Kagaku to Seibutsu 61(10): 461-467 (2023)
解説
連続血糖測定装置を用いてウルトラトレイルランニングを完走する走り続けるためにはどのように食べるのが良いのか
Application of Continuous Glucose Monitoring to Finish Ultra-Trail Running Races: How to Eat to Keep Running
Published: 2023-10-01
ウルトラマラソンなど超長時間競技に挑戦する人が増えている.栄養補給は競技スキルの一部であり,試行錯誤する選手が多い.完走を目指す一般選手が自分に合った補給を見つけるための生体計測デバイスの活用方法について紹介する.
Key words: スポーツ栄養; 栄養補給; 持久運動; 血糖値; ウルトラマラソン
© 2023 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2023 公益社団法人日本農芸化学会
トレイルランニングは,山野で競技が行われるマラソンであり,その距離は5~160 km以上に及ぶ(1, 2)1) B. Knechtle & P. T. Nikolaidis: Front. Physiol., 218, 634 (2018).2) M. D. Hoffman: Int. J. Sports Med., 31, 31 (2010)..起伏,路面など地形の変化に富み,標高や時間帯に応じて風景が大きく変わることから,スポーツツーリズムの要素がある.斜度があるところでは歩く選手も多く,眺めの良いところで立ち止まって写真を撮るなど,自由なスタイルでゴールを目指す.
競技人口は,増加し続けており,195カ国,25,700レース,177万人に上る.特に女性ランナーやアジア圏での人口増加が著しい.30~40代ランナーが多く,大会完走者の平均速度が年々低下傾向にあることも,競技志向が強い選手から一般市民に競技人口が拡大,多様化していることを裏付けている.観戦者スタイルも多様であり,応援している選手の位置をGPSで確認して先回りしてクルマや自転車,近道を使ってランニングで先回りして応援スタイルや,景色の良い場所で食事を楽しみながら様々選手を応援する,オンラインで更新される選手のGPS情報を見ながらSNSで応援するなど,デジタル技術の活用も含めて多様なスタイルが存在する.
多くの市民ランナーは,短い距離を速く走るよりも,徐々に距離を伸ばして100 km,160 kmといった長距離レースの完走を目指す(フルマラソンの距離を超えるものを,ウルトラトレイルランニングと呼ぶ).完走するためには走力だけでなく,トラブル対応能力も含めた総合力が求められることは,選手の年齢層の高さや女性ランナーの多さにつながっている(3)3) DogsorCaravan: ITRAのデータでみるトレイルランニングの現在,https://dogsorcaravan.com/2020/08/06/itra-infographic-2020/, 2020..
筆者は,もともと持久運動時の栄養補給の研究を行っていたことから,この競技では24時間以上走り続けることがあると聞いて,その栄養補給に興味を持った.人づてに選手を紹介してもらったところ,「補給計画は大事」「胃腸が強くないと完走できない」など,栄養補給のスキルが競技能力の一部になると確信させるコメントをたくさん聞くことができた.
筆者の発想の原点は,あまり深く考えたものではなく,1)ヒトは,低強度の(乳酸閾値を十分に下回る)運動(4)4) K. Svedahl & B. R. MacIntosh: Can. J. Appl. Physiol., 28, 299 (2003).であれば,糖質を主体とするエネルギーを補給し続ければ,運動を継続できるのではないか? 2)超人的に思える距離だが,栄養補給を最適化すれば超人でない一般人でも(=筆者でも)完走できるのではないか? 3)一見,極めて特殊な状況における栄養学に見えるが,低強度で動き続けるという状況は,むしろ本来の動物の姿のはず,超長時間運動における栄養補給から,ヒトの進化の過程で最適化された生理的で無理のない栄養摂取が浮かび上がってくるのでは,という曖昧かつ楽観的な期待であった.
そこで筆者は,これまで取り組んできた動物遊泳試験や走行試験,ヒトの階段歩行,エルゴメーター試験などのモデル実験系(5~8)は,ひとまず傍らに置いて,リアルなレースの現場で実際に走っている選手の栄養摂取状況と走行速度や疲労などの関係について調査することから,走り続けるための栄養補給について考察することにした.以下,本稿では本競技の栄養補給の特殊性と一般性について,筆者らの研究成果も織り交ぜて紹介する.
一般的な持久運動(3時間まで)については,国際オリンピック委員会(IOC)の栄養摂取ガイドラインがある(9)9) L. M. Burke, J. A. Hawley, S. H. S. Wong & A. E. Jeukendrup: J. Sports Sci., 29(S1), S17 (2011)..「30分未満であれば,補給の必要性が乏しい」から始まり運動時間が長くなるにつれて補給量が増加して,「3時間以上の運動では1時間あたり糖質90 gを摂取する」というものである.市販のスポーツドリンクの糖質濃度は約5%,ジェルは1本あたり約30 gの糖質を含むので,計算上1時間あたりドリンクを600 mLに加えてジェルを2本摂取する必要がある.数時間程度の運動であれば摂取可能であるが,24時間以上,この量を摂取し続けることは,ほぼ不可能であり,世界選手権レベルであっても選手の糖質摂取量は1時間あたり13~105 gと10倍近い差があり(10)10) C. Lavoué, J. Siracusa, É. Chalchat, C. Bourrilhon & K. Charlot: J. Int. Soc. Sports Nutr., 17, 36 (2020).,どこに正解があるのかわからない.
IOCの糖質摂取ガイドラインの根本にある考え方は,「持久運動時のパフォーマンス制限要因は,呼吸循環機能(酸素摂取能力)」という認識である.実際,持久運動系競技では,造血作用・酸素運搬能亢進作用をもつエリスロポエチン使用によるドーピングが頻発する(11)11) K. V. Trinh, D. Diep, K. J. Q. Chen, L. Huang & O. Gulenko: BMJ Open Sport Exerc. Med., 6, e000716 (2020)..そのため,IOCのガイドラインでは,酸素1Lあたり産生されるATP量(糖質:5.0 kcal,脂質:4.7 kcal)(12)12) F. Péronnet & D. Massicotte: Can. J. Sport Sci., 16, 23 (1991).に着目して,糖質を十分に補給して糖質を主体的に利用することを推奨している.
この考え方を発展させた研究では,これまで考えられなかった大量の糖質(120 g)を摂取させた場合のパフォーマンスや筋損傷への影響について調査している(13, 14)13) A. Viribay, S. Arribalzaga, J. Mielgo-Ayuso, A. Castañeda-Babarro, J. Seco-Calvo & A. Urdampilleta: Nutrients, 12, 1367 (2020).14) A. Urdampilleta, S. Arribalzaga, A. Viribay, A. Castañeda-Babarro, J. Seco-Calvo & J. Mielgo-Ayuso: Nutrients, 12, 1 (2020)..1時間あたり120 gの糖質を摂取させた群では,60 gや90 gを摂取させた群よりもトレイルランニング(42 km,約4時間30分)前後のジャンプとスクワットの筋力維持,有酸素運動能力の低下抑制,肝機能や筋のダメージ軽減などが観察された.一方で吐き気や腹痛といった消化管トラブルによる脱落者は,60 g, 90 g, 120 g摂取群の順で増加したことから,多量の糖質摂取は小腸管腔内の浸透圧を高めることで体液の小腸内への逆流による消化の遅延や下痢などの消化管トラブルを引き起こすリスクを許容した上で取り入れる必要があるといえる.
全く逆の考え方もある.レース中の補給を極力減らすために普段の食事から低糖質食を摂取したり(15)15) T. Noakes, J. S. Volek & S. D. Phinney: Br. J. Sports Med., 48, 1077 (2014).,食事の間隔を長くして空腹の時間を長くとり,脂質代謝能力を高めるための食べ方(16)16) J. M. Correia, I. Santos, P. Pezarat-Correia, C. Minderico & G. V. Mendonca: Nutrients, 12, 1390 (2020).などである.
糖質摂取量に関する上記の2つの食べ方は,かつては激しく論議されたものの結論が出ていないことから,いずれかが完全に間違っているというよりは,対象者や競技特性,目的,に応じて使い分けるものであろう.実際,2つの方法を組み合わせた食べ方も存在する(17)17) L. A. Marquet, J. Brisswalter, J. Louis, E. Tiollier, L. Burke, J. Hawley & C. Hausswirth: Med. Sci. Sports Exerc., 48, 663 (2016)..
2つの相反する食べ方には共通する部分も存在する.具体的には,1)インスリンの過剰な分泌は避けた方が良い,2)血糖値の急激な上昇低下は避けた方が良い,3)極端な低血糖は避けた方が良い,4)脂質代謝の亢進は望ましい,などである.これらを実現するために必要なものは,摂取する栄養素量のガイドラインではない.消化,吸収,代謝には個人差があることから,摂取する栄養素の量を理想に近づけるのではなく,選手の代謝状態が理想に近づいているかモニタリングしながら補給するための手法が必要である.
連続血糖値測定装置(図1A図1■連続血糖測定装置(A)と現在位置を発信するGPS (B))は,糖尿病患者が血糖値を測定して食事,インスリン注射を管理するための医療用器具である.現在,さまざまなタイプの製品が市販されており,筆者が使用している製品(フリースタイルリブレPro,アボットジャパン)は,二の腕の肘と肩を結ぶ中間点あたりに直径35 mm, 5 gのセンサーを装着する.センサーの皮膚接触面には,数mm程度のプローブがあり,細胞間の浸出液のグルコース濃度を測定して血糖値に換算する.この装置は,サイズ,重量,価格,バッテリーの持続性,装着や扱いの容易さ(競技中の操作が不必要)といったいずれの点においても,リアルなレース現場における選手の補給戦略の検証や修正といった目的に適している.
レース開始のおよそ2日前に選手に血糖値測定装置を装着してもらう.装置は一度装着すると,2週間,15分ごとに血糖値を記録し続ける.様々な条件(どか食いや運動,30時間以上の絶食など)で自分自身の血糖値の変化がわかるのは,個人的には興味深い.選手の中にも,同様に感じる方もおられる一方で,全く興味を示さない選手もいる.レース後に初めてデータが取得できてないことがわかると残念なので,装着当日に正常作動を確認してもらうことが必須である.
GPS(global positioning system)は,カーナビやスマホなど,様々な製品に搭載されている.トレイルランニングに最適化されたGPSウォッチは,あらかじめコース地図を読み込ませておくことで,夜間の山中でもナビゲーションに沿って進むことができる.バッテリーは100時間以上持続するモデルもあり,スタートからゴールまでの軌跡,移動速度,標高変化,心拍数変化を記録できる.近年は,レース主催者が選手に専用GPSの携行を義務付けることが増えてきた.本装置(IBUKI, ONDO社(図1B図1■連続血糖測定装置(A)と現在位置を発信するGPS (B)))は,3分毎に位置を発信することで,広域で行われるレースの実況中継,選手の安全管理やルール遵守の確認に活用される.
GPS装置によって移動速度が算出されるものの,トレイルランニングレースは,路面や斜度の変化があるため,移動速度の単純な比較が不可能である.自転車競技では,パワーメーターが普及しており,斜度や風向き,集団走行による空気抵抗の変化に関わらず,選手の運動負荷を定量化できるようになっているが,ランニング用のパワーメーターに関しては,まだ選手の使用率はそれほど高くないため,多人数の選手が関わる調査には利用しにくい.
筆者らが用いている移動速度の標準化方法は,コースを10~30ほどの区間に分けた後,GPSログに基づいて各区間の所要時間を優勝者から5位までの選手の平均値と比較する方法である.これによって同一選手の中で,序盤と比べて終盤のペースが維持できているか,ペースの落ちた箇所と栄養補給の関係等の解析が可能になる.
レース中の血糖値を適切にコントロールすることが,個人によって最適な補給戦略につながる.
図2図2■国際レベルの選手の160 kmレースにおける血糖値と疲労感の相関に,100マイルレース中の連続血糖値を示した.レースが始まると血糖値は上昇する(運動によって血糖値が低下するのは,食後などで血糖値が高い状態や,レース前から積極的に補給した場合である).空腹時やレース前に血糖値が上がらない程度に補給した場合は,スタートとともに,あるいはスタート直前から緊張感によって血糖値は上昇する.
国際レベルのエリート選手において,低血糖と疲労が一致していた.青線はレース中に最低でも維持したい血糖値(レース前の最低血糖値+30 mg/dL).灰色の帯は,安静時における正常血糖値の範囲(80~140 mg/dL).●補給食を摂取した地点(大きいサイズは摂取量が多い箇所) ◆疲労を感じた地点.
レース中は,血糖値が一定の範囲内で変動するが,レース前の空腹時血糖値よりは高い値で推移する.上昇幅については,選手によって変わるが,30~50 mg/dL程度上昇して変動する(18)18) K. Ishihara, N. Inamura, A. Tani, D. Shima, A. Kuramochi, T. Nonaka, H. Oneda & Y. Nakamura: Int. J. Environ. Res. Public Health, 18, 5153 (2021).のが一般的である(図3図3■国際レベルの選手の430 kmレース中の血糖値分布).運動後には血糖値は低下するが,レース後には選手は自由に食べたり飲んだりするため,レース中には見られないスパイクなどもあり,レース後の値は参考程度に考えている.
レース中に,安静空腹時の最低血糖値(個人差はあるが,多くは80 mg/dL)に到達することがあれば,糖質補給が不足している.図2図2■国際レベルの選手の160 kmレースにおける血糖値と疲労感の相関の例では,安静空腹時の最低血糖値まで低下していないケースでも,選手の疲労感(●印)と血糖値低下が一致していた(選手は,レース中に血糖値を見ていない).これは国内エリート選手の例であるが,他のエリート選手であっても,このようなケースは見られる.
先行研究でも,エリートランナーと一般ランナー1名ずつを比較した初期の研究では,エリートランナーの方が低血糖を起こしにくいのではないかと推察している(19)19) Y. Sengoku, K. Nakamura, H. Ogata, Y. Nabekura, S. Nagasaka & K. Tokuyama: Int. J. Sports Physiol. Perform., 10, 124 (2015)..筆者らもエリート,一般ランナー合わせて7名において,低血糖が見られた区間と移動速度が低い区間には,一定の関連性がみられた(20)20) K. Ishihara, N. Uchiyama, S. Kizaki, E. Mori, T. Nonaka & H. Oneda: Nutrients, 12, 1121 (2020)..また別のレースにおいて22名のランナーを上位でゴールするランナーと,下位やリタイアする選手達に区分して,連続血糖値の比較を行った.血糖値には個人差があるため,各選手の空腹時の最低血糖値を基準として,基準からの増加量(d血糖値)としてレース中の平均値や最高,最低血糖値,血糖値変動を算出した.上位選手は,下位選手やリタイア選手よりも最低血糖値が有意に高く,低血糖に陥るのを避けているといえる(図4図4■選手レベル別の160 kmレース中の血糖値変動).
低血糖を避けるために過剰に摂取することも望ましいことではない.前述の糖質の大量摂取を推奨する報告もあるように,高い血糖値(140 mg/dL:安静時の経口糖負荷2時間後の正常値上限)そのものが移動速度の低下につながるエビデンスは得られていない.しかし,血糖値変動(各区間の連続血糖値の最高値と最低値の差)が大きいことが移動速度の低下と関連していた(20)20) K. Ishihara, N. Uchiyama, S. Kizaki, E. Mori, T. Nonaka & H. Oneda: Nutrients, 12, 1121 (2020)..別のレースで行った調査でも,最高血糖値は上位選手と下位選手に違いはないが,血糖値変動は下位選手において大きかった(図4C図4■選手レベル別の160 kmレース中の血糖値変動,未発表データ,投稿準備中).このことは,断続的な摂取による高血糖と血糖降下は避けたほうが良く,少量をこまめに食べ続ける限りは血糖値が高めに維持されても速度低下につながらないことを示している.
食べ続けることで胃腸に負担がかかることが心配な選手は,断続的に食べるのをやめて低血糖を防止できる最低量をこまめに食べた方が良い.具体的には,レース前の最低血糖値よりも10~20 mg/dL高ければ十分であろう.
ここまでの流れから,トレイルランニング選手にとってレース中の血糖値は低下も上昇もなく,一定の値が理想のように思われたかもしれない.筆者も当初はそう考えていたが,現在は異なる考えを持つようになった.トレイルランニングの栄養補給に関わるようになったごく初期に,国際的に活躍する選手に一定の値が理想であると伝えたところ,さすがにプロフェッショナル,本当にレース中に一定の値で推移したがレース結果は望ましいものではなかった.さらにその後,他の数々のレースで優勝者,上位入賞者も含めて連続血糖値を測定させて頂いたが,一定の値にはならない事例ばかりだったからである.
それではトレイルランニングレース中の連続血糖値は,どのような推移を示すのだろうか.あるいは,特に規則性はなく一定の範囲に収まっているという認識で十分なのだろうか.
筆者らは,様々なトレイルランニングレース中の連続血糖値を解析するうちに,大小様々なピークやトレンドが,大きく2つの要因から構成されることに気がついた.第一の要因は,(当然ながら)糖質補給である.特にエイドステーションでの炭水化物の多量摂取や,清涼飲料水摂取によるピークは,顕著なピークとして現れる.このピークは,持続時間が比較的短い.
第二の要因は,コースの標高変化である.こちらは栄養補給とは異なり,スタートからゴールまでの全体的なトレンドに影響する(図5図5■160 kmレースでの連続血糖値と標高変化の類似性,未発表データ,投稿準備中).これまでの研究から,海抜高度と血糖値に関係があることは,選手の高所トレーニングとの関係で指摘されていた(21)21) N. E. Hill, K. Deighton, J. Matu, S. Misra, N. S. Oliver, C. Newman, A. Mellor, J. O’Hara & D. Woods: Med. Sci. Sports Exerc., 50, 1679 (2018)..図5図5■160 kmレースでの連続血糖値と標高変化の類似性に示したものは比較的標高変化があるレースでの1例であるが,他の標高変化が小さな里山でのレースにおいて,複数の被験者でも同じ傾向を確認していることから,標高以外の要素,具体的には上り斜面による運動強度の上昇が血糖値の上昇に関与していると考えている(論文作成中).将来的には,GPSデータによる標高変化,血糖値,小型カメラで撮影した食料補給状態(22)22) F. C. Wardenaar, D. Hoogervorst, J. J. Versteegen, N. van der Burg, K. J. Lambrechtse & C. C. W. G. Bongers: Front. Nutr., 5, 32 (2018).をリアルタイムに連携して,レース中の連続血糖値と標高変化が乖離してくると補給を警告するようなことも可能であろう.現時点においても即時に活用できるアドバイスとして,「上りやペースを上げるときに血糖値が低下したときは,補給が足りていない(ので摂る)」,「大きな上りに備えた下りのうちに補給を摂る」,「標高に従って血糖値が変化していくなら現状維持」は,専門的な知識がなくても活用しやすいポイントである.
連続血糖測定装置を用いる最大のメリットは,一般的なトレイルランニングレースの栄養補給ガイドライン(23)23) N. B. Tiller, J. D. Roberts, L. Beasley, S. Chapman, J. M. Pinto, L. Smith, M. Wiffin, M. Russell, S. A. Sparks, L. Duckworth et al.: J. Int. Soc. Sports Nutr., 16, 50 (2019).や経験に基づいて立案した補給計画に従って食べている際に感じる疲労の原因が栄養補給の不足か,それとも別の理由に起因するのか,レース中に判断できるというものである.しかし,表示された値を適切に解釈して,栄養補給に原因があるのか判断するためには,専門的な知識が必要である.これまで述べてきたように,単純な絶対値だけでなく,値の変化の傾向や,標高変化,その直前に食べたものを含めて,総合的に補給が適正かどうか判断するのは簡単ではないため,AIやアプリなどの技術を利用して適切な補給をサポートすると補給の過不足によるトラブルが減少して,多くの人が少しでも目標に近づけると考えている.筆者自身も,自ら被験者となって理論に基づいて想像していたことと現実のずれを感じ,「超」長時間運動の生理学に興味が尽きない(24)24) 龍谷大学:Academic Doors Academic Doors体内で起きる代謝の変化を自身で体感.トレランで160 kmを完走するスポーツ栄養学者,https://academic-doors-ryukoku.jp/interview/13, 2022..
本稿では近年,競技人口が増加しているトレイルランニングについて,競技中の糖質補給の観点から,わずかな経験を交えて紹介させて頂いた.たくさんのデータを提供して下さった選手の方々や,興味を持ってデータをディスカッションしてくれた大学院生,卒論生や共同研究者の方々にこの場を借りて御礼申し上げます.
Reference
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2) M. D. Hoffman: Int. J. Sports Med., 31, 31 (2010).
3) DogsorCaravan: ITRAのデータでみるトレイルランニングの現在,https://dogsorcaravan.com/2020/08/06/itra-infographic-2020/, 2020.
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24) 龍谷大学:Academic Doors Academic Doors体内で起きる代謝の変化を自身で体感.トレランで160 kmを完走するスポーツ栄養学者,https://academic-doors-ryukoku.jp/interview/13, 2022.