Kagaku to Seibutsu 62(11): 511 (2024)
巻頭言
全国農学系学部長会議に参加して
Published: 2024-11-01
© 2024 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2024 公益社団法人日本農芸化学会
最初に,自己紹介をさせていただく.私は1984年3月に修士課程を修了後,民間企業勤務を経て1995年4月に本学に採用され,農学部長及び農学研究科長の任を経て,現在は理事・副学長として大学経営に携わっている.
読者の皆さんは,「全国農学系学部長会議」という会議体をご存知であろうか? 本年6月,筆者は久しぶりに全国農学系学部長会議に参加したので,巻頭言の場を借りて,その活動を紹介したい.まず,本会議は,「大学における農学の教育研究の振興を図り,もって関連する産業と生活基盤の持続的発展に寄与すること」を目的とし,昭和25年から始まり今回で150回目の開催となる.毎年2回開催され,春は関東甲信越地区,秋は北海道・東北地区,東海・近畿地区,中国・四国地区,九州・沖縄地区の持ち回りで各地区の当番校が会議の準備にあたる.農学系学部とは,同会議規約によると,農学部,獣医学部,水産学部,生物生産学部,生物資源学部等の農学に関わる学部及び学類並びに単科大学をいい,それらの長をもって本会の会員となる.したがって,一大学から複数の学部長が会員となる場合も多い.なお,筆者の知る限り,全国の国立大学,公立大学,私立大学のほとんどの学部長が一堂に会する会議は他に無く,我が国における農学の教育研究の総本山と言える.また本会議には常置委員会が置かれ,「教育」,「研究」,「大学・学部等の組織運営」,「農学の教育研究の社会的啓発・国際協調等」の4つに分かれ,毎回協議事項を設定し,各大学各学部での取り組みについて情報交換を行うのが専ら会議の内容である.今回の協議事項について紹介すると,「教育」は「ChatGPT等の生成系AI利用に関する教育・研究上の課題と対応について」,「研究」は過去からいくつか紹介すると,「農学分野における研究力向上のための研究エフォート確保について」,「農学分野における国際共同研究とランキングに関わるレピュテーション対応について」,「各大学における農学系DX研究の現状および本分野の研究者確保のための課題について」,今回は「若手研究者の国際流動性確保について」であった.詳細は省略するが,ご興味のある方は所属の学部長にお尋ねください.このように,本会議は,農学系に関する教育組織または研究組織の長として,いわゆる管理職業務の遂行に大変参考になる.
さて,筆者は本会議の代表幹事を平成28年から2年間務めた.その際に本会議への新規の加入申請を取りまとめるのであるが,平成28年の会員数は76であった.これが令和6年で84に増えていたこと,今回も新たに1校の加入申請があったことは特筆すべきことと思う.最近の新聞報道では,2027年4月に向け,さらにいくつかの大学で農学系学部の新設が予定されている.農学系学部が増えることは大変喜ばしく,併せて農学系学部の入学定員も総数として増え,今後農学系研究者が増加することが予想される.筆者も農学部長在任中に農業産出額全国第3位の茨城県を背景に,学部改組を行い,入学定員を115人から一挙に160人に増やした.一方,昨年の文科省中教審は,2040年には大学進学者が13万人減り,これは現在の総定員の8割にあたるとの試算を公表した.全国的な大学入学志願者の激減は喫緊の課題である.同会議では,全国の高校生の農学系志願者を増やすために,大学間で連携して「農学」分野の多様性を広報するとのことで,今後の活動に期待したい.