解説

海藻由来硫酸化多糖類の食品機能性フコイダンの免疫制御作用を中心に

Food Scientific Bioactivities of Seaweed-Derived Sulfated Polysaccharides: Focusing on the Immunomodulatory Effects of Fucoidan

Yoshiyuki Miyazaki

宮﨑 義之

九州大学大学院農学研究院

Published: 2023-11-01

四方を海に囲まれた日本の近海には,1,500種ほどの海藻が生育しており,海藻は日本において極めて重要な海産資源の一つとなっている.海藻の利用範囲は食にとどまらず,医薬品や生化学工業製品の製造,そして,バイオエネルギーへの変換など,ブルーカーボンやSDGsに関わる様々な事業が展開されている(表1).また,私たち日本人が身体に良い食材として昔から好み食している海藻は,酢の物やサラダ,みそ汁の具など日常の食卓に欠かすことはできない.対して,海藻食の文化を持たない英米では,海藻を「seaweed(海の雑草)」と表記しているが,健康志向が高まるにつれて「sea vegetable(海の野菜)」という呼び名も広まっている.その背景には,2013年の「和食」のユネスコ無形文化遺産登録があると思われる.海藻は,和食文化を支える「出汁」の素材として欠かすことができず,また,豊富に含まれる多種のミネラルやカロテノイドおよび水溶性食物繊維は海藻に高い栄養的価値を与えるとともに,心血管疾患等の発症リスク低減に寄与することが疫学的な研究調査から明らかにされている(1).本稿では,海藻“ぬめり”成分の硫酸化多糖類(特に,フコイダン)が持つ免疫調節作用を中心に,その健康維持に寄与する生理機能に関する科学的知見を紹介する.

Key words: 海藻成分; 硫酸化多糖類; フコイダン; 免疫調節作用; 健康効果

硫酸化多糖類およびフコイダンとは?

植物,藻類,菌類(食材で言えば,野菜,海藻,きのこ等)の細胞および細胞外マトリクスを形成する主要な成分は糖質および食物繊維であり,食品栄養素として供給される.表2表2■海藻を構成する多糖類に示すように,海藻においては,細胞骨格を形成する多糖類はセルロース,ヘミセルロース,キシラン,マンナンであり,また,栄養素となる貯蔵多糖として,緑藻のデンプン(アミロースとアミロペクチン)の他,紅藻デンプンや褐藻のラミナランが知られている.一方で,海藻に特有のぬめりを構成するのは一連の細胞間粘質多糖(水溶性食物繊維)であり,藻体の色調によって分類される緑藻,褐藻,紅藻において,それぞれ特徴的な糖鎖構成を有している.即ち,緑藻のぬめりはキシロアラビノガラクタン,グルクロノキシロラムナンおよびグルクロノキシロラムノガラクタンから,紅藻のぬめりはガラクトースと3,6-アンヒドロ-ガラクトースの重合体であるカラギーナン,ポルフィランおよびアガー(寒天)からなる.対して,褐藻のぬめり成分はウロン酸の重合体であるアルギン酸やアスコフィランおよびフコースを主な構成糖とするフコイダンであることが知られている(2)2) 小田達也,上野幹憲:化学と生物,52, 202 (2014)..このように,各海藻種に含まれる細胞間粘質多糖は,その糖組成と構造は異なるものの,アルギン酸を除いて共通して硫酸基を有しており,いずれも負電荷を呈する酸性多糖類である.

表1■海藻の産業利用
表2■海藻を構成する多糖類

硫酸化多糖類は,血液凝固阻害作用を有するヘパリンや軟骨に存在するコンドロイチンおよび乳酸菌が生成するデキストラン硫酸など,動植物と微生物に広く分布している.海藻中の硫酸化多糖を含めて,それらは高い保湿性と生体適合性を有しており,医薬品や食品素材として利用されている.一方,海藻で生合成される多糖類を構成する単糖の種類と構造は,動植物のものとは明らかに異なり,その最たる例が,褐藻類のアルギン酸とフコイダンである.フコイダンの主要な構成糖であるフコースは,動植物においては,血液型を決定する抗原糖鎖やペクチンおよび細胞外マトリクス中のプロテオグリカンなどにも一部存在することが知られているが,フコースをメインとして構成される多糖類は,褐藻類のフコイダンに限られる.フコイダンは,1913年にスウェーデンのウプサラ大学においてキリン教授によって発見され,研究に用いられたヒバマタ属海藻の学名“Fucus”に因んで命名された.その後,様々な褐藻類に同様の多糖類が見出され,現在フコイダンは,単一の分子を示す名称ではなく,「主にフコースからなる褐藻由来の硫酸化多糖類の総称」と定義されている(図1図1■フコイダンとその他の機能性多糖類).フコイダンは,その保水性によって海藻を乾燥から守り,藻体全体を覆うことで潮の流れにもまれて出来た傷の修復や紫外線による障害および病原体の侵入を防ぐ役割を担っており,元来から“守る力”を有した食品成分と言える.

図1■フコイダンとその他の機能性多糖類

フコイダンは,褐藻のぬめりを構成するフコースを主成分とした硫酸化多糖類である.フコースの他,ガラクトースやグルクロン酸などの単糖も構成糖に含まれ,その組成と糖鎖の構造は海藻の種によって異なる.図中の円柱グラフは,各種フコイダンの構成糖,硫酸基および結合カチオンの含有量を示す.

フコイダンの健康効果

これまでにフコイダンの生理機能として報告されてきた健康効果(図2図2■学術研究において見出されたフコイダンの生理作用)は,ヘパリンで認められる血栓形成抑制(抗血液凝固)作用のほか,血糖上昇抑制や血圧降下および血清脂質改善効果に加えて抗酸化作用など多岐にわたり,多くの水溶性食物繊維と同様,メタボリックシンドロームの進行阻止や生活習慣病の予防および老化の防止に寄与することが示唆されている(3)3) Y. Li, J. Qin, Y. Cheng, D. Lv, M. Li, Y. Qi, J. Lan, Q. Zhao & Z. Li: Mar. Drugs, 19, 608 (2021)..それらに加えて,フコイダンの生理機能に注目が集まったのは,がん細胞の増殖抑制やアポトーシスを誘導するとの学会および学術論文での報告が契機となっており(4)4) Y. Lin, X. Qi, H. Liu, K. Xue, S. Xu & Z. Tian: Cancer Cell Int., 20, 154 (2020).,その後,がん治療におけるフコイダンの利用性として,血管内皮細胞増殖因子の発現抑制や接着分子との相互作用等を介して血管新生やがん転移の抑制に寄与する可能性が示されている(5)5) M. E. Reyes, I. Riquelme, T. Salvo, L. Zanella, P. Letelier & P. Brebi: Mar. Drugs, 18, 232 (2020)..加えて,フコイダンが病原体を構成するタンパク質や侵入ルートとなる宿主受容体などと相互作用することでウイルス感染防御作用やピロリ菌排除能を発揮することも報告されている(6, 7)6) Q. Wei, G. Fu, K. Wang, Q. Yang, J. Zhao, Y. Wang, K. Ji & S. Song: Pharmaceuticals, 15, 581 (2022).7) 林 利光:YAKUGAKU ZASSHI, 128, 61 (2008).

図2■学術研究において見出されたフコイダンの生理作用

一方,フコイダンの抗がん作用および抗ウイルス作用の発現機構については,上述した直接的な相互作用を伴う阻害効果のみならず,免疫調節作用を介した間接的機序が解明されつつある.元来,難消化性の高分子多糖であるフコイダンを経口摂取した場合,一部は吸収され血中および尿中に検出されるとの知見も幾つか報告されてはいるが,体内または末梢組織に生じた病変や感染部位に到達するフコイダン量は決して多くない(摂取量の100~1000分の1程度)と推定される.それでもなお,フコイダンの摂取に伴う腫瘍の退縮やワクチン効果の向上を示した動物試験あるいはヒト試験による学術知見が多く報告されており,腸管の粘膜免疫系への働きかけを介した全身性免疫の活性化がフコイダンの作用機構のカギを握るものと考えられる.同様の腸管免疫系の活性化を介した食品成分(または医薬)による生理作用の発現経路は,真菌(カビ,酵母およびキノコ)に含まれるβ-グルカンにおいても推定されており(8)8) 大野尚仁:YAKUGAKU ZASSHI, 141, 711 (2021).,また,我々は先の研究で,フコイダンが酵母由来β-グルカンと協調して自然免疫細胞であるマクロファージの活性化を導くことを明らかにしている(9)9) Y. Miyazaki, Y. Iwaihara, J. Bak, H. Nakano, S. Takeuchi, H. Takeuchi, T. Matsui & D. Tachikawa: Biochem. Biophys. Res. Commun., 516, 245 (2019)..以下,これまでに報告されているフコイダンの免疫調節作用について,抗腫瘍および抗ウイルス感染効果を中心に紹介する.

フコイダンの抗腫瘍効果における免疫増強作用

上述のように,フコイダンの抗腫瘍効果については,当初,直接的な相互作用によるアポトーシスの誘導が主要な作用機序として報告され,実際,我々もヒトがん細胞株を用いて増殖阻害効果を確認しており,ヒト乳がん細胞株MCF-7においてはフコイダンが細胞接着分子であるβ1-インテグリンと相互作用することでカスパーゼ-8を介した細胞内シグナル経路を活性化し,アポトーシスを誘導することを明らかにしている(10)10) Y. Yamasaki, M. Yamasaki, H. Tachibana & K. Yamada: Biosci. Biotechnol. Biochem., 76, 1163 (2012)..しかしながら,難消化性の高分子成分であるフコイダンが経口摂取の後に体内に吸収され,そのような直接的な抗腫瘍効果を発揮する作用機序を科学的に説明することは難しい.これに対して我々は,図3図3■フコイダンの抗腫瘍免疫増強効果に示すように,がん細胞皮下移植マウスを用いたフコイダン摂食試験において腫瘍形成に対する抑制効果を見いだしており,フコイダンを経口摂取することで生体内において抗腫瘍効果を発揮することを実験動物レベルで立証するとともに,同試験において,腫瘍免疫でがん細胞の殺傷機能を担うナチュラルキラー(NK)細胞の活性がフコイダン摂取によって有意に亢進することを明らかにしている(11)11) 宮﨑義之:Food Style 21, 20, 52 (2016)..さらに,がん化学療法においてしばしば問題となる骨髄(免疫)抑制を誘導したモデルマウスを用いた研究では,経口摂取したフコイダンが免疫増強効果を発揮して抗がん剤副作用を緩和することを確認した(11)11) 宮﨑義之:Food Style 21, 20, 52 (2016)..フコイダンの免疫増強作用および生体内での抗腫瘍効果について,これまでに多くの研究報告がなされており(12)12) Y. Li, E. McGowan, S. Chen, J. Santos, H. Yin & Y. Lin: Mar. Drugs, 21, 128 (2023).,それらの知見から,フコイダンはがん患者の治療および術後フォロー時のQOL向上に寄与するものと推察している.

図3■フコイダンの抗腫瘍免疫増強効果

[A]S180骨肉腫細胞を皮下移植したマウスにオキナワモズクおよびメカブ由来フコイダンならびにアガリクス菌糸体を単独または混合して食餌投与し,腫瘍形成と免疫機能を評価.[B]マウスに抗がん剤5-FUを投与することで骨髄抑制モデル動物を作成し,フコイダンによる免疫力の回復を評価.[C]B16メラノーマ細胞を封入したマトリクスゲルを皮下移植したマウスを用い,フコイダンの血管新生抑制作用および腫瘍微細環境における免疫細胞の状態を評価.[D] gp70ペプチド(B16メラノーマがん抗原)で免疫したマウスを用いて,がん特異的な免疫細胞の誘導に対するフコイダンの増強作用を評価.

また,悪性腫瘍の拡大やがん転移を防ぐ手段として,がん性血管新生を抑制することは有効ながん治療法とされている.血管新生抑制作用はフコイダンの抗腫瘍効果の作用機序の一つとして古くは1990年代から研究が進められており,ヒト血管内皮細胞(HUVEC)やがん細胞株を用いた培養試験により,血管内皮細胞増殖因子(VEGF)や繊維芽細胞増殖因子(FGF)の産生抑制やそれらの受容体との結合阻害を介した血管形成抑制効果やマトリクス分解酵素(MMP)の産生抑制を介したがん細胞浸潤抑制作用などが報告されている(13)13) E. Turrini, F. Maffei & C. Fimognari: Mar. Drugs, 21, 307 (2023)..しかしながら,血管新生に対する生体内効果に関する動物試験では,フコイダンを静脈または腫瘍内に投与することで検証している研究が多く,フコイダンの経口摂取に伴う効果については,未だ詳細な作用機序は明らかにされていない.そのような状況の中で我々は,市販の基底膜マトリクスにがん細胞またはVEGFを封入してマウスの背部皮下に注射し,マトリクスゲル内への血液流入と血管侵入を測定した結果,フコイダンの経口摂取に伴ってがん性血管新生が抑制されること,VEGFによる血管新生誘導には影響がないこと,および,マトリクスゲル内でのVEGF発現量が低下することを明らかにし,学会にて報告した(14)14) Y. Miyazaki, J. Bak, H. Nakano, S. Takeuchi, H. Takeuchi & D. Tachikawa: J. Immunol., 204(1_Supplement), 241.15 (2020)..また,同フコイダン摂食試験においてマトリクスゲル(模擬腫瘍)内の免疫細胞の状態を検討したところ,腫瘍内でVEGFを産生するCD206陽性マクロファージや腫瘍内微細環境で免疫抑制に関わる制御性T細胞(Treg)の存在比が低下しており,血管新生についても,免疫機能の制御を介してフコイダンが抗腫瘍効果を発揮する作用機序があるものと考えられた.

さらに,がん抗原ペプチドで免疫したマウスにフコイダンを摂食させることで,I型免疫応答(IFN-γ産生)が亢進し,NK細胞やがん抗原特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)の活性がより顕著に増強されることを見いだしており(15)15) 宮﨑義之:New Food Industry, 61, 1269 (2020).,フコイダンはがんの治療および転移や再発の予防に寄与することが期待される.

フコイダンによる感染症に対する免疫制御

ウイルスや細胞内寄生細菌のように,宿主の臓器や細胞内に侵入して増殖する病原体の感染に対する防御には,上記の抗腫瘍免疫と同様に,自然免疫および細胞性免疫の機能強化が重要である.先の研究でフコイダンは,様々な病原体,その中でも特にインフルエンザ,後天性免疫不全症候群(AIDS),デング熱およびヘルペスなどのウイルスの感染に対して有効な生理機能が広く検証されており,抗腫瘍効果と同様の直接的な作用において,ウイルスの宿主細胞表面(受容体)への付着や細胞内移行および脱核・複製・転写翻訳などのウイルス感染・増殖の各段階を抑制および阻害することが明らかとなっている(16)16) B. Pradhan, R. Nayak, S. Patra, P. P. Bhuyan, P. K. Behera, A. K. Mandal, C. Behera, J. S. Ki, S. P. Adhikary, D. MubarakAli et al.: Carbohydr. Polym., 291, 119551 (2022)..ポルフィランやカラギーナンなどの酸性多糖類が,同様の抗ウイルス活性を有することが報告されている一方で,フコイダンについては,免疫調節を介してインフルエンザウイルス感染に対する抵抗性を向上させ得ることが,ウイルス感染マウスを用いたフコイダン摂食試験で明らかにされている(17)17) R. G. Bai & R. Tuvikene: Viruses, 13, 1817 (2021)..それらの研究では,フコイダン摂取によってマウスの体内ウイルス価や死亡率の上昇および体重の減少が抑えられられており,その要因が血中のウイルス中和抗体や粘膜IgAの産生上昇にあること,さらに,フコイダン処理によって薬剤耐性ウイルスの発生が抑えられることなどが示されている.

また,SARS-CoV-2などのウイルス感染においては,肺炎やサイトカインストームなど致死的な炎症病態への対応が治療における重要な課題となるケースもある.我々を含め多くの研究者がフコイダンの抗炎症作用を見いだしており(18)18) Y. Miyazaki, T. Satoyama, H. Nakano, S. Takeuchi, H. Takeuchi & D. Tachikawa: J. Immunol., 208(1_Supplement), 111.05 (2022).,今後生体内でのフコイダンの炎症抑制効果に関して更なる検証を重ねる必要があるものの,ウイルス感染症の治療における免疫バランス制御にフコイダンをはじめとする海藻成分が有用であると考えられる(19)19) K. Tamama: Nutr. Rev., 79, 814 (2021).

一方,細菌感染に対するフコイダンの効果に関する検証は,未だ十分になされていない部分も多いが,フコイダンによる自然免疫の亢進,細菌の毒性低下および口腔内細菌に対する抗菌剤の薬理作用向上などの生理機能が報告されており,ピロリ菌に関してはフコイダン摂取により効果的に除菌されることが知られている(20)20) J. H. Fitton, D. N. Stringer & S. S. Karpiniec: Mar. Drugs, 13, 5920 (2015)..加えて,リーシュマニアやマラリアなどの細胞内寄生原虫の感染に対して,フコイダンが樹状細胞やマクロファージなどの自然免疫細胞の活性化を介して効果的な病原体排除に寄与することが報告されており(21)21) S. Varikuti, B. K. Jha, G. Volpedo, N. M. Ryan, G. Halsey, O. M. Hamza, B. S. McGwire & A. R. Satoskar: Front. Microbiol., 9, 2655 (2018).,様々な病原性微生物の感染治療におけるフコイダンの有用性が提言されている.

フコイダンの免疫調節作用の発現機構

上述のように,フコイダンが自然免疫細胞(特に,マクロファージや樹状細胞)に対して活性化作用を有すること,その作用に応じてTh1型の獲得免疫系が強く誘導されNK細胞やCTLなど攻撃型免疫細胞のはたらきが増強されることが,数多くの培養細胞および動物試験による研究で明らかにされており,腸管組織におけるフコイダンと免疫細胞の相互作用と腸管免疫の活性化についても次第に実証されつつある.その一方で,腸管における免疫系の活性化が,どのようにして全身に広がり末梢の作用部位(腫瘍や感染局所など)に到達して集約されるのか,その作用機序を明らかにするための更なる検証が必要である.また,免疫細胞の活性制御においてフコイダンが作用するとされる自然免疫細胞に発現する受容体として,スカベンジャー受容体(SR-A)やToll様受容体(TLR2やTLR4)などが報告されているが(22)22) Z. Lin, X. Tan, Y. Zhang, F. Li, P. Luo & H. Liu: Mar. Drugs, 18, 376 (2020).,それらの受容体は元来異物の排除や病原体の認識に関わる免疫制御分子であり,感染などの実際の状況下では受容体下流に生じる細胞内シグナルが複合的に相互作用するものと考えられる.我々は,フコイダンの免疫制御機構を正確に理解するために,未知のフコイダン受容体の存在も念頭に置いて現在も更なる検討を進めている.

上述に加えて,水溶性食物繊維であるフコイダンは,プレバイオティクスとして腸内細菌叢を改変し,腸内環境の改善や腸管バリアの強化に寄与する可能性が示されている(23)23) E. Shannon, M. Conlon & M. Hayes: Mar. Drugs, 19, 358 (2021)..近年,腸内細菌やそれらの代謝物である短鎖脂肪酸が免疫応答を含む全身の生理学的イベントに影響を与えることが報告されており(23)23) E. Shannon, M. Conlon & M. Hayes: Mar. Drugs, 19, 358 (2021).,フコイダンの間接的な免疫調節の作用機序として注視して研究に取り組む必要があろう.

ヒトにおけるフコイダンの生理作用と安全性の評価

実験動物を用いたフコイダンの生体内免疫調節に関する研究報告は多数あるものの,ヒトにおける効果検証は未だ十分にはなされていない.しかしながら,健常者を対象とした免疫向上作用やがん治療における副作用軽減などの研究および食品としての安全性評価は以前から真摯に実施されており(表3表3■ヒトを対象としたフコイダンの安全性および機能性試験),我々もフコイダン含有エキス末に関する小規模臨床試験において,1日あたり1 gのフコイダンを摂取した健常者(特に,唾液中IgAのベース値が低い集団および若年層)で,唾液中の分泌型IgAの産生が増加することを示している(24)24) 宮﨑義之:Bio Industry, 38, 27(2021)..この結果は,フコイダンが感冒などの感染症罹患の予防や異物曝露に伴うアレルギー応答の抑制に寄与する可能性を示している.従って,今後さらにヒト臨床効果に関する検証を重ねていくことで,健康増進におけるフコイダンの真の有効性を明示できるものと考えている.

表3■ヒトを対象としたフコイダンの安全性および機能性試験