解説

C3-C4ハイブリッドRubiscoによるイネの光合成能力の改良Rubisco小サブユニットの重要性

Introduction of C3-C4 Hybrid Rubisco to Improve the Photosynthetic Capacity of Rice: Functional Importance of Rubisco Small Subunit

Hiroshi Fukayama

深山

神戸大学大学院農学研究科

Hiroyoshi Matsumura

松村 浩由

立命館大学生命科学部

Published: 2023-05-01

光合成においてCO2固定反応を触媒するリブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(Rubisco)は,主要な律速因子と考えられる.それは,この酵素の触媒速度が非常に遅いこと,CO2固定反応がO2により競合阻害を受けることに起因する.陸上植物の中にはCO2濃縮回路を持つC4植物が存在し,C4植物のRubiscoは一般的な光合成反応を行うC3植物よりも高い触媒速度を示す.Rubiscoは,大サブユニット(RbcL)と小サブユニット(RbcS)の2種類のタンパク質で構成されており,近年,Rubiscoの酵素特性の決定においてRbcSが重要な役割を担っていることが明らかとなってきた.本稿では,C3植物であるイネのRbcLとC4植物であるソルガムのRbcSのハイブリッドRubiscoをイネで発現させた研究例を中心に,RubiscoにおけるRbcSの機能,RbcSを利用した光合成能力の改良の可能性について解説する.

Key words: 光合成; 酵素; C4植物; 遺伝子組換え; タンパク質立体構造

Rubiscoは光合成の主要な律速因子

植物の成長は光合成に依存するため,農作物の増収には光合成能力の改良が有効と考えられる.しかしながら光合成は,光化学系,電子伝達系,カルビン回路,デンプン合成,ショ糖合成など多くのステップから構成される複雑な反応である(図1図1■光合成の概略).よって,改良点を絞り込むことは難しいように思われるが,明らかな改良ポイントがある.それがカルビン回路におけるCO2固定反応を触媒するリブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(Rubisco)である.Rubiscoはリブロース1,5-ビスリン酸(RuBP)とCO2から2分子の3-ホスホグリセリン酸(3PGA)を生成するカルボキシラーゼ反応を触媒しているが,この触媒速度は非常に遅い(1, 2)1) R. E. Sharwood: New Phytol., 213, 494 (2017).2) J. Galmés, S. Capó-Bauçà, Ü. Niinemets & C. Iñiguez: Curr. Opin. Plant Biol., 49, 60 (2019)..例えば,触媒速度の速いカルボニックアンヒドラーゼは触媒サイト当たりで1秒間に約100万回反応を触媒するが,植物のRubiscoでは2~6回である(1, 3)1) R. E. Sharwood: New Phytol., 213, 494 (2017).3) S. Lindskog: Pharmacol. Ther., 74, 1 (1997)..さらにRubiscoには欠点があり,RubiscoはCO2だけでなく,O2を基質としたオキシゲナーゼ反応も触媒し,カルボキシラーゼ反応は競合阻害を受ける.このオキシゲナーゼ反応は,エネルギー的に無駄な光呼吸を引き起こすこととなる(4)4) A. R. Fernie & H. Bauwe: Plant J., 102, 666 (2020)..イネ,コムギ,ダイズなど重要な作物の多くは,光合成様式からC3植物として分類される.C3植物のRubiscoは,CO2濃縮回路を持つトウモロコシやソルガムなどのC4植物のRubiscoと比較して触媒速度が低く(C3植物では2~4回,C4植物では3~6回),CO2に対する親和性が高い(CO2に対するミカエリス定数Kcが低い)という特徴がある(図2図2■C3植物とC4植物のRubiscoの酵素特性の違い(5~7)5) R. F. Sage: J. Exp. Bot., 53, 609 (2002).6) C. Ishikawa, T. Hatanaka, S. Misoo & H. Fukayama: Plant Prod. Sci., 12, 345 (2009).7) R. E. Sharwood, O. Ghannoum & S. M. Whitney: Curr. Opin. Plant Biol., 31, 135 (2016)..低い触媒速度を補うために,植物は葉に大量のRubiscoを蓄積しているが,C3植物では特にRubisco含量が高く,葉の全窒素含量の15~30%という高いコストを1つの酵素に支払っている(8)8) A. Makino, H. Sakashita, J. Hidema, T. Mae, K. Ojima & B. Osmond: Plant Physiol., 100, 1737 (1992)..しかし,CO2に対する高い親和性は,C3植物がCO2濃縮回路なしで光呼吸を減らすのに有効である.理想的なRubiscoは,高い触媒速度でかつ高いCO2親和性を持つことであるが,一般的にこれらの間にはトレードオフの関係が認められる(6)6) C. Ishikawa, T. Hatanaka, S. Misoo & H. Fukayama: Plant Prod. Sci., 12, 345 (2009)..つまり,触媒速度が高いとCO2親和性が低下してしまう.C4植物は,エネルギーを使ってCO2濃縮回路を駆動させ,Rubisco近傍のCO2濃度を高めることができる.よって,CO2に対する親和性はそれほど重要ではなく,触媒速度の高いRubiscoを持ち,少ないRubisco量で高い光合成能力を発揮するよう進化した.一方,C3植物は,CO2濃縮回路なしで光呼吸を減らすために,CO2に対する親和性は高いが触媒速度の低いRubiscoを持つよう進化してきた.しかし大気CO2濃度は上昇しており,現在の400 ppmから今世紀後半には600~1000 ppmまで増加すると予想され,光呼吸は半分程度に減少する(9)9) T. D. Sahrkey: Physiol. Plant., 73, 147 (1988)..つまり,近未来の高CO2環境ではCO2濃縮回路が無くても光呼吸はおのずと抑制されることになる.よって今後のことを考えると,C3植物も高活性型のRubiscoを持ち,Rubiscoへのコストダウンを図った方が有利である.

図1■光合成の概略

図2■C3植物とC4植物のRubiscoの酵素特性の違い

Rubisco周辺のCO2濃度は大気条件(400 ppm)での値を示す.KcはCO2に対するミカエリス定数を表す.

イネの光合成の改良に適したRubiscoの探索

生物界に存在するRubiscoはアミノ酸配列,触媒機能により4種類(Form I–IV)に分類できる(10)10) S. M. Whitney, R. L. Houtz & H. Alonso: Plant Physiol., 155, 27 (2011)..最も一般的なForm IのRubiscoは8個の大サブユニット(RbcL)と8個の小サブユニット(RbcS)から構成されるヘテロ16量体であり,シアノバクテリア,真核藻類,高等植物に広く分布している.それに対して,プロテオバクテリア,渦鞭毛藻類,古細菌はRbcSを持たずRbcLの2量体を基本単位として構成されるForm IIやForm IIIのRubiscoを持つ.例外として,緑色滑走細菌クロロフレクサスにおいてRbcLのみで構成され,アミノ酸配列がForm Iに近いRubisco(Form I′)も発見されている(11)11) D. M. Banda, J. H. Pereira, A. K. Liu, D. J. Orr, M. Hammel, C. He, M. A. J. Parry, E. Carmo-Silva, P. D. Adams, J. F. Banfield et al.: Nat. Plants, 6, 1158 (2020)..Form IIIのRubiscoは光合成とは異なる代謝経路で働いており,Form IやForm IIのRubiscoとのアミノ酸配列の相同性は30%以下と低い(10)10) S. M. Whitney, R. L. Houtz & H. Alonso: Plant Physiol., 155, 27 (2011)..さらに古細菌,真正細菌ではRubisco活性を持たないRubisco-like Protein(Form IV)が同定されている(12)12) H. Ashida, Y. Saito, C. Kojima, K. Kobayashi, N. Ogasawara & A. Yokota: Science, 302, 286 (2003)..酵素特性に関してはForm IIのRubiscoは触媒速度が高くCO2親和性が低い,Form IIIのRubiscoは触媒速度もCO2親和性も低い,Form IのRubiscoはCO2親和性が高いといった特徴がある(10)10) S. M. Whitney, R. L. Houtz & H. Alonso: Plant Physiol., 155, 27 (2011)..しかしForm IのRubiscoの中でも酵素特性の種間差は存在し,CO2濃縮回路を持つC4植物,シアノバクテリア,クラミドモナスなどの藻類は,触媒速度が高くCO2親和性が低いRubiscoを持っている.また,低温に適応した植物も,触媒速度の高いRubiscoを持つことが知られている(5)5) R. F. Sage: J. Exp. Bot., 53, 609 (2002)..一方,紅藻類はC3植物以上にCO2親和性が高いRubiscoを有している(13)13) S. M. Whitney, P. Baldet, G. S. Hudson & T. J. Andrews: Plant J., 26, 535 (2001).

このようにRubiscoの酵素特性には種間差があるが,イネの光合成能力の改良を考えた場合,できる限りイネに近縁な植物のRubiscoを選んだ方が良い.なぜならRubiscoが生合成され触媒作用を示すまでには,様々なタンパク質との相互作用が必要だからである.RbcLのダイマー形成に必要なRAF1やRubiscoの活性化に働くRubisco activaseには種に依存した特異性が認められる(14, 15)14) S. M. Whitney, R. Birch, C. Kelso, J. T. Beck & M. V. Kapralov: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 112, 3564 (2015).15) A. R. Portis Jr. & Jr: Photosynth. Res., 75, 11 (2003)..よって我々はイネ科の中で有用なRubiscoを探索するべく,イネ科のC4植物,耐寒性牧草類,高山植物についてRubiscoの酵素特性を解析した(6)6) C. Ishikawa, T. Hatanaka, S. Misoo & H. Fukayama: Plant Prod. Sci., 12, 345 (2009)..それらの植物のRubiscoは全てイネのRubiscoよりも高い触媒速度を示したが,中でもC4植物のソルガムのRubiscoは高い触媒速度と比較的高いCO2親和性を示したことから,イネの光合成の改良に有効であると考えられた.光合成速度のシミュレーションを行ったところ,イネにソルガムのRubiscoを同レベルで発現させた場合の高CO2条件での光合成速度(CO2濃度500 ppmでRubisco律速と仮定した場合)は,ソルガムRubiscoの導入により40%増加することが予想された.

RubiscoにおけるRbcSの役割

Rubiscoの触媒部位はRbcLに存在するため,当然ながらRbcLは必須であり,触媒特性の種間差の決定においても重要と考えられる(16)16) I. Andersson & A. Backlund: Plant Physiol. Biochem., 46, 275 (2008)..古くは酵素特性の異なる植物の属間交雑実験が行われ,酵素特性が母性遺伝することから葉緑体ゲノムにコードされたRbcLが,酵素特性の決定において重要であることが示された(17)17) J. R. Evans & R. B. Austin: Planta, 167, 344 (1986)..その後,葉緑体形質転換が可能なタバコにおいて,Rubiscoの触媒速度が高いC4植物Flaveria bidentisRbcLを相同組換えで導入した実験からも,RbcLの重要性が示された(18)18) S. M. Whitney, R. E. Sharwood, D. Orr, S. J. White, H. Alonso & J. Galmés: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 14688 (2011)..一方のRbcSは,クラミドモナスを用いてRbcSのβA-βBループ内の変異がRubiscoの酵素特性を変化させることが示されていた(19, 20)19) R. J. Spreitzer: Arch. Biochem. Biophys., 414, 141 (2003).20) T. Genkov, M. Meyer, H. Griffiths & R. J. Spreitzer: J. Biol. Chem., 285, 19833 (2010)..しかし,クラミドモナスの研究ではポジティブな効果は少なく,RbcSの触媒作用における働きは限定的に思われていた.実際に我々もRbcLの方が重要と考えていたため,イネの葉緑体形質転換によるソルガムRbcLの導入を試みていたが,イネでは方法が確立されておらず成功しなかった.イネ科植物内では,RbcLのアミノ酸配列の相同性は非常に高く(イネとソルガムでは95%),RbcSの相同性はRbcLに比べると低い(イネとソルガムでは77%).我々は,RbcSの違いが触媒特性の違いを生じる要因である可能性もあると考え,ソルガムRbcSをイネで発現させる実験を行った(21)21) C. Ishikawa, T. Hatanaka, S. Misoo, C. Miyake & H. Fukayama: Plant Physiol., 156, 1603 (2011).RbcSは核ゲノムにコードされており,アグロバクテリウム法により,ソルガムRbcSをイネに導入することは比較的容易であった.イネのRbcSを残したままソルガムRbcSを導入したので,形質転換イネではイネRbcSとソルガムRbcSの両方を含むキメラなRubiscoを形成することとなるが,ソルガムRbcSが全RbcSの40%以上発現する系統のRubiscoでは,イネRubiscoの約1.5倍の触媒速度を示した.この結果は,触媒特性の決定におけるRbcSの重要性を示すとともに,Rubiscoの触媒特性を大幅に改善することに成功した初めての例となった.その後,同じくC4植物であるネピアグラスとギニアグラスのRbcSにも触媒速度を増加させる効果が認められた(22)22) H. Fukayama, T. Kobara, K. Shiomi, R. Morita, D. Sasayama, T. Hatanaka & T. Azuma: Plant Prod. Sci., 22, 296 (2019).

次に我々は,イネRbcSの多重遺伝子族に着目した.イネは5つのRbcSOsRbcS15)を持つが,その中の1つOsRbcS1のアミノ酸配列は,光合成組織で発現するOsRbcS25(成熟タンパク質のアミノ酸配列は同一)との相同性が約55.4%と低く,さらに光合成組織でほとんど発現していないことが報告されていた(23)23) Y. Suzuki, K. Nakabayashi, R. Yoshizawa, T. Mae & A. Makino: Plant Cell Physiol., 50, 1851 (2009)..これらのことから,OsRbcS1はRbcSの機能を有していない可能性も考えられていた.このOsRbcS1を光合成組織で高発現させたところ,OsRbcS1はRbcSとして機能すること,OsRbcS1が組み込まれたRubiscoの触媒速度は増加することが明らかとなった(24)24) K. Morita, T. Hatanaka, S. Misoo & H. Fukayama: Plant Physiol., 164, 69 (2014)..このOsRbcS1のオーソログは,多くの植物種で喪失しているが,シダ植物のイヌカタヒバ,木本植物のブドウ,双子葉植物のトマト,マメ科植物のミヤコグサなど幅広い植物種で確認されている(25)25) K. Morita, T. Hatanaka, S. Misoo & H. Fukayama: Plant Gene, 8, 26 (2016).OsRbcS1オーソログは呼吸活性の高い発達中の果実や根粒での発現が高く,光合成とは異なる代謝に働いていることが示唆される.タバコのOsRbcS1オーソログは,表皮に形成される毛状突起(トライコーム)において主に発現しており,それが組み込まれたRubiscoは至適pHが酸性側にシフトすることも報告されている(26)26) R. Laterre, M. Pottier, C. Remacle & M. Boutry: Plant Physiol., 173, 2110 (2017)..光照射中の葉緑体ストロマのpHは弱アルカリであり,OsRbcS1が光合成で機能していないという仮説と矛盾しない.

進化的に見ると,RbcSを持たないクロロフレクサスのForm I′ Rubiscoは,近縁なシアノバクテリアのRbcSを持つForm I Rubiscoに比べて明らかにCO2特異性が低い(11)11) D. M. Banda, J. H. Pereira, A. K. Liu, D. J. Orr, M. Hammel, C. He, M. A. J. Parry, E. Carmo-Silva, P. D. Adams, J. F. Banfield et al.: Nat. Plants, 6, 1158 (2020)..つまりForm I Rubiscoは,CO2特異性を上げるためにRbcSを獲得したものと考えられる.種の比較では,キビ亜科C4植物のギニアグラスとPanicum monticola,海草のPosidonia coriaceaPosidonia sinuosaでは,それぞれRbcLのアミノ酸配列は同一であるがRbcSの違いによって酵素特性が異なっている(7, 27)7) R. E. Sharwood, O. Ghannoum & S. M. Whitney: Curr. Opin. Plant Biol., 31, 135 (2016).27) S. Capó-Bauçà, S. Whitney, C. Iñiguez, O. Serrano, T. Rhodes & J. Galmés: Plant Physiol., 191, 946 (2022). doi: 10.1093/plphys/kiac492.これらの事例からも,酵素特性の決定において,RbcSが重要な役割を担っていることは確定的である.

RbcSにはその他の役割もあり,Rubiscoの発現量の調節,多量体化による触媒サイトの濃縮,また検証は十分ではないが触媒サイトへのCO2の供給促進(触媒サイトに近いRbcSの領域に配置している疎水性短鎖のアミノ酸残基にCO2が集まることが,Rubisco周辺のガス分布のシミュレーションで示されている(28)28) M. van Lun, J. S. Hub, D. van der Spoel & I. Andersson: J. Am. Chem. Soc., 136, 3165 (2014).)に働くことも提唱されている(29)29) Y. Mao, E. Catherall, A. Díaz-Ramos, G. R. L. Greiff, S. Azinas, L. Gunn & A. J. McCormick: J. Exp. Bot., 74, 543 (2022). doi: 10.1093/jxb/erac309.RbcSは核ゲノムにコードされていることから,葉緑体ゲノムにコードられているRbcLよりも遺伝子組換えやゲノム編集が容易である.これらのことから,RbcSはRubiscoの触媒能力の改良における重要なターゲットであると言える.

ソルガムRbcSとイネRbcLの完全ハイブリッドRubisco

ソルガムRbcS高発現イネのRubiscoでは触媒速度が有意に増加したが,ソルガムRbcSの効果をより厳密に明らかにするには,完全なソルガムRbcSとイネRbcLのハイブリッドRubiscoを作成する必要がある.そこで,ソルガムRbcS高発現イネにおいて,光合成組織で働く4つのRbcSを全てCRISPR/Cas9法でノックアウトし,完全なハイブリッドRubisco(CSS-Rubisco)を発現する形質転換イネ(CSS系統)を作出した(図3図3■C3-C4ハイブリッドRubiscoを発現するイネ(30)30) H. Matsumura, K. Shiomi, A. Yamamoto, Y. Taketani, N. Kobayashi, T. Yoshizawa, S. Tanaka, H. Yoshikawa, M. Endo & H. Fukayam: Mol. Plant, 13, 1570 (2020)..CSS-Rubiscoの触媒速度は,イネRubiscoの1.8~1.9倍であり,ソルガムRubiscoの約80%の値であった.単純にソルガムRbcSを高発現させた形質転換イネのRubiscoと比べると,完全なハイブリッドとなったRubiscoでは,触媒速度がさらに増加したといえる.CSS-Rubiscoの他の酵素特性を見ると,イネRubiscoに比べて,Kcの増加とCO2特異性の低下が認められた.これらの酵素特性はC4植物のRubiscoに見られる特徴であり,ソルガムRbcSを組込ませることで,イネRubiscoにC4植物のRubiscoに近い酵素特性を付与させることに成功した.

図3■C3-C4ハイブリッドRubiscoを発現するイネ

C3-C4ハイブリッドRubiscoを発現するイネの作出(上図).まず最初に,ソルガムRbcSを高発現する形質転換イネ(SS系統)を作出した.そのSS系統のイネRbcS遺伝子をCRISPR/Cas9法でノックアウトし,イネRbcLとソルガムRbcSの完全ハイブリッドRubiscoを発現する形質転換イネ(CSS系統)を作出した.CSS系統の生育におよぼすCO2濃度の効果(下図).非形質転換イネ(WT)とCSS系統を異なるCO2濃度(400 ppm, 1000 ppm, 3000 ppm, 図には400 ppmと3000 ppmで育成したイネの写真のみを示す)で育成し生育を比較した.

光呼吸が抑制される将来的な高CO2環境では高活性型のRubiscoを持ち,Rubisco含量を減らすことが,植物にとって有利な適応であると考えられる.CSS-Rubiscoは高活性であり,作出したCSS系統(CSS10とCSS16の2系統)のRubisco含量は,CSS10系統で非形質転換イネの67%,CSS16系統で44%であった.特にCSS10系統のRubisco含量は,高CO2条件の光合成において十分な量と見積もることができる.ではCSS系統の光合成能力は増加するのだろうか? 光合成速度を測定したところ,CSS系統は低CO2条件から大気条件(500 ppm以下)では非形質転換イネよりも低い光合成速度を示したが,高CO2条件におけるCSS10系統の光合成速度は,非形質転換イネよりも有意に増加した(30)30) H. Matsumura, K. Shiomi, A. Yamamoto, Y. Taketani, N. Kobayashi, T. Yoshizawa, S. Tanaka, H. Yoshikawa, M. Endo & H. Fukayam: Mol. Plant, 13, 1570 (2020)..高活性型Rubiscoは,光化学系が律速要因となる弱光下で不利になる可能性が考えられたが,高CO2条件であれば,弱光下においてCSS系統は非形質転換イネと同等の光合成速度を示した.つまり高CO2環境であれば,CSS系統に不利な要素は少なくメリットは大きいといえる.これらのことを考えると,CSS系統では高CO2環境における生育も促進されるはずである.CSS系統を大気条件(CO2, 400 ppm)と高CO2条件(CO2, 1000 ppm, 3000 ppm)で育成し生育の比較を行った(図3図3■C3-C4ハイブリッドRubiscoを発現するイネ(30)30) H. Matsumura, K. Shiomi, A. Yamamoto, Y. Taketani, N. Kobayashi, T. Yoshizawa, S. Tanaka, H. Yoshikawa, M. Endo & H. Fukayam: Mol. Plant, 13, 1570 (2020)..イネの場合,光合成速度の増加は分げつ数の増加をもたらすことがわかっているが,予想通り高CO2条件で育成したCSS系統では,分げつ数の増加が認められた.しかしながら,乾物重や収量に関しては,非形質転換イネを上回ることはなかった.特に,CSS系統では種子の稔性が大幅に低下していた.この現象はCSS10系統とCSS16系統の両方で認められ,高CO2条件でも回復しないことから,光合成能力の問題ではないと考えられる.原因は解明できていないが,シロイヌナズナでは,4つのRbcSのうちのRbcS1ARbcS1Bを2重欠損させると稔性のある種子が得られないことが報告されている(31)31) P. Khumsupan, M. A. Kozlowska, D. J. Orr, A. I. Andreou, N. Nakayama, N. Patron, E. Carmo-Silva & A. J. McCormick: J. Exp. Bot., 71, 5963 (2020)..この現象に関しては,今後さらなる検証が必要とされる.

CSS-Rubiscoの結晶構造

これまで述べた通り,RbcSはRubiscoの酵素特性の決定において重要であることがわかったが,触媒サイトから離れたRbcSがどのように触媒作用に関与しているのかは不明である.そこでCSS-Rubiscoを精製し,X線結晶構造解析法によって1.75 Åの分解能でCSS-Rubiscoの立体構造を決定した(図4図4■Rubiscoの構造(30)30) H. Matsumura, K. Shiomi, A. Yamamoto, Y. Taketani, N. Kobayashi, T. Yoshizawa, S. Tanaka, H. Yoshikawa, M. Endo & H. Fukayam: Mol. Plant, 13, 1570 (2020)..CSS-Rubiscoと野生型Rubisco(WT-Rubisco)の立体構造を比較したところ,RbcLの構造の差はほとんど見られなかったが,RbcSの複数箇所において構造の差が見られた.なかでも我々は,βヘアピン(βC-βD)の構造の差に注目した.というのも,触媒の各段階においてRubiscoの構造は変化するが,その際にRbcLの触媒部位だけでなく,RbcSのβC-βD部分の構造も変化するからである(32)32) H. Matsumura, E. Mizohata, H. Ishida, A. Kogami, T. Ueno, A. Makino, T. Inoue, A. Yokota, T. Mae & Y. Kai: J. Mol. Biol., 422, 75 (2012)..具体的には,このβヘアピンにあるRbcSのF104の側鎖のコンフォメーションが大きく変わる.このF104はWT-RubiscoではI102とL74に挟まれているが,CSS-RubiscoではI102に相当する残基はロイシンである(図4図4■Rubiscoの構造).そしてWT-Rubiscoでは,I102-F104の炭素間距離は3.6~3.7 Åであったが,CSS-RubiscoのL102-F104では4.1~4.3 Åであり,WT-Rubiscoに比べCSS-Rubiscoでは側鎖間のファンデルワールス力が若干弱いと考えられる.つまり,メチル基1つの位置の差によりRubiscoの触媒ターンオーバーに影響を与えるという仮説が成り立つ.このように現状では構造解析によって幾つかの仮説が得られた段階であり,今後さらなる検証が必要である.

図4■Rubiscoの構造

CSS-RubiscoのRbcSを橙色,WT-RubiscoのRbcSを黄色,RbcLを緑色で示す.左にはCSS-Rubisco全体を示し,赤枠で示した部分がβA-βBループの領域である.右上はWT-Rubiscoの触媒部位付近を示し,触媒部位には遷移状態アナログである2-カルボキシアラビニトールビスリン酸(2CABP)が結合していて,触媒ループである60’s loopとloop 6は触媒の回転に伴って開閉する(図は閉じた状態).それらの触媒ループの開閉の際にRbcSのβヘアピン(βC-βD)の構造も大きく変化する.

ゲノムデータベースを利用してRbcSのアミノ酸配列を探索したところ,C3植物では128種のうち124種は102番目のアミノ酸がイソロイシンであった.一方C4植物では,塩基配列情報が少ないが,34種のうち15種(44%)がロイシンであり,ロイシンの割合がC3植物よりも明らかに高かった.また,C4植物の中でもRubiscoの触媒速度が高い種はロイシンである傾向があった.しかしながら例外もあることから,102番目のアミノ酸の違いは有力な候補であるが,植物によって異なる領域のアミノ酸が触媒速度に効果をもたらしている可能性も考える必要がある.

おわりに

Rubiscoは非常に完成された酵素であり,改良の余地は少ないとも考えられてきた.非常に触媒速度が高いForm II Rubisco(33)33) D. Davidi, M. Shamshoum, Z. Guo, Y. M. Bar-On, N. Prywes, A. Oz, J. Jablonska, A. Flamholz, D. G. Wernick, N. Antonovsky et al.: EMBO J., 39, e104081 (2020).,CO2特異性が高い紅藻のForm I Rubisco(13)13) S. M. Whitney, P. Baldet, G. S. Hudson & T. J. Andrews: Plant J., 26, 535 (2001).も存在しているが,それらのパラメータ間にはトレードオフの関係があると考えるのが一般的である.しかし近年,これまで解析されてこなかった幅広い種でRubiscoの酵素特性を見ると,触媒速度とCO2特異性のトレードオフが不明確であることが判明した(34)34) A. I. Flamholz, N. Prywes, U. Moran, D. Davidi, Y. M. Bar-On, L. M. Oltrogge, R. Alves, D. Savage & R. Milo: Biochemistry, 58, 3365 (2019)..そのような触媒特性の多様性は,触媒速度が高く,かつCO2特異性も高いような,スーパーRubiscoを人工的に設計できる可能性を期待させる.最近,ナス科植物の先祖型Rubiscoを人工設計して触媒作用への効果を解析する実験も行われている(35)35) M. T. Lin, H. Salihovic, F. K. Clark & M. R. Hanson: Sci. Adv., 8, eabm6871 (2022)..しかしながら仮に,酵素特性に有用なRubiscoを設計できたとしても,多数あるフォールディングや会合に必要な分子シャペロンとの相互作用に不具合が生じると,植物内でRubiscoを正常に合成できない.この点がRubiscoの進化を妨げてきた原因の1つと考えられている.またRbcLのように葉緑体ゲノムに存在する遺伝子は,核ゲノムに存在する遺伝子よりも進化が10倍ほど遅いこともマイナス要因であっただろう(36)36) D. R. Smith: Genome Biol. Evol., 7, 1227 (2015)..しかしそれらをポジティブに捉えると,Rubiscoには改良の余地が多く残されている可能性があるのかも知れない.我々が行ってきたハイブリッドRubiscoの実験も含めて,Rubiscoの触媒特性の改良が進み,いつか光合成改良における真のブレークスルーが起こることを期待したい.

Reference

1) R. E. Sharwood: New Phytol., 213, 494 (2017).

2) J. Galmés, S. Capó-Bauçà, Ü. Niinemets & C. Iñiguez: Curr. Opin. Plant Biol., 49, 60 (2019).

3) S. Lindskog: Pharmacol. Ther., 74, 1 (1997).

4) A. R. Fernie & H. Bauwe: Plant J., 102, 666 (2020).

5) R. F. Sage: J. Exp. Bot., 53, 609 (2002).

6) C. Ishikawa, T. Hatanaka, S. Misoo & H. Fukayama: Plant Prod. Sci., 12, 345 (2009).

7) R. E. Sharwood, O. Ghannoum & S. M. Whitney: Curr. Opin. Plant Biol., 31, 135 (2016).

8) A. Makino, H. Sakashita, J. Hidema, T. Mae, K. Ojima & B. Osmond: Plant Physiol., 100, 1737 (1992).

9) T. D. Sahrkey: Physiol. Plant., 73, 147 (1988).

10) S. M. Whitney, R. L. Houtz & H. Alonso: Plant Physiol., 155, 27 (2011).

11) D. M. Banda, J. H. Pereira, A. K. Liu, D. J. Orr, M. Hammel, C. He, M. A. J. Parry, E. Carmo-Silva, P. D. Adams, J. F. Banfield et al.: Nat. Plants, 6, 1158 (2020).

12) H. Ashida, Y. Saito, C. Kojima, K. Kobayashi, N. Ogasawara & A. Yokota: Science, 302, 286 (2003).

13) S. M. Whitney, P. Baldet, G. S. Hudson & T. J. Andrews: Plant J., 26, 535 (2001).

14) S. M. Whitney, R. Birch, C. Kelso, J. T. Beck & M. V. Kapralov: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 112, 3564 (2015).

15) A. R. Portis Jr. & Jr: Photosynth. Res., 75, 11 (2003).

16) I. Andersson & A. Backlund: Plant Physiol. Biochem., 46, 275 (2008).

17) J. R. Evans & R. B. Austin: Planta, 167, 344 (1986).

18) S. M. Whitney, R. E. Sharwood, D. Orr, S. J. White, H. Alonso & J. Galmés: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 14688 (2011).

19) R. J. Spreitzer: Arch. Biochem. Biophys., 414, 141 (2003).

20) T. Genkov, M. Meyer, H. Griffiths & R. J. Spreitzer: J. Biol. Chem., 285, 19833 (2010).

21) C. Ishikawa, T. Hatanaka, S. Misoo, C. Miyake & H. Fukayama: Plant Physiol., 156, 1603 (2011).

22) H. Fukayama, T. Kobara, K. Shiomi, R. Morita, D. Sasayama, T. Hatanaka & T. Azuma: Plant Prod. Sci., 22, 296 (2019).

23) Y. Suzuki, K. Nakabayashi, R. Yoshizawa, T. Mae & A. Makino: Plant Cell Physiol., 50, 1851 (2009).

24) K. Morita, T. Hatanaka, S. Misoo & H. Fukayama: Plant Physiol., 164, 69 (2014).

25) K. Morita, T. Hatanaka, S. Misoo & H. Fukayama: Plant Gene, 8, 26 (2016).

26) R. Laterre, M. Pottier, C. Remacle & M. Boutry: Plant Physiol., 173, 2110 (2017).

27) S. Capó-Bauçà, S. Whitney, C. Iñiguez, O. Serrano, T. Rhodes & J. Galmés: Plant Physiol., 191, 946 (2022). doi: 10.1093/plphys/kiac492

28) M. van Lun, J. S. Hub, D. van der Spoel & I. Andersson: J. Am. Chem. Soc., 136, 3165 (2014).

29) Y. Mao, E. Catherall, A. Díaz-Ramos, G. R. L. Greiff, S. Azinas, L. Gunn & A. J. McCormick: J. Exp. Bot., 74, 543 (2022). doi: 10.1093/jxb/erac309

30) H. Matsumura, K. Shiomi, A. Yamamoto, Y. Taketani, N. Kobayashi, T. Yoshizawa, S. Tanaka, H. Yoshikawa, M. Endo & H. Fukayam: Mol. Plant, 13, 1570 (2020).

31) P. Khumsupan, M. A. Kozlowska, D. J. Orr, A. I. Andreou, N. Nakayama, N. Patron, E. Carmo-Silva & A. J. McCormick: J. Exp. Bot., 71, 5963 (2020).

32) H. Matsumura, E. Mizohata, H. Ishida, A. Kogami, T. Ueno, A. Makino, T. Inoue, A. Yokota, T. Mae & Y. Kai: J. Mol. Biol., 422, 75 (2012).

33) D. Davidi, M. Shamshoum, Z. Guo, Y. M. Bar-On, N. Prywes, A. Oz, J. Jablonska, A. Flamholz, D. G. Wernick, N. Antonovsky et al.: EMBO J., 39, e104081 (2020).

34) A. I. Flamholz, N. Prywes, U. Moran, D. Davidi, Y. M. Bar-On, L. M. Oltrogge, R. Alves, D. Savage & R. Milo: Biochemistry, 58, 3365 (2019).

35) M. T. Lin, H. Salihovic, F. K. Clark & M. R. Hanson: Sci. Adv., 8, eabm6871 (2022).

36) D. R. Smith: Genome Biol. Evol., 7, 1227 (2015).