Kagaku to Seibutsu 61(2): 57-63 (2023)
解説
メタン変換バイオ触媒としてのメタン資化性菌利用の研究進展実用化可能な常温常圧でのメタノール合成に向けて
Recent Progress in the Usage of Methanotrophic Bacteria as Methane-converting Biocatalysts: Toward Practical Methanol Synthesis at Ambient Conditions
Published: 2023-02-01
メタンはこれまで,燃料や化学品原料として利用され,人類社会の発展を支えてきた.ところが近年,地球温暖化に及ぼす影響が大きな温室効果ガスとして着目されるようになった.そのため,農畜産業や廃棄物からのメタン排出量を削減する試みや,カーボンニュートラルなメタンを製造する技術の実用化に向けた動きが進んでいる.より自由自在にメタンを扱えるワザを手にできれば,地球環境へ負荷をかけずに有用なエネルギー・炭素資源であるメタンを使い続けられる.さまざまなメタン変換技術の研究が進んでいる現状において,メタン利用技術の一つであるバクテリアを触媒として利用したメタンからのメタノール合成ついて,本稿では紹介する.
Key words: メタン変換; メタノール合成; バイオ触媒; メタン資化性菌; 省エネルギー
© 2023 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2023 公益社団法人日本農芸化学会
唐突だがみなさんは,ついでき心で「ごみのポイ捨て」してしまった経験はないだろうか?
白状すると私は,ポケットに小さな紙ごみなどがあると道端に捨ててしまいたくなることがしばしばある.だがそんな邪心も,周りの人の目があると抑えられる.社会が「ポイ捨てはダメ」という認識を共有しているおかげで,“世間の目”という抑止力が働く.
ではなぜ,ゴミのポイ捨てがダメなのか? ポイ捨てが繰り返されれば,街が汚れ,地球環境を汚染し,私たちの生活環境を害し,多くの人が迷惑を被ることになる.そのような現状よりマイナスな状況を回避するのが一つの理由だ.しかし一方で,「ゴミ」と思っているものも,適切に回収し,リサイクルしたりリユースしたりすることで,まだまだ利用価値がある.このような現状よりプラスな状況を作り出す理由も合わせもつ.だからこそ「ポイ捨てはダメ」という社会的モラルは広く受け入れられているのではないだろうか.
近年,「ゴミのポイ捨て」と同じような“世間の目”が,メタンにも向けられるようになってきた.
メタンは天然ガスの主成分で,燃料として利用できる重要なエネルギー資源だ.同じくエネルギー資源である石油が特定の地域でしか産出されないのに対して,天然ガスは比較的広い地域で産出される.エネルギー資源を海外からの輸入に頼る日本にとって安価で安定的に輸入できるため,天然ガスは重要なエネルギー資源の位置づけにある.2000年代には,これまで採掘できなかった地下深部の頁岩(シェール)層から天然ガスを採掘する新しい技術がアメリカで確立され,旧来のエネルギー資源地図を書き換えるほど天然ガス生産量が増大した.この新たな技術による世界のエネルギー事情の変化は「シェール革命」と呼ばれ,エネルギー輸入国である日本でもメタンへの期待が高まった.
ところが近年,社会の風向きが変わりつつある.その境は,2021年に発表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次報告(1)1) IPCC: Summary for Policymakers. In: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change, https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg1/, 2021.であろう.地球温暖化へのメタンの寄与を同じ重量の二酸化炭素と比べると,100年間で27~30倍,20年間では81~83倍と高い(1)1) IPCC: Summary for Policymakers. In: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change, https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg1/, 2021..だが,大気中でのメタンの寿命(12年程)は二酸化炭素と比べて短いことから,メタン排出量の削減には温暖化抑止策として高い即効性があると期待される.この有効性は,20世紀末には研究レベルで示唆され(2~4)2) J. Reilly, R. Prinn, J. Harnisch, J. Fitzmaurice, H. Jacoby, D. Kicklighter, J. Melillo, P. Stone, A. Sokolov & C. Wang: Nature, 401, 549 (1999).3) K. Hayhoe, A. Jain, H. Pitcher, C. MacCracken, M. Gibbs, D. Wuebbles, R. Harvey & D. Kruger: Science, 286, 905 (1999).4) J. Hansen, M. Sato, R. Ruedy, A. Lacis & V. Oinas: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97, 9875 (2000).,IPCCの第6次報告において急速なメタン排出の抑制が強く言及されたことでより注目度が高まった.ニュースやメディアを通してメタン排出削減に関する国内外の動きがしばしば取り上げられるようになり,メタン削減技術やその研究開発成果も紹介されるようになった.こうして,ごみのポイ捨てと同じように,メタンの排出に対しても“世間の目”が厳しく向けられるようになってきた.
この“世間の目”を社会的に広く共有するためには,ゴミと同じように,マイナスな状況を回避するためだけの理由でメタン使用量の削減や排出量の抑制を促すだけではなく,適切に回収し,リサイクルし,リユースすることで,まだまだ利用価値があるというプラスな状況を作り出す方向での動きも重要になると考える.
実際,メタンは燃料や化学品原料として利用されている.メタンの約94%は燃料として用いられ,残りの大部分(約96%)はアルミナ担持ニッケル触媒を用いて700~900°Cの高温で合成ガス(一酸化炭素と水素)に変換され(反応1),アンモニアやメタノールの合成に用いられている(5)5) T. Baba & A. Miyaji: “Catalysis and the Mechanism of Methane Conversion to Chemicals: C–C and C–O Bonds Formation Using Heterogeneous, Homogenous and Biological Catalytsts”, Springer, 2020..
この現状よりも多様な手段によってメタンを利用していくことで,メタンの付加価値を高め,メタンの排出削減と合わせて持続的にメタンを有効に利用していくことができる.
こうした背景の下,メタンを有効に利用するための技術については国内外で数多くの研究が行われている.
メタン利用技術の一つとして筆者らは,メタンを変換する触媒としてメタン資化性菌と呼ばれるバクテリアを利用する〈メタン変換バイオ触媒〉の研究に取り組んでいる.
メタン資化性菌(Methanotrophic bacteria),あるいはメタン酸化細菌(Methane-oxidizing bacteria)と呼ばれるバクテリアは,私たちが生活する環境と同じ温度と大気圧で,メタンを食料として細胞に取り込み,生きている(6)6) R. S. Hanson & T. E. Hanson: Microbiol. Rev., 60, 439 (1996)..細胞に取り込まれたメタンは,細胞内の代謝系でエネルギー,あるいは細胞を構成する種々の炭素化合物へと変換される(図1図1■メタン資化性菌細胞内におけるメタン代謝の概要).
このバクテリアの力を私たち人類が触媒として利用することで,メタンを原料にしてメタノール,種々のアミノ酸,ビタミンなど,様々な有用物質を合成できる(7~9)7) S. K. S. Patel, R. Shanmugam, J.-K. Lee, V. C. Kalia & I.-W. Kim: Indian J. Microbiol., 61, 449 (2021).8) A. Gęsicka, P. Oleskowicz-Popiel & M. Łężyk: Biotechnol. Adv., 53, 107861 (2021).9) K. K. Sahoo, G. Goswarmi & D. Das: Front. Microbiol., 12, 636486 (2021)..また,メタンからメタン資化性菌の細胞自体も“合成”される.つまり,有用物質とそれらの生産に用いる触媒(メタン資化性菌)とをメタンを原料として製造できる.
このようなメタン変換バイオ触媒を用いてこれまで数多く取り組まれている反応の一つが,メタンからのメタノール合成である.工業的に行われているメタンからのメタノール合成プロセスでは,水蒸気改質によってメタンから合成ガスを合成したのち,メタノールに変換する.このプロセスには900°Cの高温と10~50気圧の高圧が必要になる(10)10) M. Jose da Silva: Fuel Process. Technol., 145, 42 (2016)..しかしながら,バクテリアは当たり前のように,室温,大気圧環境でメタンから直接メタノールを合成している.すなわち,バクテリアをバイオ触媒として利用すれば,メタンから直接メタノールを合成する反応を,熱や圧力をかけることなく実現できる.
バクテリア細胞内で合成されるメタノールは,細胞内で速やかに酸化されてホルムアルデヒドへと変換される.したがって,バクテリア細胞をメタンからのメタノール合成反応の触媒として利用するには,バクテリア細胞内におけるメタノール酸化反応を阻害する必要がある.この阻害を目的としてこれまで,リン酸(11)11) P. K. Mehta, S. Mishra & T. K. Ghose: J. Gen. Appl. Microbiol., 33, 221 (1987).や塩化ナトリウム(12)12) S. G. Lee, J. H. Goo, H. G. Kim, J.-I. Oh, Y. M. Kim & S. W. Kim: Biotechnol. Lett., 26, 947 (2004).による可逆的な阻害,シクロプロパノールによる不可逆的な阻害(13, 14)13) M. Shimoda & I. Okura: J. Chem. Soc. Chem. Commun., 7, 533 (1990).14) M. Shimoda & I. Okura: J. Mol. Catal., 64, L23 (1991).,あるいは遺伝子発現制御による細胞内酵素量の抑制(15)15) H. Ito, K. Yoshimori, M. Ishikawa, K. Hori & T. Kamachi: Front. Microbiol., 12, 639266 (2021).といった手段が検討され,メタン資化性菌をメタン変換バイオ触媒として利用したメタノール合成に成功している.
メタン変換バイオ触媒によるメタノール生産は,1980年代後半から研究が続けられている.この間のメタノール生産性の推移を図2図2■メタン変換バイオ触媒開発におけるメタノール生産性の推移に示す.バクテリア細胞の触媒としてのメタノール生産性を比較するため,図2図2■メタン変換バイオ触媒開発におけるメタノール生産性の推移の縦軸は細胞乾燥重量1 kg, 1時間あたりのメタノール生産量(kg-メタノール重量/kg-細胞乾燥重量/時間)で示した.この図をみると,特に近年,メタノール生産性が大きく向上していることがわかる.
生産性能が向上した理由の一つは,メタンをメタノールに酸化する酵素,膜結合型メタンモノオキシゲナーゼ(pMMO)の性質や反応の仕組みが明らかになってきたからだ.未だ不明な点は多いものの,酵素のタンパク質分子構造や反応機構が明らかにされつつある(16, 17)16) C. W. Koo & A. C. Rosenzweig: Chem. Soc. Rev., 50, 3424 (2021).17) W.-H. Chang, H.-H. Lin, I.-K. Tsai, S.-H. Huang, S.-C. Chung, I.-P. Tu, S. S.-F. Yu & S. I. Chan: J. Am. Chem. Soc., 143, 9922 (2021)..また,メタン資化性菌におけるpMMO遺伝子発現の仕組みが明らかになり,細胞内のpMMO合成を制御する手法についても検討されてきた(18)18) J. C. Murrell, B. Gilbert & I. R. McDonald: Arch. Microbiol., 173, 325 (2000)..こういった細胞内でのメタン酸化反応への理解が深まったことで,メタノール生産性の向上に適した手法が検討できるようになってきた.
一例として,2021年に私たちが報告した研究成果を紹介したい.この研究で着眼したのは,メタノール生産に利用されるバクテリア細胞内の酵素量である.触媒において生産性を上げるには,反応が進む活性点の質を高めることでより速く反応が進むようにするか,触媒あたりの活性点の数を増やすことで生産できる触媒あたりのメタノール量を増やすかである(図3図3■触媒の性能向上をめざした触媒改良概略).この考えをメタン変換バイオ触媒に当てはめると,バクテリア細胞内におけるpMMOの活性を高めるか,細胞内のpMMO量を増やすか,となる.
この両方を可能にする都合の良い手段があることが,メタン資化性菌およびpMMOの研究成果から明らかになっていた.高い銅イオン濃度でのバクテリア細胞の培養である.細胞内のpMMO合成量は銅イオンによって制御され,最大で細胞全体の80%に達することが明らかにされていた(19, 20)19) S. S.-F. Yu, S. S.-F. Chen, M. Y.-H. Tseng, Y.-S. Wang, C.-F. Tseng, Y.-J. Chen, D.-S. Huang & S. I. Chan: J. Bacteriol., 185, 5915 (2003).20) S. I. Chan, H.-H. T. Nguyen, K. H.-C. Chen & S. S.-F. Yu: Methods Enzymol., 495, 177 (2011)..つまり,高い銅イオン濃度で培養することで,より高密度にpMMOが詰まったバクテリアが調製できる.さらに,銅イオンはpMMOが酵素活性を示すためにも必須の補因子で,pMMOに銅イオンを補填することで酵素活性が高まることも明らかになっていた(20, 21)20) S. I. Chan, H.-H. T. Nguyen, K. H.-C. Chen & S. S.-F. Yu: Methods Enzymol., 495, 177 (2011).21) A. Miyaji, M. Nitta & T. Baba: J. Biotechnol., 306S, 100001 (2019)..
そこで,従来のメタノール合成では1–5 μMの銅イオンを含む培養液で調製されてきたメタン資化性菌Methylosinus trichosporium OB3b細胞を,銅イオンを50 μMまで上げて調製した.その結果,図4図4■高い銅イオン濃度でのメタン変換バイオ触媒の調製と触媒性能の向上に示すようにバクテリア細胞内のpMMO量は約二倍,pMMOのメタン酸化活性は約三倍に増え,より比活性が向上したpMMOが高密度に詰まったバクテリア細胞を調製できた(22)22) A. Miyaji: J. Jpn. Petrol. Inst., 64, 29 (2021)..このバクテリア細胞を触媒としてメタンからのメタノール合成反応をおこなった結果,1 μMの銅イオンで培養したバクテリア細胞と比べて,約三倍も高いメタノール生産性を示した(22)22) A. Miyaji: J. Jpn. Petrol. Inst., 64, 29 (2021)..
ただし,高い銅イオン濃度の培養には欠点がある.バクテリアの増殖が遅くなり,短時間で大量にバクテリアを得ることが難しくなる.このデメリットを克服する手段の一つとしてさまざまな培養器の工夫が検討されている.たとえば,細胞内の老廃物や毒性代謝物を中空糸膜で取り除いた培養液を循環させるバイオリアクターや(19)19) S. S.-F. Yu, S. S.-F. Chen, M. Y.-H. Tseng, Y.-S. Wang, C.-F. Tseng, Y.-J. Chen, D.-S. Huang & S. I. Chan: J. Bacteriol., 185, 5915 (2003).,溶存メタン濃度を加圧により高めた培養液を供給するエアリフト型バイオリアクター(23)23) M. A. Ghaz-Jahanian, A. B. Khoshfetrat, M. H. Rostami & M. H. Parapari: Chem. Eng. Res. Des., 134, 80 (2018).が報告されている.また,ビタミンB12を含む培養液を用いることも有効な手段の一つである.ビタミンB12はメタン資化性菌の増殖促進因子の一つで(24)24) H. Iguchi, H. Yurimoto & Y. Sakai: Appl. Environ. Microbiol., 77, 8509 (2011).,その促進効果は高い銅イオン濃度におけるメタン資化性菌の培養においても観測されている(25)25) A. Miyaji, D. Furuya, I. Orita & T. Baba: Bioresour. Technol. Rep., 11, 100473 (2020)..現在のところ,ビタミンB12がメタン資化性菌の増殖を促進するメカニズムは不明である.このメカニズムが今後の研究により明らかになることで,メタン資化性菌の増殖を促進するより効果的な手段が見いだせると期待される.
このように,基礎研究により蓄積されてきた知識とノウハウが,近年のメタン資化性菌利用の高度化へと結実しつつある.
ではいったいどこまで,メタノール生産性を高めれば実用化できるのか.
図5図5■メタン変換バイオ触媒開発でめざすメタノール生産性能に商用利用可能な触媒のメタノール生産性能を模式的に示した.横軸のメタン転化率が10%以上,縦軸のメタノール生産性が1 kg-メタノール/kg-触媒/h以上あれば,工業的に利用できると言われている(5)5) T. Baba & A. Miyaji: “Catalysis and the Mechanism of Methane Conversion to Chemicals: C–C and C–O Bonds Formation Using Heterogeneous, Homogenous and Biological Catalytsts”, Springer, 2020..これは安価な天然ガスを原料とした場合の試算であり,バイオガスあるいは二酸化炭素と水素から製造する合成メタンといったカーボンニュートラルなメタンを原料とするとなれば,さらに高い性能が求められるかもしれない.
図5図5■メタン変換バイオ触媒開発でめざすメタノール生産性能には,さまざまな触媒の性能範囲も示している.固体触媒や金属触媒では高いメタノール生産性能を示すものも多いが,メタン転化率が不十分なことがほとんどである.これに対してバイオ触媒は,メタン転化率では十分に商用可能な範囲にあるのだが,メタノール生産性が不十分なのが現状である.
しかし,バイオ触媒のメタノール生産性能はまだまだ高まる余地がある.その可能性を示す研究例を一つ紹介する.バイオ触媒によるメタン変換反応は水系で行う.そのため,水に溶けたメタンがバイオ触媒と反応する.Parkらは,メタンが水へ溶け込む量を増やす目的で,水とドデカンの液液二相からなる反応液を用いてメタン変換バイオ触媒によるメタノール合成反応を行った.その結果,水だけの場合と比べて十倍近くメタノール生産量が増大している(26)26) Y. R. Park, D. H. Kim, K. H. Choi, Y. W. Kim, E. Y. Lee & B. J. Park: J. Ind. Eng. Chem., 95, 305 (2021)..このように,バイオ触媒そのものの性能を上げるだけでなく,反応系の工夫によりメタノール生産性が大きく高められることを示した研究報告である.こうした反応系の工夫についても今後,メタンからのメタノール生産の実用化に向けて研究の進展が見込まれる.
触媒そのものの性能を高めるためのアプローチも多様化している.メタノール合成に用いるメタン変換バイオ触媒として,これまでの報告では,メタン資化性菌としてMethylosinus trichosporium OB3bという菌株が用いられてきた.しかし近年では,用いる菌株が多様化しつつある.例えば,硫化水素に耐性を示すメタン資化性菌や,地熱地域から単離された好熱好酸性メタン資化性菌などを用いたメタノール合成が報告されている(27, 28)27) W. Zhang, X. Ge, Y.-F. Li, Z. Yu & Y. Li: Process Biochem., 51, 838 (2016).28) C. Hogendoorn, A. Pol, G. H. L. Nuijten & H. J. M. Op den Camp: Appl. Environ. Microbiol., 86, ee01188 (2020)..また,これまでに報告されてきたメタン資化性菌60種類の遺伝学的および生理学的特性に関するデータに基づいて,メタノール合成に適した菌株を絞り込む研究も行われている(29)29) P. P. Kulkarni, V. K. Khonde, M. S. Deshpande, T. R. Sabale, P. S. Kumbhar & A. R. Ghosalkar: J. Biosci. Bioeng., 132, 460 (2021)..このような研究によりメタノール合成に利用する菌株が多様化することで,高いメタノール生産性能を示すメタン変換バイオ触媒を見いだす可能性は一層高まっている.
一方,メタン資化性菌の遺伝子組換え(30)30) S. Y. Ro & A. C. Rosenzweig: Methods Enzymol., 605, 335 (2018).やメタノール資化性菌や大腸菌といったメタン資化性菌とは異種のバクテリアにメタン酸化酵素の機能を付与する(31, 32)31) 由里本博也,阪井康能:日本エネルギー学会機関誌えねるみくす,99, 141 (2020) .32) G. J. Gregory, R. K. Bennett & E. T. Papoutsakis: Metab. Eng., 71, 99 (2022).ことも試みられている.こういった生物工学的手法を利用できれば,メタノール生産性能をより合理的にコントロールしたメタン変換バイオ触媒の開発が期待できる.
生物工学的手法は,新たな機能を付与したメタン変換バイオ触媒の開発への展開も期待できる.例えばItoらは,光合成系とpMMOを組み合わせた光駆動によるメタン酸化反応系を報告している(33)33) H. Ito, F. Mori, K. Tabata, I. Okura & T. Kamachi: RSC Advances, 4, 8645 (2014)..このような反応系を付与すれば,太陽光駆動型のメタン変換バイオ触媒を作り出すことができる.
メタン資化性菌は比較的増殖する速度が遅く,その速さは大腸菌のおよそ百分の一程度だ.現実的ではないが単純に考えると,メタン資化性菌の研究データを集めるために,大腸菌と比べて百倍もの時間を要する.それでも,ここで紹介した研究以外にもさまざまなアイデアと研究アプローチで,メタン資化性菌について研究が行われ,高性能で多様なメタン変換バイオ触媒への道が確実に広がっている.これらの道を信頼のおける研究成果を着実に積み重ねて歩み続けることが,実用化できるバイオ触媒性能にたどり着くためには大切だ.道の途中でさらに新たなバイオ触媒への道が拓けることもあるだろう.その時には,新しい道へと足を踏み入れる冒険心も大切にしたい.着実に,そしてワクワクしながらさまざまなメタン変換バイオ触媒を実用化する道を歩むことで,メタンを自在に操る技術を手に入れる.そして,私たちの豊かな暮らしを支えるエネルギー・炭素資源として,これまでと変わらずメタンを利用し続ける.そんな未来の社会をめざしている.
Reference
1) IPCC: Summary for Policymakers. In: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change, https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg1/, 2021.
4) J. Hansen, M. Sato, R. Ruedy, A. Lacis & V. Oinas: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97, 9875 (2000).
5) T. Baba & A. Miyaji: “Catalysis and the Mechanism of Methane Conversion to Chemicals: C–C and C–O Bonds Formation Using Heterogeneous, Homogenous and Biological Catalytsts”, Springer, 2020.
6) R. S. Hanson & T. E. Hanson: Microbiol. Rev., 60, 439 (1996).
8) A. Gęsicka, P. Oleskowicz-Popiel & M. Łężyk: Biotechnol. Adv., 53, 107861 (2021).
9) K. K. Sahoo, G. Goswarmi & D. Das: Front. Microbiol., 12, 636486 (2021).
10) M. Jose da Silva: Fuel Process. Technol., 145, 42 (2016).
11) P. K. Mehta, S. Mishra & T. K. Ghose: J. Gen. Appl. Microbiol., 33, 221 (1987).
13) M. Shimoda & I. Okura: J. Chem. Soc. Chem. Commun., 7, 533 (1990).
14) M. Shimoda & I. Okura: J. Mol. Catal., 64, L23 (1991).
15) H. Ito, K. Yoshimori, M. Ishikawa, K. Hori & T. Kamachi: Front. Microbiol., 12, 639266 (2021).
16) C. W. Koo & A. C. Rosenzweig: Chem. Soc. Rev., 50, 3424 (2021).
18) J. C. Murrell, B. Gilbert & I. R. McDonald: Arch. Microbiol., 173, 325 (2000).
20) S. I. Chan, H.-H. T. Nguyen, K. H.-C. Chen & S. S.-F. Yu: Methods Enzymol., 495, 177 (2011).
21) A. Miyaji, M. Nitta & T. Baba: J. Biotechnol., 306S, 100001 (2019).
22) A. Miyaji: J. Jpn. Petrol. Inst., 64, 29 (2021).
24) H. Iguchi, H. Yurimoto & Y. Sakai: Appl. Environ. Microbiol., 77, 8509 (2011).
25) A. Miyaji, D. Furuya, I. Orita & T. Baba: Bioresour. Technol. Rep., 11, 100473 (2020).
27) W. Zhang, X. Ge, Y.-F. Li, Z. Yu & Y. Li: Process Biochem., 51, 838 (2016).
30) S. Y. Ro & A. C. Rosenzweig: Methods Enzymol., 605, 335 (2018).
31) 由里本博也,阪井康能:日本エネルギー学会機関誌えねるみくす,99, 141 (2020) .
32) G. J. Gregory, R. K. Bennett & E. T. Papoutsakis: Metab. Eng., 71, 99 (2022).
33) H. Ito, F. Mori, K. Tabata, I. Okura & T. Kamachi: RSC Advances, 4, 8645 (2014).