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甘味受容体への増強・抑制物質の作用メカニズムの違いについて
最新ホモロジーモデルによる比較

Tomoya Nakagita

中北 智哉

明治大学農学部農芸化学科

Published: 2024-05-01

甘味,うま味,苦味,塩味,酸味からなる五基本味のうち甘味,うま味の受容はT1Rファミリーと呼ばれるタンパク質が担っている.T1R2とT1R3がダイマー形成することで甘味受容体が,T1R1とT1R3がダイマー形成することでうま味受容体がそれぞれ機能することが知られている.これらはclass CのGタンパク質共役型受容体(GPCR)であり,ハエトリグサ様構造の細胞外ドメイン(Venus Flytrap Domain, VFTD),GPCRに共通する7回膜貫通構造の膜貫通ドメイン(transmembrane domain, TMD),そしてこれらをつなぐジスルフィド結合に富んだリンカードメイン(cysteine-rich domain, CRD)からなる(図1図1■うま味受容体,甘味受容体の模式図とリガンド作用部位).VFTDは主要リガンド結合部位(orthosteric binding site)となっている.T1R2 VFTDにおいては糖類や種々の人工甘味料が,T1R1 VFTDにおいてはグルタミン酸などのアミノ酸がそれぞれオルソステリックリガンドとなっている.class C GPCRではこの他複数のリガンド作用部位(allosteric binding sites)が存在することが知られており,これらに作用するアロステックリガンドはオルソステリックリガンドの受容体活性を増強,あるいは抑制といった活性調節をするモジュレーターとして作用することが明らかとなっている(図1図1■うま味受容体,甘味受容体の模式図とリガンド作用部位).アロステリックリガンドのうち,増強物質はPAM(positive allosteric modulator),抑制物質はNAM(negative allosteric modulator)と呼ばれる.PAMは更に細分化され,うま味受容体におけるイノシン酸のように単独でのうま味活性を有していないものをpure-PAM,甘味受容体におけるネオヘスペリジンジヒドロカルコン(neohesperidin dihydrochalcone, NHDC)やシクラメートのように自身が甘味を呈し甘味料としてもはたらくものをago-PAMと呼ぶ.

図1■うま味受容体,甘味受容体の模式図とリガンド作用部位

N末端側から,細胞外ドメイン(VFTD),リンカードメイン(CRD),膜貫通ドメイン(TMD).太矢印は主要リガンド作用部位,細矢印はその他のリガンド作用部位を示す.

甘味受容体においてT1R3 TMDはago-PAM, NAMの双方が作用することが報告されている.これまでにago-PAMとしては先述の通りNHDC(1, 2)1) M. Winnig, B. Bufe, N. A. Kratochwil, J. P. Slack & W. Meyerhof: BMC Struct. Biol., 7, 66 (2007).2) T. Nakagita, T. Matsuya, M. Narukawa, T. Kobayashi, T. Hirokawa & T. Misaka: Biosci. Biotechnol. Biochem., 87, zbad133 (2023).,シクラメート(3)3) P. Jiang, M. Cui, B. Zhao, L. A. Snyder, L. M. J. Benard, R. Osman, M. Max & R. F. Margolskee: J. Biol. Chem., 280, 34296 (2005).が,NAMとしてはラクチゾール(4, 5)4) P. Jiang, M. Cui, B. Zhao, Z. Liu, L. A. Snyder, L. M. J. Benard, R. Osman, R. F. Margolskee & M. Max: J. Biol. Chem., 280, 15238 (2005).5) T. Nakagita, A. Ishida, T. Matsuya, T. Kobayashi, M. Narukawa, T. Hirokawa, M. Hashimoto & T. Misaka: PLoS One, 14, e0213552 (2019).,ギムネマ酸(6)6) K. Sanematsu, Y. Kusakabe, N. Shigemura, T. Hirokawa, S. Nakamura, T. Imoto & Y. Ninomiya: J. Biol. Chem., 289, 25711 (2014).,2,4-DP(2,4-dichlorophenoxypropionic acid)(5, 7)5) T. Nakagita, A. Ishida, T. Matsuya, T. Kobayashi, M. Narukawa, T. Hirokawa, M. Hashimoto & T. Misaka: PLoS One, 14, e0213552 (2019).7) E. L. Maillet, R. F. Margolskee & B. Mosinger: J. Med. Chem., 52, 6931 (2009).,イブプロフェン(8)8) T. Nakagita, C. Taketani, M. Narukawa, T. Hirokawa, T. Kobayashi & T. Misaka: Chem. Senses, 45, 667 (2020).が報告されている.これらは甘味受容体であるT1R2+T1R3のT1R3 TMDへ作用すると言う報告がなされているものの,うま味受容体T1R1+T1R3のT1R3 TMDへ作用することは明らかにはされていない.

一方で近年,T1Rと同じくclass C GPCRに分類される代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)の構造解析に進展が認められた.2014年にmGluR1 TMDのみの不活性型構造が(PDB ID: 4OR2)(9)9) H. Wu, C. Wang, K. J. Gregory, G. W. Han, H. P. Cho, Y. Xia, C. M. Niswender, V. Katritch, J. Meiler, V. Cherezov et al.: Science, 344, 58 (2014).,2019年にはmGluR5のリガンド非結合状態であるapo型及び活性型のC末端を除いた全長構造が(PDB ID: 6N51, 6N52)明らかにされている(10)10) A. Koehl, H. Hu, D. Feng, B. Sun, Y. Zhang, M. J. Robertson, M. Chu, T. S. Kobilka, T. Laeremans, J. Steyaert et al.: Nature, 566, 79 (2019)..これらの構造を鋳型とすることで精度の高い甘味受容体のホモロジーモデルの作製が可能となり,培養細胞を用いた点変異体解析と組み合わせることで詳細なドッキングモデルの構築が可能となってきた.そこで,ago-PAM, NAM双方のモデルを比較することで,増強・抑制の異なる応答調節能がどのような違いによりもたらされるのかを把握することが可能であると考えられた.

先に構造が明らかにされたNAMについてであるが,ラクチゾール及びその類縁体は変異体解析の結果から7回膜貫通構造中の3回目の膜貫通ヘリックス(TM3)に位置するHis6413.37,注1とTM7に位置するGln7947.32の2残基が相互作用に特に重要であることが示唆されている(図2図2■不活性型(左),活性型(右)それぞれのリガンドドッキングモデル左).T1R3 TMD不活性型ホモロジーモデルへのドッキングシミュレーション結果によると,リガンドポケットの深部に位置する7残基が重要であり,ラクチゾール,2,4-DP,イブプロフェンに関してはよく似た部位に作用している(5, 8)5) T. Nakagita, A. Ishida, T. Matsuya, T. Kobayashi, M. Narukawa, T. Hirokawa, M. Hashimoto & T. Misaka: PLoS One, 14, e0213552 (2019).8) T. Nakagita, C. Taketani, M. Narukawa, T. Hirokawa, T. Kobayashi & T. Misaka: Chem. Senses, 45, 667 (2020)..ギムネマ酸に関してもHis6413.37,Ala7335.43などラクチゾールと共通する相互作用に重要な残基が報告されていることから(5)5) T. Nakagita, A. Ishida, T. Matsuya, T. Kobayashi, M. Narukawa, T. Hirokawa, M. Hashimoto & T. Misaka: PLoS One, 14, e0213552 (2019).,これらの残基がT1R3 TMDへNAMが作用するために重要な残基であると考えられる.ただしギムネマ酸においてはその巨大な分子サイズにより,extracellular loop2に位置するArg725なども重要であると報告されており,ラクチゾール類縁構造とは少々異なる位置に作用しているようだ.

図2■不活性型(左),活性型(右)それぞれのリガンドドッキングモデル

変異体解析の結果を基に抑制剤(NAM),増強剤(ago-PAM)のドッキングを実施した.

一方でago-PAMについては変異体解析よりTM3のGln6363.32や,TM5のSer7295.39,Phe7305.40などの残基がNHDC,シクラメート共通して重要な残基として挙げられているものの,これらの残基はNAMにとっては相互作用に必要な残基ではない(2)2) T. Nakagita, T. Matsuya, M. Narukawa, T. Kobayashi, T. Hirokawa & T. Misaka: Biosci. Biotechnol. Biochem., 87, zbad133 (2023)..実際にT1R3 TMD活性型ホモロジーモデルを見るに(図2図2■不活性型(左),活性型(右)それぞれのリガンドドッキングモデル右),これらの残基はリガンドポケットの浅い位置に存在することがわかる.これらの残基は活性型構造では不活性型構造に比べて互いに近づく方向への構造変化が起こっており,この違いによりago-PAMがドッキング可能となっていた.

以上をまとめると,T1R3 TMDに作用するリガンドは,リガンドポケット深部に作用するリガンドはNAMとして作用し,浅部に作用するリガンドがPAMとして作用すると考えられた.この結果は新規ago-PAM,即ち甘味料兼甘味増強物質をデザインする上で非常に有用な知見であると言える.Ago-PAMをショ糖をはじめとした甘味料に微量添加することで,味質を保ちつつも甘味料の使用量を減らすことが可能であるため,人工甘味料ではない新たな低カロリー戦略となることが期待される.

Reference

1) M. Winnig, B. Bufe, N. A. Kratochwil, J. P. Slack & W. Meyerhof: BMC Struct. Biol., 7, 66 (2007).

2) T. Nakagita, T. Matsuya, M. Narukawa, T. Kobayashi, T. Hirokawa & T. Misaka: Biosci. Biotechnol. Biochem., 87, zbad133 (2023).

3) P. Jiang, M. Cui, B. Zhao, L. A. Snyder, L. M. J. Benard, R. Osman, M. Max & R. F. Margolskee: J. Biol. Chem., 280, 34296 (2005).

4) P. Jiang, M. Cui, B. Zhao, Z. Liu, L. A. Snyder, L. M. J. Benard, R. Osman, R. F. Margolskee & M. Max: J. Biol. Chem., 280, 15238 (2005).

5) T. Nakagita, A. Ishida, T. Matsuya, T. Kobayashi, M. Narukawa, T. Hirokawa, M. Hashimoto & T. Misaka: PLoS One, 14, e0213552 (2019).

6) K. Sanematsu, Y. Kusakabe, N. Shigemura, T. Hirokawa, S. Nakamura, T. Imoto & Y. Ninomiya: J. Biol. Chem., 289, 25711 (2014).

7) E. L. Maillet, R. F. Margolskee & B. Mosinger: J. Med. Chem., 52, 6931 (2009).

8) T. Nakagita, C. Taketani, M. Narukawa, T. Hirokawa, T. Kobayashi & T. Misaka: Chem. Senses, 45, 667 (2020).

9) H. Wu, C. Wang, K. J. Gregory, G. W. Han, H. P. Cho, Y. Xia, C. M. Niswender, V. Katritch, J. Meiler, V. Cherezov et al.: Science, 344, 58 (2014).

10) A. Koehl, H. Hu, D. Feng, B. Sun, Y. Zhang, M. J. Robertson, M. Chu, T. S. Kobilka, T. Laeremans, J. Steyaert et al.: Nature, 566, 79 (2019).

注1 GPCRの残基の位置を示すgeneric residue numberingという表記法.X番目のヘリックスにおいて最も保存性の高い残基をX.50とし,その残基よりN末端側残基をX.49, X.48…,C末端側の残基をX.51, X.52と表示する.T1R3にはclass C GPCRのgeneric residue numberingを採用している.