Kagaku to Seibutsu 61(11): 554-563 (2023)
セミナー室
植物のアルミニウム耐性機構の分子メカニズム酸性土壌でのAlの毒性と耐性獲得シグナル
Published: 2023-11-01
© 2023 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2023 公益社団法人日本農芸化学会
耕作可能地の約50%を占めるpH 5.5以下の酸性土壌は,特に,北米,南米,アジアの熱帯,亜熱帯に広く分布しており,今後も酸性化による土壌劣化は進行すると考えられている(1, 2)1) FAO & ITPS. Status of the World’s Soil Resources (SWSR), Main Report, 2015.2) L. V. Kochian, M. A. Piñeros & O. A. Hoekenga: Plant Soil, 274, 175 (2005)..酸性土壌ではアルミニウム(Al)が土壌鉱物から溶脱し植物へ毒性を示す.Alは短時間のうちに著しい根の生育阻害を引き起こし,植物は水分や養分吸収,窒素固定能などの低下により,乾燥や栄養不足に対しても脆弱になる.そのため,作物のAlストレス耐性は世界的に重要な農業形質とされている.1世紀以上前から,酸性土壌の毒性は主にAlに起因することが知られていた.近年,Al耐性遺伝子の機能が理解されるとともに,他の栄養素との関わりも見えてきた.本稿においては,植物のAl毒性およびAl応答と耐性メカニズムに関して,近年明らかにされてきたことを紹介する.
土壌が酸性化しpH 5.5を下回ると,AlはAl3+やAlOH2+の化学形態となり(Al2Si2O5(OH)4+6H+→Al3++3H4SiO4+H2O, Al3++H2O⇌AlOH2++H+)植物毒性を示す(2)2) L. V. Kochian, M. A. Piñeros & O. A. Hoekenga: Plant Soil, 274, 175 (2005)..Al3+は,負電荷をもつ重要な生体分子,カルボキシ基やリン酸基を含む化合物と強く結合して生育阻害を引き起こす(図1図1■酸性土壌(Alストレス)での生育阻害).例えば,細胞壁ペクチンのカルボキシ基との結合による根の伸長阻害,細胞膜との結合によるイオン輸送障害,膜脂質過酸化やミトコンドリア機能阻害による細胞死,DNAや微小管アクチンフィラメントへの結合による細胞分裂阻害を引き起こす(2)2) L. V. Kochian, M. A. Piñeros & O. A. Hoekenga: Plant Soil, 274, 175 (2005)..Alは根端の表層に近い細胞に蓄積し,特に根端分裂領域と伸長領域の間の領域がAlの集積,Alによる傷害部位であり,そこでのAlシグナルは後で述べるストレス応答に関わっている(3)3) W. J. Horst, Y. Wang & D. Eticha: Ann. Bot., 106, 185 (2010)..Alの大部分は急速に細胞壁に結合し,数時間のうちに根の伸長を阻害する(3)3) W. J. Horst, Y. Wang & D. Eticha: Ann. Bot., 106, 185 (2010)..したがって根において強い毒性を示すが,地上部でもAlによる光化学系IIの光化学的損傷により光合成が阻害される(4)4) Z. Li, F. Xing & D. Xing: Plant Cell Physiol., 53, 1295 (2012)..
酸性土壌での生育は阻害されるが,根圏への有機酸分泌などのAl耐性機構,CaCO3による酸性矯正やCaSO4施肥により改善される.A: シロイヌナズナ,B: ササゲ,C: シロイヌナズナ,D: ダイズ.
細胞壁へのAl集積は,シロイヌナズナではヘミセルロースに最も多く,細胞壁Alの75%が集積し,次いで,ペクチンにも多くみられる(5)5) J. L. Yang, X. F. Zhu, Y. X. Peng, C. Zheng, G. X. Li, Y. Liu, Y. Z. Shi & S. J. Zheng: Plant Physiol., 155, 1885 (2011)..初期の研究では,ペクチンのカルボキシ基がAlの主要な結合部位であるとされていた.ペクチン分解酵素のひとつであるペクチンメチルエステラーゼ(PME)により,ペクチンのメチルエステル基が脱メチル化されると,Alとの結合親和性の高い非メチル化カルボキシ基が多く生成される.AlによるPMEの活性促進によるペクチンメチル化の減少は,細胞壁のAl結合とAl感受性を高める(6)6) J. L. Yang, Y. Y. Li, Y. J. Zhang, S. S. Zhang, Y. R. Wu, P. Wu & S. J. Zheng: Plant Physiol., 146, 323 (2008)..一方,最近の研究では,ヘミセルロースへのAl結合が注目されている.Alは双子葉植物の一次細胞壁においてその主成分であるキシログルカンに結合し,キシログルカン架橋が分解されておこる細胞壁のゆるみを阻害することで,根の伸長を阻害する.植物はAlに応答していくつかのキシログルカン転移酵素/加水分解酵素(XTH)の遺伝子発現量を低下させ,キシログルカン分子の繋ぎ換えを触媒するエンド型キシログルカン転移酵素(XET)活性を阻害する(5)5) J. L. Yang, X. F. Zhu, Y. X. Peng, C. Zheng, G. X. Li, Y. Liu, Y. Z. Shi & S. J. Zheng: Plant Physiol., 155, 1885 (2011)..これにより,ヘミセルロース含量とそれに結合するAl含量を減少させることによりAl毒性を軽減する.XET同様に細胞壁を緩めるタンパク質であるエクスパンシンの機能低下は,根の細胞伸長及びAl蓄積量を減少させるが,相対的なAl感受性には影響を及ぼさない(7)7) J. Che, N. Yamaji, R. F. Shen & J. F. Ma: Plant J., 88, 132 (2016)..その他にも,イネにおいてバクテリア型ABCトランスポーターOsSTAR1/2によりアポプラストへ輸送されるUDP-グルコースの細胞壁への取り込みがAl結合をマスクすると考えられている(8)8) 山地直樹,馬 建鋒:化学と生物,53, 529 (2015)..
Alの一部は細胞内に取り込まれる.細胞膜表面でのAl3+の活動度は,Al毒性の主要な要因である.細胞膜表面上では負電荷を生成する膜リン脂質にAl3+が結合するため,膜リン脂質含有量が細胞膜表面でのAl3+の活動度に影響を及ぼす(9)9) Y. Kobayashi, Y. Kobayashi, T. Watanabe, J. E. Shaff, H. Ohta, L. V. Kochian, T. Wagatsuma, T. B. Kinraide & H. Koyama: Plant Physiol., 163, 180 (2013)..このため,ステロール含有量の低下に伴う膜リン脂質の増加やリン欠乏時の膜リン脂質の減少は,Al蓄積とAl感受性に影響する(10)10) T. Wagatsuma, S. H. Khan, T. Watanabe, E. Maejima, H. Sekimoto, T. Yokota, T. Nakano, T. Toyomasu, K. Tawaraya, H. Koyama et al.: J. Exp. Bot., 66, 907 (2015)..Ca2+, H+, Mg2+による細胞膜表面の負電荷軽減もまたAl毒性を軽減すると考えられている(9)9) Y. Kobayashi, Y. Kobayashi, T. Watanabe, J. E. Shaff, H. Ohta, L. V. Kochian, T. Wagatsuma, T. B. Kinraide & H. Koyama: Plant Physiol., 163, 180 (2013)..細胞内へのAl輸送は,Alとリンゴ酸複合体の輸送活性をもつアクアポリンNIPやAl3+輸送活性をもつアルミニウム輸送体Nrat1によって行われる(8, 11)8) 山地直樹,馬 建鋒:化学と生物,53, 529 (2015).11) Y. Wang, R. Li, D. Li, X. Jia, D. Zhou, J. Li, S. M. Lyi, S. Hou, Y. Huang, L. V. Kochian et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 5047 (2017)..その結果,細胞壁のAl毒性が減じる.細胞内に取り込まれたAlの毒性は,液胞膜に局在するアクアポリンTIPや,ダイマーとなり機能するハーフサイズABCトランスポーターにより液胞へ隔離されることで軽減される(8, 12)8) 山地直樹,馬 建鋒:化学と生物,53, 529 (2015).12) T. Negishi, K. Oshima, M. Hattori, M. Kanai, S. Mano, M. Nishimura & K. Yoshida: PLoS One, 7, e43189 (2012)..根の生育阻害においては,Al依存性DNA損傷が特に重要であると考えられている.核内に取り込まれたAlによりDNA損傷が引き起こされると,DNA損傷応答転写因子SOG1が活性化され,遺伝子発現の制御を介して細胞周期の停止やDNA修復を引き起こす(13)13) P. Chen, C. A. Sjogren, P. B. Larsen & A. Schnittger: Plant J., 98, 479 (2019)..複製阻害などを認識するキナーゼATRによりSOG1が活性化され,細胞周期を停止させる(13)13) P. Chen, C. A. Sjogren, P. B. Larsen & A. Schnittger: Plant J., 98, 479 (2019)..これにより根の伸長を能動的に遅らせると考えられている.また,過剰なAlはDNAの二本鎖切断を引き起こす.これを認識するキナーゼATMによりSOG1が活性化され,相同性依存的なDNA修復を引き起こす(13)13) P. Chen, C. A. Sjogren, P. B. Larsen & A. Schnittger: Plant J., 98, 479 (2019)..
Alを高蓄積できない多くの植物種では,根圏でAlを無毒化し排除する耐性機構の方が優位であると考えられる.Alは水溶液中では水和金属イオンAl(H2O)63+として存在し,有機酸などが過剰に存在すると水分子の代わりに有機酸が結合する.多くの植物はリンゴ酸,クエン酸,シュウ酸などの有機酸をAlに応答して積極的に根端から分泌し,有機酸錯体を形成することでAlの細胞壁への結合,細胞への流入を減少させる(2)2) L. V. Kochian, M. A. Piñeros & O. A. Hoekenga: Plant Soil, 274, 175 (2005)..前述の体内無毒化機構において,液胞に隔離される際にはこれらの錯体の形態で輸送される(2)2) L. V. Kochian, M. A. Piñeros & O. A. Hoekenga: Plant Soil, 274, 175 (2005)..Al無毒化の効果は,結合割合,錯体の安定性や生育試験からクエン酸,シュウ酸,リンゴ酸の順に高いと考えられている(14, 15)14) J. Barceló & C. Poschenrieder: Environ. Exp. Bot., 48, 75 (2002).15) Y. Y. Li, Y. J. Zhang, Y. Zhou, J. L. Yang & S. J. Zheng: J. Integr. Plant Biol., 51, 574 (2009)..この他にもマロン酸などの有機酸やカテキンなどのフェノール化合物がAl解毒に寄与することが示唆されている(16, 17)16) N. Martins, S. Gonçalves, P. B. Andrade, P. Valentão & A. Romano: Plant Sci., 198, 1 (2013).17) P. S. Kidd, M. Llugany, C. Poschenrieder, B. Gunsé & J. Barceló: J. Exp. Bot., 52, 1339 (2001)..
有機酸分泌は,多くの作物に共通するAl耐性機構である.実際,後述の2010年にトウモロコシで発見されたクエン酸トランスポーターMATEの優れた遺伝子型系統は,ブラジル農務省らのフィールド試験で,収量を最大48%増加させた(18)18) R. C. C. Vasconcellos, F. F. Mendes, A. C. de Oliveira, L. J. M. Guimarães, P. E. P. Albuquerque, M. O. Pinto, B. A. Barros, M. M. Pastina, J. V. Magalhaes & C. T. Guimaraes: Crop Sci., 61, 3497 (2021)..Alに応答して分泌される有機酸の種類と量は,植物種や品種,遺伝子型によって異なる(2)2) L. V. Kochian, M. A. Piñeros & O. A. Hoekenga: Plant Soil, 274, 175 (2005)..30年前にオーストラリアの研究グループにより,コムギのAl耐性がAl刺激による根圏へのリンゴ酸分泌によることが明らかにされて以来,コムギリンゴ酸トランスポーターTaALMT1やクエン酸トランスポーターMATEが様々な植物で同定された(2, 8)2) L. V. Kochian, M. A. Piñeros & O. A. Hoekenga: Plant Soil, 274, 175 (2005).8) 山地直樹,馬 建鋒:化学と生物,53, 529 (2015)..これまでに,草本植物から木本植物を含む約30の植物種において,ALMT1/MATE相同遺伝子が機能同定された.ソバのAl耐性機構としてAl刺激によるシュウ酸分泌が知られていたが,シュウ酸トランスポーターは未同定だった.昨年,木材腐朽菌F. palustrisから単離されたシュウ酸トランスポーター遺伝子FpOARの相同遺伝子(HbOT1とHbOT2)がゴムノキから単離された.両遺伝子の発現はAlにより誘導され,酵母内で発現させるとシュウ酸分泌能とAl耐性を与えた(19)19) Z. Yang, P. Zhao, W. Peng, Z. Liu, G. Xie, X. Ma, Z. An & F. An: Cells, 11, 3793 (2022)..
有機酸分泌は,根においてAlで発現誘導,活性化される細胞膜H+-ATPaseによるH+放出を伴い,このH+流出亢進は,有機酸分泌を促進する.これは,有機酸が陰イオンの形で細胞外に分泌されるため,細胞内の電荷バランスの維持に寄与していると考えられている(2)2) L. V. Kochian, M. A. Piñeros & O. A. Hoekenga: Plant Soil, 274, 175 (2005)..また,ALMT1タンパクの活性調節には,プロテインキナーゼCによるC末端領域のリン酸化,N末端とC末端の特定のドメインが関与している(20)20) T. Sharma, I. Dreyer, L. Kochian & M. A. Piñeros: Front. Plant. Sci., 7, 1488 (2016)..また,TaALMT1はC末端にγ-アミノ酪酸(GABA)の結合サイトをもつことから,GABAの排出またはTaALMT1の立体構造変化により,アポプラストへのリンゴ酸排出が負に制御されると考えられている(21)21) B. Xu, N. Sai & M. Gilliham: Plant Physiol., 187, 2005 (2021)..GABA結合モチーフを有するALMTファミリーには,リンゴ酸だけでなくCl−やNO3−などの陰イオンチャネルも含まれる.乾燥ストレス下で蓄積したGABAは,AtALMT9による液胞への陰イオンの取り込みを抑制することで気孔開閉制御に関与する(21)21) B. Xu, N. Sai & M. Gilliham: Plant Physiol., 187, 2005 (2021)..GABAは細胞内pHの調節や炭素・窒素代謝における代謝物としての役割が知られている.一方,GABAは様々な環境ストレス下で蓄積し,環境応答を調節するシグナル分子として近年注目を集めている.
Alによる主根伸長の阻害に関わる植物ホルモンのシグナル伝達が近年明らかにされた.そのひとつは,Al集積部位である根端の分裂領域と伸長領域の間の領域において,Alに誘導されるエチレン依存性オーキシンシグナルとその下流で作用するサイトカイニン応答による根の伸長抑制である(22)22) Z. B. Yang, G. Liu, J. Liu, B. Zhang, W. Meng, B. Müller, K. I. Hayashi, X. Zhang, Z. Zhao, I. De Smet et al.: EMBO Rep., 18, 1213 (2017)..一方,Alストレス下の初期の根伸長促進は,Alを排除する有機酸分泌や細胞壁のゆるみによる(図1A図1■酸性土壌(Alストレス)での生育阻害).シロイヌナズナリンゴ酸トランスポーター遺伝子AtALMT1は,Alに強く応答して根端特異的に誘導される.AtALMT1は複数の植物ホルモンに加えて,過酸化水素,H+,細菌鞭毛タンパクflg22にも応答する(23)23) A. Sadhukhan, Y. Kobayashi, S. Iuchi & H. Koyama: Trends Plant Sci., 26, 1014 (2021)..しかし,少なくともAlストレス応答による初期のAtALMT1の誘導は,既知のABA, IAA及びFLS2を介した免疫シグナル経路とは別の経路で制御される.AtALMT1プロモーターは複数のシス調節配列をもち,複数の転写因子により直接制御される.シロイヌナズナの酸耐性遺伝子として同定されたC2H2型ジンクフィンガータンパク質をコードする酸耐性転写因子STOP1は,Al耐性にも必須であり,AtALMT1を含む一連の耐性遺伝子群の発現を直接または間接的に制御する(図2図2■STOP1転写因子によるAl耐性遺伝子の直接制御)(23)23) A. Sadhukhan, Y. Kobayashi, S. Iuchi & H. Koyama: Trends Plant Sci., 26, 1014 (2021)..すべての陸上植物にSTOP1オルソログが存在し,STOP1が制御するAl耐性機構は多くの植物で保存されている(24, 25)24) Y. Ohyama, H. Ito, Y. Kobayashi, T. Ikka, A. Morita, M. Kobayashi, R. Imaizumi, T. Aoki, K. Komatsu, Y. Sakata et al.: Plant Physiol., 162, 1937 (2013).25) N. Yamaji, C. F. Huang, S. Nagao, M. Yano, Y. Sato, Y. Nagamura & J. F. Ma: Plant Cell, 21, 3339 (2009)..STOP1により直接発現が制御されるホモログSTOP2は,酸耐性に関わりAtALMT1の発現には関与しないと考えられる(23)23) A. Sadhukhan, Y. Kobayashi, S. Iuchi & H. Koyama: Trends Plant Sci., 26, 1014 (2021)..病害抵抗性に関与するWRKY46転写因子はAlストレス下でAtALMT1の発現を抑制するが(26)26) X. Zhu, P. Wang, Z. Bai, M. Herde, Y. Ma, N. Li, S. Liu, C. F. Huang, R. Cui, H. Ma et al.: New Phytol., 233, 2471 (2022).,前述のflg22応答との関係は分かっていない.一方,Alストレスに応じた細胞内のCa2+濃度の上昇により活性化されたカルモジュリン様タンパク質CML24は,カルモジュリン結合転写活性化因子CAMTA2に結合してAtALMT1の発現を促進する(図2図2■STOP1転写因子によるAl耐性遺伝子の直接制御, 3図3■Alストレス耐性におけるシグナル伝達経路)(26)26) X. Zhu, P. Wang, Z. Bai, M. Herde, Y. Ma, N. Li, S. Liu, C. F. Huang, R. Cui, H. Ma et al.: New Phytol., 233, 2471 (2022)..また,CML24とCAMTA2がWRKY46と相互作用してWRKY46を抑制し,AtALMT1の転写を促進する.別のCa2+センタータンパク質CBL1もAtALMT1の発現制御に関わるが,前出の転写因子との関係は不明である(27)27) A. Ligaba-Osena, Z. Fei, J. Liu, Y. Xu, J. Shaff, S. C. Lee, S. Luan, J. Kudla, L. Kochian & M. Piñeros: New Phytol., 214, 830 (2017)..その他にも複数の転写因子がAtALMT1の予測シス配列から推定されており,例えば,分裂組織形成の制御に関与するTCP転写因子が根端特異的なAtALMT1発現に関与する可能性がある(28)28) M. Tokizawa, Y. Kobayashi, T. Saito, M. Kobayashi, S. Iuchi, M. Nomoto, Y. Tada, Y. Y. Yamamoto & H. Koyama: Plant Physiol., 167, 991 (2015)..これらの転写因子とシス配列の組み合わせは,植物間で保存されており,Alシグナル伝達による調節が植物間で保存されていることを示している(28)28) M. Tokizawa, Y. Kobayashi, T. Saito, M. Kobayashi, S. Iuchi, M. Nomoto, Y. Tada, Y. Y. Yamamoto & H. Koyama: Plant Physiol., 167, 991 (2015)..
STOP1はAlストレスに応答して急速に核へと蓄積するが,近年STOP1機能発現機構の諸段階に関する報告がなされた(29, 30)29) H. Koyama, L. Wu, R. K. Agrahari & Y. Kobayashi: Mol. Plant, 14, 1615 (2021).30) F. Zhou, S. Singh, J. Zhang, Q. Fang, C. Li, J. Wang, C. Zhao, P. Wang & C. F. Huang: Mol. Plant, 16, 337 (2023)..STOP1の発現は,転写–核外輸送(THO/TREX)複合体構成要素HPR1による核外mRNA輸送による転写後調節を受ける.様々な環境応答の転写因子のSUMO化を行うSUMOE3リガーゼSIZ1とSUMOプロテアーゼESD4は,それぞれSTOP1のSUMO化および脱SUMO化を介して,STOP1活性を負に制御する(図2図2■STOP1転写因子によるAl耐性遺伝子の直接制御).それによって,AtALMT1の発現は抑制される.また,E3ユビキチンリガーゼ複合体F-boxタンパク質RAE1/RAH1とSTOP1の相互作用により,26Sプロテアソーム経路を介してSTOP1が分解される.一方,防御応答や低温応答で知られるMEKK1-MKK1/2-MPK4シグナルカスケードを介したMPK4によるSTOP1のリン酸化は,RAE1との相互作用を低下させ,STOP1の集積とAl耐性遺伝子の発現を正に制御する(図2, 3図2■STOP1転写因子によるAl耐性遺伝子の直接制御図3■Alストレス耐性におけるシグナル伝達経路)(30)30) F. Zhou, S. Singh, J. Zhang, Q. Fang, C. Li, J. Wang, C. Zhao, P. Wang & C. F. Huang: Mol. Plant, 16, 337 (2023)..なお,STOP1にはスプライシングバリアントが存在するが,mRNAバリアントの機能は明らかにされていない.STOP1は根だけでなく植物体全体で発現し,多面的作用をもち様々な環境ストレス耐性遺伝子を制御するため(23)23) A. Sadhukhan, Y. Kobayashi, S. Iuchi & H. Koyama: Trends Plant Sci., 26, 1014 (2021).,選択的スプライシングバリアントとストレス応答との関係に関心がもたれる.
薬理学的解析から,Al誘導性STOP1の蓄積には,膜脂質のホスファチジルイノシトールキナーゼPI3K/PI4K経路とその下流でホスホリパーゼC(PLC)経路を介したリン脂質シグナル,及びその下流の細胞質Ca2+シグナルが関与して下流のAl耐性遺伝子の発現を促進することが明らかとなった(図3図3■Alストレス耐性におけるシグナル伝達経路)(31)31) L. Wu, A. Sadhukhan, Y. Kobayashi, N. Ogo, M. Tokizawa, R. K. Agrahari, H. Ito, S. Iuchi, M. Kobayashi, A. Asai et al.: J. Exp. Bot., 70, 3329 (2019)..加えて,PI3K/PI4K経路は,AtALMT1の膜輸送及び局在にも関与する可能性がある(31)31) L. Wu, A. Sadhukhan, Y. Kobayashi, N. Ogo, M. Tokizawa, R. K. Agrahari, H. Ito, S. Iuchi, M. Kobayashi, A. Asai et al.: J. Exp. Bot., 70, 3329 (2019)..他方,ゲノムワイド関連解析(GWAS)からも,Alの再分配に関与すると考えられるABCトランスポーター遺伝子ALS3の地上部での発現制御へのPI4K-PLC9カルシウム依存性プロテインキナーゼCDPK32と転写因子ANAC071による一連のリン脂質シグナル伝達の関与が明らかとなった(図3図3■Alストレス耐性におけるシグナル伝達経路)(32)32) A. Sadhukhan, R. K. Agrahari, L. Wu, T. Watanabe, Y. Nakano, S. K. Panda, H. Koyama & Y. Kobayashi: Plant Sci., 302, 110711 (2021)..Alストレスが植物のPI-PLC活性をどのように制御するのかが不明である一方で,Gタンパク質の関与が推定されている.リンゴ酸分泌制御に関して,Gタンパク質との相互作用が推定されるいくつかの受容体型チロシンキナーゼも薬理学的解析から推定された(31)31) L. Wu, A. Sadhukhan, Y. Kobayashi, N. Ogo, M. Tokizawa, R. K. Agrahari, H. Ito, S. Iuchi, M. Kobayashi, A. Asai et al.: J. Exp. Bot., 70, 3329 (2019)..実際に短時間のAl処理は,PLC活性とそれにより生産されるセカンドメッセンジャーであるイノシトール三リン酸(IP3)を増加させることから,Alシグナルにおけるホスファチジルイノシトール(PtdIns)代謝経路活性化へのGタンパク質の関与が推定されている(33, 34)33) M. M. Estévez, G. R. D. Palma, J. A. M. Sánchez, L. B. Argáez, V. M. L. Vargas & S. M. H. Sotomayor: J. Plant Physiol., 160, 1297 (2003).34) Y. Y. Li, X. L. Tang, L. G. Yang, Y. X. Yu & X. F. Li: Plant Soil, 388, 55 (2015)..これらのことから,植物で推定されているGタンパク質共役受容体のAlシグナルへの関与が推察される.グルタミン酸受容体(GLR)の関与も示唆されており(35)35) M. Martínez-Estévez, G. R. D. Palma, J. A. Muñoz-Sánchez, L. Brito-Argáez, V. M. Loyola-Vargas, S. M. T. Hernández-Sotomayor: Plant Cell Physiol., 44, 667 (2003).,Alシグナルを感知する受容体やシグナル経路の全体像はまだ明らかにされていない(図3図3■Alストレス耐性におけるシグナル伝達経路).
細胞壁は根部において最初にAlを感知しAl耐性に重要な役割を果たす.Al耐性に寄与する細胞壁修飾遺伝子の転写制御因子が複数明らかにされている.Alによる活性酸素蓄積のシグナルと植物ホルモンシグナルの相互作用が細胞壁修飾に影響する(36)36) A. Ranjan, R. Sinha, T. R. Sharma, A. Pattanayak & A. K. Singh: Physiol. Plant., 173, 1765 (2021)..エチレン応答遺伝子を制御する転写因子EIN3は,Alストレスに応答してポリガラクツロナーゼPG1-3の発現を促進することで,Alを蓄積するペクチン合成を促進するため,根の生長は阻害されると考えられている(37)37) J. Jin, J. Essemine, Z. Xu, J. Duan, C. Shan, Z. Mei, J. Zhu & W. Cai: J. Exp. Bot., 73, 4923 (2022)..一方,WRKY47が細胞壁修飾酵素遺伝子の制御を介してAl結合部位であるヘミセルロースの含有量を調節し,アポプラスト,シンプラスト間のAl分布のバランスを調節することは,Al耐性に重要であると考えられている(38)38) C. X. Li, J. Y. Yan, J. Y. Ren, L. Sun, C. Xu, G. X. Li, Z. J. Ding & S. J. Zheng: J. Integr. Plant Biol., 62, 1176 (2020)..他にも,NAC転写因子によるペクチン結合型膜受容体様キナーゼWAK1の直接制御や,bZIP型転写因子ABI5,前述のSTOP1/ART1経路などもAl耐性に関与する細胞壁関連遺伝子の発現を制御する(39, 40)39) H. Q. Lou, W. Fan, J. F. Jin, J. M. Xu, W. W. Chen, J. L. Yang & S. J. Zheng: Plant Cell Environ., 43, 463 (2020).40) W. Fan, J. M. Xu, P. Wu, Z. X. Yang, H. Q. Lou, W. W. Chen, J. F. Jin, S. J. Zheng & J. L. Yang: J. Integr. Plant Biol., 61, 140 (2019)..ポリガラクツロナーゼ阻害タンパク質PGIP1は,病源菌のポリガラクツロナーゼを阻害して侵入を遅延させることで知られるが,ペクチンに結合することからAl耐性にも寄与する(41)41) R. K. Agrahari, T. Enomoto, H. Ito, Y. Nakano, E. Yanase, T. Watanabe, A. Sadhukhan, S. Iuchi, M. Kobayashi, S. K. Panda et al.: Front Plant Sci., 12, 774687 (2021)..PGIP1の地上部におけるAl誘導性発現促進には,一酸化窒素(NO)シグナル伝達を介したNAC027とMYB転写因子及び,前述のリン脂質シグナル伝達を介したSTOP1依存性経路におけるチオレドキシン(TRX)による転写調節が関与する(図2, 3図2■STOP1転写因子によるAl耐性遺伝子の直接制御図3■Alストレス耐性におけるシグナル伝達経路)(41)41) R. K. Agrahari, T. Enomoto, H. Ito, Y. Nakano, E. Yanase, T. Watanabe, A. Sadhukhan, S. Iuchi, M. Kobayashi, S. K. Panda et al.: Front Plant Sci., 12, 774687 (2021)..NOはAl誘導性遺伝子のセカンドメッセンジャーであり,根伸長に関わる植物ホルモンや活性酸素との相互作用により,細胞壁構成成分の変化など様々なAl毒性応答,耐性誘導に関与している(42)42) H. He, J. Zhan, L. He & M. Gu: Protoplasma, 249, 483 (2012)..しかし,Al耐性におけるNOの機能やNOによる調節経路の多くはまだ解明されていない.
STOP1は植物間で高度に保存されており,植物共通のAl耐性システムが示唆される(24)24) Y. Ohyama, H. Ito, Y. Kobayashi, T. Ikka, A. Morita, M. Kobayashi, R. Imaizumi, T. Aoki, K. Komatsu, Y. Sakata et al.: Plant Physiol., 162, 1937 (2013)..イネの相同遺伝子ART1も同様に多数のAl耐性遺伝子を制御しており,多くの植物のトランスクリプトーム解析からSTOP1/ART1下流遺伝子群の相違が議論されている(25, 42~46)25) N. Yamaji, C. F. Huang, S. Nagao, M. Yano, Y. Sato, Y. Nagamura & J. F. Ma: Plant Cell, 21, 3339 (2009).42) H. He, J. Zhan, L. He & M. Gu: Protoplasma, 249, 483 (2012).43) H. Ito, Y. Kobayashi, Y. Y. Yamamoto & H. Koyama: Soil Sci. Plant Nutr., 65, 251 (2019).44) Y. Li, J. Huang, X. Song, Z. Zhang, Y. Jiang, Y. Zhu, H. Zhao & D. Ni: Planta, 246, 91 (2017).45) H. Chen, C. Lu, H. Jiang & J. Peng: PLoS One, 10, e0144927 (2015).46) C. Jiang, L. Liu, X. Li, R. Han, Y. Wei & Y. Yu: Sci. Rep., 8, 6072 (2018)..有機酸トランポーターやABCトランスポーター遺伝子の制御系は植物間で共通性が高い.一方,シロイヌナズナSTOP1は1つのホモログSTOP2しかもたず,酸及びAl耐性を制御するが,Al耐性が強いイネはART1によりAl耐性を制御し,この他5つのホモログ遺伝子をもつ(8, 23)8) 山地直樹,馬 建鋒:化学と生物,53, 529 (2015).23) A. Sadhukhan, Y. Kobayashi, S. Iuchi & H. Koyama: Trends Plant Sci., 26, 1014 (2021)..実験条件は異なるものの,植物間で異なるSTOP1下流遺伝子やAl応答遺伝子は,種に特異的なAl耐性機構に関与する可能性がある.種間の耐性の違いや進化の過程におけるAl耐性の獲得について明らかになることが期待される.なお,種内のAl耐性差には,STOP1/ART1の制御遺伝子のシス調節領域の変異やコピー数が寄与している(8, 28)8) 山地直樹,馬 建鋒:化学と生物,53, 529 (2015).28) M. Tokizawa, Y. Kobayashi, T. Saito, M. Kobayashi, S. Iuchi, M. Nomoto, Y. Tada, Y. Y. Yamamoto & H. Koyama: Plant Physiol., 167, 991 (2015)..
コムギTaALMT1やソルガムSbMATEはAl耐性品種と感受性品種の比較解析から同定された.このような耐性差の原因となる遺伝要因は品種改良に直結する(18)18) R. C. C. Vasconcellos, F. F. Mendes, A. C. de Oliveira, L. J. M. Guimarães, P. E. P. Albuquerque, M. O. Pinto, B. A. Barros, M. M. Pastina, J. V. Magalhaes & C. T. Guimaraes: Crop Sci., 61, 3497 (2021)..複数系統のAl耐性系統と感受性系統の比較オミクス解析からは,耐性差の原因となる複数のAl耐性遺伝子や複合的なAlストレス応答が特定されている.シロイヌナズナToll様受容体や小胞体シャペロンなどのシグナル伝達因子やE3ユビキチンリガーゼは,複数の耐性系統で高発現を示し,耐性に寄与することが系統間比較トランスクリプトームから明らかにされた(47)47) K. Kusunoki, Y. Nakano, K. Tanaka, Y. Sakata, H. Koyama & Y. Kobayashi: Plant Cell Environ., 40, 249 (2017)..また,耐性系統のALS3やPGIP1の高発現がPI-PLCを介して制御されること(32, 41)32) A. Sadhukhan, R. K. Agrahari, L. Wu, T. Watanabe, Y. Nakano, S. K. Panda, H. Koyama & Y. Kobayashi: Plant Sci., 302, 110711 (2021).41) R. K. Agrahari, T. Enomoto, H. Ito, Y. Nakano, E. Yanase, T. Watanabe, A. Sadhukhan, S. Iuchi, M. Kobayashi, S. K. Panda et al.: Front Plant Sci., 12, 774687 (2021).,耐性系統のAlストレス下の根伸長促進には,微小管調節,レドックスバランス,細胞壁調節に関連する遺伝子が関与することがGWASから明らかにされた(48)48) Y. Nakano, K. Kusunoki, O. A. Hoekenga, K. Tanaka, S. Iuchi, Y. Sakata, M. Kobayashi, Y. Y. Yamamoto, H. Koyama & Y. Kobayashi: Front. Plant Sci., 11, 405 (2020)..イネ,ソルガム,ナタネなどのGWASからは,有機酸分泌や細胞壁関連などの既知Al耐性遺伝子に加え,少なくとも数十の新規Al耐性関連遺伝子群が推定されており,効果の小さい遺伝子座もAl耐性に貢献すると考えられる(49~51)49) P. Zhang, K. Zhong, Z. Zhong & H. Tong: BMC Plant Biol., 19, 490 (2019).50) J. R. Lasky, H. D. Upadhyaya, P. Ramu, S. Deshpande, C. T. Hash, J. Bonnette, T. E. Juenger, K. Hyma, C. Acharya, S. E. Mitchell et al.: Sci. Adv., 1, e1400218 (2015).51) H. Zhou, X. Xiao, A. Asjad, D. Han, W. Zheng, G. Xiao, Y. Huang & Q. Zhou: BMC Plant Biol., 22, 130 (2022)..ソルガム,オオムギ,イネでは耐性と関連する抗酸化システムやAlと結合する有機酸や脂質などの代謝物が報告されている(52~54)52) D. Zhou, Y. Yang, J. Zhang, F. Jiang, E. Craft, T. W. Thannhauser, L. V. Kochian & J. Liu: Front Plant Sci., 7, 2043 (2017).53) H. Dai, F. Cao, X. Chen, M. Zhang, I. M. Ahmed, Z. H. Chen, C. Li, G. Zhang & F. Wu: PLoS One, 8, e63428 (2013).54) J. Wang, C. Su, Z. Cui, L. Huang, S. Gu, S. Jiang, J. Feng, H. Xu, W. Zhang, L. Jiang et al.: Front. Genet., 13, 1063984 (2023)..このようなオミクス解析から,Alに対する生理的応答に関連すると考えられる新規遺伝子群により,Al耐性に寄与する遺伝的基盤や共発現ネットワークが推定されている(図4図4■Al耐性遺伝子PGIP1を発現制御する遺伝子の共発現ネットワーク*).Alストレス時やパブリックデータのタンパク質間相互作用やタンパク質–シス配列間相互作用の大規模な情報を統合することで,Al耐性を向上させる多様なメカニズムだけでなく,現在個別に明らかにされつつあるクロストークの全体像が解明されることが期待される.
栄養素の取り込みに対するAlの影響に関しては多くの報告があるが,その相互作用の分子制御機構のほとんどは明らかになっていない.多くの植物では,AlはP, K, Ca, Mgなどの取り込みを阻害するが,STOP1/ART1転写因子は,金属トランスポーター遺伝子を制御し,Alストレス時の金属イオン恒常性を維持していると考えられる(23, 25)23) A. Sadhukhan, Y. Kobayashi, S. Iuchi & H. Koyama: Trends Plant Sci., 26, 1014 (2021).25) N. Yamaji, C. F. Huang, S. Nagao, M. Yano, Y. Sato, Y. Nagamura & J. F. Ma: Plant Cell, 21, 3339 (2009)..酸性土壌ではAl過剰の他にもH+過剰,P欠乏及びFe過剰が生じる.P欠乏とAl毒性の相互作用については,主にALMT/MATEを介した有機酸分泌が酸性土壌での難溶性P獲得に寄与する(55)55) J. V. Magalhaes, M. A. Piñeros, L. S. Maciel & L. V. Kochian: Front Plant Sci., 9, 1420 (2018)..H+とAlストレスに共通して,酸性条件下で細胞壁ペクチンを安定化させH+及びAl耐性に貢献するPGIP1を含む細胞壁関連遺伝子が関与するが,H+,Al耐性の主な原因は両者で異なることが示唆されている(23, 41, 48, 50)23) A. Sadhukhan, Y. Kobayashi, S. Iuchi & H. Koyama: Trends Plant Sci., 26, 1014 (2021).41) R. K. Agrahari, T. Enomoto, H. Ito, Y. Nakano, E. Yanase, T. Watanabe, A. Sadhukhan, S. Iuchi, M. Kobayashi, S. K. Panda et al.: Front Plant Sci., 12, 774687 (2021).48) Y. Nakano, K. Kusunoki, O. A. Hoekenga, K. Tanaka, S. Iuchi, Y. Sakata, M. Kobayashi, Y. Y. Yamamoto, H. Koyama & Y. Kobayashi: Front. Plant Sci., 11, 405 (2020).50) J. R. Lasky, H. D. Upadhyaya, P. Ramu, S. Deshpande, C. T. Hash, J. Bonnette, T. E. Juenger, K. Hyma, C. Acharya, S. E. Mitchell et al.: Sci. Adv., 1, e1400218 (2015)..酸化ストレスを誘発するFe過剰とAlストレスではSTOP1非依存的にレッドクス調節関連遺伝子が応答する.いずれのストレス下でもSTOP1は翻訳後調節を受けており(56)56) C. Mercier, B. Roux, M. Have, L. L. Poder, N. Duong, P. David, N. Leonhardt, L. Blanchard, C. Naumann, S. Abel et al.: Plant J., 108, 1507 (2021).,ストレスによって異なるSTOP1の転写促進活性は,各ストレス下で相互作用するタンパク質によって調節される可能性がある.
硝酸アンモニウムなどの窒素肥料の過剰施用も土壌を酸性化する.植物の主要な無機窒素源は,NH4+及びNO3−であるが,酸性土壌では硝化が不十分でNO3−よりNH4+が多くなり,NH4+毒性を引き起こす.NH4+毒性のひとつはH+流出を伴うNH4+吸収による根圏酸性化ストレスである.酸ストレス下でSTOP1が硝酸トランスポーターNRT1の発現を活性化するとNO3−とH+の共輸送が促進されることで根圏のH+は減少し,生育に適した根圏pHとなる(57)57) J. Y. Ye, W. H. Tian, M. Zhou, Q. Y. Zhu, W. X. Du, Y. X. Zhu, X. X. Liu, X. Y. Lin, S. J. Zheng & C. W. Jin: Plant Cell, 33, 3658 (2021)..一方で,AlはNRT1を介したNO3−の取り込みを阻害する.Al3+による細胞膜表面の正電荷の増加はNO3−の取り込みを促進すると考えられる(58)58) X. Q. Zhao & R. F. Shen: Front Plant Sci., 9, 807 (2018)..イネではNH4+同化酵素であるグルタミン合成酵素GS活性がAlで低下し,グルタミン酸脱水素酵素GDH活性がAlで増加した(59)59) P. Mishra & R. S. Dubey: Plant Growth Regul., 64, 251 (2011)..また,最近STOP1が直接制御するシロイヌナズナGDH1, 2がAl耐性に寄与することが明らかとなった(図2図2■STOP1転写因子によるAl耐性遺伝子の直接制御)(60)60) M. Tokizawa, T. Enomoto, H. Ito, L. Wu, Y. Kobayashi, J. M. Macías, D. A. Medina, S. Iuchi, M. Kobayashi, M. Nomoto et al.: J. Exp. Bot., 72, 2769 (2021)..これらのことからAlはN代謝に影響すると考えられる.イネなどのAl耐性種はNH4+を,コムギなどの感受性種はNO3−を利用することからも,Al耐性系統のN代謝やNシグナルを解明することは重要であると考えられる(58)58) X. Q. Zhao & R. F. Shen: Front Plant Sci., 9, 807 (2018)..一方で,細胞内pHを調節するGABA代謝経路で働くGDHは,Al誘導性の細胞質酸性化に対する細胞内pHの維持にも関与すると考えられる(23, 60)23) A. Sadhukhan, Y. Kobayashi, S. Iuchi & H. Koyama: Trends Plant Sci., 26, 1014 (2021).60) M. Tokizawa, T. Enomoto, H. Ito, L. Wu, Y. Kobayashi, J. M. Macías, D. A. Medina, S. Iuchi, M. Kobayashi, M. Nomoto et al.: J. Exp. Bot., 72, 2769 (2021)..
Si, B, Sの施肥はAl毒性を改善する.イネ科植物はSiを高濃度で蓄積し,健全な生育に必要とし,Siは様々な環境ストレスを軽減することで知られる(61)61) D. Coskun, R. Deshmukh, H. Sonah, J. G. Menzies, O. Reynolds, J. F. Ma, H. J. Kronzucker & R. R. Bélanger: New Phytol., 221, 67 (2019)..大部分のSiはヘミセルロースに存在し,Al結合部位の減少によるAl取り込み量低下,ケイ酸アルミニウム形成によるAlの無毒化,Al誘導性細胞壁多糖類の減少による細胞伸展性の低下,及びAl誘導性スベリン沈着の減少による根の生長と栄養吸収改善によりAlストレス下の根伸長を改善する(62, 63)62) D. Jiang, H. Wu, H. Cai & G. Chen: Plant Cell Environ., 45, 1765 (2022).63) Z. Xiao, M. Ye, Z. Gao, Y. Jiang, X. Zhang, N. Nikolic & Y. Liang: Plant Cell Physiol., 63, 340 (2022)..Bは,ペクチン多糖類を架橋して細胞壁の構造と機能の維持に働く.Bは,Al毒性の改善において,イネにおいてペクチン含量減少,PMEの発現抑制によるペクチンの負電荷減少,STAR1/2の発現促進による細胞壁Al結合低下,酸化ストレス低減に寄与する(64, 65)64) C. Q. Zhu, X. C. Cao, L. F. Zhu, W. J. Hu, A. Y. Hu, B. Abliz, Z. G. Bai, J. Huang, Q. D. Liang, H. Sajid et al.: Plant Physiol. Biochem., 138, 80 (2019).65) L. Yan, M. Riaz, X. Wu, C. Du, Y. Liu & C. Jiang: Environ. Pollut., 240, 764 (2018)..また,Bは根端の分裂領域と伸長領域の間の領域においてAlが阻害するオーキシンの極性輸送を促進し,pH依存的に根表面をアルカリ化することでAlの蓄積を低下させる(66)66) X. Li, Y. Li, J. Mai, L. Tao, M. Qu, J. Liu, R. Shen, G. Xu, Y. Feng, H. Xiao et al.: Plant Physiol., 177, 1254 (2018)..Sは,酸性土壌改善に効果がある石膏(CaSO4)肥料に含まれ(図1C図1■酸性土壌(Alストレス)での生育阻害),AlストレスへのCaSO4添加は,システイン,グルタチオン生合成を高めて脂質過酸化を抑制する(67)67) C. Wulff-Zottele, H. Hesse, J. Fisahn, M. Bromke, H. Vera-Villalobos, Y. Li, F. Frenzel, P. Giavalisco, A. Ribera-Fonseca, L. Zunino, I. Caruso et al.: Plant Physiol. Biochem., 83, 88 (2014)..SO4–Al複合体はAlおよびSの取り込みを低下させる可能性がある.S欠乏下では,低Sにより発現誘導される硫酸イオントランスポーター遺伝子SULTR2;1と恒常的に発現するSULTR3;5がSの根から地上部への輸送に相乗的に寄与している(68)68) 伊藤岳洋,張 柳,大津(大鎌)直子,丸山明子:化学と生物,60, 527 (2022)..興味深いことに,Alストレス下でわずかに発現が上昇するSULTR3;5はSTOP1に制御されるが(23)23) A. Sadhukhan, Y. Kobayashi, S. Iuchi & H. Koyama: Trends Plant Sci., 26, 1014 (2021).,Al耐性への関与は明らかとなっていない.ダイズのAl誘導性GmMATE13は,P欠乏時のS施肥によっても発現誘導され,根からのP獲得のためのクエン酸分泌に寄与することが示唆されている(69)69) H. Sugiura, S. Miyaji, S. Yamamoto, M. Yasuda, J. L. C. Damo, M. D. A. Ramirez, S. Agake, T. Kamiya, T. Fujiwara, S. D. Bellingrath-Kimura et al.: Soil Sci. Plant Nutr., 68, 547 (2022)..これにはS施肥により増加した硫化水素(H2S)による,MATE輸送体活性化に必要な細胞膜H+-ATPaseの発現誘導と活性化の関与が考えられる(70)70) H. Wang, F. Ji, Y. Zhang, J. Hou, W. Liu, J. Huang & W. Liang: Plant Cell Environ., 42, 2340 (2019)..Alによっても増加するH2Sは,シグナル分子としても金属ストレス耐性に重要な役割を果たすことから,AlストレスシグナルとH2Sとの相互作用の解明が期待される.
今後の植物の酸性土壌耐性向上を考える際には,根圏への有機酸分泌の最適化に加えて,地上部も含めたAl毒性に着目した回復メカニズムや,Alと他の制限要因や栄養素との相互作用を含めた複合的なAl耐性の理解が重要になると考えられる.栄養に応答する根系構造も重要視されていることから,酸性土壌耐性での根系発達メカニズムも重要となる.さらに,植物成長促進微生物の接種は植物のAlストレスを低下させ(71)71) S. Silambarasan, P. Logeswari, R. Sivaramakrishnan, P. Cornejo, M. K. Sipahutar & A. Pugazhendhi: Sci. Total Environ., 832, 154935 (2022).,木材から生成したバイオ炭は土壌酸性度の低下とAlイオンを減少させることが報告されていることから(72)72) R. Shetty & N. B. Prakash: Sci. Rep., 10, 12249 (2020).,農業分野の脱炭素や土壌環境改善においてこれらが活性化するAl耐性機構の解明と利用に期待が寄せられる.
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