今日の話題

高温に応答して抑制的ヒストン修飾を除去する脱メチル化酵素植物はどのように高温の経験を記憶するのか?

Nagisa Miyajima

宮嶋

奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科バイオサイエンス領域

Tatsuya Hongo

本郷 達也

奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科バイオサイエンス領域

Toshiro Ito

伊藤 寿朗

奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科バイオサイエンス領域

Nobutoshi Yamaguchi

山口 暢俊

奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科バイオサイエンス領域

Published: 2023-01-01

植物は繰り返しやってくる高温の刺激に適応しながら生存している.特に高温にさらされた際に細胞を守る重要な役割を果たしているのが,HEAT SHOCK PROTEIN(HSP)というタンパク質である.このHSP遺伝子の発現は高温の刺激をうけた後に活性化し,上昇する.そして,翻訳された後に分子シャペロンとして機能する.立体的に複雑な高次構造が破壊されたタンパク質の修復やタンパク質の変性を抑制することによって,細胞を保護し,正常な機能に戻す.

しかし,高温の刺激がなくなった場合でも,しばらくの間はHSP遺伝子の発現が速やかに起こるように植物は適応した状態を維持している.生命の営みの設計図であるDNAの塩基配列は,高温にさらされても変わらないことから,植物の適応能力が保持し,記憶されるためには,塩基配列の変化を伴わずに特定の遺伝子の発現を制御して使い分けるメカニズムを指す「エピジェネティクス」という概念が重要であると考えられる.これまで,エピジェネティクスには,DNAそのもののメチル化やDNAを巻き取るタンパク質であるヒストンのコアに含まれない領域(ヒストンテール)のメチル化など,様々な部位の化学修飾が遺伝子の使い分けに関わることがわかっている(1)1) N. Yamaguchi: Front. Plant Sci., 12, 687416 (2021)..最近,我々はシロイヌナズナのヒストン脱メチル化酵素の働きによって,高温の経験が記憶されるエピジェネティックな仕組みを見つけたので,「今日の話題」として紹介する.

エピジェネティックな仕組みのうち,DNAのメチル化よりも,ヒストンのメチル化修飾の方が半減期は短い(2)2) N. Yamaguchi: Genes Genet. Syst., 96, 229 (2021)..一般的にDNAのメチル化の場合,世代を超えるような長期間の変化になる場合が多い.一方で,高温の経験を記憶する場合には,数日から数週間という単位で細かく変化させることが可能なヒストンのメチル化修飾の方が臨機応変に適応できると考えられる.ヒストンを構成する主要なタンパク質の1つであるヒストンH3タンパク質のコアに含まれない末端側のヒストンテール領域の27番目に位置するリジンが3つのメチル基によってトリメチル化(H3K27me3)されると遺伝子の発現が強く抑制される (図1a図1■シロイヌナズナのJMJによるH3K27me3の除去を介した高温記憶の制御(1)1) N. Yamaguchi: Front. Plant Sci., 12, 687416 (2021)..H3K27me3を取り除く脱メチル化酵素のJUMONJI(JMJ)というタンパク質はこれまでにシロイヌナズナで5つ同定されている(1)1) N. Yamaguchi: Front. Plant Sci., 12, 687416 (2021)..それらのシロイヌナズナの突然変異体では,様々な発生や分化に異常が出ることが報告されている(2)2) N. Yamaguchi: Genes Genet. Syst., 96, 229 (2021)..しかしながら,高温の経験を記憶する上でこのH3K27me3を除去するJMJタンパク質が必要であるかどうかは不明であった.

図1■シロイヌナズナのJMJによるH3K27me3の除去を介した高温記憶の制御

(a)ヒストン修飾の模式図.ヒストンテールの27番目のリジンがトリメチル化されると,遺伝子の発現は抑えられる.4つの脱メチル化酵素であるJMJ30, JMJ32, REF6, ELF6はこのメチル化修飾を除去する.(b)高温に応答した野生型とjmj四重変異体でのヒストン修飾の模式図.野生型では,高温に応答してJMJの活性により,HSP遺伝子座からH3K27me3が除去される.jmj四重変異体では,JMJの活性がないため,HSP遺伝子座からH3K27me3が除去されない.

まず,我々はjmj単一変異体だけでなく,様々な組み合わせで多重変異体を作出して,高温の刺激に適応できるかを探索した.その結果,JUMONJI30(JMJ30),JMJ32, EARLY FLOWERING 6(ELF6)/JMJ11, RELATIVE OF EARLY FLOWERING 6(REF6)/JMJ12の4つのJMJが機能しないjmj四重変異体は,高温の経験を記憶できなくなることがわかった.そのため,2度の高温を受けた野生型の植物に比べて,同じ高温を与えた四重変異体では光合成に関わるクロロフィル(葉緑素)の量,水分の含量,生存率が顕著に下がった(3)3) N. Yamaguchi, S. Matsubara, K. Yoshimizu, M. Seki, K. Hamada, M. Kamitani, Y. Kurita, Y. Nomura, K. Nagashima, S. Inagaki et al.: Nat. Commun., 12, 3480 (2021).

これらのJMJタンパク質が高温の経験を記憶させる分子基盤を解明するため,我々は高温の有無で野生型とjmj四重変異体において遺伝子発現とH3K27me3の変化がどのように対応するのかを解析した.RNAシーケンスにより遺伝子発現を網羅的に解析すると,野生型とjmj四重変異体の間で142個の遺伝子が発現変動することがわかった.このうち,jmj四重変異体において8つのHSP遺伝子の発現が減少していた.特に,これらの遺伝子がコードするタンパク質は,分子量が15 kDaから30 kDaの低分子量HSPが多かった.次に,クロマチン免疫沈降法で,H3K27me3が導入されている遺伝子を網羅的に同定した.高温の刺激を与えると,野生型ではHSP22HSP17.6C遺伝子のコード領域にあるH3K27me3の修飾は取り除かれ,遺伝子発現の抑制が解かれる.この抑制解除状態は,少なくとも2~3日間は維持されており,これが記憶の継続期間と概ね対応する.一方で,jmj四重変異体では,高温の刺激をあたえても,HSP22HSP17.6C遺伝子に含まれるH3K27me3の修飾は全く取り除かれていなかった.このことから,JMJがこれら2つの遺伝子からH3K27me3を除去した状態を維持することが,高温の経験を記憶するのに必要であることを裏付けられた (図1b図1■シロイヌナズナのJMJによるH3K27me3の除去を介した高温記憶の制御(3)3) N. Yamaguchi, S. Matsubara, K. Yoshimizu, M. Seki, K. Hamada, M. Kamitani, Y. Kurita, Y. Nomura, K. Nagashima, S. Inagaki et al.: Nat. Commun., 12, 3480 (2021).

jmj四重変異体では高温の刺激に非常に弱くなっていたことから,JMJの活性を高くした場合には,逆に高温に強い耐性を示すと予想される.興味深いことに,高温に応答してJMJ30の発現レベルは増加することがわかっている(3)3) N. Yamaguchi, S. Matsubara, K. Yoshimizu, M. Seki, K. Hamada, M. Kamitani, Y. Kurita, Y. Nomura, K. Nagashima, S. Inagaki et al.: Nat. Commun., 12, 3480 (2021)..そこで,エストラジオールという植物には存在しないホルモンに応答して,JMJ30の発現を誘導することができるようにしたシロイヌナズナの形質転換体を作出し,植物の高温の刺激に対する応答の変化を調べた.その結果,JMJを誘導すると,誘導しない場合に比べて,高温の刺激に対して非常に強くなり,クロロフィル量と水分含量の減少を防ぐことができ,生存率が顕著に上がることがわかった.さらにこの生存率の上昇は,H3K27me3の減少が続くことによるHSP22HSP17.6C遺伝子の発現の増加が原因であった.jmj四重変異体の解析結果も踏まえると,JMJがこれら2つの遺伝子からH3K27me3を除去した状態を維持することが,高温の経験を記憶するのに必要十分であることがわかった(3)3) N. Yamaguchi, S. Matsubara, K. Yoshimizu, M. Seki, K. Hamada, M. Kamitani, Y. Kurita, Y. Nomura, K. Nagashima, S. Inagaki et al.: Nat. Commun., 12, 3480 (2021).

高温に応答した遺伝子発現を定量的に予測するには,シンプルな数理モデルが役に立つ.これまでに低温に応答したヒストン修飾によるエピジェネティックな制御と遺伝子発現の関係はモデル化されていたものの(4)4) A. Satake & Y. Iwasa: J. Theor. Biol., 302, 6 (2012).,高温を対象としたモデルはなかった.そこで,HSP22遺伝子のパターンを例として,ヒストンの修飾状態を数理モデル化し,高温に応答した遺伝子の発現変化を予測した.HSP22遺伝子には,遺伝情報がコードされている翻訳配列であるエキソン全体にH3K27me3の修飾が存在する.HSP22遺伝子の全長は約500bpの長さであり,DNAを巻き取っているヒストンを3つ含むと考えられる.そこに,遺伝子を抑制するH3K27me3の修飾がつく場合(R),修飾がない場合(U),および遺伝子を活性化する修飾がつく場合(A)の3つの状態に分けられ,その遷移確率が微分方程式化された.その方程式を用いて,HSP22遺伝子の発現を予測すると,野生型と比べてjmj四重変異体ではその発現量が低くなることがわかった(3)3) N. Yamaguchi, S. Matsubara, K. Yoshimizu, M. Seki, K. Hamada, M. Kamitani, Y. Kurita, Y. Nomura, K. Nagashima, S. Inagaki et al.: Nat. Commun., 12, 3480 (2021).

最後に,実際に自然界で起こっているような変動する高温条件でも,JMJを介したH3K27me3の除去で高温に適応しているかどうかを解析した.まず,気象庁が公表しているアメダスのデータに基づいて,気温30°C以上の日の2日後に再び30°C以上の日が来るという日本各地の高温条件を小型培養器によって再現された.解析に用いた地点の緯度に関わらず,野生型よりもjmj四重変異体の方が高温に対する適応能力が低下し,クロロフィルの量と水分の含量が減少した.奈良の温度条件で生育した野生型とjmj四重変異体を用いて,RNAシーケンスにより遺伝子発現を網羅的に解析すると,実験室で生育した場合よりも多くのHSP遺伝子の発現が減少していた.これらのHSP遺伝子群のうち,HSP22HSP17.6C遺伝子に絞ってH3K27me3の蓄積が解析された.高温の刺激を与えると,野生型ではHSP22HSP17.6C遺伝子のコード領域にあるH3K27me3の修飾は取り除かれ,遺伝子発現の抑制が解かれた.一方で,jmj四重変異体では,H3K27me3を取り除いた状態を維持できず,HSP22遺伝子などを活性化するのが遅れることがわかった.以上の解析から,自然界で起こる変動的な高温の条件でもJMJが生存に必要であることがわかり,JMJがHSP22などの遺伝子からH3K27me3を除去した状態で維持することで適応をしている可能性が示唆された(3)3) N. Yamaguchi, S. Matsubara, K. Yoshimizu, M. Seki, K. Hamada, M. Kamitani, Y. Kurita, Y. Nomura, K. Nagashima, S. Inagaki et al.: Nat. Commun., 12, 3480 (2021).

今後,どのように植物が高温を記憶するか,その分子基盤の全容を明らかにするためには,JMJによりH3K27me3が除去される時間や場所を詳しく調べるとともに,他のヒストン修飾を中心としたエピジェネティックな制御機構との関わりを明らかにする必要があるだろう.実際に,jmj四重変異体では,今回話題にした抑制的なヒストン修飾だけでなく,促進的なヒストン修飾も変化することが報告されている(5)5) N. Yamaguchi & T. Ito: Biomolecules, 11, 852 (2021)..エピジェネティックな制御機構による高温記憶の仕組みが明らかにされれば,様々な植物における高温記憶の仕組みの理解に繋がるだけでなく,農業や園芸の分野において高温耐性を人為操作する技術開発の基盤になることが期待される.

Reference

1) N. Yamaguchi: Front. Plant Sci., 12, 687416 (2021).

2) N. Yamaguchi: Genes Genet. Syst., 96, 229 (2021).

3) N. Yamaguchi, S. Matsubara, K. Yoshimizu, M. Seki, K. Hamada, M. Kamitani, Y. Kurita, Y. Nomura, K. Nagashima, S. Inagaki et al.: Nat. Commun., 12, 3480 (2021).

4) A. Satake & Y. Iwasa: J. Theor. Biol., 302, 6 (2012).

5) N. Yamaguchi & T. Ito: Biomolecules, 11, 852 (2021).