解説

水溶性のカロテノイド結合タンパク質
アスタキサンチンを水溶化するタンパク質の発見,機能と応用

Water-Soluble Carotenoid Binding Protein: Identification and Functional Study of Water-Soluble Astaxanthin Binding Protein

Shinji Kawasaki

川﨑 信治

東京農業大学生命科学部分子微生物学科

Published: 2024-09-01

800種以上が知られるカロテノイドは,ルテインやアスタキサンチン,フコキサンチンなどを代表として,それぞれ黄色や橙色など固有の色彩と高い抗酸化力を持つ共通点がある.大部分は脂溶性を示し,細胞内の油滴や膜脂質,光化学系などに局在する形で分布するが,サフランやクチナシ由来のクロシンのように糖などをエステル結合することで親水性や分散性を高めるものや,タンパク質に結合することで水溶液中での機能を発揮する例が知られている.本稿では,近年同定が進みつつある水溶性のカロテノイド結合タンパク質の紹介を中心に,その生物分布や機能推定,および産業利用を含めた将来展望について述べたいと思う.

Key words: 微細藻類; 強光防御; カロテノイド; アスタキサンチン; 抗酸化

過酷な環境を生き抜くイカダモが生産するアスタキサンチンを水溶化するタンパク質-AstaP

光合成生物は強光が伴う環境ストレス下では,炭酸固定反応の停止が起因となり,使われなくなった余剰の光エネルギーは細胞毒性を発生する.筆者らは,一般植物の生育が困難な,強光が伴う過酷な生育環境下を生き抜く光合成微生物に,未知の光酸化ストレス耐性機構の保持を推定し,強光が照りつける砂漠土壌や壁面などの環境を単細胞で生き抜く微細藻類を探索し,単離藻の耐性機構に関する研究を行ってきた.真夏のアスファルト表面から単離した真核緑藻のイカダモ(後にイカダモ科の新種Coelastrella astaxanthina Ki-4と同定)に乾燥や高塩下で強光を付与したところ,細胞内部を赤く変色させ,かつ肥大化して長期間のストレス耐性能を保持することが判明した(1, 2)1) S. Kawasaki, K. Mizuguchi, M. Sato, T. Kono & H. Shimizu: Plant Cell Physiol., 54, 1027 (2013).2) S. Kawasaki, R. Yoshida, K. Ohkoshi & H. Toyoshima: Phycol. Res., 68, 107 (2020)..ストレス耐性期に細胞抽出液がオレンジ色に変色することに着目して研究を進めた結果,アスタキサンチンを結合する水溶性タンパク質が同定され,AstaP(Astaxanthin-binding Protein)と命名した(図1図1■強光+乾燥を生き抜くイカダモの発見と,オレンジ色の水溶性タンパク質の同定(1)1) S. Kawasaki, K. Mizuguchi, M. Sato, T. Kono & H. Shimizu: Plant Cell Physiol., 54, 1027 (2013)..植物界における水溶性のカロテノイド結合タンパク質の存在は報告例に乏しく,また微細藻類のアスタキサンチンに関しては,真核の微細藻類ヘマトコッカス藻などが細胞内に油滴としてアスタキサンチンを蓄積することが知られるのみであった.上記背景の下,AstaPを抗酸化力の高いアスタキサンチンの機能を水溶液中で発揮するためのタンパク質として位置づけ,その機能解明と同時に,植物の新規な強光防御法としての観点から研究を進めている.

図1■強光+乾燥を生き抜くイカダモの発見と,オレンジ色の水溶性タンパク質の同定

A.真夏の太陽光下での乾燥ストレス耐性試験.寒天培地上で生育したKi-4株の緑色コロニーにストレスを付与するとオレンジ色に変色し,灌水後3日で緑色に復活する.B. Ki-4株のストレス前後の顕微鏡像.光酸化ストレス付与後に肥大化し,オレンジ色に変色する.バーは10 µm. C.左:超遠心分離後のオレンジ色の細胞抽出液の取得と,右:超純水に溶けた精製タンパク質の吸光スペクトル.

AstaPは強光が伴う光酸化ストレス環境で,イカダモ細胞内に大量に蓄積する

AstaPは主要なカロテノイドとしてアスタキサンチンを結合し,細胞内での蓄積量はタンパク質総量の数割に達した(図2図2■AstaPの結合色素の同定と,光酸化ストレスに対する応答性).純水中で484 nmの最大吸光波長を持つオレンジ色のタンパク質で,タンパク質1分子に1分子のアスタキサンチンを結合する(1, 3)1) S. Kawasaki, K. Mizuguchi, M. Sato, T. Kono & H. Shimizu: Plant Cell Physiol., 54, 1027 (2013).3) S. Kawasaki, T. Mitsui, K. Omori, T. Tsuboya, A. Bader, H. Toyoshima & S. Takaichi: Algal Res., 70, 102982 (2023)..AstaPの一次構造を図2図2■AstaPの結合色素の同定と,光酸化ストレスに対する応答性に示す.相同性解析の結果,ファスシクリンファミリー(FASファミリー,Fasciclin family)に属するタンパク質として同定された.FASファミリーのタンパク質はN末端部分に疎水性の細胞膜外輸送シグナルを持つ分泌タンパク質で,細菌から動植物に至るまで広く分布しているが,機能が未解明のタンパク質が多いファミリーであった(4, 5)4) I. Kii & A. Kudo: Seikagaku, 78, 16 (2006).5) K. L. Johnson, B. J. Jones, A. Bacic & C. J. Schultz: Plant Physiol., 133, 1911 (2003)..AstaPの一次構造にもN末端部分に20個のアミノ酸残基からなる分泌シグナルが検出され,精製タンパク質のN末端アミノ酸配列解析から,シグナル配列の切断部位が同定された.一次構造から推定したタンパク質の大きさは21.2 kDaだったが,SDS-PAGEとゲルろ過では35~40 kDaと計測された.そこで糖鎖の結合を予測したところ,計5箇所のN型糖鎖結合部位が検出され,PAS染色によって糖タンパク質であることが判明した.以上から,他のFASファミリータンパク質と同様に細胞表層移行シグナルを持つ分泌性の糖鎖結合タンパク質で,免疫染色の結果からも細胞表層での局在が同定された.FASファミリータンパク質の特徴は後述するが,生物界に広く分布が確認されているものの,カロテノイドを結合するものは現在までにAstaP以外に報告例はない.

図2■AstaPの結合色素の同定と,光酸化ストレスに対する応答性

A.上:AstaPの結合色素はアスタキサンチンと同定された.下:AstaPの一次構造.□: N型糖鎖結合部位(太字Nはエドマン分解にて糖鎖結合が確認されたアスパラギン残基).太字斜線:FASファミリータンパク質に保存される2つのFasciclinドメイン.矢印はシグナル切断部位.B.Ki-4株に光酸化ストレスを付与後のastaP遺伝子の発現変動.32Pで標識したastaP遺伝子を用いてノザン解析を行った.C.光酸化ストレスを付与後のAstaPタンパク質の変動.耐久細胞内に大量の蓄積が検出された.

AstaPは原核微生物~動植物に広く分布するFASファミリーに属する

FASファミリーに属するタンパク質は,ヒトのβig-h3タンパク質(6)6) J. Skonier, M. Neubauer, L. Madisen, K. Bennett, G. D. Plowman & A. F. Purchio: DNA Cell Biol., 11, 511 (1992).,植物のアラビノガラクタンタンパク質(5)5) K. L. Johnson, B. J. Jones, A. Bacic & C. J. Schultz: Plant Physiol., 133, 1911 (2003).,ボルボックス(群体性藻類)のAlgal-CAM(Algal cell adhesion molecule)(7)7) O. Huber & M. Sumper: EMBO J., 13, 4212 (1994).,など複数の文献で報告されており,共通する特徴として1)Fasciclinドメインを持つ,2)N末端部位に疎水性の細胞膜外輸送シグナルを持つ,3)糖鎖結合部位を持つものが多い(原核生物は除く),4)タンパク質のC末端部分に細胞膜に結合するための疎水性GPIアンカーを持つものが多い,などの特徴が挙げられる(図3図3■各種生物に保存されるAstaPホモログの構造と分子系統).機能が未同定のタンパク質が多いが,FASドメインが細胞間接着因子(adhesin)とし機能することが主要な論文で報告されている(5~7)5) K. L. Johnson, B. J. Jones, A. Bacic & C. J. Schultz: Plant Physiol., 133, 1911 (2003).6) J. Skonier, M. Neubauer, L. Madisen, K. Bennett, G. D. Plowman & A. F. Purchio: DNA Cell Biol., 11, 511 (1992).7) O. Huber & M. Sumper: EMBO J., 13, 4212 (1994)..カロテノイドを結合するものはAstaP以外に報告例がなく,同ファミリー内における類似の機能性を持つタンパク質の有無に興味が持たれた.論文を発表した2013年当時に相同性検索(BLAST)をしたところ,トップヒットがほぼバクテリア由来のタンパク質で占められた.近年では微細藻類のゲノム解読数が増加し,近縁のイカダモ科藻を中心に分布が認められるものの,依然としてバクテリア由来のものが数多く検出される.

図3■各種生物に保存されるAstaPホモログの構造と分子系統

A.各種生物に分布するFASファミリータンパク質の構造比較.aaはアミノ酸残基数を示す.B.AstaPに高い相同性を持つ近縁タンパク質の分子系統樹と生物分類.アウトグループとして,3′ヒドロキシエキネノンを結合するシアノバクテリアのOCP(orange carotenoid protein)を用いた.[ ]内はアクセッション番号.

バクテリアを含むAstaPオルソログ(AstaPに高い相同性を示すホモログ)の生物分布を図3B図3■各種生物に保存されるAstaPホモログの構造と分子系統に示す.AstaPオルソログを保持するバクテリアは,カロテノイド合成能を持つ種に限られていた.例えば枯草菌(Bacillus subtilis)が所属するグラム陽性有胞子桿菌のBacillus属内にもAstaPオルソログは分布するが,Bacillus属の中でカロテノイド合成能を持つ,ごく限られた種にのみAstaPオルソログをコードする遺伝子が保存される.他に,原核光合成生物のシアノバクテリア,海洋性バクテリアでグラム陰性細菌のAlgoriphagus属や好熱菌のMeiothermus属など,グラム陰性・陽性を問わずカロテノイドに由来する菌体色を持つ細菌がAstaPオルソログを保持していた.それらの多くはN末端に疎水性のペリプラズム移行シグナルを持つ.以上の状況証拠から,バクテリアのオルソログはAstaPと同様にカロテノイド代謝への関与が強く示唆されるが,現在のところ全て機能未知タンパク質であり,その同定と機能解明が望まれる.

微細藻類に分布するAstaPオルソログの機能

現在までに精製・同定されたAstaPは計5種類で,そのうち単離株から精製した4種類の特徴を表1表1■緑藻イカダモから同定されたAstaPの種類と特徴に示す.Ki-4株から1種類(2020年にAstaP-orange1と改名)の他に,沖縄の溜め池から単離したイカダモのScenedesmus obtusus Oki-4N株から3種類のAstaP(AstaP-orange2, AstaP-pink1, AstaP-pink2)(8)8) S. Kawasaki, K. Yamazaki, T. Nishikata, T. Ishige, H. Toyoshima & A. Miyata: Commun. Biol., 3, 490 (2020).,ドイツのSAGコレクションから取り寄せたScenedesmus costatus SAG46.88から1種類のAstaP(ScosAstaP)が精製・同定された(9)9) H. Toyoshima, A. Miyata, R. Yoshida, T. Ishige, S. Takaichi & S. Kawasaki: Mar. Drugs, 19, 349 (2021)..他にはSAGから取り寄せたCoelastrella vacuolata SAG211-8bやCoelastrella striolata SAG16.95などで,ゲルろ過レベルの簡易精製を行い,供試したイカダモ科藻にAstaP様タンパク質の発現を確認した.分譲株のAstaP発現量はスクリーニング株のKi-4やOki-4Nと比較すると顕著に低かったが,光酸化ストレス付与後に発現が誘導される共通性が観察された(9)9) H. Toyoshima, A. Miyata, R. Yoshida, T. Ishige, S. Takaichi & S. Kawasaki: Mar. Drugs, 19, 349 (2021).

表1■緑藻イカダモから同定されたAstaPの種類と特徴
Ki-4株Coelastrella astaxanthinaOki-4N株Scenedesmus obtusus
精製タンパク質
吸収極大波長484 nm502 nm501 nm488 nm
糖鎖修飾
等電点10.54.73.83.6
分子量(大きさ)37 kDa20 kDa20 kDa75 kDa
一重項酸素消去活性++++++
発現部位細胞表層??細胞表層(+GPI)
結合色素アスタキサンチン

一方,モデル藻類では,同じ緑藻類に分類されるクラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii NIES-2238)やクロレラ(Chlorella variabilis NIES-2540)のゲノム上にAstaPと比較的高い相同性を示すFASファミリータンパク質をコードする遺伝子の保持が確認されたが(1)1) S. Kawasaki, K. Mizuguchi, M. Sato, T. Kono & H. Shimizu: Plant Cell Physiol., 54, 1027 (2013).,筆者らの解析の結果,光酸化ストレス下での顕著な発現は検出されていない(9)9) H. Toyoshima, A. Miyata, R. Yoshida, T. Ishige, S. Takaichi & S. Kawasaki: Mar. Drugs, 19, 349 (2021)..カロテノイドの結合ではない別の機能を持つ可能性も推定されるが,さらなる研究が必要である.

これまでに同定した5種類のAstaPは,興味深いことにアスタキサンチンを結合する共通性,FASドメインを持つ共通性,ならびに膜外移行シグナルを持つ共通性がある一方,Ki-4株のAstaP-orange1は等電点が強アルカリ(pI=10.5),他のAstaPは酸性(pI=3.6~4.7),と真逆の特性を持つことは機能性の相違を示唆するものである.また糖鎖の有無も異なっていた.一般的に細胞表層へ移行するタンパク質は分泌シグナルを保持し,ゴルジ体での糖鎖付加を受けることから,糖鎖がないAstaPは他の細胞小器官での局在も示唆された.糖鎖を持たないAstaPはシグナル配列の形状が若干異なる特徴を示したことから(8)8) S. Kawasaki, K. Yamazaki, T. Nishikata, T. Ishige, H. Toyoshima & A. Miyata: Commun. Biol., 3, 490 (2020).,他の細胞小器官における局在の有無も調査している.

AstaPはアスタキサンチンを嗜好して結合する

AstaPは,なぜアスタキサンチンを結合するのであろうか.カロテノイドは800種類以上も報告されており,生物界に幅広く分布する(10, 11)10) 高市真一:“カロテノイド:その多様性と生理活性”,裳華房,2006.11) 眞岡孝至:科学・技術研究,7, 93 (2018)..なぜ,アスタキサンチンを? という疑問に対する回答が得られれば,強力な太陽光の下で生きるフラミンゴなどの多くの生物にアスタキサンチンが好まれる理由の解明につながる.そこでAstaPのアスタキサンチン嗜好性について解析した(3)3) S. Kawasaki, T. Mitsui, K. Omori, T. Tsuboya, A. Bader, H. Toyoshima & S. Takaichi: Algal Res., 70, 102982 (2023).

AstaPに低濃度の有機溶媒を作用させると,タンパク質骨格の変性を伴うことなく,アスタキサンチンを完全に脱離することが可能であった.アスタキサンチンを脱離したAstaP(apo-AstaP)は,有機溶媒に溶解したアスタキサンチンと混ぜると,アスタキサンチンを再結合する(再構成AstaP).このカロテノイド脱着能を利用して,様々なカロテノイドを用いて,apo-AstaPへの再構成試験を行った.その結果,アスタキサンチンのみならず,ルテイン,カンタキサンチン,ゼアキサンチン,フコキサンチンなど,試験した脂溶性のカロテノイドを全て再構成し水溶化した(図4図4■AstaPからカロテノイドを脱離したapo型のAstaPに各種カロテノイドを結合した再構成タンパク質の純水中の吸光スペクトル).またレチノールやレチナールなどビタミンA誘導体も結合し水溶化した.一方,βカロテンへの結合性は顕著に低かった.このことから,AstaPへの結合には,β-末端基に親水性側鎖の必要性が示唆された.またヘマトコッカス藻やオキアミが持つアスタキサンチンは,その大半がエステル体として存在するが,AstaPはアスタキサンチンのモノエステルに若干の結合性が観察されたものの,ジエステル体には結合性を示さなかった(3)3) S. Kawasaki, T. Mitsui, K. Omori, T. Tsuboya, A. Bader, H. Toyoshima & S. Takaichi: Algal Res., 70, 102982 (2023).

図4■AstaPからカロテノイドを脱離したapo型のAstaPに各種カロテノイドを結合した再構成タンパク質の純水中の吸光スペクトル

FucoxanthinはKi-4細胞内には存在しないカロテノイド種である.点線はアセトンに溶解したカロテノイドのスペクトル.レチノールはメタノールに溶解したスペクトル(点線).実線は超純水に溶解した再構成タンパク質のスペクトルを示す.

図5■海洋生物の青色カイメン動物の体色を構成する青色タンパク質の同定と結晶構造

A.沖縄産の青色カイメン動物(Haliclona sp.)から発見された,オレンジ色のアスタキサンチンとミチロキサンチンを青色に変色する精製タンパク質のスペクトル.熱変性するとオレンジ色に戻る.B.青色タンパク質の一次構造.エペンダイミンファミリーに属する細胞表層移行シグナルを持つ糖鎖結合タンパク質で,高次構造の形成に関与するシステイン残基を保持する.αとβサブユニットのアミノ酸配列の相同性は50% identity.下はAstaxanthinとMytiloxanthinの構造.C.同定したタンパク質の結晶構造.αとβサブユニットの会合境界面にアスタキサンチンとミチロキサンチンを1分子ずつ結合する.

apo-AstaPにカロテノイドを数種類混ぜたカロテノイドミックス溶液を用いて再構成試験を行ったところ,アスタキサンチンに対して高い親和性を持つことが判明した.AstaPが発現するイカダモ科藻の藻細胞内はルテイン含量が最も高く,ストレス付与前後でもその相対比に大きな変化はないが(12)12) H. Toyoshima, S. Takaichi & S. Kawasaki: Algal Res., 50, 101988 (2020).,AstaPはルテインよりもアスタキサンチンを選択的に結合することが判明した.以上から,AstaPはアスタキサンチンを嗜好し,かつ水溶化することを目的として藻体内で発現することが明らかとなった.

AstaPの機能

Ki-4株やOki-4N株のAstaPは光酸化ストレスで高誘導され,細胞内に高蓄積し,抗酸化力が高いアスタキサンチンを結合し水溶化する.以上から,酵素化学的な機能として以下の3つが推定される.

1:強光防御への水溶性アスタキサンチンの利用.AstaPをコードする遺伝子は光酸化ストレス付与開始から3時間後に高発現を開始する(12)12) H. Toyoshima, S. Takaichi & S. Kawasaki: Algal Res., 50, 101988 (2020)..プロテオーム解析の結果,AstaPはストレス付与後24時間頃から高発現が確認され,その後は徐々に蓄積量が増し,6日目頃に最大量に達した(1, 12)1) S. Kawasaki, K. Mizuguchi, M. Sato, T. Kono & H. Shimizu: Plant Cell Physiol., 54, 1027 (2013).12) H. Toyoshima, S. Takaichi & S. Kawasaki: Algal Res., 50, 101988 (2020)..アスタキサンチンに対する高いアフィニティーを持ち,細胞内のアスタキサンチン濃度は光酸化ストレス付与後6日後にはOD480 nm=17 cm−1に達すると見積もられた(1)1) S. Kawasaki, K. Mizuguchi, M. Sato, T. Kono & H. Shimizu: Plant Cell Physiol., 54, 1027 (2013)..地上に降り注ぐ太陽光の最大波長が約480 nm付近であることと一致することから,太陽光から細胞を守るために細胞表層でアスタキサンチンを利用して日よけ効果を高める機能が推定された.

2:1O2消去活性.アスタキサンチンは植物由来のphytochemicalとして,主にヘマトコッカス藻が油滴として細胞内に高濃度に蓄積することが知られており,産業用の天然アスタキサンチンもヘマトコッカス藻から生産されている.ヘマトコッカス藻のアスタキサンチンエステルは親油性のため,油滴として浮遊,もしくは細胞膜の膜脂質に結合し,1O2消去活性を触媒すると考えられる(13, 14)13) M. Kobayashi & Y. Sakamoto: Biotechnol. Lett., 21, 265 (1999).14) S. Ota, A. Morita, S. Ohnuki, A. Hirata, S. Sekida, K. Okuda, Y. Ohya & S. Kawano: Sci. Rep., 8, 5617 (2018)..AstaPは水溶液中で1O2消去活性を触媒し,その活性はNaN3の400倍に達すると見積もられた{10 mMのNaN31O2消去活性は約25 µMのAstaP(アスタキサンチン換算)に相当する}(1, 8)1) S. Kawasaki, K. Mizuguchi, M. Sato, T. Kono & H. Shimizu: Plant Cell Physiol., 54, 1027 (2013).8) S. Kawasaki, K. Yamazaki, T. Nishikata, T. Ishige, H. Toyoshima & A. Miyata: Commun. Biol., 3, 490 (2020)..植物界において葉緑体以外での1O2消去反応の重要性は未知であるが,状況証拠として細胞表層での1O2消去反応の重要性が示唆される.

3:適合溶質としての可能性.光酸化ストレスを付与後に肥大化したKi-4株細胞では,AstaPの蓄積が全タンパク質の数割に達する(1, 9)1) S. Kawasaki, K. Mizuguchi, M. Sato, T. Kono & H. Shimizu: Plant Cell Physiol., 54, 1027 (2013).9) H. Toyoshima, A. Miyata, R. Yoshida, T. Ishige, S. Takaichi & S. Kawasaki: Mar. Drugs, 19, 349 (2021)..このことは,細胞が長期の耐性を獲得する際にAstaPが適合溶質として機能する可能性を示唆している.適合溶質とは,主に糖やアミノ酸などの有機物が浸透圧や水和,抗酸化など複数の機能を持つ化合物の総称で,細胞内に高濃度に蓄積し,酵素反応や細胞活動を阻害することのない保護物質として機能する.日よけ防御や抗酸化活性の他に,LEAタンパク質(Late embryogenesis abundant protein)などに類似する細胞保護機能を持つ可能性を推定し,研究を進めている.

水溶性カロテノイド結合タンパク質の産業利用

アスタキサンチンは微細藻類産業を代表する天然色素として,食品やサプリメント,化粧品など様々な分野に利用される抗酸化力が高い親油性の有用化合物である.主にヘマトコッカス藻が生産する油状のアスタキサンチンが,モノエステル体とジエステル体の混合物として流通している.このアスタキサンチンは,脂質やペプチドの添加によるナノ粒子として水溶化が達成され,商業利用されている.一方,AstaPは非エステル体のアスタキサンチンのみを結合し水溶化する機能を持つイカダモ由来の天然色素として位置づけられ,細胞内の全タンパク質の中で最も高い等電点を持つことから,電荷の差を利用して1本のイオン交換カラムで精製が可能な色素として産業利用の可能性が期待された.

微細藻類由来の類似のタンパク質性色素としては,フィコシアニンが産業利用されている.フィコシアニンはフィコシアノビリンを結合するシアノバクテリアのスピルリナが生産する水溶性で青色のタンパク質性色素で,天然色素として需要が高い.上記を踏まえAstaPを評価すると,青色のフィコシアニンに類するタンパク質性の橙色色素で,高い耐熱性とアスタキサンチンに由来する抗酸化機能を保持し,大量生産と簡便な精製が可能な特徴を持つ水溶性の天然色素として位置づけられる.現在の食用色素は,ほぼ全てが高等植物に依存しており,気候変動やサステイナビリティの観点からも,培養による安定供給が可能な藻に由来する色素の利用が進展することを期待する.

水溶性カロテノイド結合タンパク質の生物分布

カロテノイドを結合して水溶化するタンパク質がAstaPの発見以前に数種類報告されていた.代表的なものではカイコから発見されたlutein binding protein(15)15) H. Tabunoki, H. Sugiyama, Y. Tanaka, H. Fujii, Y. Banno, Z. E. Jouni, M. Kobayashi, R. Sato, H. Maekawa & K. Tsuchida: J. Biol. Chem., 277, 32133 (2002).,ヒト網膜の黄斑部に分布するlutein binding protein(16)16) P. Bhosale, B. Li, M. Sharifzadeh, W. Gellermann, J. M. Frederick, K. Tsuchida & P. S. Bernstein: Biochemistry, 48, 4798 (2009).,海洋生物の青色を彩る甲殻類由来のcrustacyanin(17)17) M. Cianci, P. J. Rizkallah, A. Olczak, J. Raftery, N. E. Chayen, P. F. Zagalsky & J. R. Helliwell: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99, 9795 (2002).などである.植物では報告例に乏しく,真核光合成生物の渦鞭毛藻に分布するperidinin chlorophyll binding protein(18)18) E. Hofmann, P. M. Wrench, F. P. Sharples, R. G. Hiller, W. Welte & K. Diederichs: Science, 272, 1788 (1996).や,原核光合成微生物のシアノバクテリアに分布するorange carotenoid protein(OCP)(19)19) T. K. Holt & D. W. Krogmann: Biochim. Biophys. Acta, 637, 408 (1981).が知られていた.

筆者らはAstaPのホモログが海洋生物にも分布する点に興味を持ち,各種の海洋生物を調査した.青色の海綿動物の抽出液が体色と同じ青色になる点に着目し,青い色素の精製と同定を行ったところ,橙色のアスタキサンチンとミチロキサンチンを結合する水溶性のカロテノイド結合タンパク質が同定された(図5図5■海洋生物の青色カイメン動物の体色を構成する青色タンパク質の同定と結晶構造(20)20) S. Kawasaki, T. Kaneko, T. Asano, T. Maoka, S. Takaichi & Y. Shomura: J. Biol. Chem., 299, 105110 (2023)..本タンパク質はependymin superfamilyに属するタンパク質で,橙色のアスタキサンチンを青色に変色する機能は甲殻類のクラスタシアニンに類似するが,分子系統が異なるファミリー(クラスタシアニンはlipocalin super family)に属することが判明し,EPD-BCP1と命名した.EPD-BCP1は糖鎖とN末端に細胞表層移行シグナルを持つことから,AstaPとの機能的な類似性を持つ.結晶構造解析の結果,クラスタシアニンはアスタキサンチンのみを結合するが,EPD-BCP1はアスタキサンチンとミチロキサンチンを1分子ずつ結合した.ヘテロ2量体の会合領域にカロテノイドを配置する構造はクラスタシアニンと類似しており,タンパク質によるカロテノイド選択性が厳密かつ定量的に嗜好されることが判明した.類似のN末分泌シグナルを持つタンパク質はバッタの体色形成タンパク質(YPT: Yellow protein takeout family)にも存在し,研究が進められている(21, 2221) G. B. Wybrandt & S. O. Andersen: Insect Biochem. Mol. Biol., 31, 1183 (2001).22) R. Sugahara, S. Tanaka, A. Jouraku & T. Shiotsuki: Insect Biochem. Mol. Biol., 97, 10 (2018).).以上から,カロテノイドの水溶化と輸送を担う共通の機能性を持つタンパク質が,異なる分子系統の複数のタンパク質ファミリーに渡って分布することが判明した.

最後に

脂溶性のカロテノイドを水溶化するタンパク質は,多様な生物種に分布が確認され,類似の構造と機能を示す一方,タンパク質の一次構造(アミノ酸配列)は相同性が低い特徴を持つ.この結果は,生物種によって嗜好性が異なるカロテノイドの種類や輸送経路の違いに応じて,異なる祖先タンパク質から類似の機能と構造を獲得する収斂進化が起こった結果を示唆しており,カロテノイドの嗜好メカニズムやタンパク質の分子進化の観点から興味深いサンプルが得られつつある.生物が油の機能を水中で発揮する方法の一端が見えてきたが,今後はタンパク質構造に関する研究と同時に,各種産業での利用と応用に関する研究が進展することを期待する.

Reference

1) S. Kawasaki, K. Mizuguchi, M. Sato, T. Kono & H. Shimizu: Plant Cell Physiol., 54, 1027 (2013).

2) S. Kawasaki, R. Yoshida, K. Ohkoshi & H. Toyoshima: Phycol. Res., 68, 107 (2020).

3) S. Kawasaki, T. Mitsui, K. Omori, T. Tsuboya, A. Bader, H. Toyoshima & S. Takaichi: Algal Res., 70, 102982 (2023).

4) I. Kii & A. Kudo: Seikagaku, 78, 16 (2006).

5) K. L. Johnson, B. J. Jones, A. Bacic & C. J. Schultz: Plant Physiol., 133, 1911 (2003).

6) J. Skonier, M. Neubauer, L. Madisen, K. Bennett, G. D. Plowman & A. F. Purchio: DNA Cell Biol., 11, 511 (1992).

7) O. Huber & M. Sumper: EMBO J., 13, 4212 (1994).

8) S. Kawasaki, K. Yamazaki, T. Nishikata, T. Ishige, H. Toyoshima & A. Miyata: Commun. Biol., 3, 490 (2020).

9) H. Toyoshima, A. Miyata, R. Yoshida, T. Ishige, S. Takaichi & S. Kawasaki: Mar. Drugs, 19, 349 (2021).

10) 高市真一:“カロテノイド:その多様性と生理活性”,裳華房,2006.

11) 眞岡孝至:科学・技術研究,7, 93 (2018).

12) H. Toyoshima, S. Takaichi & S. Kawasaki: Algal Res., 50, 101988 (2020).

13) M. Kobayashi & Y. Sakamoto: Biotechnol. Lett., 21, 265 (1999).

14) S. Ota, A. Morita, S. Ohnuki, A. Hirata, S. Sekida, K. Okuda, Y. Ohya & S. Kawano: Sci. Rep., 8, 5617 (2018).

15) H. Tabunoki, H. Sugiyama, Y. Tanaka, H. Fujii, Y. Banno, Z. E. Jouni, M. Kobayashi, R. Sato, H. Maekawa & K. Tsuchida: J. Biol. Chem., 277, 32133 (2002).

16) P. Bhosale, B. Li, M. Sharifzadeh, W. Gellermann, J. M. Frederick, K. Tsuchida & P. S. Bernstein: Biochemistry, 48, 4798 (2009).

17) M. Cianci, P. J. Rizkallah, A. Olczak, J. Raftery, N. E. Chayen, P. F. Zagalsky & J. R. Helliwell: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99, 9795 (2002).

18) E. Hofmann, P. M. Wrench, F. P. Sharples, R. G. Hiller, W. Welte & K. Diederichs: Science, 272, 1788 (1996).

19) T. K. Holt & D. W. Krogmann: Biochim. Biophys. Acta, 637, 408 (1981).

20) S. Kawasaki, T. Kaneko, T. Asano, T. Maoka, S. Takaichi & Y. Shomura: J. Biol. Chem., 299, 105110 (2023).

21) G. B. Wybrandt & S. O. Andersen: Insect Biochem. Mol. Biol., 31, 1183 (2001).

22) R. Sugahara, S. Tanaka, A. Jouraku & T. Shiotsuki: Insect Biochem. Mol. Biol., 97, 10 (2018).