Kagaku to Seibutsu 60(12): 663-665 (2022)
農芸化学@High School
土壌中のケラチン分解細菌の発見羽毛を利用した新肥料開発に向けて
Published: 2022-12-01
本校の畜産科から排出されているニワトリの羽毛を窒素肥料として有効活用するために,校内の土壌中からケラチン分解細菌を見つけることを目的として研究を行った.その結果,土壌中からプロテアーゼ生産細菌を単離し,その中から目的のケラチン分解細菌を割り出し,属までを同定した.このことから,土壌中にケラチン分解細菌が存在すると結論づけた.本結果を踏まえ,窒素肥料の完成を目指しており,それが実現できれば,将来的に校内での循環型農業の一つのモデルができると考えている.
© 2022 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2022 公益社団法人日本農芸化学会
2020年の食鳥流通統計調査によると,肉用若鳥は7億2519万羽,重量で表すと216万3628 t処理されており(1)1) 農林水産省:令和2年食鳥流通統計調査結果,2021.,トリ羽毛が日本だけで年間1万t,世界的には10万t以上排出されている(2)2) 渡部邦彦:化学と生物,48, 821 (2010)..広島県内の養鶏場に聞き取り調査をしたところ,大型の養鶏場では羽毛の引き取りを回収業者に委託し,回収や処理を行っているが,小規模の養鶏場では現地で焼却処分や埋め立て処分を行っている.
本校でもニワトリを飼育しており,食肉加工時に羽毛が生じる.その羽毛は堆肥舎で牛の糞などと一緒に堆肥に混ぜられているが,有効に活用されているとは言えない.
羽毛は90%以上がケラチン様タンパク質で構成されている(3)3) 今田千秋,武本裕樹,小林武志,寺原 猛,山田勝久:海洋深層水研究,13, 25 (2012)..ケラチン繊維は他のタンパク質繊維,例えば絹と比較して,それを構成しているアミノ酸の種類が豊富であると言われている(4)4) 古賀城一:皮革科学,47, 205 (2002)..また,特定のアミノ酸が作物に良い効果を与えることが知られている.このような,羽毛の高タンパク質でアミノ酸の種類の豊富さを,窒素肥料として活用したいと考えた.
しかし,ケラチンは分子内および分子間ジスルフィド結合(S-S)によって不溶性かつ頑丈な組織構造の形成を可能にしており(4)4) 古賀城一:皮革科学,47, 205 (2002).,難分解性繊維であることから分解速度はかなり遅いことがわかっている(5)5) 上甲恭平:繊維と工業,62, 334 (2006)..
私たちは,ケラチンを分解する細菌を単離し,細菌量を高濃度にしたり,細菌の組み合わせを工夫したりすることにより,羽毛を自然分解に任せるよりも,効率的に分解させることで窒素肥料を作成できると考えた.
これまで,陸上微生物や好熱菌(2)2) 渡部邦彦:化学と生物,48, 821 (2010).,海洋由来の細菌(3)3) 今田千秋,武本裕樹,小林武志,寺原 猛,山田勝久:海洋深層水研究,13, 25 (2012).等,様々なケラチナーゼ生産微生物が報告されている.その中で,陸上微生物では,羽毛や羊毛などの難分解性ケラチンを完全に分解することは困難である(3)3) 今田千秋,武本裕樹,小林武志,寺原 猛,山田勝久:海洋深層水研究,13, 25 (2012)..私たちは,本校の土壌中に存在する羽毛を分解する細菌の利用,および単離した細菌を組み合わせることで羽毛を完全に分解する,またはそれと同程度分解する可能性があると考えた.
そこで,羽毛から窒素肥料を作成する初期段階として,校内の土壌中からケラチンを分解する細菌を単離および同定することを本研究の目的とした.
予備実験としてウマの毛1 gをだしパック(120 mm×110 mm)に詰め,校内の4地点に埋めた.研究開始時期にニワトリの羽毛を入手することができなかったため,代わりとして年中入手可能である本校の馬術部から供されるウマの毛を用いた(図1-①図1■プロテアーゼ生産細菌からケラチン分解細菌を見つける実験方法).
次に,土に埋めたウマの毛を2週間後に回収し,滅菌水にウマの毛を漬けて懸濁液を作成した.懸濁液は104倍に希釈した(図1-②図1■プロテアーゼ生産細菌からケラチン分解細菌を見つける実験方法).
希釈した懸濁液をプロテアーゼ生産細菌発見のためにスキムミルク培地に塗布して培養した(図1-③図1■プロテアーゼ生産細菌からケラチン分解細菌を見つける実験方法).
培養後,目視で区別できるコロニーをコロニーA~Gとし,それぞれを単離した(図1-④図1■プロテアーゼ生産細菌からケラチン分解細菌を見つける実験方法).プロテアーゼ生産細菌のなかからケラチン分解細菌を見つけるために,単離した細菌をウマの毛のみが炭素源となるよう調製した液体培地で培養した(図1-⑤図1■プロテアーゼ生産細菌からケラチン分解細菌を見つける実験方法).細菌が増殖すると液体培地は濁る.このとき,細菌が炭素源として使用できるのはウマの毛しかない条件で細菌の増殖が確認できた場合は,ウマの毛を分解して炭素源を取り出していると考えた.濁りが観察できた培養液を平板培地に塗布して継代培養を行った.
羽毛が確保できてからは羽毛を用いて実験Iと同じ内容の実験を行った.
ウマの毛を分解した細菌が羽毛にも有効かを調べるための実験を行った.ウマの毛のみが炭素源となるように調製した液体培地のうち,濁りが認められた培地から単離した細菌を使用し,羽毛と細菌の条件(a 羽毛あり,菌あり.b 羽毛なし,菌あり.c 羽毛あり,菌なし.d 羽毛なし,菌なし)を変えた液体培地で培養し,濁りを観察した(図1-⑥図1■プロテアーゼ生産細菌からケラチン分解細菌を見つける実験方法).実験IIに使用した液体培地は炭素源が羽毛のみになるように調製した.
コロニーC(後述)と,その後発見した炭素源が羽毛のみの液体培地を濁らせる細菌3種の計4種からDNAを抽出し,16SrDNA配列の前半部分をPCRによって増幅し,配列情報による細菌の属までの簡易同定を行った.
土壌への植菌の有無でどれほど羽毛が分解されるか検証実験を行った.炭素源が羽毛のみの液体培地を濁らせた4種の細菌を用いて,土壌の滅菌の有無と土壌への植菌の有無の条件で行った.
炭素源をウマの毛に限定した液体培地で培養したコロニーA~Gのうち,畑で採集されたコロニーCが濁りを発生させた.
また,1カ月経過したコロニーCの液体培地を観察したところ,ウマの毛は試験管内で崩壊していた(図2-ii図2■細菌によるウマの毛の分解(i: 分解前 ii: 分解後)と羽毛の分解実験結果(iiia 羽毛あり菌あり,b 羽毛なし菌あり,c 羽毛あり菌なし,d 羽毛なし菌なし)).
羽毛を用いて実験Iを行い,コロニーC以外に3種が炭素源を羽毛のみにした液体培地を濁らせた.
コロニーCの液体培地のウマの毛を羽毛に変えて実験を行った結果,“羽毛あり細菌あり”の条件で培養を行った液体培地に濁りが見られた(図2-iiia図2■細菌によるウマの毛の分解(i: 分解前 ii: 分解後)と羽毛の分解実験結果(iiia 羽毛あり菌あり,b 羽毛なし菌あり,c 羽毛あり菌なし,d 羽毛なし菌なし)).
コロニーCと,その後発見した炭素源が羽毛のみの液体培地を濁らせる細菌3種の計4種の細菌は,Enterobacter sp.が3種,およびChryseobacterium sp. 1種であることが明らかになった.
「滅菌した土壌+植菌なし」では羽毛の分解は確認できなかった.「滅菌した土壌+植菌あり」では羽毛の分解が確認できた.「滅菌しなかった土壌+植菌なし」では「滅菌した土壌+滅菌あり」と同じくらい羽毛を分解していた(図3図3■滅菌しなかった土壌への植菌による羽毛の分解結果中央).「滅菌しなかった土壌+植菌あり」が今回行った条件の中で一番羽毛を分解していた(図3図3■滅菌しなかった土壌への植菌による羽毛の分解結果右).