解説

微生物特有エキソ型ペプチダーゼの発見から創薬への展開
このユニークな酵素はどこから来たのか

From the Discovery of Microbial-Specific Exo-type Peptidases to Drug Development: Where Did This Unique Enzyme Come from?

Akihiro Nakamura

中村 彰宏

長岡技術科学大学技術科学イノベーション系

Yoshiyuki Suzuki

鈴木 義之

長岡技術科学大学技術科学イノベーション系

Wataru Ogasawara

小笠原

長岡技術科学大学技術科学イノベーション系

Published: 2024-03-01

タンパク質分解酵素(プロテーゼ,ペプチダーゼ)は微生物から高等生物まですべての生物種が持つ酵素であり,その機能は栄養の資化に加えて,タンパク質の成熟や免疫反応など多岐にわたる.筆者らが発見したPseudoxanthomonas mexicana WO24由来のエキソ型ペプチダーゼはユニークな機能的・構造的特徴を有していた.本稿では微生物特有のペプチダーゼの発見から創薬までの道のりを紹介し,その過程で様々な酵素学的な基礎知識を解説したい.

Key words: ペプチダーゼ; プロテアーゼ; グラム陰性細菌; 結晶構造解析

はじめに

ペプチダーゼ(プロテアーゼ)(EC3.4)は原核生物,真核生物,古細菌およびウイルスの全ての生物種が持つ酵素であり,ペプチドのペプチド結合を加水分解し,より小さなペプチドやアミノ酸を遊離する加水分解活性を示す(タンパク質分子を分解するペプチダーゼは特にプロテイナーゼとも呼ばれる).その機能は栄養の資化に加えて,免疫反応,代謝系の調節,宿主への進入など多岐にわたる.このように多種多様な機能を示すペプチダーゼを整理して理解するため,複数の方法で分類がなされてきた.一つは基質の切断様式による分類である(図1A図1■ペプチダーゼの分類).まずペプチド鎖の内部の結合を切断しオリゴペプチドを遊離するか,末端からアミノ酸やジペプチドなどを遊離するかで大別する.前者をエンドペプチダーゼ,後者をエキソペプチダーゼと呼ぶ.さらにエキソペプチダーゼは切断部位と生成物の大きさに基づいてより詳細に分類される.アミノ末端からアミノ酸を遊離するアミノペプチダーゼ(AP),カルボキシ末端からアミノ酸を遊離するカルボキシペプチダーゼ(CP),アミノ末端からジペプチドを遊離するジペプチジルペプチダーゼ(DPP:ジペプチジルアミノペプチダーゼ(DAP)とも呼ぶ),カルボキシ末端からジペプチドを遊離するペプチジルジペプチダーゼ(PDP:ジペプチジルカルボキシペプチダーゼ(DCP)とも呼ぶ)である.ジペプチドやトリペプチドを分解するペプチダーゼは,それぞれジペプチダーゼ(DP)およびトリペプチダーゼ(TP)である.

図1■ペプチダーゼの分類

また上記の切断様式による分類の他に,触媒機構と立体構造(アミノ酸配列の相同性)を考慮した分類がClanとFamilyである(図1B図1■ペプチダーゼの分類).Clanは触媒機構と触媒ユニットの立体構造類似性(立体構造未知の場合は触媒機構の型)によって分類され,アスパラギン酸ペプチダーゼ(Clan A),システインペプチダーゼ(Clan C),グルタミン酸ペプチダーゼ(Clan G),メタロペプチダーゼ(Clan M),アスパラギンペプチダーゼ(Clan N),セリン・システイン混合型ペプチダーゼ(Clan P),セリンペプチダーゼ(Clan S),スレオニンペプチダーゼ(Clan T)に大別される.これらの情報はMEROPS database(http://www.ebi.ac.uk/merops/)にまとめられている(1)1) N. D. Rawlings, A. J. Barrett, P. D. Thomas, X. Huang, A. Bateman & R. D. Finn: Nucleic Acids Res., 46, D624 (2018)..Clanの下位の分類がFamilyであり,ペプチダーゼのアミノ酸配列の相同性に基づきグループ化する.Familyの名称は触媒機構の型ごとに割り振られたアルファベット(セリンならS等)を頭文字とし,接尾文字として通し番号を付加する.

ペプチダーゼの中でもキモトリプシンやトリプシンはエンド型セリンペプチダーゼとしてよく知られているが,それらはClan PA Family-S1に属するペプチダーゼである.このClan PAはペプチダーゼClanの中でも最大級でありMEROPSに登録されている約18%ものペプチダーゼが属する.(2023年10月の登録数で算出).Clan PAに属するペプチダーゼは,キモトリプシン様触媒ドメインを持ち,そのすべてがエンドペプチダーゼ活性を示すペプチダーゼであった.本稿では,新規FamilyであるFamily-S46の樹立に繋がったキモトリプシン様の触媒ドメインを持つ“エキソ型”ペプチダーゼの発見から,その酵素学的な特徴について筆者らが取り組んできた研究を交えて解説したい.

キモトリプシン様エキソ型ペプチダーゼの発見

1990年代,アミノ末端特異的なエキソ型ペプチダーゼに関して哺乳類ではDPPI, II, III, IVが報告されていたが,微生物由来のエキソ型ペプチダーゼの報告は極めて少なかった.そこで筆者の小笠原は微生物由来エキソ型ペプチダーゼの探索をスタートした.発色基質であるGly-Phe-p-nitroanilide(Gly-Phe-pNA)からGly-Pheを加水分解するDPP活性に基づき,微生物スクリーニングを開始したところ,約2年間のスクリーニング期間を経て,1996年に新潟県長岡市の豆腐製造工場の曝気槽よりPseudoxanthomonas mexicana WO24が単離された(2, 3)2) W. Ogasawara, G. Kobayashi, H. Okada & Y. Morikawa: J. Bacteriol., 178, 6288 (1996).3) W. Ogasawara, K. Ochiai, K. Ando, K. Yano, M. Yamasaki, H. Okada & Y. Morikawa: J. Bacteriol., 178, 1283 (1996)..Pseudoxanthomonas属はグラム陰性の好気性桿菌である.本属は2000年に亜硝酸塩を消費してN2Oを生産するバクテリアのグループとしてFinkmannらによって設立された属である.Pseudoxanthomonasの類縁菌には,植物病原菌のXanthomonas axonopodisや,多剤耐性日和見細菌で院内感染菌として医療現場にとって脅威となっているStenotrophomonas maltophiliaが存在する.DPP生産菌として単離されたP. mexicana WO24の無細胞抽出液中のペプチダーゼ活性は,DPPやDCP, DP活性が相対的に高い一方で,APやエンドペプチダーゼ活性は低いという特徴を示した(図2図2■P. mexicana WO24の無細胞抽出液中のペプチダーゼ活性).これはジペプチドを中心にしたペプチド分解システムの存在を示唆している.

図2■P. mexicana WO24の無細胞抽出液中のペプチダーゼ活性

P. mexicana WO24由来のDPPを詳細に解析すると,ジペプチジルアミノペプチダーゼ(DAP)BI, BII, BIII, IVという4つのアミノ末端特異的なエキソ型ペプチダーゼを生産し,DAP BI, BIII, IVはClan SCに属するセリンペプチダーゼであった.一方でDAP BIIのみ,当時はいかなるClanにも属さないエキソ型セリンペプチダーゼであることが示唆されていた.また2001年にBanbulaらは歯周病原菌として知られるPorphyromonas gingivalisから新規DPPとしてPgDPP7を報告している(4)4) A. Banbula, J. Yen, A. Oleksy, P. Mak, M. Bugno, J. Travis & J. Potempa: J. Biol. Chem., 276, 6299 (2001)..DAP BIIやPgDPP7は基質の疎水性アミノ酸に特異性を示す点やアミノ酸配列の相同性から,どのClanにも属さない新規ペプチダーゼFamilyとして,Family-S46が2001年に確立された(後にFamily-S46はClan PAに属する).その後,2011年にOhara-Nemotoらによって,P. gingivalisから酸性アミノ酸に特異性を示すPgDPP11という新規Family-S46ペプチダーゼが見出された(5)5) Y. Ohara-Nemoto, Y. Shimoyama, S. Kimura, A. Kon, H. Haraga, T. Ono, T. K. Nemoto: J. Biol. Chem., 286, 38115 (2011).

Family-S46ペプチダーゼ

1. 酵素学的特徴

改めてFamily-S46ペプチダーゼはアミノ末端からジペプチドを遊離する活性を示すDPPである.Family-S46にはDPP7とDPP11の2つが属し,基質特異性が異なる.DPP7は基質P1位の疎水性アミノ酸および塩基性アミノ酸に特異性を示し,DPP11は酸性アミノ酸に特異性を示す.基質P1位とは加水分解するペプチド結合のカルボニル基側のアミノ酸であり,ジペプチジルペプチダーゼにおいてはN末端から2番目のアミノ酸のことである.この基質P1位の特異性はFamily-S46ペプチダーゼ673番目(PgDPP11におけるアミノ酸番号)のアミノ酸残基が関与していることが示されており,DPP7はGlyを,DPP11はArgかSerを有する(6, 7)6) S. M. A. Rouf, Y. Ohara-Nemoto, T. Hoshino, T. Fujiwara, T. Ono & T. K. Nemoto: Biochimie, 95, 824 (2013).7) Y. Sakamoto, Y. Suzuki, I. Iizuka, C. Tateoka, S. Roppongi, M. Fujimoto, K. Inaka, H. Tanaka, M. Yamada, K. Ohta et al.: Sci. Rep., 5, Articlr number 11151 (2015)..このようにDPP7とDPP11では基質P1位の特異性が厳格に分かれているが,基質P2位においては共通して疎水性アミノ酸に特異性を示す.この特異性については,671番目(PgDPP11におけるアミノ酸番号)のPhe残基が関与していることが見出されている(8, 9)8) S. M. A. Rouf, Y. Ohara-nemoto, T. Ono, Y. Shimoyama, S. Kimura, K. Takayuki, T. K. Nemoto & K. Takayuki: FEBS Open Bio, 3, 177 (2013).9) A. Nakamura, Y. Suzuki, Y. Sakamoto, S. Roppongi, C. Kushibiki, N. Yonezawa, M. Takahashi, Y. Shida, H. Gouda, T. Nonaka et al.: Sci. Rep., 11, Articlr number 7929 (2021)..触媒機構については,筆者の鈴木らがDAP BIIを題材に,触媒ドメインと触媒残基の推定を試みた(10)10) Y. Suzuki, Y. Sakamoto, N. Tanaka, H. Okada, Y. Morikawa & W. Ogasawara: Sci. Rep., 4, Articlr number 4292 (2014)..興味深いことにDAP BIIのアミノ酸配列はClan PAセリンペプチダーゼに類似しており,部位特異的変異導入により触媒残基はセリンペプチダーゼの触媒三組残基であるSer, Asp, Hisであることを見出した.一方で,触媒残基のAsp残基とSer残基の間にαヘリカルが連なったドメイン構造が挿入されていることが予測され,触媒ドメインの推定には至らなかった.さらに,Famiy-S46ペプチダーゼの立体構造はDAP BIIが単離されてからしばらくの間,決定されておらず,この特殊なドメイン構造やキモトリプシンとの触媒ドメインとの類似性については解明されていなかった.

2. 立体構造

1996年にDAP BIIが発見されて以来,Famiy-S46ペプチダーゼの構造は未解明であったが,2014年,ついに筆者らの研究グループが世界で初めてFamiy-S46ペプチダーゼの立体構造解析に成功した(11, 12)11) Y. Sakamoto, Y. Suzuki, I. Iizuka, C. Tateoka, S. Roppongi, H. Okada, T. Nonaka, Y. Morikawa, K. T. Nakamura, W. Ogasawara et al.: Acta Crystallogr. F Struct. Biol. Commun., 70, 221 (2014).12) Y. Sakamoto, Y. Suzuki, I. Iizuka, C. Tateoka, S. Roppongi, M. Fujimoto, K. Inaka, H. Tanaka, M. Masaki, K. Ohta et al.: Sci. Rep., 4, Articlr number 4977 (2014)..Family-S46ペプチダーゼの結晶化は難しく,2009年にDAP BIIの最初の構造解析に成功したが,分解能は3.2 Åほどで,一部の構造しか決定できなかった.そこで,共同研究先の岩手医科大学阪本泰光教授協力のもと,2011年にJAXAの微小重力下結晶化実験課題に採択され,ISSでの結晶化により1.96 Å分解能でのデータ収集に成功し,構造解析に至った.結晶構造を見てみると,まず特筆すべきは,触媒ドメインがキモトリプシンに類似している点である(図3図3■Family-S46ペプチダーゼとキモトリプシンの立体構造比較).これにより,Family-S46ペプチダーゼがClanPAの属する運びとなり,ClanPA唯一のエキソ型ペプチダーゼとなった(表1表1■MEROPSに登録されているClanPAセリンプロテアーゼ).

図3■Family-S46ペプチダーゼとキモトリプシンの立体構造比較

DAP BIIモノマーの立体構造(PDB, 3WOL); DAP BIIの触媒ドメイン構造は25-276残基と574-720残基を示す;触媒残基であるHis86, Asp224, Ser657はマゼンタで示す;Bos taurus由来α-キモトリプシンの構造(PDB, 4CHA);触媒残基であるHis57, Asp102, Ser195をマゼンタで示す.ヘリックス,シート,コイルはそれぞれオレンジ,シアン,グレーで示す.

表1■MEROPSに登録されているClanPAセリンプロテアーゼ
FamilySeq.(a)Ident.(b)Strc.(c)Type of peptidaseEndo/Exo
S170933704141Chymotrypsin AEndo
S38511TogavirinEndo
S61373126IgA1-specific serine peptidaseEndo
S736023FlavivirinEndo
S2923622HepacivirinEndo
S309720Potyvirus P1 peptidaseEndo
S313211Pestivirus NS3 polyprotein peptidaseEndo
S3212122Equine arteristis virus serine peptidaseEndo
S397222Sobemovirus peptidaseEndo
S46102842Dipeptidyl peptidase 7Exo
S5533910SpoIVB peptidaseEndo
S644010Sey5 peptidaseEndo
S65310Picornain-like serine peptidaseEndo
S75110White bream virus serine peptidaseEndo
(a)登録されているペプチダーゼの数;(b)aの内,同定済みのペプチダーゼの数;(c)bの内,構造がPDBに登録されているペプチダーゼの数;2023年10月時点のデータを参照.

またαヘリカルが連なったユニークなドメイン構造(αヘリカルドメインと呼ぶ)が触媒ドメインに覆いかぶさるように配置していた.全体構造を見るとパックマンのように口を開いた構造になっており,申請者らの構造解析によるとアポ体よりもジペプチド複合体で口が閉じた構造(クローズド状態)になることが示された(図4図4■基質取り込みにおける構造変化とN末端の認識機構).つまり,Family-S46ペプチダーゼは基質が活性中心に収容されると口を閉じて基質の侵入を制限すると考えられた.このとき基質のN末端と酵素側のアミノ酸残基が水素結合を形成することで,N末端の認識を行っていることが明らかになった.具体的には,口を閉じたクローズド状態のときにAsn330側鎖が基質に近づくことで,基質ペプチドのN末端のアミノ酸の主鎖の窒素原子はAsn215側鎖およびAsn330側鎖の酸素原子と水素結合を形成し,また基質主鎖の酸素原子はAsn330側鎖の窒素原子と水素結合を形成し,N末端を認識している(7, 12)7) Y. Sakamoto, Y. Suzuki, I. Iizuka, C. Tateoka, S. Roppongi, M. Fujimoto, K. Inaka, H. Tanaka, M. Yamada, K. Ohta et al.: Sci. Rep., 5, Articlr number 11151 (2015).12) Y. Sakamoto, Y. Suzuki, I. Iizuka, C. Tateoka, S. Roppongi, M. Fujimoto, K. Inaka, H. Tanaka, M. Masaki, K. Ohta et al.: Sci. Rep., 4, Articlr number 4977 (2014)..触媒機構は一般的なセリンペプチダーゼと同様であるため,本稿では解説を省略する.さらにこのαヘリカルドメインはFamily-S46ペプチダーゼ以外で類似の構造が発見されず,Family-S46に特徴的な構造となっている.

図4■基質取り込みにおける構造変化とN末端の認識機構

アポ体のオープン構造はDAP BII(PDB, 3WOK)を示す;クローズド構造はDAP BII(PDB, 3WOL)を示す.

3. 生体内での機能

冒頭でペプチダーゼは多くの生物種が持つ酵素と説明をしたが,DAP BIIをクエリ配列として,系統樹を作成すると図5図5■Family-S46ペプチダーゼの分子系統樹のようになり,Family-S46ペプチダーゼは微生物に特有な酵素であることがわかる.微生物特有であること,また他の酵素にはない特異的なドメイン構造を有することから,この酵素群が分子進化的にどのような経路を辿ってきたのか,大変興味深い.

図5■Family-S46ペプチダーゼの分子系統樹

文献10より改変;81のFamily-S46ペプチダーゼ配列について,MEGAプログラムを用いて作成.

系統樹からFamily-S46ペプチダーゼの多くがProteobacteria門およびBacteroidetes門に属する微生物が有する酵素であり,また中には多剤耐性菌であるS. maltophiliaや歯周病の原因菌ともされるP. gingivalisが含まれていることが示された.これらの細菌は糖を栄養源とせず,アミノ酸を栄養源として利用する糖非発酵性グラム陰性桿菌であり,Family-S46を含むDPPが栄養源の資化に寄与していることが明らかになってきた.ここでは糖非発酵性グラム陰性桿菌のペプチド資化機構におけるDPPの生理機能についてP. gingivalisをモデルに概説する(図6図6■P. gingivalisのペプチド分解機構の模式図(13)13) T. K. Nemoto & Y. Ohara-Nemoto: Jpn. Dent. Sci. Rev., 52, 22 (2016)..糖非発酵性グラム陰性桿菌における栄養源であるペプチドの取り込みには,まず外膜とペリプラズム間をつなぐポーリンを透過する必要があるため,菌体外でのポリペプチドの分解が必要である.P. gingivalisの場合は,エンドペプチダーゼであるGingipain R(Rgp)およびGingipain K(Kgp)が菌体外ポリペプチドを分解する役割を担う.ペリプラズムにおいてオリゴペプチドは種々のDPPによってジ・トリペプチドまで分解される.P. gingivalisは疎水性アミノ酸に特異的なDPP5およびDPP7(PgDPP7),酸性アミノ酸に特異的なDPP11(PgDPP11),プロリンに特異的なDPP4の4つのDPPで構成されている.DPP以外にはProlyl tripeptidyl aminopeptidase A(PtpA),Acylpeptidyl oligopeptidase(AOP)が見出されている.PtpAは基質P1位のPro特異的にペプチドアミノ末端からトリペプチドを遊離し,AOPはアシル化オリゴペプチドからジ・トリペプチドを遊離する活性を有する.ここで,糖非発酵性グラム陰性桿菌の内膜トランスポーターではアミノ酸ではなく,ジ・トリペプチドなどのペプチド型の基質を取り込むことが知られており,DPPを中心にしたペプチド分解は栄養源の取り込みにおいてリーズナブルかつ重要な機能である(14, 15)14) S. G. Dashper, L. Brownfield, N. Slakeski, P. S. Zilm, A. H. Rogers & E. C. Reynolds: J. Bacteriol., 183, 4142 (2001).15) K. E. Nelson, R. D. Fleischmann, R. T. DeBoy, I. T. Paulsen, D. E. Fouts, J. A. Eisen, S. C. Daugherty, R. J. Dodson, A. S. Durkin, M. Gwinn et al.: J. Bacteriol., 185, 5591 (2003)..DPP4はClan SC Family-S9に属し,ヒトの体内では血糖値の恒常性や免疫に関与するペプチダーゼである.特に血糖値調整において,インスリン分泌を促すGIP(Gastric inhibitory polypeptide)やGLP-1(Glucagon-likepeptide1)といったインクレチンを分解し,不活化する酵素で,糖尿病治療薬の標的分子として知られている.一方で,Family-S46ペプチダーゼに属するPgDPP7およびPgDPP11は系統樹からもわかるように,ヒトに類縁酵素がなく,微生物の中でも糖非発酵グラム陰性桿菌に多く見られる酵素である.

図6■P. gingivalisのペプチド分解機構の模式図

Kgp: Gingipain K, Rgp: Gingipain R, PtpA: Prolyl tripeptidyl aminopeptidase, AOP: Acylpeptidyl oligopeptidase

創薬に向けた展開

前述の通り,Family-S46ペプチダーゼはヒトに存在しないこと,また多剤耐性菌であるS. maltophiliaや歯周病の原因菌ともされるP. gingivalisの栄養源の資化に関与していることが見出されてきた.このことから申請者らの研究グループはFamily-S46ペプチダーゼの阻害剤がこれら病原性細菌の抗菌薬になりうるのではないかというアイディアが生まれた.申請者らはJAXAの微小重力下結晶化実験を通して,初めての参加から5回目にあたる2014年に,分解能1.5 Åという超高分解能なPgDPP11の結晶構造解析に成功した(16)16) Y. Sakamoto, Y. Suzuki, A. Nakamura, Y. Watanabe, M. Sekiya, S. Roppongi, C. Kushibiki, I. Iizuka, O. Tani, H. Sakashita et al.: Sci. Rep., 9, Articlr number 13587 (2019)..この立体構造ではPgDPP11のS1サブサイト(基質P1位の残基を収容する酵素側のポケット)にクエン酸が結合した状態で得られた.クエン酸はPgDPP11の基質である酸性アミノ酸の結合を模倣していたため,クエン酸を元にファーマコフォアをデザインし,in silico阻害化合物スクリーニングを実施した(図7図7■Family-S46ペプチダーゼ特異的阻害剤開発に向けたin silico阻害化合物スクリーニング).

図7■Family-S46ペプチダーゼ特異的阻害剤開発に向けたin silico阻害化合物スクリーニング

文献16より図を改変.

約400万の市販化合物を含むライブラリーから選抜された13の候補化合物を用いてPgDPP11に対する競合阻害試験を実施した結果,PgDPP11に対して8.45 µMの阻害定数(Ki)を有する非ペプチド低分子化合物SH-5が得られ,SH-5のPgDPP11への結合様式は共結晶構造解析により確認された.さらに,SH-5およびその親油性類似化合物は大腸菌の生育は阻害せず,P. gingivalisの成長に対して用量依存的な阻害効果を示した.親油性類似化合物はSH-5よりも疎水性度が高いため,細胞膜の透過性が向上し,微生物細胞への作用が大きいと予想され,実際に生育阻害活性はSH-5よりも高かった.加えて,SH-5は他の病原性細菌由来Family-S46ペプチダーゼに対しても阻害活性を有することが実証された.つまり,SH-5およびその親油性類似化合物はFamily-S46ペプチダーゼの選択的阻害剤開発のための非ペプチド系化合物として期待される.また多剤耐性菌S. maltophiliaのDPPに対するペプチド系阻害化合物も見出されてきており,特許取得に至っている(17)17) 日高興士,津田裕子,阪本泰光,關谷瑞樹,小笠原 渉:特許第7228828号(2023)..感染症に対する抗菌薬の開発は投与期間の短さや薬剤耐性菌の出現などによるコスト面から民間企業が積極的になれない実情がある.そのような中で私たちアカデミアが抗菌薬開発に貢献していくことに大きな意義があると言える.

Acknowledgments

本稿では微生物特有なユニークな機能・構造を持つペプチダーゼの発見から創薬までの道のりを,約20年以上の筆者らの研究を中心に紹介させていただいた.また本稿における立体構造解析では北里大学田中信忠教授,岩手医科大学阪本泰光教授との共同研究の成果であり,国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構が実施している「きぼう」利用高品質タンパク質結晶生成実験を利用して行ったものである.関係各位にこの場を借りて御礼申し上げます.

Reference

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