Kagaku to Seibutsu 62(6): 308 (2024)
書評
寺尾純二,下位香代子(監修),越阪部奈緒美,榊原啓之,中村宜督,三好規之,室田佳恵子(編)『ポリフェノールの科学―基礎化学から健康機能まで』(朝倉書店,2023年)
Published: 2024-06-01
© 2024 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2024 公益社団法人日本農芸化学会
ポリフェノールは,分子内にフェノール性の水酸基を複数個持つ物質の総称であり,植物が作る二次代謝産物である.その種類は,誰が数えたか不明だが8千種類以上あるといわれている.ポリフェノールは,植物あるいは食品の色や味,香りの成分としての研究が行われてきた.1990年ごろフランスで行われた疫学調査を発端にその健康機能が注目され,非栄養成分であるにもかかわらず,現在に至るまで日本をはじめとする世界各国で多数の研究が行われている.
本書の監修者の寺尾先生,下位先生,そして,編集者の越阪部先生,榊原先生,中村先生,三好先生,室田先生は,日本におけるポリフェノール研究の牽引者であり,その先生方と27人の国内の研究者が,自分たちの研究してきたポリフェノールに関する基礎から最新研究をまとめた初めての本である.
本書は,基礎,発展,実践の3つの編から成っている.第1編「ポリフェノールの化学(基礎編)」では,ポリフェノールの構造,植物内での生合成についての記載.そして,その構造から最初に研究がすすんだ抗酸化性,さらには抗ウイルス性の生理活性,そして,ポリフェノールの吸収代謝を含んだ生体利用性についてまとめられている.その構造と関連する基礎的な生理活性のエッセンスがまとめられていることから,ポリフェノール研究をこれから志す研究者の良い参考書になりうるであろう.第2編では「ポリフェノールの健康機能(発展編)」とし,ポリフェノールの代表的な健康機能である心血管疾患への影響をはじめ,ポリフェノールが有する,メタボリックシンドローム,ロコモティブシンドローム,免疫系やストレスへの作用について報告されている.体内への吸収性が低いとされるポリフェノールが腸内細菌叢へ与える影響や,吸収されずに効果を発揮するポリフェノールの作用メカニズムについて最新の研究結果が報告されている.さらには,疫学研究,メタボロミクスまで,幅広い応用研究の最新知見がまとめられている.そのため,ポリフェノールの研究者にとっても有益な知見を得ることができる.第3編は,「ポリフェノール研究の健康効果(実践編)」として,ポリフェノールのデータベース,推定摂取量,調理加工での変化など社会実装に必要な情報がまとめられている.最後に,今後のポリフェノール研究の展望についても語られている.
本書は,ポリフェノール研究に関する良書である.ポリフェノール研究に携わる研究者や学生だけではなく,食品の機能性研究を行っている人や食品の開発者にとっても非常に参考になる本である.また,食に興味がある一般の方々にも読んでいただければ第6の栄養素といわれるポリフェノールの健康維持機能について理解していただけると思う.ポリフェノールの健康機能が注目されて30年が経とうとしている.しかしながらいまだ,新たな知見が報告され続けている.今まで以上に,ポリフェノール研究の発展が望まれる.