農芸化学@High School

もち小麦末粉の添加が製パン性に及ぼす影響

森咲 夕美

三重県立四日市農芸高等学校食品科学プロジェクトチーム

伊藤 暖太

三重県立四日市農芸高等学校食品科学プロジェクトチーム

加古 彩人

三重県立四日市農芸高等学校食品科学プロジェクトチーム

伊藤 光星

三重県立四日市農芸高等学校食品科学プロジェクトチーム

Published: 2024-01-01

もち小麦はデンプンがアミロペクチン100%であることから,パンの原料として混合し加工すると,もちもち感,のどごしのよさなど他の小麦粉にない特徴的な食感が出る(1).本研究では,もち小麦の製粉時に発生する末粉(すえこ;小麦粉として製品にならない外皮を除く胚芽,外胚乳などの粉末)のパンへの有効利用について検討した.そのまま添加するとえぐみや苦味が感じられ膨らみが悪いという課題があるが,微粉末に処理することで,膨らみともちもち感が増加し,のどごしの良さで有意な差が認められた.

本研究の目的・方法・結果および考察

【目的】

私たちのプロジェクト研究チームは,平成28年より地元桑名市で栽培されるもち小麦について,機能性に着目し麺類や菓子類,パンへの加工技術の研究を深めてきた.また,小麦粉の製粉時に発生する外皮(ふすま)の利用方法は多く存在しているが,その内側部分にあたる末粉の利用については有効な利用方法がない.そこで,末粉にもち小麦の機能性成分と加工特性が反映されるのであれば,もち小麦をもっと有効活用できるのではないかと考えた.

本研究ではもち小麦及びその末粉の成分分析を行い,末粉を添加してパンを試作し,製パン性とパンの物性について評価した.

【実験方法】

1. 試料小麦粉

小麦粉は,「もち姫」(2022年度産,桑名産)の1~2等粉,もち小麦末粉(以下 末粉)は,上記「もち姫」の製粉時に発生したもの(3等粉とふすまの間)を用いた.製パン試験で混合する小麦粉は,市販の外国産小麦を原料とした強力粉「カメリヤ」(日清製粉製)を用いた.

2. 主な成分の分析方法

水分は,赤外線水分計(FD-610,ケツト科学研究所)で測定した.タンパク質は,セミミクロケルダール法によって窒素量の測定を行い,換算係数5.71を乗じてタンパク質量とした.麦に含まれる水溶性食物繊維β-1,3-1,4-グルカン(以下βグルカン)は,酵素を用いたMcCleary法(β-1,3-1,4-グルカン測定キット,Megazyme社)を用いて分析した.灰分は直接灰化法で測定した.

3. 製パン試験

3.1 食パンの製法

食パンの製法はノータイム法で行った.製パン材料の配合は,小麦粉250 g,砂糖18 g,食塩5 g,イースト5 g(サフ赤インスタントドライイースト),水150 mLとした.上記配合の材料をパンこね機(KN-1000,大正電機)で20分間ミキシング(捏ね上げ温度28°C)し,得られた生地を30°C,湿度85%の条件で60分間発酵を行った後,ベンチタイムを15分間とり,ワンローフ型に成型した.成型生地を型枠(1辺が10 cmの立方体)に入れ,35°C,湿度85%で40分間の最終発酵を行った後,200°Cで12分間焼成した.

3.2 末粉の添加方法

末粉をミルミキサー(BM-RT08,象印)にて微粉末に処理した.処理した微粉末を60メッシュ(0.3 mm未満)のふるいに通し(図1A図1■もち小麦末粉の添加量と比容積の比較)実験に使用した.小麦粉に対して末粉を2.5%, 5.0%, 7.5%, 10%置換添加した.

図1■もち小麦末粉の添加量と比容積の比較

(A)写真は微粉末処理(0.3 mm未満)した末粉,(B)もち小麦末粉の添加量と比容積の比較,p<0.05; abcの異なるアルファベット間で有意差ありn=3, エラーバー:標準偏差(C)食パンの断面の様子を比較.

3.3 パンの評価方法

3.3.1 比容積の測定

パンの比容積は,室温で1時間冷却したパンを用いて菜種置換法によりパンの見かけの体積を測定し,比容積(体積cm3/重量g)を算出した.

3.3.2 物性測定

食パンクラム(内側の白い部分)より縦30 mm×横30 mm×高さ25 mm角に切り出したものをクリープメーター(RE-3305 C,山電)により,円柱型プランジャーNo.3(接触面φ16 mm)を用いて,スピード1 mm/sec,測定歪率50%まで2回圧縮し,かたさ,凝集性,付着性を測定した.有意差の検定は,Tukeyの方法による多重検定を実施した.

3.3.3 官能評価

官能評価は評点法で行った.焼成2時間後の食パンを用い,垂直方向に厚さ20 mm×縦30 mm×横30 mm角に切り出したクラムのやわらかさ,もちもち感,のどごし,風味について,8名(本校生徒7,職員1)で末粉無添加を基準(0点)に評価した.各検査項目に対し0点:同じ,±1点:少し差が認められる,±2点:差が認められる,±3点:非常に差が認められるという7段階で採点した.

なお,やわらかさはやわらかい場合を+で評価した.

【結果と考察】

1. 成分分析

分析結果を(表1表1■主な成分分析の結果a(重量%))に示した.水分には大きな差はなかった.もち小麦自体のタンパク質含量は,9.0%と低いためそのままではパンを作るには不足している.一方,末粉には13.3%と多く含まれていることがわかった.アミノ酸組成についてさらに分析する必要があるものの,このことから末粉はタンパク質の栄養価が高いことが考えられる.βグルカンは,一般的に小麦には0.4%程度しか含まれておらず,もち小麦に比較的多く,末粉にはさらに多く含まれていることがわかった.もち小麦のβグルカンが他の小麦よりも多いことは,Yasui & Ashida(2)2) T. Yasui & K. Ashida: J. Cereal Sci., 53, 104 (2011).の研究結果と一致する.

表1■主な成分分析の結果a(重量%)
水分タンパク質βグルカンb灰分
もち小麦
小麦粉
12.5±0.29.0±0.40.7±0.10.5±0.1
もち小麦
末 粉
11.8±0.213.3±0.51.7±0.11.6±0.2
a. 平均値±標準偏差で標記,n=3. 
b.試料乾燥重量での値. 
もち小麦小麦粉(品種;もち姫,1~2等粉). 
もち小麦末粉(すえこ;小麦粉として製品にならない外皮を除く胚芽,外胚乳などの粉末,3等粉~ふすまの間の部分).

また,末粉には灰分が小麦粉の部分と比較して多いことがわかった.末粉は,小麦の胚乳の外側部分であることから,このような結果になったと考えられる.また,灰分の多さは苦みなど味に影響するのではないかと考えられる.

次に,この成分の違いが製パン性にどのような効果があるのか検討した.

2. 末粉添加の製パン性試験

2.1 製パン性

食パンの比容積(図1B図1■もち小麦末粉の添加量と比容積の比較)および食パン断面の写真(図1C図1■もち小麦末粉の添加量と比容積の比較)を示した.末粉の添加量の増加に伴い比容積が増加する傾向が認められ,10%添加では無添加の1.2倍程度で有意な差が認められた.

もち小麦の小麦粉では,添加量の増加に伴って,比容積は減少する傾向が見られる(1)1) 長澤 一,田引 正,西尾善太,伊藤美環子,中村和弘,谷口義則,山内宏昭:日本調理科学会誌44, 214 (2011)..また,結果には示さないが,私たちの研究では末粉をそのまま添加しても比容積が増加することはなかったことから,末粉を微粉末に処理することで食パンの焼成中のガス保持に効果的な影響を与える可能性があるのではないかと考えられる.

2.2 物性測定

焼成後のクラムのかたさ(図2A図2■もち小麦末粉の添加量と物性の比較),凝集性(図2B図2■もち小麦末粉の添加量と物性の比較),付着性(図2C図2■もち小麦末粉の添加量と物性の比較)の結果をそれぞれ示した.

図2■もち小麦末粉の添加量と物性の比較

(A)かたさ荷重(N),(B)凝集性(単位なし),(C)付着性(J/m3). 
p<0.01; abcの異なるアルファベット間で有意差あり 
n=6, エラーバー:標準偏差 abcの異なるアルファベット間で有意差あり

物性測定では,7.5%までは末粉の添加によるかたさの変化は小さかったが,10%添加では有意にかたくなった.この理由として,末粉には水溶性食物繊維が2.7%と多く含まれるだけでなく,不溶性食物繊維が6.6%と多いこと(3)3) 食品分析開発センターSUNATEC分析,酵素重量法(プロスキー変法)によるもち小麦末粉の検査,2021.による影響が可能性として考えられる.

凝集性および付着性は,7.5%以上の末粉の添加で有意に増加した.凝集性は弾力性とのどごしのよさを示し,付着性はもちもち感の強さを示す指標である.凝集性の増加は,のどごしのよさに影響があると考えられる.また凝集性と付着性の変化が後述のもちもち感の強さの原因となっていると考えられる.末粉の成分がパンの凝集性および付着性に及ぼす影響については,さらに検討していく必要がある.

2.3 官能評価

官能評価の結果を(図3図3■官能評価)に示した.末粉無添加を基準として評価した結果,クラムのやわらかさは,評点的には少し異なると感じる範囲での差であったが,末粉の添加量が10%ではかたいと評価された.もちもち感は,末粉の添加量に伴い増加したという評価となった.のどごしでは,末粉の添加量が7.5%以上でよくなると評価された.

図3■官能評価

(A)やわらかさ,(B)もちもち感,(C)のどごし,(D)風味. 
2.5%添加では全ての項目において末粉無添加との差がなかった. 
5%添加 7.5%添加 10%添加 
p<0.01; abcの異なるアルファベット間で有意差ありn=8

また,風味については末粉の添加量に伴い増加したと感じる評価が出ており,味については末粉添加10%で酸味を感じるとの意見があった.この独特の風味と酸味は,灰分と食物繊維が多いことに起因すると考えられる.

一方,末粉添加10%ではえぐみや苦味を感じるとの結果になった.その原因として,末粉には外皮部分の一部も含まれており,外皮に起因するえぐ味や灰分による苦味を強く感じることが考えられる.

以上より,末粉の添加量が増すともちもち感が増し,のどごしがよくなるという物性測定で認められた傾向が確認できた.また,末粉の添加量が10%になるとクラムのやわらかさ,味の評価が悪くなることから7.5%程度が有効であると考えられる.

今後の展望

今後の課題として,末粉の粒子の大きさとパンの膨らみの相関関係について,微粉末化の方法を含めさらに検証していく必要がある.また,末粉の添加割合を10%以上に増やすには,かたさとえぐ味,苦味が課題である.この克服にはふすまを利用する場合に前処理として行う焙煎(4)4) 日清製粉株式会社:小麦ふすま素材およびこれを用いたパン類の製造方法,特開2018-88872, 2018.のほか,私たちが行ってきたもち小麦を用いたパンの研究から末粉を湯種として加熱処理する製法が有効であると考えられる.

近年,小麦の価格が高騰しており,国産小麦への期待が高まる中,もち小麦は加工食品の需要拡大を受け,生産量の拡大が見込まれている.ところが末粉はもち小麦の加工特性を持つ性状にもかかわらず有効な利用方法がない.ふすまに比べて小麦粉に近い末粉は加工しやすく,栄養面では高タンパク質かつ健康面で注目されているβグルカンが含まれていることから,もっと注目されてもよいのではないかと考えている.今日,水溶性食物繊維を含む様々な食材がパンやケーキなどの菓子類の品質改良剤として利用されている中,もち小麦末粉について安価で手軽な品質改良剤としての可能性やパン以外の加工品への利用方法を提案していきたいと考えている.

Reference

1) 長澤 一,田引 正,西尾善太,伊藤美環子,中村和弘,谷口義則,山内宏昭:日本調理科学会誌44, 214 (2011).

2) T. Yasui & K. Ashida: J. Cereal Sci., 53, 104 (2011).

3) 食品分析開発センターSUNATEC分析,酵素重量法(プロスキー変法)によるもち小麦末粉の検査,2021.

4) 日清製粉株式会社:小麦ふすま素材およびこれを用いたパン類の製造方法,特開2018-88872, 2018.