Kagaku to Seibutsu 61(10): 516-519 (2023)
農芸化学@High School
雑草が農作物に及ぼす影響について
Published: 2023-10-01
雑草であるシロツメクサ(Trifolium repens)が,農作物であるトウモロコシ(Zea mays)に与える発芽・発育作用を検証することで,雑草が農作物に与える影響について評価した.シロツメクサは繁殖力が大きいことからトウモロコシの発芽・生長を大いに阻害するとの仮説を立てた.しかし,屋内外でシロツメクサの有無によるトウモロコシの生長の差異を比較する実験を行ったところ,発芽率・茎の太さに大きな違いはみられず,草丈には生長促進,乾燥重量や種子数には生長阻害がみられた.今回の実験結果をベースとし,実験方法に改善を重ねることで,農薬等を用いない持続可能な農業への応用が期待できる.
© 2023 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2023 公益社団法人日本農芸化学会
本研究に着手したきっかけには私が農業系の社会問題に関心があったことが主に挙げられる.農業系の社会問題といえば農業従事者の減少といった社会科学的な問題から病害虫対策のような生物学的な問題に至るまで様々なものが考えられるが,本研究では「農地での雑草問題」に焦点を当てた.
農地では雑草を処理するにあたって,大型の草刈り機や除草剤を用いることが主流である.しかし,刈りとるだけでは時間がたてば雑草は再び繁茂する.また,除草剤の使用依存は除草剤抵抗性を持つ難防除雑草の出現等のデメリットが存在する(1)1) 農林水産省:雑草防除技術開発の現状,2016..実際,農林水産省ではこうした問題に対処すべく,「みどりの食料システム戦略」と称した環境負荷の少ない持続可能な農法への転換を目的とする政策を進めており(2)2) 農林水産省:より持続性の高い農法への転換に向けて,2022.,前述した問題における社会的な関心が高まっていることがうかがえる.そこで本研究では,刈りとりや除草剤を用いた一過的な処理ではない,持続可能な雑草コントロールを目的として,雑草が農作物に与える影響を種子の播種時期やコンパニオンプランツの有無といった栽培条件を細かく変えて正確に評価した.一般に,雑草は農作物の生長を阻害するとされている(3)3) 黒川俊二:学術の動向,21, 11 (2016).が,その影響を正確に測定した研究は少ない.したがって,自身の研究が進むことで植物科学と農学の両分野に新たな知見をもたらすことが可能になると考える.なお,本研究で扱う雑草は一般的な畑に生える畑地雑草に限定し,「畑内で望まれないところに生える植物」(4)4) 荻本 宏:雑草研究,46, 56 (2001).として定義した.
種子の播種時期や特定の植物の生長を補助するコンパニオンプランツの有無で発育率を比較し,最も被害の少なかった条件が理想の防除法であると考えられる.研究には育てやすく,応用範囲が広い作物であるトウモロコシ(Zea mays)と内容に関連した先行研究が多く(5)5) 農山漁村文化協会:現代農業,87, 180 (2008).,育てやすく繁殖力の大きいシロツメクサ(Trifolium repens)を使用した.
1辺23 cm,深さ約3 cmの正方形の容器に注いだガンボーグB5培地を100区画に区切り,その上にトウモロコシとシロツメクサの種子を交互に50粒ずつ播種したものを用意した.それらを28°C設定のインキュベーターに入れ,LEDライトを常時照射し,5日間それぞれの発芽数比較を行った(図1A図1■生長量の比較のための実験環境).
21.4 cm×21.4 cm×14.6 cmの鉢に学校の中庭の土を詰めたものを12個用意し,土の上にトウモロコシの種子を播種した.真上から植物育成用LEDライトを常時照射した状態で9日間同時刻(午前10時30分)に土壌からの草丈の測定を行った.水は各鉢に毎日約100 mLずつ散布した.
生長率は草丈10 cmを100%とした各個体の草丈の割合を表し,草丈は条件ごとの平均値とした(図1B図1■生長量の比較のための実験環境).
畑には土を落ち葉,中庭の土で覆った約3 m四方の花壇を2つ使用し,雑草なし,雑草ありの区画は1つの花壇を2分割して用いた.雑草なしの区画では生えてくる雑草を適宜抜き,雑草ありの区画,シロツメクサありの区画では雑草は抜かずに放置した.種子は8月上旬に播種し,2日おきに水やりを行いながら3か月間育て,11月上旬に収穫した(図1C図1■生長量の比較のための実験環境).
重量を測定するにあたり,水分を含んだ生重量では各個体の吸収した水分量によって値に差が生じるため,乾燥重量を用いた.なお,比較するデータには各区画での乾燥重量の平均値を使用した.収穫後のトウモロコシを60°C設定のインキュベーターに入れて,1週間乾燥させ,乾燥後は茎を取り除き,実の重量のみを電子天秤で測定した.
また,土壌から雌花までの高さと土壌から10 cmの位置にある茎の太さをメジャーで測定した.比較するデータには各区画での丈,茎の太さの平均値を用いた.
トウモロコシは1個体に付属する種子の総重量を1個体から採れる無作為抽出した種子10粒の平均重量で割り,その値を種子数とした.
結果を分析するにあたっては,統計解析ソフト「R(ver4.2.1)」を使用し,デフォルトでインストールされている関数fisher.test()を用いて検定を実行した.データの有意性を示すP値及び統計の詳細な説明は,図の凡例に記載した.結果は,*P<0.05,**P<0.01,***P<0.001,****P<0.0001として図に示し,統計的に有意ではない結果は,図中に「n.s.」として示した.
シロツメクサの有無によるトウモロコシの発芽率を比較した.先行研究によるとシロツメクサにはオオバコに対する発芽促進作用があり,オオバコ種子がシロツメクサの種子と同時に播種されると通常よりも約1日早く発芽することが分かっている(6)6) 山尾 僚,向井裕美:academist Journal, https://academist-cf.com/journal, 2017..そのため,トウモロコシでも同様の結果が得られるのか検証する必要があり,シロツメクサ種子の有無でトウモロコシの発芽率を比較する実験を行った.
その結果,2日目以降シロツメクサのない環境群では,シロツメクサのある環境群と比べて有意に発芽率が高かった(図2A図2■シロツメクサの有無による生長量の比較).2日目のシロツメクサのない環境群での発芽率を100%としたとき,シロツメクサのある環境群では40%となり,以降,発芽率に変化はみられなかった.
シロツメクサ種子の有無によるトウモロコシの生長率の差異の比較を生物室内で簡易的に行った.予想に反して,7日目以降,シロツメクサのある環境群では,シロツメクサのない環境群と比べて有意に生長の増加がみられた(図2B図2■シロツメクサの有無による生長量の比較).9日目にはシロツメクサのない環境群で生長率が約70%であったのに対し,シロツメクサのある環境群では約100%(10 cm)に達した.また,予備実験として発芽率の比較も行ったところ,途中経過で多少の差異はあったものの,どの条件も7日目には発芽率が約60%前後で停滞し,全体として発芽率に有意な差はみられなかった(図2C図2■シロツメクサの有無による生長量の比較).
シロツメクサあり,雑草なし,雑草ありの3種類の屋外環境を用意し,トウモロコシを結実まで育てて,草丈,種子数,乾燥重量,茎の太さを比較した.草丈は,雑草のない環境群で約130 cm,雑草のある環境群で約120 cm,シロツメクサのある環境群で約140 cmとシロツメクサのある環境群では,雑草のない環境群,雑草のある環境群と比べて有意に生長の増加がみられ,他の環境群では差がみられなかった(図2D図2■シロツメクサの有無による生長量の比較).トウモロコシの種子数は雑草のない環境群では317粒,雑草のある環境群では147粒,シロツメクサのある環境群では168粒と雑草のない環境群ではシロツメクサや雑草のある環境群と比べて有意に種子数の増加がみられた.また,雑草のある環境群とシロツメクサのある環境群とでは有意な差はみられなかった(図2E図2■シロツメクサの有無による生長量の比較).トウモロコシの種子の乾燥重量は,雑草のない環境群では約40 g,雑草のある環境群・シロツメクサのある環境群では約20 gと雑草のない環境群では雑草のある環境群・シロツメクサのある環境群と比べて有意に重く,他の環境群では差がみられなかった(図2F図2■シロツメクサの有無による生長量の比較).茎の太さは,雑草のない環境群で約8 cm,雑草のある環境群・シロツメクサのある環境群で約7 cmとどの環境群にも有意な生長の増加はみられなかった(図2G図2■シロツメクサの有無による生長量の比較).
トウモロコシの発芽について,培地上ではシロツメクサのない環境群において発芽率が高かった一方で生長実験の過程では発芽率に有意な差はみられなかったことから,シロツメクサの存在はトウモロコシの発芽に影響を与えないと結論付けた.また,屋内での生長実験に関してシロツメクサのある環境群では,シロツメクサのない環境群と比べて有意に生長の増加がみられた要因について,以下の可能性が考えられる.(1)シロツメクサによるグラウンドカバーが土壌を乾燥から防ぐことによる発芽促進,(2)シロツメクサによるグラウンドカバーが土壌を遮光することで,土壌中の光発芽種子の発芽を抑制し,結果的に他の雑草を防除(7)7) 川崎哲郎,杉山英治,河内博文,佐藤晃一:農業土木学会論文集,199, 137 (1999).,(3)シロツメクサが形成する根粒が窒素固定を行うことによる土壌中への養分の供給(8)8) M. Asai, M. Ito & T. Kusanagi: Weed Res., 40, 194 (1995).の3つである.ただし,種子を播種してからの経過日数が非常に短かったため,3つ目の可能性は考えにくい.1つ目と2つ目の可能性は土壌水分測定器や光量測定器等を用いた実験(7)7) 川崎哲郎,杉山英治,河内博文,佐藤晃一:農業土木学会論文集,199, 137 (1999).を通して解明する必要がある.いずれにしても,今回の実験で調べた条件では,シロツメクサの存在はトウモロコシの草丈の生長に好影響を与えることが分かった.屋外では,全体として雑草のない環境群では他の環境群と比べて有意に生長の増加みられた.シロツメクサのある環境群と雑草のある環境群では大きな差はみられなかったが,草丈はシロツメクサのある環境群の方が多少大きく生長していたことから,散布時期や播種する間隔等の条件を細かく変えることで,より有意に生長の増加がみられる可能性(9)9) 農業環境技術研究所:“環境保全型農業と生物機能の利用”,2006, pp.48–55.が考えられる.
本実験より,トウモロコシを畑で生育させた条件において,シロツメクサのある環境では雑草の有無に関係なく草丈に有意な生長が観測されることが明らかとなった.屋外の実験は行った時期が8~11月と季節の転換点であったため,実験個体の管理が難しい時期であった.しかし,シロツメクサのある環境では他の雑草がほとんど生えず,保水効果も十分にあったことから,シロツメクサのアレロパシー効果(10, 11)10) E. L. Rice: “アレロパシー”,学会出版センター,1991, pp.12–45, pp.70–77, pp.267–277, pp.399–422.11) 農山漁村文化協会:現代農業,88, 90 (2009).,前述した土壌の乾燥緩和の可能性が示唆された.シロツメクサはトウモロコシの発芽・生長を大いに阻害するという仮説を立てたが,屋内でのトウモロコシの生長率の比較実験及び屋外での草丈の比較実験では著しい生長阻害はみられず,むしろ有意に生長の増加がみられた.この結果から,持続可能な雑草防除法を実現する有力なツールとしてシロツメクサを活用できる可能性が示された.
今後は,他の雑草がトウモロコシにどれほどの生長阻害を及ぼすのかを明確にし,それに対するシロツメクサの防除効果を検証していきたい.エノコログサ(Setaria viridis)はトウモロコシへの生長阻害率が大きい植物であるアキノエノコログサ(Setaria faberia)(12)12) 種生物学会:“外来生物の生態学”,2010, pp.277–287.に系統が近い植物であり,アキノエノコログサに比べて種子が調達しやすいことから,トウモロコシの発芽率の差異をより明確にするのに適していると判断できるため,他の雑草にはエノコログサを用いることが望ましいと考える.本研究の「屋外での生長率の比較」終了後,花壇に残っていたシロツメクサを数本抜いたところ,無数の根粒が形成されていたことから,花壇の土でも根粒が形成されることが明らかになった.そのため,プランターに花壇の土を詰め,ビニールハウス等で簡易的にシロツメクサを栽培し,定期的に根粒の有無を確認する実験も計画している.マメ科植物は根粒菌との共生により自身で養分を供給できることから,窒素の少ないやせた土地でも生育可能で,窒素固定後はトウモロコシに必要な養分を奪わず,トウモロコシの生長に悪影響も好影響も与えないと考えられる(13)13) 寺島一郎:“植物の生態—生理機能を中心に—”,裳華房,2013, pp.195–198..しかし,シロツメクサにはアレロパシー効果があるため,雑草防除に役立ち,コンパニオンプランツとして利用できるのではないかと考察する(7, 9)7) 川崎哲郎,杉山英治,河内博文,佐藤晃一:農業土木学会論文集,199, 137 (1999).9) 農業環境技術研究所:“環境保全型農業と生物機能の利用”,2006, pp.48–55..前述した実験では,根粒形成の具体的なタイミングが分かるため,それに合わせてシロツメクサを播種することで農作物へのシロツメクサの利用価値をより正確に検証できるのではないかと考える.ただし,マメ科植物の混植により,畑内で窒素等の養分が不足する可能性も考えられるため,畑の栄養状態には注意を払いながら実験を進める必要がある.また,本研究で得られた研究成果の応用化に向けて農業試験場で大規模にシロツメクサを育て,トウモロコシに対する他の雑草の効能をより詳細に測定することも見据えている.
Reference
1) 農林水産省:雑草防除技術開発の現状,2016.
2) 農林水産省:より持続性の高い農法への転換に向けて,2022.
3) 黒川俊二:学術の動向,21, 11 (2016).
4) 荻本 宏:雑草研究,46, 56 (2001).
5) 農山漁村文化協会:現代農業,87, 180 (2008).
6) 山尾 僚,向井裕美:academist Journal, https://academist-cf.com/journal, 2017.
7) 川崎哲郎,杉山英治,河内博文,佐藤晃一:農業土木学会論文集,199, 137 (1999).
8) M. Asai, M. Ito & T. Kusanagi: Weed Res., 40, 194 (1995).
9) 農業環境技術研究所:“環境保全型農業と生物機能の利用”,2006, pp.48–55.
10) E. L. Rice: “アレロパシー”,学会出版センター,1991, pp.12–45, pp.70–77, pp.267–277, pp.399–422.
11) 農山漁村文化協会:現代農業,88, 90 (2009).
12) 種生物学会:“外来生物の生態学”,2010, pp.277–287.
13) 寺島一郎:“植物の生態—生理機能を中心に—”,裳華房,2013, pp.195–198.