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核-液胞接合部(NVJ)の新たな生理機能
環境ストレスに応答した液胞分裂の調節

Kouichi Funato

船戸 耕一

広島大学大学院統合生命科学研究科

Published: 2024-06-01

細胞という社会の中でオルガネラが他のオルガネラと互いにコミュニケーションをとりながら機能していることは以前より推察されていたが,近年,そのコミュニケーションを仲介する場として膜接触部位(membrane contact site; MCS)と呼ばれるオルガネラ間の非常に近接(10~30 nm)している部位が重要な役割を担っていることがわかってきた.小胞体は,ミトコンドリア,ゴルジ体,エンドソーム,液胞(動物ではリソソーム),ペルオキシソーム,脂肪滴,葉緑体,細胞膜などの多くのオルガネラと膜接触部位を形成し,最大の膜ネットワークを構築している.そのうち,出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeで最初に発見された膜接触部位は核-液胞接合部(nucleus-vacuole junction; NVJ)と呼ばれ,核周囲に限定した小胞体(核周囲小胞体)膜(出芽酵母ではあまり発達していないため核膜とほぼ同義である)と液胞膜が接触している領域である(1)1) X. Pan, P. Roberts, Y. Chen, E. Kvam, N. Shulga, K. Huang, S. Lemmon & D. S. Goldfarb: Mol. Biol. Cell, 11, 2445 (2000)..NVJはミクロオートファジー,脂肪滴の形成や脂質代謝,細胞休眠,液胞膜の組織化の調節など多彩な機能を司ることがわかってきたが(2~6)2) V. Kohler & S. Büttner: Contact (Thousand Oaks), 4, 25152564211016608 (2021).3) S. Rogers, H. Hariri, N. E. Wood, N. O. Speer & W. M. Henne: eLife, 10, e62591 (2021).4) T. Sharmin, T. Takuma, S. Morshed & T. Ushimaru: Biochem. Biophys. Res. Commun., 552, 1 (2021).5) D. D. Bisinski, I. Gomes Castro, M. Mari, S. Walter, F. Fröhlich, M. Schuldiner & A. González Montoro: J. Cell Biol., 221, e202103048 (2022).6) K. Sakuragi, P. Schlarmann, A. Ikeda & K. Funato: FEBS Lett., 597, 1462 (2023).,本稿では,新たにNVJが環境ストレスに応答した液胞分裂に必要であるということが明らかになったので紹介したい.

酵母や植物でみられる液胞は動物細胞のリソソームに相当するオルガネラであり,その内部には多種多様な加水分解酵素が存在し,タンパク質,核酸,脂質,糖質など様々な生体高分子を分解する機能を担っている.また,液胞は小分子を能動的に取り込み貯蔵する機能も有しており,細胞質中のpH,カルシウムイオンやアミノ酸の恒常性の維持,浸透圧ショックや栄養環境への応答など,細胞の恒常性の維持に不可欠である.細胞内外の環境に適応するため,あるいは細胞分裂時に液胞が娘細胞に受け継がれる際に,液胞は融合と分裂を繰り返してその形態(大きさ,体積,数)を変化させる.たとえば,高張液下では細胞質の容積を増加させるために液胞は分裂し,低張液下では逆に容積を減少させるために液胞同士の融合が起きる(7)7) S. C. Li & P. M. Kane: Biochim. Biophys. Acta Mol. Cell Res., 1793, 650 (2009)..液胞の分裂と融合のバランスによって細胞質の恒常性が維持されている.

筆者らは,以前に小胞体-細胞膜間の膜接触部位を形成するtether(繋留因子)タンパク質tricalbins(Tcb1p/Tcb2p/Tcb3p)が小胞体とゴルジ体との間の膜接触部位にも局在し,小胞体からゴルジ体への小胞を介さないセラミドの輸送に必要であることを明らかにした(8)8) A. Ikeda, P. Schlarmann, K. Kurokawa, A. Nakano, H. Riezman & K. Funato: iScience, 23, 101603 (2020)..この発見の過程で,tcb3Δ株やtcb1Δtcb2Δtcb3Δ株のtricalbins欠失株では,野生型に比べて液胞が1つの細胞の割合が減少し,2つ以上の液胞を持つ細胞の割合が増加するという表現型(液胞の断片化)が観察された(9)9) K. Hanaoka, K. Nishikawa, A. Ikeda, P. Schlarmann, S. Sasaki, S. Fujii, S. Yamashita, A. Nakaji, & K. Funato: eLife. 12, RP89938 (2024)..このtricalbins欠失株における液胞の断片化は,液胞同士の融合を誘導する低張液に細胞を曝した時に抑圧されたことから,液胞の断片化は液胞融合の阻害でなく液胞分裂の促進が原因であることが示唆された.次に,TCB1, TCB2, TCB3遺伝子とNVJの繋留因子であるNvj1の遺伝子NVJ1を同時に破壊すると合成増殖遅延を示すことから(10)10) P. C. Hoffmann, T. A. M. Bharat, M. R. Wozny, J. Boulanger, E. A. Miller & W. Kukulski: Dev. Cell, 51, 488 (2019).,それらが機能的に密接な関連を持っている可能性が推察されたので,筆者らはtricalbins欠失株で観察された液胞の断片化にNVJが関与しているかどうか追跡した.NVJ1TCB3を同時破壊した2重破壊株とNVJを構成する4つの遺伝子(NVJ1, NVJ2, NVJ3, MDM1)とTCB3を破壊した5重破壊株を作製し解析した結果,NVJに関与する遺伝子の破壊によって液胞の断片化が抑制されたことから,NVJがtricalbins欠失による液胞分裂に必要であることが示唆された(9)9) K. Hanaoka, K. Nishikawa, A. Ikeda, P. Schlarmann, S. Sasaki, S. Fujii, S. Yamashita, A. Nakaji, & K. Funato: eLife. 12, RP89938 (2024)..続いて,小胞体-細胞膜間や小胞体-ゴルジ体間の膜接触部位を減少させるtricalbins欠失株でセラミドの前駆体であるスフィンゴイド塩基phytosphingosine(PHS)が蓄積していたことから,PHSの関与を調べたところ,細胞内PHSの増加が液胞の分裂を誘導することがわかった.これを裏付けるように,細胞の外からPHSを加えると液胞が断片化し,その断片化はNVJ遺伝子の破壊によって抑圧された(9)9) K. Hanaoka, K. Nishikawa, A. Ikeda, P. Schlarmann, S. Sasaki, S. Fujii, S. Yamashita, A. Nakaji, & K. Funato: eLife. 12, RP89938 (2024)..以上のことから,PHSによって液胞が分裂し,その液胞分裂にNVJが深く関与していることが初めて見出された(図1図1■環境ストレスに応答した液胞分裂におけるNVJの役割).

図1■環境ストレスに応答した液胞分裂におけるNVJの役割

小胞体と細胞膜あるいは小胞体とゴルジ体との膜接触部位の減少による小胞体の機能不全,ツニカマイシンなどによって誘導される小胞体ストレスやNaCl誘導性の高浸透圧ストレスはphytosphingosine(PHS)のレベルを上昇させる.小胞体に蓄積したPHSはNVJを介して液胞へ輸送され,液胞の分裂を引き起こす.

酵母の液胞の分裂は,細胞を高張液に浸した場合に起こる(7)7) S. C. Li & P. M. Kane: Biochim. Biophys. Acta Mol. Cell Res., 1793, 650 (2009)..これは,細胞質の容積を増加させ,細胞質の浸透圧を維持させるために起こる現象であると考えられている.また,ツニカマイシンなどの小胞体ストレスを誘導する薬剤で細胞を処理した時にも液胞は分裂することが知られている(11)11) B. Stauffer & T. Powers: Mol. Biol. Cell, 26, 4618 (2015)..その生理的意義は不明であるが,細胞質の容積を増やすことで小胞体が占有できる体積が広がり小胞体ストレスが緩和されるといった,ストレスに対する応答機構が細胞に備わっているのかもしれない.細胞を高張液に浸した場合とツニカマイシンを細胞に加えた場合の両方において,細胞内のPHSレベルが増加することを筆者らは見出した(9, 12)9) K. Hanaoka, K. Nishikawa, A. Ikeda, P. Schlarmann, S. Sasaki, S. Fujii, S. Yamashita, A. Nakaji, & K. Funato: eLife. 12, RP89938 (2024).12) Y. Yabuki, A. Ikeda, M. Araki, K. Kajiwara, K. Mizuta & K. Funato: Genetics, 212, 175 (2019)..そこで,高張液に浸した時に誘導される液胞の分裂にもNVJが関与しているかどうか調べたところ,高浸透圧ストレスによる液胞分裂にもNVJが必要であることがわかった(9)9) K. Hanaoka, K. Nishikawa, A. Ikeda, P. Schlarmann, S. Sasaki, S. Fujii, S. Yamashita, A. Nakaji, & K. Funato: eLife. 12, RP89938 (2024)..以上のことから,NVJは環境ストレスを介した液胞分裂過程において機能していることが示唆された.

では,NVJは液胞の分裂過程にどのように働き,PHSはどのように分裂に関与しているのだろうか? その答えの一つとして,最近,スフィンゴイド塩基がNVJを介して小胞体と液胞の間を移動することが報告された(13)13) V. Girik, S. Feng, H. Hariri, W. M. Henne & H. Riezman: ACS Chem. Biol., 17, 1485 (2022)..スフィンゴイド塩基のde novo経路とsalvage経路に関与する酵素は殆どが小胞体に局在することから,環境ストレスによって蓄積したPHSは小胞体から濃度勾配に従って液胞へ輸送されると考えられる.このPHSの小胞体から液胞への輸送がNVJを介して起こっているのであろう.PHSは,シグナル伝達分子として機能することが知られていることから,液胞の分裂を誘導する因子を活性化,あるいは補助する働きを有しているのかもしれない.実際,PHSを介した液胞の分裂には,Fab1pやVac14pのような液胞分裂に必要な既知の因子を必要とすることも明らかになった(9)9) K. Hanaoka, K. Nishikawa, A. Ikeda, P. Schlarmann, S. Sasaki, S. Fujii, S. Yamashita, A. Nakaji, & K. Funato: eLife. 12, RP89938 (2024)..もしPHSによる液胞の分裂が分裂誘導因子の活性制御によるものでないとすれば,他の可能性として,液胞膜へのPHSの蓄積が膜構造の物理的変化を引き起こし,その結果,膜の分裂を助けるというモデルが考えられる.いずれにせよ,液胞分裂におけるPHSの役割を今後解明していく必要がある.

今回紹介した知見は,環境ストレス応答におけるオルガネラ間連携の役割を理解する上で重要である.オルガネラ間の連携に中心的な役割を果たすNVJをはじめとする膜接触部位は極めて多様な機能を有し,様々な疾患と密接に関連している(14)14) H. Hariri, R. Ugrankar, Y. Liu & W. M. Henne: Commun. Integr. Biol., 9, e1156278 (2016)..膜接触部位は,タンパク質同士あるいはタンパク質と脂質間の相互作用を介してオルガネラ間のコミュニケーションを特異的に行える場を提供すると同時に,イオンや脂質などの小分子を瞬時に輸送するのに適した部位であり,ストレスに対して即効性を発揮できる仕組みである.また,各オルガネラは独自の膜組成を有していることから,膜接触部位において,脂質が濃度勾配に依存した受動的な拡散によってのみ輸送されるとは考えにくく,選択的な能動輸送機構も存在しているはずである.今後,NVJを介した脂質の液胞への選別輸送機構と合わせて,膜接触部位と環境ストレスとの関係に関する研究に注目していきたい.

Reference

1) X. Pan, P. Roberts, Y. Chen, E. Kvam, N. Shulga, K. Huang, S. Lemmon & D. S. Goldfarb: Mol. Biol. Cell, 11, 2445 (2000).

2) V. Kohler & S. Büttner: Contact (Thousand Oaks), 4, 25152564211016608 (2021).

3) S. Rogers, H. Hariri, N. E. Wood, N. O. Speer & W. M. Henne: eLife, 10, e62591 (2021).

4) T. Sharmin, T. Takuma, S. Morshed & T. Ushimaru: Biochem. Biophys. Res. Commun., 552, 1 (2021).

5) D. D. Bisinski, I. Gomes Castro, M. Mari, S. Walter, F. Fröhlich, M. Schuldiner & A. González Montoro: J. Cell Biol., 221, e202103048 (2022).

6) K. Sakuragi, P. Schlarmann, A. Ikeda & K. Funato: FEBS Lett., 597, 1462 (2023).

7) S. C. Li & P. M. Kane: Biochim. Biophys. Acta Mol. Cell Res., 1793, 650 (2009).

8) A. Ikeda, P. Schlarmann, K. Kurokawa, A. Nakano, H. Riezman & K. Funato: iScience, 23, 101603 (2020).

9) K. Hanaoka, K. Nishikawa, A. Ikeda, P. Schlarmann, S. Sasaki, S. Fujii, S. Yamashita, A. Nakaji, & K. Funato: eLife. 12, RP89938 (2024).

10) P. C. Hoffmann, T. A. M. Bharat, M. R. Wozny, J. Boulanger, E. A. Miller & W. Kukulski: Dev. Cell, 51, 488 (2019).

11) B. Stauffer & T. Powers: Mol. Biol. Cell, 26, 4618 (2015).

12) Y. Yabuki, A. Ikeda, M. Araki, K. Kajiwara, K. Mizuta & K. Funato: Genetics, 212, 175 (2019).

13) V. Girik, S. Feng, H. Hariri, W. M. Henne & H. Riezman: ACS Chem. Biol., 17, 1485 (2022).

14) H. Hariri, R. Ugrankar, Y. Liu & W. M. Henne: Commun. Integr. Biol., 9, e1156278 (2016).