Kagaku to Seibutsu 61(1): 46-48 (2023)
農芸化学@High School
サボテンの刺座の配列は規則的なのか
Published: 2023-01-01
筆者らは10品種のサボテン刺座の配列を,真上と真横から見た座標で調べた結果,個体ごとに刺座の配列は異なっていた.本結果を受け,外形が円柱形で刺座配列に規則性があるように見えるブリンチュウに研究対象を絞った.個体ごとの歪みの補正を行うと,刺座が頂点から左右に螺旋を描いて共有刺座で交差しながら下方に配列しており,ブリンチュウ固有の螺旋方程式で示すことができることを明らかにした.本結果により,他のサボテン種でも刺座の配列を螺旋方程式で説明できる可能性を示した.
© 2023 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2023 公益社団法人日本農芸化学会
学校の研修で筑波実験植物園を訪問した際,温室内に展示されている複数の品種において,サボテンの刺座の配列を観察したところ,螺旋を描いて配列しているように見受けられた.実際多くの植物において,規則的な配列が確認されている.ヒマワリの種はフィボナッチ数列に従って配列している(1)1) 東川和夫:“フィボナッチ数列と黄金比—ひまわりの種の配列—”,話題源数学,東京法令,1989, pp. 356–359..また荒谷ほかは,ダイオウマツとアカマツ,クロマツとの比較において,いずれも松毬の鱗片は根元から螺旋を描いて配列しており,左回りに5枚と右回り8枚の鱗片で同じ鱗片(共有鱗片)で交差すること,ダイオウマツとアカマツ,クロマツで鱗片が描く螺旋の方程式が異なることを示している(2)2) 荒谷優太,石田 薫,北野彩華,平岩尚樹,廣瀬友佳,赤塚千春,河内 遥,中川潤哉,山本彩楓:化学と生物,52, 555 (2014) ..そこで,まだ研究されていない,サボテン品種の刺座の配列に着目した研究を行うことにした.サボテンの刺座の配列を調べて,螺旋方程式で示すことができるような規則性がないかどうか,品種ごとに比較することを目的とした.
以下に示す10品種のサボテンを測定対象とした.ブリンチュウ(Pachycereus pringlei),キンコウマル(Parodia leninghausii),キンセイカク(Pilosocereus pachycladus),クロエボシ(Opuntia rubescens),ライチョウマル(Mammillaria jonstonii var.sancarlensis),ダイフクマル(Mammillaria perbella),ムラサキタイヨウ(Echinocereus rigidissimus var,rubescens),シンテンチ(Gymnocalycium saglionis),フクロクリュウジンボク(Myrtillocactus geometrizans),エイカンマル(Notocactus magnificus).
サボテンを真上から見たときの軸の中央部の頂点を原点とし,原点と1つ目の共有刺座を結ぶ線分をx軸,これに直角な線分(鉛直面)をy軸とし,原点と1つ目の共有刺座間の距離を1として,左回りと右回りに,それぞれの刺座の位置の座標と刺座間の角度θを求めた.また,サボテンを真横から見て,頂点(原点)から真下に伸ばした直線をz軸とし,刺座の高さを個体の最下部の刺座まですべて測定した(図1図1■刺座の水平面および鉛直面の位置の測定).その結果,個体によって刺座数は異なっていることが明らかとなった.
測定した座標から,n本目の刺座における螺旋方程式を,左回りと右回りのそれぞれで求めた.x-y平面では,半径r,中心角θとすると,ブリンチュウの場合,上方から下方に向けて半径rも中心角θも大きくなっていき,極方程式r=aθと示された(アルキメデスの螺旋).極方程式は,x-y平面における螺旋の形を表している.高さ方向については,下方の刺座ほど高さzは小さくなり,z=bnと表せる.この2つを合わせて螺旋方程式という.
刺座ごとのaの値をそれぞれのrとθの値から求め,すべての刺座のaの値の近似曲線を引いてaの値を求めた.bは刺座ごとの高さzを,共有刺座までの高さを1として,すべての刺座のbの値の近似直線を引いて求めた.
測定の結果,同じ種であっても刺座の配列は個体によって異なっており,一つの方程式として示すことができるような規則性を示さなかった.
規則性を示さないのは,個々のサボテンの歪みを考慮していないからではないかと考え,外形が円柱形で刺座配列に規則性があるように見えるブリンチュウに着目して歪みを測定した.原点と第1刺座を結ぶ直線を引き,それを下方に延長する.第2刺座以降,この直線から左右にずれがある場合,その距離(mm)を測定して,実際の刺座の位置を水平方向に移動させて補正し,これを本来の理想的な配置として,刺座配列の規則性の有無をブリンチュウ8個体で測定した.青丸の座標の刺座が右側に歪んでいれば,軸を中心として左方向に赤丸の座標へ修正する(図2図2■歪みの修正).これによって,隣接する緑丸との中心角θの値が小さくなり,それに伴ってこの刺座のaの値も変化する.
図3図3■ブリンチュウ1の歪みを補正した刺座配列に,例として,歪みを補正したブリンチュウ1の刺座配列を示す.ブリンチュウ1の刺座は17であるが,個体によって刺座の数は異なっていた.刺座は上方中央の頂点(原点)から,左回りと右回りに螺旋を描いて配列し,共有刺座で出会いながら下方に伸びていることが判明した.
A: 上から見た図.B: 横から見た図.軸は図1図1■刺座の水平面および鉛直面の位置の測定と同じ.
ブリンチュウ1を例にとると,n=2のときの刺座の座標の測定値a,bと,歪みの値をもとにしてx-y平面上で座標を修正したaの値は表1表1■ブリンチュウ1のn=2の測定値と,歪み修正値のとおりである.
測定値 | 修正値 | |
---|---|---|
左回り | a=0.012 b=−0.202 | a=0.013 |
右回り | a=0.012 b=−0.205 | a=0.013 |
歪み | 2.84 mm | 0 |
すべての刺座の測定値a,bを用いてブリンチュウ1の刺座座標の近似値を求めるとaの値に違いが生じるが,歪みを修正したaの値を用いるとよく一致する(表2表2■ブリンチュウ1のすべての刺座の測定値を基にしたa,bの近似値と修正したaの近似値).
測定値 | 修正値 | |
---|---|---|
左回り | a=0.0139e−0.146n b=−0.2023 | a=0.0146e−0.145n |
右回り | a=0.0139e−0.144n b=−0.2052 | a=0.0148e−0.145n |
試料として用いたブリンチュウ8個体は,大きさもまちまちで,左回りと右回りの刺座の数もばらばらである.それぞれの個体について,歪みを修正した左回りと右回りのすべての刺座をまとめてグラフにプロットすると,ともによく似た傾向を示す.ブリンチュウ8個体のすべての刺座のaの近似曲線およびzの近似直線を引くと,a=0.0114e−0.127n, b=−0.1757となる(図4図4■ブリンチュウ8個体の左回りと右回りのすべての刺座の座標をまとめたもの).
このことから,ブリンチュウ種を表す螺旋方程式は以下のように表すことができる.
サボテンの刺は葉が変化して形成されたものである.本研究では,ヒマワリの種や松毬の鱗片の配列と同様に,ブリンチュウの刺座の配列には規則性があり,本品種の刺座の配列を螺旋方程式で表わすことができることを示した.今後は,他のサボテン品種でも同様の研究を行い,螺旋方程式のaおよびbを比較することによって,今回の螺旋方程式のaとbがブリンチュウという種を特徴的に表すものかどうかについて検証する必要がある.将来的には,さらに測定方法を改善し,さまざまなサボテンの純系品種についての螺旋方程式を求め,系統樹上の距離との関係の有無についても明らかにしていきたいと考えている.
Reference
1) 東川和夫:“フィボナッチ数列と黄金比—ひまわりの種の配列—”,話題源数学,東京法令,1989, pp. 356–359.
2) 荒谷優太,石田 薫,北野彩華,平岩尚樹,廣瀬友佳,赤塚千春,河内 遥,中川潤哉,山本彩楓:化学と生物,52, 555 (2014) .