Kagaku to Seibutsu 62(9): 411 (2024)
巻頭言
人口減少社会において日本の研究力,どうやって維持する?
Published: 2024-09-01
© 2024 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2024 公益社団法人日本農芸化学会
日本の人口減少が止まらない.出生者数の減少が大きな原因である.資料によると,明治維新に3300万人だった日本の人口がどんどん増えて2010年には1億2800万人になったが,このときがピークで,それ以来減少を続け2100年には5000万人になるといわれている.われわれ大学関係者にとっては特に今後の18歳人口の動向が気になるところである.2023年の出生者数は75万8千人であるので,18年後の18歳人口は75万人台になる.2023年の18歳人口が約110万人,大学進学率が約57%であることを考えると,このままでは18年後,入学定員の確保がかなり困難になることは確実である.
日本における人口減少による影響は大学だけのはなしではない.当然労働人口の減少もますます深刻な状況になり,経済やサービスを維持することが困難になる.ポール・モーランド氏は彼の著書「人口は未来を語る」の中で次のように述べている.どの社会でも,まずは乳幼児の大量死を防ぐ努力をして,その結果人口が急増する.やがて増えた人口の多くが農村では食べていけなくなり,農村から都市への移動が起こる.都市の人口が増え,移動した人々が都市のライフスタイルになじむと子どもの数が減りはじめる.やがて子供の死亡が少ない代わりに子供の数も少ない状態となり社会は高齢化する,と.まさにこのプロセスは,これまでの日本の状況を示している.1990年代までの日本は急激な経済成長をしてきた.それは人口増加と生産性の向上があったからこそのもので,1990年以降の失われた30年を経て人口減に直面する日本はどのような対応をすべきか.ポール・モーランド氏はつぎのようにも指摘する.多くの豊かな先進国は魅力的な資金と生活水準を提供して,そのあとを追う若くて人口増加中の発展途上の社会から自分たちが必要とする労働力を集め,その力を借りて高齢化に伴う諸問題に対処することができる,と.日本も海外から若い労働力を受け入れて豊かな高齢化社会を維持していくべきで,その時には日本の安全や清潔な生活環境は魅力のひとつとしてあげられるが,日本社会の閉鎖性に加えて円安による賃金の低さが影響し,今後のサービスや経済の維持は難しさを増す.
一方で,日本の研究力が落ちているといわれている.研究力も経済力と同じで,研究者の数と研究環境に依存する.研究者の数の減少は,研究者ポストや博士号取得者の増などで日本人研究者を増やす努力に加え,海外に優秀な研究者を求めることで補うことができる.また,研究時間や研究費を十分に確保し研究者一人ひとりのパフォーマンスを高めることで,日本の研究力を少しは回復できる.
私の所属する大学では,これまでスーダン,エチオピアなどアフリカ出身の多くの若者が大学院に入り博士号を目指してきたが,中には本学に就職して現在准教授で活躍している者もいる.またエチオピア出身の研究者が正式な教授として採用され基盤研究(A)に採択されたりしている.このように海外に優秀な研究者を求めるのに,特に日本の強みのある分野においては,先進国の研究者である必要はなく,それ以外の国であっても日本で教育し研究者として育てたり,あるいは研究者を呼んで日本で活躍してもらったりすることも可能である.
先進国に限らず多くの国から研究者を受入れ活躍してもらい,また多くの若者を受け入れ育て母国で活躍してもらえば国際貢献になり,さらに日本に住んで研究者として活躍してもらえば日本の研究力を維持することにもつながる.これが,これからの日本が向かう方向であろう.