解説

特異的な植物性セラミド分子による新たなアルツハイマー病予防への期待神経細胞由来エクソソームによるアミロイド-βクリアランス

Plant Ceramides for Preventive Intervention of Alzheimer’s Disease: Amyloid-β Clearance by Ceramide-Induced Exosome Release

Yuta Murai

村井 勇太

北海道大学農学研究院基盤研究部門応用生命科学分野

Published: 2023-08-01

アルツハイマー病は最も患者数の多い認知症であり,長寿国である日本にとって今後も増加の一途を辿ることは必至である.現在のところ,アルツハイマー病を発症してから治す方法はなく,予防することが重要となってくる.アルツハイマー病の初期病理ではアミロイド-βの蓄積が確認されるが,スフィンゴ脂質の一つセラミドにはアミロイド-βの除去を手助けする仲介役としての働きが示唆される.したがって,セラミドを普段の食事から摂取することで新たなアルツハイマー病の予防法として期待がなされている.本稿では,植物に存在する植物型セラミドに着目し,哺乳型との効果の違いやアミロイド-β除去機構を中心に概説する.

Key words: スフィンゴ脂質; 植物性セラミド; エクソソーム; アルツハイマー病; アミロイド-β

アルツハイマー病

アルツハイマー病(AD)は認知症の中でも最も患者数が多い難治性の神経変性疾患であり,我が国の高齢化に伴って増加の一途を辿っている.ADの発症過程は完全には解明されていないものの,おおよそ次のように理解されている.病理の初期段階ではアミロイド前駆体タンパク質がβセクレーターゼおよびγセクレターゼによる切断を受けることでアミロイド-βタンパク質(Αβ)が産生される.続いて,Αβのオリゴマー化や凝集が起こり神経細胞外に沈着した老人斑が脳内に蓄積する.その後,神経細胞内に過剰リン酸化されたタウタンパク質の凝集体である神経原線維変化が確認され,神経変性が徐々に進むにつれて認知機能障害が誘発するとされている(図1図1■アルツハイマー病の発症過程と発症までの段階的症状(1)1) D. J. Selkoe & J. Hardy: EMBO Mol. Med., 8, 595 (2016)..また,家族性(遺伝的)ADは比較的若い40~50歳代で発症する可能性が高いことも知られており,両親のいずれかが家族性ADであるとその子供は50%の確率でADになると考えられている(1)1) D. J. Selkoe & J. Hardy: EMBO Mol. Med., 8, 595 (2016)..一方で,現在ADに対する治療薬としてΑβを脳内から除去する薬剤の開発が世界中で進行しており,アメリカ食品医薬品局で承認されたアデュカヌマブやレカネマブによるAD改善効果が見込まれている.しかし,ADの発症過程において詳細な老人斑形成や神経原線維変化形成機構は未だ多くの不明点を残しており,また一度ダメージを受けた神経細胞は再生がほとんど見込まれないことも治療法確立の大きな壁となっている(2)2) D. S. Knopman, H. Amieva, R. C. Petersen, G. Chételat, D. M. Holtzman, B. T. Hyman, R. A. Nixon & D. T. Jones: Nat. Rev. Dis. Primers, 7, 33 (2021)..したがって,ADの早期診断や適切な介入時期を見極めることが非常に重要とされるが,現在の検査方法(3)3) D. Ruan & L. Sun: Brain Behav., 13, e2850 (2023).は侵襲性や費用の面に問題を抱えている.このことからも日常生活の中で無理なくAD発症リスクを減らすこと,例えば,Αβの蓄積を普段から抑制することが可能な予防法の確立が望ましいと考えられる.

図1■アルツハイマー病の発症過程と発症までの段階的症状

細胞外小胞エクソソームとΑβ

エクソソームとは,エンドサイトーシス(細胞膜の形態変化により,細胞外から細胞内へ物質を取り込む膜動輸送の一つ)により細胞内に形成されたエンドソームがさらに陥入することで形成される内腔小胞が細胞外に放出されたものと定義されている.したがって,エクソソームは細胞膜由来ではなくエンドソーム膜由来であり,直径も100 nm程度とされている.当初エクソソームの働きについては細胞内不要物を細胞外へと放出する運び屋と考えられてきたが,最近になり細胞間同士の情報伝達を行なっていることが示唆されるようになった.特にエクソソーム内には分泌細胞由来のメッセンジャーRNAやマイクロRNA,タンパク質などが多く含まれ,ガンの転移(4)4) A. Hoshino, B. Costa-Silva, T.-L. Shen, G. Rodrigues, A. Hashimoto, M. T. Mark, H. Molina, S. Kohsaka, A. Di Giannatale, S. Ceder et al.: Nature, 527, 329 (2015).や免疫応答の制御(5)5) A. Bobrie, M. Colombo, G. Raposo & C. Théry: Traffic, 12, 1659 (2011).,あるいはRNAの伝播(6)6) H. Valadi, K. Ekström, A. Bossios, M. Sjöstrand, J. J. Lee & J. O. Lötvall: Nat. Cell Biol., 9, 654 (2007).に関わるとされている.また最近では,人工エクソソームをドラッグデリバリーシステムとして応用する研究も盛んに行われている(7)7) S. P. Li, Z. X. Lin, X. Y. Jiang & X. Y. Yu: Acta Pharmacol. Sin., 39, 542 (2018)..一方で,Yuyamaらによってマウス神経芽細胞腫Neuro 2a細胞から調製されたエクソソームにはΑβと結合する特徴があることが報告された(8)8) K. Yuyama, H. Sun, S. Mitsutake & Y. Igarashi: J. Biol. Chem., 287, 10977 (2012)..さらに,このエクソソームの表面膜の組成についてはガングリオシドが分泌細胞に比べ,多量に含まれていることが確認されている(9)9) K. Yuyama, H. Sun, S. Sakai, S. Mitsutake, M. Okada, H. Tahara, J. Furukawa, N. Fujitani, Y. Shinohara & Y. Igarashi: J. Biol. Chem., 289, 24488 (2014)..ガングリオシドとはスフィンゴ脂質の一級アルコールに一つ以上のシアル酸を持つ糖鎖が結合した糖脂質であり,細胞膜の脂質ラフトに多く存在しシグナル伝達等の役割を果たしている.以前にYanagisawaらによってガングリオシドの一種であるGM1が初期ADの脳内でΑβと複合体を形成していることが報告(10)10) K. Yanagisawa, A. Odaka, N. Suzuki & Y. Ihara: Nat. Med., 1, 1062 (1995).されていることからも,エクソソーム表面のガングリオシドがΑβとの結合に寄与していると伺える.実際,Yuyamaらはエンドグリコシルセラミダーゼ処理した神経細胞由来のエクソソームにはΑβ結合能がないことを確認している(9)9) K. Yuyama, H. Sun, S. Sakai, S. Mitsutake, M. Okada, H. Tahara, J. Furukawa, N. Fujitani, Y. Shinohara & Y. Igarashi: J. Biol. Chem., 289, 24488 (2014)..このことから,神経細胞由来のエクソソーム表面にはGM1を含むガングリオシドのクラスター領域なるものが存在し,そこがΑβの結合部位であることが推測されている.さらに,神経細胞由来のエクソソームは脳内ミクログリア細胞に貪食され,最終的にはリソソームによって分解されることも知られている(11)11) D. Fitzner, M. Schnaars, D. van Rossum, G. Krishnamoorthy, P. Dibaj, M. Bakhti, T. Regen, U. K. Hanisch & M. Simons: J. Cell Sci., 124, 447 (2011)..この詳細な機構は明らかにされていないが,エクソソーム表面に存在するホスファチジルセリン(PS)とミクログリア細胞表面に存在するPS受容体MFG-E8の相互作用によるものと考えられている.

エクソソーム放出とスフィンゴ脂質

エクソソームの放出にはendosomal sorting complex required for transport(ESCRT)に依存的な経路(12)12) M. Colombo, C. Moita, G. van Niel, J. Kowal, J. Vigneron, P. Benaroch, N. Manel, L. F. Moita, C. Théry & G. Raposo: J. Cell Sci., 126, 5553 (2013).と非依存的な経路が存在する.2008年にSimonsらは後期エンドソーム中のエクソソーム出芽にスフィンゴ脂質が関与することを報告している.彼らはオリゴデンドロサイト前駆体細胞を中性スフィンゴミエリナーゼ(スフィンゴミエリンからセラミドへの代謝酵素)阻害剤で処理し,エンドソーム膜のセラミド量を減らすことで顕著にエクソソーム産生量が減ることを確認している(13)13) K. Trajkovic, C. Hsu, S. Chiantia, L. Rajendran, D. Wenzel, F. Wieland, P. Schwille, B. Brügger & M. Simons: Science, 319, 1244 (2008)..これはESCRT非依存的な作用機構であり,細胞膜中の脂質マイクロドメインにおけるセラミド濃度が深く関与していることが示唆されている.また最近では,Yuyamaらがヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞中のセラミド濃度を高めることによってエクソソーム放出促進が誘導されることを報告している(14, 15)14) K. Yuyama, K. Takahashi, S. Usuki, D. Mikami, H. Sun, H. Hanamatsu, J. Furukawa, K. Mukai & Y. Igarashi: Sci. Rep., 9, 16827 (2019).15) K. Yuyama, H. Sun, D. Mikami, T. Mioka, K. Mukai & Y. Igarashi: FASEB J., 34, 16022 (2020)..本機構もESCRT非依存的であり,セラミドがリソソームや後期エンドソームに局在するlysosomal protein transmembrane 4 beta(LAPTM4B)との相互作用によるものと考えられている.このセラミドとLAPTM4Bの相互作用についてはセラミド分子の脂肪酸鎖長に特異性があり,鎖長C16やC18に最も高いエクソソーム放出作用があることも確認されている.したがって,これらの結果は脳内セラミド濃度を高めることによって神経細胞からエクソソーム放出を誘発し,Αβ除去を可能とする新規AD予防法としての期待が高まっている.

植物性セラミドとエクソソーム放出誘導

ここでスフィンゴ脂質について改めて紹介する.スフィンゴ脂質は2-アミノ-1,3-ジオール構造を持つ長鎖塩基を基本骨格とする一群の脂質である.長鎖塩基のアミノ基に脂肪酸がアミド結合するとセラミドとなり,さらにセラミドの一級アルコールにさまざまな官能基が結合することで複合スフィンゴ脂質(スフィンゴリン脂質,スフィンゴ糖脂質等)として分類される(図2図2■スフィンゴ脂質の基本構造と主たる長鎖塩基の種類と構造).スフィンゴ脂質は種によって異なる構造を持ち,植物性スフィンゴ脂質は図2図2■スフィンゴ脂質の基本構造と主たる長鎖塩基の種類と構造に示したように哺乳性の長鎖塩基と比較し,8番目と9番目の炭素間にも二重結合を持つ.特に植物性スフィンゴ脂質は哺乳性とは異なる生理活性を示すという報告もあり,例えば,米や米糠から抽出したグルコシルセラミド(GlcCer)の経口投与は皮膚障害を有するヘアレスマウスの表皮バリア機能の改善を促す(16)16) K. Tsuji, S. Mitsutake, J. Ishikawa, Y. Takagi, M. Akiyama, H. Shimizu, T. Tomiyama & Y. Igarashi: J. Dermatol. Sci., 44, 101 (2006)..また,こんにゃくエキスに含まれるGlcCerの摂取はマウスの経表皮における水分損失を防ぐ効果(17)17) T. Uchiyama, Y. Nakano, O. Ueda, H. Mori, M. Nakashima, A. Noda, C. Ishizaki & M. Mizoguchi: J. Health Sci., 54, 559 (2008).や皮膚のかゆみ過敏症を改善する効果(18)18) S. Usuki, N. Tamura, T. Tamura, S. Higashiyama, K. Tanji, S. Mitsutake, A. Inoue, J. Aoki, K. Mukai & Y. Igarashi: Biochem. Biophys. Rep., 17, 132 (2019).が示されている.さらに,Shirakuraらは植物性の長鎖塩基D-erythro-4,8-スフィンガジエニンがde novoセラミド合成に関わる遺伝子を活性化し,皮膚のセラミド生成を増やすことを報告している(19)19) Y. Shirakura, K. Kikuchi, K. Matsumura, K. Mukai, S. Mitsutake & Y. Igarshi: Lipids Health Dis., 11, 108 (2012).

図2■スフィンゴ脂質の基本構造と主たる長鎖塩基の種類と構造

植物タイプは炭素8位と9位の間に二重結合を有しているものが多い.

筆者は食事や栄養補助食品から摂取可能な植物性スフィンゴ脂質にもエクソソーム放出誘導が認められれば,普段からのAD予防効果が期待できるのではないかと考えた.そこで,筆者は主たる植物性スフィンゴ脂質を調製し,コントロール(セラミド添加剤なし)および哺乳性セラミド(d18:1/18:0)を用いてヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞からのエクソソーム放出誘導試験を行った.その結果,植物性セラミドにもエクソソーム放出誘導効果が確認され,脂肪酸鎖長についても哺乳性と同様にC16やC18(d18:2/16 h:0, 18 h:0)に有意な効果があることが示され,それ以外の脂肪酸鎖長(d18:2/20 h:0, 22 h:0,およびt18:1/22 h:0, 24 h:0)にはその効果が確認されなかった.特にd18:2/18 h:0セラミドにおいては哺乳性のセラミドよりもエクソソーム放出誘導効果が高いことが確認された(図3図3■植物性セラミドの種類と構造.またそれらによるエクソソーム放出量の評価).長鎖塩基の炭素8位と9位間のシスおよびトランスの構造異性や脂肪酸の水酸基の有無に関してはその活性にほとんど影響を与えていないようであった.マウス初代神経細胞やヒトiPS細胞を用いたエクソソーム放出誘導実験においても同様の結果が得られている.

図3■植物性セラミドの種類と構造.またそれらによるエクソソーム放出量の評価

さらに,筆者はセラミド処理によるΑβ除去効果についても検討を行った.上部のウェルに設置したΑβ発現型SH-SY5Y細胞からセラミド刺激による分泌エクソソームとΑβとの結合を介し,下部に設置したウェルのミクログリアBV-2細胞への移行・除去することで系中のΑβ濃度を評価した.コントロール(セラミド添加剤なし)および10 μMに調製した植物または哺乳性セラミドを培養液に添加し,24時間共培養した後,培養液中のΑβレベルを測定した.エクソソーム放出試験結果に比例し,植物性d18:2/18 h:0や哺乳性d18:1/18:0処理においてΑβ40およびΑβ42の濃度はともに有意に減少が確認された.また,植物性d18:2/18 h:0処理のほうが哺乳性d18:1/18:0処理よりもΑβ40, 42共に除去効果が高い傾向になった(図4図4■トランスウェルアッセイによる神経細胞からのセラミド依存型エクソソーム放出によるΑβ40および42の除去評価).したがって,脂肪酸鎖長C16やC18を持つ植物性セラミドはエクソソーム放出依存的にΑβを除去する高い効果を持つことが確認された(20)20) Y. Murai, T. Honda, K. Yuyama, D. Mikami, K. Eguchi, Y. Ukawa, S. Usuki, Y. Igarashi & K. Monde: Int. J. Mol. Sci., 23, 10751 (2022).

図4■トランスウェルアッセイによる神経細胞からのセラミド依存型エクソソーム放出によるΑβ40および42の除去評価

植物性セラミドのエクソソーム放出誘導機構と細胞内移行

特異的な植物性セラミド分子による神経細胞からのエクソソーム放出誘導やΑβ除去効果が確認され,今度はそのエクソソーム放出誘導機構について検討を行った.Yuyamaらが既に哺乳性セラミドで報告しているLAPTM4Bとの相互作用(15)15) K. Yuyama, H. Sun, D. Mikami, T. Mioka, K. Mukai & Y. Igarashi: FASEB J., 34, 16022 (2020).を参考にし,siRNAでLAPTM4BをノックダウンしたSH-SY5Y細胞にエクソソーム放出効果のある植物性セラミドを添加してもエクソソームの放出誘導は確認されなかった.また植物性セラミドのLAPTM4Bへの親和性についてもタンパク質脂質オーバーレイアッセイによって確認したところ,植物性d18:2/18h:0が最も高い親和性を示し,哺乳性d18:1/18:0よりも強い結合シグナルを確認した(図5図5■タンパク脂質オーバーレイアッセイの概要.各セラミドとLAPTM4Bの親和性評価).このように植物性セラミドについても哺乳性と同様の機構でエクソソーム放出誘導が行われていることが示された.

図5■タンパク脂質オーバーレイアッセイの概要.各セラミドとLAPTM4Bの親和性評価

最後に,筆者は添加した外因性セラミドの細胞内での挙動(移行先)について調べることとした.これまでヒト細胞における植物性スフィンゴ脂質の代謝追跡は報告されておらず,また哺乳性スフィンゴ脂質と植物性スフィンゴ脂質を分析するためにはLC-MS/MSによる複雑な手法が必要であった(21)21) K. Jojima, M. Edagawa, M. Sawai, Y. Ohno & A. Kihara: FASEB J., 34, 3318 (2020)..そこで筆者は重水素ラベルを用いることで複雑なHPLC分離作業を必要とせず,簡便にMS/MS解析可能な重水素ラベル化スフィンガジエニンを創製した.実際に重水素ラベル化スフィンガジエニンをヒト胎児腎細胞株HEK293細胞に添加するとセラミドやヘキソシルセラミド,スフィンゴミエリンなどのスフィンゴ脂質に代謝され,ヒト細胞内での植物性スフィンゴ脂質代謝が初めて証明された(22)22) Y. Murai, K. Yuyama, D. Mikami, Y. Igarashi & K. Monde: Chem. Phys. Lipids, 245, 105202 (2022)..外因性植物性セラミドのSH-SY5Y細胞内移行を実施するため,この重水素ラベル化スフィンガジエニンを重水素化植物性セラミド(d18:2-d5/18:0)へと調製し,その挙動を確認した.その結果,細胞中に比べエクソソーム中に三倍もの重水素化植物性セラミドが多く存在することが確認された(図6図6■重水素化植物性セラミドの構造とリピドミクス解析によるSH-SY5Y細胞およびエクソソーム中の重水素化植物性セラミドの定量解析(15)15) K. Yuyama, H. Sun, D. Mikami, T. Mioka, K. Mukai & Y. Igarashi: FASEB J., 34, 16022 (2020)..特にLAPTM4Bはリソソームまたは後期エンドソームに局在することから,この結果は細胞に添加されたセラミドの多くは後期エンドソームに移行し,そこに局在するLAPTM4Bと相互作用することでエクソソーム放出誘導が起こっているものと現段階では推測されている.

図6■重水素化植物性セラミドの構造とリピドミクス解析によるSH-SY5Y細胞およびエクソソーム中の重水素化植物性セラミドの定量解析

現在,セラミドによるESCRT非依存的なエクソソーム放出誘導の作用機序全貌の解明が積極的に行われている.他の研究グループはセラミドとLAPTM4B相互作用後,アミノ酸トランスポーターの一つである4F2hcとのタンパク質-タンパク質相互作用も重要な因子の一つであることを示唆している(23)23) K. Zhou, A. Dichlberger, H. Martinez-Seara, T. K. M. Nyholm, S. Li, Y. A. Kim, I. Vattulainen, E. Ikonen & T. Blom: ACS Cent. Sci., 4, 548 (2018)..したがって,セラミドによるESCRT非依存的なエクソソーム放出誘導の作用機序を全て明らかにすることによって新しいAD予防法の確立が期待されている.

まとめ

本稿では,改善が困難とされるADの新規予防法としてスフィンゴ脂質依存的なエクソソーム放出によるΑβの除去方法を概説した.特に植物性スフィンゴ脂質は哺乳性よりもエクソソーム放出誘導効果が高いことが証明された.また,筆者の以前の研究において植物性セラミドがマウスや血液脳関門細胞培養モデルにおいて血液脳関門を通して脳内に浸透することも実証している(24)24) K. Eguchi, D. Mikami, H. Sun, T. Tsumita, K. Takahashi, K. Mukai, K. Yuyama & Y. Igarashi: PLoS One, 15, e0241640 (2020)..したがって,普段の食事やサプリメントとして植物性スフィンゴ脂質を摂取することは,日常的にAD予防効果を高めることが期待される.さらに自然界にはスフィンガニン,フィトスフィンゴシン,9-メチルスフィンガジエニン,スフィンガトリエニンなど様々な長鎖塩基が存在する.筆者の研究成果はセラミドの多様な活性がスフィンゴ脂質構造の違いを反映しており,この研究成果はADの新規予防や治療に有効なスフィンゴ脂質開発への道を開く可能性もある.また,このようなスフィンゴ脂質を含む農作物の需要の高まりやAD治療の医療費削減も期待できることから幅広いSDGs目標への貢献も十分可能であると望んでいる.

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