解説

食品中のナノ粒子に関する機能性研究植物ナノ粒子の機能

Research in the Function of Nano Vesicles Derived from Edible Plants: Nano Vesicles in Edible Plants

Masao Yamasaki

山﨑 正夫

宮崎大学農学部

Yumi Yamasaki

山﨑 有美

宮崎大学地域資源創成学部

Tatsuya Oshima

大島 達也

宮崎大学工学部

Published: 2023-02-01

食品の健康機能性研究は健康食品の開発に資するだけでなく,地域食材のPR材料としても一役買っている.筆者らは宮崎県独自の農産品ブルーベリー葉を健康食品素材として提案しているが,この研究では機能性発見に続いて,抽出,分離,精製をしながら機能性評価にフィードバックを繰り返すことで,特定の分子サイズのプロアントシアニジンが重要であることを示した(1).機能性発見から活性成分の特定という流れは,食品機能性研究においては一般的な戦略であり,解析が進むにつれ現象の理解は分子レベルでの思考になる.筆者らは食品機能性研究者として『食品は生物(せいぶつ)である』という視点に立ち戻ってみることにした.

Key words: ナノベシクル; miRNA

そのような視点から文献を遡ると,植物由来のmiRNAがヒトや動物の血中から検出できるという大変興味深い事実に行きあたる(2)2) L. Zhang, D. Hou, X. Chen, D. Li, L. Zhu, Y. Zhang, J. Li, Z. Bian, X. Liang, X. Cai et al.: Cell Res., 22, 107 (2012)..miRNAは21–25塩基長の1本鎖RNAであり,それ自体は翻訳されないnon-coding RNAであるが,他の遺伝子の3 prime untranslated region(3′UTR)を認識してmRNAを不安定化し翻訳を抑制する.miRNAと似た作用を持つsiRNAはmRNAの翻訳領域にある配列と完全に結合して翻訳阻害を引き起こすが,miRNAは不完全な相補鎖となる場合でも翻訳阻害を引き起こせるため,ある程度の柔軟性を持った翻訳阻害機構であるといえる.また,3′UTR以外の領域に結合する場合や遺伝子発現を活性化する場合なども発見されている(3)3) J. O’Brien, H. Hayder, Y. Zayed & C. Peng: Front. Endocrinol., 9, 402 (2018)..そして,動物,植物いずれにおいてもmiRNAの存在は確認されているが,細胞間での特定の遺伝子発現を制御することで細胞の機能を調節すると考えられている.結果的にmiRNAは多種多様な遺伝子の発現に関与し,多くの生物学的プロセスの維持に重要であると考えられている.植物細胞がmiRNA生合成をすることは普遍性が高い現象であることから,私たちは食事を通じて植物由来のmiRNAを経口摂取していると考えられるが,それらのmiRNAは食品中の機能性成分の1つになりうるであろうか.植物由来のmiRNAが血中に移行すると考えた場合,消化による影響を受けずにインタクトな状態で吸収されたと想定されるが,RNAは小腸内でリボヌクレオチダーゼなどの作用によってヌクレオシドと無機リン酸レベルまで分解され,吸収されると考えられている.つまり,miRNAの消化管内での変化を考えると,血中に植物miRNAが検出される現象とは矛盾があるように思われる.これらのことは,経口摂取した植物由来のmiRNAが消化酵素から保護された状態で分解を免れて,体内に吸収される仕組みが存在することを示唆している.miRNAを安定に保護する仕組みとして,少なくともヒトなどの哺乳類ではエクソソームという存在が知られている.エクソソームはナノサイズの細胞外小胞(Extracellular vesicle(EV))で,エクソソーム中には種々のmiRNAが内包されていることが確認されている.そして,分泌細胞由来のmiRNAを含むエクソソームは標的細胞に取り込まれて,標的細胞内でmRNAの転写を制御することが知られている(4)4) H. Valadi, K. Ekström, A. Bossios, M. Sjöstrand, J. J. Lee & J. O. Lötvall: Nat. Cell Biol., 9, 654 (2007)..エクソソームは血中や尿中などの体液中からも検出することができるため,血液から生成する牛乳や母乳からも多くのエクソソームを検出することができ,それらのエクソソームの機能的,栄養学的価値も注目されている(5, 6)5) S. L. Ong, C. Blenkiron, S. Haines, A. Acevedo-Fani, J. A. S. Leite, J. Zempleni, R. C. Anderson & M. J. McCann: Nutrients, 13, 2505 (2021).6) C. Admyre, S. M. Johansson, K. R. Qazi, J.-J. Filén, R. Lahesmaa, M. Norman, E. P. A. Neve, A. Scheynius & S. Gabrielsson: J. Immunol., 179, 1969 (2007)..エクソソームはCD9, CD63, CD81などの特異的なマーカータンパク質の存在が提唱されているが,細胞外小胞の種類は多種多様であると推定されており,回収法や由来サンプルによってこれらの発現量にもばらつきがあることから,国際細胞外小胞学会からは『特定のマーカーを発現しているEV』という表記が望ましいという提唱もなされている.また,EVから標的細胞へのmiRNA移行が機能的に意味のあるものであるか否かに関してもまだ議論が進められている(7~9)7) M. Albanese, Y. A. Chen, C. Hüls, K. Gärtner, T. Tagawa, E. Mejias-Perez, O. T. Keppler, C. Göbel, R. Zeidler, M. Shein et al.: PLoS Genet., 17, e1009951 (2021).8) J. Laubier, J. Castille, S. Le Guillou & F. Le Provost: RNA Biol., 12, 26 (2015).9) A. C. Title, R. Denzler & M. Stoffel: J. Biol. Chem., 290, 23680 (2015)..哺乳類以外の生物においてもEVの存在は確認されている.種々の微生物もEVを産生するため,乳酸菌などの有用微生物や腸内細菌が産生するEVの機能的な意義についても今後の研究の発展が期待されているが(10, 11)10) Y. Miyoshi, A. Saika, T. Nagatake, A. Matsunaga, J. Kunisawa, Y. Katakura & S. Yamasaki-Yashiki: Biosci. Biotechnol. Biochem., 85, 1536 (2021).11) A. Kurata, S. Kiyohara, T. Imai, S. Yamasaki-Yashiki, N. Zaima, T. Moriyama, N. Kishimoto & K. Uegaki: Sci. Rep., 12, 13330 (2022).,本稿では微生物EVに関しては触れないことにする.植物細胞も例外ではなくEVを産生することが報告されており,その発見は1960年代まで遡ることができる(12, 13)12) W. A. Jensen: J. Ultrastruct. Res., 13, 112 (1965).13) W. Halperin & W. A. Jensen: J. Ultrastruct. Res., 18, 428 (1967)..その後,植物細胞によるEV産生に関する報告が散見されるようになるが,研究の視点としては植物生理学的なもので,植物体が微生物感染に対する応答として産生する構造物としてEVの成果が積み重ねられている(14, 15)14) Y. Shkryl, Z. Tsydeneshieva, A. Degtyarenko, Y. Yugay, L. Balabanova, T. Rusapetova & V. Bulgakov: Appl. Sci., 12, 8262 (2022).15) G. Liu, G. Kang, S. Wang, Y. Huang & Q. Cai: Front Plant Sci, 12, 757925 (2021)..また,植物細胞は細胞壁を有することからEVの放出を介した細胞間コミュニケーションの存在は疑問視されてきたが,Caiらの論文では,siRNA, miRNAを含むEVを植物細胞が放出し,植物に感染するカビにおける毒性遺伝子発現を制御することが示された(16)16) Q. Cai, L. Qiao, M. Wang, B. He, F. M. Lin, J. Palmquist, S. D. Huang & H. Jin: Science, 360, 1126 (2018)..植物EVに関する情報が近年増加しており,植物細胞がEVを放出するという事実は普遍的な現象である可能性が高い.このことは,我々は食事として植物を摂取した時にmiRNAを含むEVを日常的に摂取していることを意味しており,内容物であるmiRNAは消化酵素による分解から保護されることが考えられる.当初の話に戻って考えると,このような植物由来のmiRNAがヒト細胞における遺伝子発現に影響して細胞機能を変化させるとすれば,ナノ小胞とmiRNAという生物由来の複合体による作用で食品機能の少なくとも一部が理解できることが期待される.なお,前述の通りエクソソームを始めとする細胞外小胞の名称や定義については,2018年に国際細胞外小胞学会からガイドラインが提唱されているが(17)17) C. Théry, K. W. Witwer, E. Aikawa, M. J. Alcaraz, J. D. Anderson, R. Andriantsitohaina, A. Antoniou, T. Arab, F. Archer, G. K. Atkin-Smith et al.: J. Extracell. Vesicles, 7, 1535750 (2018).,特に非哺乳類におけるEVはエクソソームのようなマーカータンパク質も存在しないため,明確に定義することが難しく,呼称は論文によって異なっている.さらに,コラムにも記載したが,本稿で扱うナノ粒子はEVとは定義できないため,単にNano vesicle(NV)とよぶことにする.

植物由来NVの食品機能的な側面での解析結果に関する論文がcross-kingdom communication, interspecies communicationといった『植物からヒトへ,種を超えた情報伝達』という意味合いの言葉とともに,2010年度以降は飛躍的に増加している.対象とされている素材も野菜,果実に始まり薬用植物,ナッツ,キノコ類など非常に幅広くなってきている.筆者らの経験からもNVは回収量の違いこそあれ,少なく見積もってもほとんどの野菜,果実から回収することができる.NVの精製法としては基本的にエクソソームで用いられている手法が踏襲されているが,エクソソームマーカーをターゲットとした免疫学的な精製法はそれらのマーカーを発現していない植物NVでは用いることができない.エクソソーム単離法として,おそらく最も一般的である超遠心法が植物NVでも利用されることが多く,スクロース密度勾配遠心法を併用することで,植物NVの精製度を高める例もある.また,植物NVの回収にはサイズ排除クロマトグラフィーやポリマー法などのエクソソーム単離用に販売されている試薬,キットを用いることができるが,超遠心法も含めてそれぞれの方法によって得られるNVは回収量が異なり,おそらく得られるNVの化学的,物理的な性質は単離法により異なると思われる.植物NVの回収方法としてゴールドスタンダードは現時点で存在せず,データの解釈には単離法も重要な情報であるといえる.

植物NVの物理的な特徴として,粒径が100~200 nm程度であると報告される例が多いが,300 nmを超えるものや30 nm程度のものを回収したと報告するものも散見される(18)18) S. Q. Kim & K. Kim: Cells, 11, 2232 (2022)..ここで注意したい点として,粒径を測定する際の方法が挙げられる.現在,植物NVの粒径測定として最も汎用されるのがDynamic Light Scattering(DLS)法とNano Tracking Analysis(NTA)法である,これらはいずれもナノ粒子がブラウン運動量することを原理としているが,DLS法に関しては粒子の懸濁密度などによって結果が大きく異なり,粒径の分布が複数にわたる場合においても正確な数値が得られない場合がある.NTA法は1粒子のブラウン運動を検出する原理であるため,データのばらつきが小さく正確な粒径が得られやすいと考えられる.透過型電子顕微鏡や原子間力顕微鏡を用いた計測を実施している例も見られるが,どの手法を粒径測定として利用しているかは非常に重要な点である.私たちも走査電子顕微鏡を用いてNVの実体を観察したみたところ(図1図1■野菜由来のナノ粒子の外観と粒径分布),球状の物体として確認することができている.

図1■野菜由来のナノ粒子の外観と粒径分布

A; ピーマンから得られたNVの走査電子顕微鏡画像,B; タマネギから得られたNVの外観と粒径分布(DLS法)(M. Yamasakiら,Molecules, 26,2763, 2021;文献23を改変).

また,DLS法を用いて粒子のゼータ電位を測定している例も見られる.ゼータ電位は粒子の分散安定性の指標となるが,植物NVは負のゼータ電位を持つケースが多いようであり,凝集傾向にはないとの報告がなされている(19)19) M. Zhang, E. Viennois, C. Xu & D. Merli: Tissue Barriers, 4, e1134415 (2016)..一方で筆者らの経験から,植物の由来によってはNVが凝集傾向を持つものもあり,pHを変化させてゼータ電位を調節することにより凝集が解消する例に遭遇したこともある.凝集によって粒径が変化することは,一種のアーティファクトとも考えられ,粒径を測定する上では注意すべき点である.また,この点に関しては植物NVを機能性評価に用いる場合にも注意が必要と思われる.筆者らはin vitroにおいてマクロファージ細胞株を用いて植物NVの抗炎症作用を評価しているが,マクロファージによる微粒子の認識は粒径の大きさに影響される.100~200 nm程度かそれ以下の粒子では,300 nmを超えるような粒子に比べると細胞内への取り込みが起こりにくいことが報告されており,非貪食系の細胞においても粒径の変化によって粒子の細胞内取り込み機構が変化することが報告されている(20, 21)20) K. Kishita, K. Ibaraki, S. Itakura, Y. Yamasaki, N. Nishikata, K. Yamamoto, M. Shimizu, K. Nishiyama & M. Yamasaki: J. Oleo Sci., 65, 949 (2016).21) T. Petithory, L. Pieuchot, L. Josien, A. Ponche, K. Anselme & L. Vonna: Nanomaterials, 11, 1963 (2021)..したがって,培養細胞による植物NVのinternalizeを評価されている報告もなされているが,粒子の凝集状態については留意すべきである.植物NVの細胞内取り込み評価には,エクソソームと同様の手法でNVの蛍光染色が用いられている.ここでは植物NVが脂質膜構造を有していることを利用して脂質部分を染色するSigma社のPKH26などが用いられ,筆者らも同色素を用いて写真に示すようにウコン由来のNVの細胞内取り込みを可視化することができている(図2図2■ウコンNVのマウスマクロファージ様細胞株RAW264.7における細胞内取り込み).エクソソームがそれを受容するレピエント細胞でエンドサイトーシスによって受容されることから,植物NVにおいても蛍光染色したNVと種々のエンドサイトーシス阻害剤を併用した試験によって,特定のエンドサイトーシスの関与が調べられている(22)22) J. Rejman, V. Oberle, I. S. Zuhorn & D. Hoekstra: Biochem. J., 377, 159 (2004)..エンドサイトーシスはファゴサイトーシス,クラスリン依存性,カベオラ依存性,マクロピノサイトーシスにわけることができ,これらはエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれる物質の種類や大きさなどによって分類されている.主にマクロファージなどの貪食細胞による食作用であるファゴサイトーシスと,細胞骨格タンパク質であるアクチンの重合を起点とする膜小胞形成を伴うマクロピノサイトーシスはμmオーダーの比較的巨大な物質の取り組みに関与する.クラスリン依存性,カベオラ依存性エンドサイトーシスでは取り込む物質とともに細胞膜が陥没し100 nm程度の比較的小さい小胞を形成する特徴がある.リンゴ,ブドウ,オレンジ,グレープフルーツ,ニンニクなどに由来するNVの細胞への取り込み様式はそれぞれに異なっており,評価に用いられている細胞種も異なることから統一的な取り込み機構の存在はまだ提唱されていない.また,色素自体の凝集に注意が必要であり,NVの内包物を染色している訳でないため,このデータによってmiRNAのようなNVの内包物が細胞内に移行したことを示す直接的な証拠にはなり難い.しかしながら,現在は凝集を抑えた蛍光色素やエクソソーム内のRNA染色色素も利用できるようになっているため,それらを活用した報告が今後なされると思われる.

図2■ウコンNVのマウスマクロファージ様細胞株RAW264.7における細胞内取り込み

ウコン由来NVを密度勾配超遠心法で分離精製し,赤色蛍光色素であるPKH26によってNVを染色し,3時間培養後に細胞内への取り込みを観察した.上段,下段ともウコン由来のNVであるが,ショ糖密度勾配超遠心法として異なる層から回収されたものである.

植物NVの機能性に関わる論文は2020年以降急激に増えてきているが,総じて抗炎症作用と抗がん作用に関するものが多い.前者においては単球,マクロファージ,血管内皮細胞,線維芽細胞,肝細胞など多岐にわたるin vitroの試験において細胞内の炎症応答抑制効果が報告されている.筆者らもタマネギNVを用いてマウスマクロファージ様細胞株での炎症応答抑制効果を報告しているが(23)23) M. Yamasaki, Y. Yamasaki, R. Furusho, H. Kimura, I. Kamei, H. Sonoda, M. Ikeda, T. Oshima, K. Ogawa & K. Nishiyama: Molecules, 26, 2763 (2021).,腸管上皮細胞においては炎症応答を惹起することも確認しており,同一のNVであっても細胞種によって応答は異なる可能性がある(図3図3■タマネギNVがRAW264.7細胞およびHT-29細胞の炎症応答に与える影響).miRNAをはじめとするNV内包物もしくは構成物によってこのようなNVの作用は発揮されると考えられるが,筆者らのタマネギNVでの報告ではエンドサイトーシスを阻害しても炎症応答抑制作用が確認できており,NVと細胞の表面的な相互作用も重要である可能性が考えられる.このような植物NVをヒトが日常的に摂取していることは疑いがないと思われるが,in vivoにおける消化管内でのNVの挙動は興味深い.NV研究としては黎明期に報告されたMuらの論文では植物NVは粒径に変化があるものの,ペプシンを含む消化液や唾液に耐性があることが報告され(24, 25)24) J. Mu, X. Zhuang, Q. Wang, H. Jiang, Z. B. Deng, B. Wang, L. Zhang, S. Kakar, Y. Jun, D. Miller et al.: Mol. Nutr. Food Res., 58, 1561 (2014).25) X. Qin, X. Wang, K. Xu, Y. Zhang, X. Ren, B. Qi, Q. Liang, X. Yang, L. Li & S. Li: J. Agric. Food Chem., 70, 4316 (2022).,その後もこれを支持する報告が散見される.また,in vivoにおいて炎症性腸疾患モデルマウスにおける症状改善作用も報告されており,植物NVが腸管内に到達することも示唆されている(26)26) M. Zhang, E. Viennois, M. Prasad, Y. Zhang, L. Wang, Z. Zhang, M. K. Han, B. Xiao, C. Xu, S. Srinivasan et al.: Biomaterials, 101, 321 (2016)..現時点でNVもしくはその内容物が小腸において吸収されるのか,その効率はどの程度であるのかは不明である.冒頭に記載したように植物由来のmiRNAが動物やヒトで検出された報告があるが,一方で植物NVを投与しても血中からは植物由来miRNAは検出できないとする報告も複数存在する(27, 28)27) J. W. Snow, A. E. Hale, S. K. Isaacs, A. L. Baggish & S. Y. Chan: RNA Biol., 10, 1107 (2013).28) J. S. Petrick, B. Brower-Toland, A. L. Jackson & L. D. Kier: Regul. Toxicol., 66, 167 (2013)..Chenらによるヒト由来の種々の組織サンプル解析結果からは,植物由来のmiRNAの存在プロファイルが組織により異なることが示唆されており,植物由来NVの体内への移行は組織によって評価結果が異なる可能性がある(29)29) X. Chen, L. Liu, Q. Chu, S. Sun, Y. Wu, Z. Tong, W. Fang, M. P. Timko & L. Fan: PLoS One, 16, e0257878 (2021).

図3■タマネギNVがRAW264.7細胞およびHT-29細胞の炎症応答に与える影響

タマネギ由来NVを段階的な超遠心法で分離精製し,17,000×g沈殿物(17 Kp),200,000×g(200 Kp)を得た.マウスマクロファージ様細胞株RAW264.7(上段),ヒト大腸ガン細胞株(下段)をEVで処理し,炎症関連物質として一酸化窒素およびIL-8産生への影響を評価した(M. Yamasakiら,Molecules, 26, 2763, 2021;文献23を改変).

植物NV中に見出されるmiRNAは詳細な情報が蓄積されつつあり,2021~2022年には植物NVに関する総説が相次いで公表される中でmiRNAの情報をまとめたものもいくつか提供されている(30, 31)30) D. Li, J. Yang, Y. Yang, J. Liu, H. Li, R. Li, C. Cao, L. Shi, W. Wu & K. He: Front. Genet., 12, 613197 (2021).31) O. Urzì, R. Gasparro, N. R. Ganji, R. Alessandro & S. Raimondo: Membranes, 12, 352 (2022)..miRNAによる翻訳抑制効果にはフレキシビリティーがあることに触れたが,それゆえに植物miRNAという異種の核酸が哺乳類mRNAに結合して機能制御できる可能性が高まると考えられる.事実,食用植物miRNAによる哺乳類細胞の機能制御に関する論文が非常に増加しており,一例として,植物界に広く存在するmiR159は植物食品中においても幅広く検出することができる.miR159は植物体内でのMYB遺伝子群をターゲットにすることで植物体の成長の制御に関わっているが,ヒトにおいてはTCF7遺伝子をターゲットとした発現抑制作用があり,乳がん細胞の増殖抑制効果をもたらすことが報告されている(32)32) A. R. Chin, M. Y. Fong, G. Somia, J. Wu, P. Swiderski, X. Wu & S. E. Wang: Cell Res., 26, 217 (2016)..TCF7はwnt/β-cateninシグナル活性化に関与する因子であり,転写因子として機能するβ-cateninの異常な活性化は種々のがん細胞で確認されており,細胞周期,細胞接着能や運動性に異常をもたらすことが知られている.またNVとの関連性は明確ではないが,スイカズラ由来のmiR2911はA型インフルエンザウイルスのいくつかの型に対する翻訳阻害を介して宿主への感染予防効果を持つことが報告され(33)33) Y. Huang, H. Liu, X. Sun, M. Ding, G. Tao & X. Li: J. Neurovirol., 25, 457 (2019).,現在大きな問題となっているSARS-CoV2のゲノム上にも結合サイトが存在しウイルスの複製阻害作用を持つことが報告されている(34)34) L. K. Zhou, Z. Zhou, X. M. Jiang, Y. Zheng, X. Chen, Z. Fu, G. Xiao, C. Y. Zhang, L. K. Zhang & Y. Yi: Cell Discov., 6, 54 (2020)..また,SARS-CoV2に関しては網羅的な研究も実施されており,ダイズなどをはじめとする複数の食用植物由来miRNAがSARS-CoV2ゲノムをターゲットにする可能性が示されている(35)35) S. P. Kalarikkai & G. M. Sundaram: Toxicol. Appl. Pharmacol., 414, 115425 (2021)..一連のmiR2911に関する報告では,熱水抽出液をmiR2911の供給源として利用しておりNVの状態になっているのか明確ではないが,抽出液中のmiRNAは沸騰のプロセスや低pHには安定であることが示されている(36)36) K. Kim, J. Park, Y. Sohn, C. E. Oh, J. H. Park, J. M. Yuk & J. H. Yeon: Pharmaceutics, 14, 457 (2022)..植物NVの物性やそれぞれの消化管内での挙動やmiRNAの種類,含有量はNVの由来植物によって大きく異なると想定されるため,植物NV中に多様に存在するmiRNAが,経口摂取後に摂取したmiRNAがどの程度体内に移行し,どのくらいの効率で標的の器官に到達しうるのか,情報の蓄積が待たれる.

植物中のファイトケミカルが我々の健康に対して有益な作用をもたらすことは,これもまた一種の異種間相互作用であると言える.植物NVがmiRNAのベクターとなる可能性について言及したが,筆者らをはじめとする幾つかの解析結果では,植物NVは種々のファイトケミカルを包含していることも明らかになっている(23, 37)23) M. Yamasaki, Y. Yamasaki, R. Furusho, H. Kimura, I. Kamei, H. Sonoda, M. Ikeda, T. Oshima, K. Ogawa & K. Nishiyama: Molecules, 26, 2763 (2021).37) Z. Deng, Y. Rong, Y. Teng, J. Mu, X. Zhuang, M. Tseng, A. Samykutty, L. Zhang, J. Yan, D. Miller et al.: Mol. Ther., 25, 1641 (2017)..従って,植物NVは複数の物質を包含する機能性パッケージとして,新たな異種間相互作用を説明する存在となる期待が高まる.植物NVは,冷凍や乾燥のような加工,調理に耐性を持ち,さらには消化液に対する耐性を持つことが報告されている(24, 38)24) J. Mu, X. Zhuang, Q. Wang, H. Jiang, Z. B. Deng, B. Wang, L. Zhang, S. Kakar, Y. Jun, D. Miller et al.: Mol. Nutr. Food Res., 58, 1561 (2014).38) N. P. Ly, H. S. Han, M. Kim, J. H. Park & K. Y. Choi: Bioact. Mater., 22, 365 (2023)..『耐性』の定義は慎重に考える必要はあるが,多くの食事形態において植物NVが私たちの細胞に機能をもたらす側面があると思われる.機能性を『はこぶ』小さな存在の価値について,私たちもさらに研究を進めていきたいと考えている.

Reference

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