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春ウコンに含まれるアストロサイト分化誘導促進物質の同定Coronarin Dが神経幹細胞からアストロサイトへの分化を促進する

Satoshi Otsuka

大塚 悟史

早稲田大学先進理工学部化学・生命化学科

早稲田大学理工学術院総合研究所

現所属:東京大学大学院医学系研究科・医学部

Yoichi Nakao

中尾 洋一

早稲田大学先進理工学部化学・生命化学科

早稲田大学理工学術院総合研究所

Published: 2023-01-01

超高齢化社会を迎えているわが国においては,アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の増加が問題となり,その対策は急務である.また,加齢に伴って生じる神経変性疾患への対策には,治療薬の開発に加え,日々摂取する食品もしくはサプリメントを通した予防的な対策にも期待が寄せられている.

脳内の海馬や側脳室といった一部の領域に存在する神経幹細胞は,必要に応じて神経活動を担うニューロンやその機能を支持するグリア細胞などに分化することで,これらの神経系細胞を供給しながら中枢神経系の機能バランスを保っている.近年,グリア細胞の一種である星状膠細胞(アストロサイト)が,アルツハイマー病の原因タンパク質の一つであるアミロイドβの分解に関わっていることが報告された(1)1) K. Kidana, T. Tatebe, K. Ito, N. Hara, A. Kakita, T. Saito, S. Takatori, Y. Ouchi, T. Ikeuchi, M. Makino et al.: EMBO Mol. Med., 10, e8184 (2018)..また,アストロサイトの機能異常やアストロサイト数の減少がアルツハイマー病などの神経変性疾患の発症に関与することも明らかになりつつある(2)2) C. Li, R. Zhao, K. Gao, Z. Wei, M. Y. Yin, L. T. Lau, D. Chui & A. C. Yu: Curr. Alzheimer Res., 8, 67 (2011)..このような背景から,機能異常に陥ったアストロサイトの機能回復を標的とした神経変性疾患治療薬の開発が期待されている.さらに,予防医学的観点に立ち「正常なアストロサイトそのものの数を増加させる」ことを目的とした食品由来生物活性成分の探索も進められてきたが,フラボンの一種で食用植物などに含まれるluteolin(3)3) M. Achour, F. Ferdousi, K. Sasaki & H. Isoda: Front. Cell Dev. Biol., 9, 753279 (2021).や,ローヤルゼリーに含まれるAMP-N1-oxide(4)4) N. Hattori, H. Nomoto, H. Fukumitsu, S. Mishima & S. Furukawa: Biomed. Res., 28, 295 (2007).,パッションフルーツの種子に含まれるpiceatannol(5)5) D. Arai, R. Kataoka, S. Otsuka, M. Kawamura, H. Maruki-Uchida, M. Sai, T. Ito & Y. Nakao: Food Funct., 7, 4432 (2016).など,その報告例は限られている.本稿では,筆者らが春ウコン中のアストロサイト分化促進活性物質として同定したcoronarin Dについて紹介したい.

春ウコン(Curcuma aromatica)(図1図1■春ウコンに含まれる生物活性成分左)は,中国やインドなどのアジアを中心に,2000年以上も前から漢方や生薬として広く親しまれてきた食材である.春ウコンの有効成分としてはスパイスや着色剤として知られるcurcuminの機能解析が主であるが,抗炎症・抗酸化作用など多様な生物活性が報告されており(6)6) G. K. Jayaprakasha, L. J. Rao & K. K. Sakariah: Food Chem., 98, 720 (2006).,神経変性疾患などに対しても神経幹細胞の増殖およびニューロンへの分化促進活性などによる神経保護作用が期待されている(7)7) S. J. Kim, T. G. Son, H. R. Park, M. Park, M. S. Kim, H. S. Kim, H. Y. Chung, M. P. Mattson & J. Lee: J. Biol. Chem., 23, 14497 (2008)..しかしながら,その他の有効成分についての研究,特に神経保護作用に関する機能解析は限定的であるため,筆者らは,アストロサイトへの分化誘導促進活性を指標としてcurcumin以外の春ウコン由来生物活性成分を探索することとした.

図1■春ウコンに含まれる生物活性成分

本探索研究においては,マウス胚性幹(ES)細胞から分化誘導した神経幹細胞を用いたin vitro神経分化誘導システムを用い,神経幹細胞からアストロサイトへの分化誘導促進活性成分の探索を行った.春ウコン抽出物から溶媒分画や各種のクロマトグラフィーによって生物活性成分の精製を行い,二環性ジテルペンのラブダン骨格を有する3種類の化合物を活性本体として得ることができた.これらの生物活性成分についてMSおよびNMRなどの各種スペクトル解析を行った結果,それぞれ既知のcoronarin CおよびD,(E)-labda-8(17),12-diene-15,16-dialと同定することができた(図1図1■春ウコンに含まれる生物活性成分右)(8)8) S. Otsuka, M. Kawamura, S. Fujino, F. Nakamura, D. Arai, N. Fusetani & Y. Nakao: J. Agric. Food Chem., 70, 3300 (2022)..3つの化合物の活性を比較した結果,もっとも顕著にアストロサイトへの分化誘導を促進したcoronarin Dでは,コントロールと比較してアストロサイトへの分化率が約3倍に増加した.一方,coronarin Cおよび(E)-labda-8(17),12-diene-15,16-dialは,類似の部分構造を共有しているにもかかわらずcoronarin Dと比較して弱い活性しか示さなかった.以上の構造–活性相関解析の結果,アストロサイトへの分化促進活性には共通の二環性部分(図1図1■春ウコンに含まれる生物活性成分,青枠部分)と,15-ヒドロキシ-Δ12-γ-ラクトン部分の二重結合の位置が重要であることが示唆された(図1図1■春ウコンに含まれる生物活性成分,赤丸部分).

Coronarin Dの作用メカニズム解析のため,神経幹細胞からアストロサイトへの分化誘導過程で活性化されることが知られているJAK/STATシグナル経路(9)9) M. R. Freeman: Science, 330, 774 (2010).に対するcoronarin Dの影響を調べた.JAK/STATシグナル経路において,転写因子STAT3は活性型のJAK分子によりリン酸化を受ける(pSTAT3)と,核外から核内へ移行してグリア細胞線維性酸性タンパク質(GFAP)などのアストロサイトマーカー遺伝子の転写を促進することが知られている(10)10) S. Hong & M. R. Song: PLoS One, 9, e86851 (2014)..フローサイトメトリーを用いたpSTAT3陽性細胞率の分析の結果,coronarin Dはコントロール条件に比べてpSTAT3陽性細胞率を大幅に増加させたことから,coronarin DはJAK/STATシグナル経路を介してアストロサイトへの分化誘導を促進している可能性が示唆された(図2図2■in vitro神経分化誘導時のcoronarin DのpSTAT3陽性細胞率増加活性).

図2■in vitro神経分化誘導時のcoronarin DのpSTAT3陽性細胞率増加活性

左:コントロール条件とcoronarin D添加条件におけるpSTAT3のフローサイトメトリー解析結果,右:各条件におけるpSTAT3陽性細胞率,n=3, means±S.D., ** p<0.01 vs. コントロール.

今回筆者らは春ウコン由来のアストロサイト分化促進物質として,coronarin Dを同定した.食事やサプリメントを通して本化合物を継続的に摂取することで,加齢による神経変性疾患に対する予防効果が期待できるとともに,食経験を通して安全性が確認されている天然化合物として医薬品の開発への応用も期待される.今後はJAK/STATシグナル経路に関与する遺伝子群に注目してcoronarin Dの精密な作用メカニズム解析を行うとともに,ヒト人工多能性幹(iPS)細胞由来の神経幹細胞などを用いたヒト細胞におけるcoronarin Dの活性の確認や,動物モデルを用いたin vivo活性の評価を行うことで,医薬品やサプリメントとしての利用に向けた知見を得る必要がある.

Reference

1) K. Kidana, T. Tatebe, K. Ito, N. Hara, A. Kakita, T. Saito, S. Takatori, Y. Ouchi, T. Ikeuchi, M. Makino et al.: EMBO Mol. Med., 10, e8184 (2018).

2) C. Li, R. Zhao, K. Gao, Z. Wei, M. Y. Yin, L. T. Lau, D. Chui & A. C. Yu: Curr. Alzheimer Res., 8, 67 (2011).

3) M. Achour, F. Ferdousi, K. Sasaki & H. Isoda: Front. Cell Dev. Biol., 9, 753279 (2021).

4) N. Hattori, H. Nomoto, H. Fukumitsu, S. Mishima & S. Furukawa: Biomed. Res., 28, 295 (2007).

5) D. Arai, R. Kataoka, S. Otsuka, M. Kawamura, H. Maruki-Uchida, M. Sai, T. Ito & Y. Nakao: Food Funct., 7, 4432 (2016).

6) G. K. Jayaprakasha, L. J. Rao & K. K. Sakariah: Food Chem., 98, 720 (2006).

7) S. J. Kim, T. G. Son, H. R. Park, M. Park, M. S. Kim, H. S. Kim, H. Y. Chung, M. P. Mattson & J. Lee: J. Biol. Chem., 23, 14497 (2008).

8) S. Otsuka, M. Kawamura, S. Fujino, F. Nakamura, D. Arai, N. Fusetani & Y. Nakao: J. Agric. Food Chem., 70, 3300 (2022).

9) M. R. Freeman: Science, 330, 774 (2010).

10) S. Hong & M. R. Song: PLoS One, 9, e86851 (2014).