解説

クロモプラストへの分化メカニズム
葉緑体からクロモプラストへの分化とカロテノイドの関係

Mechanisms of Chromoplast Differentiation: Relationship between Carotenoids and Differentiation of Chloroplasts into Chromoplasts

本橋 令子

Reiko Motohashi

静岡大学学術院農学領域

小久保 祥子

Shoko Kokubo

静岡大学創造科学技術大学院自然科学教育部

Published: 2024-11-01

トマト果実は,緑色の未成熟果実から成熟に伴い黄色,オレンジ,赤色へと変化し,クロロフィルが分解され,カロテノイドが蓄積する.果実成熟は,代謝産物の変化だけでなく,細胞内のプラスチドも変化し,緑色の未成熟果実細胞ではプラスチドはクロロプラスト(葉緑体)の形態であり,クロロフィルを多く含むチラコイドが存在し,光合成を行い細胞分裂が進み,果実は大きく成長する.果実成長が進むと細胞内のクロロプラストのチラコイドが分解され,カロテノイドを含むプラストグロビュールや膜構造(フィブリル)が増え,クロモプラストへと分化する.近年,解明されてきたクロモプラスト分化メカニズムについて解説する.

Key words: クロモプラスト; クロロプラスト(葉緑体); 分化; カロテノイド

プラスチド形態と色素

植物細胞内には,すべてのタイプのプラスチドの起源であるプロプラスチド,暗所で生育した植物細胞に存在するエチオプラスト,光合成を行うクロロプラスト(葉緑体),カロテノイドを蓄積するクロモプラスト(有色体),油を蓄積するエライオプラストや,根や貯蔵組織細胞に存在し,澱粉粒を含むアミロプラストなどの無色のプラスチドの総称であるロイコプラスト(白色体)など様々なタイプのプラスチドが存在する.

トマト果実は細胞分裂をし,果実が肥大すると,果実細胞にあるクロロプラストは光合成機能が低下し,クロロプラスト内の扁平なチラコイドが層状になった内膜構造であるグラナラメラ構造が分解すると同時に,チラコイド膜に内包されている集光性タンパク質のクロロフィルも他の光合成に関係する膜タンパク質と共に分解される.しかし,光合成機能の低下よりも,集光性タンパク質による光エネルギーの受容機能の方が長く維持されるので,炭酸固定に使われない余剰エネルギーは細胞内に蓄積する.そのため,細胞内に蓄積した余剰エネルギーが活性酸素種のバーストを発生させ,プラストグロビュールの形成を促進して,クロモプラスト形成を刺激する.プラストグロビュールとフィブリルには,カロテノイドやその他の多数のプレニル脂質や中性脂質化合物が蓄積する.クロロプラストは丸いプラストグロビュールを持ち,光合成光反応などに関連しているが(1)1) J. R. Austin II, E. Frost, P.-A. Vidi, F. Kessler & L. A. Staehelin: Plant Cell, 18, 1693 (2006).,クロモプラストではプラストグロビュールの組成にカロテノイドが占める割合が高くなり,その形態的特徴が変化し,細長い棒状になり,フィブリルと呼ばれるようになる(2)2) H. M. Berry, D. V. Rickett, C. J. Baxter, E. M. A. Enfissi & P. D. Fraser: J. Exp. Bot., 70, 2637 (2019)..クロモプラストへと分化し,そこでリコペン等のカロテノイドを合成,蓄積することで果実色が赤色に変化する(3)3) L. Li & H. Yuan: Arch. Biochem. Biophys., 539, 102 (2013)..トマト果実細胞では,クロロプラストからクロモプラストヘ分化するプラスチドが大半を占めるが,クロモプラストはプロプラスチド,ロイコプラスト,アミロプラストからも分化する.

‘マイクロトム’(Solanum lycopersicum cv.‘Micro-Tom’)は,‘フロリダ バスケット’と‘オハイオ 4013-3’の栽培品種を交配して観賞用に作出されたもので,非常に矮性で,成長も早く,果実は小さく,形質転換も容易であるため,実験によく用いられる(図1図1■黒トマト,白トマトと各成熟ステージの‘マイクロトム’(4, 5)4) E. Martí, C. Gisbert, G. J. Bishop, M. S. Dixon & J. L. García-Martínez: J. Exp. Bot., 57, 2037 (2006).5) K. Shirasawa & T. Ariizumi: Plant Biotechnol, (2024). doi: 10.5511/plantbiotechnology.24.0522a..この‘マイクロトム’の開花後から成熟果実までの各果実から,透過型電子顕微鏡を用いて果実細胞内のプラスチドの観察を行った結果,‘マイクロトム’では開花30日後の緑色果実期においてクロロプラストのグラナラメラ構造が観察された(グラフィカルアブストラクト図).また,開花32~35日後の黄色果実期,オレンジ色果実期ではグラナラメラ構造が分解され,カロテノイドが蓄積し発達したプラストグロビュール(緑の矢印)やフィブリル(赤い矢印)などが見られる.さらに,開花45日後の赤色に成熟した果実期では渦巻き状の膜構造が観察された.

図1■黒トマト,白トマトと各成熟ステージの‘マイクロトム’

果実が直径10 cm近い大玉系で,楕円形の白色トマトのプラスチドの形態は,‘マイクロトム’の黄色果実期に見られるような小さなチラコイドが観察される(1, 2図1■黒トマト,白トマトと各成熟ステージの‘マイクロトム’図2■白トマト,黒トマトとオレンジトマトの原因タンパク質とクロモプラストの形状).果実のヘタの周辺部分に広範囲にクロロフィルが残る黒トマトでは,‘マイクロトム’の緑色果実期のプラスチドに似たチラコイドのような構造とカロテノイドが結合したフィブリルが確認され,トマト果実のプラスチド構造には品種間で明確な違いが見られる(図2図2■白トマト,黒トマトとオレンジトマトの原因タンパク質とクロモプラストの形状).白トマトはフィトエン合成酵素(PSY1)というカロテノイド生合成経路の律速酵素が壊れていて,カロテノイドが蓄積していない(2, 3図2■白トマト,黒トマトとオレンジトマトの原因タンパク質とクロモプラストの形状図3■カロテノイド生合成経路).また,黒トマトはSGR(Stay green protein)が壊れていて,クロロフィルの分解が遅く,カロテノイド含有量は‘マイクロトム’の成熟果実と比較して半分程度である(6)6) Z. Luo, J. Zhang, J. Li, C. Yang, T. Wang, B. Ouyang, H. Li, J. Giovannoni & Z. Ye: New Phytol., 198, 442 (2013)..トマトのSGR1は,PSY1と直接相互作用し,その活性を阻害し,リコピンの蓄積を調節する働きがある(7)7) C. S. Barry, R. P. McQuinn, M.-Y. Chung, A. Besuden & J. J. Giovannoni: Plant Physiol., 147, 179 (2008)..SGR1の1つのアミノ酸置換がトマトのgfgreen-fresh)変異の原因であり,カロテノイドを豊富に含むクロモプラストとクロロフィルを含むクロロプラストの両方を持つ緑と赤が混ざった色の熟した果実が生じることが明らかになっている(8)8) M. Suzuki, S. Takahashi, T. Kondo, H. Dohra, Y. Ito, Y. Kiriiwa, M. Hayashi, S. Kamiya, M. Kato, M. Fujiwara et al.: PLoS One, 10, 0137266 (2015). doi: 10.1371/journal.pone.0137266..実際にトマト果実では,クロロフィルはクロロプラストからクロモプラストへの分化の過程で維持され,内部膜構造も存続し,光合成が停止してプレニル脂質に富むプラストグロビュールが生じても,クロロフィルを含むチラコイドの残骸が残っている(9)9) L. Morelli, S. Torres-Montilla, G. Glauser, V. Shanmugabalaji, F. Kessler & M. Rodriguez-Concepcion: New Phytol., 237, 1696 (2023)..クロロフィルを含むチラコイドの残骸が残っていることで,集光性タンパク質が光合成反応に用いない光エネルギーを受け取り,活性酸素種を発生させる要因となる.

図2■白トマト,黒トマトとオレンジトマトの原因タンパク質とクロモプラストの形状

電子顕微鏡写真(日本女子大学 永田典子教授撮影)

図3■カロテノイド生合成経路

PSY1: フィトエン合成酵素1, PSY2: フィトエン合成酵素2,PDS: フィトエンディサチュレース,ZDS: ζ-カロテンディサチュレース,CRISO: カロテノイドイソメラーゼ,LcyE: リコペンδ-サイクラーゼ,LcyB: リコペンβ-サイクラーゼ,CycB: クロモプラスト特有リコペンβ-サイクラーゼ,CrtB: バクテリアのフィトエン合成酵素

ナショナルバイオリソースプロジェクト・トマト(10)10) S. Watanabe, T. Mizoguchi, K. Aoki, Y. Kubo, H. Mori, S. Imanishi, Y. Yamazaki, D. Shibata & H. Ezura: Plant Biotechnol., 24, 33 (2007).より分譲を受けたvivid orange変異体は,成熟しても果実がオレンジ色のままであるという特徴を持っている.vo変異体はCRTISO(カロテノイド合成経路のプロリコペンからリコペンを作る酵素であるカロテノイドイソメラーゼ)に変異があり(図3図3■カロテノイド生合成経路),成熟果実の細胞内のプラスチドは,野生型のオレンジ色果実と比較するとカロテノイドが蓄積するプラストグロビュールが多く観察され,野生型の赤色果実と比較すると渦巻状の構造はあまり発達せず,野生型で見られるような電子密度の高い紐状の構造はほとんど見られない(図2図2■白トマト,黒トマトとオレンジトマトの原因タンパク質とクロモプラストの形状).また,通常,トマトの赤色の原因であるリコピンはトマトが成熟するにつれて蓄積するが,vo変異体はリコピンを蓄積せず,β-カロテン(オレンジ色)を蓄積している.他の研究グループからも果実がオレンジ色で,野生型で通常合成されるオールトランスリコピンの代わりにプロリコピンやζ-カロテンを蓄積するCRTISOに変異が入ったtangerine変異体が単離されているが,そのクロモプラストの形態は観察されていない(11)11) T. Isaacson, G. Ronen, D. Zamir & J. Hirschberg: Plant Cell, 14, 333 (2002).上記のように,カロテノイドやクロロフィルがクロモプラストの形態変化に影響を与えている.

さらに,クロロプラストからクロモプラストへの分化の鍵となるカロテノイドが発見された(12)12) B. Llorente, S. Torres-Montilla, L. Morelli, I. Florez-Sarasa, J. T. Matus, M. Ezquerro, L. D’Andrea, F. Houhou, E. Majer, B. Picó et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 21796 (2020)..タバコの葉に細菌のPSY(フィトエン合成酵素)をコードするCrtB遺伝子を一過的に発現させると(図3図3■カロテノイド生合成経路),葉のクロロプラストにフィトエンが急激に蓄積し,クロロプラストからクロモプラストへの分化が誘導される(12)12) B. Llorente, S. Torres-Montilla, L. Morelli, I. Florez-Sarasa, J. T. Matus, M. Ezquerro, L. D’Andrea, F. Houhou, E. Majer, B. Picó et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 21796 (2020)..クロロプラストのアイデンティティーの弱体化に伴なう光合成機能の低下は,クロモプラスト分化の第1段階である.第2段階は,PSYやその他のカロテノイド生合成酵素をコードする遺伝子の発現が促進され,カロテノイドの生産が促進されると,プラスチドから核へのコミュニケーションが再プログラムされ,プラスチドの微細構造が変化する.その結果としてクロモプラストの分化が起こり,カロテノイド生合成が促進され,カロテノイドの貯蔵も改善される.しかし,トマト(Solanum lycopersicum)にタバコと同様に細菌のCrtBカロテノイド生成遺伝子を過剰発現させた場合は,プラスチドに局在する脂質であるモノガラクトジアシルグリセロール(MGDG)とカロテノイドと膜状構造が同時に増加し,新しく形成されたカロテノイド,タンパク質,脂質が,プラスチドの細胞内構造内に隔離されている(13)13) M. Nogueira, L. Mora, E. M. Enfissi, P. M. Bramley & P. D. Fraser: Plant Cell, 25, 4560 (2013).

このように同じナス科植物であっても種によって,カロテノイドとクロモプラスト形態分化には違いがある.

プラスチドプロテオームデータからのプラスチド分化因子探索

プラスチド分化と果実色および成熟の関係性を明らかにするために,トマト果実のプラスチドタンパク質のプロテオーム解析を行った(8)8) M. Suzuki, S. Takahashi, T. Kondo, H. Dohra, Y. Ito, Y. Kiriiwa, M. Hayashi, S. Kamiya, M. Kato, M. Fujiwara et al.: PLoS One, 10, 0137266 (2015). doi: 10.1371/journal.pone.0137266..異なる果実色のトマトからNycodenz密度勾配遠心法によりプラスチドを単離し,単離プラスチドからプラスチドタンパク質を抽出し,2次元電気泳動により分離した結果,TIL(Temperature-induced Lipocalin,温度誘導性リポカリン)タンパク質の発現量や質量,等電点が異なっていた(8)8) M. Suzuki, S. Takahashi, T. Kondo, H. Dohra, Y. Ito, Y. Kiriiwa, M. Hayashi, S. Kamiya, M. Kato, M. Fujiwara et al.: PLoS One, 10, 0137266 (2015). doi: 10.1371/journal.pone.0137266..また,白トマトと黒トマトにおいて,果実のプラスチドタンパク質を比較したところ,カロテノイド蓄積関連タンパク質であるCHRC(クロモプラスト特異的カロテノイド関連タンパク質)とPAP(プラスチド脂質関連タンパク質)/フィブリリンファミリーのタンパク質に類似した配列を持つHarpin binding protein 1のタンパク質量が,赤く熟した‘マイクロトム’の果実に比べて少ないことが確認された.これらのタンパク質は疎水性分子の輸送など,リポカリンタンパク質と同様な特性と機能を持っている(8)8) M. Suzuki, S. Takahashi, T. Kondo, H. Dohra, Y. Ito, Y. Kiriiwa, M. Hayashi, S. Kamiya, M. Kato, M. Fujiwara et al.: PLoS One, 10, 0137266 (2015). doi: 10.1371/journal.pone.0137266..フィブリリンタンパク質は,タバコの葉に細菌のCrtB遺伝子を発現させると蓄積し,光化学系IIの反応中心タンパク質サブユニットのD1(PsbA)が減少した報告があり,クロモプラスト分化に関係している(12)12) B. Llorente, S. Torres-Montilla, L. Morelli, I. Florez-Sarasa, J. T. Matus, M. Ezquerro, L. D’Andrea, F. Houhou, E. Majer, B. Picó et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 117, 21796 (2020).

ピーマン(Capsicum annuum)果実細胞のクロロプラストからクロモプラストへ分化過程のプロテオームデータからは,光化学系IとIIを構成するタンパク質が分解されされる一方で,シトクロムb6f複合体,ATPase複合体やカルビン・ベンソン回路酵素は,完全に成熟した果実細胞のクロモプラストまで高いレベルで維持される(14)14) A. Rödiger, B. Agne, D. Dobritzsch, S. Helm, F. Muller, N. Potzsch & S. Baginsky: Plant J., 105, 1431 (2021)..また,フェレドキシン(Fd)およびFd依存性NADP還元酵素も同様に,完全に成熟した果実細胞のクロモプラストまで高い発現レベルで維持され,トマトとは異なりピーマンのクロモプラストの酸化還元代謝においてフェレドキシンが中心的な役割を保持していることを示唆している.ピーマンのカロテノイドは膜に隔離されているため,カロテノイドを収容する膜の生合成が活発になり,脂肪酸生合成に関与するAccD(プラスチドゲノムコードのアセチルCoAカルボキシラーゼサブユニット)は,クロモプラスト分化過程で発現量が増加する.さらに,フィトエン不飽和化酵素(PDS)レベルが大幅に増加する(14)14) A. Rödiger, B. Agne, D. Dobritzsch, S. Helm, F. Muller, N. Potzsch & S. Baginsky: Plant J., 105, 1431 (2021)..これらの結果より,トマト,タバコ同様にピーマンもフィトエンがクロモプラスト分化の鍵であると考えられる.

リポカリンタンパク質とクロモプラスト分化

リポカリン(Lipocalin)は細菌,動物,植物に広く見られ,疎水性小分子を結合することができるタンパク質ファミリーである(図4図4■リポカリンの機能).リポカリンの結晶構造は高度に保存されており,内部のリガンド結合部位を囲む,8本鎖の逆平行βシートが水素結合したβバレルを含んでいる(15)15) D. R. Flower: Biochem. J., 318, 1 (1996)..大腸菌のリポカリンBlcは,飢餓や高浸透圧などの細胞ストレス応答に関与していることが示唆され,分子内ジスルフィド結合を持たないことが他のリポカリンタンパク質と異なる点である.Blcは膜の生合成や修復を担っており,他にも抗生物質耐性遺伝子の伝播や免疫の活性化に関与していることが示唆されている(16)16) R. E. Bishop: B. B.A., 1482, 73 (2000)..最近のゲノム解読の結果から,少なくとも20種類の細菌性リポカリンが存在することが明らかになっている.

図4■リポカリンの機能

動物のリポカリンは免疫や発達過程調節に重要な役割を果たしており,様々なストレスへの応答やシグナル伝達経路に関与している.ヒトではアポリポタンパク質D(APOD)が1963年にヒト血漿リポタンパク質の成分として,最初に検出された糖タンパク質である.APODは酸化ストレスや炎症ストレス,UVなど,いくつかのストレス条件で発現誘導される(図4図4■リポカリンの機能(17)17) S. Do Carmo, L. C. Levros Jr. & E. Rassart: Biochim. Biophys. Acta Mol. Cell Res., 1773, 954 (2007)..また,APODの発現は細胞増殖誘導物質であるエストロゲンによって阻害され,細胞増殖阻害剤であるアンドロゲンによって誘導されることが示されている.昆虫のリポカリン(ハエのApoDホモログ)であるGLaz(Glial Lazarillo)はキイロショウジョウバエで酸化ストレスに対して保護的な役割を果たしている(18)18) D. Sanchez, B. López-Arias, L. Torroja, I. Canal, X. Wang, M. J. Bastiani & M. D. Ganfornina: Curr. Biol., 16, 680 (2006).

植物におけるリポカリンは温度誘導リポカリン(TIL)とクロロプラストリポカリン(CHL)に分類された(19)19) J. B. F. Charron, F. Ouellet, M. Pelletier, J. Danyluk, C. Chauve & F. Sarhan: Plant Physiol., 139, 2017 (2005)..アミノ酸配列や構造,系統分析によりTILとCHLは進化的に関連する3つのリポカリン,細菌のBlc,哺乳類のアポリポタンパク質D,昆虫のGLazと相同性を持つことが明らかになっている.シロイヌナズナのAtTILでは高温,低温ストレス条件下においてその発現が増加し,AtTILをノックアウトさせた個体においては熱ストレス耐性に影響を与えると考えられている.また,AtCHL(またはLCNP)はクロロプラストのチラコイド内腔に局在しており,パラコート処理や乾燥によって誘発される酸化ストレスに対する耐性を高め,持続的な光保護機構のため,非光化学的消光に必要である(20, 21)20) G. Levesque-Tremblay, M. Havaux & F. Ouellet: Plant J., 60, 691 (2009).21) A. Malnoë, A. Schultink, S. Shahrasbi, D. Rumeau, M. Havaux & K. K. Niyogi: Plant Cell, 30, 196 (2018)..トマトにおけるリポカリンは,SlTIL1とSlTIL2の2コピー存在し,SlTIL1とSlTIL2のアミノ酸配列相同性は約84%と高い(22)22) A. Wahyudi, D. Ariyani, G. Ma, R. Inaba, C. Fukasawa, R. Nakano & R. Motohashi: Plant Biotechnol., 35, 303 (2018)..また,各リポカリンタンパク質遺伝子の上流1000bpのプロモーター領域のシスエレメントには,温度ストレスや乾燥ストレスなどの非生物的ストレスに応答するシスエレメントが確認され,SlTIL1は低温,塩,活性酸素ストレスにおいて発現量が増加する(22, 23)22) A. Wahyudi, D. Ariyani, G. Ma, R. Inaba, C. Fukasawa, R. Nakano & R. Motohashi: Plant Biotechnol., 35, 303 (2018).23) A. Wahyudi, C. Fukasawa & R. Motohashi: Plant Biotechnol., 37, 335 (2020)..一方,SlTIL2SlCHLでは塩ストレスにおいて遺伝子の発現量が増加するが,温度ストレス,パラコートストレスでは発現量が減少する.また,SlCHLでは果実の成熟に伴い,遺伝子発現が減少し,シロイヌナズナ同様にクロロプラストに局在している(22)22) A. Wahyudi, D. Ariyani, G. Ma, R. Inaba, C. Fukasawa, R. Nakano & R. Motohashi: Plant Biotechnol., 35, 303 (2018).

トマトのSlTIL1, SlTIL2, SlCHLの過剰発現体は,野生型と比較して過剰発現体では早期開花,花や花序,果実の増加や花柄,果実が巨大化する(22)22) A. Wahyudi, D. Ariyani, G. Ma, R. Inaba, C. Fukasawa, R. Nakano & R. Motohashi: Plant Biotechnol., 35, 303 (2018).SlTIL1, SlTIL2, SlCHLの発現抑制体では,過剰発現体と対照的に開花や果実成熟の遅れ,果実数の減少,葉の早期老化が観察される(22)22) A. Wahyudi, D. Ariyani, G. Ma, R. Inaba, C. Fukasawa, R. Nakano & R. Motohashi: Plant Biotechnol., 35, 303 (2018)..また,活性酸素種を分解する酵素であるSOD遺伝子の発現量も,SlTILsSlCHLの過剰発現体では野生型と比べて発現量が増加し,発現抑制体では減少する(23)23) A. Wahyudi, C. Fukasawa & R. Motohashi: Plant Biotechnol., 37, 335 (2020)..活性酸素種のバーストがクロモプラスト分化の引き金になることからも,トマトのリポカリンもクロモプラスト分化に関わっていると思われるが,カロテノイド色素との関係については,今後の研究課題である.

おわりに

ゲノム解析の方法が発展し,今後も様々な果実色の変異体の原因遺伝子の同定が行われ,果実色(カロテノイド色素)とクロモプラストの関係が解明されるであろう.新たにクロロフィル分解とクロモプラスト分化の関係を解き明かすことができるかもしれない.また,プロテオーム解析によって,果実の成熟ステージで変動のあるタンパク質や修飾などが異なるタンパク質の機能解析が進むと,クロモプラスト分化に関与するタンパク質も多く同定されるだろう.数週間という短い期間で大きく形態や機能が変化するクロロプラストからクロモプラストへの分化は大変興味深く,そのメカニズムを明らかにできればと考えている.案外,「カロテノイドの蓄積が先かクロモプラスト分化が先か」の「卵が先か鶏が先か」的な論争に終止符が打たれるのも近いのかもしれない.

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