解説

リン酸欠乏ストレスに対する植物細胞内代謝の変化
膜脂質代謝とオートファジーからの提言

The Metabolic Change for Phosphate Starvation Stress in Plant Cell: Proposals from Membrane Lipid Metabolism and Autophagy

Yushi Yoshitake

吉竹 悠宇志

立命館大学生命科学部生命情報学科

Published: 2024-11-30

芽生えた環境から移動することのできない植物は生体内の代謝経路を変化させたり,形態を変えたりすることで,生育環境中のストレスに適応している.代謝とは生体成分の合成や分解を始めとした生体内で起こる化学反応のことである.1つの物質を産生するだけでも複数の反応経路が存在する場合があり,さまざまな酵素タンパク質や輸送タンパク質が関わっている.近年,植物がリン酸欠乏に晒された際には,まず小胞体(endoplasmic reticulum; ER)成分がオートファジーによって分解され,リン酸欠乏ストレスが長期化した場合は細胞内酵素が核酸やリン酸エステル,リン脂質等を分解することでリン酸をリサイクルしていることが報告された(1).本稿では,リン酸欠乏ストレスに晒された植物がどのような分子機構で細胞内のリン酸をリサイクルしているのか,脂質代謝とオートファジーの観点から説明する.また,脂質代謝とオートファジーが互いに与える影響について最近の知見も紹介し,今後の植物研究進展に向けた所見を述べる.

Key words: リン酸リサイクル; 脂質代謝; オートファジー

植物の膜脂質

生体膜は主に脂質で構成されており,そのうち多くはグリセロール骨格に1つの極性頭部と2つの脂肪酸尾部を有するグリセロ脂質が占めている.動物ではその極性頭部にリン酸を含むリン脂質を主とする一方,酸素発生型光合成生物の生体膜は極性頭部に糖を含む糖脂質が主となるユニークな脂質組成を持つ(2)2) N. Mizusawa & H. Wada: Biochim. Biophys. Acta Bioenerg., 1817, 194 (2012)..糖脂質は主に葉緑体膜を構成し,葉緑体包膜を構成する膜脂質のうち6割以上,葉緑体チラコイド膜では8割近くを占める(3)3) M. A. Block, A. J. Dorne, J. Joyard & R. Douce: J. Biol. Chem., 258, 13281 (1983)..植物はこの糖脂質を用いた「膜脂質転換」という独自のリン酸リサイクル機構を有している.

1. リン酸欠乏時の膜脂質転換

リン酸欠乏下の植物生体膜中のリン脂質が分解されて生じたリン酸が細胞内に再供給される.この際,葉緑体では糖脂質合成が活性化され,葉緑体外に輸送された糖脂質が分解されたリン脂質を代替する(図1図1■リン酸欠乏時の膜脂質転換の模式図).この「膜脂質転換」と呼ばれる機構により,生体膜の機能を維持しつつリン酸がリサイクルされる(4~6)4) H. Härtel & C. Benning: Biochem. Soc. Trans., 28, 729 (2000).5) P. Dörmann & C. Benning: Trends Plant Sci., 7, 112 (2002).6) B. Yu, C. Xu & C. Benning: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99, 5732 (2002)..例えば,葉緑体外膜においては,リン脂質中で最も多く存在し脂質二重膜形成に必須であるphosphatidylcholine(PC)の分解に伴い,PCと同様に二重膜を形成できるdigalactosyldiacylglycerol(DGDG)が増加してPCの代替を行う(4, 5)4) H. Härtel & C. Benning: Biochem. Soc. Trans., 28, 729 (2000).5) P. Dörmann & C. Benning: Trends Plant Sci., 7, 112 (2002)..葉緑体内において最も多く存在するリン脂質のphosphatidylglycerol(PG)は,光合成タンパク質の働きに必要な酸性脂質であり,負電荷を帯びている.同じく酸性脂質である糖脂質sulfoquinovosyldiacylglycerol(SQDG)がPGを代替することで,PGに含まれていたリン酸が細胞内に再供給される(6)6) B. Yu, C. Xu & C. Benning: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99, 5732 (2002)..代謝に着目する本稿では,以下に膜脂質転換に関わる“リン脂質の分解”と“糖脂質の合成”について説明する.

図1■リン酸欠乏時の膜脂質転換の模式図

リン酸欠乏時に植物細胞内では葉緑体外の膜脂質を構成するリン脂質は分解され,リン酸が細胞内に放出される.この反応によって生じた分解産物は葉緑体において糖脂質生合成の基質となる.合成された糖脂質は葉緑体外に運ばれ,物理的に消失したリン脂質の代替を行うことで,膜の機能が維持される.

2. リン脂質の分解

膜脂質転換において,PCは分解され糖脂質生合成の基質であるdiacylglycerol(DAG)に変換される.この分解にはphospholipase C(PLC)によって直接DAGに変換される経路とphospholipase D(PLD)がphosphatidic acid(PA)に変換した後phosphatidate phosphatase(PAP)によってDAGに変換される経路の2つが存在する.モデル植物であるシロイヌナズナではPLC活性を有するNON-SPECIFIC PHOSPHOLIPASE C 4(NPC4)およびNPC5をコードする遺伝子がリン酸欠乏によって上昇する.NPC4およびNPC5はそれぞれ細胞膜および細胞質に局在しているため,NPC4は主に細胞膜中のPCを,NPC5は表面積の大きいER膜中のPCを分解していると考えられる(7, 8)7) Y. Nakamura, K. Awai, T. Masuda, Y. Yoshioka, K. Takamiya & H. Ohta: J. Biol. Chem., 280, 7469 (2005).8) N. Gaude, Y. Nakamura, W. R. Scheible, H. Ohta & P. Dormann: Plant J., 56, 28 (2008)..これらによって産生されたリン酸を含む副産物のphosphocholineは,その後PHOSPHATE STARVATION-INDUCED GENE 2(PS2)およびそのホモログPHOSPHOETHANOLAMINE/PHOSPHOCHOLINE PHOSPHATASE 1(PECP1)によって分解され,リン酸を放出する(9~11)9) A. E. Angkawijaya & Y. Nakamura: Biochem. Biophys. Res. Commun., 494, 397 (2017).10) M. Hanchi, M. C. Thibaud, B. Légeret, K. Kuwata, N. Pochon, F. Beisson, A. Cao, L. Cuyas, P. David, P. Doerner et al.: Plant Physiol., 176, 2943 (2018).11) A. E. Angkawijaya, A. H. Ngo, V. C. Nguyen, F. Gunawan & Y. Nakamura: Front. Plant Sci., 10, 662 (2019)..近年,NPC4がリン酸を含むスフィンゴ脂質であるglycosylinositolphosphorylceramide(GIPC)の分解も行うことが報告されている.このGIPCの減少に伴い,glucosylceramide(GlcCer)の含量が増加することから,GIPCの代替脂質はGlcCerもしくはその代謝産物であると考えられている(12)12) B. Yang, M. Li, A. Phillips, L. Li, U. Ali, Q. Li, S. Lu, Y. Hong, X. Wang & L. Guo: Plant Cell, 33, 766 (2021).

シロイヌナズナには12個のPLD遺伝子が存在し,その内リン酸欠乏によって発現が上昇するのはPLDζ1PLDζ2である(13)13) W. Zhang, L. Yu, Y. Zhang & X. Wang: BBA-Mol. Cell Biol. L., 1736, 1 (2005).pldζ1 pldζ2欠損体ではリン酸欠乏時の膜脂質転換が抑制されることから,これらがリン酸欠乏時のPC分解に働くPLDであると考えられる(14, 15)14) M. Li, R. Welti & X. Wang: Plant Physiol., 142, 750 (2006).15) M. Li, C. Qin, R. Welti & X. Wang: Plant Physiol., 140, 761 (2006)..PAPとしては,Mg2+要求性の可溶性タンパク質PAP1とMg2+非要求性の膜タンパク質PAP2(別名;LIPID PHOSPHATE PHOSPHATASE; LPP)が報告されている.シロイヌナズナには酵母Lipin-1のホモログであるPHOSPHATIDIC ACID PHOSPHOHYDROLASE 1(PAH1)およびPAH2の2つのPAP1が膜脂質転換に関与している.これらの欠損体pah1 pah2では膜脂質転換が抑制されるが,単一の欠損体では野生型との間に差が見られないことから,PAH1とPAH2はそれぞれ相補的に機能することがわかっている(16, 17)16) Y. Nakamura, R. Koizumi, G. Shui, M. Shimojima, M. R. Wenk, T. Ito & H. Ohta: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 20978 (2009).17) P. J. Eastmond, A. L. Quettier, J. T. M. Kroon, C. Craddock, N. Adams & A. R. Slabas: Plant Cell, 22, 2796 (2010)..また,pldζ1 pldζ2における膜脂質転換の阻害の程度がpah1 pah2と比較して緩やかであることから,PAHにPAを供給するその他のPLDの存在も示唆されている(14~16)14) M. Li, R. Welti & X. Wang: Plant Physiol., 142, 750 (2006).15) M. Li, C. Qin, R. Welti & X. Wang: Plant Physiol., 140, 761 (2006).16) Y. Nakamura, R. Koizumi, G. Shui, M. Shimojima, M. R. Wenk, T. Ito & H. Ohta: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 20978 (2009).

PGの分解酵素としてPLASTID LIPASE 1(PLIP1)およびPLIP2, PLIP3が報告されている(18, 19)18) K. Wang, J. E. Froehlich, A. Zienkiewicz, H. L. Hersh & C. Benning: Plant Cell, 29, 1678 (2017).19) K. Wang, Q. Guo, J. E. Froehlich, H. L. Hersh, A. Zienkiewicz, G. A. Howe & C. Benning: Plant Cell, 30, 1006 (2018)..しかし,これらはPGからリン酸ではなく脂肪酸鎖を産生する酵素であり,リン酸リサイクルに直接関与し得るPG分解酵素は見つかっていない.

3. 糖脂質の合成

DGDGはmonogalactosyldiacylglycerol(MGDG)を介して合成される.MGDG合成酵素には葉緑体内包膜に局在するType A MGDG合成酵素と葉緑体外包膜に局在するType B MGDG合成酵素がある.モデル植物のシロイヌナズナにはTypeA MGDG合成酵素が1つ存在(MGDG SYNTHASE 1; MGD1)し,恒常的に葉緑体チラコイド膜にMGDGを供給している(20, 21)20) K. Awai, E. Maréchal, M. A. Block, D. Brun, T. Masuda, H. Shimada, K. Takamiya, H. Ohta & J. Joyard: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98, 10960 (2001).21) K. Kobayashi, M. Kondo, H. Fukuda, M. Nishimura & H. Ohta: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 104, 17216 (2007)..Type B MGDG合成酵素はMGD2とMGD3の2つであり,これらの遺伝子発現はリン酸欠乏時に上昇する(20, 22)20) K. Awai, E. Maréchal, M. A. Block, D. Brun, T. Masuda, H. Shimada, K. Takamiya, H. Ohta & J. Joyard: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98, 10960 (2001).22) K. Kobayashi, K. Awai, K. Takamiya & H. Ohta: Plant Physiol., 134, 640 (2004)..このType B MGDG合成酵素によって産生されたMGDGを主な基質として合成されたDGDGが葉緑体外の膜に輸送され,PCを代替する(23)23) A. A. Kelly, J. E. Froehlich & P. Dörmann: Plant Cell, 15, 2694 (2003).

上述の通り,PGからリン酸を産生する酵素は見つかっていないが,PGの代替脂質であるSQDG合成酵素は報告されている.まず,SQDG SYNTHASE 1(SQD1)がUDP-glucoseからUDP-sulfoquinovoseを産生し,SQD2がDAGと結合させることでSQDGが合成される(6, 24)6) B. Yu, C. Xu & C. Benning: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99, 5732 (2002).24) S. Sanda, T. Leustek, M. J. Theisen, R. M. Garavito & C. Benning: J. Biol. Chem., 276, 3941 (2001)..また,SQD2はSQDGの他にDAGとUDP-glucuronic acidからglucuronosyldiacylglycerol(GlcADG)を合成しており,このGlcADGもリン酸欠乏の生育に重要である(25)25) Y. Okazaki, H. Otsuki, T. Narisawa, M. Kobayashi, S. Sawai, Y. Kamide, M. Kusano, T. Aoki, M. Yokota-Hirai & K. Saito: Nat. Commun., 4, 1510 (2013).

4. リン酸欠乏以外のストレスにより引き起こされる脂質代謝の変化

リン脂質分解酵素の1つであるNPC5の遺伝子発現はリン酸欠乏ストレスだけでなく,塩ストレスによっても誘導される.この発現誘導が側根形成を正に制御することが知られている(26)26) C. Peters, S. C. Kim, S. Devaiah, M. Li & X. Wang: Plant Cell Environ., 37, 2002 (2014)..また,酸性土壌では根において細胞膜リン脂質が分解されることで根表層の電荷が減り,アルミニウムイオンの誘引が抑制される.これによりアルミニウム毒性を緩和させている(27)27) Y. Kobayashi, Y. Kobayashi, T. Watanabe, J. E. Shaff, H. Ohta, L. V. Kochian, T. Wagatsuma, T. B. Kinraide & H. Koyama: Plant Physiol., 163, 180 (2013)..また,PLDを過剰発現させると窒素欠乏耐性が上昇することから,PAは窒素欠乏下での植物の生育に重要な役割を果たすとされていた(28, 29)28) Y. Hong, S. P. Devaiah, S. C. Bahn, B. N. Thamasandra, M. Li, R. Welti & X. Wang: Plant J., 58, 376 (2009).29) S. Lu, S. Yao, G. Wang, L. Guo, Y. Zhou, Y. Hong & X. Wang: Plant Biotechnol. J., 14, 926 (2016)..その後の解析からPA分解を担うPAHも窒素欠乏下での植物生育を促進させることがわかった.更なる解析の結果,窒素欠乏時のリン脂質分解によって葉緑体糖脂質の合成が促進され,葉緑体膜の構造および光合成能が維持されることもわかった(30)30) Y. Yoshitake, R. Sato, Y. Madoka, K. Ikeda, M. Murakawa, K. Suruga, D. Sugiura, K. Noguchi, H. Ohta & M. Shimojima: Front. Plant Sci., 8, 1847 (2017)..このように,膜脂質代謝を介したストレス応答には特定の脂質種の増減だけでなく,代謝回転の促進も含まれる(図2図2■窒素欠乏時の植物の生育に関わる膜脂質の代謝回転).

図2■窒素欠乏時の植物の生育に関わる膜脂質の代謝回転

リン脂質の分解産物が糖脂質合成の基質として葉緑体へと輸送されることで,糖脂質量を維持することができる.そのため,葉緑体の機能が維持され窒素欠乏下でも光合成を行うことができる.光合成によって固定された炭素は脂肪酸合成に使用され,リン脂質合成の基質となる.リン脂質は再度リン脂質分解酵素の基質となる.この一連の代謝回転を活性化させることで窒素欠乏耐性が高くなる.

糖脂質の合成もストレス応答に関与している.酸性条件下ではリン脂質の減少は見られないが,DGDGの相対含量が増加したこと,リポソームを用いたin vitroの解析より,DGDGはPCよりもプロトンの透過性が低かったことから,DGDG量の増加は過剰なプロトン存在環境下での膜の機能維持に重要であると考えられる(31)31) M. Murakawa, H. Ohta & M. Shimojima: Plant Mol. Biol., 101, 81 (2019)..その他にも,DGDGは高温ストレスや乾燥ストレスによっても蓄積することが知られている(32, 33)32) J. Chen, J. J. Burke, Z. Xin, C. Xu & J. Velten: Plant Cell Environ., 29, 1437 (2006).33) A. Gigon, A. R. Matos, D. Laffray, Y. Zuily-Fodil & A. T. Pham-Thi: Ann. Bot., 94, 345 (2004).

SENSITIVE TO FREEZING2はDGDGの極性頭部にさらにガラクトースを付加することでtrigalactosyldiacylglycerol(TGDG:ガラクトース3つ)やtetragalactosyldiacylglycerol(TeDG:ガラクトース4つ)を産生する酵素であり,凍結耐性に重要である.これは凍結による膜融合を極性頭部の大きい脂質が防ぐことで膜の崩壊を抑制しているためであると考えられている(34)34) E. R. Moellering, B. Muthan & C. Benning: Science, 330, 226 (2010)..凍結ストレスについては脂質の種類だけでなく,脂質分子中に含まれる脂肪酸の種類にも着目する必要がある.凍結ストレス時にリン脂質中およびスフィンゴ脂質中の脂肪酸の不飽和化による膜の流動性の上昇は凍結時の生育に貢献している.この際,リン脂質中の脂肪酸を不飽和化する酵素はFATTY ACID DESATURASE 2(FAD2)およびFAD3である(35)35) C. Barrero-Sicilia, S. Silvestre, R. P. Haslam & L. V. Michaelson: Plant Sci., 263, 194 (2017).

このように,植物の膜脂質代謝は「栄養素のストックからの取り出し」だけでなく,「膜機能の最適化」を行うことでリン酸欠乏以外のストレス耐性にも寄与している.

植物のオートファジー

最近,リン酸のリサイクルにオートファジーが貢献することが報告された.オートファジーとは液胞内腔で細胞内成分を分解する機構である.現在,植物においては液胞内腔への輸送方法の異なる2種類のオートファジーが報告されている(36)36) D. C. Bassham, M. Laporte, F. Marty, Y. Moriyasu, Y. Ohsumi, L. J. Olsen & K. Yoshimoto: Autophagy, 2, 2 (2006)..1つは分解対象物を隔離膜で包み込み,オートファゴソームを形成し,オートファゴソーム膜と液胞膜が融合することで分解対象物を液胞内腔へ輸送する「マクロオートファジー」,もう1つは液胞膜が内側へ陥入することで分解対象物を取り込む「ミクロオートファジー」である(図3図3■2種類のオートファジーの模式図).また,オートファジーの分解対象物は非選択的な場合(非選択的オートファジー)と選択的な場合(選択的オートファジー)がある(37)37) K. Yoshimoto & Y. Ohsumi: Plant Cell Physiol., 59, 1337 (2018)..窒素や炭素,亜鉛欠乏下では非選択的オートファジーが細胞内成分を分解することでそこに含まれていた不足栄養素を細胞内にリサイクルする(38~40)38) K. Yoshimoto, H. Hanaoka, S. Sato, T. Kato, S. Tabata, T. Noda & Y. Ohsumi: Plant Cell, 16, 2967 (2004).39) M. Izumi, S. Wada, A. Makino & H. Ishida: Plant Physiol., 154, 1196 (2010).40) D. Shinozaki, E. A. Merkulova, L. Naya, T. Horie, Y. Kanno, M. Seo, Y. Ohsumi, C. Masclaux-Daubresse & K. Yoshimoto: Plant Physiol., 182, 1284 (2020).

図3■2種類のオートファジーの模式図

植物オートファジーには隔離膜が伸長し,細胞内成分を包み込んだオートファゴソームを形成し,液胞内腔へと輸送するマクロオートファジーと液包膜が直接貫入し,細胞内成分を液胞内腔に取り込むミクロオートファジーの2種類存在する.これらは栄養飢餓などのストレスによってさらに活性化される.

一方で,リン酸欠乏の際には選択的オートファジーがリン酸リサイクルに関与している(1)1) Y. Yoshitake, D. Shinozaki & K. Yoshimoto: Plant J., 1, 256 (2022)..オートファジーによるリン酸リサイクルについて紹介する前に,オートファジーがどのようにして選択的に分解対象物を決めるのか,その分子機構を説明する.

1. 選択的オートファジー

特定の物質を分解するオートファジーは「選択的オートファジー」と呼ばれる.選択的オートファジーでは,隔離膜上に局在するAUTOPHAGY-RELATED 8(ATG8)タンパク質がアダプタータンパク質と呼ばれる分解対象物上に局在するタンパク質と相互作用することで隔離膜が分解対象物の近くに誘引される.その後,隔離膜が伸長し,特定の分解対象物がオートファゴソームに取り込まれる.アダプタータンパク質はATG8 interacting motif(AIM; W/Y/F-X-X-L/I/V)と呼ばれるアミノ酸配列を有しており,ATG8タンパク質中のAIM binding siteと相互作用する(41)41) N. N. Noda, Y. Ohsumi & F. Inagaki: FEBS Lett., 584, 1379 (2010)..例えば,炭素欠乏時に葉緑体の一部分を分解する選択的オートファジーにおけるアダプタータンパク質としてATG8 INTERACTING PROTEIN 1(ATI1)が報告されている(42)42) S. Michaeli, A. Honig, H. Levanony, H. Peled-Zehavi & G. Galili: Plant Cell, 26, 4084 (2014)..選択的オートファジーによる葉緑体の分解にはATI1を介さない他の経路が存在しており,それらの経路で機能するアダプタータンパク質の発見が期待されている.

2. リン酸欠乏とオートファジー

ERに含まれるリン酸のオートファジーによるリサイクルは,前述の膜脂質転換を含めた他のリン酸欠乏応答機構が誘導されるタイミングより早い段階で誘導される.この機構は細胞内に過剰に流入した鉄によって引き起こされた過酸化脂質の蓄積によって誘導され,ERストレスのセンサーであるINOSITOL REQUIRING1(IRE1)タンパク質によって制御される.この早期リン酸欠乏応答と呼べる機構を阻害すると,膜脂質転換が早い段階から誘導されることから,早期リン酸欠乏応答機構は従来のリン酸欠乏応答機構を阻害すると考えられる(1)1) Y. Yoshitake, D. Shinozaki & K. Yoshimoto: Plant J., 1, 256 (2022)..ERストレスによって誘導されるERファジーに関わるアダプタータンパク質として,Sec62やC53, RTN1, RTN2が発見されている(43)43) F. Reggiori & M. Molinari: Physiol. Rev., 102, 1393 (2022)..しかし,これらのうちどのアダプタータンパク質がリン酸リサイクルに関与するのか,他にアダプタータンパク質があるのか明らかになっておらず,今後の解析が期待される.

後期リン酸欠乏時でも窒素を過剰に与えると,オートファジーが葉緑体の一部を分解することでリン酸をリサイクルすることも報告されている.これは過剰な窒素により細胞内の窒素と炭素のバランスが崩れ,植物が疑似的に炭素欠乏を感知することによる(44)44) Y. Yoshitake, S. Nakamura, D. Shinozaki, M. Izumi, K. Yoshimoto, H. Ohta & M. Shimojima: Plant Physiol., 185, 318 (2021)..葉緑体内には核様体として20~80コピー程度の葉緑体DNAが凝集し葉緑体中に存在する(45)45) T. Ehara, Y. Ogasawara, T. Osafune & E. Hase: J. Phycol., 26, 317 (1990)..オートファジーはこの核様体を分解することでリン酸をリサイクルしている可能性がある.

オートファジーを介したリン酸リサイクルは早期リン酸欠乏や窒素過剰状態のリン酸欠乏などの条件下で引き起こされ,他のリン酸欠乏応答機構が誘導されるリン酸欠乏が長期化した条件では引き起こされない.

リボソーム中のリン酸がリサイクルされることも示唆されている.酵母においてリボソームを特異的にオートファジーによって分解する「リボファジー」と呼ばれる現象が発見されている(46)46) C. Kraft, A. Deplazes, M. Sohrmann & M. Peter: Nat. Cell Biol., 10, 602 (2008)..植物においてもトウモロコシの根端において液胞内にRNAを含む顆粒が観察されたこと,液胞内に局在するRNA分解酵素を欠損させたシロイヌナズナにおいて,リボソームを内包したオートファゴソームの数が増加したことから,植物においてもリボファジーの存在が示唆されている(47, 48)47) T. Niki, S. Saito & D. K. Gladish: Protoplasma, 251, 1141 (2014).48) B. E. Floyd, Y. Mugume, S. C. Morriss, G. C. MacIntosh & D. C. Bassham: Planta, 245, 779 (2017)..トマトではリン酸欠乏によって発現が誘導される細胞内RNA分解酵素が見つかっており,RNAがリン酸欠乏時におけるリン酸の供給源になることから,リボファジーもリン酸リサイクルに関与する可能性がある(49)49) M. Köck, A. Löffler, S. Abel & K. Glund: Plant Mol. Biol., 27, 477 (1995).

脂質代謝とオートファジー

オートファジーは膜脂質転換の誘導に影響を与える.前述の通り,ERファジーが行えない植物では本来膜脂質転換が引き起こされるタイミングでない早期リン酸欠乏時に膜脂質転換が引き起こされる(1)1) Y. Yoshitake, D. Shinozaki & K. Yoshimoto: Plant J., 1, 256 (2022)..また窒素過剰により葉緑体のオートファジー分解が起きると,リン酸欠乏下にも関わらず膜脂質転換が抑制される(44)44) Y. Yoshitake, S. Nakamura, D. Shinozaki, M. Izumi, K. Yoshimoto, H. Ohta & M. Shimojima: Plant Physiol., 185, 318 (2021)..これらのことを踏まえ,膜脂質転換によるリン酸のリサイクルとオートファジーによるリン酸リサイクルは拮抗している可能性も考えられる.

オートファジーによる脂質分解は貯蔵脂質に対しても行われる.「リポファジー」と呼ばれる選択的オートファジーは貯蔵脂質を蓄積する油滴(lipid droplet)を分解する.イネでは,タペート細胞におけるリポファジーが花粉の発達に必要であることが示唆されている(50)50) T. Kurusu, T. Koyano, S. Hanamata, T. Kubo, Y. Noguchi, C. Yagi, N. Nagata, T. Yamamoto, T. Ohnishi, Y. Okazaki et al.: Autophagy, 10, 878 (2014)..シロイヌナズナにおいても炭素飢餓条件下においてリポファジーが誘導される.この際のリポファジーはミクロオートファジーによる選択的オートファジーである(51)51) J. Fan, L. Yu & C. Xu: Plant Cell, 31, 1598 (2019)..オートファジーは脂質の分解だけでなく合成にも寄与し得る.オートファジーの不能体を用いた解析から,オートファジーは細胞内のオルガネラを分解し,脂肪酸を細胞内に供給していることが示唆されている(51)51) J. Fan, L. Yu & C. Xu: Plant Cell, 31, 1598 (2019).

このようにオートファジーは脂質代謝と関係している.このオートファジーによる脂質分解や合成の補助がリン酸欠乏などのストレス応答や組織発達に機能することがわかりつつある.

おわりに

オートファジーによるリン酸リサイクルは,膜脂質転換をはじめとした既知のリン酸ストレス応答の誘導条件とは異なり,早期リン酸欠乏時や窒素過剰状態によるリン酸欠乏下で引き起こされる(1, 44)1) Y. Yoshitake, D. Shinozaki & K. Yoshimoto: Plant J., 1, 256 (2022).44) Y. Yoshitake, S. Nakamura, D. Shinozaki, M. Izumi, K. Yoshimoto, H. Ohta & M. Shimojima: Plant Physiol., 185, 318 (2021)..このように,植物は複数のリン酸リサイクル機構を使い分けることでリン酸濃度が時空間的に不均一な環境に適応していると考えられる.さらに,これまで別個で研究されていた脂質代謝とオートファジーという細胞生物学の分野が融合したことにより,それらの関係性が明らかになってきている.例えば,「植物のオートファジー」2節にて紹介した早期リン酸欠乏時に引き起こされるERファジーが過酸化脂質の蓄積によって引き起こされるということは,植物脂質における過酸化脂質の解析が可能になったことにより発見された.しかし,この機構については過酸化脂質を認識するタンパク質など未だに不明な部分が多く残っており,植物のリン酸リサイクル機構の全容は未解明である.脂質代謝とオートファジーとの関係性を解明し,リン酸リサイクルの制御機構を明らかにすることは,植物の巧みな生存戦略の理解に繋がると考える.

Reference

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