解説

遊離N-グリカンのタンパク質フォールディング誘導活性とアミロイド凝集抑制活性植物グリコバイオロジー研究から浮かび上がってきた遊離型糖鎖の機能

Free N-glycans Induce Protein Folding and Suppress Amyloid Aggregation: Biofunctions of Free N-glycans Emerging from Plant Glycobiology Research

Yoshinobu Kimura

木村 吉伸

岡山大学学術研究院環境生命科学学域(農学系)

Published: 2023-02-01

真核生物が産生する分泌型タンパク質や膜タンパク質のほとんどは糖タンパク質である.特に,アスパラギン残基に結合するアスパラギン結合型糖鎖(N-グリカン)は,小胞体中でのタンパク質品質管理系で重要な役割を担っている.その一方で,タンパク質に結合していない遊離型N-グリカン(FNG)が細胞内あるいは細胞外に存在することは以前より知られていた.FNGsの生成機構ついては明らかになりつつあるが,これらFNGsの生理機能に注目した研究はほとんどなく,筆者らは,分化成長中の植物に遍在するFNGsの機能解析の途上,ハイマンノース型FNGsがタンパク質フォールディング誘導活性を有することを見いだした.本解説では,FNGsの生理機能についての新たな知見を紹介させて頂く.

Key words: 植物糖タンパク質糖鎖; 遊離N-グリカン; ハイマンノース型糖鎖; アミロイド凝集抑制; タンパク質フォールディング誘導

はじめに—研究背景—

真核生物が産生する分泌型タンパク質や細胞膜タンパク質のほとんどはオリゴ糖が共有結合した糖タンパク質であり,特に,Asn-X-Ser/Thr(X≠Pro)配列中のAsn残基に結合するアスパラギン結合型糖鎖(N-グリカン)が新生タンパク質の立体構造構築(フォールディング)や分泌型タンパク質のin vivo機能に重要な寄与をなしていることはよく知られている(1~4)1) 北島 健,佐藤ちひろ:“糖鎖生物学—生命現象と糖鎖情報—”名古屋大学出版会,2020, pp. 43–57.2) 佐藤匡史,加藤晃一:“糖鎖生物学—生命現象と糖鎖情報—”名古屋大学出版会,2020, pp. 83–95.3) A. Varki: Glycobiolgy, 3, 97 (1993).4) A. Helenius & M. Abei: Science, 291, 2364 (2001)..動植物ともに,小胞体やゴルジ装置中でのN-グリカンの生合成機構やプロセシング機構については,関与する種々の糖転移酵素やグリコシダーゼの遺伝子同定や基質特異性解析が長足の進歩を遂げて,動植物それぞれを特徴づけるN-グリカン構造が存在するものの,基本的な糖鎖生合成やプロセシング機構のコンテクストには高い共通性があることが明らかになっている(5~8)5) A. Helenius & M. Abei: Annu. Rev. Biochem., 73, 1019 (2004).6) A. Kobata: Glycoprotein Glycan Structures. in Comprehensive Glycoscince, J.P. Kamerling, G.-J. Boons, Y. C. Lee, A. Suzuki, N. Taniguchi & A.G.J. Voragen, eds., Elsevier, Vol. 1, 2007, pp. 61–78.7) R. Strasser: Glycobiology, 26, 926 (2016).8) Y. Nagashima, A. von Schaewen & H. Koiwa: Plant Sci., 274, 70 (2018)..当然のことながら,これらN-グリカンの生合成や代謝分解過程に関与する糖転移酵素や加水分解酵素の機能特性と遺伝子構造にも真核生物としての共通性と動物界と植物界における相違が見られるし,発生時期や分化段階,あるいは組織特異的なN-グリカンは,動植物を問わず,それぞれ重要な存在意義あるいは生理機能を担っていると考えられる.

動物においては,タンパク質に結合するN-グリカンの生理機能やそれらの化学構造がもつ生物学(生理学)的な意義については極めて多くの知見が蓄積されており,医学的な観点からも重要性が強調されている.それに対して,植物糖タンパク質に結合しているN-グリカンの細胞生理学的な機能については不明な点が多い(7, 8)7) R. Strasser: Glycobiology, 26, 926 (2016).8) Y. Nagashima, A. von Schaewen & H. Koiwa: Plant Sci., 274, 70 (2018)..最近,植物N-グリカンの構造を特徴付けるα1–3フコース(Fuc)残基とβ1–2キシロース(Xyl)残基を欠損させるとイネの生長やトマト果実の熟成が抑制される等の報告がなされており(9~11)9) S. Takano, S. Matsuda, A. Funabiki, J. Furukawa, T. Yamauchi, M. Tokuji, M. Nakazono, Y. Shinohara, I. Takamure & K. Kato: Plant Sci., 236, 75 (2015).10) R. Harmoko, J. Y. Yoo, K. S. Ko, N. K. Ramasamy, B. Y. Hwang, E. J. Lee, H. S. Kim, K. J. Lee, D.-B. Oh, D.-Y. Kim et al.: New Phytol., 212, 108 (2016).11) H. Kaulfürst-Soboll, M. Mertens-Beer, R. Brehler, M. Albert & A. von Schaewen: Front. Plant Sci., 12, 635962 (2021).,植物特徴的なN-グリカンが植物の分化・成長に重要な機能を有する可能性が示唆されてきている.しかしながら,それら植物複合型N-グリカンを有するどのような糖タンパク質が植物の分化・成長に関与しているのかは不明である.

1990年代後半,筆者らは植物糖タンパク質糖鎖の機能解明研究の途上,タチナタマメ由来のα-マンノシダーゼ(α-Man’ase)にα-Man残基を有さないN-グリカン(Man1Xyl1Fuc1GlcNAc2)に加えて,自身の基質となるハイマンノース型(high mannose type, HMT)糖鎖が結合していることを明らかにした(12)12) Y. Kimura, D. Hess & A. Strum: Eur. J. Biochem., 264, 168 (1999)..そして,そのHMT糖鎖が変性α-Man’aseのリフォールディング(活性回復)あるいは適切な4次構造構築形成を誘導することを見いだした(12)12) Y. Kimura, D. Hess & A. Strum: Eur. J. Biochem., 264, 168 (1999)..山口らは,筆者らよりも早く,タンパク質に結合するHMT糖鎖に加えて,動物に特徴的なN-グリカンのシャペロン様活性を報告している(13~18)13) H. Ymaguchi: Trends Glycosci. Glycosci., 14, 139 (2002).14) H. Yamaguchi & M. Uchida: J. Biochem., 120, 474 (1996).15) I. Nishimura, M. Uchida, Y. Inohana, K. Setoh, K. Daba, S. Nishimura & H. Yamaguch: J. Biochem., 123, 516 (1998).16) H. Matsuoka, K. Shibata & H. Yamaguchi: J. Biochem., 126, 474 (1999).17) Y. Jitsuhara, T. Toyoda, T. Itai & H. Yamaguchi: J. Biochem., 132, 803 (2002).18) Y. Kamiya, T. Satoh & K. Kato: Biochim. Biophys. Acta, 1820, 1327 (2012).N-グリカンのタンパク質フォールディング誘導活性やタンパク質構造の安定化への寄与は,in vitro実験における極めて興味深い機能と考えられるが,in vivo活性を支持する状況証拠も十分でなかったため細胞内での生理機能として捉え難かった.加えて,小胞体中のタンパク質品質管理機構に関与する様々な糖鎖関連タンパク質の詳細な機能が明らかにされるにつれ(18~20)18) Y. Kamiya, T. Satoh & K. Kato: Biochim. Biophys. Acta, 1820, 1327 (2012).20) 蜷川 暁:生化学,93, 476 (2021).,糖鎖自身が有するタンパク質フォールディング誘導活性(シャペロン様活性)への関心も徐々に薄れていった.

糖タンパク質糖鎖の機能を明らかにしようとする様々な研究は,生理活性を有するタンパク質機能への糖鎖の寄与を明らかにする方向にベクトルが向いている.その一方で,1990年代には,植物中に遊離N-グリカン(Free N-glycans, FNGs)が数百ナノ~数マイクロモル濃度で生成・蓄積していることが知られていた(21~23)21) B. Priem, R. Gitti, C. A. Bush & K. C. Gross: Plant Physiol., 102, 445 (1993).22) Y. Kimura, S. Takagi & T. Shiraishi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 61, 924 (1997).23) M. Maeda & Y. Kimura: Front. Plant Sci., 5, 429 (2014)..これらFNGsは動物細胞からも見いだされており(24~28)24) T. Suzuki & Y. Funakoshi: Glycoconj. J., 23, 291 (2006).25) I. Chantret & S. E. H. Moore: Glycobiology, 18, 210 (2008).26) Y. Harada, H. Hirayama & T. Suzuki: Cell. Mol. Life Sci., 72, 2430 (2015).27) Y. Harada, Y. Masahara-Negishi & T. Suzuki: Glycobiology, 25, 1196 (2015).28) 鈴木 匡:生化学,88, 182 (2016).,FNGsの存在は植物に特異的な現象ではないが,植物に見いだされるFNGsが果実熟成や胚軸伸長を促進させるシグナル分子として機能する仮説が提唱された(29, 30)29) B. Priem & K. C. Gross: Plant Physiol., 98, 399 (1992).30) H. Yunovitz & K. C. Gross: Physiol. Plant., 90, 152 (1994)..しかし,この推定機能を検証する分子生物学的なアプローチはなされておらず,植物FNGsの生理活性は依然として仮説のままとどまっている.筆者らもこの20年ほど,植物細胞に見られるFNGsの生理機能解明を目指して,(1)植物FNGsの構造特性解析,(2)FNGs生成に関わる3種の植物酵素(エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(ENGase),酸性ペプチド:N-グリカナーゼ(aPNGase),細胞質ペプチド:N-グリカナーゼ(cPNGase),そしてFNGs分解に関わるエキソグリコシダーゼ類の基質特異性解析,遺伝子同定,ノックアウト株やゲノム編集株の構築等を行ってきた(31~40)31) M. A. Hossain, R. Nakano, K. Nakamura & Y. Kimura: J. Biochem., 147, 157 (2010).32) M. A. Hossain, R. Nakano, K. Nakamura, M. T. Hossain & Y. Kimura: J. Biochem., 148, 603 (2010).33) D. Yokouchi, N. Ono, K. Nakamura, M. Maeda & Y. Kimura: Glycoconj. J., 30, 463 (2013).34) M. Z. Rahman, M. Maeda, S. Itano, M. A. Hossain, T. Ishimizu & Y. Kimura: J. Biochem., 161, 421 (2017).35) M. Z. Rahman, Y. Tsujimori, M. Maeda, M. A. Hossain, T. Ishimizu & Y. Kimura: J. Biochem., 164, 53 (2018).36) M. Maeda, N. Okamoto, N. Araki & Y. Kimura: Front. Plant Sci., 12, 647684 (2021).37) R. Uemura, M. Ogura & C. Matsumaru: T. Akiyama M. Maeda & Y. Kimura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 82, 1172 (2018).38) C. Yamamoto, M. Ogura, R. Uemura, M. Megumi, H. Kajiura, R. Misaki, K. Fujiyama & Y. Kimura: Anal. Biochem., 634, 114367 (2021).39) S. Shirai, R. Uemura, M. Maeda, H. Kajiura, R. Misaki, K. Fujiyama & Y. Kimura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 85, 1460 (2021).40) N. Okamoto, M. Maeda, C. Yamamoto, R. Kodama, K. Sugimoto, Y. Shinozaki, H. Ezura & Y. Kimura: Plant Physiol. Biochem., 190, 203 (2022)..現在までのところ,これまでに得られた変異株には顕著な表現型変化は観察されていない(37~40)37) R. Uemura, M. Ogura & C. Matsumaru: T. Akiyama M. Maeda & Y. Kimura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 82, 1172 (2018).38) C. Yamamoto, M. Ogura, R. Uemura, M. Megumi, H. Kajiura, R. Misaki, K. Fujiyama & Y. Kimura: Anal. Biochem., 634, 114367 (2021).39) S. Shirai, R. Uemura, M. Maeda, H. Kajiura, R. Misaki, K. Fujiyama & Y. Kimura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 85, 1460 (2021).40) N. Okamoto, M. Maeda, C. Yamamoto, R. Kodama, K. Sugimoto, Y. Shinozaki, H. Ezura & Y. Kimura: Plant Physiol. Biochem., 190, 203 (2022).

最近筆者らは,植物生理学的機能と直接の関係はないものの,動植物に遍在するHMT-FNGsがin vitro系でタンパク質フォールディング誘導活性やアミロイド形成抑制活性を有することを見いだしてきた(41~43)41) T. Tanaka, N. Fujisaki, M. Maeda, M. Kimura, Y. Abe, T. Ueda & Y. Kimura: Glycoconj. J., 32, 193 (2015).42) M. Katsube, Y. Abe, M. Maeda, T. Tanaka, T. Ueda & Y. Kimura: In 19th European Carbohydrate Symposium, Barcelona, Spain, 2017, Abstract p. 574.43) S. Kosaka, M. Katsube, M. Maeda & Y. Kimura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 86, 770 (2022)..さらに,これらHMT-FNGsが分泌型タンパク質のフォールディングの場である小胞体中に存在することを確認している(44)44) M. Katsube, N. Ehara, M. Maeda & Y. Kimura: Front. Plant Sci, 11, 61012294 (2021)..これらの事実は,HMT-FNGsが細胞内で新生タンパク質のフォールディング誘導やタンパク質凝集抑制活性を有する可能性を示すものであり,FNGsのタンパク質の立体構造構築に関わるin vivo活性を示唆するとも考えられる.そこで,本稿では動植物細胞内に遍在するFNGsのタンパク質フォールディング促進やタンパク質凝集阻害に関わる機能とそのin vivo機能仮説をサポートするFNGsの生成機構を交えて紹介させて頂く.

本稿で紹介するFNGsのタンパク質フォールディング促進あるいはアミロイド凝集阻害活性については,筆者らの植物糖タンパク質糖鎖の構造・機能解析研究の中から浮かび上がってきた遊離型糖鎖の機能である.その経緯を説明するために植物糖タンパク質に結合するN-グリカンや植物中に存在するFNGsの構造特性と生合成および生成機構から話を始めたい.

植物N-グリカンのプロセシング経路

植物の小胞体中で,14糖(Glc3Man9GlcNAc2)がオリゴ糖–脂質中間体からオリゴ糖転移酵素(OST)により新生ポリペプチド中のAsn残基に転移されて,ゴルジ装置(シス部位)までに起こるα1–2Man残基のトリミング,Man5GlcNAc2構造へのβ1–2GlcNAcの付加,それに引き続くGlcNAc2Man3GlcNAc2の形成までの流れは,関与する酵素群(α-Man’ase, GlcNAc転移酵素)の特性を含めて,動植物ともにほぼ同様である.その後,ゴルジ装置のメディアル部位及びトランス部位で起こる様々な糖残基の転移については,植物特異的な糖転移酵素の作用機序が植物N-グリカンの構造特性に反映されることになる(図1図1■植物糖タンパク質糖鎖のプロセシング機構の概略).動物複合型(animal complex type, ACT)N-グリカンの化学構造は,細胞の分化状態や組織特異性が反映されて極めて多様性に富んでいるが(6)6) A. Kobata: Glycoprotein Glycan Structures. in Comprehensive Glycoscince, J.P. Kamerling, G.-J. Boons, Y. C. Lee, A. Suzuki, N. Taniguchi & A.G.J. Voragen, eds., Elsevier, Vol. 1, 2007, pp. 61–78.,植物複合型N-グリカンは被子植物や裸子植物等の種による大きな違いは見られず,比較的単純な構造を有する.図2図2■動物N-グリカンと植物N-グリカンの構造例に示すように,植物複合型(plant complex type, PCT)N-グリカンの特徴は,(1)還元末端GlcNAc残基へのα1–3Fuc残基の結合,(2)β1–4Man残基へのβ1–2Xyl残基の結合,(3)非還元末端側のルイスa抗原(Lea抗原,Galβ1–3(Fucα1–4)GlcNAcβ1-)の形成である.Lea抗原を有する植物N-グリカンは細胞表面の糖タンパク質に最初に見いだされ,その後,花粉アレルゲン等の分泌型タンパク質に遍在することが確認されている(7, 8, 23, 45)7) R. Strasser: Glycobiology, 26, 926 (2016).8) Y. Nagashima, A. von Schaewen & H. Koiwa: Plant Sci., 274, 70 (2018).23) M. Maeda & Y. Kimura: Front. Plant Sci., 5, 429 (2014).45) P. Lerouge, M. Cabanes-Macheteau, C. Rayon, A.-C. Fischette-Lainé, V. Gomord & L. Faye: Plant Mol. Biol., 38, 31 (1998)..動物細胞では,Lea抗原が細胞間コミュニケーションにおいて重要な役割を担うことが知られているが,植物におけるLea抗原含有N-グリカンの生理的意義については不明な点が多い.一方,Lea抗原を持たないMan3Xyl1Fuc1GlcNAc2(パウチマンノース型構造)は,液胞やプロテインボディーに蓄積する糖タンパク質に見いだされる.これは,ゴルジ装置中でLea抗原を有するN-グリカンが一旦形成された後,ゴルジ装置や液胞中に存在するα-フコシダーゼ(α-Fuc’ase),β-ガラクトシダーゼ(β-Gal’ase),β-N-アセチルグルグルコサミニダーゼ(β-GlcNAc’ase)によりトリミングを受けてパウチマンノース型構造が形成されると考えられている.

図1■植物糖タンパク質糖鎖のプロセシング機構の概略

小胞体中で翻訳途中のポリペプチド鎖のAsn残基に脂質–オリゴ糖中間体からN-グリカン(Glc3Man9GlcNAc2)が転移される.タンパク質フォールディングが完了した糖タンパク質はゴルジ装置へ輸送され,そこでN-グリカンのプロセシング(糖鎖構造改変)が進行する.植物細胞の場合は,細胞膜タンパク質や細胞外空間に分泌される糖タンパク質はLea抗原(Galβ1–3(Fucα1–4)GlcNAc)を有する複合型構造にまでプロセシングを受ける.

図2■動物N-グリカンと植物N-グリカンの構造例

ハイマンノース型(HMT)構造は動植物N-グリカンに共通に見られ,共通のトリマンノシルコア構造(Man3GlcNAc2)を有する.一方,β1–2Xyl残基とα1–3Fuc残基の存在は植物複合型(PCT)N-グリカンの構造的特徴である.

以上を簡単にまとめると,植物糖タンパク質に結合するN-グリカンの構造特性として,分泌型糖タンパク質あるいは細胞膜糖タンパク質にはLea抗原含有構造やGlcNAc2Man3Xyl1Fuc1GlcNAc2構造が結合し,液胞(あるいはプロテインボディー)に存在する糖タンパク質にはパウチマンノース型構造(Man3-1Xyl1Fuc1GlcNAc2)が結合している.したがって,Lea抗原含有N-グリカンを有する糖タンパク質およびLea抗原含有FNGsは,ゴルジ装置での糖鎖プロセシングを経て生じ,その後に細胞外に分泌されていると考えられる.

FNGsの生成機構と構造特性

1. タンパク質品質管理機構で生じるFNGsの構造特性と関与する細胞質酵素(PNGaseとENGase)

本来なら,タンパク質に結合することでタンパク質機能に重要な役割を果たすべきN-グリカンが,FNGsとして分化成長中の実生胚軸や果実,あるいは細胞培養液中に存在することは,1990年代から報告されてきた(図3-I図3■植物に見られる遊離N-グリカン(FNGs)の構造例(I)とFNGs生成に関与する3種の酵素の作用点(II)(21~23)21) B. Priem, R. Gitti, C. A. Bush & K. C. Gross: Plant Physiol., 102, 445 (1993).22) Y. Kimura, S. Takagi & T. Shiraishi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 61, 924 (1997).23) M. Maeda & Y. Kimura: Front. Plant Sci., 5, 429 (2014)..これらFNGsは動物細胞からも見いだされていたので,遊離型糖鎖の存在が植物に特異的な現象ではない(24~28)24) T. Suzuki & Y. Funakoshi: Glycoconj. J., 23, 291 (2006).25) I. Chantret & S. E. H. Moore: Glycobiology, 18, 210 (2008).26) Y. Harada, H. Hirayama & T. Suzuki: Cell. Mol. Life Sci., 72, 2430 (2015).27) Y. Harada, Y. Masahara-Negishi & T. Suzuki: Glycobiology, 25, 1196 (2015).28) 鈴木 匡:生化学,88, 182 (2016)..そして,これらのFNGsのうち,還元末端にGlcNAcを1残基を有する(GN1型)HMT-FNGsが,小胞体中で機能するタンパク質の品質管理(ER-protein quality control, ERQC)系において,ミスフォールドした新生糖タンパク質から生じたものであることが明らかになったのは,比較的最近のことである(19, 20, 24, 46)19) S. Ninagawa, G. Geroge & K. Mori: Biochim. Biophys. Acta, 1865, 129812 (2021).20) 蜷川 暁:生化学,93, 476 (2021).24) T. Suzuki & Y. Funakoshi: Glycoconj. J., 23, 291 (2006).46) T. Suzuki: J. Biochem., 157, 23 (2015)..このERQC機構において,新生糖タンパク質に結合するGlc残基含有のハイマンノース型糖鎖とシャペロン分子(カルネキシン(CNX),カルレティキュリン(CRT))との相互作用が,新生糖タンパク質フォールディングの引き金を引く.そして,小胞体α-Man’aseであるEDEM(ER-degradation enhancement mannosidase-like protein)による数個のα1–2 Man残基トリミングが,ミスフォールド糖タンパク質とフォールド糖タンパク質の命運を左右する.動物小胞体中におけるERQC機構については,蜷川らによりその詳細が最近明らかにされつつあり,優れた総説があるので,是非参照して頂きたい(19, 20)19) S. Ninagawa, G. Geroge & K. Mori: Biochim. Biophys. Acta, 1865, 129812 (2021).20) 蜷川 暁:生化学,93, 476 (2021)..植物の小胞体におけるERQC機構は不明な点も残されているが,基本的には同様な機構だと考えられる(47)47) S. Hüttner & R. Strasser: Front. Plant Sci., 3, 67 (2012).

図3■植物に見られる遊離N-グリカン(FNGs)の構造例(I)とFNGs生成に関与する3種の酵素の作用点(II)

I,植物から検出されるFNGsの構造例.GN1型構造,還元末端側にGlcNAcを1残基を有するFNGs; GN2型構造,N,N′-ジアセチルキトビオース構造を有するFNGs. II, GN1型FNGsの生成にはcPNGaseとENGaseが関与し,GN2型FNGsの生成にはacid PNGase(aPNGase)が関与すると考えられている.ENGaseは植物複合型(PCT)N-グリカンには作用しないが,aPNGaseはPCT N-グリカンにも作用する.

小胞体中でのフォールディングに成功した糖タンパク質は,ゴルジ装置へ配送され,N-グリカン部分は植物特徴的な複合型糖鎖へと修飾反応を受けていく.一方,糖鎖認識シャペロン分子やジスルフィド結合形成酵素(PDI)のアシストにも関わらず,適切な立体構造構築に失敗したミスフォールド糖タンパク質は,その分子表面に露出する疎水性領域の会合により凝集体を形成し,極めて危険な細胞毒性をもつようになる.そのため,ミスフォールド糖タンパク質は小胞体から細胞質へ逆輸送され,ユビキチン化された後にプロテアソームによる分解を受けることになるになるが,ミスフォールド糖タンパク質の26Sプロテアソームへの搬入には結合するハイマンノース型糖鎖が障害となるため,先行して細胞質PNGase(cPNGase)によるN-グリカン除去が起こると考えられている(19, 20, 24, 28, 46)19) S. Ninagawa, G. Geroge & K. Mori: Biochim. Biophys. Acta, 1865, 129812 (2021).20) 蜷川 暁:生化学,93, 476 (2021).24) T. Suzuki & Y. Funakoshi: Glycoconj. J., 23, 291 (2006).28) 鈴木 匡:生化学,88, 182 (2016).46) T. Suzuki: J. Biochem., 157, 23 (2015)..cPNGaseによりミスフォールド糖タンパク質から還元末端にGlcNAc 2残基を有する(GN2型)HMT-GN2-FNGs(Man9-5GlcNAc2)が生成した後,ENGaseにより還元末端側のGcNAcβ1–4GlcNAcが加水分解を受けHMT-GN1-FNGsが細胞質で生成する.cPNGaseもENGaseも細胞質で機能することから,ともに中性pH付近に至適pHを有しているが,cPNGaseは還元条件下でのみ活性を示す.cPNGaseとENGase(GH85)の協奏作用で生成したHMT-GN1-FNGsの分解に関しては,動物細胞の場合では細胞質に局在するα-Man’ase(細胞質α-Man’ase)(28, 48, 49)28) 鈴木 匡:生化学,88, 182 (2016).48) H. Oku, S. Hase & T. Ikenaka: J. Biochem., 110, 29 (1991).49) T. Suzuki, I. Harada, M. Nakano, M. Shigeta, T. Nakagawa, A. Kondo, Y. Funakoshi & N. Taniguchi: Biochem. J., 400, 33 (2006).が,分解を司ることが明らかにされている.つまり,動物細胞では,ENGaseにより生成したHMT GN1-FNGsは細胞質α-Man’ase(Man2C1)によりMan3GlcNAc1にトリミングされた後,リソソームへ取り込まれて単糖にまで分解されると理解されている.ところが,植物にはそれに対応する細胞質α-Man’aseは見いだされておらず,Man2C1(GH38)のオーソログ遺伝子も見つかっていない.このことは,植物の細胞質で生成したHMT-GN1-FNGsの分解機構は,動物細胞のそれとは異なる可能性を示唆している.

FNGs生成に関わるcPNGaseやENGaseの欠損により引き起こされる表現型変化(疾患等)についてはしばらく不明であった.最近,ヒトcPNGase遺伝子欠損により,発育不全,四肢の筋力低下,不随意運動などの重篤な症状が引き起こされることが明らかにされ,遺伝性稀少疾患「NGLY1欠損症」として知られるようになった(46)46) T. Suzuki: J. Biochem., 157, 23 (2015)..そして,NGLY1欠損症が過剰なユビキチン化によるプロテアソーム分解系の破綻に起因する可能性が示されている(50)50) Y. Yoshida, M. Asahina, A. Murakami & T. Suzuki: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 118, e2102902118 (2021)..一方,植物cPNGaseについては,アラビドプシス(Arabidopsis thaliana)のゲノム情報からオロソログ遺伝子が同定され,その候補遺伝子をcPNGase欠損酵母中で発現させることで,植物細胞でもcPNGaseがミスフォールド糖タンパク質の脱グリコシル化に関与することが示された(51, 52)51) A. Diepold, L. Guangtao, W. J. Lennarz, T. Nürnberger & F. Brunner: Plant J., 52, 94 (2007).52) Y. Masahara-Negishi, A. Hosomi, M. Della Mea, D. Serafini-Fracassini & T. Suzuki: Biochim. Biophys. Acta, 1820, 1457 (2012)..しかしながら,植物には酸性領域に至適pHを有する植物特異的な酸性PNGase(aPNGase)が存在するため,植物抽出液等を用いたcPNGaseのin vitro活性を直接証明した報告はなかった.最近になってようやく,aPNGase遺伝子をダブルノックアウト(DKO)したA. thaliana抽出液を用いて(37, 38)37) R. Uemura, M. Ogura & C. Matsumaru: T. Akiyama M. Maeda & Y. Kimura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 82, 1172 (2018).38) C. Yamamoto, M. Ogura, R. Uemura, M. Megumi, H. Kajiura, R. Misaki, K. Fujiyama & Y. Kimura: Anal. Biochem., 634, 114367 (2021).,変性糖タンパク質に活性を示すcPNGaseのin vitro活性が証明された(39)39) S. Shirai, R. Uemura, M. Maeda, H. Kajiura, R. Misaki, K. Fujiyama & Y. Kimura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 85, 1460 (2021).

HMT-GN2-FNGsからHMT-GN1-FNGsへの変換を司る植物ENGaseについても,遺伝子同定や基質特異性解析が進んでいる(36, 53~55)36) M. Maeda, N. Okamoto, N. Araki & Y. Kimura: Front. Plant Sci., 12, 647684 (2021).53) K. Nakamura, M. Inoue, M. Maeda, R. Nakano, K. Hosoi & Y. Kimura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 73, 461 (2009).54) Y. Kimura, Y. Takeoka, M. Inoue, M. Maeda & K. Fujiyama: Biosci. Biotechnol. Biochem., 75, 1019 (2011).55) R. M. Fischl, J. Stadlmann, J. Grass, F. Altmann & R. Leonard: Plant Mol. Biol., 77, 275 (2011)..ENGase DKO A. thalianaやゲノム編集トマトでは成長や果実生育に顕著な変異はみられず,HMT-GN2-FNGsが蓄積されることから,cPNGaseにより生成したHMT-GN2-FNGsがENGaseの主要な基質であることが示唆されている(40, 54, 55)40) N. Okamoto, M. Maeda, C. Yamamoto, R. Kodama, K. Sugimoto, Y. Shinozaki, H. Ezura & Y. Kimura: Plant Physiol. Biochem., 190, 203 (2022).54) Y. Kimura, Y. Takeoka, M. Inoue, M. Maeda & K. Fujiyama: Biosci. Biotechnol. Biochem., 75, 1019 (2011).55) R. M. Fischl, J. Stadlmann, J. Grass, F. Altmann & R. Leonard: Plant Mol. Biol., 77, 275 (2011)..この後の議論で重要なポイントになるので,ここで植物ENGaseの基質特異性を少し説明したい.植物ENGaseはManα1–2Manα1–3Manβ1–4GlcNAcβ1–4GlcNAc構造ユニットを有するHMT-GN2-FNGsに強い活性を示すがα1–3Fuc/β1–2Xyl残基含有の典型的なPCT-GN2-FNGsには作用しない(図3-II図3■植物に見られる遊離N-グリカン(FNGs)の構造例(I)とFNGs生成に関与する3種の酵素の作用点(II)(36)36) M. Maeda, N. Okamoto, N. Araki & Y. Kimura: Front. Plant Sci., 12, 647684 (2021)..また,α1–3Fuc残基を有さずβ1–2Xyl残基を有するPCT N-グリカン(GlcNAc2Man3Xyl1GlcNAc2等)にも作用しないことが知られている(56, 57)56) A. Nishiyama, T. Nishimoto & H. Yamaguchi: Agric. Biol. Chem., 55, 1155 (1991).57) M. Maeda, N. Ebara, M. Tani, C. J. Vavricka & Y. Kimura: Glycoconj. J., 34, 229 (2017)..動物複合型(animal complex type, ACT)N-グリカンには,α1–3Fuc残基の代わりにα1–6Fuc残基が結合する複合型糖鎖が存在するが,この糖鎖にENGaseは作用することからα1–3Fuc/β1–2Xyl残基の存在がENGaseの加水分解活性を阻害しているものと考えられる.

2. 植物複合型FNGs(plant complex type, PCT-FNGs)の構造特性

植物には酸性領域に至適pHを有する酸性PNGase(aPNGase)が存在する.aPNGaseは液胞あるいは細胞外空間(アポプラスト)に存在し,ハイマンノース型および複合型N-グリカンを糖ペプチドから遊離させる.aPNGaseは,cPNGaseとは異なり,糖タンパク質よりも糖ペプチドに作用し還元条件を必要としないことから,老朽化(役目を終えた)タンパク質がプロテアーゼ分解されて生じた糖ペプチドから糖鎖を遊離させる役割を担っていると考えられる(図3-II図3■植物に見られる遊離N-グリカン(FNGs)の構造例(I)とFNGs生成に関与する3種の酵素の作用点(II)).aPNGaseは最初にアーモンド抽出物から見いだされ,ハイマンノース型糖鎖や動植物の複合型糖鎖を糖ペプチドから遊離させることができるためN-グリカン構造解析に汎用されてきた歴史がある(58, 59)58) N. Takahashi & H. Nishibe: J. Biochem., 84, 1467 (1978).59) N. Tomiya, J. Awaya, M. Kurono, S. Endo, Y. Arat & N. Takahashi: Anal. Biochem., 171, 73 (1988)..植物ではHMT-GN1-FNGsに加えて,HMT-GN2-FNGsやPCT-GN2-FNGsもよく見いだされ,これらのFNGsは分泌型糖タンパク質や液胞糖タンパク質の代謝分解過程で植物特徴的なaPNGaseにより生成するものと考えられてきた.

ところが10年ほど前,これまで動植物で明らかにされてきた糖鎖代謝機構では合理的な説明がつかない奇妙な構造のPCT-GN1-FNGsがイネ培養細胞の培養液中から検出された(60)60) M. Maeda, M. Kimura & Y. Kimura: J. Biochem., 148, 681 (2010)..これらPCT-GN1-FNGsはイネ培養細胞からは見いだされず,培養液からのみ見いだされる.それに対して,PCT-GN2-FNGsはイネ細胞内からも培養液からも見いだされる.その後,PCT-GN1-FNGsはカナダ藻(57)57) M. Maeda, N. Ebara, M. Tani, C. J. Vavricka & Y. Kimura: Glycoconj. J., 34, 229 (2017).やα-Fuc’ase欠損アラビドプシスからも見いだされおり(61)61) S. Takata, M. Hayashi, M. Maeda, T. Ishimizu & Y. Kimura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 86, 1413 (2022).,これらのPCT-GN1-FNGsは還元末端側にGN1型構造をもち,非還元末端側にはPCT構造を有しているので,ENGaseの作用を受けているだけでなく,ゴルジ装置を経て糖鎖プロセシングが完了している構造である.ENGaseの細胞質での機能や基質特異性(図3-II図3■植物に見られる遊離N-グリカン(FNGs)の構造例(I)とFNGs生成に関与する3種の酵素の作用点(II))を考慮しても,これらのPCT-GN1-FNGsはPCT-GN2-FNGsから生成したものではない.したがって,これらのPCT-GN1-FNGsは,既知のFNGs生成機構では説明できないパラドックスを抱えている.

このPCT-GN1-FNGsの生成機構について,筆者らは図4図4■PNGase/ENGase非依存的なFNGs生成の仮説機構に示すような仮説を提唱している(23, 44)23) M. Maeda & Y. Kimura: Front. Plant Sci., 5, 429 (2014).44) M. Katsube, N. Ehara, M. Maeda & Y. Kimura: Front. Plant Sci, 11, 61012294 (2021)..すなわち,小胞体中で生じたミスフォールド糖タンパク質が細胞質でプロテアソーム分解を受けるに先だって,cPNGaseとENGaseの協奏作業でHMT-GN1-FNGsが細胞質で生成される.動物の場合では,細胞質α-Man’aseにより分解が進み,最終的にはリソソームへと搬入されると考えられているが,植物細胞質で機能するα-Man’aseは見いだされていない.そこで筆者らは,(1)細胞質で生成したHMT-GN1-FNGsが小胞体中に取り込まれた後,(2)フォールディングに成功した糖タンパク質とともにゴルジ装置へ搬送され,そこでPCT構造へとプロセシングを受け,(3)最終的に分泌型糖タンパク質と同様に細胞外へ分泌されるという経路を想定した(図4-I図4■PNGase/ENGase非依存的なFNGs生成の仮説機構).

図4■PNGase/ENGase非依存的なFNGs生成の仮説機構

GN1-FNGsもGN2-FNGsもハイマンノース型(HNT-)FNGsがゴルジ装置内でプロセシングを受けた後,細胞外に分泌されると考えられる.OST,オリゴ糖転移酵素(Oligosaccharyl transferase).

上述の仮説経路を証明するために,筆者らはカボチャ実生胚軸からミクロゾーム画分(小胞体が主成分であり,ENGase活性は検出されない)を調製後,その中に存在するFNGsの構造解析を行った(44)44) M. Katsube, N. Ehara, M. Maeda & Y. Kimura: Front. Plant Sci, 11, 61012294 (2021)..その結果,小胞体中にはHMT-GN2-FNGs(Man9-8GlcNAc2)に加えて,HMT-GN1-FNGs(Man9-7GlcNAc1)が存在していることを見いだした.それぞれの存在量はGN2-FNGsが30 pmol/g胚軸,GN1-FNGsが40 pmol/g胚軸であり,両者存在量に顕著な差は見られなかった.この定量値については,(1)FNGsを蛍光標識糖鎖として算出していること,(2)ミクロゾーム調製中にミクロゾーム(小胞体)が破壊されていることを考慮する必要があるため,小胞体中にHMT-FNGsはより高濃度で存在すると思われる.HMT-GN1-FNGsが小胞体中に存在することは,PCT-GN1-FNGsが筆者らの推定機構で生成することを示していると思われる.動物細胞では,小胞体中でGlc3Man9GlcNAc2のタンパク質への転移を司るOSTが,Glc3Man9GlcNAc2-PP-Dol(オリゴ糖-脂質中間体)に対して加水分解活性を示すことで,HMT-GN2-FNGsが生成することが提唱されている(26~28)26) Y. Harada, H. Hirayama & T. Suzuki: Cell. Mol. Life Sci., 72, 2430 (2015).27) Y. Harada, Y. Masahara-Negishi & T. Suzuki: Glycobiology, 25, 1196 (2015).28) 鈴木 匡:生化学,88, 182 (2016)..したがって,植物ミクロゾーム(小胞体)中に見いだされたHMT-GN2-FNGsも動物細胞同様にOSTの加水分解活性によって生成したものだと考えられる.cPNGaseとENGaseの両方の遺伝子をノックアウト(KO)したA. thaliana変異株では,ENGase遺伝子のみをKOした変異株と比較してHMT-GN2-FNGs量はほぼ半減しているものの,HMT-GN2-FNGsが生成している(62)62) S. Shirai, R. Uemura, M. Maeda, R. Misaki, K. Fujiyama & Y. Kimura: Glycoconj. J., 36, 365 (2019)..さらに,筆者らは植物特異的なaPNGase遺伝子DKO A. thalianaを作成し(33, 36)33) D. Yokouchi, N. Ono, K. Nakamura, M. Maeda & Y. Kimura: Glycoconj. J., 30, 463 (2013).36) M. Maeda, N. Okamoto, N. Araki & Y. Kimura: Front. Plant Sci., 12, 647684 (2021).,その変異株に発現するFNGsの構造解析を行ったところ,aPNGase活性を完全に欠損しているにも関わらずPCT-GN2-FNGsが生成していることが確認された(63, 64)63) R. Uemura, M. Maeda, T. Akiyama, R. Misaki, K. Fujiyama & Y. Kimura: In 19th European Carbohydrate Symposium, Barcelona, Spain, 2017, Abstract p. 134.64) R. Uemura, T. Akiyama, M. Maeda, H. Kajiura, R. Misaki, K. Fujiyama & Y. Kimura: Glycoconj. J., submitted..この結果は,aPNGaseが関与しないPCT-GN2-FNGs生成機構が存在することを示唆しており,筆者らのFNGs生成仮説機構(図4-II図4■PNGase/ENGase非依存的なFNGs生成の仮説機構)を支持していると思われる.

ハイマンノース型(HMT)糖鎖のタンパク質フォールディング促進活性

前述のように,小胞体中に輸送された新生タンパク質は,シャペロン分子やプロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)等の様々な小胞体タンパク質のアシストを受けて機能をもつタンパク質へとフォールディングしていく.そして糖タンパク質の場合は,フォールディング過程でそれらに結合するGlc含有HMT-N-グリカン(Glc1Man9GlcNAc2)がシャペロン分子(CNXやCRT)との相互作用において重要な役割を担っている.一方,シャペロン分子のアシストによっても適切にフォールディングできない糖タンパク質に結合するMan9GlcNAc2は,小胞体α-Man’aseであるEDEM1–3(植物の場合はMNS4とMNS5)によりα1–2Man残基がトリミングを受けてα1–6Man残基が露出したHMT糖鎖(Man7-5GlcNAc2)へと変換され,ミスフォールドタンパク質の小胞体関連分解(ER-associated degradation, ERAD)へ向かう標識となっている(7, 18~20, 28)7) R. Strasser: Glycobiology, 26, 926 (2016).18) Y. Kamiya, T. Satoh & K. Kato: Biochim. Biophys. Acta, 1820, 1327 (2012).19) S. Ninagawa, G. Geroge & K. Mori: Biochim. Biophys. Acta, 1865, 129812 (2021).20) 蜷川 暁:生化学,93, 476 (2021).28) 鈴木 匡:生化学,88, 182 (2016)..このように,小胞体中でのタンパク質品質管理系において,タンパク質に結合するHMT糖鎖は糖鎖認識タンパク質のターゲットとしてタンパク質フォールディングあるいはERAD機構で重要な役割を担っている.この場合,糖鎖はあくまでシャペロン分子,小胞体α-Man’ase(EDEM1–3)あるいは小胞体レクチン(OS9)等のターゲットとして機能しており,糖鎖自身がタンパク質フォールディングに積極的に関与するものではない.

小胞体中でのタンパク質品質管理機構の詳細が明らかになる以前(1990年代後半),タンパク質に結合するN-グリカン自身がタンパク質のフォールディングを誘導するとの報告がなされていた.山口らは,還元変性させたリボヌクレアーゼA(非糖タンパク質)とリボヌクレアーゼB(糖タンパク質)を空気酸化条件下で再フォールディングさせた場合,リボヌクレアーゼBのフォールディング進行が速やかに起こることを報告している(13, 14)13) H. Ymaguchi: Trends Glycosci. Glycosci., 14, 139 (2002).14) H. Yamaguchi & M. Uchida: J. Biochem., 120, 474 (1996)..さらに,還元変性させたリボヌクレアーゼAにHMT(Man5GlcNAc2-Asn)-糖ペプチドや動物複合型(ACT)-糖ペプチドを添加することにより,タンパク質フォールディングが促進され,酵素活性が再生することを報告している(13~15)13) H. Ymaguchi: Trends Glycosci. Glycosci., 14, 139 (2002).14) H. Yamaguchi & M. Uchida: J. Biochem., 120, 474 (1996).15) I. Nishimura, M. Uchida, Y. Inohana, K. Setoh, K. Daba, S. Nishimura & H. Yamaguch: J. Biochem., 123, 516 (1998)..また,大豆レクチン(SBA)に結合するHMT糖鎖(Man9GlcNAc2)を除去したSBAは四量体構造を形成できないこと,そしてこのHMT-糖鎖がα-Man’aseによって消化を受けないことなどから,SBAに結合するHMT糖鎖はサブユニット間に存在して四次構造形成に重要な機能を担っていると推定されている(13, 16)13) H. Ymaguchi: Trends Glycosci. Glycosci., 14, 139 (2002).16) H. Matsuoka, K. Shibata & H. Yamaguchi: J. Biochem., 126, 474 (1999)..さらに,山口らはエリスロポイエチン(EPO)に結合する動物複合型糖鎖が,EPOタンパク質表面に存在する疎水性アミノ酸残基や芳香族アミノ酸残基と疎水性相互作用をすることで立体構造の安定化に寄与していることを報告し,親水性と認識されているN-グリカンの分子構造には親水性面と疎水性面が存在して,その疎水性面がタンパク質の疎水性領域と相互作用していることを強調している(13, 65)13) H. Ymaguchi: Trends Glycosci. Glycosci., 14, 139 (2002).65) T. Toyoda, T. Itai, T. Arakawa, K. H. Aoki & H. Yamaguchi: J. Biochem., 128, 731 (2000).

一方,筆者らはタチナタマメα-Man’aseに2カ所のN-グリコシル化部位があり,1カ所にはα-Man残基を有さないパウチマンノース型糖鎖(Man1Xyl1Fuc1GlcNAc2)が結合し,もう1カ所には自身の基質となるHMT糖鎖(Glc1Man9GlcNAc2; 85%, Man9GlcNAc2; 15%)が結合していることを見いだした(12)12) Y. Kimura, D. Hess & A. Strum: Eur. J. Biochem., 264, 168 (1999)..このことは,HMT糖鎖が自身のα-Man’ase活性による分解を受けない環境にあることを示している.事実,タチナタマメα-Man’aseは前もって還元変性処理することでのみENGase(Endo-H)感受性を示してHMT-GN1-FNGsが遊離する.興味深いことに,還元変性処理のみを行った場合は酸化再生処理によりα-Man’ase活性が回復する一方で,Endo-H処理により脱グリコシル化したα-Man’aseは活性がほとんど回復しなかった(12)12) Y. Kimura, D. Hess & A. Strum: Eur. J. Biochem., 264, 168 (1999)..この結果は,α-Man’aseに結合するHMT N-グリカンがタンパク質の立体構造(4次構造)構築を誘導することを示している.

HMT-FNGsのタンパク質フォールディング誘導活性とアミロイド凝集阻害活性

HMT-FNGsが小胞体中に存在することが明らかになり,筆者らはHMT-FNGsのフォールディング誘導活性が細胞内で意義をもつのではないかと考え,アミロイド凝集形成を誘発するタンパク質(Wilとαシヌクレイン)をモデルタンパク質として用い,HMT-FNGsのフォールディング誘導活性とアミロイド形成阻害活性について解析を行った.

全身性アミロイドーシスの一種であるALアミロイドーシスは多発性骨髄腫に付随して起こる疾患であり,抗体を産生する活性化B細胞(形質細胞)から,抗体L鎖可変部領域の変異体が大量に産生される.この変異体L鎖はアミロイド凝集を形成する傾向があるため,アミロイド凝集が全身の臓器に蓄積,沈着し,種々の臓器障害を惹起する.ALアミロイドーシスにおいては,抗体L鎖のλ鎖の変異体がアミロイド凝集の原因タンパク質となっている.抗体軽鎖のλ鎖のうちλ6タイプに属する変異体であるWil(66)66) V. Bellotti, P. Mangione & G. Merlini: J. Struct. Biol., 130, 280 (2000).はALアミロイドーシス患者から単離されたアミロイド凝集化タンパク質の一つであり,抗体軽鎖を原因とするアミロイド凝集形成機構のモデルタンパク質として利用されていた.三島らは,Wilに特有な3つのヒスチジンを野生型と同じ残基に変異させた変異体タンパク質(3Hmut.Wil)を作成し(67)67) T. Mishima, T. Ohkuri, A. Monji, T. Kanemaru, Y. Abe & T. Ueda: Biochem. Biophys. Res. Commun., 391, 615 (2010).,これを酸性条件下(pH 2)でアミロイド凝集形成が非常に速いモデルタンパク質として利用することでアミロイド凝集形成抑制物質の探索系を確立している.そして,阿部らは3Hmut.Wilを用いて,糖分子(トレハロース,スクロース,グルコース)が1~2 M濃度でオスモライトとして機能することでアミロイド凝集形成を抑制することを報告した(68)68) M. Abe, Y. Abe, T. Ohkuri, T. Mishima, A. Monji, S. Kanba & T. Ueda: Protein Sci., 22, 467 (2013)..これら糖分子によるタンパク質の立体構造安定化(アミロイド凝集形成阻害)は,「選択的水和」という機構によるものと理解されており(69)69) J. C. Lee & S. N. Timasheff: J. Biol. Chem., 256, 7193 (1981).,糖添加により周囲の水分子がタンパク質に近づくことで水和が促進されることによる.正常フォールドした球状タンパク質は一般的に内部に疎水性残基を持ち,変性(アンフォールドあるいはミスフォールド)状態においては疎水面が表面に露出している.そしてこの疎水性領域に水分子が近づくことでエネルギー的に不都合な相互作用が起こり,それが引き金となって変性状態が不安定化される.つまり,相対的に未変性状態(正しいフォールドへの方向)が安定化されるため,選択的水和によるタンパク質の安定化がアミロイド凝集形成抑制に関与すると考えられている.

そこで,筆者らも3Hmut.Wilをモデルタンパク質として用いて,植物種子あるいは卵黄から調製したHMT-FNGs, PCT-FNGs(Man3Xyl1Fuc1GlcNAc2),ACT-FNGs(Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2)のタンパク質フォールディング促進活性とアミロイド凝集形成阻害活性を解析した.その結果,5 mM濃度のHMT-GN1-FNGs, HMT-GN2-FNGsおよびGN2-アシアロACT-FNGsはアミロイド凝集形成(酸性条件下)を顕著に抑制する(HMT-GN1-FNGs, 約60%;HMT-GN2-FNGs, 約85%;GN2-アシアロACT-FNGs, 約60%)(図5図5■HMT-FNGsのアミロイド凝集抑制).特にHMT-FNGsは15 mM濃度では,アミロイド凝集形成をほぼ抑制することがわかった(41, 42)41) T. Tanaka, N. Fujisaki, M. Maeda, M. Kimura, Y. Abe, T. Ueda & Y. Kimura: Glycoconj. J., 32, 193 (2015).42) M. Katsube, Y. Abe, M. Maeda, T. Tanaka, T. Ueda & Y. Kimura: In 19th European Carbohydrate Symposium, Barcelona, Spain, 2017, Abstract p. 574..筆者らは,HMT-GN2-FNG(Man8GlcNAc2)が5 mM濃度でα-シヌクレインのアミロイド凝集形成に対しても抑制活性を有することを確認しており(43)43) S. Kosaka, M. Katsube, M. Maeda & Y. Kimura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 86, 770 (2022).,HMT-GN2-FNGのアミロイド凝集抑制活性はアミロイド凝集を形成するタンパク質に対して共通にみられる活性であると考えられる.その一方で,5 mM濃度のPCT-GN2-FNGsでは,アミロイド凝集形成抑制は観察されなかった.スクロースやグルコースが1M濃度でアミロイド凝集形成を抑制する(68)68) M. Abe, Y. Abe, T. Ohkuri, T. Mishima, A. Monji, S. Kanba & T. Ueda: Protein Sci., 22, 467 (2013).のに対して,HMT-FNGsがmM濃度で作用することから,HMT-FNGsの分枝構造と物理化学的な特性が大きな寄与をなしていると考えられる.山口らは動物複合型N-グリカンの分枝構造が有する疎水性面の寄与が大きいと提唱しているが(13, 65)13) H. Ymaguchi: Trends Glycosci. Glycosci., 14, 139 (2002).65) T. Toyoda, T. Itai, T. Arakawa, K. H. Aoki & H. Yamaguchi: J. Biochem., 128, 731 (2000).,HMT-FNGsの疎水面が糖鎖構造上で具体的にどのような広がりをもつのかについての知見は未だ得られていない.

図5■HMT-FNGsのアミロイド凝集抑制

3Hmut.Wilのアミロイド凝集形成に対するHMT-GN2-FNGとHMT-GN1-FNGの抑制活性.チオフラビンTと5 mM HMT-FNGsを用いて,3Hmut.Wilのアミロイド凝集形成を蛍光分析により解析した.

レクチンと糖鎖の結合では,糖結合部位に位置するTrp残基の環状疎水面とアセタール環の疎水面が相互作用することが知られている.とは言え,芳香族アミノ酸残基と糖残基のピンポイントな疎水性相互作用だけではアミロイド凝集を抑制するとは考えがたく,タンパク質表面の疎水性領域とFNGsが有する疎水面との相互作用が重要だと考えられる.FNGsのアミロイド凝集形成抑制活性は,変性状態から未変性状態(フォールド状態に近い状態)に平衡を傾けて,βシート構造への過度の変化を抑制しているためと理解できる.しかしながら,アミロイド凝集形成抑制活性だけでは,HMT-FNGsがシャペロン様活性を有してタンパク質フォールディングを導くとは結論づけることができない.

そこで,3Hmut.Wilの1H-15N HSQCスペクトル変化を指標にHMT-FNGsのタンパク質フォルールディング誘導活性を解析した.図5図5■HMT-FNGsのアミロイド凝集抑制に代表例として,Man8GlcNAc2(HMT-GN2-FNG)を添加した場合の1H-15N HSQCスペクトルを示す.添加濃度の上昇に伴い8.5 ppm付近に集中していた1Hの化学シフト値が広範囲に分散していることから(41, 42)41) T. Tanaka, N. Fujisaki, M. Maeda, M. Kimura, Y. Abe, T. Ueda & Y. Kimura: Glycoconj. J., 32, 193 (2015).42) M. Katsube, Y. Abe, M. Maeda, T. Tanaka, T. Ueda & Y. Kimura: In 19th European Carbohydrate Symposium, Barcelona, Spain, 2017, Abstract p. 574.,Man8GlcNAc2が3Hmut.Wilの変性状態からネイティブ構造への誘導(フォールディング誘導)を惹起していることがわかる.それに対して,HMT-GN1-FNGsは顕著な化学シフト値の分散は認められず(42)42) M. Katsube, Y. Abe, M. Maeda, T. Tanaka, T. Ueda & Y. Kimura: In 19th European Carbohydrate Symposium, Barcelona, Spain, 2017, Abstract p. 574.,HMT-GN2-FNGに比べるとフォールディング誘導活性は低いと考えられる.この結果は,還元末端側のGlcNAcβ1–4GlcNAc(N,N′-ジアセチルキトビオース)構造がフォールディング誘導活性に大きく寄与することを示している.一方,ACT(動物複合型)GN2-FNG(Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2)やPCT-GN2-FNG(Man3Xyl1Fuc1GlcNAc2)では,化学シフト値の分散はほとんど確認されなかったことから,HMT-GN2-FNGsの強力なタンパク質フォールディング誘導活性は,還元末端側のN,N′-ジアセチルキトビオース構造に加えて,非還元末端側に複数のα-Man残基の存在が必要であることを示している.つまり,HMT-GN2-FNGsのみがタンパク質凝集を抑制するとともにタンパク質フォールディング誘導活性を有している(図6, 7図6■NMR分析によるHMT-GN2-FNG(Man8GlcNAc2)のタンパク質フォールディング誘導活性の証明図7■HMT-FNGのタンパク質フォールディング誘導活性とアミロイド凝集抑制活性).それに対して,HMT-GN1-FNGとACT-GN2-FNGはタンパク質凝集をある程度抑制するもののタンパク質フォールディング誘導活性はほとんど見られないことから,タンパク質(アミロイド)凝集阻害活性とタンパク質フォールディング誘導活性はそれぞれ異なる活性である可能性も考えられる.また,逆相カラムを用いた糖鎖構造解析の経験から,HMT-GN2-FNGsに比べてACT-GN2-FNGsは逆相カラムへの結合性が強いことが知られているので,HMT-GN2-FNGsのタンパク質フォールディング誘導活性は糖鎖分子の疎水性からだけでは説明できないと思われる.

図6■NMR分析によるHMT-GN2-FNG(Man8GlcNAc2)のタンパク質フォールディング誘導活性の証明

HMT-GN2-FNG(Man8GlcNAc2)の添加濃度依存的に化学シフト値の分散が確認され,変性タンパク質のフォールディングが誘導されていることが示された.

タンパク質の構造変化,あるいは立体構造構築を評価する手段として,Trp残基の蛍光強度の測定をFNGsの3Hmut.Wil立体構造構築への関与を評価する一手法として用いた結果を述べる.一般的に,タンパク質に含まれるTrp残基が水環境近くに存在するとTrp残基由来の蛍光が強く観察され,Trp残基がタンパク質内部に埋もれていく(フォールディングが進行する)と蛍光強度が減少する.興味深いことにHMT-GN2-FNG, PCT-GN2-FNGを変性状態の3Hmut.Wilに添加して行くと,2種の糖鎖はTrp残基由来の蛍光強度を減少させる.HMT-GN2-FNGについては,NMR分析でも3Hmut.Wilのフォールディングを促進していることが示されているので理解できるが,タンパク質フォールディング誘導活性を持たないPCT-GN2-FNGもHMT-GN2-FNG同様に蛍光強度を減少させる(41)41) T. Tanaka, N. Fujisaki, M. Maeda, M. Kimura, Y. Abe, T. Ueda & Y. Kimura: Glycoconj. J., 32, 193 (2015)..このことは,PCT-GN2-FNGもTrp残基と相互作用することでTrp残基を水環境からいわば遮蔽している可能性を示唆しているように思われる.ところで,インドール環を有する生理活性物質の一つとして,代表的な植物ホルモンであるオーキシン(インドール-3-酢酸)がある.そこで,植物細胞外空間に多く存在するPCT-GN2-FNG(60, 70)60) M. Maeda, M. Kimura & Y. Kimura: J. Biochem., 148, 681 (2010).70) Y. Tsujimori, M. Ogura, M. Z. Rahman, M. Maeda & Y. Kimura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 83, 1310 (2019).とインドール-3-酢酸との相互作用について蛍光分析を行ったところ,PCT-GN2-FNsはオーキシンとも相互作用することがわかった(71)71) Y. Iguchi, A. Horiguchi, M. Maeda, A. Ishiwata, Y. Ito & Y. Kimura: Plant Biotechnol., submitted..この相互作用が植物生理学的にどのような意味を持つかは不明であるが,1990年代に提唱されたFNGsのオーキシン様活性となんらかの相関があるようにも思われる.オーキシンの極性移動の際,アポプラストは弱酸性環境であるため,FNGsとの相互作用がオーキシンの親水性を高めている可能性も考えられる.30年前に提唱されたFNGsのオーキシン様活性については現在でも不明な点が多いが,今後,様々な構造のFNGsとオーキシン類との相互作用解析や植物内でのFNGs-オーキシン複合体の確認などを通して,FNGsの生理活性についての新たな知見が得られることが期待される.

図7■HMT-FNGのタンパク質フォールディング誘導活性とアミロイド凝集抑制活性

タンパク質フォールディング誘導活性はHMT-GN2-FNGに特徴的だが,アミロイド凝集抑制活性はHMT-GN1-FNGにも見られる.

おわりに

筆者は,1980年代後半から,植物糖タンパク質に結合するN-グリカンあるいは植物に遍在する遊離N-グリカン(FNGs)の構造特性,生成機構,機能に興味を持ち,一貫して植物糖タンパク質糖鎖に焦点を当てて研究を進めてきた.動物糖タンパク質に結合するN-グリカンについては,この30数年の間に医学的観点からも極めて重要な機能や病態マーカーとしての意義が明らかにされてきている.一方,植物糖タンパク質に結合するN-グリカンの機能については未だ不明な点が多く,糖鎖構造変異による植物成長や果実熟成への障害が報告されているものの,合理的な説明ができる状況には至っていない.特に,分化・成長中の植物にμM濃度で存在するFNGsについては,1990年代半ばにオーキシン様活性が報告されたことから,筆者らもFNGs生成に関わる3種の酵素(aPNGase, cPNGase, ENGase)に焦点を当て,遺伝子改変植物の構築等を行ってきたが,顕著な表現型変化は観察されないため,FNGsはERAD機構における副産物でしかないと思われた.しかしながら,aPNGase, cPNGase, ENGaseを欠損した植物からもFNGsが検出されたことから(62, 63)62) S. Shirai, R. Uemura, M. Maeda, R. Misaki, K. Fujiyama & Y. Kimura: Glycoconj. J., 36, 365 (2019).63) R. Uemura, M. Maeda, T. Akiyama, R. Misaki, K. Fujiyama & Y. Kimura: In 19th European Carbohydrate Symposium, Barcelona, Spain, 2017, Abstract p. 134.,これら3種の脱グリコシル化関連酵素の遺伝子を抑制するだけでは,植物の分化生長に関わるFNGs機能を明らかにすることは困難であることも明らかになってきた.

その一方で,本稿で紹介させて頂いたように,植物の分化生長に関わる生理機能とは別に,FNGs(特にHMT-FNGs)がタンパク質のフォールディング誘導活性あるいはアミロイド凝集抑制活性を有することが明らかになった.そしてこれらHMT-FNGs(GN1型およびGN2型)が分泌型タンパク質のフォールディングの場ともいえる小胞体中にも存在することも明らかになってきた.このことは,タンパク質品質管理系において,FNGsがタンパク質凝集抑制あるいはタンパク質フォールディングを促す貴重なバイプレーヤーとして機能する可能性を示唆している.但し,(1)小胞体中でのFNGs存在量について正確な定量方法が確立していないこと,(2)タンパク質フォールディング誘導やタンパク質凝集抑制するために必要となるmM濃度でHMT-FNGsが小胞体中に存在することの証明はなされていないことから,HMT-FNGsの細胞内におけるタンパク質フォールディング誘導活性やアミロイド凝集抑制活性についてはさらなる検証が必要であろう.しかし,スクロース等が高濃度(1M)でアミロイド凝集抑制を示すのに対して,HMT-FNGsはmM濃度で抑制活性を示すことや,HMT-GN2-FNGsがタンパク質フォールディング誘導活性を示すことは,HMT-FNGsがタンパク質の立体構造構築に対して特異的な機能を有することは確かであろう.ACT-GN2-FNGやPCT-GN2-FNGと比べても機能的な違いが見られていることからも,HMT-FNGが有する特異的な物理化学的な性質がタンパク質フォールディング誘導機能を司っていると考えられるが,現時点では合理的な物理化学的説明が難しい.今後,FNGsのタンパク質工学への応用や薬剤機能への応用を考える上でも,FNGsとミスフォールドタンパク質の疎水領域との相互作用の全体像をどのような手法で解析するかが鍵になると思われる.

Acknowledgments

3Hmut.Wilの1H-15N HSQCスペクトル測定に際しては,九州大学薬学研究院 植田 正教授および九州大学薬学研究院 阿部 義人 准教授(現 国際医療福祉大 福岡薬学部 教授)にご指導頂きました.

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