解説

遺伝子コード型バイオセンサーを用いた代謝イメージングの潮流
生細胞内代謝の可視化技術

Trends in Imaging of Cell Metabolism Using Genetically Encoded Biosensors: Visualization of Metabolism of Living Cells

Hiromi Imamura

今村 博臣

京都大学大学院生命科学研究科

Published: 2024-08-01

代謝は,自身に必要な物質やエネルギーを得ると同時に不要な物質を廃棄するという,生命を維持するための極めて根源的なプロセスである.代謝の破綻は様々な人間の疾病と深く関わっている.また,人間は微生物や植物の代謝を利用して多様な有用物質を得ている.代謝を理解するためには代謝を計測する技術が欠かせない.本稿では,近年発展している遺伝子コード型蛍光バイオセンサーを用いて生きた細胞や個体の代謝状態をイメージング技術について解説する.

Key words: バイオセンサー; 蛍光タンパク質; イメージング; 代謝

遺伝子コード型蛍光バイオセンサーの原理

1. 蛍光タンパク質

遺伝子コード型の蛍光バイオセンサーの大部分は,オワンクラゲから発見された緑色蛍光タンパク質(avGFP)やそのファミリータンパク質,そしてそれらの変異体を利用している.これら蛍光タンパク質は,11本のβストランドからなるβバレルの中央に1本のヘリックスが貫通した構造をしており,ヘリックスの中央付近に発色団が存在する(図1A図1■蛍光タンパク質を利用した遺伝子コード型バイオセンサーの作動原理).この発色団は酸素依存的な自己触媒反応によってポリペプチド鎖の一部が変化してできたものであり,酸素が存在する環境であれば蛍光タンパク質は蛍光性を示すようになる(1)1) R. Y. Tsien: Annu. Rev. Biochem., 67, 509 (1998)..自然界に存在する蛍光タンパク質の大部分は緑色の蛍光タンパク質(GFP)であるが,稀に赤色の蛍光タンパク質(RFP)も見出される(2~5)2) M. V. Matz, A. F. Fradkov, Y. A. Labas, A. P. Savitsky, A. G. Zaraisky, M. L. Markelov & S. A. Lukyanov: Nat. Biotechnol., 17, 969 (1999).3) N. O. Alieva, K. A. Konzen, S. F. Field, E. A. Meleshkevitch, M. E. Hunt, V. Beltran-Ramirez, D. J. Miller, J. Wiedenmann, A. Salih & M. V. Matz: PLoS One, 3, e2680 (2008).4) J. Wiedenmann, A. Schenk, C. Röcker, A. Girod, K.-D. Spindler & G. U. Nienhaus: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99, 11646 (2002).5) E. M. Merzlyak, J. Goedhart, D. Shcherbo, M. E. Bulina, A. S. Shcheglov, A. F. Fradkov, A. Gaintzeva, K. A. Lukyanov, S. Lukyanov, T. W. J. Gadella et al.: Nat. Methods, 4, 555 (2007)..加えて,自然界で見つかったGFPやRFPを試験管内で分子進化させることで,青色~遠赤色までの様々な色をもつ蛍光タンパク質が開発されてきた(6~10)6) R. Heim, D. C. Prasher & R. Y. Tsien: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 12501 (1994).7) M. Ormö, A. B. Cubitt, K. Kallio, L. A. Gross, R. Y. Tsien & S. J. Remington: Science, 273, 1392 (1996).8) N. C. Shaner, R. E. Campbell, P. A. Steinbach, B. N. G. Giepmans, A. E. Palmer & R. Y. Tsien: Nat. Biotechnol., 22, 1567 (2004).9) W. Tomosugi, T. Matsuda, T. Tani, T. Nemoto, I. Kotera, K. Saito, K. Horikawa & T. Nagai: Nat. Methods, 6, 351 (2009).10) D. Shcherbo, E. M. Merzlyak, T. V. Chepurnykh, A. F. Fradkov, G. V. Ermakova, E. A. Solovieva, K. A. Lukyanov, E. A. Bogdanova, A. G. Zaraisky, S. Lukyanov et al.: Nat. Methods, 4, 741 (2007)..また,以前は困難であったが,GFPから人工的にRFPを作り出すことにも,最近筆者らのグループが成功している(11)11) H. Imamura, S. Otsubo, M. Nishida, N. Takekawa & K. Imada: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 120, e2307687120 (2023)..このように,現在では様々な波長特性をもつ天然および人工の蛍光タンパク質が揃っており,タンパク質やオルガネラ,細胞の蛍光マーカーとしてだけでなく,本稿で解説する遺伝子コード型の蛍光バイオセンサーの構成要素としても近年盛んに利用されている.

図1■蛍光タンパク質を利用した遺伝子コード型バイオセンサーの作動原理

(A)蛍光タンパク質の立体構造.(B)蛍光分子による光の吸収と放出におけるエネルギーの変化.(C)FRET型の代謝バイオセンサーのデザイン.(D)単一蛍光タンパク質型の代謝バイオセンサーのデザイン.

2. FRET型蛍光バイオセンサー

蛍光色素の発色団を構成している電子のエネルギーレベルは,不連続な値をとる.基底状態(S0)にある発色団は,光を吸収すると,第一励起状態(S1)もしくは上位の励起状態の様々な振動エネルギー準位へと励起され,その後内部転換と振動緩和によって速やかに最も安定な振動エネルギー準位へと移行する.ここで数ナノ秒滞在したのち,エネルギーを光もしくは熱として放出しながら再びS0へと戻る.ところが,S1の最安定状態にある発色団(ドナー)の近傍に別の発色団(アクセプター)が存在すると,ドナーの励起エネルギーがある確率でアクセプターに奪われてしまう.この現象は,フェルスター共鳴エネルギー移動(Förster resonance energy transfer; FRET)と呼ばれる(図1B図1■蛍光タンパク質を利用した遺伝子コード型バイオセンサーの作動原理).FRETが起こる効率は,ドナーの発光スペクトルとアクセプターの吸収スペクトルの重なりのほか,ドナーとアクセプターの距離と配向によって決まる.そのため,ドナーおよびアクセプターとなる蛍光タンパク質の相対的な空間配置が,物質やイオンの濃度などに特異的に応答して変化するように設計することで,特定の細胞情報をモニターする蛍光バイオセンサーを創出することが可能である(図1C図1■蛍光タンパク質を利用した遺伝子コード型バイオセンサーの作動原理(12, 13)12) A. Miyawaki: Dev. Cell, 4, 295 (2003).13) W. B. Frommer, M. W. Davidson & R. E. Campbell: Chem. Soc. Rev., 38, 2833 (2009)..このような蛍光バイオセンサーの最初の成功例が,1997年に報告されたカルシウムイオンに対するFRET型蛍光バイオセンサーCameleonである.Cameleonは,ドナー蛍光タンパク質,カルシウムイオン結合タンパク質であるカルモジュリンとそのリガンドであるM13ペプチド,そしてアクセプター蛍光タンパク質を1本のポリペプチド鎖として直列に連結させたものであり,カルシウムイオン濃度が上昇してカルモジュリンにカルシウムイオンが結合すると,カルモジュリンとM13ペプチドが相互作用し,2つの蛍光タンパク質の空間配置が変化してFRET効率が上昇する(14)14) A. Miyawaki, J. Llopis, R. Heim, J. M. McCaffery, J. A. Adams, M. Ikura & R. Y. Tsien: Nature, 388, 882 (1997)..Cameleonのように全てタンパク質で構成されたFRET型蛍光バイオセンサーは,それをコードする遺伝子を細胞内に取り込ませる,もしくはゲノムに組み込むことで,細胞や個体に発現させることができる.細胞内のバイオセンサーのFRET効率を蛍光顕微鏡によるイメージングで算出することによって,細胞内情報の時空間的なパターンを計測することが可能である.一般にFRETの効率は,ドナーを励起した際のドナーの蛍光強度とアクセプターの蛍光強度の比(ドナー:アクセプター蛍光比)で表す.ドナー:アクセプター蛍光比は蛍光強度の絶対値に影響されない数値であるため,バイオセンサーの発現量や細胞の形態変化による影響をほとんど受けない精度の高い計測が可能になる.FRET型バイオセンサーでは,シアン色蛍光タンパク質(CFP)と黄色蛍光タンパク質(YFP)をドナー・アクセプターのペアとして用いる場合が多いが,他の蛍光タンパク質の組み合わせもしばしば用いられる.

3. 単一蛍光タンパク質型蛍光バイオセンサー

一般的に,蛍光色素の性質は周囲の環境に大きく影響される.例えば,蛍光タンパク質の発色団の場合,タンパク質が折りたたまれた状態では外部の溶液の影響を受けにくいが,ひとたび蛍光タンパク質が変性すると疎水環境が失われ蛍光を失ってしまう.こうした蛍光タンパク質の発色団の環境依存性を利用して蛍光バイオセンサーを開発することもできる(12, 13)12) A. Miyawaki: Dev. Cell, 4, 295 (2003).13) W. B. Frommer, M. W. Davidson & R. E. Campbell: Chem. Soc. Rev., 38, 2833 (2009)..代表的なものは,発色団が近接する7番目のβストランドの付け根部分に別のタンパク質の配列を挿入することで,挿入したタンパク質の構造変化によって蛍光を変化させるというものである(図1D図1■蛍光タンパク質を利用した遺伝子コード型バイオセンサーの作動原理).この場合,設計の自由度の高さから,本来のN末端とC末端をリンカーでつなげ,ポリペプチド鎖の途中を新しい末端とした円順列変異蛍光タンパク質を用いる場合が多い.このような単一蛍光タンパク質型の蛍光バイオセンサーも,1-2のFRET型バイオセンサーと同様に遺伝子にコードして細胞や個体に導入することが可能である.ただし,蛍光タンパク質を1つしか含まないため,1つの波長で励起して,1つの波長の蛍光を読み取るのが一般的である.単一蛍光タンパク質型のバイオセンサーは,FRET型バイオセンサーと比較して大きな蛍光シグナルの変化が期待できる一方,バイオセンサーの発現量や細胞の形態変化が蛍光シグナルに直接影響するため,精度の高い測定をおこなうためには,リファレンスとなる蛍光タンパク質をバイオセンサーに融合して発現量の違いを補正するといった工夫が必要である.

生細胞代謝イメージングのための蛍光バイオセンサー

この20年ほどで,生きた細胞の代謝をイメージングするための様々な蛍光バイオセンサーが開発されてきた(表1表1■代表的な代謝計測用蛍光バイオセンサー).ここでは,その代表的なものを紹介する.

表1■代表的な代謝計測用蛍光バイオセンサー
測定対象バイオセンサーの名称FRET/単一FP*1センサードメイン蛍光タンパク質*2文献
マルトースFLIPmalFRETMalECFP/YFP(15)
グルコースFLIPgluFRETMglBCFP/YFP(16)
ATPATeamFRETFoF1CFP/YFP(19, 61)
GO-ATeamFRETFoF1GFP/OFP(20)
QUEEN単一FPFoF1GFP(26)
MaLiOn単一FPFoF1BFP, GFP, RFP(30)
iATPSnFR単一FPFoF1GFP(31)
ATP/ADP比Perceval単一FPGlnK1YFP(33, 34)
NADHFrex単一FPRexYFP(36)
NADH/NADPeredox単一FPT-RexGFP(37)
SoNar単一FPT-RexYFP(38)
NADNAD biosensor単一FPNAD ligaseYFP(39)
NADPApollo-NADPFRETG6PDHYFP(40)
NADPH/NADPiNAP単一FPT-RexYFP(41)
乳酸LaconicFRETLldRTFP/YFP(44)
eLACCO単一FPTTHA0766GFP(45)
R-iLACCO単一FPLldRRFP(46)
グルタミン酸FLIPEFRETYbeJ (GltI)CFP/YFP(47)
GluSnFR単一FPYbeJ (GltI)YFP(48–51)
グリシンGlyFSFRETAtu2422CFP/YFP(52)
分岐鎖アミノ酸OLIVeFRETLIVBP (LivK)CFP/YFP(53)
アルギニンFLIP-cpArtJ185FRETArtJCFP/YFP(54)
グルタミンFLIPQFRETGlnHTFP/YFP(55)
トリプトファンFLIPWFRETTrpRCFP/YFP(56)
GRIT単一FPTrpRYFP(57)
ヒスチジンFLIP-cpHisJ194FRETHisJCFP/YFP(54)
AMPK活性AMPKARFRETFHA1, AMPK基質ペプチドCFP/YFP(59, 60)
*1 FRET, FRET型バイオセンサー;単一FP,単一蛍光タンパク質型バイオセンサー 
*2 CFP,シアン色蛍光タンパク質;GFP,緑色蛍光タンパク質;OFP, オレンジ色蛍光タンパク質;RFP,赤色蛍光タンパク質;TFP,緑青色蛍光タンパク質;YFP,黄色蛍光タンパク質

1. 糖に対するバイオセンサー

細胞にとって糖質は重要なエネルギー源であり,様々な生体物質を作るための材料でもある.特に,六単糖の1つであるグルコース(ブドウ糖)は,解糖系の初発物質であり,デンプンやグリコーゲンの構成単位となるなど,生物にとって最も基本となる糖である.2002年に糖を検出する蛍光バイオセンサーとしては初めて,マルトース(麦芽糖)を検出するFRET型蛍光バイオセンサーであるFLIPmalが報告され,続く2003年にも同じグループからグルコースを検出するFLIPgluが報告された(15, 16)15) M. Fehr, W. B. Frommer & S. Lalonde: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99, 9846 (2002).16) M. Fehr, S. Lalonde, I. Lager, M. W. Wolff & W. B. Frommer: J. Biol. Chem., 278, 19127 (2003)..これらのバイオセンサーを用いることで,細胞へ糖質が取り込まれる様子を可視化できるようになった.FLIPmalとFLIPgluは,それぞれ大腸菌のペリプラズムに局在するマルトース結合タンパク質(MalE)とグルコース/ガラクトース結合タンパク質(MglB)をCFPとYFPで挟むことで構築された.初期のFLIPmalやFLIPgluはリガンド結合に伴うFRET効率の変化が小さいという難点があったが,その後この欠点を改善した改良版が報告されている.重要なことに,グラム陰性細菌は,MalEやMglB以外にも,様々な基質を認識する多数のペリプラズム結合タンパク質(PBP)を持っている(17, 18)17) M. A. Dwyer & H. W. Hellinga: Curr. Opin. Struct. Biol., 14, 495 (2004).18) R. P.-A. Berntsson, S. H. J. Smits, L. Schmitt, D.-J. Slotboom & B. Poolman: FEBS Lett., 584, 2606 (2010)..FLIPmalとFLIPgluの開発は,後述する各種アミノ酸バイオセンサーをはじめ,PBPを用いた多様な蛍光バイオセンサーを開発する道筋をつけたという点でも意義が大きい.

2. ATPバイオセンサー

細胞が外部から取り込んだ糖や脂質などに含まれるエネルギーの多くは,アデノシン二リン酸(ADP)からアデノシン三リン酸(ATP)を合成するために用いられる.ATPは,主要な細胞内エネルギー運搬体であり,代謝反応,膜輸送,モータータンパク質の駆動など,様々なエネルギー要求性の細胞内過程に利用される.ATPは,主に解糖系と酸化的リン酸化によって合成されるほか,植物などでは光合成によっても合成される.筆者らは,2009年にATP濃度を検出するFRET型蛍光バイオセンサーであるATeamを報告した(19)19) H. Imamura, K. P. H. Nhat, H. Togawa, K. Saito, R. Iino, Y. Kato-Yamada, T. Nagai & H. Noji: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 15651 (2009)..ATeamは,バクテリアのFoF1-ATP合成酵素のεサブユニットをCFPとYFPで挟んだ設計となっており,ATP結合によってεサブユニットのC末端αヘリックスが折りたたまれることでFRET効率が上昇する.εサブユニットのATP特異性は非常に高く,ADPなどの類似ヌクレオチドに結合しないため,細胞内ATP濃度の違いや変化を特異的に検出するのに有用である.また,筆者らは,ATeamのFRETペアをGFPとオレンジ色蛍光タンパク質(OFP)に置き換えたGO-ATeamも開発している(20)20) M. Nakano, H. Imamura, T. Nagai & H. Noji: ACS Chem. Biol., 6, 709 (2011)..ATeamやGO-ATeamを用いた生細胞内ATP濃度イメージングによって,ATPの細胞内における挙動が高い時空間解像度で明らかになってきた.例えば,ミトコンドリアマトリックスのATP濃度は細胞質に比べて有意に低く,一部の細胞では細胞辺縁部にATP濃度の高い領域が観察されるなど,細胞内のATP濃度は均一ではないことが示されている(19, 21, 22)19) H. Imamura, K. P. H. Nhat, H. Togawa, K. Saito, R. Iino, Y. Kato-Yamada, T. Nagai & H. Noji: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 15651 (2009).21) K. De Bock, M. Georgiadou, S. Schoors, A. Kuchnio, B. W. Wong, A. R. Cantelmo, A. Quaegebeur, B. Ghesquière, S. Cauwenberghs, G. Eelen et al.: Cell, 154, 651 (2013).22) S. Ozawa, S. Ueda, H. Imamura, K. Mori, K. Asanuma, M. Yanagita & T. Nakagawa: Sci. Rep., 5, 18575 (2015)..エネルギー代謝が阻害されたとき,あるいは細胞分裂や細胞死の際の組織や細胞のダイナミックなATP濃度変化もATPイメージングによって詳細に調べることができるようになってきた(図2図2■細胞および組織のATP濃度イメージング(23, 24)23) K. Maeshima, T. Matsuda, Y. Shindo, H. Imamura, S. Tamura, R. Imai, S. Kawakami, R. Nagashima, T. Soga, H. Noji et al.: Curr. Biol., 28, 444 (2018).24) H. Imamura, S. Sakamoto, T. Yoshida, Y. Matsui, S. Penuela, D. W. Laird, S. Mizukami, K. Kikuchi & A. Kakizuka: eLife, 9, e61960 (2020)..また,乳がん細胞の核内ではポリ(ADP-リボース)からATPが作られることで,クロマチンのリモデリングが促進されている可能性が示されるなど,ATPをイメージングすることで新たな発見にもつながっている(25)25) R. H. G. Wright, A. Lioutas, F. L. Dily, D. Soronellas, A. Pohl, J. Bonet, A. S. Nacht, S. Samino, J. Font-Mateu, G. P. Vicent et al.: Science, 352, 1221 (2016)..FRET型のATPバイオセンサーに加え,筆者らはεサブユニットと円順列変異GFPを組合せた単一蛍光タンパク質型バイオセンサーであるQUEENも開発している(26)26) H. Yaginuma, S. Kawai, K. V. Tabata, K. Tomiyama, A. Kakizuka, T. Komatsuzaki, H. Noji & H. Imamura: Sci. Rep., 4, 6522 (2014)..QUEENは大腸菌や酵母などの増殖の早い細胞でのATPイメージングに特に威力を発揮する(26~29)26) H. Yaginuma, S. Kawai, K. V. Tabata, K. Tomiyama, A. Kakizuka, T. Komatsuzaki, H. Noji & H. Imamura: Sci. Rep., 4, 6522 (2014).27) M. Takaine, M. Ueno, K. Kitamura, H. Imamura & S. Yoshida: J. Cell Sci., 132, jcs230649 (2019).28) M. Takaine, H. Imamura & S. Yoshida: eLife, 11, e67659 (2022).29) W.-H. Lin & C. Jacobs-Wagner: Curr. Biol., 32, 3911 (2022)..最近になり,他の研究グループからもεサブユニットを用いた蛍光ATPバイオセンサーが相次いで報告されている(30~32)30) S. Arai, R. Kriszt, K. Harada, L.-S. Looi, S. Matsuda, D. Wongso, S. Suo, S. Ishiura, Y.-H. Tseng, M. Raghunath et al.: Angew. Chem. Int. Ed., 57, 10873 (2018).31) M. A. Lobas, R. Tao, J. Nagai, M. T. Kronschläger, P. M. Borden, J. S. Marvin, L. L. Looger & B. S. Khakh: Nat. Commun., 10, 711 (2019).32) L. Hellweg, A. Edenhofer, L. Barck, M.-C. Huppertz, M. S. Frei, M. Tarnawski, A. Bergner, B. Koch, K. Johnsson & J. Hiblot: Nat. Chem. Biol., 19, 1147 (2023)..特にMaLiOnシリーズは,異なる蛍光色のバイオセンサーを併用することによって,同時に細胞内の異なる場所のATP濃度のダイナミクスを計測することを可能にした(30)30) S. Arai, R. Kriszt, K. Harada, L.-S. Looi, S. Matsuda, D. Wongso, S. Suo, S. Ishiura, Y.-H. Tseng, M. Raghunath et al.: Angew. Chem. Int. Ed., 57, 10873 (2018)..また,古細菌の制御タンパク質であるGlnK1をセンサードメインとして利用した,ADP : ATP比を検出する単一蛍光タンパク質型バイオセンサーPercevalも報告されている(33, 34)33) J. Berg, Y. P. Hung & G. Yellen: Nat. Methods, 6, 161 (2009).34) M. Tantama, J. R. Martínez-François, R. Mongeon & G. Yellen: Nat. Commun., 4, 2550 (2013).

図2■細胞および組織のATP濃度イメージング

(A)アポトーシスにおけるヒトがん細胞内ATP濃度の変化.カスパーゼ3の活性化のタイミングを0とした.細胞膜チャネルであるパネキシン1(PANX1)をノックアウトした細胞ではATPの低下が著しく抑えられている.スケールバー: 10 µm.文献24より一部改変.(B)エネルギー代謝阻害時のショウジョウバエ幼虫唾液腺のATP濃度変化.0分の時点で呼吸鎖阻害剤のアンチマイシンA(20 µM)を添加した.スケールバー: 100 µm.文献61より一部改変.

3. NADPH/NADPおよびNADH/NADバイオセンサー

ATPを細胞内におけるエネルギー運搬体とするならば,NADHとNADPHは細胞内における還元力の運搬役である.両補酵素は自家蛍光物質であり,340 nm付近の紫外線で励起すると460 nm付近の青色の蛍光を発する一方,これらの酸化型であるNADとNADPは自家蛍光を持たない.この自家蛍光を利用した細胞内のNADHおよびNADPH量のイメージングが以前から報告されているものの(35)35) O. I. Kolenc & K. P. Quinn: Antioxid. Redox Signal., 30, 875 (2019).,この自家蛍光が微弱であること,さらに励起光で用いる紫外線に強い細胞毒性があることや,NADHとNADPHを区別できない,といった弱点があった.2011年に,NADH濃度を検知する単一蛍光タンパク質型のバイオセンサーFrexが報告された(36)36) Y. Zhao, J. Jin, Q. Hu, H.-M. Zhou, J. Yi, Z. Yu, L. Xu, X. Wang, Y. Yang & J. Loscalzo: Cell Metab., 14, 555 (2011)..このバイオセンサーは,NADHを結合する枯草菌の転写因子RexのNADH結合部位近くに円順列変異YFPを融合させた設計となっている.また,好熱菌Thermus thermophilus由来Rex(T-Rex)を利用した蛍光バイオセンサーPeredoxおよびSoNarも報告されているが,興味深いことに,これらはNADH濃度ではなくNADH/NAD比に応答する(37, 38)37) Y. P. Hung, J. G. Albeck, M. Tantama & G. Yellen: Cell Metab., 14, 545 (2011).38) Y. Zhao, Q. Hu, F. Cheng, N. Su, A. Wang, Y. Zou, H. Hu, X. Chen, H.-M. Zhou, X. Huang et al.: Cell Metab., 21, 777 (2015)..さらに,DNAリガーゼのNAD結合ドメインを利用したNAD濃度を検出するバイオセンサーも報告されている(39)39) X. A. Cambronne, M. L. Stewart, D. Kim, A. M. Jones-Brunette, R. K. Morgan, D. L. Farrens, M. S. Cohen & R. H. Goodman: Science, 352, 1474 (2016)..NADは,寿命との関係が注目されている脱アセチル化酵素Sirtuinや,DNA修復に関わる酵素PARPの基質でもある.これらのNADを消費する酵素は,核や細胞質,ミトコンドリアに偏在しているが,局在化シグナルを付加してNAD蛍光バイオセンサーを測定したい細胞内区画に局在化させることで,これらの酵素の活性を理解するうえで欠かせない各細胞区画内のNAD濃度の情報を得ることが可能になった.

他方,NADP濃度を検出する蛍光バイオセンサーとしてApollo-NADP+(40)40) W. D. Cameron, C. V. Bui, A. Hutchinson, P. Loppnau, S. Gräslund & J. V. Rocheleau: Nat. Methods, 13, 352 (2016).,NADPH/NADP比を検出する蛍光バイオセンサーとしてiNAP(41)41) R. Tao, Y. Zhao, H. Chu, A. Wang, J. Zhu, X. Chen, Y. Zou, M. Shi, R. Liu, N. Su et al.: Nat. Methods, 14, 720 (2017).がそれぞれ報告されている.Apollo-NADPは,グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼにYFPが融合したFRET型バイオセンサーである.グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼはNADP依存的にホモ2量体化する性質をもっており,NADP濃度が上昇してApollo-NADPが2量体化すると,一方のYFPからもう一方のYFPへのホモFRETが起こる.ホモFRETの場合は,スペクトル自体は変化しないため,偏光蛍光顕微鏡を用いて蛍光異方性の変化としてFRET効率の変化を検出する必要がある.iNAPは,上述したNADHバイオセンサーSoNar(38)38) Y. Zhao, Q. Hu, F. Cheng, N. Su, A. Wang, Y. Zou, H. Hu, X. Chen, H.-M. Zhou, X. Huang et al.: Cell Metab., 21, 777 (2015).のNAD(H)結合部位に変異を導入してNADP(H)特異的に結合できるように改変することで,NADH/NAD比ではなくNADPH/NADP比に応答するようにしたものである.変異導入においては立体構造情報に基づいた合理的な設計が採用されたが,蛍光バイオセンサー開発においてこのようなアプローチが成功した例はまだ多くない.ただ,近年のタンパク質デザイン分野の発展を考えると,今後は基質特異性を合理的に変化させる手法が新しいバイオセンサーを開発するための主要な手段となっていくはずである.

4. 乳酸バイオセンサー

解糖系でグルコースが代謝される際に,NADはNADHへと還元される.好気呼吸条件では,呼吸鎖のはたらきによってNADHはNADに戻されるため,NADが枯渇せず解糖系は動き続けることができるが,呼吸鎖のはたらきが弱い場合には別の方法でNADHをNADに戻す必要がある.動物では,乳酸デヒドロゲナーゼによるピルビン酸から乳酸への変換がその役割を担っており,生成した乳酸は細胞外に放出される.筋肉から血液中に放出された乳酸は,肝臓まで運ばれて糖新生でグルコースまで戻されることがよく知られているが(コリ回路),脳ではグリア細胞から放出された乳酸が神経細胞に取り込まれてエネルギー源となることも知られている(42)42) A. Karagiannis, T. Gallopin, A. Lacroix, F. Plaisier, J. Piquet, H. Geoffroy, R. Hepp, J. Naudé, B. Le Gac, R. Egger et al.: eLife, 10, e71424 (2021)..また,乳酸をリガンドとするGPCRも見つかっており,細胞外シグナルとしての乳酸の役割にも注目が集まっている(43)43) M. Certo, A. Llibre, W. Lee & C. Mauro: Trends Endocrinol. Metab., 33, 722 (2022)..最初に開発された乳酸の蛍光バイオセンサーは,乳酸を検知する大腸菌の転写リプレッサーであるLldRを用いたFRET型のバイオセンサーのLaconicである(44)44) A. San Martín, S. Ceballo, I. Ruminot, R. Lerchundi, W. B. Frommer & L. F. Barros: PLoS One, 8, e57712 (2013)..続いて,乳酸を結合する好熱性細菌のPBPであるTTHA0766を用いた単一蛍光タンパク質型のバイオセンサーeLACCO1が報告された(45)45) Y. Nasu, C. Murphy-Royal, Y. Wen, J. N. Haidey, R. S. Molina, A. Aggarwal, S. Zhang, Y. Kamijo, M.-E. Paquet, K. Podgorski et al.: Nat. Commun., 12, 7058 (2021)..eLACCO1は,細胞外の乳酸をイメージングするために開発され,N末端に分泌シグナル,C末端にGPIアンカー配列を持ち,細胞膜の外側に係留される.その後,eLACCO1の改良型であるeLACCO2.1,そしてLldRを用いた単一蛍光タンパク質型の細胞内乳酸イメージング用のバイオセンサーR-iLACCO1も開発され,培養細胞だけでなくマウス個体での細胞内外の乳酸イメージングが実現している(46)46) Y. Nasu, A. Aggarwal, G. N. T. Le, C. T. Vo, Y. Kambe, X. Wang, F. R. M. Beinlich, A. B. Lee, T. R. Ram, F. Wang et al.: Nat. Commun., 14, 6598 (2023).

5. アミノ酸バイオセンサー

アミノ酸はタンパク質の材料となるだけでなく,様々な生体物質の前駆体となる重要な栄養素である.加えて,一部のアミノ酸は細胞外や細胞内でシグナルとしても機能する.最初に開発されたアミノ酸バイオセンサーは,PBPであるYbeJ(GltI)を利用したグルタミン酸に対するFRET型のバイオセンサーFLIPE(47)47) S. Okumoto, L. L. Looger, K. D. Micheva, R. J. Reimer, S. J. Smith & W. B. Frommer: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102, 8740 (2005).と単一蛍光タンパク質型のバイオセンサーGluSnFR(48)48) R. Y. Tsien: Keio J. Med., 55, 127 (2006).である.これらのN末端側に分泌シグナルを,C末端側に膜貫通ヘリックスを融合することで細胞表面に提示し,細胞外のグルタミン酸濃度変化を検出することが可能になった(47, 49)47) S. Okumoto, L. L. Looger, K. D. Micheva, R. J. Reimer, S. J. Smith & W. B. Frommer: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102, 8740 (2005).49) S. A. Hires, Y. Zhu & R. Y. Tsien: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 4411 (2008)..重要な神経伝達物質であるグルタミン酸の可視化技術の需要は高く,その後もグルタミン酸バイオセンサーの改良が精力的に進められている(50, 51)50) J. S. Marvin, B. G. Borghuis, L. Tian, J. Cichon, M. T. Harnett, J. Akerboom, A. Gordus, S. L. Renninger, T.-W. Chen, C. I. Bargmann et al.: Nat. Methods, 10, 162 (2013).51) A. Aggarwal, R. Liu, Y. Chen, A. J. Ralowicz, S. J. Bergerson, F. Tomaska, B. Mohar, T. L. Hanson, J. P. Hasseman, D. Reep et al.; GENIE Project Team: Nat. Methods, 20, 925 (2023)..また,グルタミン酸と並んで神経伝達に重要なアミノ酸であるグリシンに対するFRET型の蛍光バイオセンサーもAgrobacteriumのPBPであるAtu2422をベースにして開発されている(52)52) W. H. Zhang, M. K. Herde, J. A. Mitchell, J. H. Whitfield, A. B. Wulff, V. Vongsouthi, I. Sanchez-Romero, P. E. Gulakova, D. Minge, B. Breithausen et al.: Nat. Chem. Biol., 14, 861 (2018)..分岐のある疎水性側鎖をもつアミノ酸であるロイシン,イソロイシンおよびバリンは,分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acids; BCAA)と総称され,熱の産生などの様々な生理作用が報告されているアミノ酸群である.筆者らは,BCAAを結合する大腸菌のPBPであるLIVBP(LivK)にCFPとYFPを挿入することで,BCAAに対するFRET型蛍光バイオセンサーであるOLIVeを開発した(53)53) T. Yoshida, H. Nakajima, S. Takahashi, A. Kakizuka & H. Imamura: ACS Sens., 4, 3333 (2019)..興味深いことに,様々な培地条件でモニターしてみると,細胞内BCAA濃度は培地中に含まれるBCAA以外のアミノ酸の影響を強く受けることが判明した.細胞膜に存在するアミノ酸輸送体の多くはアミノ酸を対向輸送するため,細胞質のアミノ酸濃度は細胞外のアミノ酸の濃度と組成などの複雑なパラメーターの上で決まると考えられる.上記以外にも,アルギニン,トリプトファン,グルタミン,ヒスチジン等のアミノ酸に対する蛍光バイオセンサーが報告されている(54~57)54) S. Okada, K. Ota & T. Ito: Protein Sci., 18, 2518 (2009).55) K. Gruenwald, J. T. Holland, V. Stromberg, A. Ahmad, D. Watcharakichkorn & S. Okumoto: PLoS One, 7, e38591 (2012).56) T. Kaper, L. L. Looger, H. Takanaga, M. Platten, L. Steinman & W. B. Frommer: PLoS Biol., 5, e257 (2007).57) R. Tao, K. Wang, T.-L. Chen, X.-X. Zhang, J.-B. Cao, W.-Q. Zhao, J.-L. Du & Y. Mu: Cell Discov., 9, 106 (2023).

6. AMPKバイオセンサー

細胞は栄養状態や代謝状態の変化に応答するための様々なシステムを有している.ラクトースの濃度に応じてラクトース代謝遺伝子の転写を調節する大腸菌のlacオペロンシステムはその代表格だろう.真核生物のAMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)は,AMP/ATP比が上昇するとリン酸化を受けて活性化し,代謝関連酵素を中心に,多様な基質タンパク質をリン酸化してそれらの活性を調節している(58)58) G. R. Steinberg & D. G. Hardie: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 24, 255 (2023)..糖尿病治療薬であるメトホルミンの効果は,AMPKの活性化を介したものであると考えられており,生体内のAMPK活性を理解することは臨床的にも重要である.酵素活性を蛍光バイオセンサーで検出するためには,化合物を検出する場合とは異なる工夫が必要である.AMPKの活性を検出するFRET型蛍光バイオセンサーAMPKARは,AMPKの基質となるペプチド配列とリン酸化ペプチドに結合するFHA1ドメインをCFPとYFPで挟むことで開発された(図3図3■AMPK活性をモニターするFRET型バイオセンサーのデザイン(59)59) P. Tsou, B. Zheng, C.-H. Hsu, A. T. Sasaki & L. C. Cantley: Cell Metab., 13, 476 (2011)..AMPKが活性化してAMPKARの基質ペプチドがリン酸化するとそこにFHA1ドメインが結合し,CFPからYFPへのFRET効率が増加するという仕掛けである.AMPK活性のイメージングが可能になったことで,高い時空間分解能でのAMPK活性を調べることが可能になった.さらに,基質ペプチド配列とFHA1ドメインをつなぐリンカー配列を長くし,AMPK不活性時のFRET効率を低下させることで,AMPK活性化時のFRET効率の上昇率を大きく改善したAMPKAR-EVも報告されている(60)60) Y. Konagaya, K. Terai, Y. Hirao, K. Takakura, M. Imajo, Y. Kamioka, N. Sasaoka, A. Kakizuka, K. Sumiyama, T. Asano et al.: Cell Rep., 21, 2628 (2017)..AMPKAR-EVを発現するマウスのin vivoイメージングによって,個体レベルでのAMPK活性の評価が可能になり,メトホルミンの投与が特に肝臓のAMPK活性の上昇に寄与しているなど,臓器によるAMPK活性化の違いが明らかになってきている.

図3■AMPK活性をモニターするFRET型バイオセンサーのデザイン

AMPK活性が上昇するとバイオセンサー内の基質配列がAMPKによってリン酸化され,そこにリン酸化ペプチド結合ドメインが結合することでFRET効率が上昇する.

おわりに

この20年で代謝を計測するための蛍光バイオセンサーの開発が進んだことで,生細胞代謝イメージング技術は代謝研究のための強力な手段となってきた.「生きた細胞や組織・個体で」「オルガネラ・細胞レベルの空間解像度で」「リアルタイムに」代謝状態を計測する手法は他には存在しない.今後,蛍光バイオセンサーのレパートリーを増やすことで,様々な代謝状態のイメージングが可能になっていくだろう.従来は,天然に存在するタンパク質やその変異体を利用することがほとんどであったが,今後は天然にはない基質特異性をもつタンパク質をコンピューター上でデザインしてバイオセンサー開発に応用する研究が加速していくと予想される.様々な代謝バイオセンサーを使って丁寧に細胞内の代謝動態を観察することで,予期しない新たな発見につながることが期待される.

一方,これらの蛍光バイオセンサーを利用する上で留意しなければならない点もある.例えば,FRET型のバイオセンサーは,バクテリアや酵母のような増殖の早い細胞にはあまり向いていない.FRET型バイオセンサー分子が正しく機能するためにはドナーとアクセプターの両方の発色団が成熟している必要があるが,蛍光タンパク質は,転写・翻訳されてから発色団が成熟して蛍光性を示すようになるまで,数分から数時間の時間差がある.そのため,増殖の早い細胞ではFRET型バイオセンサー分子の転写・翻訳に発色団の成熟が追いつかず,どちらか一方の発色団のみが蛍光性をもつようなヘテロなバイオセンサー分子の割合が大きくなってしまい,見かけのFRET効率が乱されて定量性が損なわれてしまうのである(26)26) H. Yaginuma, S. Kawai, K. V. Tabata, K. Tomiyama, A. Kakizuka, T. Komatsuzaki, H. Noji & H. Imamura: Sci. Rep., 4, 6522 (2014)..単一蛍光タンパク質型のバイオセンサーは,蛍光タンパク質を1つしか含まないため,こうした問題は回避できる.一方で,単一蛍光タンパク質型バイオセンサーの多くはpHなどの環境要因によって影響を受けやすいという特徴をもつ.どちらのタイプの蛍光バイオセンサーを用いる場合も,こうした特性を理解したうえで結果を解釈すべきである.

バイオセンサーを用いた代謝イメージングのもう難点をあえてもう一つ挙げるとすると,一度に計測できる対象が限られていることである.同時に複数の対象を計測できるようにするためには,波長の異なる蛍光バイオセンサーの開発を進める必要がある.とはいえ,1つの蛍光バイオセンサーだけでもかなり広い波長帯域を使用するため,同時に計測できるのはせいぜい2, 3種類程度に留まる.代謝イメージングによる動的なデータを,静的ではあるが網羅的な代謝情報を得られるメタボローム等のデータと統合することで,より包括的に代謝の動態を理解するための方法論を構築していくことが今後求められるだろう.

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