Kagaku to Seibutsu 61(9): 453-455 (2023)
農芸化学@High School
リボーンベジタブルの効率化
Published: 2023-09-01
食品ロスとは,本来可食部であるにもかかわらず廃棄される食品のことである.各世帯で発生する食品ロス量を食品別にみると,野菜類が47.7%を占めており,最も高い割合を占めている.野菜には再生可能なものが多く存在することから,これらの特性を活かしてリボーンベジタブル(再生野菜)を行うことで,食品ロス量削減の効果的な取り組みへと繋げていくことができる.そのために,単に水を用いるだけでなく,安価な活力剤を用いて収量を上げることができないかと考え,添加濃度や頻度を変えて実験を行った.実験には豆苗を用い,発芽後,一定期間経過した茎を切断し,その後の伸長量で比較を行った.
© 2023 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2023 公益社団法人日本農芸化学会
世界的な人口増加に伴い,食糧生産量の増加に対する必要性は増す一方である.しかしながら,世界では年間で13億トンも食品ロスが発生しており,食糧生産量の3分の1に匹敵する量が廃棄されている現状にある.日本における食品廃棄量は,2017年の推計値で約612万トンにものぼり,これを一人あたりに換算すると毎日茶碗1杯分の食料が廃棄されている計算になる(1)1) 農林水産省:aff 10月号「食品ロスの現状を知る」,2020..
日本における各世帯で発生する食品ロス量のうち,最も高い47.7%という割合を占めているのが野菜類である(2)2) 農林水産省:平成26年度食品ロス統計調査報告(世帯調査),2015..一方,リボーンベジタブルは,野菜のヘタや根を水に浸けて栽培し,再生後に食すというものである.このような方法は,各家庭において広く普及しているものであり,非常に簡便に行うことができる.このようなリボーンベジタブルを行うことで,効果的に食品廃棄量削減へと繋げていくことができるはずである.
そのため,リボーンベジタブルについて,単に水を用いるだけでなく,安価な活力剤を用いて可食部をさらに増加させることができれば,食品ロス量の削減というだけでなく,可食部の増加による食糧増産への一助とすることができるはずである.
本研究では,活力剤を添加することで可食部を増加させることを目的とし,用いる活力剤の添加濃度や頻度を変えて実験を行った.実験には豆苗を用い,発芽後,一定期間経過した茎を切断し,その後の伸長量で比較を行った.
実験には,短期間で収穫が可能な豆苗(Pisum sativum)の種子(アタリヤ農園・生産国オーストラリア)を用いた.栽培には,恒温器(SANPLATEC製P-BOXY-2.5 J-CP)を用い,光照射はLEDライト(BOFAC製植物育成ライト・パーライト4本・スペクトル範囲380~800 nm)を用いた(3)3) 高 博:生物環境調節,20, 1(1982)..恒温器内にはアルミホイルを貼り,恒温器外からの光を遮断した.
添加する活力剤には,観葉植物や野菜などの対象植物が幅広く,扱いやすいメネデール(メネデール株式会社製)を用いた.本実験では,鉄イオンのみを含むものを用いた.
豆苗の種子は,蒸留水200 µLを含ませた脱脂綿0.1 gを入れた試験管内で発芽させた.
実験開始までの光条件は,暗条件下(暗期24時間)に7日間おいた後,明条件下(明期12時間,暗期12時間)に3日間おいて栽培した.豆苗の切断は,その後行った.恒温器内の温度は25~27°Cに設定し,蒸留水を毎日200 µL滴下した(4)4) 大分県立大分東高等学校:活かせ家庭の知恵「リボーンベジタブル」~野菜の切れ端を活用した食育・地域との連携について~,2016..
切断によって残す脇芽の違いによる伸長量の比較を行った(5)5) 豆苗研究会:育々研究会,https://www.murakamifarm.com/myouken/.切断はカミソリを用いて行った.切断部位は,脇芽より5 mm上方に統一し,脇芽なし(0個)では一番下の脇芽の5 mm下方を切断した.脇芽1個(1個)では,脇芽1個を残し,その5 mm上方を切断した.脇芽2個(2個)では,脇芽2個を残し,その5 mm上方を切断した(図1図1■脇芽の部位と切断位置).光条件は,明期12時間,暗期12時間に設定し,7日間栽培した.恒温器内の温度は25~27°Cに設定し,蒸留水を毎日200 µL滴下した.
豆苗に添加するメネデールの濃度を変化させ,伸長量の比較を行った.メネデールは,毎日与える蒸留水に,10倍希釈(1/10),100倍希釈(1/100),1000倍希釈(1/1000)となるよう混合し,実験開始1日目にメネデールの添加を行った.
切断は,実験①で最も良く成長した脇芽2個の位置で行った.光条件は,明期12時間,暗期12時間に設定し,7日間栽培した.
ネデールを豆苗に添加する頻度を毎日,1日おき,2日おき,3日おきとし,成長量の比較を行った.添加するメネデールの濃度は,実験②で最も良く成長した100倍希釈(1/100)とした.切断部位は,実験①で最も良く成長した脇芽2個とした.光条件は,明期12時間,暗期12時間に設定し,7日間栽培した.
結果の解析には,統計分析フリーソフト「R」を用いた.
残した脇芽個数の違いによる実験開始7日間における平均伸長量は,0個が0.30 cm, 1個が0.74 cm, 2個が1.9 cmとなった.
一元配置の分散分析を行ったところ,脇目2個と0個および1個に有意差が見られた.一方,脇芽0個と1個に有意差は見られなかった(図2図2■残した脇芽個数の違いによる伸長量の変化(実験①)).
メネデール添加濃度の違いによる実験開始7日間における平均伸長量は,1/10では0.0 cm, 1/100では2.4 cm, 1/1000では0.63 cmとなった.また,添加濃度1/10では腐敗が起こり,豆苗の成長は見られなかった.
一元配置の分散分析を行ったところ,1/100とその他の群に有意差が見られた.1/10と1/1000に,有意差は見られなかった(図3図3■メネデール添加濃度による伸長量の変化(実験②)).
メネデール添加頻度の違いによる実験開始7日間における平均伸長量は,毎日では0.2 cm, 1日おきでは0.81 cm, 2日おきでは2.8 cm, 3日おきでは1.3 cmとなった.
一元配置の分散分析を行ったところ,添加頻度2日おきとその他の群に有意差が見られた.毎日と1日おきに有意差はなく,1日おきと3日おきにも有意差は見られなかった(図4図4■メネデール添加頻度による伸長量の変化(実験③)).
実験①より,豆苗の成長点となる脇芽は,多い方がよい成長を示した.そのため,豆苗におけるリボーンベジタブルを行う上で,はじめに行う切断は脇芽を2個残すことが有効であるという結果を得た.その理由として,脇芽は豆苗の成長点であるため,脇芽が存在することで,そこから再び成長を始める個体が見られたと考えられ,収穫の際に脇芽を残さずに切断することは収量の低下を招くと考えられる.実験②においては,メネデールの推奨する濃度である100倍希釈が最もよい結果を示した.実験③からは,2日おきに添加した実験群が最もよい結果を示した.2日おきよりも高い頻度で添加したものは,メネデールが過剰であったためか,試験管内の水が濁り,十分な成長が見られなかったことから,メネデールの推奨する添加頻度が豆苗にも適していたものを考えられる.
研究開始当初は,適切な添加濃度であれば,添加頻度が高いほど収量が増加するものと予想していたが,それに反して2日おきがよい結果をもたらした.
本研究において,添加するメネデールの濃度は,実験②の結果から100倍希釈で統一して実験③を行ったが,実験②で設定した濃度には開きがあるため,より詳細な濃度条件を設定して確かめることで,効果的に収量増加を図ることができると考えられる.
本研究は,各家庭で行うことのできる豆苗のリボーンベジタブルを題材に,簡便な方法による収量増加の実現のために行った.世界の人口は増加する一方であり,100億人に達するのも,そう遠い未来の話ではない.人口増加に伴い,食糧の供給が追いつかなくなるという懸念がされる中,食品ロス量を抑えるだけでなく,廃棄される野菜から可食部を増やす方法の模索は,大きな意義を持つものと考えられる.
豆苗1個体の収量は微々たるものであるかもしれないが,豆苗は本来まとめて栽培することが多く,方法が簡便であることから,本研究による食糧生産量の増加への効果は期待される.また,本実験において,LEDを用いて栽培を行ったことは,季節によって変動する日照時間の影響を排除し,通年での栽培を見越したためである.冬季の降雪による日照不順を回避し,屋内においても効果的に栽培を行い,安定した収量増加が可能になれば,将来的に懸念される食糧不足に対する改善策の一助とすることができるものと考えられる.
本研究においては,メネデールの添加濃度や添加頻度を変えて実験を行った際,コントロールとして無添加の実験群を設定していなかった.そのため,メネデールの添加を行った実験群の間で有意差を確認することができたものの,無添加の実験群との比較をすることができず,メネデール添加の効果を十分に検証することができなかった.
今後の展望として,本研究において検証が行えなかったメネデール添加の有無による比較が必要となる.また,豆苗の水耕栽培を行う際は,通常1~2回可能とされているが,このような活力剤の添加によって再生回数の向上が見込めるのか,あるいは繰り返し実験を行った場合の成長量の増加が見られるか検討する必要がある.そのほかに,増加した可食部の栄養価が,再生回数によって変化するかどうかといった点についても比較していくことが必要となる.
Acknowledgments
本研究の計画を立てる上で,参考となる資料を大分県立大分東高等学校に提供して頂いた.また,実験結果の解析には,博士号教員である東海林拓郎博士にご協力頂いた.
Reference
1) 農林水産省:aff 10月号「食品ロスの現状を知る」,2020.
2) 農林水産省:平成26年度食品ロス統計調査報告(世帯調査),2015.
3) 高 博:生物環境調節,20, 1(1982).
4) 大分県立大分東高等学校:活かせ家庭の知恵「リボーンベジタブル」~野菜の切れ端を活用した食育・地域との連携について~,2016.
5) 豆苗研究会:育々研究会,https://www.murakamifarm.com/myouken/