Kagaku to Seibutsu 62(5): 226-232 (2024)
解説
脳-腸-腸内細菌相関研究を通じた健康寿命の延伸
精神疾患に関与する腸内細菌と,ビフィズス菌による予防の可能性
Extending Healthy Life Expectancy Through the Study of Brain-Gut-Microbiota Axis: Gut Microbiota Involved in Psychiatric Disorder and Potential for Prevention by Bifidobacterium
Published: 2024-05-01
脳腸相関は200年以上前に提唱された,脳と腸が相互に影響を及ぼすという概念である.日本語でも,「怒ること」を「腹を立てる」と表現したり,「納得すること」を「腑(腹)に落ちる」と表現するように,脳と腸の密接な関係性が示唆されていた.近年,腸内細菌叢のバランスが乱れた状態(Dysbiosis)が生活習慣病やアレルギー,がんなどの発症に関与することが明らかになり,精神疾患と腸内細菌叢の関連にも注目が集まっている.本稿では,まず精神疾患の発症に腸内細菌がどのように関与するのか,最新の基礎研究を概説した後,精神疾患患者の腸内細菌叢の特徴に関する疫学研究に触れ,最後に我々が研究しているビフィズス菌MCC1274(Bifidobacterium breve MCC1274またはB. breve A1)の可能性について紹介する.
Key words: 脳腸相関; 腸内細菌; ビフィズス菌MCC1274; 精神疾患; 認知機能
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© 2024 公益社団法人日本農芸化学会
緊張時など脳がストレスを感じると蠕動運動が変化し,下痢や便秘が生じうるように,脳と腸の関連性は経験則的に認められていたが,腸内細菌が脳機能にどのような影響を与えるかは,長らく解明されていなかった.2000年代になると様々な病態モデル動物が作製され,それらの無菌動物の病態や行動異常が評価されるようになった(1)1) 伊藤喜久治:腸内フローラと健康—乳幼児期のフローラの重要性—, https://www.nyusankin.or.jp/wp/wp-content/uploads/2019/12/Nyusankin_505_a-1.pdf, 2019..例えば野生型の無菌マウスでは,腸内に常在菌を有するSPF(Specific pathogen free)マウスと比較して,神経細胞の増殖を促すBDNF(Brain-derived neurotrophic factor)の発現量が海馬や前頭葉で低下し,多動などの不安様行動を示すこと(2)2) R. Diaz Heijtz, S. Wang, F. Anuar, Y. Qian, B. Björkholm, A. Samuelsson, M. L. Hibberd, H. Forssberg & S. Pettersson: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 3047 (2011).や,筋萎縮性側索硬化症(ALS, Amyotrophic lateral sclerosis)モデルの無菌マウスでは,予後が悪くなり生存率が低下すること(3)3) E. Blacher, S. Bashiardes, H. Shapiro, D. Rothschild, U. Mor, M. Dori-Bachash, C. Kleimeyer, C. Moresi, Y. Harnik, M. Zur et al.: Nature, 572, 474 (2019).,アルツハイマー病モデルの無菌マウスでは,海馬におけるアミロイドβの蓄積が減少すること(4)4) N. M. Vogt, R. L. Kerby, K. A. Dill-McFarland, S. J. Harding, A. P. Merluzzi, S. C. Johnson, C. M. Carlsson, S. Asthana, H. Zetterberg, K. Blennow et al.: Sci. Rep., 7, 13537 (2017).などが報告された.さらに特定の微生物のみを定着させたノトバイオートマウスを用いた研究により,疾患の発症や予防に関与する腸内細菌が多く報告されるようになった.腸内細菌が存在する腸と脳は物理的に大きく離れているが,循環系や免疫系,迷走神経などの神経系を介して相互作用することが示唆されている(5)5) C. Willyard: Nature, 590, 22 (2021)..それぞれ3つの経路との関連性が示唆されている脳-腸-腸内細菌相関について,下記に概説する.
ヒト腸管には数百種,1×1014個にも及ぶ腸内細菌が常在し,二次胆汁酸や短鎖脂肪酸,トリプトファン代謝産物など多様な代謝産物が産生され,宿主に様々な影響を与える.運動ニューロンが進行的に変性するALSモデルマウスでは,上述のように無菌マウスにおいて予後が悪化したが,ニコチンアミド(NAM)単体やNAM産生能を有するAkkermansia muciniphilaノトバイオートマウスでは,血中・脳脊髄液中のNAM濃度が増加し,ALS様症状の改善や生存率の向上が認められた.さらに,ALS患者の血中・脳脊髄液中のNAM濃度は健常者と比べて有意に低く,ショットガンメタゲノム解析でもトリプトファン代謝やNAM合成に関わる遺伝子が減少していることが報告された(3)3) E. Blacher, S. Bashiardes, H. Shapiro, D. Rothschild, U. Mor, M. Dori-Bachash, C. Kleimeyer, C. Moresi, Y. Harnik, M. Zur et al.: Nature, 572, 474 (2019)..また,認知症患者の約7割を占めるアルツハイマー病は,海馬や大脳皮質にアミロイドβ等が凝集した老人班が慢性的な炎症応答を惹起し,神経細胞が脱落することが主な原因だと考えられているが,腸内細菌叢や代謝産物の変化に関しても多く報告されている.Zhouらはアルツハイマー病モデルマウスに酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸を投与すると,認知機能の低下が遅延した一方で,受容体であるGPR41,43をKOすると,海馬での神経新生が減弱し,認知機能の低下が加速することを報告した(6)6) Y. Zhou, L. Xie, J. Schröder, I. S. Schuster, M. Nakai, G. Sun, Y. B. Y. Sun, E. Mariño, M. A. Degli-Esposti, F. Z. Marques et al.: J. Neurosci., 43, 6460 (2023)..血中に吸収された短鎖脂肪酸などはトランスポーターによって血液脳関門を通過し,ミクログリアやアストロサイトの成熟や機能を調整したり,バリア機能改善作用を発揮し,神経疾患の予防や治療に寄与すると考えられている(7)7) H. Ahmed, Q. Leyrolle, V. Koistinen, O. Kärkkäinen, S. Layé, N. Delzenne & K. Hanhineva: Gut Microbes, 14, 2102878 (2022)..
腸管は細菌やウイルスなどの外来異物に恒常的に暴露されるため,腸管免疫系を構成するパイエル板や粘膜固有層には多くのリンパ球が存在し,病原細菌の体内への侵入を防ぐと同時に,食事由来成分に対する過剰な免疫反応を抑制する.この腸管免疫の発達や維持に腸内細菌が重要な役割を果たしており,Dysbiosisが生じると自己免疫疾患などの発症に繋がる可能性が報告されている.その一例として,有髄神経線維を構成する髄鞘(ミエリン鞘)に対する自己抗体が産生されてしまう多発性硬化症(MS: Multiple sclerosis)と腸内細菌叢の関連性が注目されている.MSは,知覚・感覚・運動障害をはじめとする情報伝達障害が憎悪と寛解を繰り返しながら進行する.MSのモデル動物として,実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE: Experimental autoimmune encephalomyelitis)が最も研究されており,ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG: Myelin-oligodendrocyte glycoprotein)などの自己抗原ペプチドと,アジュバントである百日咳毒素と共に投与することで中枢神経炎症が惹起される.このEAEモデルマウスに対して,アンピシリンを投与すると症状が緩和すること,腸内細菌依存的にMOG反応性T細胞が増殖したことから,アンピシリン感受性の腸内細菌がEAE発症に寄与することが示唆された.さらに,その腸内細菌としてErysipelotrichaceae OTU0002がMOG特異的T細胞のTh17細胞への分化と炎症応答を誘導すること,Lactobacillus reuteriが産生するUvrAタンパク質がMOG交叉反応性を示すことが報告された(8)8) E. Miyauchi, S. W. Kim, W. Suda, M. Kawasumi, S. Onawa, N. Taguchi-Atarashi, H. Morita, T. D. Taylor, M. Hattori & H. Ohno: Nature, 585, 102 (2020)..EAEと多発性硬化症では発症に関与する自己抗原が異なる可能性も考えられるが,ヒトにおいても同様に,腸内細菌を介した免疫応答異常が重要であることが示唆されている.
腸管神経系は脳からの指令がなくても蠕動運動などの機能を遂行できる自律神経回路を有しており,脳に次いで多くのニューロンが存在することからしばしば,「第二の脳」と呼ばれる.特に腸管での機械的・化学的刺激は,求心性迷走神経や求心性脊髄神経を介して,中枢神経系へ情報が伝達される.この求心性迷走神経を介してパーキンソン病が進行するBraak仮説が近年注目されている.パーキンソン病は中脳黒質にレビー小体が蓄積し,ニューロンが脱落することで,振戦や筋固縮などの運動障害が生じる神経変性疾患である.またレビー小体が大脳皮質に蓄積するとレビー小体型認知症を発症するため,これらの疾患はまとめてレビー小体病と呼ばれる.レビー小体は,ドーパミン作動性経路の調節に関与するαシヌクレインタンパク質が,何らかの原因により高リン酸化され,立体構造が変化して凝集能を有することで形成される.このレビー小体が中枢神経系をどのように伝播するか模式化した仮説をBraak仮説といい,嗅球や迷走神経背側核から始まり,青斑核を含む橋被蓋へ進展し,その後中脳黒質や大脳皮質へと上行すると考えられている(9)9) H. Nishiwaki, M. Ito, T. Ishida, T. Hamaguchi, T. Maeda, K. Kashihara, Y. Tsuboi, J. Ueyama, T. Shimamura, H. Mori et al.: Mov. Disord., 35, 1626 (2020)..さらにαシヌクレインの異常伝播はプリオン様の性質を有することが示唆されており,腸内細菌などの外的因子が契機となる可能性が考えられている.実際,バイオフィルム形成に関わるE. coliのcurliというタンパク質がαシヌクレインの折りたたみ構造の異常を誘発すること(10)10) T. R. Sampson, C. Challis, N. Jain, A. Moiseyenko, M. S. Ladinsky, G. G. Shastri, T. Thron, B. D. Needham, I. Horvath, J. W. Debelius et al.: eLife, 9, e53111 (2020).や,食物繊維を多く含む餌を投与すると,腸管粘膜層が増大し,αシヌクレインの異常凝集・伝播が抑制されること(11)11) K. J. Schmit, P. Garcia, A. Sciortino, V. T. E. Aho, B. Pardo Rodriguez, M. H. Thomas, J. J. Gérardy, I. Bastero Acha, R. Halder, C. Cialini et al.: Cell Rep., 42, 113071 (2023).などが報告されている.
上述のように,腸内細菌は様々な作用機序を介して,神経疾患の発症・予防に関与することが解明され始めているが,現時点ではヒトでも同様の現象が生じているかは,未解明であることが多い.その一方で,健常者と精神疾患患者の腸内細菌叢を比較した疫学研究は多く実施されている.しかし解析手法の違いや,生活様式・年齢・人種などの違いにより,個々の研究結果にはバラつきが生じるため,ここでは複数の臨床試験を総合的に評価したメタアナリシスの結果について紹介したい.腸内細菌叢の多様性指標であるChao1, Shannon, Simpson indexなどのα多様性は,アルツハイマー病や双極性障害,不安障害,強迫性障害など多くの疾患で有意に減少することが確認され,ヒトにおいてもDysbiosisが精神疾患の発症に関与することが改めて示唆された(表1表1■神経疾患患者の腸内細菌叢の多様性に関するメタアナリシス(12~15)12) C. C. Hung, C. C. Chang, C. W. Huang, R. Nouchi & C. H. Cheng: Aging (Albany NY), 14, 477 (2022).13) V. L. Nikolova, M. R. B. Smith, L. J. Hall, A. J. Cleare, J. M. Stone & A. H. Young: JAMA Psychiatry, 78, 1343 (2021).14) M. Gao, J. Wang, P. Liu, H. Tu, R. Zhang, Y. Zhang, N. Sun & K. Zhang: Transl. Psychiatry, 13, 379 (2023).15) N. Wang, X. Gao, Z. Zhang & L. Yang: Front. Endocrinol., 13, 838941 (2022).).しかし具体的な腸内細菌の変化に関するメタアナリシスは未だ少なく,アルツハイマー病患者でProteobacteriaが増加していること,パーキンソン病ではAkkermansiaが増加していること,ADHD(Attention-deficit/hyperactivity disorder)ではBlautiaが増加していることなどが報告されている(表2表2■神経疾患患者の腸内細菌叢に関するメタアナリシス(12, 14~17)12) C. C. Hung, C. C. Chang, C. W. Huang, R. Nouchi & C. H. Cheng: Aging (Albany NY), 14, 477 (2022).14) M. Gao, J. Wang, P. Liu, H. Tu, R. Zhang, Y. Zhang, N. Sun & K. Zhang: Transl. Psychiatry, 13, 379 (2023).15) N. Wang, X. Gao, Z. Zhang & L. Yang: Front. Endocrinol., 13, 838941 (2022).16) H. Nishiwaki, M. Ito, T. Ishida, T. Hamaguchi, T. Maeda, K. Kashihara, Y. Tsuboi, J. Ueyama, T. Shimamura, H. Mori et al.: Mov. Disord., 35, 1626 (2020).17) L. Iglesias-Vázquez, G. Van Ginkel Riba, V. Arija & J. Canals: Nutrients, 12, 792 (2020).).
少子高齢化が深刻化する日本などの先進諸国において,認知症患者の増加は大きな社会問題である.筆者らは脳-腸-腸内細菌相関の研究に注目し,認知機能を維持・改善するようなプロバイオティクスの探索を行い,ビフィズス菌MCC1274(B. breve MCC1274またはB. breve A1)を見出した.ビフィズス菌MCC1274はヒト乳児から単離された菌株で,腸管バリア機能改善作用や,高いβグルコシダーゼ活性などが報告されている菌株である.以降は,本菌株を使用した臨床試験結果について紹介する.
ビフィズス菌MCC1274の摂取による認知機能の維持・改善作用を検討するため,小林らはMCIの方を対象とした予備臨床試験を実施した.認知症のスクリーニング検査として使用されるミニメンタルステートテスト(MMSE)スコアが22–26点の方を対象に,ビフィズス菌MCC1274を一日あたり2×1010 cfu/日,24週間摂取させる前後比較試験を実施した.摂取開始前,摂取8週・16週・24週後の時点でMMSEにより認知機能を評価したところ,経時的にスコアが上昇し,摂取16週・24週時点で有意な改善作用が認められた.
前後比較試験により,ビフィズス菌MCC1274による認知機能改善作用が示唆されたため,50~80歳のMCIが疑われる方を対象にしたランダム化比較試験(RCT)に取り組んだ.健常者~中度認知症患者の認知機能を評価できるRBANSという神経心理学検査を実施し,総合評価点が十分に低い方の中から,MMSEスコアが22点以上の方を除外することで認知症が疑われる方を除外し,計80名に対してビフィズス菌MCC1274(2×1010 cfu/日)またはプラセボカプセルを16週間摂取させた.主要評価項目はRBANS神経心理検査のスコアとし,副次評価項目に,MCIの方の認知機能が評価可能なJMCIS(あたまの健康チェック)を採用した.介入前後でこれらのスコアを比較したところ,ビフィズス菌MCC1274摂取群ではRBANSにおいて即時記憶,視空間・構成,遅延記憶の3領域ならびに評価点合計が,JMCISにおいても評価点合計が,プラセボ摂取群と比較して有意に改善した(図1図1■ビフィズス菌MCC1274摂取による認知機能改善作用(20)).
次に筆者らは,ビフィズス菌MCC1274の作用機序を解明すべく,順天堂大学消化器内科などに来院された65歳以上のMCI患者115名を対象としたRCTを実施し,脳萎縮度や腸内細菌叢を調査した.介入前後の脳のMRI画像をVSRAD®により解析し,脳萎縮度を評価したところ,プラセボ群では全脳萎縮領域の割合(全体的な脳の萎縮割合)が有意に上昇し,脳萎縮の進行が示唆された.その一方でビフィズス菌MCC1274摂取群では,スコアの変動は認められなかった.当該スコアの変動値に関しても両群間で有意な差が認められ,ビフィズス菌MCC1274摂取による脳萎縮の進行抑制が認められた.16S rRNA遺伝子による腸内細菌叢解析では,介入後の両群間の比較ならびにビフィズス菌MCC1274摂取群の前後比較いずれにおいても,大きな変化は認められなかった.このことから,ビフィズス菌MCC1274が有する認知機能改善作用は腸内細菌叢の変化を介したものではなく,本菌株自体が直接作用することが示唆された.
以上の研究によりビフィズス菌MCC1274の摂取は,中高年の方の加齢に伴い低下する総合的な認知機能(特に記憶力に関連する即時記憶や遅延記憶,空間認識力に関連する視空間・構成)を維持・改善する可能性が示された.また,ビフィズス菌は発酵乳などの乳製品に使用された食経験が豊富であること,いずれの臨床試験においてもビフィズス菌MCC1274の摂取による有害事象は認められなかったことから,安全上の懸念は少ないと考えられる.
ではビフィズス菌MCC1274はどのようなメカニズムで認知機能を改善させるのだろうか? この問いには,本菌株を摂取した際の脳内での作用と,腸から脳へとシグナルを伝達する2点について解明する必要がある.以降はこれら2点に関する基礎研究を紹介する.
これまでの研究から,ビフィズス菌MCC1274の摂取は,記憶形成に関与する海馬において,アミロイドβの産生・蓄積抑制作用,抗炎症作用などが確認されている.まず,アミロイドβはアルツハイマー病発症の原因物質の1つと考えられており,前駆体であるAmyloid Precursor Protein(APP)が2種類のプロテアーゼによって切断されることで産生される.ビフィズス菌MCC1274はプロテアーゼの発現量・バランスを変化させることで,アミロイドβ(特に毒性の高いアミロイドβ42)の産生・蓄積を抑制することが確認されている.また,中枢神経系における免疫担当細胞であるミクログリアは,異常タンパク質を感知すると活性化し貪食する.しかし異常たんぱく質が過剰に蓄積すると,慢性的な炎症状態に陥り,炎症性サイトカインが神経細胞に対して毒性を発揮する.海馬における活性化ミクログリアをIba1による免疫染色法で定量したところ,ビフィズス菌MCC1274投与群において減少していた.さらにIL-1βやIL-6などの炎症性サイトカインも減少しており,本菌株摂取による抗炎症作用が確認された.
これまでの研究から,本菌株はいくつかの特徴的な代謝産物を産生することが解明されている.まず,ビフィズス菌は糖源から酢酸と乳酸などの有機酸を産生する偏性嫌気性菌である.また,ヒト常在性ビフィズス菌(HRB)共通の特徴としてインドール-3-乳酸(ILA)や葉酸を多く産生する.さらに,本菌株の特徴として共役リノール酸(CLA)の産生能や,高いβグルコシダーゼ活性を有している(23)23) R. Yao, C. B. Wong, K. Nakamura, E. Mitsuyama, A. Tanaka, T. Kuhara, T. Odamaki & J. Z. Xiao: Benef. Microbes, 10, 521 (2019)..本菌株の有するβグルコシダーゼはポリフェノール類等の配糖体を遊離させるため,食事由来の大豆イソフラボンであるダイジンやゲニスチンを,アグリコン型であるダイゼインやゲニステインへと変換し,体内への吸収効率を高めるのではないかと推測される.アグリコン型イソフラボンは,エストロゲンと構造上類似しており,エストロゲン様作用や抗酸化・抗炎症作用,さらに認知機能改善作用を発揮する.このような多様な代謝産物が循環系や免疫系,神経系を介して脳に作用し,認知機能を維持・改善する可能性が考えられる(図2図2■ビフィズス菌MCC1274の想定される作用機序(Biorender.comを利用して作成)).
2022年9月,アミロイドβ抗体の1種であるレカネマブ(商品名レケンビ)がMCIまたは軽度認知症の方に対して有効であることが報告され,2023年9月にはアルツハイマー病の治療薬として国内での製造販売が承認された.またPET検査や血液検査により,アルツハイマー病の早期診断・予測が可能になりつつある.認知症は一度発症してしまうと完治することは難しいが,事前にリスクを把握し,発症を遅らせることで健康寿命を延伸することが可能だと考えられている.本稿で紹介したビフィズス菌MCC1274は副作用も少なく,サプリメントや乳製品など容易に継続可能なアプリケーションに応用できる.今後もビフィズス菌MCC1274のエビデンスの蓄積が必要であるが,本菌株の摂取によって,一人でも多くの人の認知機能の維持と改善に貢献出来ればと幸いである.
Reference
1) 伊藤喜久治:腸内フローラと健康—乳幼児期のフローラの重要性—, https://www.nyusankin.or.jp/wp/wp-content/uploads/2019/12/Nyusankin_505_a-1.pdf, 2019.
5) C. Willyard: Nature, 590, 22 (2021).
15) N. Wang, X. Gao, Z. Zhang & L. Yang: Front. Endocrinol., 13, 838941 (2022).
17) L. Iglesias-Vázquez, G. Van Ginkel Riba, V. Arija & J. Canals: Nutrients, 12, 792 (2020).
18) Y. Kobayashi, T. Kinoshita, A. Matsumoto, K. Yoshino, I. Saito & J. Z. Xiao: J. Prev. Alzheimers Dis., 6, 70 (2019).
20) 40代からの認知症リスク低減機構:[最新報告1]ビフィズス菌MCC1274, https://40ninchi-risk.org/mcc1274/mcc1274-2-2/, 2021.
22) M. Abdelhamid, C. Zhou, C. G. Jung & M. Michikawa: Nutrients, 14, 2543 (2022).