Kagaku to Seibutsu 61(10): 510-515 (2023)
プロダクトイノベーション
赤ちゃんから大人まで すべてのデリケート肌へアレルギーゼロ社会を目指してスキンケアにできること
Published: 2023-10-01
© 2023 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2023 公益社団法人日本農芸化学会
株式会社ナチュラルサイエンスは,1996年に設立したスキンケアメーカーで,赤ちゃんから家族みんなで使える低刺激のスキンケアを中心に,肌本来の力を引き出すスキンケア製品やサプリメントなどの研究開発,製造・販売を行っている.特にブランドの中心である「ママ&キッズ(Mama & Kids)」は,皮膚科・小児科・産科の医師らの協力のもと開発を行い,その効果を確かめるため,病院や第三者機関での臨床テストを実施するなど,安全性と品質にこだわっている.
創業当時,『生まれたての赤ちゃんの肌は柔らかくてうるおっているから,保湿のスキンケアは不要』という考えが常識で,デリケートな肌の赤ちゃんこそ保湿ケアが大切という事実は全く知られていなかった.当社では,その頃から独自に“肌育研究”を行い,赤ちゃんからのスキンケアの必要性の啓発,製品の提供を行ってきた.
そして2014年,「出生早期から全身に保湿剤の塗布を続けると,アトピー性皮膚炎の発症を約3割下げられる」という国立成育医療研究センターの研究結果が発表され(1)1) K. Horimukai, K. Morita, M. Narita, M. Kondo, H. Kitazawa, M. Nozaki, Y. Shigematsu, K. Yoshida, H. Niizeki, K. I. Motomura et al.: J. Allergy Clin. Immunol., 134, 824 (2014).,保湿剤によるスキンケアが,乾燥を防ぐだけでなくアトピー性皮膚炎の予防にもつながることが知られ,赤ちゃんへのスキンケアの必要性が広く認知されるようになった.
「ママ&キッズ」では,生まれてすぐからのスキンケアで,大人になってもトラブルの起きにくい一生モノのすこやかな肌を育む“基肌育”という考え方のもと,皮膚科専門医協力のもとスキンケア製品を開発.その後,産院や保育園と協力して,新生児や乳幼児に対するスキンケアの効果を検証してきたので,その結果の一部を紹介する.
生まれたての赤ちゃんの肌は,柔らかくうるおっていて,つるつるすべすべの肌をイメージする人も多いだろう.しかしながら人間の赤ちゃんは,生後1年間は“胎外胎児”とも言われるほど,他の動物に比べて非常に未熟な状態で生まれてくる.そして,皮膚も例外ではない.子宮の中にいるときの胎児の皮膚は,羊水と胎脂によって守られており,出生と同時に急激に乾燥した空気にさらされる.生命維持の根源となるバリア機能が備わるのはまさに満期産時の胎生38~40週であるといわれ(2)2) M. J. Hardman & C. Byrne: “Skin structural development”, Neonatal skin (2Ed), Marcel Dekker, Chemistry, 1, 2003.,表皮は成人でもたった0.2 mmで,角質層はラップ1枚程度といわれているが,新生児期はその半分程度しかない.そのため,角層の水分保持機能は低く,外からの刺激も受けやすく,肌トラブルが起きやすい状態である.
出生直後のスキンケアは,日本で古くからの慣習である沐浴や1990年代後半にアメリカから伝わったドライテクニック法(新生児の皮膚表面に付着している羊水と血液のみを清拭し,胎脂をできるだけ残す清潔ケア方法)で行われていた.しかしながら,そのようなスキンケア方法では,生後1か月後健診に訪れる児の半数以上で,脂漏性湿疹や乾燥性湿疹,おむつかぶれなどの皮膚トラブルが認められることが報告され(3)3) 杉山 剛,窪川理恵,竹田礼子,平田修司,杉田完爾:日本小児皮膚科学会雑誌,35,145 (2016).,また母親の児に関する心配事の第1位がアレルギー,第2位が皮膚であった(4)4) 杉山 剛,窪川理恵,寺島由美子,矢島千夏,東田耕輔,杉田完爾:日本小児皮膚科学会雑誌,33,7 (2014) .ことから,新生児期のケアのあるべき姿が再考されるようになった(5, 6)5) 杉山 剛,竹田礼子,高野知美:助産雑誌,70,214 (2016).6) 布施明美:助産雑誌,73,204 (2019)..
我々も年間分娩数が1,000件を超える産院にご協力いただき,出生後間もない児を対象に皮膚状態の観察を行った(図1図1■新生児測定風景)(7)7) 小谷野 豊,安藤 希,佐藤嘉純,田中聖子,天野博雄,佐藤雄一,小松令以子:日本小児皮膚科学会雑誌,35,21 (2016)..出生直後に沐浴を行わずドライテクニックを施した新生児であっても,出生後24時間までの間に,角層水分量や皮脂量は著しく減少することを確認した.さらに,入院中の生後4日目までの間に皮膚の乾燥はさらに進み,上肢・下肢を中心に「乾燥」と「落屑」が進行する児が多くみられた(図2, 3図2■出生直後の角層水分量と皮脂量の変化図3■出生直後から4日目までの皮膚状態の変化).これらのことから,正期産の新生児であっても,皮膚の保湿機能は低い状態にあるため,出生早期から保湿ケアによりバリア機能を高め,外的刺激を防ぐ必要があることを明らかにした.
「ママ&キッズ ベビーライン」は,トラブル肌の子どもをもち,自身も敏感肌に悩むママの声から誕生した,新生児から使えるスキンケア製品である.皮膚科,産科,小児科の各専門医協力のもと,品質と安全性にこだわったアイテムである.肌に不要なものは徹底的にカットし,低刺激で高保湿な処方を実現した.
ベタつかず,のびのよい乳状ローションと乳状クリームは,ママのお腹の中で赤ちゃんを守っていた胎脂や羊水の成分を参考に,セラミドやアミノ酸などを配合している.市場では1つの洗浄料で頭も体も洗えるものが多いが,頭髪用と顔・からだ用の洗浄料を分けているのも特徴である.頭部は毛髪を有し,特に新生児期は頭部や額の皮脂分泌量が多く,乳児湿疹などのトラブルも多発する.一方で,体はどの部位もほとんど皮脂分泌がないため,それぞれに適した洗浄力と機能を持たせ,使い分けることでよりすこやかな肌に導くことができる.
安心して使用していただくために,安全性チェックも厳重に行っている.パッチテストや刺激性試験はもちろん,スキンケアによる食物アレルゲンへの接触をなくすため,使用する成分を厳選するとともに,食物検査で用いられる特定原材料等(アレルゲン)の検出検査も実施し,食品アレルゲンの混入がないことを確認している.さらに,新生児のボランティアやアトピー性皮膚炎の乳幼児を対象に使用テストを行い,赤ちゃんの肌への効果と安全性を確認している.
2013年,我々は新生児を対象に洗浄と保湿のスキンケア介入による皮膚状態調査を実施した(8)8) 安藤 希,田中聖子,佐藤嘉純,小谷野 豊,天野博雄,佐藤雄一,小松令以子:第30回 日本助産学会学術集会,一般演題(ポスター)P-99 (2016)..保護者に対して,洗浄と保湿のスキンケア方法の指導を行い,出生直後から1か月後健診時まで,毎日スキンケアを実施させ,皮膚所見,角層水分量,皮脂量,ビジュアル評価を行った.その結果,洗浄と保湿のスキンケアを行うことで,紅斑・丘疹・乾燥の皮膚所見スコアが減少し,良い皮膚状態へと導くことを確認した.一方で,出生時は皮膚トラブルの少なかった児でも,保湿ケアを行わないことで,顔面・体幹・四肢を中心に皮膚の乾燥が進み,1か月後健診時には,保湿ケアを実施した児との有意な差を認め,出生直後からの保湿ケアの重要性を確認した(図5, 6図5■皮膚所見スコアの推移図6■洗浄と保湿のスキンケアを施した児の,生後1か月までの皮膚状態の変化).また,保湿ケアアイテム未使用による皮膚の乾燥を除き,すべての児で有害事象を含む皮膚トラブルは生じず,安全に使用できるスキンケアアイテムであることも確認できている.
内容物だけでなく容器にもこだわり,中身が空気に触れず,最後まで新鮮に使用できるよう,保湿剤の容器には二重構造のフレッシュポンプボトルや逆流しにくい逆止弁チューブの採用を積極的に行っている.初めて赤ちゃんのお世話をするママやパパの使いやすさにもこだわり,プラスチック容器は軽くて使いやすい素材を選定したうえで,落としても割れないような工夫も施している(図7図7■フレッシュポンプボトルの採用).
このような安全性と効果性,そして使いやすさへのこだわりから,現在では全国300か所以上の産院でも導入いただいている.
赤ちゃんの肌は未熟で,乾燥しやすく,トラブルが起きやすいことを述べたが,本当にすべての赤ちゃんにスキンケアが必要なのか? アトピー性皮膚炎になるような肌の弱い子だけで良いのではないか? と思う方も多いかもしれない.我々はこれまでの研究で,アトピー性皮膚炎の既往歴のある親とそうでない親から生まれた赤ちゃんの肌状態の観察を行い,比較検討したことがある(9)9) 小谷野 豊,藤浪未沙,天野博雄,佐藤嘉純,安藤 希,田中聖子,佐藤雄一,小松令以子:日本小児皮膚科学会雑誌,40, 15 (2021)..親のアトピー性皮膚炎既往歴の有無で群分けを行った理由としては,「アレルギー反応を起こしやすい」という体質は遺伝するケースが少なくなく,親がアトピー性皮膚炎である/あった場合,子どももアトピー性皮膚炎を発症する可能性が高いからである.
親がアトピー性皮膚炎既往歴を有する児には洗浄と保湿のスキンケアを必須とし『①アトピー素因(以下AD素因)あり群(保湿ケアあり)』に,またアトピー性皮膚炎の家族歴のない児を,洗浄と保湿のスキンケアを実施する『②AD素因なし–保湿ケア群』と保湿ケアは行わず洗浄のみを実施する『③AD素因なし–洗浄のみ群』の2群に分け,合計3群間で,生後1か月までの皮膚状態,保湿機能について比較検討を行った.その結果,①AD素因あり群の児では,出生日から皮膚に紅斑や乾燥の症状がみられるが,スキンケアを行うことで乾燥や落屑の改善が認められ,角層水分量や皮脂量も経時で増加した.③AD素因なし–洗浄のみ群の児の皮膚状態は経時で悪化し,①AD素因を有する保湿のケアを行った児よりも悪化する傾向にあった(図8, 9図8■皮膚状態(頬部)の変化の違い図9■角層水分量・皮脂量の推移).特に顔面に有意な変化がみられ,丘疹が有意に悪化していること,また角層水分量や皮脂量もスキンケアをした群と比べて低値であることから,AD素因の有無にかかわらず,洗浄のみのケアではなく保湿ケアも行うことが大切であると言える.これらのことから,すべての赤ちゃんにおいて出生後早期からスキンケアを行う必要があり,スキンケアに未熟なバリア機能を補い,より良い肌状態に導くことができると考える.
近年では,毎日スキンケアをして肌のバリア機能を育むことで,アレルゲンが体内に侵入することを防ぎ,アレルギーの発症を抑制することができるのではないかと考えられている.
アトピー性皮膚炎そのものはもちろん,アトピー性皮膚炎を発症すると,その後の食物アレルギーや気管支喘息,花粉症など様々なアレルギー疾患のきっかけとなる.このようにアレルギーを起こす臓器が皮膚,消化管,気管支,鼻と移動し,アレルゲンも食物,ダニ,花粉へと移っていく.まるで行進曲(マーチ)のように次々と現れることから,この現象を「アレルギーマーチ」呼ぶ(図10図10■アレルギーマーチ)(10)10) 水野克己,下条直樹,馬場直子:“子どものアレルギー×母乳育児×スキンケア”,南山堂,2016, pp. 83–133.そして,これらのアレルギー疾患は成人期まで続く場合もあり,乳幼児期の発症から生涯アレルギーと共に生きていかなくてはならないことを考えると,いかにアレルギーの発症予防が大切かを理解いただけるのではないかと思う.
アレルギーの発症予防を考える上で,アレルギーマーチの最初に登場する乳児期の肌トラブル,アトピー性皮膚炎を予防することが,その後のアレルギーマーチの進展を予防できる何よりの方法であると考えられる(10)10) 水野克己,下条直樹,馬場直子:“子どものアレルギー×母乳育児×スキンケア”,南山堂,2016, pp. 83–133.そのため,出生直後からのスキンケアがアレルギー予防における大切なファクターの1つであるといって過言ではない.
出生直後からのスキンケアが,アトピー性皮膚炎の発症の予防を期待できるだけでなく,生涯の健康につながることをより多くの方に知っていただきたい.そして,スキンケアでアレルギーに悩む人を少しでも減らしていきたいと考えている.
赤ちゃんのスキンケアに対する認識は,この25年で大きな変化を遂げた.従来の沐浴やドライテクニックから,シャワー付きの沐浴槽を完備し,洗浄と保湿のスキンケアを導入する産科や小児科(NICU, GCU)も増えてきている(5, 6)5) 杉山 剛,竹田礼子,高野知美:助産雑誌,70,214 (2016).6) 布施明美:助産雑誌,73,204 (2019)..出産準備品リストには,スキンケア用品が含まれるようになり,出産前に赤ちゃん用の洗浄料と保湿剤を準備する家庭も多くなり,新生児期の肌トラブルやアトピー性皮膚炎の発症率は減少傾向にあると考えられる(11)11) 文部科学省:令和元年度学校保健統計(学校保健統計調査報告書),https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa05/hoken/kekka/k_detail/1411711_00003.htm, 2020..
しかしながら,出生直後からのスキンケアによる外側からのケアだけでは,アレルゲンへの感作を十分に抑制することが難しいことも分かってきている(12, 13)12) Y. Zhong, M. Samue, H. van Bever & E. H. Tham: Allergy, 77, 1685 (2021).13) M. M. Kelleher, S. Cro, R. Phillips, H. C. Williams, A. J. Lowe & R. J. Boyle: Allergy, 77, 1931 (2022)..胎児は母親のおなかの中で,10か月もの時を過ごす.その間,母親の体調や栄養状態など母体の様々な影響が胎児へと伝わり,育っていることから,今後は妊娠中,妊娠前からのアプローチも必要と考える.食事をはじめとする内側からのケアにも着目し,内外ケアによるより良い肌づくり,アレルギー予防にもつながるケアを提供できるよう研究を重ねていきたいと考えている.
Reference
2) M. J. Hardman & C. Byrne: “Skin structural development”, Neonatal skin (2Ed), Marcel Dekker, Chemistry, 1, 2003.
3) 杉山 剛,窪川理恵,竹田礼子,平田修司,杉田完爾:日本小児皮膚科学会雑誌,35,145 (2016).
4) 杉山 剛,窪川理恵,寺島由美子,矢島千夏,東田耕輔,杉田完爾:日本小児皮膚科学会雑誌,33,7 (2014) .
5) 杉山 剛,竹田礼子,高野知美:助産雑誌,70,214 (2016).
6) 布施明美:助産雑誌,73,204 (2019).
7) 小谷野 豊,安藤 希,佐藤嘉純,田中聖子,天野博雄,佐藤雄一,小松令以子:日本小児皮膚科学会雑誌,35,21 (2016).
8) 安藤 希,田中聖子,佐藤嘉純,小谷野 豊,天野博雄,佐藤雄一,小松令以子:第30回 日本助産学会学術集会,一般演題(ポスター)P-99 (2016).
9) 小谷野 豊,藤浪未沙,天野博雄,佐藤嘉純,安藤 希,田中聖子,佐藤雄一,小松令以子:日本小児皮膚科学会雑誌,40, 15 (2021).
10) 水野克己,下条直樹,馬場直子:“子どものアレルギー×母乳育児×スキンケア”,南山堂,2016, pp. 83–133
11) 文部科学省:令和元年度学校保健統計(学校保健統計調査報告書),https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa05/hoken/kekka/k_detail/1411711_00003.htm, 2020.
12) Y. Zhong, M. Samue, H. van Bever & E. H. Tham: Allergy, 77, 1685 (2021).