セミナー室

輸送システムと調節因子から紐解くカルシウム・リン恒常性の理解カルシウムとリンの調節因子から疾患まで

Yutaka Taketani

竹谷

徳島大学大学院医歯薬学研究部臨床食管理学分野

Published: 2023-06-01

緒言

人体を構成する元素は,多い順に酸素,炭素,水素,窒素,カルシウム,リンであり,以下,イオウ,カリウム,ナトリウムと続く.このうち,ミネラルで最も多い元素はカルシウムである.カルシウムは成人の体内に約800~1,000 gあり,体重の約1.4%を占める.リンは,カルシウムに次いで多いミネラルであり,成人で約600~800 g,体重の約1.1%を占める.カルシウムの役割は,リンとともにハイドロキシアパタイトとして骨格や歯を形成するだけでなく,筋肉の収縮,血液凝固,細胞内情報伝達のセカンドメッセンジャーなどである.特に,細胞外のカルシウムイオン濃度は,細胞内に比べて20,000倍ほど高く維持されており,細胞内へのカルシウムイオン流入は,細胞内シグナル伝達において重要な働きを持つ.このため,血中のカルシウム濃度は,ヒト成人では8.5~10.5 mg/dLの範囲でその恒常性が厳密に調節されている.リンは,カルシウムと同じく骨格や歯を形成するほか,DNAやRNAの高エネルギーリン酸結合や細胞膜リン脂質の構成成分,酸塩基平衡の調節,リン酸化による細胞内情報伝達や細胞機能の制御など多彩な生体の機能に関わる.このため,血中の無機リン酸濃度は,ヒト成人では2.5~4.5 mg/dLの範囲に維持されている.カルシウムもリンも血中濃度の異常は,様々な症状を引き起こし,生命予後に影響する.本稿では,このようなカルシウムとリンの生体内恒常性の調節機構について,今一度,基本的なところを振り返る機会となれば幸いである.

カルシウムの出納

体内でカルシウムが正常に機能するために,血中カルシウム濃度は非常に狭い範囲に維持されている.血中カルシウム濃度は,食事からのカルシウム摂取量,体内の最大の貯蔵臓器である骨の形成と吸収のバランス,および尿中への排泄を調節することで調節されている(図1図1■ヒトにおけるカルシウムの出納(1, 2)1) M. Peacock: Clin. J. Am. Soc. Nephrol., 5, S23 (2010).2) J. L. Shaker & L. Deftos: Endotext [Internet], South Dartmouth: MDText.com, Inc., https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK279023/.日本人の成人であれば,およそ食事から500~600 mgのカルシウムを摂取する.このうち,消化管で吸収されるのは300 mg程度である.一方,消化液中にも150 mgほど排泄されるので,正味の吸収量は150 mgほどになる.カルシウム吸収率は,食事からの摂取量に反比例し,摂取量が低下すれば吸収率は上昇し,摂取量が増加すれば低下する.血漿中のカルシウムのおよそ半分がアルブミンなどのタンパク質に結合していることから,血漿カルシウム濃度が10 mg/dLとすると,イオン化カルシウムは5 mg/dL程度である.腎臓の糸球体濾過量は,180 L/日程度であるので,1日に9,000 mgのイオン化カルシウムが糸球体を通過していると推定される.体内での骨や細胞内外の出入りが一定だとすると,尿中に排泄されるイオン化カルシウムは,消化管から吸収された正味の量に等しいことから,実際に尿中に排泄されるカルシウムは150 mg/日となり,ろ過されたカルシウムのほとんどが再吸収されていることになる(図1図1■ヒトにおけるカルシウムの出納).

図1■ヒトにおけるカルシウムの出納

血中カルシウム濃度は一定に保たれており,主に消化管からの吸収,血中と骨との間での移行,腎臓での再吸収/排泄により調節されている.

骨は,最大の貯蔵臓器であり,骨吸収と骨形成を介してカルシウムの出し入れを調節している.カルシウムが不足し血清カルシウム濃度が低下すれば,副甲状腺ホルモンの作用により骨吸収を増加させ,骨からのカルシウムの遊離を促進し,血中にカルシウムを供給する.一方,カルシウムが十分にある場合には,骨形成を促進し,骨にカルシウムを蓄積する.成長期に骨が成長する際には多くのカルシウムが必要とされる一方,成人となり骨の成長が止まった後は,骨形成と骨吸収のバランスが一定に維持されている.成人では概ね1日に500 mgほどのカルシウムが骨形成に用いられ,同量のカルシウムが骨吸収により遊離される(図1図1■ヒトにおけるカルシウムの出納).このような骨形成と骨吸収は,骨リモデリングといい,骨にとっては古くなった骨を壊し,新しく作り替えることで,骨の状態を適切に維持する役割がある.一方で,カルシウム代謝からみれば,血中カルシウム濃度を一定に維持するために,骨リモデリングを介して必要に応じてカルシウムを出し入れできる.

消化管でのカルシウム吸収

食物に含まれるカルシウムは,胃酸の作用によりカルシウムイオンに遊離し,十二指腸~小腸で吸収されることになる.消化管におけるカルシウムの吸収率は,ヒトでは約30%とされる.カルシウムの吸収は,ビタミンDなどのホルモンや管腔内のpHにより影響を受ける.管腔内のpHが低いために,十二指腸から空腸において,カルシウムの吸収効率は高い.一方で,この区間は速く通過するため,カルシウムの総吸収量としては回腸の方が大きく,最終的に吸収されるカルシウムのうち約65%は回腸で吸収される.

消化管におけるカルシウムの吸収機構には,経細胞輸送経路と細胞間輸送経路がある(図2a図2■消化管(a)と腎臓(b)におけるカルシウムの輸送機構).経細胞輸送は,小腸上皮細胞の刷子縁膜に存在するTransient receptor potential vanilloid 5(TRPV5;別名ECaC1あるいはCaT2)およびTRPV6(別名ECaC2あるいはCaT1)によって担われている(3)3) G. D. de Barboza, S. Guizzardi & N. T. de Talamoni: World J. Gastroenterol., 21, 7142 (2015)..いずれも,受動的にカルシウムを上皮細胞内に取り込むカルシウムチャネルであり,また活性型ビタミンDによって活性化される.細胞内に輸送されたカルシウムは,主にカルビンディンD9kなどのカルシウム結合タンパク質と結合し,細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させないように緩衝されるとともに刷子縁膜側から側底膜側に輸送される.これらのカルシウム結合タンパク質も活性型ビタミンDによる制御を受ける.側底膜側では,ATP依存性のカルシウム輸送体であるPMCA1bおよびNa/Ca交換輸送体であるNCX1により細胞内から血管側にカルシウムが輸送される.

図2■消化管(a)と腎臓(b)におけるカルシウムの輸送機構

消化管上皮細胞および腎臓の尿細管におけるカルシウムの輸送に関わる分子を示す.TRPV5: transient receptor potential vanilloid 5, TRPV6: transient receptor potential vanilloid 6, TRPC3: transient receptor potential canonical 3, PMCA1b: plasma membrane calcium ATPase 1b, NCX1: sodium/calcium exchanger 1, D9k: calbindin D9k, D28k: calbindin D28k, CLDNs: claudins.

細胞間輸送経路は,腸管上皮細胞間隙を介してカルシウムを輸送する経路である.腸管上皮細胞は,タイトジャンクションにより密接に結合しているが,カルシウムイオンは,濃度勾配や管腔内と間隙の電位差などにより一部は受動的に輸送される.また,近年,タイトジャンクションを形成するクローディン(CLDN)のうち,CLDN2, CLDN12, CLDN15が細胞間隙のカルシウム輸送を担うことが報告されている(4)4) C. Prot-Bertoye & P. Houillier: Genes, 11, 290 (2020)..これらのクローディンの発現は,活性型ビタミンDにより調節されている.

腎臓でのカルシウム再吸収

血中のカルシウムは,約半分がアルブミンと結合し,残り半分が遊離のカルシウムイオンとして存在する.アルブミンと結合しているカルシウムは腎臓の糸球体でろ過されないが,遊離のカルシウムイオンは,糸球体を自由に通過し,尿細管中にろ過される.しかしながら,ろ過されたカルシウムイオンのうち,98~99%が尿細管で再吸収される.近位尿細管では,腸管上皮細胞と同様に細胞間隙のタイトジャンクションを形成するCLDN2とCLDN10が発現しており,これらがカルシウムイオンの選択的輸送を担う(図2b図2■消化管(a)と腎臓(b)におけるカルシウムの輸送機構(4)4) C. Prot-Bertoye & P. Houillier: Genes, 11, 290 (2020)..また,刷子縁膜にはTRPC3,細胞内にはカルビンディンD28k,側底膜にはPMCA1とNCX1が発現し,カルシウムの再吸収を担う(5)5) M. B. Moor & O. Bonny: Am. J. Physiol. Renal Physiol., 310, F1337 (2016)..近位尿細管ではろ過されたカルシウムイオンのうち60~70%が再吸収される.

ヘンレループ上行脚では,やはり細胞間隙を介した輸送経路でカルシウムイオンが再吸収される.ヘンレループ上行脚の上皮細胞にはCLDN16とCLDN19がタイトジャンクションを形成しており,これらがカルシウム輸送を担うとされている(4)4) C. Prot-Bertoye & P. Houillier: Genes, 11, 290 (2020)..ヘンレループ上行脚では,ろ過されたカルシウムイオンのうち20~25%が再吸収される.この部位での再吸収は,副甲状腺ホルモン(PTH)により活性化される.

遠位尿細管は,経細胞輸送によりカルシウムイオンが再吸収される.遠位尿細管上皮細胞の刷子縁膜には,TRPV5が発現し,細胞内にはカルビンディンD28kが発現し,側底膜には,NCX1とPMCA4が発現しており,腸管上皮細胞と同様な機構でカルシウムイオンが再吸収される(図2b図2■消化管(a)と腎臓(b)におけるカルシウムの輸送機構(5)5) M. B. Moor & O. Bonny: Am. J. Physiol. Renal Physiol., 310, F1337 (2016)..カルシウムの再吸収を促進するPTH,活性型ビタミンD,線維芽細胞増殖因子23(FGF23)は,遠位尿細管でのカルシウムイオンの輸送を促進する.この遠位尿細管におけるカルシウム輸送は,腎臓におけるカルシウム再吸収の15%程度であるが,血中カルシウム濃度の微調整を行う重要なステップである.

血中カルシウム濃度調節機構

血中カルシウム濃度の変動は,カルシウム感知受容体により感知される(6)6) A. Papadopoulou, E. Bountouvi & F. E. Karachaliou: Genes, 12, 734 (2021)..カルシウム感知受容体は,7回膜貫通の構造をもつGタンパク質共役型受容体の1つであり,細胞外カルシウム濃度の変化を感知し,Gタンパク質を介して標的細胞内にシグナルを伝達し,細胞外カルシウム濃度の調整に関わるホルモンの分泌やカルシウムチャネルの活性を制御する.最も典型的なものは副甲状腺のカルシウム感知受容体である.副甲状腺は血漿中のカルシウムイオン濃度が2.2 mMより低下するとカルシウム感知受容体が不活性化し,PTHの分泌が促進される.一方,カルシウムイオン濃度が2.4 mMを超えるとカルシウム感知受容体が活性化し,PTHの分泌を抑制する.PTHは,骨において骨吸収を促進し,骨からカルシウムを動員する.併せてPTHは腎臓にも作用し,遠位尿細管ではカルシウムの再吸収を促進するとともに,近位尿細管では25-ヒドロキシビタミンD-1α水酸化酵素を活性化し,25-ヒドロキシビタミンDを活性型である1,25-ジヒドロキシビタミンD(活性型ビタミンD)に変換する.活性型ビタミンDは,小腸に作用しカルシウムの吸収を促進する(7)7) J. C. Fleet: Mol. Cell. Endocrinol., 453, 36 (2017)..この結果,骨,腎臓,小腸から血漿中へのカルシウム供給が増加し,血中カルシウム濃度が上昇する.PTHの分泌は,血漿カルシウム濃度の上昇により抑制されるほか,活性型ビタミンDによっても抑制される.FGF23は,血中カルシウム濃度の上昇により骨芽細胞や骨細胞から分泌される.FGF23は,遠位尿細管でのカルシウム再吸収を促進する作用があるが,カルシウム恒常性における役割としては主にPTH分泌やビタミンDの活性化を抑制することで血中カルシウム濃度を低下させる方向に作用する.

カルシウムの上昇に対しては,甲状腺のC細胞から分泌されるカルシトニンも重要な役割を担う.カルシトニンは,骨吸収を担う破骨細胞に作用し,骨吸収を抑制すると共に,腎臓のカルシウム再吸収を抑制する.

リンの出納

体内のリンは,約85%が骨・歯に,約14%が骨・歯以外の臓器・組織内に,残りの1%ほどが血中に存在する.体内において無機リン酸(Pi)やリン酸化合物,有機リン化合物として存在するが,細胞内外の輸送は,主にPiの形で行われる.したがって,リンが正常に機能するためには,体液中のPi濃度が一定に維持される必要がある.体内のPi濃度の恒常性は,消化管からの吸収,腎臓からの再吸収,体内の最大の貯蔵器官である骨~血液間での移行,筋肉やその他の臓器と血液間での移行により調節されている(図3図3■ヒトにおけるリンの出納(8, 9)8) Y. Taketani, F. Koiwa & K. Yokoyama: Clin. Exp. Nephrol., 21, 27 (2017).9) M. Peacock: Calcif. Tissue Int., 108, 3 (2021)..このうち,腎臓は1日に8,000 mgほどのPiをろ過し,そのうちの90%ほどを再吸収することから,腎臓のリン再吸収活性の調節は,血中Pi濃度を調節する上で最も重要な意味を持つ.

図3■ヒトにおけるリンの出納

血中リン濃度は一定に保たれており,主に消化管からの吸収,血中と骨や軟部組織間での移行,腎臓での再吸収/排泄により調節されている.

消化管でのリンの吸収

リンは,Piの形で輸送されることから,各細胞にはナトリウム依存性Piトランスポーターが発現している(9, 10)9) M. Peacock: Calcif. Tissue Int., 108, 3 (2021).10) I. Kaneko, S. Tatsumi, H. Segawa & K. Miyamoto: Clin. Exp. Nephrol., 21, 21 (2017)..消化管のリン輸送は,Na依存性の能動的な輸送系とNaに依存しない受動的な輸送系があり,通常の食事からの摂取量においては受動的な輸送系が60~70%を担っていると考えられている.消化管上皮細胞の刷子縁膜にはNaPi-IIbと呼ばれるIIb型ナトリウム依存性PiトランスポーターやPiT1, PiT2と呼ばれるIII型ナトリウム依存性Piトランスポーターが発現しており,特に前者は,消化管でのビタミンD依存性のPi吸収において重要とされる(図4a図4■消化管(a)と腎臓(b)におけるリンの輸送機構).近年,Na非依存的なPiの受動輸送には,細胞間隙を介した輸送系が重要だとされている(11)11) S. N. Fishbane & S. Nigwekar: Kidney Med., 3, 1057 (2021)..興味深いことにナトリウム/プロトン交換輸送体NHE3の阻害剤であるテナパノールは,pHを変化させることで細胞間隙を介したPi輸送を抑制すると考えられている(12)12) A. J. King, M. Siegel, Y. He, B. Nie, J. Wang, S. Koo-McCoy, N. A. Minassian, Q. Jafri, D. Pan, J. Kohler et al.: Sci. Transl. Med., 10, eaam6474 (2018)..実際,テナパノールは,ヒトやCKDモデルマウスで消化管のPi吸収を抑制することが示されており,細胞間隙を介したPi輸送の重要性が示唆される.

図4■消化管(a)と腎臓(b)におけるリンの輸送機構

消化管上皮細胞および腎臓の尿細管におけるリンの輸送に関わる分子を示す.NaPi2a: type IIa sodium-dependent phosphate transporter, NaPi2b: type IIb sodium-dependent phosphate transporter, NaPi2c: type IIc sodium-dependent phosphate transporter, PiT1: type III sodium-dependent phosphate transporter, PiT2: type III sodium-dependent phosphate transporter, NHE3: sodium/hydrogen exchanger 3, XPR1: xenotropic polytropic retrovirus receptor 1, CLDNs: claudins.

腎臓でのリンの再吸収

腎臓の近位尿細管は,糸球体でろ過したPiの90%以上を再吸収することから,その再吸収機構と調節系の理解は,極めて重要であり,古くより研究の対象であった(13)13) K. Miyamoto, H. Segawa, M. Ito & M. Kuwahata: Jpn. J. Physiol., 54, 93 (2004)..腎臓の近位尿細管の刷子縁膜には,NaPi-IIaおよびNaPi-IIcと呼ばれるII型ナトリウム依存性PiトランスポーターとPit-1, Pit-2と呼ばれるIII型ナトリウム依存性Piトランスポーターが発現している(図4b図4■消化管(a)と腎臓(b)におけるリンの輸送機構).特に,NaPi-IIaとNaPi-IIcは,腎臓でのPi再吸収の律速段階を担う上で重要なトランスポーターである(13)13) K. Miyamoto, H. Segawa, M. Ito & M. Kuwahata: Jpn. J. Physiol., 54, 93 (2004)..NaPi-IIaの遺伝子異常は,Fanconi症候群の原因となり,NaPi-IIcの遺伝子異常は,高カルシウム尿症を伴う低リン血清くる病の原因となることからも,これらのトランスポーターによるリン再吸収は,血中リン濃度の恒常性維持において重要であることが理解できる(14)14) H. Segawa, Y. Shiozaki, I. Kaneko & K. Miyamoto: J. Nutr. Sci. Vitaminol., 61, S119 (2015).

血清リン濃度調節機構

血中Pi濃度を調節するためのホルモンや生理活性物質の多くは,主に腎臓のPi再吸収活性の調節に関わる.代表的なものがPTH, FGF23と活性型ビタミンDである(15)15) L. Figueres, S. Beck-Cormier, L. Beck & J. Marks: Int. J. Mol. Sci., 22, 5701 (2021)..PTHとFGF23は,強力なリン利尿ホルモンであり,近位尿細管に作用し,Pi再吸収を抑制することで血中Pi濃度を低下させる.一方,活性型ビタミンDは,消化管でのPi吸収を促進するほか,腎臓でのPi再吸収を促進し,血中Pi濃度を上昇させる.

血中Pi濃度が上昇すると,PTHおよびFGF23の分泌が促進される.いずれも近位尿細管におけるPi再吸収を強力に抑制することで,尿中へのPi排泄を促進し,血中Pi濃度を低下させる.PTHやFGF23は,主に細胞膜上に存在するNaPi-IIaやNaPi-IIcを細胞内にエンドサイトーシスさせることで,輸送活性を低下させることが知られている.FGF23は,ビタミンDの活性化も抑制することから,ビタミンD依存的な消化管でのPi吸収を抑制するほか,FGF23自体も消化管Pi吸収活性を抑制することが報告されている(16)16) K. Miyamoto, M. Ito, M. Kuwahata, S. Kato & H. Segawa: Ther. Apher. Dial., 9, 331 (2005).

血中Pi濃度の低下時は,PTHやFGF23の分泌が抑制され,近位尿細管におけるPi再吸収活性が亢進するとともに,活性型ビタミンDの産生も増加し,消化管でのPi吸収も亢進することで,血中Pi濃度が回復する.

カルシウム・リン代謝調節のクロストークとその異常

カルシウム・リン代謝の恒常性維持において,PTH, FGF23,活性型ビタミンDは,相互にフィードバック制御の関係にある(図5図5■カルシウム・リン代謝調節のクロストーク(9)9) M. Peacock: Calcif. Tissue Int., 108, 3 (2021)..これらのホルモンは,血清カルシウム濃度の変動,血清リン濃度の変動により,その分泌が制御され,かつカルシウム濃度や血清リン濃度の恒常性を維持するように働く.特に,血中カルシウム濃度とリン濃度では,カルシウム濃度の恒常性維持が優先される.また,血中カルシウム濃度が上昇すると血中リン濃度は低下し,血中カルシウム濃度が低下すると血中リン濃度は上昇する.つまり,血中カルシウム濃度とリン濃度の積(カルシウム・リン積という)は一定になるように制御されている.後述するように,カルシウム・リン積の上昇は,リン酸カルシウム結晶を生じさせることになる.PTHの分泌が増加し血中カルシウム濃度が上昇する際には,PTHが腎臓でのリンの排泄を促進することでカルシウム・リン積が過剰になることを防いでいる.副甲状腺機能亢進症のようにPTHの過剰分泌が起こると,高カルシウム血症,低リン血症を招く.

図5■カルシウム・リン代謝調節のクロストーク

血中カルシウム濃度,血中リン濃度とそれらの調節ホルモンであるPTH, FGF23, 活性型ビタミンDは,共にフィードバック制御を行う関係にある.これらのクロストークによりカルシウムとリンの体内恒常性が維持されている.

FGF23は,FGF受容体とα-klothoの複合体を受容体として生理作用を示す(17, 18)17) M. Courbebaisse & B. Lanske: Cold Spring Harb. Perspect. Med., 8, a031260 (2018).18) L. Bär, C. Stournaras, F. Lang & M. Föller: FEBS Lett., 593, 1879 (2019)..FGF23やα-klothoの欠損は,カルシウム・リン代謝のフィードバック制御を失うことになり,高ビタミンD血症,高カルシウム血症,高リン血症を引き起こし,早期老化様病変を発症させる(17, 18)17) M. Courbebaisse & B. Lanske: Cold Spring Harb. Perspect. Med., 8, a031260 (2018).18) L. Bär, C. Stournaras, F. Lang & M. Föller: FEBS Lett., 593, 1879 (2019)..これは,血中カルシウム濃度とリン濃度が同時に上昇すると,リン酸カルシウム結晶の析出・沈着が生じ,異所性石灰化が生じるためである.また,リン酸カルシウム結晶は,血中のFetuin-Aというリン酸カルシウム結晶の成長を抑制するタンパク質と結合する.この複合体は,Calciprotein particle(CPP)と呼ばれ,異所性石灰化のみならず慢性炎症を惹起し,血管や腎臓,心臓など様々な臓器障害を引き起こす原因となると考えられている(19)19) M. Kuro-o: Clin. Sci. (Lond.), 135, 1915 (2021).

慢性腎臓病は,腎機能が低下した状態が持続した状態であり,進行に伴い尿中へのリン排泄能も低下する.腎機能がある程度保持されていれば,PTHやFGF23の作用によりリン排泄を増加させることで血中リン濃度が維持されるが,糸球体ろ過量が正常時の30%を下回るようになると,これらのホルモンによる代償作用によっても十分にリンを排泄できず,高リン血症が顕在化する.高リン血症は,CPPの形成を促進し,異所性石灰化や腎臓,心臓など様々な臓器障害を進行させ,慢性腎臓病の予後を悪化させる(19)19) M. Kuro-o: Clin. Sci. (Lond.), 135, 1915 (2021)..したがって,慢性腎臓病においては,食事からのリン摂取制限や炭酸カルシウムや炭酸ランタンなどのリン吸着薬による薬物療法が必要となる.

おわりに

近年は,リンの過剰摂取の問題が指摘されており,米国のNHANESの研究では,リンの摂取量が多いほど,総死亡リスクが高くなることも報告されている(20)20) A. R. Chang, M. Lazo, L. J. Appel, O. M. Gutiérrez & M. E. Grams: Am. J. Clin. Nutr., 99, 320 (2014)..FGF23やα-klothoの欠損で早期老化様病変が見られることからも,体内のリン過剰状態は,慢性腎臓病の病態悪化のみならず,慢性炎症を介して様々な老化様病変の原因になると考えられる.今後,カルシウムとリンの恒常性維持機構の理解がさらに進み,加齢のメカニズムや加齢に伴う疾病の予防・治療が進展することを期待する.

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