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微生物ゲノム上の反復配列の機能とその生物学的意義メタゲノム解析からひも解く微生物の環境適応戦略

Hikaru Suenaga

末永

産業技術総合研究所細胞分子工学研究部門

Published: 2023-01-01

反復配列は,真核生物,特にヒトを含む進化した動植物のゲノム上にしばしば見られる.比較的良く知られている例としては,3塩基単位の繰り返し配列(トリプレット・リピート)が異常に伸張することによって起こる一群の遺伝性疾患,トリプレット病がある.ところが,ヒトゲノムの50%以上を占めるといわれる反復配列のうち,機能が明らかになっているものは極めてわずかであり,そのほとんどは明確な働きがあるかどうかすら不明である.特に遺伝子間領域(ノンコーディング領域)の反復配列は,存在自体が見落とされがちで,このため反復配列は長い間ジャンク(がらくた)DNAと見なされてきた(1)1) R. Gemayel, M. D. Vinces, M. Legendre & K. J. Verstrepen: Annu. Rev. Genet., 44, 445 (2020)..原核生物については,一部の病原菌を中心に,反復配列およびその繰り返し数と病原性との関係が明らかにされてきた.たとえば,髄膜炎菌のNeisseria meningitidisは反復配列(TAAA)n,呼吸器感染症の起因菌Moraxella catarrhalisでは反復配列(AGAT)nの繰り返し数の差異によって,それぞれの細菌株で病原性の違いが生じることが報告されている.しかしながらこれらは例外で,真核生物の場合と同様,依然としてゲノム配列中の反復配列の大部分は機能不明である.現に,1998年と2014年に微生物の反復配列に関する優れた総説が報告されているが,この間の次世代シーケンサーの技術革新にともなう微生物ゲノム配列の決定数の著しい増加に比べると,反復配列の発見と解析の進展は微々たる状況であるといえる(2, 3)2) A. van Belkum, S. Scherer, L. van Alphen & H. Verbrugh: Microbiol. Mol. Biol. Rev., 62, 275 (1998).3) K. Zhou, A. Aertsen & C. W. Michiels: FEMS Microbiol. Rev., 38, 119 (2014)..本稿においては,最近,メタゲノム配列中に偶然に発見された反復配列について,微生物の環境適応機構を考察するうえで興味深い性質が明らかにされたので紹介したい.

反復配列は,微生物ゲノム配列中の遺伝子内領域・遺伝子間領域を問わずあらゆる部位で発見されてきたし,それはメタゲノム配列においても例外ではない.筆者らは,これまでにメタゲノム手法を駆使し,芳香環変換酵素の網羅的な取得と解析を行ってきた(4)4)末永 光,宮崎健太郎:化学と生物,48, 100 (2010)..芳香族化合物は,生物にとって毒性を示すものが多く安定な化合物であるので,環境中においてその残留性が問題になっている.一方で,有害であるそれらの化合物を分解資化する微生物も数多く存在しているため,芳香族化合物を多量に含む環境を対象に,難培養性微生物を含めたこれらの分解遺伝子群の構造や機能を詳細に解析してきた.その過程において,芳香環開裂酵素であるカテコール2,3-ジオキシゲナーゼ(C23O)遺伝子の上流に存在する,5′-T(G/A)ACATG(A/C)T-3′からなる連続した9塩基ユニットの縦列反復配列(Metagenomic Tandem Repeat: MTRnとよぶことにする)と,その繰り返しの多型(n=3, 4, 5)を偶然に発見した(図1A図1■Metagenomic Tandem Repeat: MTRnの構造と機能(5)5) H. Suenga, T. Matsuzawa & T. Sahara: FEMS Microbiol. Ecol., 98, 1 (2022)..MTRnの配列構造からの機能予測は困難であったため,人工合成したMTRnを含むC23O遺伝子をプラスミドにクローニングし,大腸菌において異種発現することを試行してみた.その結果,MTRnの繰り返し数の相違によって,大腸菌株が示すC23Oの酵素活性が変化するという,興味深い生命現象が示された(図1B図1■Metagenomic Tandem Repeat: MTRnの構造と機能).本現象のメカニズムについて解析を行ったところ,この差異は,MTRnが付加することによって生じたmRNAの構造の安定性と翻訳効率の差異に起因することが明らかになった.さらに,異種発現実験により,大腸菌以外の類縁の宿主や酵母においても,またC23O以外の遺伝子においても同様の現象が確認されたことより,本配列は,生物において汎用的に機能する遺伝子発現調節システムであることが示唆された.

図1■Metagenomic Tandem Repeat: MTRnの構造と機能

MTRnの繰り返し数の相違によって下流に存在するC23O遺伝子の発現量に違いが生じていることがわかる.

それでは,本反復配列の生物学的な意義・役割は何であろうか? 本配列は,芳香環を多量に含む環境のメタゲノム配列中において,C23O遺伝子の上流に存在し,その遺伝子発現量をコントロールしていることより,芳香環中間代謝産物のなかでも比較的毒性の強いカテコール化合物の分解を促進するために機能していることが示唆される.つまり本反復配列は,生物にとっては毒と成り得る芳香族化合物が豊富に存在している,宿主にとってはある種の極限的な環境において発動している環境適応機構のひとつであると考えられる.ここで,微生物の環境適応機構については,(1)プラスミドやトランスポゾンなどの可動性遺伝因子による外部からの新規遺伝子の獲得,(2)既存遺伝子塩基配列の突然変異による酵素機能の上昇,が一般的に知られている.事実,本稿に登場しているC23O遺伝子についてもこの例に漏れない.詳細は既報(4, 6)4)末永 光,宮崎健太郎:化学と生物,48, 100 (2010).6)末永 光:化学と生物,53, 488 (2015).に譲るが,MTRnが発現制御しているC23O遺伝子は,宿主をカテコールの毒性から守る,携帯型解毒装置とも言える「解毒プラスミド」上に存在している.なおかつ,解毒プラスミド上のC23O遺伝子自体にも多様な多型が存在しており,カテコール分解活性が高いC23O遺伝子グループが最も優占していた.このように,反復配列は,環境中に棲息する微生物が保有する環境適応機構であると考えられ,微生物は過酷な環境で生存するために,(1)可動性遺伝因子,(2)突然変異,(3)反復配列と,二重,三重にその対応策を講じていることが推察される.公共のデータベースには様々な生物のC23O遺伝子が登録されているが,今のところそれらの遺伝子周辺にはMTRn配列は見つかっていない.しかしながら,MTRn配列自体は複数種の微生物ゲノム上の遺伝子間領域において見つかっており、下流に存在する遺伝子の種類も様々であるが、それらの発現調節と宿主微生物の生育に関与している可能性は十分に考えられる.

ここで繰り返しになるが,MTRn配列の起源はメタゲノムである.つまり今回発見したMTRnは,由来生物種が正確には不明ながらも,原核生物である大腸菌および真核生物である酵母の遺伝子発現システム上で,遺伝子発現をコントロールする機能を発揮したということである.このことは,MTRnは微生物にとどまらず,動物や植物など幅広い宿主生物においても同様の現象をもたらす可能性が高いことを強く示唆している.つまり,タンパク質の大量発現や遺伝子発現のファインチューニングのための,新規な合成生物学的装置となる可能性をも秘めており,バイオテクノロジーへの転用も期待できる(7)7) N. S. McCarty & R. Ledesma-Amaro: Trends Biotechnol., 37, 181 (2019).

これまで微生物ゲノム配列中の反復配列,特に遺伝子間領域の反復配列については,微生物の機能や生理に直接関与しないために,見過ごされてきた感があった.また,ショートリードのシーケンス解析においては,ゲノムアセンブリの過程でキャンセルされてしまうこともあるかもしれない.最近,次世代シーケンサーPacBioシステムのHiFiリードのような精度の高いロングリードの配列決定と,メタゲノム配列に最適化されたアセンブラーの開発などにより,技術的にはメタゲノム中に存在する反復配列をも正確に見出すことができるようになってきた.微生物ゲノムあるいはメタゲノム中には,まだまだMTRnのような機能性の反復配列が潜んでいる可能性が十分にあることが予想される.つまり,これまで微生物遺伝子資源として重要視されてこなかったノンコーディング領域についても,今後新たな探索領域としての拡大が期待できるのではないだろうか.

Reference

1) R. Gemayel, M. D. Vinces, M. Legendre & K. J. Verstrepen: Annu. Rev. Genet., 44, 445 (2020).

2) A. van Belkum, S. Scherer, L. van Alphen & H. Verbrugh: Microbiol. Mol. Biol. Rev., 62, 275 (1998).

3) K. Zhou, A. Aertsen & C. W. Michiels: FEMS Microbiol. Rev., 38, 119 (2014).

4)末永 光,宮崎健太郎:化学と生物,48, 100 (2010).

5) H. Suenga, T. Matsuzawa & T. Sahara: FEMS Microbiol. Ecol., 98, 1 (2022).

6)末永 光:化学と生物,53, 488 (2015).

7) N. S. McCarty & R. Ledesma-Amaro: Trends Biotechnol., 37, 181 (2019).