解説

プラスミド学の学術基盤の再整備にむけて
日本発プラスミドの網羅的データベースの整備

Plasmid Biology Revisited: Launching a Comprehensive Plasmid Database

Masaki Shintani

新谷 政己

静岡大学工学部化学バイオ工学科

Published: 2024-10-01

プラスミドは微生物間の遺伝子の授受に寄与し,微生物の急速な進化や適応を促進する遺伝情報の「運び手」である.プラスミドは分子生物学の研究・開発のツールとして利用されるとともに,多剤耐性菌の出現・蔓延の原因にもなりうる.近年のDNA塩基配列決定法の技術革新に伴い,およそ60,000種類のプラスミドの全長配列が公的データバンクに登録され,その数は年々増え続けている.しかし,そこに登録される情報は不統一であり,各プラスミドの性質を知るのが困難な状況となっている.本稿では,プラスミドについての適切な情報整備とキュレーションの必要性と,「プラスミド学」という学術基盤の再整備に向けて行っている筆者らの試みについて述べる.

Key words: プラスミド; プラスミド学; 水平伝播; データベース; 微生物

プラスミドとは

プラスミドとは,細菌内で生育に必須な遺伝子を含む染色体とは別に,自律的に複製される環状または線状のDNA分子である.プラスミドは,それを保有する細菌から,保有しない細菌へと,細胞の物理的接触を経て,接合伝達という複製を伴う機構で伝播する(図1図1■プラスミドの接合伝達現象).このような接合伝達性プラスミドの発見により,プラスミドは遺伝情報の水平伝播に重要な役割を果たしていることが示され,その後の分子生物学の研究に大きな影響を与えた.プラスミドのサイズは,数kbから数百kbに及び,GC含量(グアニンとシトシンの含量)も様々である.プラスミドは,生育に必須な遺伝子を含まないことがほとんどであるが,抗生物質耐性遺伝子をはじめ,病原性遺伝子,物質代謝遺伝子群,共生に必要な遺伝子群など,それを保有する宿主細菌に様々な機能を与える遺伝子群を含むことが多い.細菌はプラスミドを受け取ることで,迅速に新しい環境に適応する能力を得ることが可能になる.2024年5月現在,アメリカ国立生物工学情報センターの公的データベースには,57,408種類の細菌由来プラスミドの全塩基配列が登録される(https://ftp.ncbi.nih.gov/genomes/GENOME_REPORTS/plasmids.txt).こうしたデータベースは,研究者がプラスミドの塩基配列情報を取得し,比較を行うために重要である.しかし,特にプラスミドの分類名や分類法が不統一であったり,各プラスミドがどのような細菌を宿主にできるかという宿主域に関するデータが不足したりしていて,プラスミドの塩基配列情報から,そのプラスミドの性状を推測するのが難しい状況を招いている.

図1■プラスミドの接合伝達現象

プラスミドの分類

プラスミドの最も古い分類法の一つは,宿主の表現型に基づく「不和合性(incompatibility, Inc)」である(1)1) R. P. Novick: Microbiol. Rev., 51, 381 (1987)..これは,2種類の異なるプラスミドが,同じ宿主内で共存できる場合を「和合性を示す」,共存できない場合を「不和合性を示す」と定義し,不和合性を示す場合に,その2種類のプラスミドを同じ不和合性群に分類する方法である.この現象は,2つのプラスミドの複製や維持機構が類似する場合に,不和合性が生じることに基づいており,結果的に複製や維持機構の類縁性に基づく分類といえる.これまでに提案されている不和合性群は,宿主の種類に応じて異なっており,それぞれ,大腸菌を宿主とする場合(IncA~IncZ),Pseudomonas属細菌(主に日和見感染菌として知られる緑膿菌)を宿主とする場合(IncP-1~IncP-14),グラム陽性球菌を宿主とする場合(Inc1~15, 18等)が存在する(2)2) M. Shintani & H. Suzuki: Plasmids and Their Hosts. In: H. Nishida, T. Oshima, (eds.) “DNA Traffic in the Environment”. Springer, Singapore, 2019..近年,グラム陰性細菌(大腸菌と緑膿菌)由来のプラスミドについては,塩基配列の類似性と不和合性試験の結果に基づいて,不和合性群の整理が進められてきた.例を挙げると,IncBとIncOや,IncHI2とIncSは同一の不和合性群に属することが示され,他にも,IncP=IncP-1, IncQ=IncP-4, IncG=IncP-6などが挙げられる.ここで注意するべきは,異なる不和合性群に属するプラスミドは,基本的には全く異なる性状を示す場合がほとんど,ということである.現在は,不和合性試験の結果に基づく分類はほとんど行われず,複製開始タンパク質(RIP: replication initiation protein)をコードする遺伝子配列の類似性に基づく型別replicon typingが主流である.例えば,多剤耐性菌として問題となっているグラム陰性細菌Acinetobacter baumanniiのプラスミドについては,RIPをコードする遺伝子の類似性に基づき,GR1からGR61のグループが提案されている(3~6)3) A. Bertini, L. Poirel, P. D. Mugnier, L. Villa, P. Nordmann & A. Carattoli: Antimicrob. Agents Chemother., 54, 4168 (2010).4) S. Castro-Jaimes, G. Guerrero, E. Bello-López & M. A. Cevallos: Plasmid, 119–120, 102616 (2022).5) C. Chen, P.-Y. Huang, C.-Y. Cui, Q. He, J. Sun, Y.-H. Liu & J.-L. Huang: Front. Microbiol., 13, 974432 (2022).6) Y. Li, Y. Qiu, C. Fang, X. Dai & L. Zhang: Antimicrob. Agents Chemother., 66, e0020622 (2022)..この分類は,遺伝子配列の類似性に基づくため,必ずしも別のグループのプラスミド同士が不和合性を示さないとは限らない(7)7) A. D. Salgado-Camargo, S. Castro-Jaimes, R.-M. Gutierrez-Rios, L. F. Lozano, L. Altamirano-Pacheco, J. Silva-Sanchez, Á. Pérez-Oseguera, P. Volkow, S. Castillo-Ramírez & M. A. Cevallos: Front. Microbiol., 11, 1283 (2020)..また,このほかにも,既知のプラスミドの配列を用いたmash距離計測(塩基配列の類似性を評価するために,塩基配列を短い連続塩基に分割し,そのサブセット(スケッチ)を比較する手法.スケッチの重複率(Jaccard指数)を用いてmash距離とし,配列間の類似性を距離で示す)によるクラスタリング分析を通じて,rep_clustersというグループも提唱されている(8, 9)8) J. Robertson & J. H. E. Nash: Microb. Genom., 4, e000206 (2018).9) P.-E. Douarre, L. Mallet, N. Radomski, A. Felten & M.-Y. Mistou: Front. Microbiol., 11, 483 (2020)..このようにreplicon typingは広く使われているものの,同一のプラスミドに異なる複製開始タンパク質をコードする遺伝子や,複製起点が存在する場合も珍しくない(multi-replicon).この場合,どちらの分類群に属するのかを決定することは難しい.そこで,プラスミドの接合伝達(self-transmissible, mobilizable)を担う遺伝子の塩基配列情報に基づく分類(MOB type, MPF family)も提案されている(10, 11)10) M. P. Garcillán-Barcia, M. V. Francia & F. de la Cruz: FEMS Microbiol. Rev., 33, 657 (2009).11) C. Smillie, M. P. Garcillán-Barcia, M. V. Francia, E. P. Rocha & F. de la Cruz: Microbiol. Mol. Biol. Rev., 74, 434 (2010)..これは,通常同一のプラスミドに,接合伝達を担う遺伝子群が2種類以上存在することはないからである.ただし,どのプラスミドも接合伝達するとは限らないために,本手法は網羅性には乏しい.

上述した2つの分類法ともに,新たな分類群を提唱するにあたっては,(厳密に言えば)プラスミドがどのような種類の細菌内で複製されるのか,また細菌間を接合伝達するのか,を実験で確かめる必要がある.プラスミドの複製に寄与する遺伝子領域を明らかにするには,対象となる遺伝子領域のみを持つミニプラスミドを用いて,宿主となる細菌を形質転換できるかどうか,選択培地上のコロニー形成の有無によって判定する.また,プラスミドがどの細菌間を伝播するのかを調べるには,接合実験を行う.接合実験は,平板培地上に置いた孔径0.22~0.45 µmのメンブレンフィルター上に,プラスミドを含む供与菌と,含まない受容菌を混合した懸濁液を置き,一定期間静置して行うフィルター接合や,供与菌と受容菌を液体に懸濁して静置する液体接合によって行う.その後,形質転換実験と同様に選択培地に塗布し,コロニーを形成するかどうかで接合伝達の成否を判定する.こうした手法は,プラスミドの発見当初から行われてきたが,発見されるプラスミドの数に比べ,こうした実験データの蓄積は追いついていない.

また近年,プラスミド全体の塩基配列を比較した,plasmid taxonomic unit(PTU)が提唱され,ウェブツールも開発された(12, 13)12) S. Redondo-Salvo, R. Bartomeus-Peñalver, L. Vielva, K. A. Tagg, H. E. Webb, R. Fernández-López & F. de la Cruz: BMC Bioinformatics, 22, 390 (2021).13) R. Cuartas, T. M. Coque, F. de la Cruz & M. P. Garcillán-Barcia: Methods Mol. Biol., 2392, 127 (2022)..この手法は,どのようなプラスミドに対しても,その塩基配列情報が明らかになっていれば,それ以上の実験が不要で,自動化が容易という大きな利点がある反面,プラスミドの性状自体を反映しないこともある点が欠点として挙げられる(14, 15)14) M. P. Garcillán-Barcia, S. Redondo-Salvo & F. de la Cruz: Plasmid, 126, 102684 (2023).15) M. Tokuda & M. Shintani: Microb. Biotechnol., 17, e14408 (2024)..また,プラスミドの分類が進んでも,どのような種類の細菌内で複製され,どの細菌間を伝播するのか,または伝播しないのか,という実験に基づく検証結果の情報の蓄積はまだ不十分である.

誤分類の是正

従来の抗生物質の効かない多剤耐性菌の出現は,世界的な公衆衛生上の脅威となっており,多剤耐性をもたらす耐性遺伝子の多くはプラスミド上に含まれるため,各プラスミドの正確な型別は,多剤耐性菌による感染症の拡大を防ぐ上で,疫学的に極めて重要な情報となる.そのため,大腸菌やその類縁細菌由来のプラスミドについては,欧州でPlasmidFinder(16, 17)16) A. Carattoli, E. Zankari, A. Garcia-Fernandez, M. Voldby Larsen, O. Lund, L. Villa, F. Moller Aarestrup & H. Hasman: Antimicrob. Agents Chemother., 58, 3895 (2014).17) A. Carattoli & H. Hasman: Methods Mol. Biol., 2075, 285 (2020).というウェブツールが運用され,塩基配列情報に基づくかなり正確なプラスミド分類が可能になっている.しかし,残念なことに,このツールには,大腸菌由来のプラスミドに比べ,緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来のプラスミドについてのデータが乏しい.これは,緑膿菌由来のプラスミドについては,1970年代に発見された当初こそ盛んに研究がなされたものの,塩基配列情報を容易に得られるようになって以降,過去の知見との照合が十分になされておらず,その分類群の整備が遅れているためである.このため,緑膿菌由来のプラスミドについては,発表されている原著論文の中でも,誤った分類名が用いられたり,分類自体が誤っていたりする例が散見される.実際,現在PlasmidFinderと並んで広く使用されるウェブツールとして,MOB-suiteが挙げられる(8)8) J. Robertson & J. H. E. Nash: Microb. Genom., 4, e000206 (2018)..このツールでは,replicon typingと,MOB typeおよびMPF familyに基づく分類を併せたもので,一度に複製と接合伝達に関する分類情報を得られる点で優れており,COMPASSデータベースとして統一されつつある(9)9) P.-E. Douarre, L. Mallet, N. Radomski, A. Felten & M.-Y. Mistou: Front. Microbiol., 11, 483 (2020)..しかし,分類名には重大な誤りが含まれていた.上述したように,大腸菌に由来するIncP群は,緑膿菌由来のIncP-1群と全く同一の不和合性群である.このために,「IncP群とは,緑膿菌由来のプラスミドのすべてを示す分類群である」,という誤解をしたまま名前を使ってしまったと予想され,COMPASSデータベース内では,IncP-7やIncP-9群プラスミドであっても,「IncP」と誤った分類名で記載されてしまっている.注意しなければならないのは,IncP群はIncP-1群のみと同一であり,IncP-2~P-14群をIncP群と示すのは全くの誤りである.このような状況で,筆者らは,以下数例ではあるが是正を試みてきた.

巨大プラスミド群,IncP-2群の誤分類の是正

不和合性をもたらす,RIP遺伝子の誤同定が生じると,他のプラスミドの誤分類が頻発する.例えば,IncP-2群は1973年に提唱され(18)18) L. E. Bryan, S. D. Semaka, H. M. Van den Elzen, J. E. Kinnear & R. L. Whitehouse: Antimicrob. Agents Chemother., 3, 625 (1973).,以降300 kbを超える巨大プラスミドを含むグループとして知られてきた(19)19) G. A. Jacoby, L. Sutton, L. Knobel & P. Mammen: Antimicrob. Agents Chemother., 24, 168 (1983)..筆者らは,日本で発見され,不和合性試験を経てIncP-2群とされた薬剤耐性プラスミドRms139(20)20) Y. Sawada, S. Yaginuma, M. Tai, S. Iyobe & S. Mitsuhashi: Antimicrob. Agents Chemother., 9, 55 (1976).の完全長塩基配列を解読した.その後,本プラスミドから,推定RIP遺伝子と複製開始点oriVを含むミニプラスミドが緑膿菌内で複製されることを実験で検証し,この遺伝子をrepP-2Aと命名した.ミニプラスミドは,プラスミドの全塩基配列を基にして,GとCの偏りから推定されるoriV領域と,既知のRIPとの類似性(塩基配列・アミノ酸配列,および立体構造)を指標に推定して構築した.しかし,IncP-2群プラスミドで最初に塩基配列が解読されたpOZ176のRIP遺伝子として報告された配列(21)21) J. Xiong, D. C. Alexander, J. H. Ma, M. Deraspe, D. E. Low, F. B. Jamieson & P. H. Roy: Antimicrob. Agents Chemother., 57, 3775 (2013).と,我々が同定したrepP-2Aの配列には相同性が認められなかった.これは,pOZ176が2つのRIP遺伝子(repP-2Aと相同な遺伝子と,非相同な遺伝子)を有しており,非相同な遺伝子がIncP-2群プラスミドのRIP遺伝子として誤認識されていたためである.そこで,改めて筆者らが発見したrepP-2Aの塩基配列に基づいて,PLSDBというデータベース(公的データバンクに登録されたプラスミド配列から重複する配列等を除き,比較的正確な情報のみが記載されたデータベース)(22, 23)22) V. Galata, T. Fehlmann, C. Backes & A. Keller: Nucleic Acids Res., 47(D1), D195 (2019).23) G. P. Schmartz, A. Hartung, P. Hirsch, F. Kern, T. Fehlmann, R. Müller & A. Keller: Nucleic Acids Res., 50(D1), D273 (2022).に登録されたプラスミドを再分類した結果,これまで未分類のままであった様々な薬剤耐性遺伝子を持つ巨大プラスミドが,IncP-2群に属するプラスミドとして正確に分類された.さらに,全く別のプラスミドについて,新しいInc群として提唱されていた,IncpRBL16群に属するプラスミド,pRBL16(24)24) X. Jiang, Z. Yin, M. Yuan, Q. Cheng, L. Hu, Y. Xu, W. Yang, H. Yang, Y. Zhao, X. Zhao et al.: J. Antimicrob. Chemother., 75, 3534 (2020).のRIP遺伝子は,repP-2Aと完全に一致した配列を示し,IncpRBL16群はIncP-2群と同一であることも判明した(25)25) M. Shintani, H. Suzuki, H. Nojiri & M. Suzuki: J. Antimicrob. Chemother., 77, 1202 (2022).

IncP-1群のθ亜群の誤分類

また,細菌の塩基配列情報だけに基づいて,プラスミドの分類をする場合にも注意が必要である,例えば,Loらは,AromatoleumおよびThauera属のゲノム配列から,いくつかの「IncP群プラスミド」を同定し,新たな亜群として「IncP-1θ」を提唱し,また,「IncP-11群」プラスミドを見出した,と報告した(26)26) H.-Y. Lo, P. Martínez-Lavanchy, T. Goris, J. Heider, M. Boll, A.-K. Kaster & J. A. Müller: Environ. Microbiol., 24, 6411 (2022)..しかし,以前の研究で,既にIncP-1θ亜群は提唱済みであった(27)27) M. M. Yakimov, F. Crisafi, E. Messina, F. Smedile, A. Lopatina, R. Denaro, D. H. Pieper, P. N. Golyshin & L. Giuliano: Environ. Microbiol. Rep., 8, 508 (2016)..また,IncP-1群プラスミドのRIPはtrfA遺伝子がコードしており,その産物が複製開始点(oriV)を活性化することが明らかになっている(28)28) W. Pansegrau, E. Lanka, P. T. Barth, D. H. Figurski, D. G. Guiney, D. Haas, D. R. Helinski, H. Schwab, V. A. Stanisich & C. M. Thomas: J. Mol. Biol., 239, 623 (1994).が,筆者らが精査したところ,Loらが報告したプラスミドの大半にtrfAと相同性を示す遺伝子が認められなかった(29)29) M. Shintani, H. Suzuki, H. Nojiri & M. Suzuki: Environ. Microbiol., 25, 1071 (2023)..したがって,今回塩基配列を解読したプラスミドの大半は,θ亜群どころか,IncP-1群にも属さないことが判明した.

IncP-11群の誤分類

また,同じLoらの論文では,Thauera属細菌から,過去に発表された,pOXA-198と類似のプラスミドを発見した(26)26) H.-Y. Lo, P. Martínez-Lavanchy, T. Goris, J. Heider, M. Boll, A.-K. Kaster & J. A. Müller: Environ. Microbiol., 24, 6411 (2022)..pOXA-198は,2018年に緑膿菌から発見されたプラスミドであり,その時点で「IncP-11」群が提唱された(30)30) R. A. Bonnin, P. Bogaerts, D. Girlich, T.-D. Huang, L. Dortet, Y. Glupczynski & T. Naas: Antimicrob. Agents Chemother., 62, e02496 (2018)..しかし,IncP-11群は,2018年よりずっと以前の1972年に,RP1-1を代表プラスミドとして提唱済みの分類群であった(31, 32)31) L. Ingram, R. B. Sykes, J. Grinsted, J. R. Saunders & M. H. Richmond: J. Gen. Microbiol., 72, 269 (1972).32) A. A. Medeiros, M. Cohenford & G. A. Jacoby: Antimicrob. Agents Chemother., 27, 715 (1985)..RP1-1の塩基配列の情報はなかったことから,筆者らは,その完全長塩基配列を決定し,IncP-2群と同様にそのRIP遺伝子(repP-11A)とoriVを実験で同定した.その後,同定したRP1-1のrepP-11A, oriVの塩基配列情報に基づき,pOXA-198の塩基配列を精査したところ,双方のプラスミド間には,相同性のある遺伝子領域がなく,全く別のプラスミド群であることが示された(29)29) M. Shintani, H. Suzuki, H. Nojiri & M. Suzuki: Environ. Microbiol., 25, 1071 (2023).

こうした誤分類は,おそらく枚挙に暇がないと推測される.それは論文の著者や査読者に責任があるというよりも,プラスミドの分類体系が整備されていないために,既存の世界の主要なデータベース自体が,その分類に重大な誤りがあるまま運用されている(限られたプラスミドのみを対象としている,実験をしないと明らかにできない宿主の情報,宿主内での安定性などの重要なデータが含まれていない,という問題もある)ことが大きな原因である.別の言い方をすれば,これまで先人たちが積み上げてきた知見を活かすような「プラスミド学」が整備されていないことが理由である.薬剤耐性遺伝子を持つプラスミドの誤分類は,疫学上も極めて深刻な問題になるため,現状をこのまま放置すると,プラスミドが次々に誤って分類され,基礎学問上も応用上も重大な混乱を生じる.そこで筆者らは,プラスミド学の学術基盤を再整備することを最終目的とし,プラスミドの網羅的なデータベースの整備に着手した.

緑膿菌由来のプラスミドの整備

プラスミドの数は年々増大し,一度にすべてのプラスミドを対象とするのは難しいことから,まず緑膿菌とその類縁のPseudomonas属細菌由来のプラスミドを対象とすることにした.Pseudomonas属細菌は,緑膿菌の他,土壌や水環境に普遍的に存在し,環境浄化や農作物とも関連性が高い菌株も含まれる.また,プラスミドの塩基配列は,先述したPLSDBに登録されている配列を用いた.研究開始当初(2022年),PLSDB内にPseudomonas属細菌由来のプラスミドは500弱ほど存在したが,上述したPlasmidFinderを用いても,20程度しか正確に分類できていなかった.そこで,日本国内で1970年代以降に見出された緑膿菌由来のプラスミドで,申請者らがその全塩基配列を決定したプラスミド(上述したIncP-2, IncP-11群の他,IncP-5群に属するRms163(33)33) H. Sagai, K. Hasuda, S. Iyobe, L. E. Bryan, B. W. Holloway & S. Mitsuhashi: Antimicrob. Agents Chemother., 10, 573 (1976).とIncP-12群に属するR716(18)18) L. E. Bryan, S. D. Semaka, H. M. Van den Elzen, J. E. Kinnear & R. L. Whitehouse: Antimicrob. Agents Chemother., 3, 625 (1973).)のRIPおよびoriVを決定し,分類を試みた.また筆者らの先行研究で,種々の環境試料から収集したプラスミド(34)34) M. Hayakawa, M. Tokuda, K. Kaneko, K. Nakamichi, Y. Yamamoto, T. Kamijo, H. Umeki, R. Chiba, R. Yamada, M. Mori et al.: Appl. Environ. Microbiol., 88, e0111422 (2022).についても,RIPおよびoriVを決定した.これらの結果を基に,PLSDB内のPseudomonas属細菌由来のプラスミドを再度分類したところ,約500のうち7割以上を正確に分類することができた.このように,過去の知見を正確に反映し,かつ実験に基づく結果を参照情報としてプラスミド分類を行うことが,誤りを拡散させないデータベースとして,価値の高いものと考えている(図2図2■筆者らが目指すプラスミドデータベース).また,分類情報だけでなく,過去に研究されてきた,各プラスミドの性状の情報も,参照情報に付与することで,より充実したデータベースの構築が可能になる.筆者らは,自分たちでも性状についての情報を実験で得ることで,データベースの充実化を図っている.以下に一例を述べる.

図2■筆者らが目指すプラスミドデータベース

プラスミドの宿主域

プラスミドの分類情報に加え,最も重要な性状の一つは,プラスミドがどのような種類の細菌を宿主とすることができるか,という宿主域である.そこで筆者らは,新たに得られたプラスミドについては,新しい分類群を提唱するとともに,その宿主域を実験で調べ,データベースに反映させることとした.宿主域の決定は,各プラスミド上に,lac改変プロモーター支配下の緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を挿入し,供与菌内では染色体上から抑制因子LacIを発現させることでGFPの発現が抑制されるが,プラスミドが伝達した接合完了体内では,脱抑制されてGFPが発現する,というデンマークの研究グループが作ったシステムを利用した(35)35) J. B. Andersen, C. Sternberg, L. K. Poulsen, S. P. Bjorn, M. Givskov & S. Molin: Appl. Environ. Microbiol., 64, 2240 (1998)..この緑色蛍光を指標にすれば,セルソーターを利用して接合完了体細胞を一細胞ずつ集めることができる(図3図3■セルソーターによるプラスミドの宿主域の解析).筆者らは,本手法を利用して,IncP-1, P-7, P-9群や,筆者らが環境試料中から新たに得た,Pseudomonas属細菌を宿主とするpSN1216-29,およびPromA群プラスミドについて,どのような種類の細菌に接合伝達するのかを明らかにしてきた(36~38)36) M. Shintani, K. Matsui, J. Inoue, A. Hosoyama, S. Ohji, A. Yamazoe, H. Nojiri, K. Kimbara & M. Ohkuma: Appl. Environ. Microbiol., 80, 138 (2014).38) M. Tokuda, M. Yuki, M. Ohkuma, K. Kimbara, H. Suzuki & M. Shintani: Microb. Genom., 9, mgen001043 (2023)..特にPromA群に属するプラスミドや,新たに見出したプラスミドpSN1216-29は綱を超えて接合伝達することが判明した(37, 38)37) M. Tokuda, H. Suzuki, K. Yanagiya, M. Yuki, K. Inoue, M. Ohkuma, K. Kimbara & M. Shintani: Front. Microbiol., 11, 1187 (2020).38) M. Tokuda, M. Yuki, M. Ohkuma, K. Kimbara, H. Suzuki & M. Shintani: Microb. Genom., 9, mgen001043 (2023)..一方,IncP/P-1群は,従来広い宿主域を示すプラスミド群として知られていたが,大腸菌をはじめとする腸内細菌科細菌のみを宿主とする,狭宿主域型のプラスミドのみを含む新しい亜群が存在することも示した(34)34) M. Hayakawa, M. Tokuda, K. Kaneko, K. Nakamichi, Y. Yamamoto, T. Kamijo, H. Umeki, R. Chiba, R. Yamada, M. Mori et al.: Appl. Environ. Microbiol., 88, e0111422 (2022)..こうした情報も,作成したデータベースにおけるプラスミドの性状の情報として加え,情報の充実化を図っている.

図3■セルソーターによるプラスミドの宿主域の解析

今後の展開

本稿で紹介したように,Pseudomonas属細菌由来のプラスミドの分類と宿主域の情報を充実させたデータベースの整備が進められつつある.次のステップとしては,対象をより広範な細菌由来のプラスミドに広げ,その情報を網羅することを計画している.また,プラスミドの分類および宿主域を解明するにあたり,実験だけでなく,AI技術を導入することで,データ解析の自動化も試みている.特に,機械学習アルゴリズムを用いて,プラスミドの塩基配列情報から新しい分類群を発見したり,宿主域を正確に予測したりすることができれば,データベースの拡充が各段に加速化する.実は,本稿の執筆を開始して間もなく,PLSDBが更新され,上述したPseudomonas属細菌由来のプラスミドの数も,およそ1.7倍に増大し,現時点では846のプラスミドを相手にしている.こうしたことは今後も継続的に生じることは明らかで,早い段階での自動化が重要と考えている.並行して,プラスミドの分類やデータベースの標準化を国際的に推進するために,各国の研究機関と連携した共同プロジェクトを展開することも重要と考えている.以上,筆者らが整備に取り組む,日本発のプラスミドのデータベースは,世界中の研究者が共有可能な標準的なプラスミド情報基盤を構築し,新たなプラスミド学の基盤となると期待している.

Reference

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