農芸化学@High School

ビターチョコレートでスキンケア(日焼け予防)!

塩田 はな

山村学園山村国際高等学校生物部

Published: 2023-02-01

化粧品のアウターケアにより肌荒れを経験した筆者は,本研究において,ポリフェノールを用いたインナーケアによるスキンケア(日焼け止め)効果を検討した.方法は,カカオポリフェノールの含有量が異なるチョコレートをヘアレスマウスに摂取させ,紫外線照射後に背部皮膚の紅斑を色差計にて測定し,日焼け予防効果を検証するというものである.その結果,カカオポリフェノール含有量の多いビターチョコレートに日焼け予防効果が認められた.

本研究の目的・方法および結果と考察

【目的】

私たち生物部の研究テーマは,微生物(真正細菌)に対して抗菌力をもつ食品成分の検証とマウス腸内フローラを解析することによる食品の機能性の検証(1~6)1) 山村国際高等学校生物部:マウス腸内フローラから観察したマヌカハニーの機能性,第6回 高校生バイオサミットin鶴岡(農林水産大臣賞受賞),2016.2) 山村国際高等学校生物部:化学と生物,55, 68 (2017).3) 山村国際高等学校生物部:マウス腸内フローラから健康食品の機能性を探る,第7回 高校生バイオサミットin鶴岡(審査員特別賞受賞),2017.4) 山村国際高等学校生物部:マウス潰瘍性大腸炎モデルから観察したマヌカハニーの機能性第8回高校生バイオサミットin鶴岡(審査員特別賞受賞),2018.5) 山村国際高等学校生物部:女子必見!肥満マウスでも乳酸菌チョコレートでダイエット!日本農芸化学会(仙台大会)ジュニア農芸化学会2021高校生による研究発表会(銅賞受賞),2021.6) 山村国際高等学校生物部:化学と生物,60, 95 (2022).である.このような研究活動の中,筆者は中学生の時に化粧品の日焼け止めが肌に合わず,肌荒れを経験したことからスキンケアの研究に興味を持った.

日焼けは太陽光に含まれる紫外線によるもので,紫外線はUVA(400~320 nm),UVB(320~280 nm),UVC(280 nm>)に分類され,UVCはオゾン層で吸収され地上には届かない(近年オゾンホールの出現により,極地などでは到達).UVAは皮膚の真皮深部まで,またUVBは真皮上層まで到達し,特にDNAの塩基に吸収されやすく(UVB波長域付近の260 nmを吸収),チミンやシトシンにピリミジン2量体を形成させ修復不能な損傷を与え,さらに細胞内では活性酸素を発生させるなど,紫外線(UVBが主体)は皮膚癌や細胞致死の原因と考えられている(7, 8)7) 小林静子:YAKUGAKU ZASSHI, 126, 677 (2006).8) 中込 哲,牛山 明,高橋美雪,小笠原裕樹,石井一行,淺野牧茂,大久保千代次:生体医工学,48, 42 (2010)..また紫外線によるヒトの日焼けにはいくつかの分類方法があるが,Fitzpatrick博士は6つに分類しており(9)9) T. B. Fitzpatrick: Arch. Dermatol., 124, 869 (1988).,6つのタイプのうちタイプI(紫外線を浴びると必ず赤い日焼けをして,褐色の日焼けはなし)およびタイプII(紫外線を浴びると簡単に赤い日焼けをして,褐色の日焼けはあまり見られない)に該当する場合は,肌が赤く炎症を起こす急性皮膚症状である紅斑が現れ,主な原因となるのはUVBである.これは,真皮上皮層の毛細血管が炎症反応を起こし,充血して皮膚の色が赤くなった状態を指す.タイプI以外のタイプでは,紅斑が消失した後にメラノサイトで産生されたメラニンによる色素沈着(褐色の日焼け)が起こる.紫外線から肌を守るスキンケアには,日焼け止めによる肌の保護を目的としたアウターケアと,抗酸化作用のある食品などの摂取によるインナーケアがある.上述のように日焼け止めによる肌荒れを経験したことから,インナーケアによるスキンケアのアプローチとして,特に食品成分の可能性を検証したいと考えた.

先行研究(10, 11)10) Y. Fukushima, Y. Takahashi, Y. Hori, Y. Kishimoto, K. Shiga, Y. Tanaka, E. Masunaga, M. Tani, M. Yokoyama & K. Kondo: Int. J. Dermatol., 54, 410 (2015).11) 全日本コーヒー協会(コーヒーの基礎知識):coffee.ajca.or.jp/webmagazine/library/facts/によると,コーヒーを一日に2~3杯摂取するとシミ予防が認められ,その効果にはポリフェノールが寄与すると報告されている.しかし,コーヒーが苦手なことから,高校生が大好きなお菓子のチョコレート(以下,チョコ)(12)12) 若年層のお菓子に関するアンケート:lab.testee.co/teens-snacksに注目した.チョコはカカオを材料としたカカオマスを使って製造され,このカカオマスの含有量が多いビターチョコや粉乳などの乳製品を混入したミルクチョコなどがある.カカオは赤道上の多くの地域で栽培され,強力な紫外線から身を守るために多量のポリフェノール(カカオポリフェノール)を含有することから,チョコを摂取することで日焼け予防効果が期待できると考えた.そこで,カカオポリフェノール含有量が異なるチョコをマウスに摂取させ,紫外線を照射した後,皮膚の紅斑を色差計により測定することでカカオポリフェノールによる日焼け予防効果を検証した.

【実験方法】

1. 実験動物

日焼けによる皮膚を観察するため,ヘアレスマウスを用いた.ヘアレスマウス(BALB/cAJcl-nu/nu)は東京実験動物から購入したメス(6週齢)を2週間の予備飼育を行った後,1群3匹として使用した.検証はマウス用のアイソレーターで実施し,照明は自然照明で気温は空調した室温とした.また本実験は,文部科学省「研究機関等における動物実験等の実験に関する基本指針」に準じて行った.

2. 検証材料

チョコのパッケージに記載されているカカオポリフェノール含有量を参考に,明治(株)のミルクチョコである「ハイミルクチョコレート」を低ポリフェノールチョコ,ビターチョコの「チョコレート効果カカオ72%」を高ポリフェノールチョコとして使用した(13)13) (株)明治:qa.meiji.co.jp/faq/show/132?site_domain=default.また,材料となるチョコの栄養成分(推定値)は,カカオポリフェノールの含有量以外はほぼ同等であった(表1表1■ヘアレスマウスに投与したチョコレートの栄養成分量(50 gあたりの推定値)).

表1■ヘアレスマウスに投与したチョコレートの栄養成分量(50 gあたりの推定値)
ハイミルクチョコレート
(低ポリフェノールチョコ)
チョコレート効果カカオ72%
(高ポリフェノールチョコ)
エネルギー(kcal)289280
たんぱく質(g)4.85.0
脂質(g)19.520.0
炭水化物(g)24.422.0
糖質(g)23.016.0
食物繊維(g)1.46.0
食塩相当量(g)0.10.0
カカオポリフェノール(mg)2041270

3. チョコレートの投与方法

コントロール群のへアレスマウスには,飼育繁殖飼料(CE-2:日本クレア)と飲料水は自由摂取させ,チョコは無投与で検証開始から10週間後に紫外線を照射した.一方,低ポリフェノールチョコ群と高ポリフェノールチョコ群のへアレスマウスには,飼育繁殖飼料と飲料水は自由摂取で,2. のチョコを1日1回,10週間「おやつ」として16時に投与した.なお,「おやつ」として投与したチョコの量は,高校生(10代後半~20代女子)の平均体重50 kgあたりのメーカー摂取目安量(約50 g)をヘアレスマウスの平均体重(22 g)に換算して算出(22 mg/日)した後,HED係数換算(14)14) アメリカ食品医薬品局:fda.gov/media/72309/download(270 mg/日)した.またネガティブコントロール群として,紫外線を照射しないヘアレスマウスも使用した(表2表2■ヘアレスマウスへのチョコレート投与(摂取)量※1と紫外線照射).チョコの投与10週間後(18週齢)に紫外線を照射したが,これはヒトとマウスの年齢変換からヒトの10代後半に相当すると判断した(15)15) S. Wang, X. Lai, Y. Deng & Y. Song: Life Sci., 242, 117242 (2020).

表2■ヘアレスマウスへのチョコレート投与(摂取)量※1と紫外線照射
コントロール群低ポリフェノールチョコ群高ポリフェノールチョコ群ネガティブコントロール群
飼育繁殖飼料(CE-2)自由摂取自由摂取自由摂取自由摂取
ハイミルクチョコレート270 mg/日
チョコレート効果カカオ72%270 mg/日
紫外線照射※2×
※1:高校生(女子)の平均体重50 kgあたりのメーカー摂取目安量(50 g)をヘアレスマウスの平均体重(22 g)に換算後,HED係数換算した値(270 mg/日). 
※2:晴天時の線量(7 mw/cm2)を30分間照射.

4. 紫外線照射方法

紫外線の照射には,市販の日焼けマシン(ネオタンA90:UVA波長域)の紫外線量を,本校の所在地である坂戸市(埼玉)の2022年7月に実測した晴天時の線量(7 mw/cm2)となるように調節して使用した.また照射時間は,登下校に要する徒歩の時間30分間とした.照射の方法は,へアレスマウスを仕切りのあるアクリル製の箱に入れ,脱走防止用の網蓋をして日焼けマシンの真下(10 cm)に配置して実施した.なお30分間の連続照射では,アクリル製の箱の温度が上昇するので小型ファンにより送風冷却した.照射後の日焼けの確認は,ヘアレスマウスの背部皮膚の紅斑状態を目視で確認した後,色差計(TES-3250:アズワン)で測定した.

5. 検定方法

統計処理としてはt検定(Student’s t-test)を用いた.

【結果】

チョコを投与せずに紫外線を照射したコントロール群では背部皮膚に紅斑が認められた.これを色差計で測定し,この値(紅斑相対値:1.00)を基準として各群と比較した(図1, 2図1■チョコレート投与後の紫外線照射によるヘアレスマウス背部皮膚の紅斑相対量図2■チョコレート投与後の紫外線照射によるヘアレスマウス背部皮膚の紅斑状態).このとき,紫外線を照射しなかったネガティブコントロール群の値は0.87であった(図1, 2図1■チョコレート投与後の紫外線照射によるヘアレスマウス背部皮膚の紅斑相対量図2■チョコレート投与後の紫外線照射によるヘアレスマウス背部皮膚の紅斑状態).低ポリフェノールチョコ群では,背部皮膚には紅斑が認められ,値は0.97とコントロール群と比べてほとんど差は認められなかった(図1, 2図1■チョコレート投与後の紫外線照射によるヘアレスマウス背部皮膚の紅斑相対量図2■チョコレート投与後の紫外線照射によるヘアレスマウス背部皮膚の紅斑状態).一方,高ポリフェノール群では,背部皮膚の紅斑は目視では確認できず,値も0.88(p<0.003)とコントロール群に比べ統計的に優位な差が認められた.また,紫外線を照射しないネガティブコントロール群の値(0.87)と同等であった.

図1■チョコレート投与後の紫外線照射によるヘアレスマウス背部皮膚の紅斑相対量