巻頭言

活発な年次大会を願って

Tohru Dairi

大利

北海道大学大学院工学研究院

Published: 2023-10-01

筆者は大学卒業後,民間会社,公立大学,国立大学法人に在籍し一貫して農芸化学分野の研究,特に微生物を題材とした研究を行い年次大会で成果発表してきた.民間会社に在籍していた30~40年ほど前の年次大会では,大学からのみならず民間企業からも多くの発表演題があり活発な議論が行われていた.筆者も企業研究ゆえの制約はあったものの年次大会で発表することが大きな目標であった.実際に発表した際には,関連分野の第一線で活躍されていた先生方から質問やコメントを頂いた感動は今でも鮮明に覚えている.その後,大学教員になってからは,学生に対し年次大会で発表し関連分野の参加者と議論するように指導してきた.このように筆者にとって年次大会は重要なイベントであるが,発表数は残念ながら減り続け,2023年度の大会はコロナ禍での開催であったことを考慮しても,一般講演数が1,194と10年前の2,174と比べ激減している.

年次大会の発表演題を増やすには会員数の増加が必須であり,そのためには学会の存在を広く知ってもらう必要がある.サイエンスカフェ,出前授業,ジュニア農芸化学会などの活動で着実に成果があがっていると感じているが,即効性のある発表演題の増加には,学生会員や賛助会員企業など民間に在籍する個人会員を増やすことが,特に筆者の関連する分野では必要不可欠である.しかし筆者の研究室に在籍する学生は,年次大会で発表するために学生会員として入会するが,その多くは修士課程修了後に就職し,その際「大学卒業・大学院修了後の一般会員の会費を学生会費に据え置く優遇措置」があるにも関わらず退会している.博士課程への進学とアカデミアへの就職も粘り強く勧めているが,アカデミアのポジションの少なさや,筆者が工学部に属しているためか(民間企業への就職意欲の強い学生が多い)進学率は低い.また,民間企業に在籍する会員を増やす良いアイデアもすぐには浮かばない.筆者が民間企業に在籍した時に年次大会で発表した目的の一つは,博士の学位を得るために必要な原著論文に使うデータの評価を得ることであった.筆者は民間企業を離れて久しいので,現在の民間企業における学会発表や原著論文発表の必要性や意義は分からないが,博士の学位を取得する重要性は変わらないので,修士課程修了後,民間企業に就職した卒業生には社会人入学での博士課程への進学を強く勧めている.

定年まで2年あまりとなった筆者には,年次大会の発表数や会員数の増加に向けて新たにできることは限られていることから,これまで取り組んできたことを継続・強化していきたいと考えている.年次大会の発表では,論理的な要旨と分かりやすいスライドを作成し,決められた時間内で簡潔に発表することが求められる.さらに質問に対しては瞬時に的確な答えも要求される.これらの経験は学生にとって貴重であり,社会に出ても役立つことから,少しでもポジティブな結果があれば発表するように今後も指導していきたい.特にここ数年はコロナ禍で年次大会での発表は全てオンラインとなり,何度でも修正可能なファイルの事前アップロード方式が採用され,所属学生を見ていると良い意味での緊張感が感じられなかった.そこで,対面発表が予定されている次回の100周年記念大会では,なるべく多くの学生に緊張感を持った発表を経験させたい.また,関連分野の他研究室の学生の発表を直接聞き,前向きなコメントで激励したい.