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根寄生植物防除のための発芽代謝解明と阻害剤開発
α-ガラクトシダーゼOmAGAL2阻害剤によるヤセウツボの幼根伸長抑制

Atsushi Okazawa

岡澤 敦司

大阪公立大学大学院農学研究科

Published: 2024-09-01

植物は光合成によって生育に必要なエネルギー源を糖質などの代謝物に固定する.進化の過程で,寄生植物は他の植物が固定した代謝物を「横取り」して生き抜く術を身につけた.実は自然界において寄生植物はそれほど珍しくなく,全植物種のおよそ1%程度が他の植物に寄生できることがわかっている.ハマウツボ科(Orobanchaceae)には多くの寄生植物種が含まれ,このうち宿主を農作物とするものは寄生雑草として防除の対象となる.ハマウツボ科の寄生植物は,宿主の根に寄生することから根寄生植物,根寄生雑草と称される.特にアフリカでは,根寄生雑草ストライガ(Striga hermonthica)による農業被害が深刻で,飢餓や貧困の克服のために,その防除が喫緊の課題となっている.

ハマウツボ科根寄生植物は,寄生に適した幾多の生存戦略を用いて生育する.本誌でもたびたび話題となるストリゴラクトンによる発芽誘導もその一つである.宿主が根圏の生物間コミュニケーションに用いているストリゴラクトンは,根寄生植物にとっては宿主の根が近傍にあることを示すシグナルとなっている(1)1) K. Yoneyama: J. Pestic. Sci., 45, 45 (2020)..また,個体あたりの種子数が数万粒にも及ぶことも戦略の一つであり,宿主に遭遇する確率を高めていると考えられる.その種子は0.2 mm程度と極めて小さく,土に混ざってしまうと,これを種子と認識するのはほぼ不可能である.このことは根寄生雑草の防除を困難にしている一因となっている.さて,種子が小さければ,そこに蓄えられる物質にも限りが出てくる.ましてや,根寄生植物は宿主より「横取り」した炭素を数万粒もの種子に分配する必要があり,その量は宿主への寄生に必要な期間を生き抜くのに必要最小限な程度と予想される.現に,発芽した根寄生植物は,寄生が成立しなければ1週間を過ぎる頃には枯死してしまう.したがって,寄生成立前の比較的脆弱と思われる発芽過程は,根寄生雑草の防除のタイミングに適していると考えられる.筆者らは,根寄生雑草の発芽時の代謝を詳細に解析し,新たな根寄生雑草防除法の開発につながる知見を得ることを目的に研究を行っている.

国内で入手可能な根寄生雑草ヤセウツボ(Orobanche minor)の種子発芽における代謝の変動をGC-MSによるノンターゲットメタボロミクスによって解析したところ,ライブラリへの参照によってはアノテーションされない代謝物で発芽に伴って顕著に減少するものが見出された.そこで,この化合物を単離精製し,その構造決定を行ったところプランテオースであることが明らかになった(2)2) T. Wakabayashi, B. Joseph, S. Yasumoto, T. Akashi, T. Aoki, K. Harada, S. Muranaka, T. Bamba, E. Fukusaki, Y. Takeuchi et al.: J. Exp. Bot., 66, 3085 (2015)..プランテオースは,スクロースにガラクトースが付加した三糖であり,数種の植物の種子に含まれることが知られているが,その生合成や生理的役割についてはわかっていない.さらに,糖の定量分析と質量分析イメージングによって(図1図1■ヤセウツボ種子中のプランテオースの分布),ヤセウツボの胚乳に蓄えられているプランテオースが,発芽時にまずガラクトースとスクロースに加水分解され,その後スクロースがグルコースとフルクトースにまで加水分解されることを明らかにした.プランテオースの加水分解酵素は同定されていなかったが,トランスクリプトームデータより発芽時に発現が誘導されるα-ガラクトシダーゼ様遺伝子OmAGAL2を見出し,これを大腸菌で異種発現させたところOmAGAL2が酸性条件でプランテオースを加水分解するα-ガラクトシダーゼであることが明らかになった(3)3) A. Okazawa, A. Baba, H. Okano, T. Tokunaga, T. Nakaue, T. Ogawa, S. Shimma, Y. Sugimoto & D. Ohta: J. Exp. Bot., 73, 1992 (2022)..以上の結果より,プランテオースは発芽の初期過程に必要な単糖の供給源であると予想し,OmAGAL2の阻害によってヤセウツボの発芽が抑制されるかどうかを検討することとした.

図1■ヤセウツボ種子中のプランテオースの分布

A)ヤセウツボ種子.B)ヤセウツボ種子の切片の明視野顕微鏡画像.C, D)プランテオースに固有の分子フラグメントイオン(それぞれm/z 365.11, 347.09)の質量分析イメージング.

約15,000化合物からなる市販のケミカルライブラリーのスクリーニングによって,OmAGAL2に対して阻害活性を示す28化合物を選抜した.これらのOmAGAL2阻害剤はいずれもヤセウツボ発芽種子の幼根伸長を強く阻害したため,目論見通りプランテオース代謝の阻害によってヤセウツボの発芽,特に幼根伸長を抑制できることが示された.28化合物のうちチオウレア誘導体PI-28に着目して,ベンゼン環上に種々の置換基を導入した一連の類縁体を合成し(4)4) M. Sonoda, Y. Mimura, S. Noda & A. Okazawa: Tetrahedron, 135, 133333 (2023).,その活性を評価した(図2A図2■ヤセウツボの幼根伸長阻害活性を有するチオウレアの構造活性相関).この結果,フェニルチオウレア部位のベンゼン環上のm-もしくはp-位への置換基の導入が活性に必須であることが明らかになった.特にp-位への電子求引性基の導入によって活性が向上した.さらに,フェノキシ部位のベンゼン環のm-もしくはp-位への塩素の導入はPI-28に比べて約5倍の活性向上をもたらすことが明らかになった(図2B図2■ヤセウツボの幼根伸長阻害活性を有するチオウレアの構造活性相関(5)5) A. Okazawa, S. Noda, Y. Mimura, K. Fujino, T. Wakabayashi, D. Ohta, Y. Sugimoto & M. Sonoda: J. Pestic. Sci., 48, 149 (2023)..現在,この構造活性相関をもとにさらなる構造最適化を進めている.

図2■ヤセウツボの幼根伸長阻害活性を有するチオウレアの構造活性相関

A)フェノール,2-クロロアセタミドおよびアリルイソチアネートを原料とする2段階のチオウレア誘導体の合成スキーム.B)幼根伸長阻害試験によって得られたチオウレア誘導体の構造と活性の関係.

筆者らは,根寄生雑草ヤセウツボを対象に発芽における代謝の解析によるプランテオースの同定,その代謝経路の分子レベルでの解明,代謝酵素阻害剤のスクリーニング及び阻害剤の構造活性相関研究といった一連の流れでヤセウツボの幼根伸長を著しく阻害する化合物を得ることに成功した.すなわち,根寄生雑草の防除に資する標的の探索から標的ベースのスクリーニングによるリード化合物の取得までの一連の研究を遂行することができた.もちろん,この成果を実用レベルに引き上げるまでにはまだ多くの課題があるが,今後も根寄生植物における代謝の理解とその応用を念頭に置いて研究を進めたい.

Reference

1) K. Yoneyama: J. Pestic. Sci., 45, 45 (2020).

2) T. Wakabayashi, B. Joseph, S. Yasumoto, T. Akashi, T. Aoki, K. Harada, S. Muranaka, T. Bamba, E. Fukusaki, Y. Takeuchi et al.: J. Exp. Bot., 66, 3085 (2015).

3) A. Okazawa, A. Baba, H. Okano, T. Tokunaga, T. Nakaue, T. Ogawa, S. Shimma, Y. Sugimoto & D. Ohta: J. Exp. Bot., 73, 1992 (2022).

4) M. Sonoda, Y. Mimura, S. Noda & A. Okazawa: Tetrahedron, 135, 133333 (2023).

5) A. Okazawa, S. Noda, Y. Mimura, K. Fujino, T. Wakabayashi, D. Ohta, Y. Sugimoto & M. Sonoda: J. Pestic. Sci., 48, 149 (2023).