解説

クオラムセンシングを標的にしたトマト青枯病の予防・治療薬の創製次世代の植物保護技術の開発を目指して

Chemical Control of Ralstonia solanacearum Virulence by Inhibiting Its Quorum Sensing System: To Develop New Plant Protection Technology

Kenji Kai

甲斐 建次

大阪公立大学大学院農学研究科

Published: 2023-04-01

青枯病菌はナス科を中心とした250以上の植物種に感染し,青枯病を引き起こすグラム陰性の植物病原細菌である.これまでに,本病の有効な化学防除法は確立していない.近年,青枯病菌は土壌真菌類にも寄生することが報告された.この真菌寄生は,宿主植物が育っていなくても,青枯病菌が圃場に潜伏し続ける原因の1つである可能性がある.植物と真菌のいずれに感染する場合も,青枯病菌はクオラムセンシング(QS)という同種細胞間の化学コミュニケーションを利用する.本解説では,QS阻害によるトマト青枯病菌の予防・治療に向けた筆者らの取り組みを紹介する.

Key words: 青枯病; Ralstonia solanacearum; クオラムセンシング; 化学コミュニケーション; 植物保護科学

はじめに

青枯病菌の特徴は,何と言っても,大量に生産・分泌される細胞外多糖(EPS)である.栄養豊富な寒天培地上で青枯病菌を生育させたとき,そのコロニーの流動性には誰しも驚くはずである.私の知る限り,このような特徴を示すグラム陰性細菌は他にない.本菌のEPSの主成分は,EPS Iと呼ばれる.維管束内で爆発的に増殖した細胞と,それらが生産した大量のEPS Iが維管束の通水を阻害するため,植物の急激な萎れが引き起こされると考えられている(1)1) S. Genin & T. P. Denny: Annu. Rev. Phytopathol., 50, 67 (2012)..青枯病菌に対する有効な薬剤は存在しておらず,畑に本病が発生した場合は感染植物を取り除く以外にできることがない.予防的対策として,土壌消毒と抵抗性台木を用いた接木栽培が伝統的に用いられてきた.しかし,それらの効果は安定的なものではなく,度々青枯病の蔓延を許してきた.ヒト,家畜および魚類の細菌病治療で用いられている抗生物質のような強い殺菌作用を持つ化合物は,耐性菌株の出現による効力の低下が大きな社会問題となっている.さらに,環境や安全・安心な食料生産に対する影響も懸念されており,新しい抗生物質を植物細菌病防除に用いることは今後ますます厳しくなるであろう.近年,注力して研究開発が進められてきた植物保護薬剤として,植物の抵抗性免疫を利用したプラントアクチベーターがある.これは環境保全型農業を指向する有用な技術であるものの,青枯病に対しては効果が限定的である.適切な標的にフォーカスした青枯病菌の防除技術が強く望まれている.

クオラムセンシング機構

グラム陰性細菌は一般的に,菌密度依存の遺伝子発現調節機構であるクオラムセンシング(QS)を使って,集団として統制のとれた行動をとることが知られている(2)2) M. B. Miller & B. L. Bassler: Annu. Rev. Microbiol., 55, 165 (2001)..グラム陰性細菌の多くはアシルホモセリンラクトン(AHL)型のQS機構を持つが,青枯病菌はRalstonia属を中心とした細菌種にしかない独自のQS機構を有しているのが特徴である(1)1) S. Genin & T. P. Denny: Annu. Rev. Phytopathol., 50, 67 (2012)..青枯病菌のQS機構で中心的な役割を担うのは,グローバルビルレンスレギュレーターであるPhcAというタンパク質で,本因子は青枯病菌全遺伝子の約30%もの発現制御に関わることが知られている(図1図1■青枯病菌におけるphc QS機構のモデル(3)3) A. Perrier, X. Barlet, R. Peyraud, D. Rengel, A. Guidot & S. Genin: Microb. Pathog., 116, 273 (2018)..このPhcAの活性化には,phcBSRQというオペロンによってコードされたタンパク質群が必要である.PhcBはメチル基転移酵素であり,前駆体脂肪酸からQSシグナル分子であるmethyl 3-hydroxymyristate(3-OH MAME, 1)を生合成する(4)4) K. Kai, H. Ohnishi, Y. Mori, A. Kiba, K. Ohnishi & Y. Hikichi: ChemBioChem, 15, 2590 (2014)..菌株によっては,アシル鎖が長いmethyl 3-hydroxypalmitate(3-OH PAME, 2)をQSシグナル分子として利用しているものもある.PhcS–PhcRQは二成分情報伝達系を構成しており,PhcSは膜貫通型のヒスチジンキナーゼ,PhcRとPhcQは下流のレスポンスレギュレーターとして機能している.PhcRQからPhcAの活性化に至る経路は,未だにはっきりとしていない.我々は,青枯病菌のQS機構を「phc QS機構」と呼んでいる.

図1■青枯病菌におけるphc QS機構のモデル

青枯病菌は,QSシグナル分子として3-OH MAMEまたは3-OH PAMEを使用する.メチル基転移酵素PhcBは3-OH MAMEを合成し,それをヒスチジンキナーゼPhcSが感知する.シグナルを感知したPhcSはレスポンスレギュレーターPhcR/PhcQをリン酸化し,ビルレンスレギュレーターであるPhcAを活性化する.活性化されたPhcAは,EPS, 二次代謝産物,バイオフィルムなどの病原力因子の産生を誘導する.

青枯病菌は植物感染時の様々なステップでphc QS機構を上手く利用して,病原力因子や細胞特性を適時,発現・発揮していることがわかってきた(1)1) S. Genin & T. P. Denny: Annu. Rev. Phytopathol., 50, 67 (2012)..実際,phcAphcBを欠損させた株では,宿主植物に対する病原力が大幅に低下する(1)1) S. Genin & T. P. Denny: Annu. Rev. Phytopathol., 50, 67 (2012)..QSが起動しないこれらの欠損株は,植物が備えている防御システムすらクリアできない軟弱なものになり,根に上手く侵入できなくなる場合が多い.積極的に傷処理した場合は,これらの欠損株でも根に侵入できるものの,地上部への移動はできなくなった(5)5) A. Yoshihara, M. Shimatani, M. Sakata, C. Takemura, W. Senuma, Y. Hikichi & K. Kai: ACS Chem. Biol., 15, 3050 (2020).

植物保護に向けたQS阻害の取り組み

これまでに,AHL型のQS機構を中心として,QS阻害による細菌の病原力制御への取り組みがなされてきた.当初注目されたのは,AHL分解酵素を用いた方法である.AHLに対して高い分解活性を有する酵素を発見し,それを宿主植物に発現させるものである(6, 7)6) Y. H. Dong, L. H. Wang, J. L. Xu, H. B. Zhang, X. F. Zhang & L. H. Zhang: Nature, 411, 813 (2001).7) Y. H. Dong, J. L. Xu, X. Z. Li & L. H. Zhang: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97, 3526 (2000)..素晴らしい効果が示されたが,組換え植物ということでコンセプトの段階に留まっており,同研究グループからの続報は20年以上ない.その後,精力的に研究が進められたのは,AHLの構造アナログを使ったケミカルなQS阻害である(8)8) W. R. D. Galloway, J. T. Hodgkinson, S. D. Bowden, M. Welch & D. R. Spring: Chem. Rev., 111, 28 (2011)..中には,特に強力な阻害活性を示し,植物体を用いた試験でも病原細菌の病原力を低下させることに成功した例もあった.現在も,世界各地で精力的にAHL型QS機構の阻害剤開発は進められている.

青枯病菌のphc QS機構に関しても,同じような流れで阻害研究が進展した.篠原らによって最初に見出された3-OH PAMEのエステラーゼは,in vitroの実験系でQS阻害効果を示した(9)9) M. Shinohara, N. Nakajima & Y. Uehara: J. Appl. Microbiol., 103, 152 (2007)..その後,海外のグループからも同じような酵素が報告されたが,in vivoでの検討は不十分であった(10, 11)10) M. H. Lee, R. Khan, W. Tao, K. Choi, S. Y. Lee, J. W. Lee, E. C. Hwang & S. W. Lee: J. Biotechnol., 270, 30 (2018).11) G. A. Achari & R. Ramesh: Lett. Appl. Microbiol., 60, 447 (2015)..これらはケミカルによる青枯病の制御を補完する技術であり,一層の発展を期待して待ちたい.我々が今回紹介するPQI類(phc quorum sensing inhibitor)を報告した以降も,酵素を使った研究が何報かパブリッシュされているが,QS阻害剤としての検証が正しくなされていないため,それらの紹介は控えたい.

3-OH MAMEの構造活性相関研究とPhcSへの結合様式

我々が主に利用している野生株のOE1-1株は,国内の圃場より単離された青枯病菌であり,3-OH MAMEをQSシグナル分子として利用している(図1図1■青枯病菌におけるphc QS機構のモデル(4)4) K. Kai, H. Ohnishi, Y. Mori, A. Kiba, K. Ohnishi & Y. Hikichi: ChemBioChem, 15, 2590 (2014)..青枯病菌OE1-1株のQSシグナル分子として3-OH MAMEを同定したとき,簡単な構造活性相関研究を行った.その結果,(3R)-hydroxy基とメチルエステルが高いQSシグナル活性に必須であることがわかった.一方で,アシル鎖長に関しては,C14が最も適していたものの,アシル鎖の伸長にはやや許容があることがわかった.C12誘導体は不活性であった.意外なことではあったが,2位にヒドロキシ基を移動させても強いアゴニスト活性が見られた.

3-OH MAMEがどのようにPhcSに結合するのかに関しては,構造生物学的な知見はない.一方で,3-OH MAME型と3-OH PAME型のPhcSの配列比較からは,N末端側のセンサードメインのペリプラズムあるいは細胞質に突出した部分がリガンドの認識に関わる可能性が言われている(4)4) K. Kai, H. Ohnishi, Y. Mori, A. Kiba, K. Ohnishi & Y. Hikichi: ChemBioChem, 15, 2590 (2014)..この点を考慮すれば,3-OH MAMEはエステル部分がPhcSタンパク質で厳密に認識され,アシル鎖側の認識はややあまいことが推察される.実際,3-OH MAMEの構造活性相関データとも良い一致を示す(4)4) K. Kai, H. Ohnishi, Y. Mori, A. Kiba, K. Ohnishi & Y. Hikichi: ChemBioChem, 15, 2590 (2014)..まずは,リガンドの農薬としてのポテンシャル(安定性など)は考慮せずに,強いQS阻害剤を作ることを目指して,デザインのターゲットとして3-OH MAMEのアシル鎖の改変を考えることにした.

QS阻害剤の探索

AHL研究では,アシル鎖の部分にベンゼン環などの芳香環を入れるとアゴニスト活性を失い,アンタゴニストとして機能することが報告されている(8)8) W. R. D. Galloway, J. T. Hodgkinson, S. D. Bowden, M. Welch & D. R. Spring: Chem. Rev., 111, 28 (2011)..同じようなコンセプトを元に,3-OH MAMEのアシル鎖の構造を変化させた化合物を10種用意し,QS阻害活性を調べることにした(図2図2■phc QS依存性バイオフィルム形成に対する3-OH MAME類似体の阻害活性(5)5) A. Yoshihara, M. Shimatani, M. Sakata, C. Takemura, W. Senuma, Y. Hikichi & K. Kai: ACS Chem. Biol., 15, 3050 (2020)..青枯病菌のバイオフィルム形成はQS制御下にあることが知られており,96穴のアッセイプレートが使えるため,ある程度のスループット性もある.1stスクリーニングということで100 μMとやや高い濃度でアッセイを行ったが,PQI-1と名付けた化合物6にバイオフィルム形成阻害活性があることが見出された.なお,PQI-1に青枯病菌に対する生育阻害効果は認められなかった.

図2■phc QS依存性バイオフィルム形成に対する3-OH MAME類似体の阻害活性

(A)1stスクリーニングに用いた3-OH MAMEアナログの構造.(B)3-OH MAMEアナログによるバイオフィルム形成の阻害.アナログは終濃度100 μMで用いた.形成されたバイオフィルムをクリスタルバイオレットで染色し,595 nmの吸光度で評価した.∆phcBは,ポジティブコントロールとして使用した.エラーバーは平均±SDである(n=5).

そこでPQI-1をベースに,さらにQS阻害能が向上した化合物を創製することを目指した.具体的には,ベンゼン環と3-ヒドロキシメチルエステル構造を繋ぐアシル鎖長を変化させたもの,ベンゼン環上にハロゲンやメチル基などを導入したもの,これらを掛け合わせたものをデザイン・化学合成した(図3A図3■phc QS依存性バイオフィルム形成に対するPQI-1アナログの阻害活性(5)5) A. Yoshihara, M. Shimatani, M. Sakata, C. Takemura, W. Senuma, Y. Hikichi & K. Kai: ACS Chem. Biol., 15, 3050 (2020)..加えて,阻害活性が強いことがわかった化合物については,2-ヒドロキシ型のアナログもデザイン・化学合成した.合計23化合物について,バイオフィルム形成阻害試験に供した.

図3■phc QS依存性バイオフィルム形成に対するPQI-1アナログの阻害活性

(A)2ndスクリーニングに用いたPQI-1アナログの構造.(B)PQI-1アナログ(1 μM)存在下でのOE1-1株によるバイオフィルム形成の阻害.∆phcBは,ポジティブコントロールとして用いた.(C)OE1-1株の生育に対するPQI-1アナログ(1 μM)の影響.エラーバーは平均±SD(n=5)である.

化合物15および1820の結果から,ベンゼン環のパラ位へのハロゲン(特にCl)基またはメチル基の導入はOE1-1株のバイオフィルム形成の抑制に有効であることが示唆された(図3B図3■phc QS依存性バイオフィルム形成に対するPQI-1アナログの阻害活性).7-Phenyl-heptanoyl鎖を有する化合物は,異なるアシル鎖長(1316, 1718, 2021)を有する誘導体の中で最も高い阻害活性を示した.また,2-ヒドロキシ型の化合物32と化合物35のQS阻害活性は予想通り高かった.これらを1 μMで適用すると,菌株のバイオフィルム形成が抑制され,OE1-1株のバイオフィルム形成を∆phcBのレベルまで減少させた.2-ヒドロキシ型の最適なアシル鎖長は,3-ヒドロキシ型と同じであった(3233, 3435).これらのQS阻害剤は,OE1-1株の増殖を有意に阻害しなかった(図3C図3■phc QS依存性バイオフィルム形成に対するPQI-1アナログの阻害活性).したがって,バイオフィルム形成の阻害は,細菌の生育阻害に起因するものではないことがわかった.我々は,さらなる実験のために化合物15, 32, 20および35を選択し,それらをPQI-2~5と命名した(図3B図3■phc QS依存性バイオフィルム形成に対するPQI-1アナログの阻害活性).

PQIのQS阻害活性は立体特異的である

3-OH MAMEのQSシグナル活性は,C-3オキシメチンの絶対立体配置に依存する(4)4) K. Kai, H. Ohnishi, Y. Mori, A. Kiba, K. Ohnishi & Y. Hikichi: ChemBioChem, 15, 2590 (2014)..したがって,我々はQS阻害活性の立体特異性がPQIにも存在すると仮定し,キラルカラムを用いたHPLC分離によりPQI-2~5の光学分割を行った.立体異性体の絶対立体配置は,既報の構造関連化合物の[α]D値と比較することにより決定した.PQI-2とPQI-4のR体は,S体よりも高い阻害活性を示した(図4図4■バイオフィルム形成に対する光学分割後のPQI類の阻害活性(5)5) A. Yoshihara, M. Shimatani, M. Sakata, C. Takemura, W. Senuma, Y. Hikichi & K. Kai: ACS Chem. Biol., 15, 3050 (2020)..それぞれのIC50値は,(R)-PQI-2は278 nM, (R)-PQI-4は196 nM, (S)-PQI-2は26.3 μM, (S)-PQI-4は2.73 μMであった.一方,PQI-3とPQI-5のS体は,R体よりも高い阻害活性を示した.それぞれの阻害活性のIC50値は,(S)-PQI-3は119 nM, (S)-PQI-5は41.2 nM, (R)-PQI-3は731 μM, (R)-PQI-5は16.1 μMであった.興味深いことに,2-ヒドロキシ型の方が3-ヒドロキシ型よりも厳密な立体特異性を示した.また,QS阻害活性を示す濃度域において,PQI-2~5によるOE1-1株の生育阻害がないことを確認した.PQIのC-2/C-3位の絶対配置はQS阻害活性を左右する重要な因子であることが明らかとなり,より強いエナンチオマーを以降のin vitro実験に使用した.

図4■バイオフィルム形成に対する光学分割後のPQI類の阻害活性

(A)(R)-と(S)-PQI-2によるOE1-1バイオフィルム形成の阻害(B)(R)-と(S)-PQI-4によるOE1-1バイオフィルム形成の阻害.(C)(R)-と(S)-PQI-3によるOE1-1バイオフィルム形成の阻害.(D)(R)-と(S)-PQI-5によるOE1-1バイオフィルム形成の阻害.∆phcBはポジティブコントロールである.エラーバーは平均±SD(n=5)である.

PQIは他の病原力因子の産生も阻害する

アリールフラノン型の二次代謝物であるralfuranone類は,二次的な細胞間シグナルとして機能し,OE1-1株の病原力発現に関与している(12)12) K. Kai, H. Ohnishi, Y. Mori, A. Kiba, K. Ohnishi & Y. Hikichi: ChemBioChem, 15, 2590 (2014)..その生合成遺伝子であるralAralDの発現は,phc QSによって制御されている.そのため,∆phcBはこれらの代謝物を生産しない.もしPQI-2~5がphc QSシステムに対するQS阻害剤として働くなら,OE1-1株におけるralfunone類の生産が阻害されるはずである.これを検証するために,我々は高感度スループット定量法を構築し,PQI-2~5がralfuranone生産に及ぼす影響を評価した.その結果,PQI-2~5は,OE1-1株によるralfuranone Aの生産を用量依存的に阻害した(図5A図5■PQI-2~5のphc QS阻害剤としての評価(5)5) A. Yoshihara, M. Shimatani, M. Sakata, C. Takemura, W. Senuma, Y. Hikichi & K. Kai: ACS Chem. Biol., 15, 3050 (2020)..また,(R)-PQI-2~5のIC50値は,それぞれ23.7, 1.01, 2.33, 0.966 μMであった.PQI-2は低濃度域でralfuranone Aの生産を促進したことから,部分的なアゴニスト活性を有している可能があった.(S)-PQI-3と(S)-PQI-5は,3-ヒドロキシ型化合物よりも高いralfuranone生産抑制効果を示した.

図5■PQI-2~5のphc QS阻害剤としての評価

(A)OE1-1株によるralfuranone A生産に対するPQIの阻害活性.Ralfuranone AはLC/MSで分析した.エラーバーは平均値±SD(n=3).(B)OE1-1株のEPS I産生に対するPQIの阻害活性.生産されたEPS Iのレベルは,ELISAキットを用いて定量した.エラーバーは平均値±SD(n=3)である.(C)10 μM PQI-2-~5と0.01~10 μM 3-OH MAMEとのQS阻害活性の競合評価.phc QS依存性バイオフィルム形成を用いてその競合性を評価した.エラーバーは平均±SD(n=5)である.(D)PQI処理したOE1-1とΔphcB間の遺伝子発現のlog2 fold changeの散布図である.Log2 fold changeは,処理サンプルのFPKM値とOE1-1コントロールのFPKM値を平均して計算した.

青枯病菌のEPSの主要成分であるEPS Iは,最も重要な病原因子であると考えられている(1)1) S. Genin & T. P. Denny: Annu. Rev. Phytopathol., 50, 67 (2012)..その生合成遺伝子群の発現は,phc QS機構によって厳密に制御されている.PQI-2~5は,10と100 μMでphc QS依存性のEPS I産生を阻害した(図5B図5■PQI-2~5のphc QS阻害剤としての評価(5)5) A. Yoshihara, M. Shimatani, M. Sakata, C. Takemura, W. Senuma, Y. Hikichi & K. Kai: ACS Chem. Biol., 15, 3050 (2020)..バイオフィルム形成試験と比較すると,EPS I/ralfuranone生産アッセイでは,PQIの阻害効果を示すためにやや高い濃度を必要とした.これは,EPS Iとralfuranoneの蓄積をより高い細胞密度で評価したためと考えられる.以上より,PQI-2~5はQS依存的なralfuranoneとEPS Iの産生を阻害することが判明した.

PQIは3-OH MAMEの競合阻害剤である

3-OH MAMEの構造に基づいて設計されていることから,PQIは3-OH MAMEとPhcSの結合に対して競合的なアンタゴニストとして機能する可能性が高かった.このことを検証するために,PQI-2~5と3-OH MAMEの競合バイオフィルム形成試験をOE1-1株を用いて行った.その結果,PQIの阻害作用は,3-OH MAMEによって用量依存的にキャンセルされた(5)5) A. Yoshihara, M. Shimatani, M. Sakata, C. Takemura, W. Senuma, Y. Hikichi & K. Kai: ACS Chem. Biol., 15, 3050 (2020)..3-OH MAMEを添加すると,1 μMのPQI-2~5によるバイオフィルム形成阻害は濃度依存的に打ち消された.10 μMの3-OH MAME処理でPQI-2~5によるバイオフィルム形成の阻害が解除された(図5C図5■PQI-2~5のphc QS阻害剤としての評価).よって,PQI-2~5は3-OH MAMEと競合して作用することが強く示唆された.

PQIはQS欠損株の遺伝子発現プロファイルを再現する

phc QS機構は,青枯病菌の全遺伝子のおよそ30%もの発現制御に関与する(3)3) A. Perrier, X. Barlet, R. Peyraud, D. Rengel, A. Guidot & S. Genin: Microb. Pathog., 116, 273 (2018)..PQI-2~5の効果をより良く評価するために,OE1-1株をこれらの化合物で処理し,RNA-Seqを用いてトランスクリプトーム解析を実行した(図5D図5■PQI-2~5のphc QS阻害剤としての評価(5)5) A. Yoshihara, M. Shimatani, M. Sakata, C. Takemura, W. Senuma, Y. Hikichi & K. Kai: ACS Chem. Biol., 15, 3050 (2020)..QS欠損変異株である∆phcBと∆phcAをポジティブコントロールとして用いた.OE1-1株のRNA-Seqデータから4848種のタンパク質をコードする転写産物を同定し,正規化した遺伝子発現量として比較した.PQI-2~5を添加すると,440~521遺伝子の発現が有意に減少し,191~205遺伝子の発現が有意に増加した.また,PQIを適用したOE1-1株とQS欠損株の間では,これらの転写産物の発現量に正の相関が見られた.また,phcBphcAの発現量には有意な差は見られなかった.388のQSによって正に制御させる遺伝子のうち,360~371遺伝子の発現がPQIによって抑制された.Ralfuranone生合成遺伝子(ralAおよびralD),EPS I遺伝子(eps cluster)などの360~371の遺伝子の発現がPQIによって抑制された.一方,131のQSによって負に制御される遺伝子のうち,109~128個がPQI処理により発現上昇した.これらの遺伝子には,化学走性関連遺伝子(motAB, cheAY)などが含まれていた.まとめると,PQI-2~5のphc QS機構に対する阻害活性は,RNA-Seqトランスクリプトーム解析によっても確認され,QS欠損株の遺伝子発現プロファイルを高いレベルで再現していることがわかった.

PQIはトマト植物体における青枯病菌の病徴発現を低減する

続いて,ラセミ体のPQI-2~5がトマトにおけるOE1-1株の病原性を抑制するかどうかを検討した(当時は,植物試験に必要となる量の光学活性体を得るのが難しかった).3週齢のトマト植物に根浸法でOE1-1株を接種し,PQI-2~5の存在下で水耕栽培を行った(12.5, 25, 50 μM).その結果,PQIは用量依存的にトマト感染株の萎凋症状の発現を抑制した(図6A図6■PQI-2~5によるトマト植物体におけるOE1-1病原力の抑制(5)5) A. Yoshihara, M. Shimatani, M. Sakata, C. Takemura, W. Senuma, Y. Hikichi & K. Kai: ACS Chem. Biol., 15, 3050 (2020)..特に,PQI-5の阻害効果はPQIの中で最も強かった.さらに,12.5 μM PQI-5の阻害効果は,3-OH MAMEを添加することで用量依存的に阻害された(図6C図6■PQI-2~5によるトマト植物体におけるOE1-1病原力の抑制).このことから,PQI-5のin vivo抗萎凋活性はphc QS機構の阻害に依存することがわかった.また,根から接種した青枯病菌は,根部でも検出されたものの,地上部では検出できなかったことから,PQI-5はOE1-1細胞がトマト植物の地上部に広がることを抑制している可能性があった.以上のことから,3-OH MAMEとPhcSの結合を阻害することにより,トマトのOE1-1病原性を減弱させることを明らかにした.

図6■PQI-2~5によるトマト植物体におけるOE1-1病原力の抑制

(A)PQIによるトマト植物の萎凋症状の抑制.OE1-1株を接種したトマト植物を12.5~50 μM PQI-2~5存在下で3日間,さらにPQI非存在下で5日間水耕栽培した.Disease Indexスケールは,0:萎凋なし,1は1~25%萎凋,2は26~50%萎凋,3は51~75%萎凋,4は76~100%萎凋,5は枯死を表す.エラーバーは平均値±SEM(n=3).(B)PQI-5処理植物の代表的なアッセイ結果.(C)PQI-5と天然型リガンド3-OH MAMEを用いた病原力の競合評価.OE1-1を接種したトマト植物を12.5 μMのPQI-5と0~25 μM 3-OH MAME存在下で3日間,続いて化合物処理なしで4日間生育させた.エラーバーは平均±SEMである(n=3).

PQIはAHL型のQS機構に影響を与えない

植物の根圏に生息する他のプロテオバクテリアもQS機構を持っており,その生態的ニッチの維持に重要な役割を担っている可能性がある.植物病原体の場合,QS機構は宿主の病原力発現を制御している.したがって,PQI-2~5がこれらのQSシステムに与える影響について検討する必要があった.この目的のために,我々は2つのレポーター株,Agrobacterium tumefaciens NTL4(pZLR4)とChromobacterium violaceum CV026を用いた(13, 14)13) P. D. Shaw, G. Ping, S. L. Daly, C. Cha, J. E. Cronan Jr., K. L. Rinehart & S. K. Farrand: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 6036 (1997).14) T. Praneenararat, G. D. Geske & H. E. Blackwell: Org. Lett., 11, 4600 (2009).A. tumefaciens NTL4(pZLR4)はtraG-lacZ遺伝子を有し,幅広いAHL種に応答してβ-ガラクトシダーゼを産生する.一方,C. violaceum CV026は,中・長アシル鎖を有するAHLに応答して,紫色色素のviolaceinを生産する.PQI-2~5はいずれのQSシステムにもアゴニスト作用を示さなかった(5)5) A. Yoshihara, M. Shimatani, M. Sakata, C. Takemura, W. Senuma, Y. Hikichi & K. Kai: ACS Chem. Biol., 15, 3050 (2020)..さらに,PQIを100~1000倍の濃度で使用しても,これらのQSシステムに対するPQIの拮抗作用は認められなかった.PQIによるレポーター株の生育阻害も観察されなかった.したがって,PQI-2~5は,宿主の根圏に生息する細菌の標準的なQSシステムに影響を与えないことが確認された.

おわりに

本研究は,化学的QS阻害が植物病原細菌の防除に有効な手法であるという考えを支持するものであった.我々の知る限り,PQI-2~5は植物病原菌に対して最も有効なQS阻害剤である.また,他の共生・寄生菌のQSシステムには影響を与えない可能性が高い.したがって,我々は萎凋病に対する新しい農薬の開発を開始することができるかも知れない.しかし,QS阻害活性を向上させるためには.その分子機構の解明,リガンドとPhcSの相互作用の分子機構の解明や大規模な化学物質のスクリーニングなど,さらなる進歩が必要である.また,土壌への残留性や植物への詳細な影響など,PQIの農薬としてのフィジビリティスタディも重要になるであろう.将来的には,より低濃度で簡便にQS阻害できる化合物とその使用法を開発したい.

今回は色々な都合で,真菌寄生に対する評価を割愛させて頂いた.PQI類が真菌寄生過程をも制御できれば,青枯病防除剤としてのポテンシャルが高くなる.この点については,きちんと精査してまずは原著論文を完成させたいと考えている.少しお待ち頂きたい.

Reference

1) S. Genin & T. P. Denny: Annu. Rev. Phytopathol., 50, 67 (2012).

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