解説

マイクロRNAの発現調節を介したフラボノイドの生体調節作用食品成分の機能性に関わる新たな分子機構

Bioactivity of Flavonoids through Regulation of microRNA Expression: New Molecular Mechanisms Involved in Food Functionality

Motoki Murata

村田

愛媛大学学術支援センター遺伝子解析部門

Hirofumi Tachibana

立花 宏文

九州大学大学院農学研究院生命機能科学部門

Published: 2023-08-01

近年,食品ならびに食品成分による健康増進効果や疾病予防機能などの生体調節作用が注目を集めており,その作用メカニズムを解明する研究が盛んに行われている.マイクロRNA(miRNA)は線虫において発見された低分子RNAであり,ヒトやマウスなど他の生物種でも発現していることや,標的となる遺伝子の機能を制御する働きを有していることが明らかになり2000年ごろから研究が飛躍的に進んできた.miRNAは細胞生物学的に重要な生命現象に関与しており,食品の機能性発揮に影響を与える新しい因子としての報告も増えている.本稿では,代表的な機能性食品成分の一つであるフラボノイドの生体調節作用とmiRNAの関係について最新の研究を紹介する.

Key words: 食品; 機能性; フラボノイド; マイクロRNA

はじめに

フラボノイドは植物内において二次代謝産物として生成されるポリフェノールの一種である.2つのベンゼン環が3つの炭素で繋がったC6-C3-C6構造をもっており,基本骨格や付加する水酸基の数と位置の違いに基づいてフラボン,フラバノン,フラバノールなどに類別される.われわれが日常的に口にしている食品中にも含まれており,例えば緑茶に特徴的なカテキン,大豆に含まれるイソフラボン,野菜や果物に色素として存在しているアントシアニンもフラボノイドである.抗酸化作用に加えて抗がん作用や肥満予防効果など生体内で様々な機能を発揮することが数多くの研究によって解明されたことから(1)1) M. C. Dias, D. C. Pinto & A. M. Silva: Molecules, 26, 5377 (2021).,機能性食品成分としても注目を集めており,フラボノイドの健康増進効果を分子レベルで理解することは,新たな機能性食品の開発につながることが期待されている.

マイクロRNA(miRNA, miR)は約20塩基からなるタンパク質に翻訳されない1本鎖のノンコーディングRNAであり,ヒトにおいて2000種類以上が発見されている.miRNAは,DNAから前駆体のprimary miRNA(Pri-miRNA)として転写され,特徴的なヘアピン構造を形成した後,核内でDrosha複合体によって切断されprecursor miRNA(Pre-miRNA)となる.Pre-miRNAは細胞質に輸送され,Dicerにより切断されて2本鎖miRNAとなる.2本鎖miRNAはArgonauteタンパク質に取り込まれ,片側のmiRNAのみが成熟型として最終的に安定なRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)を形成する(図1図1■miRNAの生合成機構).以上のプロセシングを経て生合成されたmiRNAは,相補的な配列をもっている標的mRNAに結合し,mRNAの分解や翻訳を阻害することでタンパク質の産生を抑制する(2)2) D. P. Bartel: Cell, 116, 281 (2004)..miRNAは細胞増殖,分化,アポトーシスなどの生命現象を制御する機能を発揮し,ヒトにおいて60%以上の遺伝子発現を調節することでさまざまな疾患に関与していると考えられている.miRNAの発現に異常が生じると疾患の発症に影響することから,診断または予後の指標として利用するためにmiRNAの発現プロファイルが分析されている.

図1■miRNAの生合成機構

多くの研究により,いくつかの食品成分がmiRNAの発現を調節することがわかってきており,ここではmiRNAの発現を調節することによって生体調節作用を発揮するフラボノイドについて著者らの最近の研究成果を含めてまとめる(表1表1■フラボノイドによって発現が変動するmiRNA).

表1■フラボノイドによって発現が変動するmiRNA

フラボン

フラボンは2位と3位の間に二重結合が存在し,B環が2位に結合していることを特徴とするフラボノイドの最大の分類の一つである.ほとんどのフラボンは糖と結合した配糖体の形で,セロリや紅茶,赤唐辛子などに含まれている.2つの主要なフラボンはアピゲニンとルテオリンであり,抗炎症,抗菌,抗がん作用などが広く研究されている.Wangらは,アピゲニンがmiR-155の発現を減少させることでTransforming growth factor beta 1(TGF-β1)刺激による心臓線維芽細胞の分化および細胞外マトリックス成分の合成を阻害し,心臓線維症に対して効果を発揮する可能性を報告した(3)3) F. Wang, K. Fan, Y. Zhao & M. L. Xie: J. Ethnopharmacol., 265, 113195 (2021)..ラットにアピゲニンを投与した研究では,心筋におけるmiR-15bの発現を低下させることにより虚血再灌流傷害を改善することが示され(4)4) P. Wang, J. Sun, S. Lv, T. Xie & X. Wang: Med. Sci. Monit., 25, 2764 (2019).,肥満モデルマウスを用いた試験では,アピゲニンの投与により高脂肪食の摂餌によって誘導された脂肪組織におけるlet-7fの発現低下が抑制され,肥満に関連する炎症を改善することが報告された(5)5) D. Gentile, M. Fornai, R. Colucci, C. Pellegrini, E. Tirotta, L. Benvenuti, C. Segnani, C. Ippolito, E. Duranti, A. Virdis et al.: PLoS One, 13, e0195502 (2018)..また,ルテオリンはラット副腎髄質褐色細胞腫由来PC12細胞においてmiR-21の発現を上昇させることで過酸化水素によって生じる酸化的損傷に伴う細胞生存率の低下を軽減させることが明らかとなった(6)6) Z. Zhang, P. Xu, H. Yu & L. Shi: Biomed. Pharmacother., 112, 108698 (2019).

イソフラボン

アリル基が2位から3位に置換しているイソフラボンはマメ科植物に特徴的な成分であり,主な供給源は大豆および大豆由来食品(豆腐や味噌など)である.大豆イソフラボンには,ゲニステインやダイゼインなどの異性体が含まれる.イソフラボンは女性ホルモンの一つであるエストロゲンに類似した分子構造を有しており,エストロゲン受容体に対する親和性を示し,エストロゲン様作用または抗エストロゲン作用を生み出すことから植物性エストロゲンとも呼ばれる.イソフラボンは,乳がん,子宮内膜がん,前立腺がんのリスクを低下させ,月経周期を調節することが知られている.大豆イソフラボンのmiRNA発現調節作用についてわれわれが検討した結果,ヒト子宮頸がん細胞株HeLaにおいてマイクロアレイを用いた解析により,ダイゼインの代謝産物であるエクオールが発現量を増加させるmiRNAとしてmiR-320aを見出した(7)7) S. Yamashita, I. Lin, C. Oka, M. Kumazoe, S. Komatsu, M. Murata, S. Kamachi & H. Tachibana: J. Nutr. Biochem., 100, 108910 (2022)..さらにmiR-320aの標的遺伝子であるCatenin Beta 1がコードするβ-cateninのタンパク質発現は,エクオールおよびダイゼインの処理により抑制された(図2図2■イソフラボンによるmiR-320aの発現調節).以上の結果より,エクオールとダイゼインはmiR-320aの発現を増加させることでβ-cateninの発現を抑制し,がん細胞の増殖を抑制する可能性が示された.その他イソフラボンの機能性とmiRNAについて,ダイゼインはヒト肝臓がん由来Huh7細胞においてmiR-122の発現を低下させることによりC型肝炎ウイルスの複製を阻害すること(8)8) Y. He, M. Huang, C. Tang, Y. Yue, X. Liu, Z. Zheng, H. Dong & D. Liu: Virus Res., 298, 198404 (2021).,ゲニステインはmiR-221およびmiR-222の発現を調節することにより骨格筋の再生を促進すること(9)9) L. Shen, T. Liao, J. Chen, J. Ma, J. Wang, L. Chen, S. Zhang, Y. Zhao, L. Niu, C. Zeng et al.: Int. J. Mol. Sci., 23, 13482 (2022).などが報告されている.

図2■イソフラボンによるmiR-320aの発現調節

フラバノール

フラバン-3-オールとしても知られるフラバノールは,2位と3位の間に二重結合がなく,C環の3位に結合したヒドロキシ基によって特徴付けられている.茶は多くの国における重要なフラバノールの供給源であり,苦味と渋味のもととなるカテキン類はフラバノールに分類される.(−)-epigallocatechin-3-O-gallate(EGCG)は没食子酸と結合したカテキンで緑茶に特徴的に含まれており,他のカテキン類と比較して強い生理活性を示す.培養細胞,動物,およびいくつかのヒト試験により,EGCGが炎症の軽減,肥満の抑制,心臓や脳機能の改善など多くの健康上の利点を提供することが示され,EGCGの生理作用におけるmiRNAの役割を解明するためにさまざまなプロファイリング研究が実施されている.われわれはマウスメラノーマ細胞株B16においてEGCGがその受容体である67-kDaラミニンレセプター(67LR)依存的に発現を調節するmiRNAを探索した結果,がん抑制性のmiRNAであるlet-7bの発現を上昇させることでがん遺伝子High mobility group A2(HMGA2)の発現を低下させることを明らかにした(10)10) S. Yamada, S. Tsukamoto, Y. Huang, A. Makio, M. Kumazoe, S. Yamashita & H. Tachibana: Sci. Rep., 6, 19225 (2016)..われわれの以前の研究において,EGCGが67LRを介してセカンドメッセンジャーであるcyclic AMP量を増加させ,タンパク質のリン酸化を誘導するProtein kinase A(PKA)を活性化することで,がん抑制因子であるProtein phosphatase 2A(PP2A)を活性化させることによりメラノーマの細胞増殖を抑制することを見出しており(11)11) S. Tsukamoto, Y. Huang, D. Umeda, S. Yamada, S. Yamashita, M. Kumazoe, Y. Kim, M. Murata & H. Tachibana: J. Biol. Chem., 289, 32671 (2014).,EGCGのlet-7b発現調節メカニズムとしてPKAおよびPP2Aに着目して検討したところ,PKAの阻害ならびにPP2Aの阻害によりEGCGによるlet-7bの発現増強作用が消失した.以上の結果から,EGCGは67LRを介してPKA/PP2A経路を活性化することによりlet-7bの発現を上昇させることが示された.EGCGは,let-7aの発現を上昇させることにより脂肪前駆細胞の成長を阻害すること(12)12) W. T. Chen, M. J. Yang, Y. W. Tsuei, T. C. Su, A. C. Siao, Y. C. Kuo, L. R. Huang, Y. Chen, S. J. Chen, P. C. Chen et al.: Mol. Nutr. Food Res., 67, 2200336 (2023).,軟骨細胞のアポトーシスを誘発し変形性関節症を進行させるmiR-29bの発現を低下させ,Interleukin-1β(IL-1β)刺激による軟骨細胞の炎症を抑制すること(13)13) D. Yang, G. Cao, X. Ba & H. Jiang: Pharm. Biol., 60, 589 (2022).も報告されている.

フラバノン

2位と3位が単結合で結ばれているフラバノンは柑橘類にほぼ独占的に含まれており,代表的な成分としてオレンジのヘスペリジンやレモンのエリオジクチオール,グレープフルーツのナリンゲニンなどが挙げられる.フラバノンは強力な抗酸化作用や心血管の健康促進効果,リラックス効果や抗炎症作用などを有している.ラットにヘスペリジンを投与した試験では,酸化ストレスによって引き起こされた精巣中のmiR-126およびmiR-181aの異常な発現が正常化され(14)14) H. S. Helmy, M. A. Senousy, A. E. El-Sahar, R. H. Sayed, M. A. Saad & E. M. Elbaz: Toxicology, 433, 152406 (2020).,マウスを用いた試験によりヘスペリジンの抗うつ作用メカニズムとして,脳内のmiR-132を介した炎症性サイトカイン量の低下が部分的に関与していることが報告されている(15)15) M. Li, H. Shao, X. Zhang & B. Qin: Inflammation, 39, 1681 (2016)..ナリンゲニンは栄養膜細胞HTR-8/SVneoおよび臍帯静脈内皮細胞HUVECにおいてmiR-140の発現を減少させることでグルコースの取り込みを促進すること(16)16) C. Zhao, C. Zhao & H. Zhao: Int. J. Biochem. Cell Biol., 128, 105824 (2020).,脊髄損傷モデルラットに投与することで脊髄におけるmiR-223の発現を抑制し,好中球の活性化に伴う炎症から神経を保護すること(17)17) L. B. Shi, P. F. Tang, W. Zhang, Y. P. Zhao, L. C. Zhang & H. Zhang: Gene, 592, 128 (2016).が示されている.

フラボノール

3位にヒドロキシ基が付加しているフラボノールには,ケルセチン,ケンフェロール,ミリセチンなどの化合物が分類され,ブロッコリーやタマネギ,アスパラガス,リンゴなどの野菜や果物に含まれている.ケルセチンは花粉症やじんましんの緩和を補助する抗ヒスタミン作用を有しており,ケンフェロールや他のフラボノールは慢性疾患のリスクを低減させる抗炎症および抗酸化作用などを示す.われわれはケルセチンが腫瘍組織におけるmiRNA発現に与える影響を検討し(図3図3■ケルセチンによる抗腫瘍性miRNAの発現調節),マウスに移植したHeLa細胞の腫瘍においてケルセチンががん抑制関連miRNAであるmiR-26b, miR-126およびmiR-320aの発現量を増加させることを見出した(18)18) M. Murata, S. Komatsu, E. Miyamoto, C. Oka, I. Lin, M. Kumazoe, S. Yamashita, Y. Fujimura & H. Tachibana: Biosci. Microbiota Food Health, 42, 87 (2023)..さらにHeLa細胞を用いた実験により,ケルセチンがそれぞれのmiRNAとその前駆体であるprecursor miRNA(pre-miR-26b, pre-miR-126, pre-miR-320a)の発現量を上昇させることも明らかにした.樹状細胞におけるケルセチンのmiRNA発現調節効果を調査した研究では,miR-369がケルセチンの慢性炎症抑制活性に関与する新しい分子として報告されている(19)19) V. Galleggiante, S. De Santis, M. Liso, G. Verna, E. Sommella, M. Mastronardi, P. Campiglia, M. Chieppa & G. Serino: Mol. Nutr. Food Res., 63, 1801390 (2019)..ケンフェロールは,大動脈内皮細胞HAECsにおいてToll like receptor 4(TLR4)を標的とするmiR-26aの発現上昇を誘導し,NF-kBのシグナル伝達経路を不活性化することで酸化低密度リポタンパク質(ox-LDL)による細胞のアポトーシスを軽減すること(20)20) X. Zhong, L. Zhang, Y. Li, P. Li, J. Li & G. Cheng: Biomed. Pharm., 108, 1783 (2018).,軟骨前駆細胞ATDC5および変形性膝関節症モデルラットの軟骨組織においてmiR-146aの発現を抑制し保護効果を発揮することが報告されている(21)21) R. Jiang, P. Hao, G. Yu, C. Liu, C. Yu, Y. Huang & Y. Wang: Int. Immunopharmacol., 69, 373 (2019).

図3■ケルセチンによる抗腫瘍性miRNAの発現調節

アントシアニン(アントシアニジン)

ベンゾピリリウムイオン構造にフェニル基が付いているアントシアニジンは不安定な物質であり,通常グリコシル化された形のアントシアニンとして天然に存在している.アントシアニンは一般的に花や果実の赤,紫,青色を呈する色素である.現在までに,650を超えるアントシアニンの化合物が植物で発見されており,主要なアントシアニジンとして,デルフィニジン,シアニジン,ペチュニジン,ペオニジン,マルビジンおよびペラルゴニジンが知られている.果物や野菜(ブルーベリー,赤キャベツ,紫芋,茄子など)に含まれているアントシアニンは,視覚機能の改善や糖尿病および心血管疾患の予防に対する効果について報告されている(22)22) A. Smeriglio, D. Barreca, E. Bellocco & D. Trombetta: Phytother. Res., 30, 1265 (2016)..われわれはこれまでにデルフィニジンが骨格筋重量の低下を改善する作用を見出し,その作用メカニズムとして筋萎縮抑制性のmiRNAであるmiR-23aの発現を上昇させることにより筋タンパク質の分解を促進するユビキチンリガーゼMuscle Ring Finger 1(MuRF1)の発現を抑制することを見出した(図4図4■デルフィニジンによるmiR-23aの発現調節(23)23) M. Murata, H. Nonaka, S. Komatsu, M. Goto, M. Morozumi, S. Yamada, I. Lin, S. Yamashita & H. Tachibana: J. Agric. Food Chem., 65, 45 (2017)..マウスを用いた試験においても,デルフィニジンは腓腹筋におけるmiR-23aの発現を上昇させ,MuRF1の発現を減少させることにより尾懸垂によって誘導された筋重量の低下を改善することを明らかにした.また,デルフィニジンはmiR-34aの発現を上昇させることで乳がんの発症を抑えること(24)24) B. Han, X. Peng, D. Cheng, Y. Zhu, J. Du, J. Li & X. Yu: Cancer Sci., 110, 3089 (2019).,miR-204の発現を上昇させることで大腸がんの転移を阻害すること(25)25) C. C. Huang, C. H. Hung, T. W. Hung, Y. C. Lin, C. J. Wang & S. H. Kao: Sci. Rep., 9, 18954 (2019).が示されている.シアニジンは配糖体(アントシアニン)の形でmiRNAの発現を変化させることが報告されている(26, 27)26) Y. Zhou, L. Chen, D. Ding, Z. Li, L. Cheng, Q. You & S. Zhang: Sci. Rep., 12, 7773 (2022).27) X. Ma & S. Ning: Phytother. Res., 33, 81 (2019).

図4■デルフィニジンによるmiR-23aの発現調節

miRNAの放出に関する研究

miRNAは細胞内だけでなく,血液や尿などの体液中にも存在している.これらの循環型miRNAは細胞外小胞に内包されるか,特定のタンパク質や高密度リポタンパク質に結合しており,RNA分解酵素から保護され安定である.細胞外小胞等に含まれたmiRNAは細胞間の情報伝達を担っており,ドナー側の細胞から放出されたmiRNAがレシピエント側の細胞で機能することもわかっている(図5図5■miRNAの放出機構とフラボノイド摂取による血漿miRNAの発現変動).体液中のmiRNA発現を測定することで疾患の状態や投薬を判断するバイオマーカーとして診断に役立てようとする試みも活発になっている.われわれはフラボノイドの摂取が血中のmiRNA発現に与える影響を検討するためにダイゼイン,ケルセチンまたはデルフィニジンをそれぞれマウスに経口投与し,血漿におけるmiRNAの発現をマイクロアレイにて評価した(図5図5■miRNAの放出機構とフラボノイド摂取による血漿miRNAの発現変動).ダイゼインの投与により,マウスの血漿において発現が変動したmiRNAは74種類(上昇:53種,低下:21種)存在した.同様に,ケルセチンの投与により発現が変動したmiRNAは,53種類(上昇:23種,低下:30種)存在し,デルフィニジンの投与により発現が変動したmiRNAは,198種類(上昇:149種,低下:49種)存在した.以上の研究において,それぞれの成分がmiRNAの放出に影響を与えることや血漿において発現変動したmiRNAが各成分の生体調節作用に関与する可能性が示された(28)28) M. Murata, Y. Marugame, S. Yamada, I. Lin, S. Yamashita, Y. Fujimura & H. Tachibana: Mol. Biol. Rep., 49, 10399 (2022)..また,EGCGがmiRNAの分泌に与える影響を評価するためにHUVEC細胞から放出された細胞外小胞に内包されるmiRNAを解析した結果,31種類(上昇:27種,低下:4種)のmiRNAの発現が変動し,EGCGの抗肺線維症効果において重要な役割を果たす可能性のあるmiR-6757を見出した(29)29) M. Murata, Y. Marugame, M. Morozumi, K. Murata, M. Kumazoe, Y. Fujimura & H. Tachibana: Biomed. Rep., 18, 1 (2023)..細胞や組織から放出されるmiRNAは,食品の機能性における重要な役割を担っている可能性があり,これらのmiRNAに関するデータの蓄積が食品と生体の関係についてさらに理解するための研究に役立つことが期待される.

図5■miRNAの放出機構とフラボノイド摂取による血漿miRNAの発現変動

おわりに

本稿では,フラボノイドのmiRNAを介した健康増進効果に関する一部の研究について解説してきたが,フラボノイド以外の食品成分(レスベラトロール(30)30) L. Zhu, Q. Mou, Y. Wang, Z. Zhu & M. Cheng: Int. J. Mol. Med. Res., 46, 2035 (2020).,クルクミン(31)31) J. Zhang, Q. Wang, G. Rao, J. Qiu & R. He: Exp. Ther. Med., 17, 798 (2018).,リコペン(32)32) W. Wen, X. Chen, Z. Huang, D. Chen, J. He, P. Zheng, J. Yu, Y. Luo, H. Yan & B. Yu: J. Funct. Foods, 80, 104430 (2021).など)の生体調節作用とmiRNAの発現調節に関する報告も多数存在している.食品中の成分がmiRNAの発現を調節するという事実は,食品の新しい機能性発見につながることを示唆し,フラボノイドなどの成分が健康を促進し,病気を予防する分子メカニズムの一部を提唱する.miRNAによる遺伝子発現の調節は非常に複雑なネットワークを形成しており,食品の機能性に関与するmiRNAを厳密に把握するためには,異なる細胞種や動物モデルを用いた多くの検討,さらにはヒトでの研究が必須である.また,フラボノイドによってmiRNAの発現が調節される詳細な経路については不明な点が多いが,EGCGが67LRを介してlet-7bの発現を上昇させたように(10)10) S. Yamada, S. Tsukamoto, Y. Huang, A. Makio, M. Kumazoe, S. Yamashita & H. Tachibana: Sci. Rep., 6, 19225 (2016).,フラボノイドごとあるいはmiRNAそれぞれに発現を調節する機構が存在する可能性があり,今後はmiRNAの発現を特異的に調節する機構の解明が課題と考えている.

Acknowledgments

本研究におきましてご指導をいただくとともに,本稿の推敲に関するご助言を賜りました九州大学大学院農学研究院食糧化学研究分野の藤村由紀准教授に心より感謝申し上げます.

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