解説

プラントベース食品における大豆タンパク質の役割
プロテインクライシスのリスク低減策

The Role of Soy Protein in Plant-Based Foods: Reducing the Risk of Protein Crisis

Masahiko Samoto

佐本 将彦

不二製油グループ本社株式会社未来創造研究所

茨城大学農学部客員教授

Published: 2024-03-01

食品の3大栄養素について供給サスティナビリティーを課題にすると,大豆はタンパク質供給において最も重要な農作物であるかもしれない.タンパク質の栄養価値,供給性や経済性に優れているからである.一方で,世界的にみれば大豆タンパク質は飼料としての利用がほとんどで,食物として有効に利用されているとは言えないのが現状である.大豆タンパク質は,古くから将来の人口増加に対する食物タンパク質の供給不安を指摘したプロテインクライシス(1, 2)1) 岡田智之:月刊フードケミカル,2,138 (2017).2) 中村龍樹,吉竹 恒,森 衣里子,伊藤瑛子:NRI知的資産創造,11,88 (2021).のリスク低減策として着目されており,近年では環境課題からプラントベース食品としてその加工適性の高さゆえに様々な代替タンパク質食品へ利用され,応用の幅が広がりつつある.あらためてプラントベース食品としての役割について述べたいと思う.

Key words: プラントベース食品; 大豆タンパク質; 代替タンパク質; プロテインクライシス; タンパク質の分画

背景

地球の気候変動を緩和することの重要性は,身近に実感できるまでになってきている.環境問題として食品の分野においても,スマート農業や食品ロス対策など,その解決に取り組むべき課題がある.それらの一つとして,代替タンパク質という言葉が上げられている.タンパク質含量や嗜好性も高い食材は肉類である.また,体内では合成できず,食品からしか摂ることのできない必須アミノ酸がバランスよく含まれていることを表す指標は,アミノ酸スコアである.これも,肉類はほぼ100を示す.しかしながら,その生産効率が高くないため,世界人口の急増に伴う肉類の需給バランスはプロテインクライシスとして懸念されてきた.さらに最近では,肉類の需要急増と生産供給に関連した森林破壊など地球温暖化につながる環境破壊も指摘されている.さらに家畜の飼育方法への制約なども考えると,その供給性に制限がかかるようなリスクが多面的になってきたと考えられる.このようなグローバル規模の急激な需給変化に応えきれないと予想される肉食への依存度を少しでも緩和する必要があるのではないだろうか.そのために代替タンパク質といった動物性食材を他の食材で置き換えたタンパク質補給のための食品開発が活発に行われ,フードテックと言われるような製造技術でそれら代替物の違和感を埋めていく挑戦が進められている.特にこのような考え方に沿った動物性食材を使用せず,主に農作物から製造される代替タンパク質食品については,プラントベース食品(Plant Based Food; PBF)と呼ばれる.

圧倒的なタンパク質供給量

大豆は種子の乾物中に約40%のタンパク質を含んでいる稀な作物である.マメ科植物は,澱粉を蓄積するものが多い中で,大豆はタンパク質と脂質を蓄積し,澱粉はほとんど含まない.

さらに驚くべきことは,世界の生産量の高さである.20世紀から近年にかけて急激に生産量が増加しており,現在では年間3億トンを超えている.作物の世界生産量の高い順番にトウモロコシ,小麦,玄米,大豆と続く(表1表1■各作物のタンパク質含有量と組成,アミノ酸スコア,および世界の生産量(3)3) 佐本将彦:食品と容器,63,120 (2022)..大豆生産量は緯度によって適性ある品種を選択する必要はあるものの,広範囲の地域で生育できる利点が示されている.したがって,大豆タンパク質の生産ポテンシャルは莫大な規模であると考えられる.また,高タンパクで澱粉の少ない大豆の組成を考えると,メイン製品を澱粉にする必要がなく,加工度の簡略化などの製造コストを含めてタンパク質食材としての供給性や経済性は高いと考えられる.エンドウ,あるいはきのこ類の栽培技術で生産されるマイコプロテインも農作物として注目すべき代替肉素材であるし,農作物以外では培養肉,昆虫食,および微生物などのタンパク質源がある.しかしながら,現状では生産効率から比較すると,大豆は産業的に最も有望な代替タンパク質の候補であると考えられる.

表1■各作物のタンパク質含有量と組成,アミノ酸スコア,および世界の生産量
作物タンパク質含有量タンパク質組成タンパク質100%あたり第一制限アミノ酸( )内:アミノ酸スコア世界生産量2015/16単位:百万トン
小麦(Wheat flour)8~15%プロラミン(グリアジン)40~50%,グルテリン(グルテニン)35~40%リジン(35)750
玄米(Rice)7~9%グルテリン(オリゼニン)80%リジン(69)480
トウモロコシ(Maize)9~12%プロラミン(ゼイン)50~60%,グルテリン35~40%リジン(24)1000
大麦皮なし(Berley)8~15%プロラミン(ホルダイン)40~50%,グルテリン35~40%リジン(63)150
ライ麦(Rye)12.7%プロラミン(セカリン)40~50%,グルテリン35~40%リジン(71)15
エン麦(Oats)13.7%グロブリン(12Sグロブリン)70~80%,その他(プロラミン,アベニン)リジン(78)23
とうきび(Sorghum)9~17%プロラミン50~60%,グルテリン35~40%リジン(24)0.6
大豆(Soybean)35~40%グロブリン40~80%(100)314
インゲン(Kidney bean)22.1%グロブリン(ファゼオリン)トリプトファン(98)30
ソラマメ(Faba bean)26.0%7Sグロブリン(ビシリン)含硫アミノ酸(74)5
エンドウ(Pea)20~30%グロブリン65~80%,7Sグロブリン(ビシリン,コンビシリン),11Sグロブリン(レグミン),アルブミン10~30%トリプトファン(80)14
ヒヨコ豆(Chickpea)20~25%グロブリン53~60%,グルテリン19~25%トリプトファン(79)17
ルピン豆(Lupin)35~40%11Sグロブリン(α-コングルチン)30%,7Sグロブリン(β-コングルチン)45%,7Sグロブリン(γ-コングルチン)5%,アルブミン10~30%トリプトファン(89)1
緑豆(Mung bean)25.1%8Sグロブリン(ビシリン)含硫アミノ酸(78)4 ?
ナタネ(Canola)17~26%11Sグロブリン(クルシフェリン),2Sアルブミン(ナピン)イソロイシン(80)70
ヒマワリ(sunflower)20~40%レグミン様11Sグロブリンリジン(68)40

栄養と健康

1. 穀物でネックとなる第一制限アミノ酸のリジンが豊富なマメ科タンパク質

プロテインクライシスのリスク低減を想定した場合,食物タンパク質の食源としての役割を担うためには,タンパク質栄養は重要な課題と考えられる.なぜならば,タンパク質補給のために一つの作物由来のタンパク質の摂取比率が増えていけば,その作物の制限アミノ酸の不足がタンパク質栄養の質を下げるからである.世界の生産量の多いトウモロコシ,小麦,玄米については,何れもリジンが第一制限アミノ酸となっている.これらに限らず作物由来のタンパク質は,リジンが第一制限アミノ酸になる例が多い(表1表1■各作物のタンパク質含有量と組成,アミノ酸スコア,および世界の生産量).ところがマメ科植物のタンパク質は,リジンが豊富に含まれている.特にトウモロコシはリジン含量が低いので,脱脂大豆との配合飼料にすると家畜の成長が助長される.このように穀類だけでなく,豆類のタンパク質も食べ合わせることによってタンパク質栄養価が上がることが期待できる.また,豆類の中でも大豆タンパク質のアミノ酸スコアは,1985年の評価基準であるが100であり,栄養価が高い.19世紀に大豆がヨーロッパへ紹介されたさいに,ドイツで「畑の肉」という言葉を使って評価された.今でもこの言葉は,しばしば用いられることがある.

2. タンパク質栄養だけでない生体調節機能の利点

タンパク質に限らず,植物性食材には何らかの健康機能が期待される.栄養,嗜好の次にあたる食品の3次機能と言われるものである.大豆に健康を維持する機能があれば,大豆由来のタンパク質にも健康機能が存在することが期待される.イソフラボンの生理機能はよく知られている一方,タンパク質自体の生理機能にも関心が持たれ,タンパク質栄養だけでなく,科学者の目から見た客観的な健康機能に関する研究が進められてきた.長期間の研究成果の積み重ねによって,血中のコレステロールや中性脂肪への制御機能(4, 5)4) J. M. Anderson, B. M. Johnstone & M. E. Cook-Newell: N. Engl. J. Med., 333, 276 (1995).5) M. Kohno, M. Hirotsuka, M. Kito & Y. Matsuzawa: J. Atheroscler. Thromb., 13, 247 (2006).といった生体調節機能が明らかになってきた.また,糖尿病予防に関する研究(6)6) L. Azadbakht, S. Atabak & A. Esmaillzadeh: Diabetes Care, 31, 648 (2008).においては,海外の研究論文であるが,数年にわたる動物性タンパク源との置き換えによって有効な結果が報告されている.しかしながら,これらの生体調節機能の効果を期待するには,引用文献から大豆タンパク質として少なくとも10g/日以上の継続摂取が必要と考えられる.

大豆タンパク質の利用状況

1. 食用としてはわずかで,ほとんどが飼料用脱脂大豆に加工される大豆

図1図1■大豆タンパク質利用の流れは,世界で生産されている大豆の加工と,そのタンパク質が人々に利用されている流れを示したものである.世界で生産される約3.6億トンの大豆のうち,約3億トンが油糧種子と同じ扱いの搾油用であり(7)7) USDA: World Agricultural Supply and Demand Estimates (2021/2022), https://www.usda.gov/oce/commodity/wasde/wasde1023.pdf, 2023.,8割以上が大豆油と脱脂大豆を生産する加工用大豆としての利用である.脱脂大豆は,乾物中のタンパク質含量が50%程度で,ほとんどが飼料として利用されている.リジンに富むことから,配合飼料としては重宝される.一方,食用として使用される大豆は全体の数%にすぎないと考えられる.栄養価の高いタンパク質の莫大な生産量供給を果たしながら,人々への栄養として効率的に提供されていないのが現状である.その理由としては,グローバルにみて大豆を原料にした嗜好性や経済性の高い普及品が未だに少なく,“作物としての価値は高いが、食べ物としての価値が低い”と位置づけられているからだろう.

図1■大豆タンパク質利用の流れ

2. 国内消費量は伸びていない伝統的大豆加工食品

食用大豆の利用が世界生産量の約3%にあたる年間約1千万トンとすれば,その1割の100万トン程度が日本で豆腐,味噌,納豆,豆乳などに加工されている.図1図1■大豆タンパク質利用の流れの大豆タンパク質利用の流れでは①にあたる.日本では馴染み深く不可欠な伝統食品であるが,過去の国内の摂取量の経緯をみると1987年までは増加しているが,その後は横ばい傾向(8)8) 政府統計の総合窓口e-Stat:農林水産省,食糧需給表,大豆,https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00500300&tstat=000001017950&cycle=8&year=20211&month=0&tclass1=000001032890&tclass2=000001203100, 2021.を示している.また,多くの量を食べている感覚はあるのだが,大豆タンパク質の国民一人当たりの摂取している量は,2021年で6.1 gと推察される(8)8) 政府統計の総合窓口e-Stat:農林水産省,食糧需給表,大豆,https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00500300&tstat=000001017950&cycle=8&year=20211&month=0&tclass1=000001032890&tclass2=000001203100, 2021..さらに大豆以外の豆類の摂取も低下傾向にある.生体調節機能の項目で述べたように1日当たり10g以上が効果を期待する摂取量であるとするならば,現状の倍量の摂取量が期待されるところである.現に特定保健用食品の「コレステロールが高めの方へ」の考え方として,すでに6g程度を摂取していると想定される被検者に,豆乳などのトクホ商品による6g摂取を上乗せすることによる効果が期待されている(9)9) 秋岡 壽,加藤一彦,藤井富美子:健康・栄養食品研究,3,37 (2000).

3. 植物性タンパク質摂取が期待されるプラントベース食品への応用

欧米では,肉食メニューをとる頻度が高い.そのためタンパク質栄養補給の観点から代替食のタンパク質含量も合わせている.一方,日本では多様な食材や食メニューが存在する.そのため,肉食材を代替する必要性を感じにくいのかもしれない.ただ植物性タンパク質の摂取形態が様々な食メニューに対応でき,満足感も得られるのであれば,将来的にプロテインクライシスのリスク低減のためには役立つと考えられる.

消費量が多い豆腐などの伝統食品も貢献できる一つの食材であるが,タンパク質含量の数値は5~7%であり,20%前後の肉類と比較するとそのタンパク質濃度がかなり低い(10)10) 文部科学省:日本食品標準成分表(八訂)増補2023年,https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_00001.html, 2023..タンパク質摂取を無理なく効率よく頻度高く摂取できるための様々な食メニューに対応できる特に大豆素材の開発は今後とも必要と考えられる.そのためには嗜好性の向上は重要で,仕方なく食べるのではなくリピートでき,動物性食材と共存共栄できる新たなタンパク質食源の選択肢の一つとして,食の豊かさをも実感していただけるような状況があってもよいのかもしれない.そのような摂取形態の再考は難しいだけに今後とも必要な“永遠の課題”ともとらえられる.摂取形態が肉のようなタンパク質含量の高い食材や,代替乳のようなタンパク質濃度が高くない素材であっても,代替タンパク質の摂取機会を増やしていただけるような広範囲のメニューに利用できる食材であるべきである.そして炭水化物と油の過剰な摂取が防がれ,食物繊維も摂取できるような食事が発案されるようになるのではないだろうか.代替タンパク質に代表されるプラントベース食品(PBF)は,そのようなコンセプトに合致していると考えられる.図1図1■大豆タンパク質利用の流れの大豆タンパク質利用の流れではまだ量は少ないが,③にあたると考えている.

物理特性からみたプラントベース食品への応用

1. 大豆種子に含まれるタンパク質組成

豆腐,がんもどき,湯葉などに代表される大豆加工食品の食感に大きな影響を及ぼすのは,溶解性やゲル形成性および乳化性などのタンパク質の物理特性である.伝統的な加工食品だけでなく,新たなPBF用の加工食品を創出していく場合にも,目的用途に応じた原料大豆の品種選択は必要であるだろう.それだけに大豆に含まれているタンパク質の構成を把握しておくことは重要である.品種によっても多少異なるが,大豆は乾物中に約40%のタンパク質を蓄積する.蓄積される主なグロブリンは,7Sグロブリン(β–コングリシニン)と11Sグロブリン(グリシニン)であり,細胞内に形成されるプロテインボディーという組織に蓄積される.これら主要なグロブリンは,容易に水溶液において分子レベルで単分散できる性質を持っているので研究対象として注目され,多くの研究例がある(11~13)11) 山内文男:日本食品工業学会誌,26, 266 (1979).12) 内海 成:日本農芸化学会誌,63, 1471 (1989).13) 小野伴忠:日本食品科学工学会誌,55, 39 (2008)..このような分子レベルで分散するグロブリンとは対照的に,水溶液中で粗大コロイド分散しているタンパク質が存在する.大豆は油脂蓄積量が多く,その貯蔵のための組織であるオイルボディーの界面構造に組み込まれる膜タンパク質であるオレオシンやレシチンの膜に親和性のあるタンパク質群がそのコロイド分散を形成する.レシチンを随伴するタンパク質であるので,Lipophilic Proteins(LP)と呼ばれる(14, 15)14) M. Samoto, C. Miyazaki, J. Kanamori, T. Akasaka & Y. Kawamura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 62, 935 (1998).15) M. Samoto, M. Maebuchi, C. Miyazaki, H. Kugitani, M. Kohno, M. Hirotsuka & M. Kito: Food Chem., 102, 317 (2007)..このようなタンパク質は,種子中にどれくらいの量で,またどれくらいの比率で含まれているのかあまり報告例がない.表1表1■各作物のタンパク質含有量と組成,アミノ酸スコア,および世界の生産量に示すように,これまでのレビュー(16)16) L. Day: Trends Food Sci. Technol., 32, 25 (2013).では7Sおよび11Sグロブリンの全タンパク質に対する比率は,40~80%と報告されていて幅がかなり広い.しかしながら最新のタンパク質組成の研究では,日本産や海外産を含めた一般的な12品種について調べた結果,7Sおよび11Sグロブリンの含有比率は50%前後であって60%を超える大豆はない.一方,先に述べたLPの含量比率は,オイルボディーの脂質一重膜に親和性あるタンパク質(OBAP),ならびに脂質二重膜に親和性があるタンパク質(PLAP)を合わせ,30%強存在することが報告された(17)17) M. Sugiyama, M. Samoto, T. Ichinose, A. Nakamura, K. Matsumiya & Y. Matsumura: J. Am. Oil Chem. Soc., (2023), in press..これまでの認識とは異なり,主要グロブリン以外のタンパク質組成はかなり多く,OBAPとPLAPから構成されるLPはゲル化性よりは乳化性に寄与していると考えられる.

2. 加熱によるゲル形成(肉と併用や大豆ミートに使用される肉代替素材)

作物由来タンパク質のなかでも大豆タンパク質は,水に溶解しやすい性質を持つため溶液やペーストを調製することができる.さらにタンパク質濃度がある程度以上であれば,これら溶液やペーストは加熱を受けることによってゲルを形成する.ゲル化には大豆の主要なグロブリンである7Sおよび11Sグロブリンが大きく関与している.特に11Sグロブリンは,一つのサブユニットに2つ以上のシステイン残基を持っており,遊離SH基やS-S結合の交換反応が加熱中に分子間で起こり,マトリックス化することが知られている(12)12) 内海 成:日本農芸化学会誌,63, 1471 (1989)..また7Sグロブリンもジスルフィド結合のゲル化への関与は報告されていないが,加熱変性後の水素結合がゲル化に関与しているとされる(18)18) 山内文男:日本食品工業学会誌,41, 233 (1994)..市販品については,JAS規格名で「粉末状植物性たん白(大豆)」と呼ばれる固形分換算で大豆タンパク質が90%以上になるように製造された粉末がある.脱脂大豆から水抽出されるタンパク質の約8~9割にあたる酸性沈殿性のタンパク質を採取し,中和溶液を調製して殺菌後にスプレードライにより粉末化される.分離大豆たん白(Soy Protein Isolate; SPI)とも呼ばれるこの粉末は,加熱によるゲル化性や保水性,あるいは乳化性を持っているため,食品加工用として利用される.さらにタンパク純度が高いので,プロテインパウダーなどタンパク質栄養の補強素材としても利用される.

また,エクストルーダーという成形機によって製造される疑似肉組織にあたっても,これらグロブリンの特性は必要である.大豆タンパク質を含む粉末原料に対して約半分前後の水を添加して,高温高圧条件下で内部スクリューにより混練り後に先端の穴から押し出され,常圧になった際に膨化組織を形成する.市販品では,JAS規格名で「粒状植物性たん白(大豆)」と呼ばれており,水戻しをしたあとに肉様食感を呈する素材として利用される.小麦グルテンも同様の特性があり,共にTextured Vegetable Protein(TVP)とも呼ばれ,肉類加工品に一部混合併用することによって,その品質維持に寄与している.このような脱脂大豆や大豆タンパク質濃縮物を原料にした食用加工技術に関する開発の試みは,1950年代に北米で生まれたが,日本では独自に進展した.2022年度の日本における大豆のTVPとSPIの生産量は合わせて4.5万トンほど(19)19) (一社)日本植物性蛋白食品協会:植物性たん白の生産出荷統計,https://www.protein.or.jp/wp-content/themes/protein.or.jp/pdf/seisan.pdf, 2023.であり,過去5年の間では増加傾向を示している.輸入品も加えると年間約6~7万トンが供給されていると考えられる.図1図1■大豆タンパク質利用の流れの大豆タンパク質利用の流れでは②にあたる.世界の生産量は,その数十倍の生産量と考えられる.これらは一般の食品加工の機能副素材として使用されているほか,プラントベース食品にも応用できる素材である.特に肉を使用しない肉代替として大豆ミートと呼ばれる食材は,TVPの製造技術がベースとなっている.

3. タンパク質の溶解性(栄養摂取のための乳代替となる豆乳やSPI)

植物性ミルクという呼び名があるが,植物性タンパク質のなかでは大豆タンパク質は水に対する溶解性も高いため,乳飲料の代替タンパク質としての適性がある.一般の無調整豆乳のタンパク質濃度は,タンパク質含量は約3%(10)10) 文部科学省:日本食品標準成分表(八訂)増補2023年,https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_00001.html, 2023.であり,牛乳と同程度である.大豆タンパク質は,数%の低濃度で調製された水溶液については殺菌などの加熱を伴っても,中性付近であれば溶解性を失うことはない.また溶解性に加えて栄養価も高いため,乳児の代替ミルクとしても利用されている.豆乳以外に注目されるオーツミルクの原料である大麦は,麦と名がついてはいるがグルテニンではなく豆類と同様にグロブリンがタンパク質成分であるため,市販飲料ではタンパク質が1%強の濃度で溶けている.

4. 乳化性や発酵適性(乳や卵の加工品としての代替機能)

牛乳は様々な食品加工に利用され,特に乳化や発酵に対する素材適性があると言える.たとえば,発酵は主に乳酸菌によってヨーグルトやチーズ,乳化性の特性からクリームやバターが調製される.乳製品を代替する試みの代表的なものに豆乳がある.ヨーグルト風食品については,豆乳を乳酸菌発酵したタイプが市販されている.また加工適性を向上させるため,豆乳の分画素材の開発が試みられている.7Sおよび11Sグロブリンを分画する試み(20)20) 守田和弘,横井健二:Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi, 58, 392 (2011).やタンパク質組成について先に述べた膜タンパク質オレオシンなどを含む脂質親和性タンパク質のLP成分がリッチな豆乳クリームと,グロブリンや大豆のアルブミンなどの大豆ホエータンパク質がリッチな低脂肪豆乳に分画した例がある(21)21) 不二製油ホームページ:USS製法,https://www.fujioil.co.jp/research/innovationstory/uss/index.html, 2023.

後者の分画例では,油分のみを分けるというよりは,タンパク質の組成分画に基づいている.つまり,先ほど述べたLPに含まれる特にオレオシンに代表されるリポタンパク質と水溶性タンパク質であるグロブリンやアルブミンを分画した結果,油分の多いタンパク質画分と少ないタンパク質画分に分画されている.脂質を含むリポタンパク質と水溶性のタンパク質を分画することは,生クリームと脱脂乳,卵黄と卵白の分画に似ている.これらの分画素材を用いることにより,豆乳クリームでは生クリームのような乳化物のリッチテイスト感の持続性付与機能により,調理用クリーム,ホイップクリームやバター風スプレッド,およびスクランブルエッグ風食材の基材などとしての適性が高い.これらの機能メカニズムは不明な点もあるが,脱脂大豆を原料にした場合には発現しないことから,脱脂されていないオイルボディーの油液界面の構造体が特殊な乳化状態を形成していると考えられる.一方の低脂肪豆乳は,脂質分が少ないことやコク味などの低分子ペプチドやグルタミン酸などの遊離アミノ酸が含まれているため発酵適性が高く,チーズ風食材の基材としても利用される.どちらの分画豆乳もタンパク質濃度が豆腐レベルの6%程度であり,油分だけでなくそれぞれのタンパク質の特性を利用していると考えられる.このようにタンパク質の加工に対する適応性をさらに高め,利用の幅を広げることが徐々にではあるができていると言える.

5. タンパク質強化食品への利用

パン,麺,ご飯などの主食になるような食品に応用し,タンパク質補給や低糖質化を訴求したものがある.動物性食材を使用しない欧米のPBFのコンセプトに必ずしも沿っているわけではないが,大豆タンパク質の強化食を提供するためにタンパク質の物理特性を制御する例として簡単に説明を加える.パンなどプロテインバーを含めたベーカリー関連であれば添加した際の焼成加工のしやすさのためのタンパク質の保水性の抑制,麺への加工適性であれば熱変性していない主要グロブリン特性の利用など,それぞれ利用目的に応じた物性の制御が要求される場合がある.さらに最近では大豆からお米風の食品であるダイズライスという新しい製造技術から誕生した商品が市販されている.

PBFの受容性向上めざして(嗜好性向上,様々な食メニューへの応用)

1. プラントベース食品をめざした大豆品種開発,新規な食材やメニュー開発

世界的には大豆は油糧種子として認識され,単収のほか搾油用大豆に応じた育種が施されてきた.食用大豆として重要度が増すとすれば,伝統食品の加工適性だけでない新しいPBFの用途に応じた大豆品種の育種も考えられる.大豆タンパク質利用の流れ(図1図1■大豆タンパク質利用の流れ)の③にあたるPBFの利用数量はまだ少ないが,数量が伸びれば原料大豆への新たな必要要件もはっきりしてくるのではないだろうか.それとともに,嗜好性が向上した新規の食材や食メニュー開発が絶え間なく進展していき,「意外といいかも,PBFで.」と実感していただくレベルになっていくことに期待したい.

2. プラントベース調味料の開発

動物性原料不使用であるコンセプトは,動物性食材とは無縁の食材にしたいという欧米の断固とした決意のようなものを感じる.肉と混合すれば,それなりの味になるのであるが,それとは別に味についても肉エキスを使用せずに化学調味料ではなく,クッキングレベルの調製が試みられている.プラントベースフード向けでは,このような肉エキスや化学調味料を使用しない調味料の開発も盛んに行われている.

大豆アレルギーについて

最後に大豆のアレルギーについては,問題視される点である.卵,牛乳,に加えて大豆,小麦,米を加えて5大アレルゲンと言われているが,大豆・米はさほど多くないことが示されている(22)22) 厚生労働省サイト内検索:第4章「食物アレルギーとは」, https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-08.pdf, 2023..しかし注意は必要である.アレルゲンとなるタンパク質は1種類ではなく,さらに大豆アレルギーの発症メカニズムも一般的な食物アレルギーであるクラスI,および花粉症などとの連鎖が指摘されるクラスIIに分けられるように対象となるアレルゲンはそれぞれで異なっている.食品アレルギーに関する制御は難しく,原料表示の明確化とアレルギーの情報を正しく理解して留意する意識は重要である.

Reference

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16) L. Day: Trends Food Sci. Technol., 32, 25 (2013).

17) M. Sugiyama, M. Samoto, T. Ichinose, A. Nakamura, K. Matsumiya & Y. Matsumura: J. Am. Oil Chem. Soc., (2023), in press.

18) 山内文男:日本食品工業学会誌,41, 233 (1994).

19) (一社)日本植物性蛋白食品協会:植物性たん白の生産出荷統計,https://www.protein.or.jp/wp-content/themes/protein.or.jp/pdf/seisan.pdf, 2023.

20) 守田和弘,横井健二:Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi, 58, 392 (2011).

21) 不二製油ホームページ:USS製法,https://www.fujioil.co.jp/research/innovationstory/uss/index.html, 2023.

22) 厚生労働省サイト内検索:第4章「食物アレルギーとは」, https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-08.pdf, 2023.