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β1-3グルカン分解酵素群の多様な切断様式とその分子基盤
ラミナリンを端から切る酵素と内から切る酵素の共通点と相違点

Tomoya Ota

太田 智也

北海道大学大学院農学研究院

Wataru Saburi

佐分利

北海道大学大学院農学研究院

Haruhide Mori

春英

北海道大学大学院農学研究院

Published: 2024-08-01

生物が生産する多糖類は多種多様である.構成糖や結合様式等の種類により無数のバリエーションがある.分解様式が未知の多糖類は未だ多く,近年ゲノムマイニング等の手法により新規分解酵素が次々と発見されている.新しい酵素の発見に加えて,分解酵素の多糖分解機構の解明も,多糖代謝の理解に,またバイオマス多糖の効果的な利活用に,必要不可欠である.

多糖類の中でβ1-3グルカンは,植物,糸状菌,海藻等に含まれ,抗腫瘍作用をはじめとした様々な有用機能を示す糖質として注目されている(1)1) A. Nakashima, K. Yamada, O. Iwata, R. Sugimoto, K. Atsuji, T. Ogawa, N. Ishibashi-Ohgo & K. Suzuki: J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo), 64, 8 (2018)..β1-3グルカンの種類としては,細菌やミドリムシが生産する直鎖β1-3グルカン(例:カードラン,パラミロン),地衣類やイネ科植物による直鎖β1-3/1-4グルカン(例:リケニン,オオムギβ-グルカン),糸状菌によるβ1-6グルコシル分岐含有のβ1-3グルカン(例:シゾフィラン,スクレログルカン),褐藻のβ1-3/1-6グルカン(例:ラミナリン)等が知られる(1)1) A. Nakashima, K. Yamada, O. Iwata, R. Sugimoto, K. Atsuji, T. Ogawa, N. Ishibashi-Ohgo & K. Suzuki: J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo), 64, 8 (2018)..β1-3グルカン分解酵素の基質としてよく用いられるラミナリンは,基本的にβ1-3結合の主鎖およびβ1-6結合の側鎖からなるが,由来する生物種により構造が異なり,アラメ由来ラミナリンは主鎖にもβ1-6結合を含む(2)2) Z. Liu, Y. Xiong, L. Yi, R. Dai, Y. Wang, M. Sun, X. Shao, Z. Zhang & S. Yuan: Carbohydr. Polym., 194, 339 (2018).

このアラメ由来ラミナリンを加水分解する酵素(ラミナリナーゼ)として,筆者らは雪腐病菌Microdochium nivale由来のGH55エンドβ-1,3-グルカナーゼMnLam55Aの機能と構造の解析を行った(3)3) T. Ota, W. Saburi, T. Tagami, J. Yu, S. Komba, L. E. Jewell, T. Hsiang, R. Imai, M. Yao & H. Mori: J. Biol. Chem., 299, 105294 (2023)..GH55とは,CAZyデータベースにおいて,一次構造の類似性に基づいて分類された加水分解酵素ファミリー55のことである.この酵素ファミリーGH55に属す多くの酵素はラミナリンβ1-3結合を非還元末端から順次切断するβ-1,3-グルコシダーゼである.これら酵素のβ1-3グルカンが結合できる溝(クレフト)は切断部位で塞がれており,このクレフトの閉塞により,β1-3グルカンが単糖単位で切り出される.これらβ-1,3-グルコシダーゼは2種に区分できる.一方は単純なβ-1,3-グルコシダーゼ(4)4) C. M. Bianchetti, T. E. Takasuka, S. Deutsch, H. S. Udell, E. J. Yik, L. F. Bergeman & B. G. Fox: J. Biol. Chem., 290, 11819 (2015).(グラフィカルアブストラクト図.本稿では1型酵素と呼ぶ),他方は,基質の非還元末端グルコシル基の6位OH側に空間をもち,これにより非還元末端の6位がグルコシル修飾された基質にも作用して,ゲンチオビオースGlcβ1-6Glcを切り出す酵素である(5)5) T. Ishida, S. Fushinobu, R. Kawai, M. Kitaoka, K. Igarashi & M. Samejima: J. Biol. Chem., 284, 10100 (2009).(グラフィカルアブストラクト図.同2型酵素).これら1型,2型の他に,ラミナリンの末端ではなく内部の結合を加水分解する(これをエンド様式という)エンド型酵素(6, 7)6) J. de la Cruz, J. A. Pintor-Toro, T. Benítez, A. Llobell & L. C. Romero: J. Bacteriol., 177, 6937 (1995).7) R. Nobe, Y. Sakakibara, N. Fukuda, N. Yoshida, K. Ogawa & M. Suiko: Biosci. Biotechnol. Biochem., 67, 1349 (2003).も知られているが,その作用部位や酵素の基質結合様式は全く不明であった.

雪腐病菌の酵素MnLam55Aは,ラミナリンをエンド様式で加水分解した.すなわち,結合の切断によって生じる還元末端の増加が,糖鎖末端の切断によって生じるグルコース等の増加を大きく上回った.ラミナリン糖鎖上の具体的な切断点の解析には,NMRを用いて反応進行に伴うグルコシド結合の変化を観察した.反応により新たに生じた1H-NMRのシグナルは各種二次元NMRにより帰属され,6位がグルコシル化された還元末端グルコース残基だと判断された.また,1H-NMRでは1位プロトンの化学シフトはグルコシド結合によって異なる.これらの積分値の増減に基づいて,反応に伴うβ1-3結合の減少が確認された.以上により,MnLam55Aによる切断点は,ラミナリン主鎖に含まれるβ1-6結合の還元末端側に隣接するβ1-3結合であることが明らかとなった(図1A図1■MnLam55A(3型酵素)の基質作用位置と酵素構造).

図1■MnLam55A(3型酵素)の基質作用位置と酵素構造

(A)ラミナリン上の加水分解位置,(B)全体構造(PDB 8JHH)3)3) T. Ota, W. Saburi, T. Tagami, J. Yu, S. Komba, L. E. Jewell, T. Hsiang, R. Imai, M. Yao & H. Mori: J. Biol. Chem., 299, 105294 (2023).,(C) 4糖とのドッキングモデル3)3) T. Ota, W. Saburi, T. Tagami, J. Yu, S. Komba, L. E. Jewell, T. Hsiang, R. Imai, M. Yao & H. Mori: J. Biol. Chem., 299, 105294 (2023).,(D) 2型酵素5)5) T. Ishida, S. Fushinobu, R. Kawai, M. Kitaoka, K. Igarashi & M. Samejima: J. Biol. Chem., 284, 10100 (2009).における(C)の該当構造,(E)1, 2および3型酵素のC5-L3ループ長の比較.

MnLam55Aは他の一般的なβ1-3グルカンに作用しない.β1-3結合のオリゴ糖(ラミナリオリゴ糖)にはわずかに作用して,非還元末端から単糖を生成する.これらの一見奇妙なMnLam55Aの反応は,3型酵素の基質結合様式で説明できる(グラフィカルアブストラクト図).すなわち2型酵素と共通のGlcβ1-6Glcに特異的な基質結合部位を持ち,さらに非還元末端側に延びる糖鎖を捕捉する構造があると考えられた.

MnLam55AのX線結晶構造解析により立体構造(PDB 8JHH)を決定し(図1B図1■MnLam55A(3型酵素)の基質作用位置と酵素構造),4糖Glcβ1-6Glcβ1-3Glcβ1-3Glcとドッキングした構造を図1C図1■MnLam55A(3型酵素)の基質作用位置と酵素構造に示す.全体構造は二つのβ-ヘリックスドメインが連結したいわゆる“胸郭様フォールド”で,既知のGH55酵素と共通する.また,4糖の結合位置,触媒部位など,2型酵素によく一致している.しかし,基質結合クレフトは,2型酵素では閉塞するのに対し(図1D図1■MnLam55A(3型酵素)の基質作用位置と酵素構造),MnLam55Aではクレフト構造が続く.これがβ1-6結合の非還元末端側の主鎖の結合部位であると考えられる.

このクレフトの有無は,“胸郭様フォールド”の中の2本のループの位置の違いによる.クレフトから少し離れているC5-L3ループの長さが,MnLam55Aでは2型酵素より短く(図1E図1■MnLam55A(3型酵素)の基質作用位置と酵素構造),占める体積が小さい(図1C図1■MnLam55A(3型酵素)の基質作用位置と酵素構造).これにより隣接するC6-L3ループが,クレフトの延長部分を形成できる.2型酵素では同ループがクレフトを閉塞型にするのとは対照的である.他のGH55エンド型酵素(6, 7)6) J. de la Cruz, J. A. Pintor-Toro, T. Benítez, A. Llobell & L. C. Romero: J. Bacteriol., 177, 6937 (1995).7) R. Nobe, Y. Sakakibara, N. Fukuda, N. Yoshida, K. Ogawa & M. Suiko: Biosci. Biotechnol. Biochem., 67, 1349 (2003).でも,C5-L3ループはMnLam55Aと共通して短く(図1E図1■MnLam55A(3型酵素)の基質作用位置と酵素構造),いずれもMnLam55Aと同様の3型酵素の作用機構であると考えられる.なお,1型酵素では,C5-L3ループは短いが(図1E図1■MnLam55A(3型酵素)の基質作用位置と酵素構造),隣接する構造要素によりGlcβ1-6Glc結合部位が狭く,エンド様式での切断は生じない(4)4) C. M. Bianchetti, T. E. Takasuka, S. Deutsch, H. S. Udell, E. J. Yik, L. F. Bergeman & B. G. Fox: J. Biol. Chem., 290, 11819 (2015).

本稿では,GH55酵素MnLam55Aがエンド様式でラミナリンを分解する機構について述べてきた.MnLam55Aは主鎖のβ1-6結合を認識し,隣接するβ1-3結合を分解する酵素であった.しかしこの酵素は植物病害性の雪腐病菌が分泌する酵素であり,天然の基質が褐藻由来のラミナリンであるとは考えにくい.この酵素が有するユニークな特徴が,雪腐病菌の糖質代謝においてどのような意義があるのだろうか.研究の展開が期待される.

Reference

1) A. Nakashima, K. Yamada, O. Iwata, R. Sugimoto, K. Atsuji, T. Ogawa, N. Ishibashi-Ohgo & K. Suzuki: J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo), 64, 8 (2018).

2) Z. Liu, Y. Xiong, L. Yi, R. Dai, Y. Wang, M. Sun, X. Shao, Z. Zhang & S. Yuan: Carbohydr. Polym., 194, 339 (2018).

3) T. Ota, W. Saburi, T. Tagami, J. Yu, S. Komba, L. E. Jewell, T. Hsiang, R. Imai, M. Yao & H. Mori: J. Biol. Chem., 299, 105294 (2023).

4) C. M. Bianchetti, T. E. Takasuka, S. Deutsch, H. S. Udell, E. J. Yik, L. F. Bergeman & B. G. Fox: J. Biol. Chem., 290, 11819 (2015).

5) T. Ishida, S. Fushinobu, R. Kawai, M. Kitaoka, K. Igarashi & M. Samejima: J. Biol. Chem., 284, 10100 (2009).

6) J. de la Cruz, J. A. Pintor-Toro, T. Benítez, A. Llobell & L. C. Romero: J. Bacteriol., 177, 6937 (1995).

7) R. Nobe, Y. Sakakibara, N. Fukuda, N. Yoshida, K. Ogawa & M. Suiko: Biosci. Biotechnol. Biochem., 67, 1349 (2003).