解説

なぜ花粉やダニはアレルゲンとなるのか?
古くて新しい謎の解明と疾患制御への展開

Why are Pollen and Mite so Allergenic?: Elucidation of Underlying Mechanism and Its Therapeutic Application

Seiji Kawamoto

河本 正次

広島大学大学院統合生命科学研究科

広島大学健康長寿研究拠点(HiHA)

Tomoki Kodama

児玉 智基

広島大学大学院統合生命科学研究科

広島大学健康長寿研究拠点(HiHA)

Published: 2024-04-01

我が国におけるスギ花粉症の有病率は40%に迫っており,その急増に歯止めをかけることができていない.また,ハウスダスト中のダニを原因とした気管支喘息やアレルギー性鼻炎の増加も我が国のみならず世界中で大きな社会問題となっている.そもそも我々の体はなぜ花粉やダニといった特定の環境生物種にさらされたときにだけアレルギーになりやすいのであろうか? この素朴な疑問に対しては未だに不明な点も多い.本稿では,この古くて新しい謎の解明にまつわる最近の話題を提供するとともに,当該知見をアレルギーの制圧にどう応用しうるのかについても議論してみたい.

Key words: IgE抗体; アレルゲン; 花粉; ダニ; 2型免疫応答

花粉症・ダニアレルギー発症の基本的なしくみと未解明の謎

はじめに花粉やダニに対して我々がアレルギーを発症してしまう免疫の基本的なしくみについて簡単に整理しておこう(図1図1■花粉症・ダニアレルギー発症の基本的なしくみ).免疫系は血液中の白血球により組織化された生体防御のシステムであり,ウイルスなど外来異物の撃退・排除を担っている.

図1■花粉症・ダニアレルギー発症の基本的なしくみ

まず花粉やダニ由来の病原性分子(アレルゲン)が体内に入ってくると,食細胞とよばれる白血球がこれを食べて前線での侵入を食い止める.食細胞は「抗原提示細胞」ともよばれ,その一種である樹状細胞は貪食作用によりアレルゲンを排除すると同時にアレルゲン分子の情報を処理し,所属リンパ節(白血球部隊の詰所)へと走ってそれをT細胞(司令塔役の白血球)に伝える(この情報提供のことを「抗原提示」という).アレルゲンの情報を受けたT細胞はB細胞(抗体の生産に特化した白血球)に対してアレルゲンにのみ特異的に結合する抗体の産生を指示する.ここで指令を受け取ったB細胞は抗体産生細胞(形質細胞)へと分化してアレルゲンに反応する抗体を産生し始めるが,この際,不思議なことに花粉やダニ由来のアレルゲンに対してB細胞/形質細胞はアレルギーを引き起こすタイプのIgE抗体ばかりを大量に作ってしまう(図1図1■花粉症・ダニアレルギー発症の基本的なしくみ).このアレルゲンに特化したIgE抗体の産生現象はウイルス感染で誘導される抗体の産生パターン(IgG抗体やIgA抗体が主体)には見られず,「なぜ花粉やダニなど起アレルギー性の環境因子に対してのみ選択的にIgE抗体産生が誘導されてしまうのか?」については,今日においても大きな謎に包まれている.

アレルゲン特異的なIgE抗体は前線の粘膜に常在する起アレルギー性の白血球・肥満細胞の表面に装着され,来たるアレルゲンの再侵入に備えることとなる.ここでアレルゲンが再び入ってくると肥満細胞上でIgE抗体と反応することで2分子のIgE抗体が架橋され,肥満細胞から起アレルギー性の化学伝達物質(ヒスタミンなど)を内包した顆粒が大量に放出される.この「肥満細胞の脱顆粒反応」により放出された化学伝達物質がアレルギー症状(くしゃみ・鼻水・鼻づまり・喘息症状など)を引き起こす.

「なぜ花粉やダニがアレルゲンになるのか?」という問いは,「なぜ花粉やダニはアレルギーを引き起こすIgE抗体を誘導しやすいのか?」と言い換えることもできる.またIgE抗体の産生は後述の「2型免疫応答」とよばれる起アレルギー性のサイトカイン産生を基調とした免疫応答によって誘導されることから,花粉やダニによるアレルギーの発症機構に残された共通の謎については以下の2点に整理することができよう.

以下,次項よりこれら2点の謎の解明に向けた最近の話題を紹介していこう.

花粉やダニに含まれる起アレルギー性の原因分子

アレルギーを引き起こすアレルゲンとは,「IgE抗体との結合活性を有する起アレルギー性のタンパク質抗原」として国際的に定義されており,世界保健機関(WHO)と国際免疫学会連合(IUIS)の下部組織である国際アレルゲン標準化委員会(WHO/IUIS Allergen Nomenclature Sub-Committee)により花粉やダニなどの主要アレルゲン分子種が承認・登録されている(1)1) Allergen Nomenclature: http://allergen.org/index.php.ここではまず,スギ花粉とダニに含まれる原因物質として特に主要なアレルゲン分子種,および起アレルギー性のアジュバント分子(免疫賦活分子)を紹介すると共に,その生化学的特性とIgE抗体産生誘導への関与につき概観する.両アレルゲンのより詳細な分子種構成と免疫生化学的性状については他稿(2~4)2) T. Fujimura, S. Shigeta, S. Kawamoto, T. Aki, M. Masubuchi, T. Hayashi, K. Yoshizato & K. Ono: Int. Arch. Allergy Immunol., 133, 125 (2004).3) T. Fujimura & S. Kawamoto: Allergol. Int., 64, 312 (2015).4) W. R. Thomas: Allergol. Int., 64, 304 (2015).に詳しいので参照されたい.

スギ花粉の主要アレルゲン:スギ花粉中の構成タンパク質で最も含有量が多く,またIgE抗体との結合頻度も高いタンパク質は植物細胞壁の多糖(ペクチン質)を分解する2種類の糖質分解酵素(ペクチン酸リアーゼとポリガラクツロナーゼ)である.これら2つの酵素はそれぞれスギ花粉の2大主要アレルゲン(Cry j 1, Cry j 2)として登録されている(表1表1■スギ花粉・ダニの主要アレルゲンとアジュバント分子(1)1) Allergen Nomenclature: http://allergen.org/index.php.筆者のグループによるスギ花粉アレルゲンの網羅的オミクス解析(2)2) T. Fujimura, S. Shigeta, S. Kawamoto, T. Aki, M. Masubuchi, T. Hayashi, K. Yoshizato & K. Ono: Int. Arch. Allergy Immunol., 133, 125 (2004).から,Cry j 1とCry j 2はともに分子量・等電点の異なるアイソフォーム多型を示し,当該アイソフォームごとのIgE結合頻度が異なることも判明している.近年ではアレルゲンのプロテアーゼ活性がアレルギー性免疫応答の惹起に重要であると認識されているが(5)5) C. L. Sokol, G. M. Barton, A. G. Farr & R. Medzhitov: Nat. Immunol., 9, 310 (2008).,筆者のグループではプロテアーゼ活性を有する2種類の新規スギ花粉アレルゲン(CPA9/サブチリシン様セリンプロテアーゼ,CPA63/アスパラギン酸プロテアーゼ)を同定している(表1表1■スギ花粉・ダニの主要アレルゲンとアジュバント分子(6, 7)6) A. R. Nour Ibrahim, S. Kawamoto, K. Mizuno, Y. Shimada, S. Rikimaru, N. Onishi, K. Hashimoto, T. Aki, T. Hayashi & K. Ono: World Allergy Organ. J., 3, 262 (2010).7) A. R. Ibrahim, S. Kawamoto, T. Aki, Y. Shimada, S. Rikimaru, N. Onishi, E. E. Babiker, I. Oiso, K. Hashimoto, T. Hayashi et al.: Int. Arch. Allergy Immunol., 152, 207 (2010)..2023年11月の時点ではモモの主要アレルゲンPru p 7(ジベレリン制御タンパク質)のホモログとして同定された新規のスギ花粉アレルゲン(Cry j 7)もWHO/IUIS Allergen Nomenclatureに登録されている(1)1) Allergen Nomenclature: http://allergen.org/index.php.これらに加え,タウマチン(甘味タンパク質)のホモログであるCry j 3(8)8) T. Fujimura, N. Futamura, T. Midoro-Horiuti, A. Togawa, R. M. Goldblum, H. Yasueda, A. Saito, K. Shinohara, K. Masuda, K. Kurata et al.: Allergy, 62, 547 (2007).,シラカバ花粉主要アレルゲンBet v 5(イソフラボンレダクターゼ)と相同なCJP-6(9)9) S. Kawamoto, T. Fujimura, M. Nishida, T. Tanaka, T. Aki, M. Masubuchi, T. Hayashi, O. Suzuki, S. Shigeta & K. Ono: Clin. Exp. Allergy, 32, 1064 (2002).,口腔アレルギー症候群の原因アレルゲンとされるLipid Transfer Proteinのホモログ・CJP-8(10)10) A. R. Ibrahim, S. Kawamoto, M. Nishimura, S. Pak, T. Aki, A. Diaz-Perales, G. Salcedo, J. A. Asturias, T. Hayashi & K. Ono: Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 504 (2010).,およびラテックスとの交差反応性を示すクラスIVキチナーゼ様分子CJP-4(11)11) T. Fujimura, S. Shigeta, T. Suwa, S. Kawamoto, T. Aki, M. Masubuchi, T. Hayashi, M. Hide & K. Ono: Clin. Exp. Allergy, 35, 234 (2005).もスギ花粉アレルゲンとして単離・同定されている.

表1■スギ花粉・ダニの主要アレルゲンとアジュバント分子

ダニの主要アレルゲン:WHO/IUIS Allergen Nomenclature Sub-Committeeでは2023年11月の時点で合計40種類ものダニ主要アレルゲンを承認・登録している(1)1) Allergen Nomenclature: http://allergen.org/index.php.本稿では起アレルギー性のコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)とヤケヒョウヒダニ(D. pteronyssinus)において臨床上特に重要と認識されているアレルゲン分子種を中心に紹介したい.最も重要な高IgE反応性主要アレルゲンはDer f 1/Der p 1(システインプロテアーゼ)とDer f 2/Der p 2(NPC2脂質結合タンパク質ファミリー)である(表1表1■スギ花粉・ダニの主要アレルゲンとアジュバント分子(1)1) Allergen Nomenclature: http://allergen.org/index.php.これら2種の主要アレルゲンはダニ中の含有量が多いばかりでなく,IgE結合活性と臨床アレルギー検査値との間に高相関を認める検体も多い.またアレルゲンの起アレルギー作用にプロテアーゼ活性が重要であるとの考え方(5)5) C. L. Sokol, G. M. Barton, A. G. Farr & R. Medzhitov: Nat. Immunol., 9, 310 (2008).はダニにおいても特に支配的であり,当該酵素活性を有するダニ主要アレルゲンとしては上述のDer f 1/Der p 1に加えて,Der f 3/Der p 3(トリプシン様セリンプロテアーゼ),Der f 6/Der p 6(キモトリプシン様セリンプロテアーゼ),およびDer f 9/Der p 9(コラゲナーゼ様セリンプロテアーゼ)が登録されている(表1表1■スギ花粉・ダニの主要アレルゲンとアジュバント分子(1)1) Allergen Nomenclature: http://allergen.org/index.php

花粉とダニに含まれる起アレルギー性のアジュバント分子:花粉やダニにはアレルゲン分子に加えて,抗体産生プロファイルをIgE抗体優位なそれへと変調させたり,アレルギー炎症を増悪させたりするアジュバント分子(免疫賦活分子)も含まれている.花粉では上述のプロテアーゼ(6, 7, 12)6) A. R. Nour Ibrahim, S. Kawamoto, K. Mizuno, Y. Shimada, S. Rikimaru, N. Onishi, K. Hashimoto, T. Aki, T. Hayashi & K. Ono: World Allergy Organ. J., 3, 262 (2010).7) A. R. Ibrahim, S. Kawamoto, T. Aki, Y. Shimada, S. Rikimaru, N. Onishi, E. E. Babiker, I. Oiso, K. Hashimoto, T. Hayashi et al.: Int. Arch. Allergy Immunol., 152, 207 (2010).12) H. Gunawan, T. Takai, S. Ikeda, K. Okumura & H. Ogawa: Allergol. Int., 57, 83 (2008).や1,3-β-D-グルカン(13)13) T. Kanno, Y. Adachi, K. Ohashi-Doi, H. Matsuhara, R. Hiratsuka, K. I. Ishibashi, D. Yamanaka & N. Ohno: Allergol. Int., 70, 105 (2021).がIgE抗体産生の増強に働きうることが示唆されているほか,NADPHオキシダーゼが活性酸素種の産生を介してアレルギー炎症を悪化させうることも示されている(14)14) I. Boldogh, A. Bacsi, B. K. Choudhury, N. Dharajiya, R. Alam, T. K. Hazra, S. Mitra, R. M. Goldblum & S. Sur: J. Clin. Invest., 115, 2169 (2005)..ダニでは共在するエンドトキシン(Lipopolysaccharide; LPS)が脂質結合性アレルゲン(Der p 2)を共受容体ミメティクスとしてToll-like receptor 4(TLR4)に認識され,これがアレルギーの引き金となる可能性が示されている(15)15) A. Trompette, S. Divanovic, A. Visintin, C. Blanchard, R. S. Hegde, R. Madan, P. S. Thorne, M. Wills-Karp, T. L. Gioannini, J. P. Weiss et al.: Nature, 457, 585 (2009)..またDer p 2などの脂質結合型アレルゲンは自身のIgE結合活性とは別にTLR2のリガンドとしても作用し,粘膜上皮にてアレルギー誘発性の自然炎症応答を引き起こしうる(16)16) K. Kasakura, Y. Kawakami, A. Jacquet & T. Kawakami: J. Immunol., 209, 1851 (2022).

花粉やダニによる2型免疫応答の誘導機構

次に花粉やダニに含まれるアレルゲン等の分子により,アレルギーの引き金となる2型サイトカイン(IL-4, IL-5, IL-13など)の産生を基調とした「2型免疫応答」が誘導されるしくみについて,より詳細に眺めてみよう(図2図2■花粉およびダニによる2型免疫応答の誘導機構).

図2■花粉およびダニによる2型免疫応答の誘導機構

当該免疫応答惹起の第一段階は粘膜上皮からのアレルゲンの侵入であるが,花粉やダニのプロテアーゼアレルゲンは粘膜上皮細胞間をシールするタイトジャンクションの構成タンパク質を分解することにより,粘膜上皮バリア機能の破綻を誘導しうる(図2図2■花粉およびダニによる2型免疫応答の誘導機構(17)17) T. Takai & S. Ikeda: Allergol. Int., 60, 25 (2011)..こうしてバリアを破り体内へと侵入したアレルゲンは樹状細胞に捕捉・貪食されると共に,同細胞はアレルゲンの抗原情報をナイーブヘルパーT細胞に提示して2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)への分化を誘導する.

粘膜上皮バリアの物理的傷害はさらにアラーミン(alarmin)として知られるサイトカイン・IL-33の放出を介して2型自然リンパ球(ILC2)を活性化する(図2図2■花粉およびダニによる2型免疫応答の誘導機構).上皮細胞からのIL-33の産生はバリア傷害のほか,ダニの外殻を構成する多糖(キチン質)の刺激によっても誘導されうる(18)18) K. Arae, H. Morita, H. Unno, K. Motomura, S. Toyama, N. Okada, T. Ohno, M. Tamari, K. Orimo, Y. Mishima et al.: Sci. Rep., 8, 11721 (2018)..IL-33によって活性化されたILC2は大量の2型サイトカイン(IL-5, IL-13)を産生してTh2細胞分化とIgE抗体産生をさらに後押しするほか,特にILC2由来のIL-5はアレルギー炎症局所への好酸球浸潤にも必須の役割を果たす(19)19) K. J. Jarick, P. M. Topczewska, M. O. Jakob, H. Yano, M. Arifuzzaman, X. Gao, S. Boulekou, V. Stokic-Trtica, P. S. Leclère, A. Preußer et al.: Nature, 611, 794 (2022)..好塩基球はIL-4の産生を介してILC2およびTh2細胞応答をさらに支持する.ILC2の活性化はIL-33刺激のほか,花粉やダニ由来のアレルゲンもしくはアジュバント(免疫賦活分子)を直接認識しうる上皮細胞上の自然免疫受容体(TLRなど)のシグナル伝達により産生されるIL-25やthymic stromal lymphopoietin(TSLP,胸腺間質性リンパ球新生因子)といった自然炎症サイトカインによっても引き起こされうる.TSLPは「Th2細胞応答のマスターレギュレーター」としての顔も持ち,アレルゲンの情報を得た抗原提示細胞に作用して同細胞を「Th2細胞分化を誘導するインストラクター」へと変身させる役割も果たす(20)20) V. Soumelis, R. A. Reche, H. Kanzler, W. Yuan, G. Edward, B. Homey, M. Gilliet, S. Ho, S. Antonenko, A. Lauerma et al.: Nat. Immunol., 3, 673 (2002).

以上,花粉やダニに対する一連の2型免疫応答により醸成された2型サイトカイン優位な微小環境はB細胞からのアレルゲン特異的なIgE抗体の産生を誘導するが,このステップには高親和性IgE抗体の産生誘導に特化した新規の濾胞性ヘルパーT細胞サブセット(Tfh13)が関与しているとの報告もある(図3図3■アレルゲンによる高親和性IgE抗体の産生誘導機構21)(21)21) U. Gowthaman, J. S. Chen, B. Zhang, W. F. Flynn, Y. Lu, W. Song, J. Joseph, J. A. Gertie, L. Xu, M. A. Collet et al.: Science, 365, eaaw6433 (2019)..大変興味深いことに,Tfh13細胞の分化は,ダニなど起アレルギー性の環境因子の共刺激で誘導できるのに対し,従来からIgE抗体の産生誘導因子として知られている寄生虫の感染では誘導できないらしい.他方,寄生虫の感染ではTfh13細胞の分化ではなく,低親和性IgE抗体の産生誘導に働く別のTfh細胞サブセット(Tfh2)の分化が誘導されるという(図3図3■アレルゲンによる高親和性IgE抗体の産生誘導機構21)).果たしてダニの中のいかなる分子が,どのようなしくみでTfh13細胞を介した高親和性IgE抗体の産生を誘導するのであろうか? 花粉でもダニと同様のTfh13依存的な高親和性IgE抗体の産生誘導機構が働いているのであろうか? これらの謎の解明には更なる研究が必要である.

図3■アレルゲンによる高親和性IgE抗体の産生誘導機構21)

(文献21を元に作図,一部加筆改変)

おわりに~謎の解明から花粉症・ダニアレルギーの克服に向けて~

本稿では「花粉やダニにさらされるとなぜアレルギーになるのか?」という我々の素朴な疑問にできるだけ答えるべく,原因分子群(アレルゲン・アジュバント)の実体,ならびに当該分子群によるアレルギー発症の分子基盤について,最近の話題も交えつつ眺めてきた.花粉やダニの侵入によって駆動する2型免疫応答の誘導機構に関する研究進展にはめざましいものがあり,当該知見は我々のアレルギー病態制御に対する理解にパラダイムシフトをもたらすのみならず,新たな抗アレルギー創薬標的をも提供しつつある.事実,当該2型免疫応答の誘導(図2図2■花粉およびダニによる2型免疫応答の誘導機構)にかかわるサイトカイン(IL-33, TSLPなど)のシグナル遮断を基調とした各種抗体医薬の開発が着実に進められており(22)22) A. Iwata, Y. Toda, H. Furuya & H. Nakajima: Allergol. Int., 72, 194 (2023).,革新的な抗アレルギー新薬として我が国に臨床投入される日も近いものと期待される.他方,花粉症やダニアレルギーの唯一の根治療法は特異的免疫療法(原因アレルゲンのワクチン投与)であるが,我が国ではアナフィラキシー等副作用の懸念から普及が大きく立ち遅れているばかりでなく,現行最新の舌下免疫療法も治療が長期にわたるなどの課題を抱えている.アレルゲンやアジュバントなど原因分子の全容理解がさらに進めば,より安全かつ効果的な特異的免疫療法の開発にも道が拓けてこよう.花粉やダニに潜むアレルギー実行犯たちの全貌が明らかにされることを願いつつ,当該免疫学的知見が国民病である花粉症・ダニアレルギーの克服へと繋がらんことを期待したい.

Reference

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23) 福井大学スギ花粉症対策室:https://kafuntaisaku.med.u-fukui.ac.jp