Kagaku to Seibutsu 62(12): 586-592 (2024)
解説
コレステロールと脂溶性ビタミンを輸送するトランスポータータンパク質
栄養素を運ぶ輸送担体
Cholesterol and Fat-soluble Vitamin Transporters
Published: 2024-12-01
コレステロールとビタミンは生体内で必須の成分であり,食物からの吸収は栄養学の観点から非常に重要で多くの研究がなされてきた.体内量を厳密にコントロールするためには,吸収と排泄のバランスでコントロールする必要がある.コレステロールと脂溶性ビタミンの体内動態や役割は古くから研究されてきたが,取り込みと排出を担うトランスポータータンパク質については,解析が困難な膜タンパク質であることも理由で,意外に研究が進んでいない.疎水性の高いコレステロールと脂溶性ビタミンは,トランスポーターによる輸送が想定されていなかったが,実際にはトランスポータータンパク質によって輸送されることが明らかになってきた.
Key words: コレステロール; ビタミン; トランスポーター; カロテノイド; フィトケミカル
© 2024 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2024 公益社団法人日本農芸化学会
細胞膜上には,レセプター,イオンチャネル,トランスポーターなど様々な膜タンパク質が存在しており,細胞内外の情報やイオン,物質のやり取りを担っている.細胞膜は脂質二重層で構成され,二酸化炭素以外の水溶性分子(グルコース,アミノ酸など)は通過できず,トランスポーターを介してのみ通過できる.一方,脂溶性分子(ステロイドホルモンなど)は単純拡散により通過できるが,積極的に輸送したい場合にはトランスポーターを介して通過する場合もある.
トランスポーターには,細胞外から細胞内への取り込み方向に輸送するインポーター,細胞内から細胞外への排出方向に輸送するエクスポーターと,両方向に輸送する双方向トランスポータータンパク質が存在し,発現場所に応じて吸収と排泄にはたらく(図1図1■トランスポータータンパク質の取り込みと排出による吸収と排泄).例えば,小腸上皮細胞で基底膜に発現するエクスポーターは栄養素の吸収に働き,頂端膜に発現するエクスポーターは余剰の栄養素の排泄(吸収抑制)や老廃物の排泄にはたらく.ヒトでは,Solute Carrier(SLC)トランスポーターファミリータンパク質が水溶性分子を輸送することが多く,ATP-binding cassette(ABC)トランスポーターファミリータンパク質が脂溶性分子を輸送することが多いが,それぞれのタンパク質によって様々なケースがあるため,一般化はできない.輸送には,濃度勾配に従ってエネルギーを使用せずに輸送する場合(受動輸送)と,濃度勾配に逆らってエネルギーを使用して輸送する場合(能動輸送)がある.ABCトランスポーターはATP加水分解のエネルギーを利用して能動輸送を行う.
図1■トランスポータータンパク質の取り込みと排出による吸収と排泄
トランスポーターには細胞内へ取り込むインポーター,細胞外へ排出するエクスポーター,双方向に輸送する双方向トランスポーターがある(なお,厳密には複数基質の共輸送や対向輸送などもある).上皮細胞においてそれらのトランスポーターがそれぞれ頂端膜及び基底膜に発現し,栄養素の吸収や余剰栄養素と老廃物の排泄にはたらく.
本稿で登場するABCA1, ABCB1, ABCG1, ABCG2, ABCG5, ABCG8はABCトランスポーターに分類される.また,ABCトランスポーター以外の脂溶性分子輸送体としてNiemann-Pick C1-like 1(NPC1L1),Scavenger receptor class B type I(SR-BI),Cluster of differentiation 36(CD36)が知られており,これらのうちSR-BIとCD36はスカベンジャー受容体ファミリーに分類される.ABCA1とABCB1は12回膜貫通型のABCトランスポーターであり,2つのヌクレオチド結合領域を持つ(図2図2■コレステロールとビタミンのトランスポーターの二次構造)(1, 2)1) M. Matsuo: Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 899 (2010).2) K. Ueda: Biosci. Biotechnol. Biochem., 75, 401 (2011)..ABCG1, ABCG2, ABCG5, ABCG8は1つのヌクレオチド結合領域を持つ6回膜貫通型のハーフタイプのABCトランスポーターであり,ホモ二量体またはヘテロ二量体を形成する(1, 3)1) M. Matsuo: Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 899 (2010).3) M. Matsuo: J. Pharmacol. Sci., 148, 197 (2022)..NPC1L1はステロールセンシング領域を持つ13回膜貫通型の膜タンパク質であり(4)4) J. L. Betters & L. Yu: FEBS Lett., 584, 2740 (2010).,SR-BIとCD36は2回膜貫通型のスカベンジャー受容体ファミリータンパク質である(5)5) M. Z. Ashraf & N. Gupta: Int. J. Biochem. Cell Biol., 43, 697 (2011)..それぞれの二次構造と輸送基質(コレステロール,脂溶性ビタミン)の間に明確な相関は見られない.
図2■コレステロールとビタミンのトランスポーターの二次構造
ABCA1とABCB1は12回膜貫通へリックスと2つのヌクレオチド結合領域(NBD1, NBD2)を持ち,ATP加水分解のエネルギーを使って基質を輸送する.ABCG1, ABCG2, ABCG5, ABCG8は,N末側にNBD, C末側に6回膜貫通へリックスを持ち,二量体を形成して基質を輸送する.ABCG1とABCG2はそれぞれホモ二量体を形成し,ABCG5とABCG8はヘテロ二量体を形成して機能する.NPC1L1は13回膜貫通へリックスを持ち,N末領域でコレステロール及びビタミンE, ビタミンKを結合する.SR-BIとCD36は2回膜貫通ヘリックスを持つ.
コレステロールは,細胞膜を構成する成分であるとともに,ステロイドホルモンや胆汁酸の前駆体として重要な役割を果たす.我々の体内のコレステロール恒常性は,合成・吸収と代謝・排出のバランスの上で成り立っている.ヒトが摂取した食事中のコレステロールと胆汁由来のコレステロールは,胆汁酸によって可溶化され胆汁酸ミセルとなって,小腸で吸収され肝臓へと運ばれる(図3図3■トランスポーターによるコレステロール輸送).ヒトは動物性コレステロールと同時に植物性ステロールを含む非動物性ステロールを摂取する.摂取した動物性コレステロールの約50%が小腸から吸収されるのに対し,植物性ステロールは約5%しか吸収されない.つまり,吸収の際に構造がよく似ている動物性コレステロールと植物性ステロールを我々は見分けている.疎水性の高いコレステロールと脂溶性ビタミンは細胞膜を受動拡散によって通過することもできるため,トランスポーターによる輸送が想定されていなかったが,実際にはトランスポータータンパク質によって輸送されることが明らかになってきた.また,コレステロールはリポタンパク質の形で体内を運ばれており,コレステロールは,リポタンパク質とレセプタータンパク質によってエンドサイトーシスの経路で細胞に運び込まれる.したがって,細胞への取り込みはトランスポータータンパク質を介さない.中枢神経系(脳,脊髄)以外の末梢細胞における余剰のコレステロールは,高密度リポタンパク質(HDL)によって肝臓へ戻され,肝臓から胆管へと排泄される.
図3■トランスポーターによるコレステロール輸送
小腸上皮細胞において,NPC1L1(と一部はSR-BIおよびABCA1)がコレステロールを吸収し,ABCG5/ABCG8はコレステロールを小腸内腔へと排出することで排泄(吸収抑制)にはたらく.末梢細胞ではABCA1とABCG1が協調的に機能することで,HDLが形成される.HDL中のコレステロールエステルは肝臓へ送られ,SR-BIにより取り込まれる.肝細胞から胆管へとABCG5/ABCG8により排泄される一方,NPC1L1がコレステロールの再吸収にはたらく.
コレステロールの小腸での吸収には,小腸上皮細胞の頂端膜(小腸内腔側)に発現するNPC1L1, SR-BI, CD36および基底膜(血管側)に発現するABCA1が関与する(図3図3■トランスポーターによるコレステロール輸送).頂端膜での取り込みにはNPC1L1が主に働き,基底膜側ではABCA1はコレステロールの吸収に一部寄与するものの,実際にはキロミクロン(カイロミクロン)を介したリンパへの吸収がほとんどを占める.コレステロール吸収に関与するトランスポータータンパク質それぞれについて以下に述べる.
NPC1L1はコレステロール吸収阻害剤エゼチミブの標的分子として同定された(6)6) S. W. Altmann, H. R. Davis Jr., L. J. Zhu, X. Yao, L. M. Hoos, G. Tetzloff, S. P. Iyer, M. Maguire, A. Golovko, M. Zeng et al.: Science, 303, 1201 (2004)..NPC1L1のN末端ドメインはコレステロールの結合部位となっている.コレステロールの他に植物ステロールの吸収にも機能するようである.ヒトでは小腸上皮と肝細胞の頂端膜で発現が見られ,肝臓においては胆管からのコレステロール再吸収にも関与する(図3図3■トランスポーターによるコレステロール輸送).NPC1L1の一塩基多型はコレステロール吸収に影響することが報告されている(7)7) T. Maeda, A. Honda, T. Ishikawa, M. Kinoshita, Y. Mashimo, Y. Takeoka, D. Yasuda, J. Kusano, K. Tsukamoto, Y. Matsuzaki et al.: J. Atheroscler. Thromb., 17, 356 (2010)..
SR-BIは肝臓でHDL受容体として働き,コレステロールの双方向輸送に関わる(8)8) Y. Ji, B. Jian, N. Wang, Y. Sun, M. L. Moya, M. C. Phillips, G. H. Rothblat, J. B. Swaney & A. R. Tall: J. Biol. Chem., 272, 20982 (1997)..細胞外のコレステロール濃度が高い時は取り込みに働き,細胞内のコレステロール濃度が高い時は排出にはたらく.また,小腸からのコレステロール吸収において,エゼチミブ非感受性の経路も存在することから,受動拡散の他にSR-BIによって輸送される経路も一部存在すると考えられる(9, 10)9) D. V. Nguyen, V. A. Drover, M. Knopfel, P. Dhanasekaran, H. Hauser & M. C. Phillips: J. Lipid Res., 50, 2235 (2009).10) A. van Bennekum, M. Werder, S. T. Thuahnai, C. H. Han, P. Duong, D. L. Williams, P. Wettstein, G. Schulthess, M. C. Phillips & H. Hauser: Biochemistry, 44, 4517 (2005)..
CD36は脂肪酸トランスポーターとしてはたらくことが知られているが(11)11) J. F. C. Glatz & J. J. F. P. Luiken: Biochimie, 136, 21 (2017).,その他にコラーゲンやシグナル伝達分子など多くのリガンドとの結合が報告されている.上述のエゼチミブ非感受性のコレステロール吸収経路にはSR-BIの他にCD36も一部関与する可能性もある(9)9) D. V. Nguyen, V. A. Drover, M. Knopfel, P. Dhanasekaran, H. Hauser & M. C. Phillips: J. Lipid Res., 50, 2235 (2009)..
ABCA1は,上述の通り小腸上皮細胞では基底膜に発現する.基底膜側でコレステロールを細胞外へ排出することから,コレステロール吸収にはたらくと考えられる.Abca1ノックアウトマウスとABCA1変異チキンでは小腸でのコレステロール吸収が抑制されることから,ABCA1も吸収に一部関与するかもしれない(12, 13)12) J. Iqbal, J. S. Parks & M. M. Hussain: J. Biol. Chem., 288, 30432 (2013).13) J. D. Mulligan, M. T. Flowers, A. Tebon, J. J. Bitgood, C. Wellington, M. R. Hayden & A. D. Attie: J. Biol. Chem., 278, 13356 (2003)..
過剰のコレステロールは肝臓から体外に排出トランスポーターによって排泄される.また,小腸上皮でのコレステロールの吸収量は実際には,取り込みのトランスポーターと排出のトランスポーターの輸送量で決まる.さらに,吸収を厳密かつ速やかにコントロールするためには,取り込みと排出のトランスポーター両方が必要となる.小腸でのコレステロール排出(吸収抑制)には,ABCG5/ABCG8が関与する.ABCG5/ABCG8はコレステロールのみならず植物性ステロールの排出にも主要な役割を果たす(14)14) S. Tachibana, M. Hirano, T. Hirata, M. Matsuo, I. Ikeda, K. Ueda & R. Sato: Biosci. Biotechnol. Biochem., 71, 1886 (2007)..
ABCG5とABCG8は,ヘテロ二量体で細胞膜に局在し機能する(15, 16)15) G. A. Graf, L. Yu, W.-P. Li, R. Gerard, P. L. Tuma, J. C. Cohen & H. H. Hobbs: J. Biol. Chem., 278, 48275 (2003).16) T. Hirata, M. Okabe, A. Kobayashi, K. Ueda & M. Matsuo: Biosci. Biotechnol. Biochem., 73, 619 (2009)..ABCG5またはABCG8の変異により遺伝病シトステロール血症が引き起こされる(17)17) G. A. Graf, J. C. Cohen & H. H. Hobbs: J. Biol. Chem., 279, 24881 (2004)..ABCG5/ABCG8の機能異常で植物性ステロールを排出できず,結果的に植物ステロールを小腸で吸収してしまうため,シトステロール血症患者の血清中では,通常ほとんど存在しない植物性ステロールが上昇し,アテローム性動脈硬化症を引き起こす.ABCG5/ABCG8は小腸上皮細胞と肝細胞の頂端膜に発現し,小腸ではコレステロールや植物性ステロールの吸収抑制に,肝臓では胆管への排泄にはたらく(図3図3■トランスポーターによるコレステロール輸送).胆汁酸がABCG5/ABCG8によって排出されるコレステロールの受容体となる.
末梢細胞,とりわけマクロファージにおいては,ABCA1とABCG1が余剰コレステロールの排出にはたらく(図3図3■トランスポーターによるコレステロール輸送)(1, 3)1) M. Matsuo: Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 899 (2010).3) M. Matsuo: J. Pharmacol. Sci., 148, 197 (2022)..ABCA1が血中や組織液中のアポリポタンパク質A-I(apoA-I)にコレステロールを排出し,HDLが形成される.ABCG1はHDLに対してコレステロールを排出し(18)18) A. Kobayashi, Y. Takanezawa, T. Hirata, Y. Shimizu, K. Misasa, N. Kioka, H. Arai, K. Ueda & M. Matsuo: J. Lipid Res., 47, 1791 (2006).,ABCA1と協調してコレステロールを排出する(19)19) A. M. Vaughan & J. F. Oram: J. Lipid Res., 47, 2433 (2006)..HDL中のコレステロールエステルはSR-BIによって肝臓に取り込まれ,ABCG5/ABCG8によってコレステロールは胆管へ排泄される.ABCA1の変異により遺伝病のタンジール病が引き起こされる(20, 21)20) M. Bodzioch, E. Orso, J. Klucken, T. Langmann, A. Bottcher, W. Diederich, W. Drobnik, S. Barlage, C. Buchler, M. Porsch-Ozcurumez et al.: Nat. Genet., 22, 347 (1999).21) S. Rust, M. Rosier, H. Funke, J. Real, Z. Amoura, J. C. Piette, J. F. Deleuze, H. B. Brewer, N. Duverger, P. Denefle et al.: Nat. Genet., 22, 352 (1999)..タンジール病患者の血清中ではHDLがほとんど存在せず,アテローム性動脈硬化症を引き起こす.また,ABCA1とABCG1の遺伝子多型が心血管リスクと相関することが報告されている(22, 23)22) R. Frikke-Schmidt: Atherosclerosis, 208, 305 (2010).23) S. Furuyama, Y. Uehara, B. Zhang, Y. Baba, S. Abe, T. Iwamoto, S.-i. Miura & K. Saku: J. Atheroscler. Thromb., 16, 194 (2009)..
脂溶性ビタミン(ビタミンA, D, E, K)は受動拡散によって細胞膜を通過すると考えられていたが,少なくともビタミンD,ビタミンEとビタミンKはトランスポーターを介して体内外,細胞内外を移動することが報告されている(図4図4■トランスポーターによる脂溶性ビタミン輸送)(24)24) E. Reboul: Prog. Lipid Res., 89, 101208 (2023)..コレステロールを輸送する複数のトランスポーターが,脂溶性ビタミンも輸送することが報告されており,それらのトランスポーターについて以下に述べる.
図4■トランスポーターによる脂溶性ビタミン輸送
末梢細胞ではABCA1とABCG1が協調的に機能することで,末梢細胞の余剰ビタミンEが排出される.肝細胞から胆管へとABCG5/ABCG8によりビタミンDとKが排泄される一方,NPC1L1がビタミンEとKの再吸収にはたらくと予想される.小腸上皮細胞において,NPC1L1, SR-BI, CD36はビタミンEとKを吸収し,ABCA1がビタミンEを吸収し,ABCG5/ABCG8はビタミンDとKを小腸内腔へと排出することで排泄(吸収抑制)にはたらくと考えられる.
NPC1L1はコレステロールのトランスポーターとして見つかったが,後にビタミンE(α-トコフェロール)とビタミンK1も輸送することが報告された(25, 26)25) K. Narushima, T. Takada, Y. Yamanashi & H. Suzuki: Mol. Pharmacol., 74, 42 (2008).26) T. Takada, Y. Yamanashi, K. Konishi, T. Yamamoto, Y. Toyoda, Y. Masuo, H. Yamamoto & H. Suzuki: Sci. Transl. Med., 7, 275ra23 (2015)..ビタミン輸送も,コレステロールと同様にエゼチミブで阻害され,ノックアウトマウスではビタミンEとビタミンK1の腸管吸収が減少する.
SR-BIはビタミンE輸送とビタミンK輸送にも関わることが報告されている(27~29)27) A. Goncalves, M. Margier, S. Roi, X. Collet, I. Niot, P. Goupy, C. Caris-Veyrat & E. Reboul: J. Biol. Chem., 289, 30743 (2014).28) E. Reboul, A. Klein, F. Bietrix, B. Gleize, C. Malezet-Desmoulins, M. Schneider, A. Margotat, L. Lagrost, X. Collet & P. Borel: J. Biol. Chem., 281, 4739 (2006).29) P. Mardones, P. Strobel, S. Miranda, F. Leighton, V. Quiñones, L. Amigo, J. Rozowski, M. Krieger & A. Rigotti: J. Nutr., 132, 443 (2002)..SR-BIノックアウトマウスでは,α-トコフェロール分布が変化し,小腸特異的トランスジェニックマウスでは,γ-トコフェロール吸収が増加する.また,SR-BI発現細胞でビタミンK1取込が亢進し,阻害剤のBlock lipid transport-1(BLT-1)で阻害される(27)27) A. Goncalves, M. Margier, S. Roi, X. Collet, I. Niot, P. Goupy, C. Caris-Veyrat & E. Reboul: J. Biol. Chem., 289, 30743 (2014)..さらにSR-BIトランスジェニックマウスでもビタミンK1取り込みが亢進する(27)27) A. Goncalves, M. Margier, S. Roi, X. Collet, I. Niot, P. Goupy, C. Caris-Veyrat & E. Reboul: J. Biol. Chem., 289, 30743 (2014)..
CD36もビタミンEとビタミンK輸送にも関わることが報告されている(27, 30)27) A. Goncalves, M. Margier, S. Roi, X. Collet, I. Niot, P. Goupy, C. Caris-Veyrat & E. Reboul: J. Biol. Chem., 289, 30743 (2014).30) A. Goncalves, S. Roi, M. Nowicki, I. Niot & E. Reboul: Mol. Nutr. Food Res., 58, 2297 (2014)..CD36過剰発現細胞ではα-トコフェロールとγ-トコフェロール取り込みが亢進する(30)30) A. Goncalves, S. Roi, M. Nowicki, I. Niot & E. Reboul: Mol. Nutr. Food Res., 58, 2297 (2014)..CD36発現細胞でビタミンK1取り込みが亢進し,阻害剤のSulfosuccinimidyl Oleate(SSO)で阻害される(27)27) A. Goncalves, M. Margier, S. Roi, X. Collet, I. Niot, P. Goupy, C. Caris-Veyrat & E. Reboul: J. Biol. Chem., 289, 30743 (2014)..ただし,CD36ノックアウトマウスでトコフェロール吸収量や蓄積量,血中ビタミンK1量に変化がないことから,生体内では他のトランスポーターが補完するのか,あるいはCD36は主要な吸収経路ではないのかもしれない.
ABCA1がコレステロールのみならずビタミンEも輸送することが報告されている(31)31) E. Reboul: IUBMB Life, 71, 416 (2019)..ABCA1阻害剤添加やAbca1ノックアウトマウスのビタミンE(γ-トコフェロール)吸収が低下することから,腸管からのビタミンE吸収にABCA1が関与することが示された.
コレステロール輸送にインポーターとエクスポーター両方が関与すること,コレステロールのインポーターが脂溶性ビタミンも輸送することから,脂溶性ビタミンもエクスポーターによって排出されることが予想された.実際に,末梢においてはABCA1とABCG1がビタミンE(α-トコフェロール)を細胞外へ排出することが報告されている(32, 33)32) M. Olivier, R. Bott, E. Frisdal, M. Nowicki, W. Plengpanich, C. Desmarchelier, S. Roi, C. M. Quinn, I. Gelissen, W. Jessup et al.: Biochim. Biophys. Acta Mol. Cell Biol. Lipids, 1841, 1741 (2014).33) J. F. Oram, A. M. Vaughan & R. Stocker: J. Biol. Chem., 276, 39898 (2001)..また,ABCG1, ABCG5, ABCG8と同じABCGサブファミリーに属するがコレステロールは輸送しないABCG2が,合成ビタミンであるビタミンK3を輸送することも報告されている(34)34) S. Shukla, C.-P. Wu, K. Nandigama & S. V. Ambudkar: Mol. Cancer Ther., 6, 3279 (2007)..これらのことと,腸管においてNPC1L1とABCG5/ABCG8が逆方向にコレステロールを輸送し,上述のようにNPC1L1がビタミンEとビタミンKを輸送することから,ABCG5/ABCG8も脂溶性ビタミンを輸送する可能性が考えられた.そこで,筆者はABCG5/ABCG8がビタミンKの輸送に関与する可能性を検討した(35)35) M. Matsuo, Y. Ogata, Y. Yamanashi & T. Takada: Nutrients, 15, 998 (2023)..高濃度では細胞毒性があるビタミンK3を細胞に添加したところ,ABCG5/ABCG8発現細胞はコントロール細胞に比べてビタミンK3の細胞毒性に対して耐性を示し,ビタミンK1添加で耐性が消失した.これは,ABCG5/ABCG8がビタミンK3を排出して細胞内濃度を低く保つこと,ビタミンK1が競合することからビタミンK1も排出される可能性を示す.さらに,ABCG5/ABCG8発現細胞はコントロール細胞に比べて細胞内のビタミンK1蓄積量が低く,細胞外への排出量が高かった.そして,Abcg5/Abcg8ノックアウトマウスの胆汁中のビタミンK1濃度は野生型に比べて低かった.したがって,ABCG5/ABCG8はステロールのみならず,ビタミンKの輸送にも関与することを明らかにした(35)35) M. Matsuo, Y. Ogata, Y. Yamanashi & T. Takada: Nutrients, 15, 998 (2023)..さらに,ABCG5/ABCG8はビタミンD排出にも関与することが報告されている(36, 37)36) T. Antoine, C. Le May, M. Margier, C. Halimi, M. Nowicki, C. Defoort, L. Svilar & E. Reboul: Mol. Nutr. Food Res., 65, 2100617 (2021).37) M. Kiourtzidis, J. Kühn, C. Brandsch & G. I. Stangl: Nutrients, 12, 2169 (2020)..ABCG5/ABCG8発現細胞で25-hydroxycholecalciferol[25(OH)D3]排出が亢進し,ノックアウトマウスでは25OH D3吸収が増加し,体内蓄積が増加する.これらのことは,ABCG5/ABCG8が小腸と肝臓におけるビタミンDとビタミンKの吸収と排泄に重要な役割を果たすことを示唆する(図4図4■トランスポーターによる脂溶性ビタミン輸送).
ABCB1はmultidrug resistance protein 1(MDR1)あるいはP-glycoproteinとも呼ばれ,元々がん細胞に多剤耐性を付与するタンパク質として発見され,その後抗ガン剤を含め様々な物質を輸送するトランスポーターであることが報告されている(2, 38)2) K. Ueda: Biosci. Biotechnol. Biochem., 75, 401 (2011).38) K. Ueda, C. Cardarelli, M. M. Gottesman & I. Pastan: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 3004 (1987)..ABCB1の基質輸送はコレステロールによって影響を受けるものの,コレステロールそのものは輸送しない(39)39) Y. Kimura, S.-y. Morita, M. Matsuo & K. Ueda: Cancer Sci., 98, 1303 (2007)..ABCB1がビタミンDとビタミンKを細胞外へ輸送することが報告されている(40, 41)40) M. Margier, X. Collet, C. Le May, C. Desmarchelier, F. André, C. Lebrun, C. Defoort, A. Bluteau, P. Borel, A. Lespine et al.: FASEB J., 33, 2084 (2019).41) M. Margier, C. Le May, T. Antoine, C. Halimi, M. Nowicki, A. Lespine & E. Reboul: Food Chem., 343, 128510 (2021)..ABCB1を阻害するとビタミンK1,ビタミンD3と25(OH)D3の頂端膜側への排出が減少し,ノックアウトマウスで25(OH)D3が蓄積する.また,小腸上皮細胞においてABCB1は頂端膜に発現していることから,ABCB1が小腸でビタミンDとビタミンKの排泄(吸収抑制)や吸収制御にはたらく可能性がある.上述のようにSR-BIとCD36はビタミンEとビタミンKの吸収に関わることが報告されている一方,コレステロール輸送と同様に両方向にビタミンを輸送するものと考えられ,排泄(吸収抑制)にもはたらくと予想される(27, 28)27) A. Goncalves, M. Margier, S. Roi, X. Collet, I. Niot, P. Goupy, C. Caris-Veyrat & E. Reboul: J. Biol. Chem., 289, 30743 (2014).28) E. Reboul, A. Klein, F. Bietrix, B. Gleize, C. Malezet-Desmoulins, M. Schneider, A. Margotat, L. Lagrost, X. Collet & P. Borel: J. Biol. Chem., 281, 4739 (2006)..
SR-BIとCD36によるプロビタミンA(α-カロテン,β-カロテン,β-クリプトキサンチン)取り込みは報告されている(42~44)42) P. Borel, G. Lietz, A. Goncalves, F. Szabo de Edelenyi, S. Lecompte, P. Curtis, L. Goumidi, M. J. Caslake, E. A. Miles, C. Packard et al.: J. Nutr., 143, 448 (2013).43) A. During, H. D. Dawson & E. H. Harrison: J. Nutr., 135, 2305 (2005).44) B. Li, E. W. George, P. Vachali, F. Y. Chang, A. Gorusupudi, R. Arunkumar, N. A. Giauque, Z. Wan, J. M. Frederick & P. S. Bernstein: Exp. Eye Res., 229, 109429 (2023).が,ビタミンAの取り込みや排出に関与するトランスポーターについてはまだわかっていない.しかし,ビタミンD,ビタミンEとビタミンKの例から考えると,排出はABCトランスポータータンパク質が担っている可能性がある.
コレステロールが増加するとNPC1L1は細胞内から頂端膜に局在するようになり,ABCA1は核内転写因子LXR/RXRを介して発現が誘導されるとともに細胞膜への局在量が増加する.このように,輸送基質の量に応じた局在変化が起こる.脂溶性ビタミンでも同様の局在変化がみられるかどうかは報告がなく,今後の研究に期待したい.
今回はコレステロールと脂溶性ビタミンのトランスポーターを取り上げたが,カロテノイドなど脂溶性物質の吸収や排泄もトランスポーターによって行われている可能性が高い.例えば,SR-BIとCD36はカロテン類を輸送することが報告されており(10, 44, 45)10) A. van Bennekum, M. Werder, S. T. Thuahnai, C. H. Han, P. Duong, D. L. Williams, P. Wettstein, G. Schulthess, M. C. Phillips & H. Hauser: Biochemistry, 44, 4517 (2005).44) B. Li, E. W. George, P. Vachali, F. Y. Chang, A. Gorusupudi, R. Arunkumar, N. A. Giauque, Z. Wan, J. M. Frederick & P. S. Bernstein: Exp. Eye Res., 229, 109429 (2023).45) X. Liu, J. Zhang, Z. Chen, J. Xiao, A. Zhou, Y. Fu & Y. Cao: Food Res. Int., 173, 113328 (2023).,SR-BIとNPC1L1はルテインとリコピンを輸送する(43, 46~48)43) A. During, H. D. Dawson & E. H. Harrison: J. Nutr., 135, 2305 (2005).46) Y. Sato, R. Suzuki, M. Kobayashi, S. Itagaki, T. Hirano, T. Noda, S. Mizuno, M. Sugawara & K. Iseki: J. Pharm. Pharm. Sci., 15, 256 (2012).47) M. Moussa, J.-F. Landrier, E. Reboul, O. Ghiringhelli, C. Coméra, X. Collet, K. Fröhlich, V. Böhm & P. Borel: J. Nutr., 138, 1432 (2008).48) E. Reboul, L. Abou, C. Mikail, O. Ghiringhelli, M. André, H. Portugal, D. Jourdheuil-Rahmani, M. J. Amiot, D. Lairon & P. Borel: Biochem. J., 387, 455 (2005)..また,NPC1L1は海洋性のカロテノイドであるシフォナキサンチンをN末端領域で結合し,輸送する(49)49) Y. Manabe, M. Ichihara, K. Fukuda, N. Tomonaga, Z.-S. Li, Y. Yamanashi, H. Suzuki, T. Takada, M. Matsuo & T. Sugawara: Lipids, 54, 707 (2019)..これらはいずれも取り込みにはたらくトランスポーターである一方,それらのカロテノイドを排出するトランスポーターは報告がない.また,筆者らはクルクミンやリコピンの輸送に今回取り上げた複数のインポーターが関わることを見出している(日本農芸化学会2024年度大会シンポジウム発表).今後は,様々な脂溶性物質のトランスポータータンパク質が明らかになっていくものと思われる.あなたの研究している物(フィトケミカルなどの脂溶性物質)は生体内に吸収されますか(トランスポーターによって運ばれますか)?
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