書評

中村朝夫,村上雅彦,沖野龍文(著)『基礎環境化学―持続可能な社会を目指して』(培風館,2023年)

神尾 道也

東京海洋大学海洋資源環境学部海洋環境科学科

Published: 2024-06-01

環境問題と言えば,古くは身近な公害問題であったが,近年は温暖化などの地球規模の問題が取り上げられるようになり,地球規模の環境保護と持続可能な人間活動のあり方が議論されるようになった.持続可能な開発目標(SDGs)を立てて,人類が地球で暮らし続けるためには,地球とその表面にある生物圏がどのような物質で出来ているのかを理解することがまず必要だ.そして,地球全体の物質とエネルギーの流れを理解し,地球という大きなシステムが破綻することなく続くような方法を考えて,人間の活動を調整し続けなければならない.本書は現代の大学生を対象として,まず地球環境がどのような物質で構成されていることを解説したうえで,人間の活動が関わる環境科学についての知識を提供するために書かれた良書である.

本書は全8章からなる.第1章では,地球環境の成り立ちについて説明されており,ビッグバンとその後の恒星内部での元素の合成,星間物質をもととして太陽や地球を含む惑星が形成され,地球の大気,海洋,地殻,マントル,コアなどが形成される過程を説明するとともに,地球と他の惑星の違いについても述べている.さらに,地球が形成された後に大気と海洋が形成される過程を説明し,オゾン層と磁気圏が生命の存在にとって重要であることについての話へと続く.最後に大気,地殻,海洋がどのような物質で出来ているのか,出来てきたのかが述べられている.第1章を読むと,そもそも地球がどのような物質で出来ているのかが分かる.第2章から第5章では,大気,水,そしてオゾン層の化学と汚染について述べられている.また,現在の地球の平均気温が大気の温室効果によってほぼ一定に保たれていることと,人間活動由来の二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスが気温の上昇を起こすことについて述べている.第6章では,化石燃料,原子力,水力風力,太陽光などのエネルギー資源を,再生可能エネルギーとそうではないものに分けて,それぞれの利用方法の仕組みと問題点,将来の展望について述べている.第7章は,ごみとそのリサイクルについて解説しており,生ごみから産業廃棄物まで様々なごみを処理する仕組みについて述べた上で,プラスチックによる海洋汚染などの社会問題とごみのリサイクルについて解説している.また,製品の環境負荷に関しては,素材調達から廃棄,そして,リサイクルに至るまでのライフサイクル(製品の一生)全体を通して評価する,ライフサイクルアセスメントについて述べている.第8章では,研究室や職場において化学物質を安全に使うための,化学物質のリスクと管理の考え方について述べられている.

以上,本書では,ビッグバンに始まり,地球の成り立ちから,現在の地球環境がどのように確立されてきたことがまず述べられており,次に環境汚染の各項目がしっかりと化学の基礎知識をおさえた上で説明されている.また,エネルギーやごみの問題,さらに化学物質の管理なども,基礎から現在の問題までバランス良く説明されている.各章末には理解度を確かめられる問題があり,環境を科学的な知識に基づいて理解するよう工夫されている.本書は環境科学(化学)の標準的な教科書としてお薦めできる一冊である.