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小さな運び屋,脂肪酸結合タンパク質の可能性FABPsによる細胞機能制御

Tatsuya Kusudo

楠堂 達也

帝塚山学院大学人間科学部食物栄養学科

Published: 2023-05-01

細胞膜は脂質でできているので,親水性の物質は通さず,疎水性の物質は通りやすいということは,生物を習った誰もが耳にすることである.しかし,細胞膜を通過した疎水性の物質が,ほとんど水である細胞質内をどのように運ばれるのかについては,考えたことがない人も多いのではないだろうか.今回,紹介する脂肪酸結合タンパク質(Fatty acid-binding proteins; FABPs)は,細胞内において疎水性物質の輸送を担うタンパク質である.

FABPsは分子サイズが14~15 kDaの小型のタンパク質であり,長鎖脂肪酸などの疎水性リガンドと可逆的に結合し,各細胞小器官や酵素に輸送する運び屋の働きをしている.FABPsは,線虫,ショウジョウバエから人に至るまで広く保存されており,哺乳類においては,少なくとも10種類(FABP1~9, 12)が同定されている.FABPsの命名については,現在はFABP1, FABP2のように一般に番号が使われるが,慣用名として最初に同定された組織にちなんだ名前もよく使用され,例えば,肝臓に主に発現しているFABP1はLiver-Type FABP(L-FABP),心筋,骨格筋に多いFABP3は,Heart-Type FABP(H-FABP)と呼ばれる.FABPsは,おおよそ組織特異的な発現を示し,特に脂質代謝が盛んな臓器においては非常に豊富に含まれ,肝臓,心筋,脂肪細胞においては全細胞質タンパク質の1~5%を占めている.そのため臓器が障害を受けた際には細胞外に漏れ出ることから,FABPsは疾患のバイオマーカーとして利用されている.FABPsファミリーに属する分子間のアミノ酸配列の相同性は15~70%とそれほど高くないが,立体的にはほとんど同じ構造をしており,図1図1■FABPsの立体構造と役割に示すように10本の逆並行βストランドからなるβバレル構造に,ヘリックス-ターン-ヘリックス構造の蓋が付いたような形をしている.脂肪酸などのリガンドは,βバレル構造内に内包される(1, 2)1) M. Furuhashi & G. S. Hotamisligil: Nat. Rev. Drug Discov., 7, 489 (2008).2) R. L. Smathers & D. R. Petersen: Hum. Genomics, 5, 170 (2011).

図1■FABPsの立体構造と役割

脂質は,生体膜の構成成分,エネルギー産生のための代謝燃料,酵素の基質,核内受容体のリガンド,情報を伝えるシグナル分子など,細胞内外でさまざまな役割を果たしている.細胞が正常な活動を営むためには,物質が適切にトラフィッキングされる必要があるが,脂質は水にはほとんど溶けず,また,遊離した状態では一部の脂質は界面活性作用による細胞毒性を引き起こすため,細胞内での輸送にはFABPsなどの結合タンパク質が重要な役割を果たしている.図1図1■FABPsの立体構造と役割に示すように,FABPsは,長鎖脂肪酸などの脂質の細胞内への取り込み,ペルオキシソームやミトコンドリアにおける酸化,小胞体における膜成分の合成,脂質代謝酵素への基質の供給,脂肪の貯蔵など,各細胞小器官への脂質の輸送を担うことにより,細胞内代謝に深く関与している.個体レベルにおいても,心筋と骨格筋で多く発現しているFABP3の遺伝子欠損マウスは,運動持久力の低下や骨格筋における脂肪酸利用が低下していることが報告されている(1)1) M. Furuhashi & G. S. Hotamisligil: Nat. Rev. Drug Discov., 7, 489 (2008)..また,FABPsは核内において転写因子である核内受容体と相互作用し,リガンドの受け渡しを行うことにより遺伝子の発現制御にも関与している(1, 2)1) M. Furuhashi & G. S. Hotamisligil: Nat. Rev. Drug Discov., 7, 489 (2008).2) R. L. Smathers & D. R. Petersen: Hum. Genomics, 5, 170 (2011)..さらに,一部のFABPsは,リガンドと結合してその細胞毒性を減弱させるだけでなく,分子内のメチオニン残基やシステイン残基を用いた抗酸化作用を発揮することで,酸化ストレスから細胞を保護している(3)3) G. Wang, H. L. Bonkovsky, A. de Lemos & F. J. Burczynski: J. Lipid Res., 56, 2238 (2015)..このように,細胞内におけるFABPsの働きは,単に脂質の輸送に留まらず,広範な細胞活動におよび,恒常性の維持に寄与している.

FABPsの個体レベルでの働きや疾患との関りについては,遺伝子組換え動物を用いてさまざまな解析がなされてきており,糖尿病,動脈硬化などの肥満関連疾患や癌,さらには統合失調症や自閉症などの精神疾患や高次脳機能にまで関係していることが明らかとなっている(1, 4, 5)1) M. Furuhashi & G. S. Hotamisligil: Nat. Rev. Drug Discov., 7, 489 (2008).4) S. Gurung, K. P. S. Chung & T. K. Lee: Histol. Histopathol., 34, 1 (2019).5) C. Shimamoto, T. Ohnishi, M. Maekawa, A. Watanabe, H. Ohba, R. Arai, Y. Iwayama, Y. Hisano, T. Toyota, M. Toyoshima et al.: Hum. Mol. Genet., 23, 6495 (2014)..FABP4遺伝子の欠損により,食事誘導性肥満マウス,および遺伝性肥満マウスにおいては,肥満によってインスリンが効きにくくなる状態,すなわちインスリン抵抗性に対する耐性が示され,アテローム性動脈硬化症のモデルマウスであるApoE遺伝子欠損マウスにおいては,動脈硬化の進行の顕著な低下が認められる(1)1) M. Furuhashi & G. S. Hotamisligil: Nat. Rev. Drug Discov., 7, 489 (2008)..これらの結果から,FuruhashiらはFABP4の特異的阻害剤を開発し,遺伝性肥満マウス,およびApoE遺伝子欠損マウスへの投与実験を行った.その結果,FABP4特異的阻害剤は,インスリン抵抗性,および動脈硬化を改善し,FABPsの機能制御による肥満関連疾患の治療効果が実証された(1)1) M. Furuhashi & G. S. Hotamisligil: Nat. Rev. Drug Discov., 7, 489 (2008)..我々の研究においても,脂肪肝を呈した食事誘導性肥満マウスに,アデノウイルスベクターを用いて肝臓特異的にFABP1の発現抑制を行ったところ,わずか1週間で脂肪肝の劇的な改善が見られた(6)6) T. Mukai, M. Egawa, T. Takeuchi, H. Yamashita & T. Kusudo: FEBS Open Bio, 7, 1009 (2017)..このようなFABPsの機能制御は,酵素活性や受容体をターゲットとするのではなく,細胞内輸送を標的とした新しい治療法開発の可能性を示している.

現代社会において,物流が我々の生活を陰で支えているように,FABPsは細胞内における脂質の輸送を担うことで,生命活動を支えている.FABPsは古くから研究されているタンパク質の一つであるが,近年では細胞外における内分泌因子としての働きも注目されており,この小さな運び屋には,まだまだ未知の可能性が秘められている.

Reference

1) M. Furuhashi & G. S. Hotamisligil: Nat. Rev. Drug Discov., 7, 489 (2008).

2) R. L. Smathers & D. R. Petersen: Hum. Genomics, 5, 170 (2011).

3) G. Wang, H. L. Bonkovsky, A. de Lemos & F. J. Burczynski: J. Lipid Res., 56, 2238 (2015).

4) S. Gurung, K. P. S. Chung & T. K. Lee: Histol. Histopathol., 34, 1 (2019).

5) C. Shimamoto, T. Ohnishi, M. Maekawa, A. Watanabe, H. Ohba, R. Arai, Y. Iwayama, Y. Hisano, T. Toyota, M. Toyoshima et al.: Hum. Mol. Genet., 23, 6495 (2014).

6) T. Mukai, M. Egawa, T. Takeuchi, H. Yamashita & T. Kusudo: FEBS Open Bio, 7, 1009 (2017).