Kagaku to Seibutsu 61(2): 85-90 (2023)
セミナー室
食品添加物による真菌(カビ・酵母)の抑制真菌汚染対策編
Published: 2023-02-01
© 2023 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2023 公益社団法人日本農芸化学会
前回は細菌の抑制に有効な食品添加物を中心にその効果を述べた.第4回は真菌類(カビと酵母)の抑制について説明する.食品保存においては,加熱によって食品素材に由来する汚染菌や付着菌を殺菌することが,その後の二次汚染対策と合わせて日持ちのしやすさを大きく左右する.すなわち,十分な加熱を行い,食品中の菌のほとんどが耐熱性芽胞菌になると,これらに有効な多くの保存料,日持向上剤の使用で食品の保存性はよくなる.また,食品工場において加熱後の二次汚染対策は除菌洗浄等によって各社厳しく行われていることが多く,少数の器具付着菌や空中浮遊菌への対策が必要となる.空中浮遊菌については,雑多な菌が原因となるものの,結露が生じやすい天井や壁がカビの発生源となり,ここから生じる胞子の浮遊によって,カビ汚染が生じることが懸念される.加えて,ジャムなど高濃度の糖分を含む食品や塩蔵食品のように,水分活性を下げることや,酸やアルコール,酢酸系日持向上剤の使用は細菌をある程度抑えることを可能とするが,真菌類に対してこれらは効果が弱い.真菌類は菌糸の生育や胞子の形成,液面での膜形成など外観に悪影響を与えたり,酵母の生育によるガス発生といった弊害が起こりうる.そして,このような真菌類の生育を抑制する食品添加物に目を向けると,いくつかは細菌,真菌何れにもある程度有効であるものの,真菌類に効果の高い薬剤は疎水性が高い傾向にあるため,溶解性と食品素材への吸着性が問題となることが多い.このような観点から,真菌に有効性の高い薬剤に焦点を当てて説明していく.
グリセリン脂肪酸エステルは,グリセリンと脂肪酸または食用油脂のエステル交換反応によって作られ,主に乳化剤として使われている.この中で日持向上剤として使用されるものは,分子内のアルキル鎖長が中鎖のものに限定される.ここで言う中鎖とはC6(モノカプロン),C8(モノカプリル),C10(モノカプリン),C12(モノラウリル)を指す.抗菌力はC12, C10, C8の順で強いが,実際に食品中で用いると,C12は食品に吸着されやすく,C8の効果が最も強くなることが多い.このような傾向を示す実用例として,中濃ソースでの試験例を以下に示す.中濃ソースに日持ち向上目的で酢酸とモノグリセリン脂肪酸エステルを添加し,野生株酵母を接種して日持ち試験を行った.モノグリセリン脂肪酸エステルは鎖長による日持ち効果を比較するためにC8, C10, C12を用いた.試験の結果,C12の500 ppm添加では5日しか日持ちしなかったが,C10の500 ppm添加では60日以上,C8では250 ppmでも60日以上野生株酵母は検出されない結果であった(1)1) 畑中和憲,藤田八束,小林千枝,松田敏生:防菌防黴,6, 287 (1978)..
これらの結果は,鎖長が長いほどソースを構成する素材粒子への吸着が生じやすく,効力が低下したものと考えられる.また,作用機作の一端を示す研究例を以下に示す.醤油の液面に膜を生じ,外観や風味に悪影響を与える産膜酵母に対する効果を,炭素鎖長の異なるモノグリセリン脂肪酸エステル(C3, C4, C6, C8)と,それぞれ同じ炭素数の脂肪酸で比較したところ,いずれも鎖長が長いほど生育抑制効果が高まる傾向が一致した(2)2) 古賀友英,渡辺忠雄:日本食品工業学会誌,15, 297 (1968)..このことは脂肪酸やモノグリセリン脂肪酸エステルの抗菌力には,アルキル鎖が長くなることで疎水性が高まり,酵母の細胞壁に作用しやすくなるため効果を発揮することを示唆している.抗菌力について,グラム陽性菌と真菌類に強いが,グラム陰性菌と乳酸菌には弱い.次に,グリセリン脂肪酸エステルが真菌に強いことを利用した餅での試験例を示す.グリセリン脂肪酸エステルのエタノール溶液を噴霧し,エタノール分を蒸発させた後,カビの発生した餅から分離したArthrinium sacchariの胞子液を餅に噴霧した.これを30°C,湿度98%で3日保管して,カビの発育を観察したところ,図1図1■餅でのグリセリン脂肪酸エステルの防カビ効果(カビの発育がわかりやすいように餅を炭末色素で着色してある)の外観が示す通り,モノカプリル(C8)を主剤としたものは効果が弱く,モノカプリル(C8)とモノカプリン(C10)を併用したものは強い抑制効果が認められた(自社データ).
このように防カビ効果のみを狙って,なおかつ食品素材への吸着の影響が少ない食品表面での使用においては,アルキル鎖長が長く疎水性の高いものが有効に作用したものと考えられる.
チアミンラウリル硫酸塩(以下TLS)は名前の通りビタミンB1であるチアミンのラウリル硫酸塩である.水溶性ビタミンであるチアミンの吸収性を高めるために開発されたものであり,栄養強化剤であると同時に抗菌性も有することから,日持向上剤としても使用される.抗菌性は真菌から細菌まで幅広く,条件によっては保存料よりも強い抗菌性を示すことがある.黒麹カビを用いた抗菌性試験においてはpH6という条件だと,真菌に強いとされる保存料であるソルビン酸カリウムが0.2%添加しても十分な生育抑制効果を示さないのに対し,TLSでは0.016%という低濃度で生育の抑制が可能である(3)3) 綱脇由紀:月刊フードケミカル,15, 42 (1999)..TLSの溶解度は20°Cで0.018%と低いが,40°Cで0.6%となり,クラフト点(イオン性界面活性剤において急激に溶解度が大きくなる温度.クラフト点を超えるとミセルが形成される.)を超える40°C以上では急激に溶解度が上昇し,50°Cでは31%となる.このようなTLSの溶解性については,食品中のタンパクによる乳化作用や素材への吸着で水への溶解度より高濃度で溶解する場合もあるが,低温で析出することもあるため,添加量の調節に注意を要する.また,グリセリン脂肪酸エステルと同じく,食品に吸着され,効力低下を生じる点にも注意を要する.例えば,ハンバーグや蒲鉾など水産練り製品には,食材への練りこみが必要であり,タンパクへの吸着の影響を強く受けるため効果を発揮しにくい.一方で煮物のように,だし汁に添加して使用する場合には効果を発揮しやすい.ここで実使用例として果実ソースに対する酵母のガス生成抑制効果を示す.果実ソースにエタノールを4%添加しても2日程度のガス生成抑制効果しか示さないが,TLSのみを0.02%添加することで20日間抑制する.ここにエタノールを1%併用することで30日以上抑制可能となる(3)3) 綱脇由紀:月刊フードケミカル,15, 42 (1999)..
TLSについては作用機作に関する研究,報告が少ないことから,供試菌が本題の表題とする真菌類とは異なるがTLSの特性や抗菌の傾向を示すものとして筆者が行った試験結果を以下に紹介する.
TLSは醤油やつゆのような酸性域かつ,比較的塩分濃度の高い液体の食品に使用されていることから,各pHにおける抗菌性の違いについて試験を行った結果を表1表1■各pH域における最小発育阻止濃度(MIC) (µg/mL)に示す.
pH 6.0 | pH 5.5 | pH 5.0 | pH 4.5 | pH 4.0 | |
---|---|---|---|---|---|
Leuconostoc mesenteroides | >1600 | 1600 | 800 | 400 | 100 |
Escherichia coli | >6400 | 6400 | 3200 | 800 | — |
Staphylococcus aureus | 3200 | 1600 | 800 | — | — |
“—”はそのpHで供試菌が生育できないことを示す. |
上記の様にTLSのMIC値はpH依存性があり,各pH域での非解離型ラウリル硫酸の存在量をMIC値から計算してみると各pH領域ともほぼ同程度の数値となったことから,抗菌力への非解離型ラウリル硫酸の関与が考えられた.
次に阻害を起こすことが知られているタンパク質の分子量と抗菌力の関係性を調べるため,以下に示す方法で阻害程度の確認を行った.TLSとして300 µg/mLとなるように調整したATP液体培地(含リン酸緩衝液,pH 6)にカゼイン及びその分解物であるカジトン(カゼインの酵素分解物,ペプチドを多く含む),カザミノ酸(カゼインの酸加水分解物,遊離アミノ酸を多く含む)を加え,供試菌としてLeu.mesenteroidesを接種後,濁度の記録を行った結果を表2表2■培養液濁度が0.5abs(660 nmにおける吸光度)以上となるまでの培養時間 (h)に示す.
添加濃度(%) | 0% | 0.25% | 0.50% | 0.75% | 1.0% | 2.0% | 5.0% | 10.0% |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
カゼイン | 84 | 45 | 25 | 20 | 17 | — | — | — |
カジトン | 90 | — | 93 | — | 96 | 120 | >120 | >120 |
カザミノ酸 | 93 | — | 112 | — | >120 | >120 | >120 | >120 |
“—”は試験未実施. |
カゼイン試験区においてはカゼインの添加量が増加すると0.5 absに達するまでの培養時間が短くなり,TLSの抗菌力が低下していることが解る.一方で,カジトンの場合,添加量を増加させるに従い,0.5 absに達するまでの時間は長くなり,より低分子に分解されたカザミノ酸ではその傾向は強くなった(抗菌力の増強効果がみられた).また,塩類のようなものでも抗菌力の増加効果がみられ,低分子化合物全般的にその傾向がみられた.特にpHが中性に近い領域では低分子化合物が一定添加量を超えると大幅に抗菌性能が高まる(培養液濁度の上昇が起こらず,菌の増加が全く認められない)現象が確認された.TLSはラウリル硫酸を含むことから,界面活性剤の性質である臨界ミセル濃度(CMC)が電解質の添加により低下する現象が関与しているのではないかと考えられた.そこで,100 µg/mLのラウリル硫酸ナトリウムを含む培地にNaClを添加し,大幅な抗菌力の増加が認められる濃度を測定するとNaCl約1%となった.一方,NaCl 1%を添加した培地におけるラウリル硫酸ナトリウムのCMCを測定すると110 µg/mLとなり,この大幅な抗菌力の増大はラウリル硫酸ナトリウムのCMCの変化と関連性があることが確認された.ラウリル硫酸はIUPAC名ではドデシル硫酸であり,タンパク質の変性剤として知られることからこのタンパク変成作用が抗菌力の発現に関与しているのではないかと考え,培養液中に放出されるプロテアーゼやアミラーゼを用いた阻害活性試験を行ったところ,TLSの濃度依存的に活性は阻害されるものの,NaClを加えてCMCを低下させた状態でも大幅な阻害活性の増加などは認められなかった(図2図2■TLSの菌体外放出酵素への阻害活性).
このことから菌体外への放出酵素阻害による摂食阻害が主たる作用機作ではなく,菌体への直接的な作用があるものとみて,蛍光試薬によりグルコースの取り込み活性(2-NDBG),菌体内エステラーゼ活性(CFDA)への阻害活性の測定を行った.このとき,CMCの低下が関係するか検証するため,NaClの添加の有無によって違いが生じるか比較した.試験はLeu.mesenteriodeの菌体懸濁液にTLSを加え,菌体へダメージを加えた後に各蛍光試薬を加え,37°Cで30分間放置後に菌体を洗浄,菌体内に蓄積された蛍光物質を溶菌させて取り出し,蛍光分光光度計にて蛍光強度を測定した(図3, 4図3■TLSによる2-NBDG取り込み阻害図4■TLSのによる菌体内エステラーゼ活性阻害).
その結果,大幅な阻害活性の増加が現れるTLS濃度が認められ,また1%のNaClの添加により,この現象が現れる濃度(TLSのみでは350 µg/mL)は低濃度側にシフトした.Acridine orangeによる排出ポンプ活性やネオテトラゾリウム試薬による呼吸系活性においてもこの現象におけるTLS濃度はほぼ同濃度となった.
これまでの結果から,TLSは低pHにおいては非解離型ラウリル硫酸,弱酸性~中性域(非解離型としてはほとんど存在しない領域)ではミセル形態をとることで膜タンパク質や菌体内へ侵入し,内部の変性・攪乱作用により抗菌力を発現しているものと考えられる.
パラオキシ安息香酸エステル(以下パラベン)は側鎖のアルキルの違いによっていくつかの種類が流通しているが,食品添加物として使用できるものはエチル,プロピル,イソプロピル,n-ブチル,イソブチルである.食品での使用は一部の醤油やソースで認められるが,最近の使用例は少なく,どちらかといえば化粧品での使用が一般的である.使用上の注意点として,他の脂肪酸系薬剤と同様にアルキル鎖が長くなると,疎水性によって抗菌力は高まるが,同時に溶解度が低下することが挙げられる.エチルパラベンの溶解度は25°Cで0.9 g/L(900 ppm)であるが,n-ブチルパラベンでは0.2 g/L(200 ppm)となる(4)4) IFA: Butyl-4-hydroxybenzoat, https://gestis.dguv.de/data?name=101201, https://gestis.dguv.de/data?name=025860.エチル,プロピル,ブチル,それぞれのパラベンの抗菌力は,カビ・酵母の多くの菌種に対して,数十~数百ppmであり,細菌については数百から数千ppmを示す場合が多いため,主に真菌の抑制に使用される(5)5) T. R. Aalto, M. C. Firman & N. E. Rigler: J. Am. Pharm. Assoc., 42, 449 (1953)..醤油への使用基準は0.25 g/L(250 ppm)であるが,ここで効果の高いブチルパラベンを使用することを想定した場合,醤油中の塩分によって使用基準より大幅に低い溶解度となってしまう.この対策として,n-ブチル,イソブチル,イソプロピル各パラベンの3 : 3 : 4の組み合わせが,n-ブチル単独と比較して総パラベンの溶解度を数倍高めるといわれているため(6)6) 松田敏生:“食品微生物制御の化学”,幸書房,1998, p. 53.,このような組み合わせで使用することが有効な手段となりうる.パラベンの作用メカニズムは,基質分子の細胞への輸送を阻害することによる生育阻害と言われている(7)7) E. Freese, C. W. Sheu & E. Galliers: Nature, 241, 321 (1973)..パラオキシ安息香酸エステルは指定添加物として保存料に分類されており,使用できる食品や添加量が制限されているため注意が必要である(8)8) 食品添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)第2 添加物(平成29年11月30日現在)F.使用基準,https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000186616.pdf.
プロピオン酸は保存料に分類され,塩類はナトリウム塩とカルシウム塩が使用できる.酢酸が発酵によって産生されるのと同じく,プロピオン酸も醤油やなれ寿司,くさや汁,パン等種々の発酵食品から検出され,特にエメンタールチーズには高濃度で存在する(9)9) 高橋まゆみ,蕨 由美,野沢恒平,増井 武,小澤知之,松橋典子,兵頭直子:食品衛生学雑誌,27, 87 (1986)..プロピオン酸は酢酸より炭素数の一つ多い低級脂肪酸であって,酢酸とは異なるチーズ様の酸臭を有する.抗菌性は他の酸型抗菌成分と同様に酸性域で効果が高まる.抗菌力は酢酸と類似しているが,カビに対する効果が酢酸より高い一方で,酵母には0.4%でも効果が得られない(10)10) 霜 三郎,福住栄一:“食品防腐剤の知識と使い方”,信貴書院,1965, p. 145.ことから,パンの発酵を阻害せず,発カビやロープ現象(耐熱性芽胞菌による糸引き)を抑え,保存性を高めるといった使い方ができる.作用機作は前号で述べた酢酸と同様であると考えられ,非解離状態の分子が菌体内に取り込まれることで菌体内の水素イオン濃度が上昇し,これを排出するためにエネルギーが消費され,最終的に菌の生存を維持することができず死滅に至ると言われている(11)11) 指原信廣:Jpn. J. Food Microbiol., 26, 81 (2009)..プロピオン酸とその塩類は指定添加物として保存料に分類されており,使用できる食品や添加量が制限されているため注意が必要である(8)8) 食品添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)第2 添加物(平成29年11月30日現在)F.使用基準,https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000186616.pdf.
カラシ抽出物はカラシナの種子から得られた,イソチオシアン酸アリルを主成分とするものである(12)12) 食品添加物公定書 第9版,https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000641285.pdf, 2018..有効成分はカラシやワサビの刺激臭であることから,使用にあたっては臭気への注意が必要である.抗菌性は溶液状態では弱く,ガス状態で強い効果が発揮される.このガス状態での抗菌力は真菌に強く,多くの菌種が20 ppm以下の濃度で有効である.グラム陰性菌と乳酸菌以外のグラム陽性菌には100 ppm以下で有効な菌種が多く,乳酸菌にはやや弱い(13)13) 堤 竜生:月刊フードケミカル,6, 38 (2022)..実際の使用法はフィルム,ラベル,分包マットなどに担持し,発生する蒸気で食品表面の菌の生育を抑える.実際の使用を想定した試験例を以下に紹介する.弁当内での菌汚染を想定し,密閉されていない700 mLの容器中で寒天培地表面に塗布された大腸菌の生育抑制効果を,カラシ抽出物を加えた粘着剤をサンドイッチしたフィルムの封入の有無で調べた.その結果,フィルムを封入しない試験区においては6時間で腐敗に近い菌数に至ったのに対して,フィルム封入区では16時間大腸菌の生育を十分に抑制できた.このときイソチオシアン酸アリルの濃度は2~3時間でピークに達し,6時間でピーク時の半分以下となった(13)13) 堤 竜生:月刊フードケミカル,6, 38 (2022)..冒頭にも述べたが,食品工場では加熱後の二次汚染対策は厳しく行われ,少数の器具付着菌や空中浮遊菌対策が必要となる場合が多い.これらの汚染は食品表面で生じるため,固形食品においてこのようなガス状の抗菌成分が有効性を発揮するケースは多いと考えられる.作用機作に関して,イソチオシアン酸アリルは細胞質内のβ-ガラクトシダーゼを溶出させる作用が認められることから,膜に損傷を与え,代謝物の漏出を生じさせると考えられている(14)14) C.-M. Lin, J. F. Preston Ⅲ & C.-I. Wei: J. Food Prot., 63, 727 (2000)..
ユッカフォーム抽出物はヨシュアノキ又はユッカ・シジゲラの全草から得られた,サポニンを主成分とするものである(12)12) 食品添加物公定書 第9版,https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000641285.pdf, 2018..工業的には乳化剤としても使用される.抗菌力について,細菌には全般的に弱く,酵母には100 ppm程度で多くの菌種に有効であり,カビに対しては有効なものとそうでないものに分かれる(15)15) 山本正次:フードケミカル,10, 105 (1996)..実際の使用例について,味付けモズクの保存試験では0.2%の添加でおよそ1か月間,酵母によるガス発生を抑えることが可能であった(自社データ).サポニンの作用機作に関して,親油性テルペノイド部分で真菌膜に存在するエルゴステロールと複合体を形成し,糖鎖側で表面糖タンパクおよび糖脂質に結合することができると言われている(16)16) M. Wink: Medicines, 2, 251 (2015)..このような作用により,菌体膜に損傷を与えることで有効性を発揮すると考えられる.
以上2回に渡って食品添加物による微生物汚染対策について述べた.抗菌効果の特性をはじめ,食品への吸着性,風味への影響等についてもご理解いただけたかと思う.現在,保存料不使用という謳い文句は広く浸透したアピール手法であるが,今後,世界的な食糧不足によるフードロス削減の機運はますます高まってくることが予測される中で,これらを一概に避けるのではなく,安全性の認められた保存料,日持向上剤の選択肢を今一度見直し,おいしい食品をより長く日持ちさせるきっかけになれば幸いである.
Reference
1) 畑中和憲,藤田八束,小林千枝,松田敏生:防菌防黴,6, 287 (1978).
2) 古賀友英,渡辺忠雄:日本食品工業学会誌,15, 297 (1968).
3) 綱脇由紀:月刊フードケミカル,15, 42 (1999).
4) IFA: Butyl-4-hydroxybenzoat, https://gestis.dguv.de/data?name=101201, https://gestis.dguv.de/data?name=025860
5) T. R. Aalto, M. C. Firman & N. E. Rigler: J. Am. Pharm. Assoc., 42, 449 (1953).
6) 松田敏生:“食品微生物制御の化学”,幸書房,1998, p. 53.
7) E. Freese, C. W. Sheu & E. Galliers: Nature, 241, 321 (1973).
8) 食品添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)第2 添加物(平成29年11月30日現在)F.使用基準,https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000186616.pdf
9) 高橋まゆみ,蕨 由美,野沢恒平,増井 武,小澤知之,松橋典子,兵頭直子:食品衛生学雑誌,27, 87 (1986).
10) 霜 三郎,福住栄一:“食品防腐剤の知識と使い方”,信貴書院,1965, p. 145.
11) 指原信廣:Jpn. J. Food Microbiol., 26, 81 (2009).
12) 食品添加物公定書 第9版,https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000641285.pdf, 2018.
13) 堤 竜生:月刊フードケミカル,6, 38 (2022).
14) C.-M. Lin, J. F. Preston Ⅲ & C.-I. Wei: J. Food Prot., 63, 727 (2000).
15) 山本正次:フードケミカル,10, 105 (1996).