Kagaku to Seibutsu 62(6): 273-282 (2024)
解説
乳酸菌の産生する菌体外多糖の機能性とその応用
食品・医薬産業へ利用可能な機能性
Industrial Application of Lactic Acid Bacteria-Derived Exopolysaccharides: Future Potential for Application in the Pharmaceutical and Functional Food Industries
Published: 2024-06-01
細菌が多糖類(菌体外多糖)を産生している理由としては主に,細菌の凝集や接着,そして環境ストレスに対する菌体防御のためと考えられている.これら菌体外多糖を産生する細菌の中でも乳酸菌は古来より食品の発酵に利用されており,その長い食経験ゆえ,安全性が高いことが知られている.そのため安全性の担保されたこの乳酸菌が産生する菌体外多糖は汎用性が高く,様々な産業分野への利用が期待できる.またその多糖の構造は菌株レベルで異なるため,現状でも様々な機能性が報告されており,さらに新たな機能が潜在している可能性も高い.本稿では乳酸菌の菌体外多糖の機能性を利用するために有用と思われる知見を,他の微生物由来の菌体外多糖と比較しながら紹介したい.
Key words: 菌体外多糖; 乳酸菌; 物理化学的特性; 保健効果; 多糖合成酵素
© 2024 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2024 公益社団法人日本農芸化学会
菌体多糖の中でも単一の糖を構成糖とするホモ多糖体は菌からの産生量が多く(1)1) D. Abarquero, E. Renes, J. M. Fresno & M. E. Tornadijo: Int. J. Food Sci. Technol., 57, 16 (2022).,物理化学的特性に基づいた産業利用が期待される.ホモ多糖体はD-グルコースから成るα-グルカンやβ-グルカンおよびD-フルクトースから成るβ-フラクタンの3つのタイプに大別される.α-グルカンはLeuconostoc属,Weissella属およびStreptococcus属の細菌,β-フルクタンはBacillus属,Streptococcus属,Leuconostoc属およびLactobacillus属(ただし旧分類上のLactobacillus属)の細菌が主に産生する(2~5)2) W. Tang, M. Dong, W. Wang, S. Han, X. Rui, X. Chen, M. Jiang, Q. Zhang, J. Wu & W. Li: Carbohydr. Polym., 173, 654 (2017).3) G. Ye, G. Li, C. Wang, B. Ling, R. Yang & S. Huang: Carbohydr. Polym., 207, 218 (2019).4) L. Gan, G. Jiang, X. Li, S. Zhang, Y. Tian & B. Peng: Food Chem., 365, 130496 (2021).5) J. Gangoiti, X. Meng, A. Lammerts van Bueren & L. Dijkhuizen: Genome Announc., 5, e01691 (2017)..これらの多糖は菌体外に分泌される酵素によりスクロースを基質として菌体外で合成される.一方,β-グルカンはAgrobacterium属およびGluconacetobacter属など幅広い細菌が産生する(6, 7)6) N. H. Avcioglu: World J. Microbiol. Biotechnol., 38, 86 (2022).7) M. Yuan, G. Fu, Y. Sun & D. Zhang: Carbohydr. Polym., 273, 118597 (2021)..多くの場合,菌体内でのUDP-グルコースを基質とした重合反応ののちに分泌経路を介して菌体外に分泌される.
乳酸菌が産生するホモ多糖体のうち最も一般的なグルカンであるα-グルカンは,直鎖デキストラン(α-1,6グリコシド結合を主鎖とする),分岐デキストラン(デキストランに著量のα-1,2およびα-1,3グリコシド結合の分岐構造を有する),ムタン(α-1,3グリコシド結合を有する),ロイテラン(α-1,4およびα-1,6グリコシド結合の複合体)およびアルテルナン(α-1,6およびα-1,3グリコシド結合を交互にもつ)が確認されている(8~11)8) H. Leemhuis, T. Pijning, J. M. Dobruchowska, S. S. van Leeuwen, S. Kralj, B. W. Dijkstra & L. Dijkhuizen: J. Biotechol. 163, 250 (2013).9) M. S. Bounaix, V. Gabriel, S. Morel, H. Robert, P. Rabier, M. Remaud-Siméon, B. Gabriel & C. Fontagné-Faucher: J. Agric. Food Chem., 57, 10889 (2009).10) H. M. Davis, H. B. Hines & J. R. Edwards: Carbohydr. Res., 156, 69 (1986).11) S. Kralj, G. H. van Geel-Schutten, M. J. E. C. van der Maarel & L. Dijkhuizen: Microbiology (Reading), 150, 2099 (2004)..これらは糖質加水分解酵素データベース(http://www.cazy.org/)の糖質加水分解酵素ファミリー70(GH70)に属するデキストランスクラーゼ(EC 2.4.1.5),ムタンスクラーゼ(EC 2.4.1.5),ロイテランスクラーゼ,アルテルナンスクラーゼ(EC 2.4.1.140),α-4,6または4,3グルカノトランスフェラーゼ,およびブランチングスクラーゼにて合成される(12)12) X. Li, X. Wang, X. Meng, L. Dijkhuizen & W. Liu: Carbohydr. Polym., 249, 116818 (2020)..GH70のアミノ酸配列基づいた系統樹と酵素機能との関係性を解析したところ,これら機能ごとにクラスターが形成される傾向がある(図1図1■糖質加水分解酵素ファミリー70酵素のアミノ酸配列から作成した系統樹と,酵素機能の関係).
図1■糖質加水分解酵素ファミリー70酵素のアミノ酸配列から作成した系統樹と,酵素機能の関係
ただしLactobacillus属は旧分類上のLactobacillus属で,新分類のLimosilactobacillus属,Lentilactobacillus属,Latilactobacillus属が含まれる.本文中の酵素名を赤文字で示した.
GH70酵素の多くはスクロースを基質としてα-グリコシド結合を導入するが,グルカノトランスフェラーゼはデンプンを基質とするため,デンプン転換酵素としての利用が報告されている.α-4,6グルカノトランスフェラーゼはロイテランスクラーゼ(図1図1■糖質加水分解酵素ファミリー70酵素のアミノ酸配列から作成した系統樹と,酵素機能の関係, GtfAおよびGtfO; GenBank Accession No. AAU08015.1およびAAY86923.1)と同様の糖鎖(α-1,4およびα-1,6グリコシド結合の複合体)を合成するが,基質はスクロースではなくアミロースやマルトオリゴ糖である.Limosilactobacillus fermentum NCC2970由来のα-4,3グルカノトランスフェラーゼLf2970 GtfB(図1図1■糖質加水分解酵素ファミリー70酵素のアミノ酸配列から作成した系統樹と,酵素機能の関係, GenBank Accession No. AOR73699.1)においてはアミロースを基質としてα-1,3およびα-1,4グリコシド結合をもつ新規構造の多糖の合成に成功している(13, 14)13) M. Miao, B. Jiang, Z. Jin & J. N. BeMiller: Compr. Rev. Food Sci. Food Saf., 17, 1238 (2018).14) J. Gangoiti, S. S. van Leeuwen, G. J. Gerwig, S. Duboux, C. Vafiadi, T. Pijning & L. Dijkhuizen: Sci. Rep., 7, 39761 (2017)..
多くのデキストランの分子量は106以上であり,これまでに知られる最も高分子の微生物産生デキストランの一つであるOenococcus kitaharae DSM 17330由来の酵素DSR-OK(図1図1■糖質加水分解酵素ファミリー70酵素のアミノ酸配列から作成した系統樹と,酵素機能の関係, GenBank Accession No. WP_028291708.1)によって合成される多糖は1×109と報告されている.DSR-OK合成多糖は他のデキストランには見られない降伏応力を有し,高い粘度を示すことが示されている(15)15) M. Vuillemin, F. Grimaud, M. Claverie, A. Rolland-Sabaté, C. Garnier, P. Lucas, P. Monsan, M. Dols-Lafargue, M. Remaud-Siméon & C. Moulis: Carbohydr. Polym., 179, 10 (2018)..
アルテルナンはその凝集性によりナノ粒子を形成するため,高濃度溶液でも沈殿が生じない多糖である.Wangpaiboonら(16)16) K. Wangpaiboon, P. Padungros, S. Nakapong, T. Charoenwongpaiboon, M. Rejzek, R. A. Field & R. Pichyangkura: Sci. Rep., 8, 8340 (2018).はLeuconostoc citreum ABK-1由来の酵素LcALT(図1図1■糖質加水分解酵素ファミリー70酵素のアミノ酸配列から作成した系統樹と,酵素機能の関係, GenBank Accession No. AIM52834.1)にて合成したアルテルナンによる約90 nmナノ粒子形成を報告するとともに,溶液内濃度の増加に伴いゲル化し溶解度が上昇する特異な物理化学特性を見出している.
デキストランへの著量の分岐構造の付加は,ポリメラーゼ活性が低くブランチング活性の高いブランチングスクラーゼが担っている.主要なブランチングスクラーゼとしてBRS-A(GenBank Accession No. CDX66896.1)およびBRS-B(GenBank Accession No. CDX65123.1)が知られている(17, 18)17) D. Passerini, M. Vuillemin, L. Ufarté, S. Morel, V. Loux, C. Fontagné-Faucher, P. Monsan, M. Remaud-Siméon & C. Moulis: FEBS J., 282, 2115 (2015).18) M. Vuillemin, M. Claverie, Y. Brison, E. Séverac, P. Bondy, S. Morel, P. Monsan, C. Moulis & M. Remaud-Siméon: J. Biol. Chem., 291, 7687 (2016)..それぞれデキストランにα-1,2グリコシド結合およびα-1,3グリコシド結合の分岐を付与する酵素であり,付加する分岐構造は異なるがアミノ酸配列の相同性は高い(図1図1■糖質加水分解酵素ファミリー70酵素のアミノ酸配列から作成した系統樹と,酵素機能の関係).α-1,2グリコシド結合の分岐度は,ブランチングスクラーゼ存在下にてスクロース/デキストラン比を変えることにより13%から40%の範囲で調整できることが報告されており,酵素の最適な利用によってバラエティに富んだデキストランの創出が可能である(19)19) Y. Brison, E. Fabre, C. Moulis, J. C. Portais, P. Monsan & M. Remaud-Siméon: Appl. Microbiol. Biotechnol., 86, 545 (2010)..
β-フルクタンはイヌリン(β-2,1グリコシド結合)およびレバン(β-2,6グリコシド結合にβ-2,1グリコシド結合の分岐構造)に分類され,糖質加水分解酵素ファミリー68(GH68)に属するイヌロスクラーゼ(EC 2.1.4.9)およびレバンスクラーゼ(EC 2.1.4.10)にて合成される.
植物が産生するイヌリンおよびレバンの分子量はいずれも104であるが,微生物が産生するイヌリンおよびレバンの分子量は106以上であり,微生物由来のフラクタンはより高分子である(20, 21)20) R. Srikanth, C. H. Reddy, G. Siddartha, M. J. Ramaiah & K. B. Uppuluri: Carbohydr. Polym., 120, 102 (2015).21) D. Ni, W. Xu, Y. Zhu, W. Zhang, T. Zhang, C. Guang & W. Mu: Biotechnol. Adv., 37, 306 (2019)..レバンは非常に低い固有粘度を有しており(22)22) J. Ehrlich, S. S. Stivala, W. S. Bahary, S. K. Garg, L. W. Long & E. Newbrun: J. Dent. Res., 54, 290 (1975).,Hundchellらは分子量の増加に伴い固有粘度が減少するポリマーであることを報告している(23)23) C. S. Hundschell, F. Jakob & A. M. Wagemans: Int. J. Biol. Macromol., 161, 398 (2020)..
レバンスクラーゼやイヌロスクラーゼにより合成された高分子フルクタンにおいて,Bacillus velezensis BM-2由来のレバンを添加したヨーグルトの保水能力や安定性が改善することや植物イヌリンと比べてゲル化能力や保存安定性が向上することなど,顕著な違いが確認されている(24, 25)24) D. Ni, Y. Zhu, W. Xu, X. Pang, J. Lv & W. Mu: J. Agric. Food Chem., 68, 5854 (2020).25) M. Xu, L. Pan, Z. Zhou & Y. Han: Carbohydr. Polym., 291, 119519 (2022)..フルクタン合成酵素の利用例として,ラクトスクロースの産生が挙げられる.ラクトスクロース(4G-β-D-galactosylsucrose)は基質特異性の幅広いArthrobacter sp. K-1株由来のレバンスクラーゼにて工業的に産生されている.この酵素合成ラクトスクロースについては,寺本らにより腸内カルシウム吸収を促進することが確認され,Kimuraらによって体脂肪の蓄積を阻害することが確認されている(26~29)26) 荒川勝隆,青山葉子,池田 宏,三國克彦,藤田孝輝,原 耕三:J. of Appl. Glycosci., 49, 63 (2002).27) Y. Kimura, Y. Nagata, C. W. Bryant & R. K. Buddington: J. Nutr., 132, 80 (2002).28) F. Teramoto, K. Rokutan, Y. Sugano, K. Oku, E. Kishino, K. Fujita, K. Hara, K. Kishi, M. Fukunaga & T. Morita: J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo), 52, 337 (2006).29) K. Fujita, T. Ito & E. Kishino: Seito Gijutsu Kenkyukaishi, 57, 13 (2009)..
微生物が菌体外に分泌するβ-グルカンに限るとバクテリアセルロース(β-1,4グリコシド結合),カードラン(β-1,3グリコシド結合)および混合結合型のβ-グルカン(β-1,4グリコシド結合とβ-1,3グリコシド結合の混合物)に分類される.β-グルカンの産生にはβ-グルカン合成酵素遺伝子クラスター上にコードされる酵素群が複合的に作用し,それぞれ主鎖構造の形成には糖転移酵素ファミリー2(GT2)に属する酵素であるバクテリアセルロースシンターゼ(BcsA),カードランシンターゼ(CrdS)およびBgsAによりβ-グルカンが合成され,その後,分泌に関わる酵素にて菌体外へと分泌される(図2図2■β-グルカン合成までの模式図)(30~33)30) U. Römling & M. Y. Galperin: Trends Microbiol., 23, 545 (2015).31) S. J. Stasinopoulos, P. R. Fisher, B. A. Stone & V. A. Stanisich: Glycobiology, 9, 31 (1999).32) D. Pérez-Mendoza, M. Á. Rodríguez-Carvajal, L. Romero-Jiménez, G. A. Farias, J. Llore, M. T. Gallegos & J. Sanjuán: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 112, E757 (2015).33) P. Jacek, F. Dourado, M. Gama & S. Bielecki: Microb. Biotechnol., 12, 633 (2019)..バクテリアセルロースはナノフィブリル構造により独特な物理的,機械的特性を有し,高い生体適合性や生分解性から医療分野において応用利用されている(6, 34)6) N. H. Avcioglu: World J. Microbiol. Biotechnol., 38, 86 (2022).34) P. V. Navya, V. Gayathri, D. Samanta & S. Sampath: Int. J. Biol. Macromol., 220, 435 (2022)..また,バクテリアセルロースは様々な修飾を施されることにより,新たな性質が付与される.Dincăらは酸化亜鉛ナノ粒子を蒸着させたバクテリアセルロース膜がグラム陽性およびグラム陰性菌に対する抗菌活性やヒト真皮線維芽細胞に対する生体適合性を有することを報告している(35)35) V. Dincă, A. Mocanu, G. Isopencu, C. Busuioc, S. Brajnicov, A. Vlad, M. Icriverzi, A. Roseanu, M. Dinescu, M. Stroescu et al.: Arab. J. Chem., 13, 3521 (2020)..
バクテリアセルロースは不純物が含まれておらず,植物セルロースに比べ容易に純粋なセルロースを回収できる.しかし,工業規模での生産には高価であることが課題とされており,安価な条件での生産に向けてバクテリアセルロース産生細菌のスクリーニング,培地条件の最適化,および合成に関わる酵素の過剰発現にて収量を増やす研究が多くなされている(36, 37)36) L. Yang, X. Zhu, Y. Chen & J. Wang: Int. J. Biol. Macromol., 260, 129552 (2024).37) M. U. Rani, N. K. Rastogi & K. A. Anu Appaiah: J. Microbiol. Biotechnol., 21, 739 (2011)..
カードランは特異なゲル化特性を有しており,80°C以上の加熱後に冷却すると熱不可逆的な高硬化性ゲルとなるが,55°Cの加熱では,熱可逆的な低硬化性のゲルとなることが確認されている(38)38) C. Laroche & P. Michaud: Recent Pat. Biotechnol., 1, 59 (2007)..
乳酸菌の産生する菌体外多糖の有するヒトへの保健効果が注目されて久しい.ヒトへの保健効果の誘導には,腸内細菌を介した間接的作用と,腸内細菌を介さない直接的作用とがあり,いずれの作用も菌体外多糖の構造と誘導される機能との相関の解明が,意欲的に進められている.乳酸菌の菌体外多糖および先行して研究されている他の微生物由来の菌体外多糖の保健効果について紹介する.
腸内細菌を介した間接的作用には,菌体外多糖が有用な腸内細菌の増殖を促し,有益な代謝産物または活性成分の産生を促すことに起因する.ヒトの消化酵素で分解されない難消化性の菌体外多糖は,いわゆるプレバイオティクス(ヒト消化管で分解されず,腸内の有益な細菌の選択的な栄養源となり,それらの増殖を促進する成分)として腸内細菌による発酵の基質となり,主たる代謝産物として酢酸,プロピオン酸,酪酸などの短鎖脂肪酸に変換される(39, 40)39) A. Koh, F. De Vadder, P. Kovatcheva-Datchary & F. Bäckhed: Cell, 165, 1332 (2016).40) J. Miyamoto, H. Shimizu, K. Hisa, C. Matsuzaki, S. Inuki, Y. Ando, A. Nishida, A. Izumi, M. Yamano, C. Ushiroda et al.: Gut Microbes, 15, 2161271 (2023)..これら短鎖脂肪酸は,宿主が発現するGタンパク質共役受容体への作用,またはヒストンアセチル化亢進などのエピジェネティックな作用を介して,粘膜免疫系の増強,食物アレルギーの抑制,心血管疾患リスクの低減,摂食調節などの脳—腸相関を介した代謝改善などの健康の維持・増進に寄与する(41, 42)41) A. Nogal, A. M. Valdes & C. Menni: Gut Microbes, 13, 1897212 (2021).42) B. Dalile, L. Van Oudenhove, B. Vervliet & K. Verbeke: Nat. Rev. Gastroenterol. Hepatol., 16, 461 (2019)..
腸内細菌を介した保健効果の誘導には,腸内細菌による代謝が必要となるため,機能性の発現には腸内細菌に影響を与えるに足る投与量が必要になる.例えばイヌリンなどのプレバイオティクスの場合,マウス試験では250 mg/day投与量で腸内における有益菌増殖効果が認められており(43)43) N. Takemura, K. Ozawa, N. Kimura, J. Watanabe & K. Sonoyama: Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 375 (2010).,ヒトへの用量は4~24 g/dayである(44, 45)44) M. Roberfroid: J. Nutr., 137(Suppl 2), 830S (2007).45) J. Tarini & T. M. Wolever: Appl. Physiol. Nutr. Metab., 35, 9 (2010)..そのため,プレバイオティクスとしての菌体外多糖の利用は,菌の他の代謝過程と競合する糖ヌクレオチドを基質として生産されるヘテロ多糖体よりも,糖加水分解酵素による触媒作用を利用して合成されるホモ多糖体またはその合成酵素の利用が,生産量において有利と考えられている.前述のArthrobacter sp. K-1株由来のレバンスクラーゼによって工業的に産生されているラクトスクロースは,6 g/dayを摂取することでヒト腸内のビフィズス菌を選択的に増やすことが報告されている(46)46) T. Ohkusa, Y. Ozaki, C. Sato, K. Mikuni & H. Ikeda: Digestion, 56, 415 (1995)..動物に対し有用機能を発揮するプレバイオティクスとしてデキストランに着眼した研究例も散見される.Sarbiniらは(47)47) S. R. Sarbini, S. Kolida, T. Naeye, A. Einerhand, Y. Brison, M. Remaud-Simeon, P. Monsan, G. R. Gibson & R. A. Rastall: Appl. Environ. Microbiol., 77, 5307 (2011).,α-1,2グリコシド結合による分岐がデキストランの総食物繊維量の増加につながり,ヒト糞便培地における消化率を低下させることを示している.さらに,te Poeleらは市販ラット腸アセトン粉末を使用したグルコース生成速度の測定によりα-1,3グリコシド結合の増加に伴い消化率が低下することを確認している(48)48) E. M. te Poele, S. G. Corwin, B. R. Hamaker, L. M. Lamothe, C. Vafiadi & L. Dijkhuizen: J. Agric. Food Chem., 68, 6664 (2020)..これらの報告は,分岐構造が付与されることによりデキストランが腸管のグルコシダーゼによる分解に対して耐性を得ることを示している.
Leuconostoc mesenteroides NTM048株の産生する菌体外多糖(LmEPS)は主としてGH70酵素によって合成される4%のα-1,3グルコシド結合を含むα-1,6グルカンを主成分としている(49)49) C. Matsuzaki, C. Takagaki, Y. Tomabechi, L. S. Forsberg, C. Heiss, P. Azadi, K. Matsumoto, T. Katoh, K. Hosomi, J. Kunisawa et al.: Carbohydr. Res., 448, 95 (2017)..Miyamoto(50)50) J. Miyamoto, H. Shimizu, K. Hisa, C. Matsuzaki, S. Inuki, Y. Ando, A. Nishida, A. Izumi, M. Yamano, C. Ushiroda et al.: Gut Microbes, 15, 2161271 (2023).らによってこのLmEPSは腸内細菌Bacteroides ovatus, Bacteroides stercoris, Bacteroides thetaiotaomicron, Muribaculum intestinale, Paramuribaculum intestinale, Duncaniella murisの増殖を促し,腸内の短鎖脂肪酸(酢酸,プロピオン酸)を増加させて,肥満抑制に寄与することを明らかにされた.
我々の研究室では,α-1,6グルカンの分子サイズが機能性与える影響を調べている(図3図3■α-グルカンの腸内細菌による資化性の比較).LmEPSまたはこのLmEPSを合成するGH70酵素のひとつであるGtf1(図1図1■糖質加水分解酵素ファミリー70酵素のアミノ酸配列から作成した系統樹と,酵素機能の関係 GenBank Accession No. GIM17548.1)から合成した長鎖のα-1,6グルカン(それぞれ1.0×107または3.1×106)においては,Miyamotoら(50)50) J. Miyamoto, H. Shimizu, K. Hisa, C. Matsuzaki, S. Inuki, Y. Ando, A. Nishida, A. Izumi, M. Yamano, C. Ushiroda et al.: Gut Microbes, 15, 2161271 (2023).の結果と同様,腸内細菌B. ovatus, B. stercoris, B. thetaiotaomicronが生育し腸内の代謝改善に寄与する効果が期待される結果が得られた.興味深いことに,2.0×105以下の分子サイズでは,上記細菌に加えて心血管疾患予防効果などが報告されているParabacteroides属(51)51) S. Qiao, C. Liu, L. Sun, T. Wang, H. Dai, K. Wang, L. Bao, H. Li, W. Wang, S. J. Liu et al.: Nat. Metab., 4, 1271 (2022).の増殖にも寄与していた.菌体外多糖の分子サイズが腸内細菌の選択的増殖に直接影響することが示唆される.一方,LmEPSを合成する他のGH70酵素Gtf2(図1図1■糖質加水分解酵素ファミリー70酵素のアミノ酸配列から作成した系統樹と,酵素機能の関係 GenBank Accession No. GIM17549.1)から合成したα-1,3/1,6グルカンは腸内細菌によって資化されず(図3図3■α-グルカンの腸内細菌による資化性の比較),腸内細菌を介した間接的な保健効果は期待できない一方,直接的な保健効果が認められた(次節参照).
図3■α-グルカンの腸内細菌による資化性の比較
各α-グルカンに対する菌の生育を,糖源未含有培地との濁度(OD600)の比で測定.4.0×104 α-1,6グルカン:Sigma D1662, 2.0×105 α-1,6グルカン:Sigma 31398, 3.1×106 α-1,6グルカン:酵素Gtf1より合成,1.0×107 α -1,6グルカン:LmEPS, α-1,3/1,6グルカン:酵素Gtf2より合成.
近年,糖ヌクレオチドを基質とする糖転移酵素を利用したヒトミルクオリゴ糖の生産が遺伝子組換え大腸菌や酵母を用いてg/L単位で可能となっており(52)52) D. S. K. Palur, S. R. Pressley & S. Atsumi: Molecules, 28, 1491 (2023).,今後,ホモ多糖体の利用だけではなく安価なヘテロ多糖体生産系の構築も可能となることが予想される.
免疫刺激物質(アジュバント)とは免疫細胞表面に発現しているパターン認識受容体によって認識されて免疫細胞を活性化する成分であり,自然免疫を誘導して宿主の免疫力を増強する効果のみならず,ワクチンによる免疫応答を高めて抗体産生を効果的に誘導する成分としての利用が注目されている.これまでの菌体外多糖の免疫細胞への刺激の効果を評価した報告から(表1表1■菌体外多糖の構造と認識するパターン認識受容体),菌体外多糖もパターン認識受容体によって認識され,直接的に免疫細胞を刺激する効果が報告されている.しかしながら菌体外多糖を認識するパターン認識受容体の種類およびその後の機能性誘導経路は一様ではない.
構造 | 菌株 | パターン認識受容体(PRR) | PRR発現細胞 | 免疫誘導活性 | 参照文献 |
---|---|---|---|---|---|
Zymosan Depleted, particulate β-1,3/1,6-glucan, particle size 3 µm, 240 kDa | Saccharomyces cerevisiae | TLR2, 4 and 5 when co-bound together to Dectin-1 | HEK, THP-1 macrophage cell | stimulation of Dectin-1 signal via TLR4 inhibition of Dectin-1 signal via TLR2 and 5 | 56 |
α-1,6 glucan containing 4% of α-1,3 linked glucose and 6% of β-fructan | Leuconostoc mesenteroides NTM048 | TLR2, TLR4, TLR5 | Induction of antigen-specific IgA | 50, 62 | |
mannose (88%) and glucose (11.9%) | Bacillus subtilis | TLR4 | bone marrow-derived dendritic cells | induction of anti-inflammatory M2 macrophage, suppression of T-cell activation by induction of inhibitory dendritic cells | 63, 64 |
galactofuranose, galactopyranose, and N-acetylgalactosamine (1 : 1 : 2), 500 kDa | Thermus aquaticus YT-1 | TLR2 | RAW264.7 macrophages | induction of nitric oxide, TNF-α, and IL-6 | 66 |
branched hexasaccharide repeating unit containing two galactose and two glucose moieties, galacturonic acid, and the 6-deoxy-L-talose | Bifidobacterium longum 35624 | TLR2 | dendritic cells, inflammatory preclinical model | suppression of pro-inflammatory responses by increasing regulatory T-cells and IL-10 production | 67, 68 |
murine bone marrow derived osteoclast precursors | inhibitory effect on bone-resorbing osteoclast formation by stimulation of TLR2/MyD88 signaling | 69, 70 | |||
zwitterionic polysaccharides possessing free amino, N-acetyl, and carboxyl groups (polysaccharide A) | Bacteroides fragilis NCTC9343 | TLR2 | BALB/c mice | Treg induction and IL-10 expression through TLR2 signaling | 71, 72 |
galactosamine, glucosamine, glucose, mannose, and glucuronic acid with a molar ratio of 1 : 1.4 : 4 : 9.6 : 2, 3.84×105Da | Lactobacillus plantarum NCU116 | TLR2 | mouse epithelial colorectal carcinoma cell line CT26 | the activation of TLR2 and JNK/c-Jun dependent Fas/FasL-mediated apoptotic pathway | 73 |
Acidicl extracellular polysaccharide | Lactobacillus delbrueckii TUA4408L | TLR4 | porcin intestinal epithelial cells | down-regulation of expression of IL-8, IL-6, and MCP-1 | 74 |
Neutral extracellular polysaccharide | Lactobacillus delbrueckii TUA4408L | TLR2, TLR4 | porcin intestinal epithelial cells | down-regulation of expression of IL-8, IL-6, and MCP-1 | 74 |
Neutral extracellular polysaccharide | Lactobacillus plantarum N14 | TLR2 | porcin intestinal epithelial cells | down-regulation of expression of MCP-1 | 75 |
Acidic extracellular polysaccharide | Lactobacillus plantarum N14 | RP105, TLR4 | porcin intestinal epithelial cells | down-regulation of expression of IL-8, IL-6, and MCP-1 | 75 |
Saccharomyces cerevisiae由来の微粒子状のβ-グルカン(β-1,3/1,6グリコシド結合)は,マウス皮内投与試験において牛血清由来のアルブミン特異的IgG抗体を誘導する効果が(53)53) V. K. Berner, M. E. Sura & K. W. Hunter Jr.: Appl. Microbiol. Biotechnol., 80, 1053 (2008).,マウス皮下投与試験においてオボアルブミン特異的IgGを誘導する効果が報告されており(54)54) H. Huang, G. R. Ostroff, C. K. Lee, C. A. Specht & S. M. Levitz: MBio, 1, e00164 (2010).,獲得免疫系を誘導してワクチンによる抗体産生を高めるアジュバントとして期待される.β-グルカンはDectin-1(dendritic cell-associated C-type lectin-1),CR3(complement receptor 3),TLR(Toll like receptor)2, 4, 5などのパターン認識受容体によって認識される(55, 56)55) P. Kanjan, N. M. Sahasrabudhe, B. J. de Haan & P. de Vos: J. Funct. Foods, 37, 433 (2017).56) A. B. C. Samuelsen, J. Schrezenmeir & S. H. Knutsen: Mol. Nutr. Food Res., 58, 183 (2014)..Dectin-1においては,受容体の細胞外ドメインであるC-typeレクチンドメインにて認識されると考えられているが詳細な結合機序は未だ明らかではない.β-グルカンの結合によりDectin-1の細胞内ドメインであるITAM(immunoreceptor tyrosine-based-activation motif)の2量体構造が安定化して,下流のSyk(spleen tyrosine kinase)依存経路またはSky非依存経路のシグナルが活性化し,いずれの経路でもNF-κB(nuclear factor-κB)による転写を誘導するが,この場合,貪食活性と細胞障害活性が向上する(57)57) T. Haas, S. Heidegger, A. Wintges, M. Bscheider, S. Bek, J. C. Fischer, G. Eisenkolb, M. Schmickl, S. Spoerl, C. Peschel et al.: Eur. J. Immunol., 47, 872 (2017)..アジュバント効果に重要な獲得免疫を誘導するためには,Dectin-1による刺激とともにTLRとそのアダプター分子MyD88(myeloid differentiation factor 88)を介したシグナルが必要となる(58)58) N. M. Sahasrabudhe, J. Dokter-Fokkens & P. de Vos: Mol. Nutr. Food Res., 60, 2514 (2016)..さらにβ-グルカンは補体受容体CR3(補体分子iC3bのレセプター)へも結合し,CR3によるシグナルを増強することが知られている.マクロファージによって貪食された粒子状のβ-グルカンは,未だ解明されていない経路によって小分子の可溶性β-グルカン(約25 kDa)に分解された後,このマクロファージから放出される.続いてその小分子β-グルカンは好中球の発現するCR3のレクチンドメインに結合し,CR3の異なるドメイン(I-ドメイン)に結合する補体分子iC3bと協調してSyk-PI3K(phosphatidylinositol 3-kinase)経路を刺激し好中球の細胞障害性を増強する(59)59) X. M. O’Brien, K. E. Heflin, L. M. Lavigne, K. Yu, M. Kim, A. R. Salomon & J. S. Reichner: J. Biol. Chem., 287, 3337 (2012)..このようにマクロファージによって部分分解された高分子菌体外多糖の分解産物が,パターン認識受容体のリガンドとなるような免疫刺激経路が他にもあると考えられ,他の菌体外多糖への研究の展開が求められる.
L. mesenteroides NTM048の産生する菌体外多糖LmEPS成分のうち,前述したGtf2(図1図1■糖質加水分解酵素ファミリー70酵素のアミノ酸配列から作成した系統樹と,酵素機能の関係 GenBank Accession No. GIM17549.1)から合成したα-1,3/1,6グルカンは腸内細菌によって資化されない多糖である.マウスへの経鼻感作試験によってオボアルブミン特異的抗体を気道粘膜に誘導できることから(60)60) C. Matsuzaki, Y. Nakashima, I. Endo, Y. Tomabechi, Y. Higashimura, S. Itonori, K. Hosomi, J. Kunisawa, K. Yamamoto & K. Hisa: Gut Microbes, 13, 1949097 (2021).,やはり粘膜ワクチンによる抗体産生効果を高めるアジュバントとして期待されている.LmEPSの刺激を受けた樹状細胞において,IL-6, IL-10, IL-12およびレチナール脱水素酵素遺伝子の発現が上昇し,T細胞を介した抗体産生誘導経路によって抗原特異的抗体の産生が上昇する(49, 61)49) C. Matsuzaki, C. Takagaki, Y. Tomabechi, L. S. Forsberg, C. Heiss, P. Azadi, K. Matsumoto, T. Katoh, K. Hosomi, J. Kunisawa et al.: Carbohydr. Res., 448, 95 (2017).61) C. Matsuzaki, C. Takagaki, Y. Higashimura, Y. Nakashima, K. Hosomi, J. Kunisawa, K. Yamamoto & K. Hisa: Biosci. Biotechnol. Biochem., 82, 1647 (2018)..HEK-298細胞を用いたレポーターアッセイによる検討からこの多糖はTLR2, 4, 5などのパターン認識受容体によって認識される成分であることが明らかになっており(未発表データ),β-グルカンとは異なる経路によって抗原特異的抗体が誘導されていると考えられる.
腸内の病原体に起因するアレルギー症状や大腸炎を抑制する効果を有するBacillus subtilis由来の菌体外多糖(構成糖:マンノース,グルコース)はパターン認識受容体の一つTLR4のリガンドである.この多糖は樹状細胞の発現するTLR4を介してL-トリプトファンからのキヌレニン生合成を促進するIDO(indoleamine 2,3-dioxygenase)を誘導し,キヌレニンは転写因子AhR(aryl hydrocarbon receptor)との複合体形成を介して免疫抑制性樹状細胞(tolerogenic DC)の誘導とそれに伴うT細胞の増殖抑制に寄与する(62, 63)62) S. E. Jones, M. L. Paynich, D. B. Kearns & K. L. Knight: J. Immunol., 192, 4813 (2014).63) J. Zamora-Pineda, O. Kalinina, A. I. Sperling & K. L. Knight: J. Immunol., 211, 1232 (2023)..それに対し同じTLR4のリガンドであるグラム陰性菌由来のリポ多糖(LPS)による刺激では,TLR4と炎症反応を促進する補助レセプターCD14との会合により,炎症性サイトカインが誘導される(63, 64)63) J. Zamora-Pineda, O. Kalinina, A. I. Sperling & K. L. Knight: J. Immunol., 211, 1232 (2023).64) K. L. Chan, K. F. Wong & J. M. Luk: World J. Gastroenterol., 15, 4745 (2009)..
Toll-like receptor(TLR)2も菌体外多糖を認識する受容体である.Thermus aquaticus由来のヘテロ多糖体(構成糖:ガラクトフラノース,ガラクトピラノース,N-アセチルガラクトサミン)はTLR2のリガンドであり,アダプター分子MyD88/TIRAP(Toll-interleukin 1 receptor domain containing adaptor protein)を介して転写因子NF-κBを活性化し,マクロファージによる炎症性サイトカイン(IL-6, TNF-α)や一酸化窒素の産生を誘導する(65)65) M. H. Lin, Y. L. Yang, Y. P. Chen, K. F. Hua, C. P. Lu, F. Sheu, G. Lin, S. S. Tsay, S. M. Liang & S. H. Wu: J. Biol. Chem., 286, 17736 (2011)..一方Bifidobacterium longum 35624株由来のヘテロ多糖体(構成糖:ガラクトース,グルコース,ガラクツロン酸,6-デオキシ-L-タロース)もTLR2のリガンドであるが,IL-6とともに抑制性のサイトカインIL-10も誘導し,炎症抑制に寄与する.また本多糖体によるTLR2の刺激はMyD88を介して破骨細胞分化を抑制して骨粗鬆症リスクを軽減することも報告されている(66~69)66) E. Schiavi, M. Gleinser, E. Molloy, D. Groeger, R. Frei, R. Ferstl, N. Rodriguez-Perez, M. Ziegler, R. Grant, T. F. Moriarty et al.: Appl. Environ. Microbiol., 82, 7185 (2016).67) E. Schiavi, S. Plattner, N. Rodriguez-Perez, W. Barcik, R. Frei, R. Ferstl, M. Kurnik-Lucka, D. Groeger, R. Grant, J. Roper et al.: Benef. Microbes, 9, 761 (2018).68) A. Wallimann, M. Hildebrand, D. Groeger, B. Stanic, C. A. Akdis, S. Zeiter, R. Geoff Richards, T. Fintan Moriarty, L. O’Mahony & K. Thompson: Calcif. Tissue Int., 108, 654 (2021).69) F. Altmann, P. Kosma, A. O’Callaghan, S. Leahy, F. Bottacini, E. Molloy, S. Plattner, E. Schiavi, M. Gleinser, D. Groeger et al.: PLoS One, 11, e0162983 (2016)..Bacteroides fragilisの産生する両性イオン多糖ポリサッカライドAはTLR2のシグナルを介して制御性T細胞のマスター転写因子Foxp3(Forkhead Box transcription factor protein)を誘導する.制御性T細胞はIL-10を産生してTh17細胞を抑制,大腸炎抑制に寄与する(70, 71)70) J. L. Round & S. K. Mazmanian: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 12204 (2010).71) A. O. Tzianabos, R. W. Finberg, Y. Wang, M. Chan, A. B. Onderdonk, H. J. Jennings & D. L. Kasper: J. Biol. Chem., 275, 6733 (2000)..Lactiplantibacillus plantarum NCU116株由来のヘテロ多糖体(構成糖:ガラクトサミン,グルコサミン,グルコース,マンノース,グルクロン酸)も,マウス大腸がん細胞株に発現するTLR2を介してJNK(c-Jun N-terminal kinase)/ c-Jun経路を刺激し,転写制御因子c-Junはデス因子Fasリガンドの発現を誘導してガン細胞のアポトーシスを誘導する(72)72) X. Zhou, T. Hong, Q. Yu, S. Nie, D. Gong, T. Xiong & M. Xie: Sci. Rep., 7, 14247 (2017)..
同じ菌株が産生した菌体外多糖でも酸性多糖と中性多糖では関与するパターン認識受容体が異なることが,ブタ腸管上皮細胞株を用いた研究で解析されている.Lactobacillus delbrueckii TUA4408L由来の酸性多糖はTLR4に,中性多糖はTLR2とTLR4の双方に作用することにより,TLR4/MD4複合体による炎症性シグナルを負に制御して,IL-8, IL-6, MCP-1(Monocyte chemotactic protein 1)を低下させる(73)73) S. Wachi, P. Kanmani, Y. Tomosada, H. Kobayashi, T. Yuri, S. Egusa, T. Shimazu, Y. Suda, H. Aso, M. Sugawara et al.: Mol. Nutr. Food Res., 58, 2080 (2014)..Lactobacillus plantarum N14由来の酸性多糖はTLR4とともにTLRファミリーに属するRP105(radioprotective 105)にも作用して,IL-8, IL-6, MCP-1を抑制するが,中性多糖はTLR2に作用してMCP-1を抑制する(74)74) Y. Murofushi, J. Villena, K. Morie, P. Kanmani, M. Tohno, T. Shimazu, H. Aso, Y. Suda, K. Hashiguchi, T. Saito et al.: Mol. Immunol., 64, 63 (2015)..
経口で摂取した場合,これらパターン認識受容体によって認識される菌体外多糖類は免疫細胞を直接刺激できるため,間接的に機能性を誘導する菌体外多糖類と比較して少量の摂取量で効果を誘導することができる.酵母S. cerevisiae由来のβ-グルカンにおいて,マウスへの投与量25 mg/dayで腸管上皮細胞間リンパ球が増加し腸管免疫系を増強する効果が(75)75) C. Tsukada, H. Yokoyama, C. Miyaji, Y. Ishimoto, H. Kawamura & T. Abo: Cell. Immunol., 221, 1 (2003).,ヒトへの投与量250~900 mg /dayで上気道感染症を予防する効果が認められている(58)58) N. M. Sahasrabudhe, J. Dokter-Fokkens & P. de Vos: Mol. Nutr. Food Res., 60, 2514 (2016)..
乳酸菌の機能性が菌株レベルで異なるように,菌体外多糖の機能性も菌株レベルで異なっておりそのことが産業利用の妨げとなっていた.しかしながら近年の構造と機能性解析の発展により,適切な生産系の構築やターゲットを絞った機能の利用が可能となる知見が深化している.これら研究基盤を活用することが産業レベルの応用への近道となると考えている.
Reference
3) G. Ye, G. Li, C. Wang, B. Ling, R. Yang & S. Huang: Carbohydr. Polym., 207, 218 (2019).
4) L. Gan, G. Jiang, X. Li, S. Zhang, Y. Tian & B. Peng: Food Chem., 365, 130496 (2021).
5) J. Gangoiti, X. Meng, A. Lammerts van Bueren & L. Dijkhuizen: Genome Announc., 5, e01691 (2017).
6) N. H. Avcioglu: World J. Microbiol. Biotechnol., 38, 86 (2022).
7) M. Yuan, G. Fu, Y. Sun & D. Zhang: Carbohydr. Polym., 273, 118597 (2021).
10) H. M. Davis, H. B. Hines & J. R. Edwards: Carbohydr. Res., 156, 69 (1986).
12) X. Li, X. Wang, X. Meng, L. Dijkhuizen & W. Liu: Carbohydr. Polym., 249, 116818 (2020).
13) M. Miao, B. Jiang, Z. Jin & J. N. BeMiller: Compr. Rev. Food Sci. Food Saf., 17, 1238 (2018).
21) D. Ni, W. Xu, Y. Zhu, W. Zhang, T. Zhang, C. Guang & W. Mu: Biotechnol. Adv., 37, 306 (2019).
22) J. Ehrlich, S. S. Stivala, W. S. Bahary, S. K. Garg, L. W. Long & E. Newbrun: J. Dent. Res., 54, 290 (1975).
23) C. S. Hundschell, F. Jakob & A. M. Wagemans: Int. J. Biol. Macromol., 161, 398 (2020).
24) D. Ni, Y. Zhu, W. Xu, X. Pang, J. Lv & W. Mu: J. Agric. Food Chem., 68, 5854 (2020).
25) M. Xu, L. Pan, Z. Zhou & Y. Han: Carbohydr. Polym., 291, 119519 (2022).
26) 荒川勝隆,青山葉子,池田 宏,三國克彦,藤田孝輝,原 耕三:J. of Appl. Glycosci., 49, 63 (2002).
27) Y. Kimura, Y. Nagata, C. W. Bryant & R. K. Buddington: J. Nutr., 132, 80 (2002).
29) K. Fujita, T. Ito & E. Kishino: Seito Gijutsu Kenkyukaishi, 57, 13 (2009).
30) U. Römling & M. Y. Galperin: Trends Microbiol., 23, 545 (2015).
31) S. J. Stasinopoulos, P. R. Fisher, B. A. Stone & V. A. Stanisich: Glycobiology, 9, 31 (1999).
33) P. Jacek, F. Dourado, M. Gama & S. Bielecki: Microb. Biotechnol., 12, 633 (2019).
34) P. V. Navya, V. Gayathri, D. Samanta & S. Sampath: Int. J. Biol. Macromol., 220, 435 (2022).
36) L. Yang, X. Zhu, Y. Chen & J. Wang: Int. J. Biol. Macromol., 260, 129552 (2024).
37) M. U. Rani, N. K. Rastogi & K. A. Anu Appaiah: J. Microbiol. Biotechnol., 21, 739 (2011).
38) C. Laroche & P. Michaud: Recent Pat. Biotechnol., 1, 59 (2007).
39) A. Koh, F. De Vadder, P. Kovatcheva-Datchary & F. Bäckhed: Cell, 165, 1332 (2016).
41) A. Nogal, A. M. Valdes & C. Menni: Gut Microbes, 13, 1897212 (2021).
44) M. Roberfroid: J. Nutr., 137(Suppl 2), 830S (2007).
45) J. Tarini & T. M. Wolever: Appl. Physiol. Nutr. Metab., 35, 9 (2010).
46) T. Ohkusa, Y. Ozaki, C. Sato, K. Mikuni & H. Ikeda: Digestion, 56, 415 (1995).
52) D. S. K. Palur, S. R. Pressley & S. Atsumi: Molecules, 28, 1491 (2023).
53) V. K. Berner, M. E. Sura & K. W. Hunter Jr.: Appl. Microbiol. Biotechnol., 80, 1053 (2008).
54) H. Huang, G. R. Ostroff, C. K. Lee, C. A. Specht & S. M. Levitz: MBio, 1, e00164 (2010).
55) P. Kanjan, N. M. Sahasrabudhe, B. J. de Haan & P. de Vos: J. Funct. Foods, 37, 433 (2017).
56) A. B. C. Samuelsen, J. Schrezenmeir & S. H. Knutsen: Mol. Nutr. Food Res., 58, 183 (2014).
58) N. M. Sahasrabudhe, J. Dokter-Fokkens & P. de Vos: Mol. Nutr. Food Res., 60, 2514 (2016).
62) S. E. Jones, M. L. Paynich, D. B. Kearns & K. L. Knight: J. Immunol., 192, 4813 (2014).
63) J. Zamora-Pineda, O. Kalinina, A. I. Sperling & K. L. Knight: J. Immunol., 211, 1232 (2023).
64) K. L. Chan, K. F. Wong & J. M. Luk: World J. Gastroenterol., 15, 4745 (2009).
70) J. L. Round & S. K. Mazmanian: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 12204 (2010).
72) X. Zhou, T. Hong, Q. Yu, S. Nie, D. Gong, T. Xiong & M. Xie: Sci. Rep., 7, 14247 (2017).