解説

脱水縮合アミド化反応の新展開
多核ホウ素触媒の創成

New Direction of Dehydrative Amide Condensations: Development of Multiboron Catalysts

Naoya Takahashi

高橋 那央也

日本大学文理学部化学科

Naoyuki Shimada

嶋田 修之

日本大学文理学部化学科

Published: 2024-09-01

アミドは極めて重要な化学結合の一つである.そのため,安価で取り扱い容易な基質から,高効率的かつ環境調和性に優れた方法でアミドを合成する化学反応の開発が強く求められている.最も理想的なアミド合成法は,水のみを副生成物とする,触媒を用いたカルボン酸とアミンの脱水縮合反応であろう.これまでに,国内外で数多くの脱水縮合アミド化触媒が開発されてきたが,ホウ素触媒を利用したアミド化反応の進展は目覚ましく,最近では,分子骨格内に複数のホウ素原子を有する「多核ホウ素触媒」が創成されている.本稿では,多核ホウ素触媒を用いた触媒的脱水縮合アミド化反応に関する最新の研究について解説する.

Key words: アミド(Amide); 脱水縮合(Dehydrative Condensation); 触媒反応(Catalysis); 多核ホウ素触媒(Multiboron Catalyst); ボロン酸(Boronic Acid)

はじめに

アミド結合は多くの医薬品や天然物などの化学構造中に普遍的に含まれる重要な化学結合様式である.また,ピラジフルミドやシクラニリプロール,マンデストロビンやメプロニルを代表とする農薬の化学構造中にもアミド結合は含まれており,その効率的なアミド合成手法の開発が強く求められている(図1図1■農薬の化学構造中に含まれるアミド).アミドの合成法としてこれまでに利用されてきた最も一般的な方法論は,化学量論量の活性化試薬を用いた,入手容易なカルボン酸とアミンとの縮合反応である(図2A図2■アミドの化学合成法の背景).現在までに数多くのカルボン酸の活性化試薬が開発されており,本法は信頼性の高いアミド合成法として認知されている.代表的な活性化試薬としては,塩化チオニル,クロロギ酸エチル,カルボニルジイミダゾール,T3P,EDCI,COMU,DMT-MMが挙げられる(図2B図2■アミドの化学合成法の背景).しかしながら,これらの活性化試薬を用いた反応では,理論上,化学量論量の活性化試薬を必要とし,反応終了後には生成物と等量以上の副生成物が生成する.さらに,エピメリ化を抑制するため,活性化試薬と併せて添加剤を必要とするケースも少なくない.以上の点が原子利用効率(有限資源の利用効率)の低下を招く一因となっており,より環境調和性に優れたアミド化反応の開発が望まれる所以となっている.

図1■農薬の化学構造中に含まれるアミド

図2■アミドの化学合成法の背景

最も理想的なアミド合成法は,触媒を用いた,入手容易なカルボン酸とアミンからの直截的な脱水縮合型アミド化反応である(図2A図2■アミドの化学合成法の背景).触媒を利用する化学反応では,原理的に一分子の触媒から無限の生成物を合成することが可能である.また,この反応の副生成物として生じるのは水分子のみであるため,非常に環境調和性に優れた方法論となる.実際,触媒的アミド化反応の開発研究が国内外で盛んに行われており,これまでにチタンやジルコニウム,ハフニウムなどの遷移金属,ケイ素やリン,セレンなどの元素を含む触媒を用いたアミド化反応の開発が報告されている.一方で,取り扱いが容易な有機ホウ素化合物を触媒に用いた脱水縮合アミド化反応の開発もまた,現在に至るまで精力的に行われてきた.その先駆的な報告として1996年に山本ら(1)1) K. Ishihara, S. Ohara & H. Yamamoto: J. Org. Chem., 61, 4196 (1996).は,電子不足な芳香族ボロン酸である3,4,5-トリフルオロフェニルボロン酸が,カルボン酸とアミンの触媒的アミド化反応において高い触媒活性を示すことを明らかにした.これは,触媒的脱水縮合によってアミドを合成することに成功した初めての例である.本報告を契機として,これまでに脱水縮合アミド化反応に有効な数多くの芳香族ボロン酸触媒が開発されてきた(図2C図2■アミドの化学合成法の背景(2)2) A. Taussat, R. M. de Figueiredo & J.-M. Campagne: Catalysts, 13, 366 (2023)..2005年に石原ら(3)3) T. Maki, K. Ishihara & H. Yamamoto: Org. Lett., 7, 5043 (2005).のグループは回収可能なボロン酸触媒を開発し,2008年にはHallら(4)4) R. M. Al-Zoubi, O. Marion & D. G. Hall: Angew. Chem. Int. Ed., 47, 2876 (2008).が室温条件にてアミド化反応が進行するボロン酸触媒を見出している.過去数年でも,Hall(5)5) J. Zhou, M. Paladino & D. G. Hall: Eur. J. Org. Chem., 2022, e202201050 (2022).,Su(6)6) B. Pan, D.-M. Huang, H.-T. Sun, S.-N. Song & X.-B. Su: J. Org. Chem., 88, 2832 (2023).,Blanchet(7)7) F. Almetwali, J. Rouden & J. Blanchet: Eur. J. Org. Chem., 26, e202300720 (2023).らのグループがそれぞれ独立して新たな芳香族ボロン酸触媒の開発に成功している.このように,ボロン酸を触媒として用いたアミド化反応の研究の進展は現在まで,目覚ましいものがある.それと同時に,ボロン酸触媒によるアミド化反応の反応機構についても高い関心が寄せられている.1996年の山本らによる報告では,カルボン酸と等量のボロン酸触媒が脱水することにより生じるアシルボロナートが,触媒的アミド化反応の活性中間体だと想定されている.本活性中間体では,電子不足なホウ素のルイス酸性に起因するカルボニル基の求電子活性化が引き起こされる.また,これと同時に,ボロン酸のB–OH部分構造による分子内水素結合が,カルボニル基の求電子活性化に有効に作用している.この活性中間体を経由する反応機構がボロン酸触媒アミド化反応の通説となっていたが,2018年にWhitingら(8)8) S. Arkhipenko, M. T. Sabatini, A. S. Batsanov, V. Karaluka, T. D. Sheppard, H. S. Rzepa & A. Whiting: Chem. Sci., 9, 1058 (2018).のグループは,二分子のアシルボロナートの分子間脱水によって生じる,B–O–B結合を介したアシルボロナートの二量体構造が真の活性種であるという新たな反応機構を提唱している.

このような背景の下で,本研究分野における新展開として,近年,分子内に複数のホウ素原子を有する多核ホウ素化合物を触媒として用いる,新たなアミド化反応が相次いで報告されている.本稿では,多核ホウ素触媒を用いた触媒的脱水縮合アミド化反応に関する最新の研究について解説する.

柴崎・熊谷・野田らのグループによるDATB触媒を用いる脱水縮合アミド化反応

多核ホウ素化合物を触媒的アミド化反応に適用することに成功した先駆けとなる報告は,2017年に柴崎,熊谷らによってなされた(図3図3■柴崎・熊谷・野田らのグループによるDATB触媒を用いる脱水縮合アミド化反応(9)9) H. Noda, M. Furutachi, Y. Asada, M. Shibasaki & N. Kumagai: Nat. Chem., 9, 571 (2017)..彼らは,DATB(1,3-dioxa-5-aza-2,4,6-triborinane)が,アミド化反応における高い触媒活性を有することを明らかにした.従来の有機ホウ素触媒を用いたアミド化反応では,立体的に嵩高いカルボン酸やアミンを基質として適用することが困難であったが,DATBを触媒とする反応では,カルボニルα位に第四級炭素原子を有する基質や,嵩高いアダマンチル基を有する基質を用いた場合にも対応するアミドが得られる.アミン基質に嵩高い置換基を組込んだ場合でも,高い触媒活性が維持される.さらに,本触媒反応は触媒量を最大で0.5 mol%まで低減することが可能である.一般的なボロン酸触媒アミド化反応では10 mol%以上の触媒量が必要であることから,DATBの高い触媒活性が推察できる.さらに,抗悪性腫瘍剤であるボリノスタット,ドパミン受容体拮抗薬であるアミスルプリドなどの医薬品の合成にも応用できることが示されている.2018年には,DATBがアミド化反応だけでなく,α-アミノ酸を基質としたペプチド結合形成反応においても高い触媒活性を示すことが明らかになった(図3図3■柴崎・熊谷・野田らのグループによるDATB触媒を用いる脱水縮合アミド化反応(10)10) Z. Liu, H. Noda, M. Shibasaki & N. Kumagai: Org. Lett., 20, 612 (2018)..従来のボロン酸触媒を用いたペプチド結合形成反応では,N末端アミノ酸残基の保護基として実用的なBoc, Cbz, Fmocといったカルバマート系保護基を利用することが困難であった.また,アミノ酸基質における適用系も極めて限定的であった.これに対して,DATBを触媒とする反応では,N末端アミノ酸残基にカルバマート系保護基を有する広範なアミノ酸基質が適用可能であった.さらに,本方法論はオリゴペプチド合成にも応用可能であることが示されており,実際にペンタペプチドの合成に成功している.以上のようにDATBは,脱水縮合によるアミド化反応やペプチド結合形成反応において,高活性な触媒として機能することが見出されている.

図3■柴崎・熊谷・野田らのグループによるDATB触媒を用いる脱水縮合アミド化反応

一方で,触媒合成に多工程を要する点や,その誘導化が困難であるという課題が残されていた.彼らは2019年にPym-DATBを開発し,この課題を克服した.本触媒はDATBと同等の触媒活性を示す上,安価に入手容易な出発原料である5-アミノ-4,6-ジクロロピリミジンからわずか3工程で,なおかつカラムクロマトグラフィーによる精製を必要とせずに合成可能であった(図3図3■柴崎・熊谷・野田らのグループによるDATB触媒を用いる脱水縮合アミド化反応(11)11) C. R. Opie, H. Noda, M. Shibasaki & N. Kumagai: Chemistry, 25, 4648 (2019)..新たな触媒合成経路の確立により,DATB骨格に多様な置換基を導入することが可能となり,さまざまな誘導体の合成を実現している.現在,Pym-DATBは,Sigma-Aldrich社より市販されている.また,熊谷らは,2023年にDATBそのものの簡便な改良合成法を確立することにも成功している(図3図3■柴崎・熊谷・野田らのグループによるDATB触媒を用いる脱水縮合アミド化反応(12)12) R. Tsutsumi, N. Kashiwagi & N. Kumagai: J. Org. Chem., 88, 6247 (2023)..すなわち,2,6-ジブロモアニリンを出発原料とし,ジボロン酸誘導体を作用させたところ,意外にもホウ素–スピロボラート塩を形成することを見出した.そして,この合成中間体を酸性条件下で処理することにより,カラム精製を行う必要なく,2工程でDATBへと変換可能であることを明らかにした.この新たな合成経路の確立により,従来の合成法では困難であった多様な置換基を有するさまざまなDATB誘導体の合成が実現可能になった.さらに,ごく最近,DATBの部分骨格であるN(BOH)2結合を有する分子を創成し,これがDATBを上回る優れた触媒活性を示すことを報告した(図3図3■柴崎・熊谷・野田らのグループによるDATB触媒を用いる脱水縮合アミド化反応(13)13) C. R. Opie, H. Noda, M. Shibasaki & N. Kumagai: Org. Lett., 25, 694 (2023).

斎藤らのグループによるジボロン触媒を用いる脱水縮合アミド化反応

2018年斎藤らは,ホウ素–ホウ素単結合(B–B結合)を有するジボロン誘導体が芳香族カルボン酸を基質とするアミド化反応において,優れた触媒活性を示すことを明らかにした(図4A図4■ジボロン触媒とgem-DBA触媒による脱水縮合アミド化反応(14)14) D. N. Sawant, D. B. Bagal, S. Ogawa, K. Selvam & S. Saito: Org. Lett., 20, 4397 (2018)..一般に,脂肪族カルボン酸と比較して,芳香族カルボン酸の脱水縮合アミド化反応の進行は不利であることが知られている.その主たる理由として,芳香族カルボン酸の高い酸性度により,アミンの求核付加反応ではなく,プロトン化によって,不活性なアンモニウム塩を優先して形成することが挙げられる.実際に,芳香族カルボン酸を基質とした脱水縮合アミド化反応に有効な触媒は限定的である.そうした背景から,彼らは,ルイス塩基性官能基を組込んだジボロン酸誘導体を用いることにより,カルボン酸部位の求電子的活性化だけではなく,不活性種であるアンモニウム塩からアミン基質を遊離することで,反応が円滑に進行するのではないかと考えた.この仮説に基づき,種々のジボロン誘導体のスクリーニングが行われた結果,市販のテトラキス(ジメチルアミノ)ジボロンが芳香族カルボン酸を基質としたアミド化反応において,高活性な触媒として機能することが明らかになった.本触媒反応は広範な芳香族カルボン酸基質に適用でき,芳香環上の電子的要因によらずに対応する芳香族アミドを高収率で与えた.

図4■ジボロン触媒とgem-DBA触媒による脱水縮合アミド化反応

竹本らのグループによるgem-DBA触媒を用いる脱水縮合アミド化反応

竹本らは2020年,先にWhitingらが提案したボロン酸触媒によるアミド化反応の活性中間体(8)8) S. Arkhipenko, M. T. Sabatini, A. S. Batsanov, V. Karaluka, T. D. Sheppard, H. S. Rzepa & A. Whiting: Chem. Sci., 9, 1058 (2018).に含まれるB–O–B結合の酸素原子を炭素原子に置換したB–C–B結合を分子内に有するgem-DBA (gem-diboronic acid)が,a-アミノ酸を基質とするペプチド結合形成反応において,顕著な触媒活性を示すことを報告した(図4B図4■ジボロン触媒とgem-DBA触媒による脱水縮合アミド化反応(15)15) K. Michigami, T. Sakaguchi & Y. Takemoto: ACS Catal., 10, 683 (2020)..本触媒は,反応系中で,触媒構造中のフェノール性ヒドロキシ基とボロン酸部位との分子内脱水環化により,触媒活性種を形成する.その後,本活性種は,カルボン酸基質との脱水によって生じる複合体を生成し,カルボン酸部位の求電子活性化を経てアミド化反応が円滑に進行するものと考えられている.本触媒反応は,広範な基質に適用可能であることが見出されている.さらに,限定的な例ではあるものの,前例のない室温条件下でのペプチド結合形成を実現した.gem-DBAもまた,先のDATB触媒反応と同様に,カルバマート系保護基を有する広範なa-アミノ酸の反応で高い触媒活性を示す.また,アミン基質としてさまざまなヘテロ原子を有するアミノ酸エステルが適用可能であり,スルファニル基(–SH基)が無保護のシステインメチルエステルをアミン基質とした場合にも,エピメリ化は最小限に抑制され,良好な収率でジペプチドが得られた.さらに,gem-DBAを用いた三度のペプチド結合形成反応を利用することにより,テトラペプチドの合成を達成している.

筆者らのグループによるDBAA触媒を用いる脱水縮合アミド化反応

こうした背景のもと,当研究室ではこれまで独自に,分子内に二つのホウ素原子を組込んだジボロン酸誘導体を触媒として用いた,ヒドロキシカルボン酸を基質とする触媒的アミド化反応の開発を行ってきた.触媒設計の指針としては,ボロン酸触媒アミド化反応の活性中間体に含まれるB–O–B結合をあらかじめ分子内に有したジボロン酸無水物を用いることにより,より円滑にアミド化反応が進行することを期待した.また,反応設計の指針として,ヒドロキシカルボン酸を基質とすることにより,基質ヒドロキシ基と触媒構造中のB–OHとの分子間脱水を経て形成される,共有結合を介した高活性多環式アシルボロナートが形成されることにより,基質支配に基づいた化学選択的脱水縮合アミド化反応が実現できると想定した.以上の指針に基づき,ビフェニル構造を有するジボロン酸無水物を触媒候補分子として選定し,β-ヒドロキシカルボン酸を基質とする脱水縮合アミド化反応の開発研究を開始した.そして,種々検討の結果,ホウ素原子のオルト位とパラ位に臭素原子を組込んだ新規ジボロン酸無水物DBAA (diboronic acid anhydride)が,極めて高い触媒活性を示すことを見出した(図5図5■筆者らによるDBAA触媒を用いる脱水縮合アミド化反応1(16)16) N. Shimada, M. Hirata, M. Koshizuka, N. Ohse, R. Kaito & K. Makino: Org. Lett., 21, 4303 (2019)..さらに,本触媒反応は従来の有機ホウ素触媒アミド化反応では必須であった厳密な脱水操作を一切必要としないことが明らかになった.本稿でこれまでに前述した触媒反応ではいずれの場合にも,脱水剤であるモレキュラーシーブの添加や,ディーンスターク装置を用いた共沸などの厳密な脱水操作が不可欠であり,操作性の観点で課題を残していた.筆者らが開発したDBAA触媒反応は,脱水のための煩雑な操作を必要とせず,簡便な操作で実施可能であるという実用性の高さが利点の一つである.なお,DBAAの触媒活性は高く,β-ヒドロキシカルボン酸の脱水縮合アミド化反応において,従来の有機ホウ素触媒と比較して格段に優れた触媒活性を示した.その際,触媒の活性評価の指針となる,触媒回転数は有機ホウ素触媒反応としては異例となる7,500回転(TON=7,500)を記録した.さらに,β-ヒドロキシカルボン酸を基質とするDBAA触媒反応では,求核性の低さゆえに一般的にはアミン基質としての適用が困難であった,電子不足なアニリン誘導体が適用可能である.DBAA触媒反応の有用性は,散瞳薬として用いられているムスカリン性アセチルコリン受容体阻害薬であるトロピカミドのグラムスケール合成により実証された.すなわち,トロパ酸と入手容易なアミンから,わずか一工程で医薬品合成を達成した.DBAAは,β-ヒドロキシ-α-アミノ酸を基質とするペプチド結合形成反応にも応用可能である(図5図5■筆者らによるDBAA触媒を用いる脱水縮合アミド化反応1(17)17) M. Koshizuka, K. Makino & N. Shimada: Org. Lett., 22, 8658 (2020)..また,単純なボロン酸触媒を用いた場合には,触媒の失活が懸念されるカルバマート系保護基を用いた場合にも,DBAA触媒反応は問題なく進行した.さらに,触媒の失活が懸念される,フェノール性ヒドロキシ基を有するチロシン誘導体や硫黄官能基を含むメチオニン誘導体もアミン基質として適用可能であり,対応するペプチドが,それぞれ高収率で得られた.以上のように,DBAAはアミド化反応だけでなく,ペプチド結合形成反応にも有効な触媒として機能することが明らかとなった.

図5■筆者らによるDBAA触媒を用いる脱水縮合アミド化反応1

前述の通り,電子不足アニリン誘導体のような求核性の低いアミンをアミン基質として適用できることが,DBAA触媒の利点の一つである.そこで,DBAA触媒反応の次の展開として,従来求核性の低さゆえに,アミン基質としての適用が難しかったN,O-ジメチルヒドロキシルアミンをアミン基質として用いた,合成化学上有用なWeinrebアミドの触媒的合成に挑戦した.その結果,期待通りに反応が進行し,所望のWeinrebアミドが高収率で得られることが明らかになった(図6図6■筆者らによるDBAA触媒を用いる脱水縮合アミド化反応2(18)18) N. Shimada, N. Takahashi, N. Ohse, M. Koshizuka & K. Makino: Chem. Commun., 56, 13145 (2020)..また,本反応の検討途上で,DBAA触媒は,β-ヒドロキシカルボン酸のみならず,α-ヒドロキシカルボン酸を基質とする反応に有効であることが明らかになった.本方法論によって得られるα-ヒドロキシWeinrebアミドは,α-ヒドロキシケトンを基本骨格とする生物活性アシロイン天然物へと誘導可能である.実際,DBAAを用いた触媒的アミド化反応によって得られたα-ヒドロキシWeinrebアミドを単離生成することなく,続くグリニャール試薬の付加反応をワンポットで行うことで,さまざまな天然物へと簡便に誘導であった.

図6■筆者らによるDBAA触媒を用いる脱水縮合アミド化反応2

DBAAの最大の利点は,厳密な脱水操作が一切不要であることである.筆者らは最近,取り扱いが容易な市販のアンモニア水溶液をアミン供給源として,含水条件下での第一級アミドの触媒的合成法の開発に成功した(図6図6■筆者らによるDBAA触媒を用いる脱水縮合アミド化反応2(19)19) N. Takahashi, H. Iwasawa, T. Kinashi, K. Makino & N. Shimada: Chem. Commun., 59, 7391 (2023)..本触媒反応によって得られる第一級アミドは,合成化学上で有用な中間体として利用可能である.実際,還元反応を行うことによって得られたa-ヒドロキシ第一級アミドをβ-アミノアルコールへと変換後,ベンジル基の脱保護を行うことにより,生体アミンの一種であるオクトパミンに導くことに成功している.さらに,中間体であるβ-アミノアルコールのN-アシル化反応を利用して,生理活性物質であるアエゲリンやテンバミドの合成を行い,DBAA触媒反応の有用性を実証した.

おわりに

以上,近年発展を遂げている多核ホウ素触媒を用いたカルボン酸とアミンとの脱水縮合型アミド化反応について解説した.本稿で述べたように,アミドは多くの医農薬品の化学構造中に含まれる重要な結合様式であることから,高効率的かつ環境調和性に優れた方法でアミドを合成する化学反応の開発が強く求められている.水を唯一の副生成物とする,触媒を用いたカルボン酸とアミンの脱水縮合は,アミドを合成するための理想的な化学反応である.中でも,毒性が低く,取り扱いが容易なホウ素化合物を触媒として用いる触媒的脱水縮合アミド化反応は非常に魅力的である.1996年に山本・石原らによって開拓されたホウ素触媒アミド化反応は,四半世紀以上の時を経て,多核ホウ素触媒アミド化反応へと発展を遂げた.偶然にも,ほぼ同時期に複数の日本人研究者により,それらが成し遂げられたという事実は大変興味深い.今後,従来の化学量論量の活性化試薬を用いる脱水縮合アミド化反応を,触媒反応へと転換する機運が高まるであろう.しかしながら,触媒活性や反応温度,基質適用範囲,操作の実用性,触媒の入手容易性,触媒の回収・再利用といった観点からは,依然として解決すべき課題が残されているのが現状である.近い将来,こうした現状を打開する真に実用的な触媒的アミド反応を実現するため,創造性豊かな研究者によって,革新的な触媒が創成されることが期待される.

Reference

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