Kagaku to Seibutsu 62(4): 169-174 (2024)
解説
腸内細菌叢と腸管免疫系のクロストークを媒介するマイクロRNA
マイクロRNAの新しい役割
MicroRNAs Mediate Crosstalk between the Gut Microbiota and the Intestinal Immune System: A New Role for MicroRNAs
Published: 2024-04-01
マイクロRNA(miRNA)は,mRNAの特定の3′非翻訳領域に結合し,mRNAの分解または翻訳抑制を介して標的遺伝子の発現を抑制する.このような遺伝子サイレンシングにより,miRNAは多彩な生理プロセスに関与している.腸内細菌叢が腸管免疫系を調節することはよく知られているが,ここでもmiRNAによる遺伝子サイレンシングが一定の役割を果たすことを示唆する証拠が蓄積されつつある.一方,腸上皮細胞から腸管腔に放出されるmiRNAが腸内細菌叢の構成に影響する可能性が示唆されている.本稿では,このようなmiRNAを介した腸内細菌叢と宿主とのクロストークに関するこれまでの研究を紹介する.
Key words: マイクロRNA; 腸内細菌叢; 腸管免疫系
© 2024 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2024 公益社団法人日本農芸化学会
マイクロRNA(miRNA)は低分子非コードRNAの一種で,ゲノムDNAから転写された後に細胞質に移行し,RNA誘導サイレンシング複合体に組み込まれ,標的mRNAの特定の3′非翻訳領域に結合してmRNAの分解または翻訳抑制によって遺伝子発現を抑制する(1)1) M. R. Fabian & N. Sonenberg: Nat. Struct. Mol. Biol., 19, 586 (2012)..このような遺伝子サイレンシングにより,miRNAは多くの生理プロセスに関与している(2, 3)2) V. Ambros: Nature, 431, 350 (2004).3) D. P. Bartel: Cell, 116, 281 (2004)..
過去20年間の研究により,腸内細菌叢が宿主の腸管免疫の発達と機能を調節していることが明らかになってきた.初期の研究では,無菌マウスが腸管免疫の発達と応答において広範な欠損を示すことが示され,腸内細菌叢の重要な役割が示唆された.その後の研究により,腸内細菌の代謝物や菌体成分が腸管免疫に影響を及ぼす細胞分子機序が明らかにされつつある.さらに最近では,miRNAによる遺伝子サイレンシングもそのような機序のひとつとして研究されている.
これまでの研究で,腸粘膜における免疫応答の調節にいくつかのmiRNAが役割を果たすことが示されている.それらを表1表1■腸管免疫系におけるmiRNAによる免疫応答の調節にまとめた.
細胞 | miRNA | 標的mRNA | 免疫応答 | 文献 | |
---|---|---|---|---|---|
自然免疫 | 樹状細胞 | miR-29 | IL-12p40/IL-23p19 | IL-23産生の抑制による炎症抑制 | 24 |
マクロファージ | miR-146b | IRF5 | M1(向炎症性)マクロファージの活性化抑制 | 25 | |
マクロファージ/樹状細胞 | miR-223 | C/EBPβ | 炎症抑制 | 26 | |
適応免疫 | パイエル板Treg細胞 | miR-10a | Bcl6/Ncor2 | 濾胞性ヘルパーT細胞への転換を抑制 | 4 |
CD4+ T細胞 | miR-10a | Blimp1 | IL-10産生の抑制 | 5 | |
Th17細胞 | miR-34a | IL-6R/IL-23R | Th17細胞の分化・増殖を抑制 | 27 | |
Treg細胞 | miR-106a | IL-10 | Treg細胞の機能低下 | 28 | |
CD4+ T細胞 | miR-125a | ETS-1 | 炎症性サイトカイン産生の抑制 | 29 | |
T細胞 | miR-155 | ITK | TGF-βによるT細胞活性化の抑制 | 7 | |
Treg細胞 | miR-155 | CTLA-4 | Treg細胞の制御機能を抑制 | 8 | |
Th17細胞 | miR-221/miR-222 | MAF/IL-23R | Th17細胞の増殖を抑制 | 30 | |
B細胞 | miR-146a | Smad2/Smad3/Smad4 | IgAへのクラススイッチ組換えの抑制 | 31 | |
略号 Treg, regulatory T; Th17, helper T17; IL, interleukin; IRF, interferon regulatory factor 5; C/EBPβ, CCAAT/enhancer-binding protein beta; Bcl6, B cell leukemia/lymphoma; Ncor2, nuclear receptor co-repressor 2; Blimp1, B lymphocyte-induced maturation protein 1; IL-6R, IL-6 receptor; IL-23R, IL-23 receptor; ETS-1, E26 oncogene homolog 1; ITK, IL-2-inducible T-cell kinase; CTLA-4, cytotoxic T-lymphocyte antigen 4; MAF, MAF bZIP transcription factor; Smad, small mothers against decapentaplegic; TGF-β, transforming growth factor-β; IgA, immunoglobulin A |
自然免疫系は,マクロファージ,樹状細胞,顆粒球,ナチュラルキラー細胞などから構成され,免疫学的刺激に対して迅速に非特異的反応を示すことで防御の第一線としての役割を果たすとともに,適応免疫系との相互作用により免疫応答の調節を行う.これまでに腸粘膜のマクロファージおよび樹状細胞において,いくつかのmiRNAがそれらの機能調節に役割を果たすことが示されている(表1表1■腸管免疫系におけるmiRNAによる免疫応答の調節).
一方,獲得免疫系においてはT細胞およびB細胞が抗原特異的な反応を示す.腸粘膜におけるこれらの細胞の免疫応答においてもmiRNAが関与することが報告されているが,一貫した役割が示されているわけではない(表1表1■腸管免疫系におけるmiRNAによる免疫応答の調節).例えば,miR-10aは小腸パイエル板においてBcl6 mRNAとNcor2 mRNAを標的とすることにより制御性T細胞(Treg細胞)から濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh細胞)への転換およびTh17細胞の分化を抑制する(4)4) H. Takahashi, T. Kanno, S. Nakayamada, K. Hirahara, G. Sciumè, S. A. Muljo, S. Kuchen, R. Casellas, L. Wei, Y. Kanno et al.: Nat. Immunol., 13, 587 (2012)..一方,miR-10aは腸粘膜のCD4+ T細胞においてBlimp1 mRNAを標的とすることにより,IL-10産生を抑制する(5)5) W. Yang, L. Chen, L. Xu, A. J. Bilotta, S. Yao, Z. Liu & Y. Cong: J. Immunol., 207, 985 (2021)..Tfh細胞およびTh17細胞は免疫応答や炎症反応などの生体防御に寄与するのに対し,IL-10は免疫応答および炎症反応を抑制するサイトカインであることを考慮すると,miR-10aに関する前者の知見は,このmiRNAが抗炎症機能をもつことを示唆するのに対し,後者は向炎症性に働くことを示唆する.また,腸粘膜のT細胞においてmiR-155はITK mRNAを標的として,免疫応答を促進するサイトカインであるIL-2やIFN-γの産生を抑制する(6)6) L. M. Das, M. D. Torres-Castillo, T. Gill & A. D. Levine: Mucosal Immunol., 6, 167 (2013)..対照的に,miR-155はCTLA-4 mRNAを標的とし,免疫応答の抑制に役割を有するTreg細胞の機能を抑制する(7)7) G. Chao, X. Li, Y. Ji, Y. Zhu, N. Li, N. Zhang, Z. Feng & M. Niu: Int. Immunopharmacol., 71, 267 (2019)..すなわち,miR-155に関して前者は免疫応答の抑制に働くことを示唆しているのに対し,後者は促進に働くことを示唆している.
miRNAが腸管免疫系の調節に重要な役割を果たしていることを考えると,腸内細菌叢による腸管免疫系の調節の少なくとも一部をmiRNAが媒介するとしても不思議ではない.もしそうであれば,腸におけるmiRNAの発現は腸内細菌叢の影響を受けるはずである.
無菌マウスに通常マウスの腸内細菌叢を定着させ,回腸および結腸の粘膜組織におけるmiRNA発現プロファイルをマイクロアレイによって無菌マウスと比較すると,回腸と結腸でそれぞれ1種と3種のmiRNAの発現が腸内細菌叢の定着によって増加することが報告された(8)8) G. Dalmasso, H. T. Nguyen, Y. Yan, H. Laroui, M. A. Charania, S. Ayyadurai, S. V. Sitaraman & D. Merlin: PLoS One, 6, e19293 (2011)..また,結腸において5種のmiRNAの発現が腸内細菌叢の定着によって減少した.
さらに,無菌マウスと通常マウスの結腸組織におけるmiRNA発現プロファイルの比較により,16種のmiRNAの発現レベルが異なることが報告された(9)9) N. Singh, E. A. Shirdel, L. Waldron, R. H. Zhang, I. Jurisica & E. M. Comelli: Int. J. Biol. Sci., 8, 171 (2012)..in silicoの標的遺伝子予測により,発現レベルが異なるmiRNAの標的遺伝子が腸粘膜バリア機能に関連することが示され,腸内細菌叢による腸粘膜バリアの調節にmiRNAによる遺伝子サイレンシングが寄与することが提唱された.
これらの研究は腸の組織全体または粘膜組織から分離したmiRNAを分析している.腸の組織は不均一な細胞集団で構成されているので,腸内細菌叢が免疫応答の調節を行う際などのmiRNAの役割を解明するためには,特定の細胞種におけるmiRNA発現プロファイルを解析する必要がある.例えば,Nakata et al.(10)10) K. Nakata, Y. Sugi, H. Narabayashi, T. Kobayakawa, Y. Nakanishi, M. Tsuda, A. Hosono, S. Kaminogawa, S. Hanazawa & K. Takahashi: J. Biol. Chem., 292, 15426 (2017).は,無菌マウスと通常マウスの小腸と結腸の粘膜から上皮細胞を分離し,miRNAの発現プロファイルを比較した.その結果,無菌マウスと比較して通常マウスで高発現しているmiRNAとしてmiR-21-5pを見出した.また,miR-21-5pは既知の標的であるPTEN mRNAおよびPDCD4 mRNAをサイレンシングすることにより低分子量GTP結合タンパク質の一種であるARF4の発現を増加させ,その結果,粘膜上皮の透過性が増加することを明らかにした.
これまでに,腸内細菌叢が腸粘膜の樹状細胞においてmiR-10aの発現を抑制し,その標的であるIL-12/IL-23p40およびNOD2を正に制御することが示された(11, 12)11) X. Xue, T. Feng, S. Yao, K. J. Wolf, C. G. Liu, X. Liu, C. O. Elson & Y. Cong: J. Immunol., 187, 5879 (2011).12) W. Wu, C. He, C. Liu, A. T. Cao, X. Xue, H. L. Evans-Marin, M. Sun, L. Fang, S. Yao, I. V. Pinchuk et al.: Gut, 64, 1755 (2015)..また,腸内細菌叢は同様に樹状細胞におけるmiR-107の発現を抑制し,その標的であるIL-23p19を正に制御する(13)13) X. Xue, A. T. Cao, X. Cao, S. Yao, E. D. Carlsen, L. Soong, C. G. Liu, X. Liu, Z. Liu, L. W. Duck et al.: Eur. J. Immunol., 44, 673 (2014)..したがって,腸内細菌叢が腸粘膜の自然免疫系を調節する際にmiR-10aおよびmiR-107による遺伝子サイレンシングが一定の役割を果たしていると言える.
最近,私たちは,無菌マウスと通常マウスの大腸から分離した粘膜固有層白血球(LPL)におけるmiRNAとmRNAの発現プロファイルをマイクロアレイにより比較した(14)14) F. Ohsaka, Y. Karatsu, Y. Kadota, T. Tochio, N. Takemura & K. Sonoyama: Biochem. Biophys. Res. Commun., 534, 808 (2021)..その結果,miR-148a-3p, miR-192-5p, miR-194-5p,およびmiR-200ファミリーメンバー(miR-141-3p, miR-200a-3p, miR-200b-3p, miR-200c-3p, miR-429-3p)の発現レベルが無菌マウスよりも通常マウスで高いことがわかった.in silico解析と遺伝子発現解析を組み合わせた結果,BCL11B, ETS-1, GBP7, STAT5B, ZEB1がmiR-200ファミリーの標的であることが示唆され,ウェスタンブロット解析により,大腸LPLにおけるBCL11BとETS-1のタンパク質レベルが通常マウスで無菌マウスより低いことがわかった.BCL11B, ETS-1, ZEB1はT細胞におけるIL-2産生の調節に関与する転写因子であることから(15~17),大腸からLPLを分離して培養し,IL-2産生を調べた.その結果,IL-2産生レベルは通常マウスから分離したLPLでは無菌マウスから分離したLPLよりも低かった.これらの所見から,miR-200ファミリーはBCL11bとETS-1を標的とすることで,腸内細菌叢が大腸LPLにおけるIL-2産生を調節する際に一定の役割を果たすことを提案した(図1図1■腸内細菌叢が大腸粘膜固有層に存在する白血球におけるmiRNAの発現を変化させてIL-2産生を調節する仕組み—無菌マウスと通常マウスの比較からわかったこと(14)).
次に私たちは,腸内細菌叢の構成の変化がmiRNAの発現を変化させるかどうかを調べた(18)18) F. Ohsaka, D. Honma, Y. Kadota, T. Tochio & K. Sonoyama: J. Nutr. Sci. Vitaminol., 69, 150 (2023)..フラクトオリゴ糖(FOS)のような難消化性オリゴ糖の摂取が腸内細菌叢の構成を変化させることはよく知られている.そこで私たちは,FOSの最小構成成分である1-ケストース(KES)の摂取がマウスの大腸LPLにおけるmiRNA発現プロファイルに影響を及ぼすかどうかを調べた.マイクロアレイ解析とRT-PCRによる解析の結果,KESの摂取はmiR-205-5p, miR-200ファミリーメンバー,miR-192/215ファミリーメンバー(miR-192-5p, miR-194-5p, miR-215-5p)のレベルを増加させることがわかった.また,マウスの糞便から分離したBifidobacterium pseudolongumの経口投与が大腸LPLにおけるmiRNAの発現に及ぼす影響をRT-PCRで調べた結果,miR-182-5p, miR-194-5p, miR-200a-3pのレベルが有意に上昇し,miR-200b-3p, miR-215-5p, miR-429-3pのレベルが上昇する傾向が認められた.これらの結果は,KESの摂取が大腸LPLにおけるmiRNA発現に影響を与え,それが腸内のB. pseudolongumの増加と関連することを示唆している.食事が腸内細菌叢の構成および機能の主要な決定因子であることを考慮すると(19, 20)19) L. A. David, C. F. Maurice, R. N. Rarmody, D. B. Gootenberg, J. E. Button, B. E. Wolfe, A. V. Ling, A. S. Devlin, Y. Varma, M. A. Fischbach et al.: Nature, 505, 559 (2014).20) A. Zhernakova, A. Kurilshikov, M. J. Bonder, E. F. Tigchelaar, M. Schirmer, T. Vatanen, Z. Mujagic, A. V. Vila, G. Falony, S. Vieira-Silva et al.; Science, 352, 565 (2016).,食事が腸管免疫系に影響する際にmiRNAによる遺伝子サイレンシングが寄与している可能性があると言える.
腸内細菌叢が腸粘膜におけるmiRNAの発現に影響を及ぼす分子機序についてはほとんど明らかにされていない.私たちは当初,腸内細菌の代謝物や菌体成分がmiRNAの発現を直接活性化するのではないかと予想した.しかしながら,腸内細菌の発酵産物である短鎖脂肪酸や菌体成分の直接的な作用を示す知見はこれまでに得られていない.
宿主動物は,腸粘膜から腸管腔に分泌する抗菌ペプチドやIgA抗体を通じて腸内細菌叢の恒常性維持に貢献している.興味深いことに,Liu et al.(21)21) S. Liu, A. P. da Cunha, R. M. Rezende, R. Cialic, Z. Wei, L. Bry, L. E. Comstock, R. Gandhi & H. L. Weiner: Cell Host Microbe, 19, 32 (2016).は,宿主由来のmiRNAが腸内細菌叢の構成と機能を変化させる可能性を示した.miRNAの成熟に寄与するRNase IIIであるDicerの遺伝子を腸上皮細胞特異的に欠損させたマウスを用いることで,彼らは糞便中のmiRNAの大部分が腸上皮細胞由来であること,それらのmiRNAの欠如が腸内細菌叢の構成を変化させることを示した.彼らはまた,宿主由来のmiRNAが培養したEscherichia coliやFusobacterium nucleatumに取り込まれ,遺伝子の転写を調節し,増殖に影響を与えることも示した.これらの知見は,抗菌ペプチドやIgA抗体に加えてmiRNAも腸内細菌叢の恒常性維持に寄与する宿主因子であることを示唆する.
私たちは最近,マウスの糞便miRNAが培養した腸内細菌叢の構成を変化させることを報告した(22)22) F. Ohsaka, M. Yamaguchi, Y. Teshigahara, M. Yasui, E. Kato & K. Sonoyama: Biochem. Biophys. Res. Commun., in press..すなわち,マウスの盲腸内容物を希釈してムチンを唯一の炭素源とする培地に加えて嫌気培養し,そこにマウスの盲腸内容物から分離したsmall RNA(miRNAを含む)を添加した(図2図2■マウスの盲腸内容物に含まれるmiRNAが腸内細菌叢に及ぼす影響を調べるための培養実験系(22)).その細菌叢の構成を16S rRNA遺伝子のアンプリコンシーケンシングにより調べたところ,small RNAの添加はβ多様性を変化させ,とりわけEnterococcus属細菌を増加させた.また,small RNAを限外濾過により分画して培地に添加した結果,盲腸内容物から得られたsmall RNAのうちでmiRNAの寄与が大きいことが示唆された.さらに,マウスのmiRNAの塩基配列と相同性をもたない人工的なmiRNAには,Enterococcus属細菌の増加作用はみられなかった.これらのことは,盲腸内容物由来のmiRNAによるEnterococcus属細菌の増加作用はmiRNAの塩基配列に依存するものであることを示唆している.Liu et al.(21)21) S. Liu, A. P. da Cunha, R. M. Rezende, R. Cialic, Z. Wei, L. Bry, L. E. Comstock, R. Gandhi & H. L. Weiner: Cell Host Microbe, 19, 32 (2016).と同様に私たちも蛍光標識したmiRNAが培養した腸内細菌の菌体内に取り込まれることを確認した(22)22) F. Ohsaka, M. Yamaguchi, Y. Teshigahara, M. Yasui, E. Kato & K. Sonoyama: Biochem. Biophys. Res. Commun., in press..したがって,Enterococcus属細菌の増加にみられるようなmiRNAによる腸内細菌叢の構成変化は,細菌の遺伝子発現の変化に起因する可能性があるが,これを明らかにするにはさらなる研究が必要である.
これまで述べてきたように,腸内細菌叢は腸管免疫系の調節因子であり,miRNAによる遺伝子サイレンシングも腸管免疫系の調節に関与している.また,腸内細菌叢は腸内のmiRNA発現に影響を及ぼす.さらに,miRNAによる遺伝子サイレンシングが腸内細菌叢による腸管免疫系の調節に重要な役割を果たしていることを示唆する証拠も得られつつある.一方,腸管腔に分泌される宿主由来のmiRNAは,腸内細菌叢の構成や機能に影響を及ぼす可能性がある.したがって,宿主のmiRNAは腸内細菌叢と宿主のクロストークを媒介すると言える.加えて,食事が直接的に,また腸内細菌叢を介した間接的な方法で腸内miRNAの発現と放出に影響を与える可能性があることも忘れてはならない.事実,Tarallo et al.(23)23) S. Tarallo, G. Ferrero, F. De Filippis, A. Francavilla, E. Pasolli, V. Panero, F. Cordero, N. Segata, S. Grioni, R. G. Pensa et al.: Gut, 71, 1302 (2022).は,糞便中のmiRNAプロファイルが食事と関連することを報告している.彼らは,ベジタリアンの糞便中のmiRNAプロファイルが何でも食べる人のプロファイルと異なるかどうかを調査し,49種のmiRNAのレベルが異なることを見出した.したがって,食事はmiRNAが媒介する腸内細菌叢と宿主のクロストークに影響を与える環境因子であるということができる(図3図3■想定されるmiRNAを介した腸内細菌叢–腸管免疫系のクロストーク).しかし,このような複雑なクロストークの全体像を解明するには,さらなる研究が必要である.例えば,このクロストークに関与していると想定されるmiRNAの標的遺伝子や,腸内細菌がmiRNAの発現を変化させる機序などを明らかにする必要がある.また,宿主由来のmiRNAが細菌の遺伝子発現をどのように調節しているのかも解明されていない.このようなクロストークを解明することにより,炎症性腸疾患のような腸の免疫疾患を予防・治療する新たな戦略の開発に貢献することが期待できる.
Reference
1) M. R. Fabian & N. Sonenberg: Nat. Struct. Mol. Biol., 19, 586 (2012).
2) V. Ambros: Nature, 431, 350 (2004).
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17) J. Wang, S. Lee, C. E. Teh, K. Bunting, L. Ma & M. F. Shannon: Int. Immunol., 21, 227 (2009).
22) F. Ohsaka, M. Yamaguchi, Y. Teshigahara, M. Yasui, E. Kato & K. Sonoyama: Biochem. Biophys. Res. Commun., in press.
26) H. Zhou, J. Xiao, N. Wu, C. Liu, J. Xu, F. Liu & L. Wu: Cell Rep., 13, 1149 (2015).