝酸塩類として,「亜硝酸ナトリウム」,「硝酸カリウム」,「硝酸ナトリウム」が指定添加物であり,主に発色剤として使用されているが,先に紹介した通り,岩塩を用いて食品を保存する経験の中から,亜硝酸塩類及び硝酸塩類には,ボツリヌス菌をはじめとする多種類の細菌の生育を抑え,食肉製品の腐敗を防止する働きがあることが知られている.これらの指定添加物には,使用基準が設定されており,それぞれ「亜硝酸ナトリウムは,食肉製品,鯨肉ベーコン,魚肉ソーセージ,魚肉ハム,いくら,すじこ及びたらこ(スケトウダラの卵巣を塩蔵したものをいう.以下この目において同じ.)以外の食品に使用してはならない.亜硝酸ナトリウムは,亜硝酸根として,食肉製品及び鯨肉ベーコンにあってはその1 kgにつき0.070 gを超える量を,魚肉ソーセージ及び魚肉ハムにあってはその1 kgにつき0.050 gを超える量を,いくら,すじこ及びたらこにあってはその1 kgにつき0.0050 gを超える量を残存しないように使用しなければならない.」,「硝酸カリウムは,チーズ,清酒,食肉製品及び鯨肉ベーコン以外の食品に使用してはならない.硝酸カリウムの使用量は,硝酸カリウムとして,チーズにあっては原料に供する乳1 Lにつき0.20 g以下,清酒にあっては酒母1 Lにつき0.10 g以下でなければならない.また,硝酸カリウムは,亜硝酸根として,食肉製品及び鯨肉ベーコンにあってはその1 kgにつき0.070 g以上残存しないように使用しなければならない.」,「硝酸ナトリウムは,チーズ,清酒,食肉製品及び鯨肉ベーコン以外の食品に使用してはならない.硝酸ナトリウムの使用量は,硝酸ナトリウムとして,チーズにあっては原料に供する乳1 Lにつき0.20 g以下,清酒にあっては酒母1 Lにつき0.10 g以下でなければならない.また,硝酸ナトリウムは,亜硝酸根として,食肉製品及び鯨肉ベーコンにあってはその1 kgにつき0.070 g以上残存しないように使用しなければならない.」となっている.

一方,本稿の主題からは外れるが,1970年代頃から国内外で亜硝酸塩類及び硝酸塩類には発がん性があり危険であるとする主張が出されている(5)5) 石綿 肇,谷村顕雄:衛生化学,28,171(1982)..この問題については,人々の関心が高いことから,現在に至るまで,リスク評価機関等において,繰返し安全性に関する評価が行われ,公表されている.例えば,欧州食品安全機関(European food safety authority; EFSA)は,食品添加物としての硝酸ナトリウム及び硝酸カリウムの再評価に関する科学的意見書を公表しているが,入手できる情報からは,現在のAcceptable daily intake(ADI;ヒトが一生涯にわたって毎日摂取し続けても,健康への悪影響がないと考えられる1日当たりの物質の摂取量)を変更する科学的根拠は不十分であるとしている(6)6) A. Mortensen, F. Aguilar, R. Crebelli, A. Di Domenico, B. Dusemund, M. J. Frutos, P. Galtier, D. Gott, U. Gundert-Remy, C. Lambré et al.; EFSA Panel on Food Additives and Nutrient Sources added to Food (ANS): EFSA J., 15, e04787 (2017)..すなわち,これまで通りの食事を続けて問題ないということである.また,精度を高めた推定を行ったところ,食品添加物としての用途で使用された硝酸塩の人が摂取する量は,食品からの硝酸塩全体の摂取量の5%未満であると指摘している.実際,硝酸塩はレタスやほうれん草などの葉菜類に多く含まれる常在成分であることが知られている.

微生物成分由来の食品添加物

酵素など食品添加物の中には,微生物由来であるものも多い.本稿に該当する食品添加物のうち微生物成分由来のものとして,以下に2品目を例示するが,微生物に由来する食品添加物については,公定書の定義の中で,基原微生物の学名を記載することになっている.

1. ナイシン

平成21年3月2日より使用可能になった指定添加物であり,公定書では以下のとおりに定義されている.

「ラクトコッカス属細菌(Lactococcus lactis subsp. lactisに限る.)の培養液から得られた抗菌性ポリペプチド及び塩化ナトリウムの混合物である.主たる抗菌性ポリペプチドは,ナイシンA(C143H230N42O37S7)である.」

2. ε-ポリリシン

平成19年8月30日に第8版食品添加物公定書が作成された際に規格が新設された既存添加物であり,公定書では以下のとおりに定義されている.

「本品は,放線菌(Streptomyces albulusに限る.)の培養液から,イオン交換樹脂を用いて吸着,分離して得られたものである.成分は,ε-ポリリシンである.デキストリンを含むことがある.」

食品添加物の一日摂取量の調査

日本では,食品添加物の安全性を確保する目的で,市場に流通している食品中の食品添加物を実際にどの程度摂取しているかを把握するために,マーケットバスケット方式を用いた食品添加物一日摂取量調査を実施している(7)7) 久保田浩樹,熊井康人,滝川香織,佐藤睦実,工藤礼佳,安喰夏美,関根百合子,林千恵子,橋本博之,安永 恵ほか:日本食品化学学会誌,24, 94(2017)..マーケットバスケット方式とは,スーパー等で売られている食品を購入し,その中に含まれている食品添加物等の量を測り,その結果に食品の喫食量を乗じて摂取量を推定するものである.厚生労働省のホームページにあるマーケットバスケット方式による年齢層別食品添加物の一日摂取量の調査のページに約20年分の調査結果が公表されている(8)8) 厚生労働省:マーケットバスケット方式による年齢層別食品添加物の一日摂取量の調査,https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuten/sesshu/index.html, 2022..本稿の対象となっている保存料や防カビ剤については,多くの年に調査していることがわかる.例えば令和2年度には,10品目の保存料(安息香酸,ソルビン酸,デヒドロ酢酸,亜硫酸塩類,5品目のパラオキシ安息香酸エステル類,プロピオン酸)と16品目の着色料について一日摂取量調査を行っており,この調査には,国立医薬品食品衛生研究所食品添加物部や複数の地方衛生研究所などが参加した.令和2年度を含め,これまで実施した調査結果から,調査した食品添加物について安全性上問題となるような量が使用されていないことが確認されている.

国内外の食品添加物の違い:輸入食品監視業務による違反事例から

食品添加物の活用の歴史は長く,食文化の違いから我が国と諸外国とでは使用できる食品添加物に違いがある.日本で使用が認められているが他の国では使用できない食品添加物がある一方で,逆に諸外国では使用できるが日本では使用が認められていない食品添加物もある.具体的な違いについて網羅的に説明するには該当する物質が多すぎることから,本稿では厚生労働省で行っている輸入食品監視業務の結果に着目して,食品添加物の国内外の違いを紹介することにする.

厚生労働省に所属する検疫所では,輸入食品の安全確保等の為に輸入時の届出内容を審査し,必要に応じて輸入食品監視指導計画に基づいたモニタリング検査等を行い,日本の食品衛生法に適合しているかの輸入食品監視業務を行っている.その結果は,厚生労働省のホームページにある監視指導・統計情報のページに公表されている(9)9) 厚生労働省:監視指導・統計情報,https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/yunyu_kanshi/kanshi/index.html, 2022..例えば,令和2年度における輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果を見てみると,指定外添加物の使用及び添加物の使用基準に係る違反状況として以下の内容が報告されている.

「国別延べ件数では,中国23件(20.0%),ベトナム13件(11.3%),台湾13件(11.3%)と続いており,違反内容は,中国では二酸化硫黄の過量残存や指定外添加物であるサイクラミン酸の使用,ベトナムでは指定外添加物であるサイクラミン酸の使用,台湾ではアセスルファムカリウムの過量使用や指定外添加物であるヨウ素酸カリウムの使用が多かった.また,指定外添加物に係る違反の内容は,tert-butylhydroquinone(TBHQ)19件(36.5%),サイクラミン酸14件(26.9%),アゾルビン7件(13.5%)と続いており,添加物の使用基準違反の内容は,二酸化硫黄16件(25.4%),ソルビン酸8件(12.7%),ポリソルベート7件(11.1%)と続いている.」

違反の詳細については,同ホームページにある違反事例のページで公表されており,確認することができる.本稿に関連する食品添加物としては,1例目として令和2年度にパラオキシ安息香酸メチルが指定外添加物の使用違反として指摘されている.日本では,パラオキシ安息香酸エステル類として,エチル,プロピル,イソプロピル,ブチル,イソブチルの5品目が指定添加物として使用が認められているが,パラオキシ安息香酸メチルは,使用が認められていないためである.また,2例目の食品添加物の使用基準違反として令和3年度に生鮮ココナッツの安息香酸ナトリウムが指摘されている.上で述べたように,安息香酸ナトリウムは日本の指定添加物であるが,使用基準で使用可能な食品が限定されており,今回違反となった生鮮ココナッツは対象外であるため使用基準不適合となった.

以上,2件のみを例示したが,国内外で使用できる食品添加物の違いは,とても複雑である.また,この複雑さのために,食品添加物が国際間の食品取引における公正性の確保の障害になることがある.そのため,国連機関である国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が合同で設立したコーデックス委員会の食品添加物部会において,食品添加物の国際的な調和に向けた作業が進められている.

おわりに

本稿では,微生物に関わる日本の食品添加物を紹介するとともに,それらの添加物を安全にかつ消費者が安心できるための規制の制度について概説した.本シリーズ「食品添加物と微生物」の次回(第3回)では,微生物を抑制する食品添加物を,第4回では食品中のカビや酵母などの真菌を抑制するために使用する食品添加物について解説される予定となっているので,期待していただきたい.

Reference

1) 厚生労働省:第9版食品添加物公定書,https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000641285.pdf, 2018

2) 久保田浩樹,佐藤恭子,穐山 浩:FFIジャーナル,219, 248 (2014).

3) 西宮 隆:月刊フードケミカル,35,10(2019).

4) 脊黒勝也,久保田浩樹,佐藤恭子,穐山 浩:“食品・ 化粧品・医薬品への保存料・防腐剤の最適な配合法”,技術情報協会,2014, p. 277.

5) 石綿 肇,谷村顕雄:衛生化学,28,171(1982).

6) A. Mortensen, F. Aguilar, R. Crebelli, A. Di Domenico, B. Dusemund, M. J. Frutos, P. Galtier, D. Gott, U. Gundert-Remy, C. Lambré et al.; EFSA Panel on Food Additives and Nutrient Sources added to Food (ANS): EFSA J., 15, e04787 (2017).

7) 久保田浩樹,熊井康人,滝川香織,佐藤睦実,工藤礼佳,安喰夏美,関根百合子,林千恵子,橋本博之,安永 恵ほか:日本食品化学学会誌,24, 94(2017).

8) 厚生労働省:マーケットバスケット方式による年齢層別食品添加物の一日摂取量の調査,https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuten/sesshu/index.html, 2022.

9) 厚生労働省:監視指導・統計情報,https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/yunyu_kanshi/kanshi/index.html, 2022.

注1食品衛生法の改正に伴い,10条は12条となったが,現在の公定書の記載のままとする.